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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/23 (Sat)23:58
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2016/05/20 (Fri)21:54





 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 元BoSのエルダーであるエリヤに雇われた俺は、三人の仲間とともにシエラ・マドレ・カジノに侵入。その後、用済みになった仲間のうち二人を始末する。
 殺すべきはあと一人。任務を完遂するため、俺はVIP用のスイートへ向かった…







 あちこちの壁が倒壊し、プライバシーの存在しなくなった宿泊部屋を跨ぎながら、俺は拳銃を片手に周辺を捜索する。
 間に合わせの突貫工事でこしらえたヴィラとは違い、カジノはそうそう安普請ではなかったはずだが、毒霧のせいで壁が腐敗を起こしたのか、あるいはやはり、年月には勝てなかったのかもしれない。
 それかドッグ/ゴッドがキッチンを爆破したときの衝撃で崩れたのかもしれないな、などと思いながら、俺はどこからか聞こえてくる歌声に気づいた。
 女の声だ。誰かが歌っている…いや、ラジオか?
 それはフロアのなかでもっとも豪華な最上級スイートルームの中にあった。テーブルの上のラジオから、美しくも憂いを帯びた女のヴォーカルが流れる。「再出発( Begin Again )」…ヴェラ・キーズの代表曲だ。
 俺がもっとラジオに近寄ってよく見ようとしたとき、寝室から声が聞こえてきた。今度はラジオではなく本物の人間の声だった。
「そのラジオのスイッチを切ったり、チャンネルを変えようとしないで。首輪の遠隔起爆装置と盗聴装置の信号を阻害する周波数にセットしてあるから」
 はて…誰だろう?
 寝室の扉を開けた瞬間、俺は腕を掴まれて拘束され、銃口を突きつけられた。






「その服、よく似合ってるよ。個人的には赤いドレスより、そういうののほうが好みだな」
「お黙りなさい。あなた、私をあんな場所に放り込んでおいて、よく平然としていられるわね」
 俺には彼女が…クリスティーンが何のことを言っているのかわからなかった。
 そもそも声帯を切り裂かれていたはずの彼女が喋れることに疑問を持つべきだろうが、それはさておくとして、彼女が激おこしている理由が俺にはいまひとつ理解できなかったのだ。
 まさか、変電所のエレベータでの件か?
 あれってそんなにキレられるようなことだったか?
 そう思ったが、女が怒る理由に疑問なんか持つもんじゃないってことを知ってる俺は、なるべく彼女の神経に障らないよう言葉を選ぶことにした。
「そうは言ってもなあ。俺だって、あんたが運悪く騒動に巻き込まれたか弱い女の子じゃなく、BoSのナイトだと知ってなけりゃあ、あんなふうに面倒を任せたりはしなかったさ」
 信頼してるんだよ?という視線を送る俺に、クリスティーンは大袈裟なため息をつくと、銃をホルスターに戻して言った。
「顔見知りじゃなければ、エリヤの前にあなたを殺しているところよ」
「そもそもビッグ・エンプティから戻ったあと、俺を待たずに先走ったのが悪いんじゃんよ。スタンド・プレーが高くつくよな、お互いにさ」
「あなたを待ってはいられなかったのよ。エリヤが何をしでかすかわからなかったし…ところで、あの女の子は無事なの?」
「いちおう、ヒドゥンバレーのバンカーで保護してもらってるがね。あれはまだ人間として不完全だ。どうしたもんかな…」
 答えにくい質問をしてくれるな、と思いながら、俺は狂気の科学者たちがこしらえた悪夢のような光景を思い出しかけ、慌ててかぶりを振った。
 いまはそれどころではない。ひとまずは当面の事態の処理を考えなければならないが…
 いまひとつ顔色が良くないクリスティーンに、俺は尋ねた。
「それにしても、随分と可愛らしい声になったじゃないか?」
「怒るわよ…」
「ごめん。オートドクで治したのかい?」
「これを治療と言えるならね」
 部屋の隅には古い型番のオートドクが鎮座しており、ヴィラの診療所にあったものと違い、状態も良かったしシステムが改変された形跡もなかった。
 そして、部屋の隅の椅子に腰掛けている骸骨。赤いドレスを身につけ、足元には鎮痛剤のMed-X注射が大量に転がっている。医療用の麻酔というのは要するに高純度の麻薬と同義だから、死人が医療目的でこれを使っていたとは思えない。
 おそらくはこの部屋に宿泊していた大物…ラジオの歌声の主。
 やがてクリスティーンが口を開く。
「私の声は、このラジオの歌の声と同じなのよ。でも、これが誰なのか…なんで、彼女と同じ声にされたのかが、わからなくて。この声は診療所で仕込まれたものよ、この部屋で行ったのは不完全な部分を修復しただけ」
「ヴェラ・キーズ。カジノに招待されていた歌手だよ。そして彼女は、このカジノの創設者フレデリック・シンクレアの恋人だった」
「なぜ、それを?」
「こいつさ」
 そう言って、俺は一冊の手帳を見せた。
 タンピコシアターの楽屋で発見した、ディーンの手記だ。






