主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2013/10/06 (Sun)13:34
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。俺の人生は善きものだったのかどうか、たまに考えることがある。だが、すぐにやめる。そんなことを考えるには、俺はあまりに多くの命を奪い過ぎた。俺はこれから死者の国へ向かう列に加わることになるだろう。来るべきときが来た…」
こうして、半ば強引にBoSによる浄水施設奪回作戦が決行された。
「ベルチバードの大群がジェファーソン記念館に向かっているわ…」
「おそらく、レイブンロックから脱出してきた連中だな。俺は全速力で、しかも単騎で飛ばしてきたから、連中より早くここまで来れたわけだ」
鈍色の空を見上げるサラ・リオンズに、俺はもっともらしく頷きながら言葉を返す。
しかし、俺にはベルチバードよりも気になるものがあった。それも、味方勢力の中に。
「ところでアレ、さ…ちゃんと動くのかね?」
「さあ。アンカレッジ奪回作戦で投入されるはずだった、大戦前の遺物らしいけど。まだ調整が済んでいないとスクライブ達は言っていたけど、あれを投入するタイミングは今しかないわ」
アレ…即ち、巨大二足歩行型ロボット。最終決戦兵器リバティ・プライム。
『コミュニストどもへ勧告する、降伏せよ!薄汚れた思想に取り憑かれている限り、貴様らに未来はないッ!』
ピー、ガガー、ズゴーーーン!!
あらゆる攻撃をものともせず、あらゆる障害を蹴り倒し、押し潰し、粉砕していくさまは清々しい。武装はレーザーに爆雷に、その巨体。その獅子奮迅ぶりは、まさしく現代に蘇った巨神である。
「全軍前進、連中を叩き潰せーーーッ!」
サラ・リオンズの号令のもと、リオンズ・プライドとパワーアーマー部隊がリバティ・プライムに続き進軍する。俺も汚名を挽回するため、最前線に出ていた。
ジェファーソン記念館に多数設置された迫撃砲による攻撃と、ベルチバードからの機銃掃射でパワーアーマー兵が一人、また一人と斃れていく。しかし、それを気にしている暇はない。爆風と衝撃で頭がぐらぐらし、むせるほどの血と硝煙が鼻腔を塞ぐ。
一方でエンクレイブ側も、リバティ・プライムによる容赦のない砲火で壊滅的な打撃を受けていた。ベルチバードをハエのように叩き落し、各地に設置されたレーザー防護壁をも素手で引き千切り、無力化していく。その威容に、エンクレイブ兵たちは悲鳴を上げながら発砲を続けるしかなかった。
全力の殺し合い。皆殺しと皆殺しの応酬だ。
俺はにやりと笑った。マスクの下で、剥き出しの歯が覗く。
「こういうのでいいんだよ。聖戦なんてガラじゃねぇ、こいつは…ただの生存競争だ」
「なにか言った?」
俺の独り言に、サラ・リオンズが反応した。だが、俺は二度同じことは言わなかった。
やがてジェファーソン記念館に突入した俺達はエンクレイブ兵を次々に排除し、周囲の安全を確保する。
サラ・リオンズ以下BoS隊員たちに後方を任せ、俺は一足先に制御室へと向かった。
ガチャリ…扉を開けた俺の前に、三つの銃口が向けられる。
「来るべきときが来た…決着のときだ」
もちろん。
そこにいたのは、もちろん、オータム大佐だった。かつてこの場所を占拠したときのように、両脇に二名の部下を従えて。
「英雄気取りの糞餓鬼に、ここまで掻き回されるとはな。ひどいジョークだ、そうは思わんか」
「敵に同意なんか求めるなよ。それに、もしここに立ってるのが俺じゃなくてジョン・ウェインだったとしても、やっぱりあんたは同じようなことを言ってたんだろうさ」
「そうかもしれない。ただ…ただ、私はもう…いや、なんでもない」
「一つだけ教えてくれ、大佐。あんたが戦っていたのは、正義のためか?」
「正義?ああ、正義のためだ。正義の、ためだったさ。だが、もうそんなことは関係ない。君がここに居るということは、後続にスティールもついてるんだろう?私の部下は…皆、死んでしまったのだろう?もしここで君を殺しても…私を待っているのは、君以外にもたらされる死、それだけだ。だったら、いまさら正義のために戦ったって、それが何になる」
「降伏とか、投降、は…まあ、考えないよな」
「無論だ。だが決着の前に、君も答えてくれ。君は何のために戦っている?正義のためか?」
銃口をまっすぐこちらに向けるオータム大佐の表情は、とても悲しそうだった。
彼は知りたがっていた。敵の正体を。正義のために何と戦っていたのか。自らの正義を、何者に打ち砕かれたのか。その答えを知りたがっていた。
だが、どうも俺は彼の期待に添えるような答えを返せそうになかった。
「そうだな…俺は、なんていうか、まあ」
そして俺は、およそ最悪の答えを口にした。
「ちょっとした、暇潰し、みたいなもんさ」
俺がそう言った直後、カチリ、護衛のエンクレイブ兵たちが狙点を俺の頭に定める。
そしてオータム大佐が、ピストルのトリガーを引き絞った。
「片付いたの?」
銃声のあと、サラ・リオンズが制御室に入ってきた。
一瞬で頭を撃ち抜かれた三人の死体を目にし、無傷のまま銃を構える俺を見つめ、彼女は安堵のため息をつく。
「…終わったのね」
「ああ」
オヤジは撃ち損じたが、極限までプログラムを拡張した俺のV.A.T.S.性能はその比ではなかった。もちろん、そんなことはオータム大佐にとって知る由もなかったのだろう。
絶望、未練、悔恨。それらの感情が入り混じった顔のまま息絶えたオータム大佐に、俺は胸中で語りかける。
けっきょく。
けっきょく、戦いのための動機の正当性なんて、神様は気にしちゃいなかったんだよ。
銃をホルスターに戻しかけたとき、轟音とともに地面が揺れた。
『聞こえる!?誰か、返事をして!』
インターコムから、ドクター・リーの声が聞こえる。
『チャンバーの内圧が高まってる、冷却装置の破損で浄水装置のジェネレーターが暴走を引き起こしてるのよ!このままだと施設そのものが爆発して大惨事になる、その前に浄水装置を起動して!』
「浄水装置を起動、って…」
そう呟きながら、サラ・リオンズが力なくチャンバーを見上げる。
ぶ厚い防護ガラスに仕切られたチャンバー内には、すでに高濃度の放射線が蔓延している。とてもではないが、人間が入って作業できるような環境ではない。
それに、浄水装置の起動コードを知ってるのは…
「何も問題ない」
俺はそう言うと、サラ・リオンズの前に一歩出た。
「要するに、放射能にヤラれちまう前に起動コードを入力すればいいんだろ?ピ、ピ、ピ、エンター。ザッツ・シンプル。アーンド、オール・オーヴァ」
「でも、それじゃああなたが…!」
「たぶん、これが運命ってやつなんだろ。しがない一匹狼の傭兵が、世界の命運と引き換えに死ねるんだから、まあ、本望ってやつじゃねぇのかな」
そんなことを言いながら、俺はいままで遭遇した数多の死の光景を思い出していた。
自分の目の前で死んだ人間のこと。自分が殺した人間のこと。俺の人生は、あまりに多くの死体の上で成り立っている。彼らが、今の俺みたいに納得できる死に方を選べたとは、到底思えない。つまり、俺はまだ幸せ者ってことだ。
だが、この死が俺にとっての本望なのかと言われれば…
「そうそう、こいつを渡しておくぜ」
思い出したようにそう呟き、俺はポーチからシリンダーを取り出す。
怪訝な表情を浮かべるサラ・リオンズが、おずおずとそれを手に取った。
「これ、なんなの?」
「エデン大統領の最終兵器、改良型FEVウィルス。こいつを浄水装置に組み込めば、FEVを摂取したウェイストランド全域のありとあらゆる生物が死滅するって仕掛けでござい。で、FEVに感染してない純血のエンクレイブどもが堂々と古き良きアメリカを再建できるってわけ。あー、一部のヴォールト住民とかも無事かもな」
「あなた、こんなものがあるなんて一言も…!」
「なんつーか、気分次第でこいつを組もうかとも思ったんだけどな。ただ、ま、やめた。ちなみにオータム大佐はこいつの使用に反対してたんだそうな。だってのに、部外者の俺がエデン大統領の本懐を遂げちまったんじゃあ、大佐が可哀相だろ」
それだけ言うと、俺は階段を一段、また一段と上がっていく。
改良型FEVのシリンダーを手に、サラ・リオンズは未だ戸惑いを隠せない様子で話しかけてきた。
「でも、こんな…こんなのって…」
「頼むよ」
「え?」
「頼むから…もう、何も言わないでくれ」
一瞬だけ立ち止まって、俺は、ただそれだけ言った。そして、また階段を上がりはじめた。
サラ・リオンズは、もう何も言わなかった。
そして、ようやく俺だけの時間が訪れた。誰にも邪魔されない、俺だけの時間が。
チャンバー内に入った途端、体内に組み込まれたピップボーイがけたたましい警告音を発しはじめた。
『Warning... Dangerous level radiation detected... 』
俺はすぐに生命維持用のプログラムをすべて強制停止し、ピップボーイの機能を遮断する。今の俺に、「このままだと死にますよ」なんてメッセージは必要ない。
あとは起動コードを入力し、来るべきときが来るのを待つだけ。簡単じゃないか。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、俺の身体はあっさりと崩れ落ちた。まだ何もしていないのに、肉体が意思で制御できなくなる。
「あ…がっ…がはっ……!」
おびただしい量の血を吐きながら、俺は拳銃を支えに制御盤まで這って進んでいく。たかだか2~3mそこそこの距離が、まるで10km先のように遠く、果てしなく遠く感じられた。
やがて制御盤にもたれかかると、俺は杖をなくした老人のようによろよろと立ち上がろうとする。だが、あまり上手くいかなかった。何度か倒れてから、ようやく目線がパネルを捉える高さにまで上がった。
くそっ、もうちょっとカッコ良く立ち回るつもりだったのにな。
起動コード…ヨハネの黙示録、第21章6節。内容はもう、あまり憶えていない。俺はあまり信心深いほうじゃない。
エデン大統領、人間ではなく生命ですらない異形の存在は、改良型FEVを使って生命を根絶やしにしようとした。他人がどれだけ死のうが知ったことじゃないが、オヤジの夢を汚すことだけは許せない。そんな愚行を阻止できただけでも、まあ上出来ってもんだ。
誰が生きるべきで、誰が死ぬべきかなんて、いったい誰に決めることができるだろう?