「中国との全面戦争が現実的な脅威として迫っていた当時、資産家のシンクレアはヴェラを守るための地下シェルターの建造を目指していた。全財産を投げ打ち、借金をして…借金をするために、シェルターをカジノに仕立て上げてな。投資家を欺くために」
 いままで俺は、なんで戦前のカジノが軍事要塞ばりの防御で固められているのかがわからなかった。
 違うのだ。逆なのだ、シエラ・マドレというのは要塞にカジノの皮をかぶせた施設なのだ。
 すべては恋人を守るために。
「だが、それはディーン・ドミノの計略だった。シンクレアに恨みがあったディーンはヴェラを使って彼を誘惑し、カジノを建設させるよう仕向けた。そのうえ建設業者と結託して内部情報を仕入れ、ヴェラにシンクレアの口から秘密のセキュリティ・コードを聞き出させた。カジノの地下金庫…核戦争後の避難生活に耐え得るだけの物資と財産が貯め込まれたシェルターから一切合財を盗むつもりでな。それがディーンの復讐だったんだ。核戦争でなにもかもぶち壊しになったが、それでもディーンは諦めなかった」
「二百年も…あのグールは、ディーンは、いったいシンクレアの何をそんなに恨んでいたの?」
「彼が傲慢だから、らしい」
「え…ちょっと待ってちょうだい。理解が…追いつかないわ。そんな理由で?」
「わからんもんさ、他人には。どんなに些細な問題に見えたって、本人には人生や命を投げ出すに足る理由になる。それが復讐ってやつだ、そうだろう?たとえば、そう…君が、エリヤを追っているように」
 そう、これが話の本筋だ。
 クリスティーンはエリヤを殺したがっている。別に、彼女に殺させても構わない。彼女に殺せるのなら。
 だがエリヤという男は有能で、慎重で、周到だ。射線上に立たなければ、頭に血ののぼったマークスマンを罠に嵌めることなどワケないということをよく知っている。彼女に首輪を嵌めたときのように。
 エリヤは彼女を知っている。自分を狙って追ってきた殺し屋を利用するくらいだ、彼女向けにあつらえた罠など、それこそ五万と用意しているに違いない。
 そのことを知ってか知らずか、クリスティーンはエリヤへの憎悪を微塵も隠そうとしない態度で言った。
「あの男を生かしておくわけにはいかない。組織のためにも。そして、個人的にも」
「俺はこれからシエラ・マドレの地下金庫へ向かうよ、そういう任務なんでな。エリヤは戦前のセキュリティに堪能かもしれないが、ここじゃ客であることに変わりはない。エリヤの罠が届かないほど深い場所…決着をつけるのに最適だと思わないか」
「私も行くわ。一人より、二人のほうが…」
「ダメだ。頭数を増やせばオッズが低くなるような相手じゃない、それに無用な警戒を抱かせたくない。あのジーサマはまだ俺を味方だと思ってる。できるならあいつが死ぬ直前までそう思わせておきたい」
「…私を騙そうとしてないわよね?」
 あくまで単独での行動を主張する俺に、クリスティーンが懸念を口にした。
 なにしろ今回の任務では、俺はずっとエリヤの命令に忠実に行動してきたのだ。いつの間にか心まで売っていたと疑われてもおかしくはなかった。
 潔白をここで証明するのは不可能だった。魂の存在を証明できるような魔術師なら別かもしれないが、あいにく俺はそういう類の奇跡とは無縁だった。
 それになんていったって、心変わりは今からでも可能なのだ。
 ふーっ、俺はため息をつき、クリスティーンの瞳をまっすぐ見据えて言った。
「そこらへんは、俺を信用してもらうしかないな。それに君の存在は、俺にとって切り札でもある」