少なくとも、それはエデン大統領なんかじゃない。オータム大佐でもない。俺でもない。
だが、それすらも、今の俺にとってはどうでもいいことだった。
すでに視界が霞み、まともに物が見えなくなっている俺は、おそらく2と1と6のボタンがあるだろう場所を順番に押してから、エンターキーと思われるボタンを押した。そして、ふたたびその場に倒れた。
ちゃんと入力できたかどうかを確認する余裕など、もう残っていなかった。
混濁する意識の中で俺が考えていたのは、自分の成果のことなんかじゃなかった。夢半ばで廃人と化したオヤジのことでもなかった。まして、ウェイストランドの未来のことなんかでは全然なかった。
俺が最期に考えたのは、女のことだった。
「I, don't, want to set the... World, on, fire... 」
ぐったりと血の海に浸かる俺の口から、声にならない歌が漏れる。
『…そこ、動くな。銃、構えたら、撃つ。次、頭。おけ?』
彼女とのファースト・コンタクトは、わりと最悪な部類だった。
いきなり銃で威嚇され、殴られ、連行された挙句、身ぐるみを剥がれたのだ。
『お前なんかに、情け、かけてくれ、なんて…誰も頼んでない!』
拒絶と反発。
幾度となく衝突を繰り返すうち、やがて俺達は互いのことを理解する。
『キス、は、だめ…嫌いじゃない、けど。痛いんだ…』
涙。
そして、別れ。
『…あり、がと』
俺が愛した女。
そして、俺が殺した女。
「I... Just... Want, to start, a flame in... Your... Hurt (Heart)...... 」
あの日。
彼女を殺したあの日、俺は善人であることをやめた。善人であろうとすることを、やめた。
神はそんなことを気にしてはいない。より良き結果を導くために努力したからといって、それがより良い未来に繋がるとは限らない。あの日、俺はそのことを思い知った。
そして今、改めて思い知っていた。
善人であろうとしたあの頃、俺は女一人救うことができなかった。
善人であることをやめた今、俺は世界を救う英雄になろうとしている。
これがひどいジョークでなければなんだ?オータム大佐の言ったことは正しかったのだ。
死ぬ前に4つボタンを押しただけで、俺のいままでの罪は帳消しになり、英雄として神格化されるだろう。俺の意思に関わらず。望んでもいない栄光に祭り上げられ、俺が何を思い生きてきたかなど一切合財無視されて。
だが俺の胸中には、正しいことをしたという満足感も、人々を救ったという達成感も存在しなかった。
死を目前に控えた今、俺の心を支配するのは…どす黒い罪悪感。
世界に認められなくてもいい、俺はただ君にとっての大切な人でありたい。俺は、歌の歌詞とは真逆の人生を歩んだのだ。
こんなの、俺の望んだ人生じゃなかった。
「…ぁ…ぅあ……ぁ…ぁ……」
絶望に苛まれ、俺は嗚咽を漏らす。
血の混じった涙が床に溜まり、それがまた血に混じって広がっていく。血はいつまでも止まらなかった。いままで生きるために殺してきた命たちが、俺の体内から逃げ出そうとしているかのように。そして俺もまた、誰かの命の一部になるのだろう。
意識を失う直前、俺は足音を聞いた。聴覚などとっくに失っているはずなのに。
パシャ、パシャ。
血の上を歩き、血にまみれたブーツに、俺は見覚えがあった。
たぶん、それは俺の無意識が生み出した幻覚に過ぎなかったのだろう。
だが、それで充分だった。
こうして、英雄が誕生した。
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