「切り札?私が?」
「もし俺がしくじったとき、エリヤを殺せるのは君だけだってことさ」
「それじゃあ私はあなたが死ぬことを願ったほうが良さそうね」
「手厳しいな」
 俺はもう話し合いは充分だと思っていたが、彼女のほうはまだ聞きたいことがありそうだった。
 それはそうだろう。クリスティーンはまだ、自分がするべき質問をしていない。当然、聞いて然るべきことを。もっとも、俺はできるならその言葉は聞きたくなかったが。
 その願いは叶えられなかった。
「ところで、ディーンとゴッド…は、どうしたの?」
「死んだ」
「殺したの?」
「…… …… ……」
「殺したのね」
「それがエリヤの命令だったからな。本来なら君も殺害目標だ」
 もちろんドッグ/ゴッドとディーンが俺と仲良く手を繋いで金庫室まで降りたいと願っていたのなら、結果は違うものになっていただろう。現実はそうではなかったわけだが。
 なによりドッグ/ゴッドは自分が投げた手榴弾で爆死し、俺は銃弾一発撃たず、それどころか傷一つつけなかったし、ディーンに至っては俺に生かされたがってすらいなかった。危うく俺が殺されるところだったのだ。
 だが、そんなことを彼女に説明して何になる?彼らはもう死んだのだ。
 黙って被告席に立つ俺に、クリスティーンが言った。
「殺したくてやったわけじゃないのね」
「殺しは殺しだ。どんなつもりだったか、なんてのは関係ない」
 俺は気持ちが態度に出やすい性質だったから、ひょっとしたら内心を悟られたのかも知れなかったが、先刻までの俺を咎めるようなクリスティーンの態度は幾らか軟化していた。
 やがて彼女は諦めたように首を振ると、俺に向かって言った。
「わかったわ。ひとまずエリヤの対処はあなたに任せる。それで?私はどうすればいい、本でも読んで時間を潰してる?」
「この部屋は地下金庫に通じてる。エリヤが来たら、黙って通してやってくれ。もちろん、君自身が見つからないようにな。その前に、金庫室へ続くエレベータを動かすのに君の力がいる」
「えぇ?」
「音声認証だ。ヴェラ・キーズの声が鍵になってる。たぶん、今の君の声でも通じるはずだ」
「どうりで…そのためだったのね。でも、どうしてエリヤがそのことを知っていたのかしら?」
「…… …… …!!」
 そのとき俺は「あること」に気づき、驚愕に目を見開いた。
 クリスティーンは、自分をオートドクターに放り込んだのはエリヤだと思っている。もちろん、俺もそう思っていた。だが、違うのだ。エリヤがヴェラ・キーズの存在を知っていたわけはない。彼女自身がキーパーソンだったことは。
 だからといってクリスティーンに言うことはできない。俺に死者の不名誉を上塗りする趣味はない。
 彼女をオートドクターで切り刻んだのは、ディーン・ドミノだ…
 俺の動揺に気づくことなく、認証システムの前でキーコードを口にしたクリスティーンは、ヴェラ・キーズのポスターを前に意地の悪い笑みを浮かべてみせる。
「Begin again, Let go(やり直せる、さあ行こう)、ね。歌の歌詞ね。ポスターにも書いてあったけど…このカジノで、一体何人が本当に人生をやり直せたのかしらね」






 カジノのあちこちに掲示された、シエラ・マドレの、ヴェラ・キーズのポスター。
 Begin... again。
 不意に、俺はひどく悲しい気持ちに囚われた。
 思い出したのだ、シエラ・マドレの伝説を。
 誰もがもう一度やり直せるという希望の地。それは戦前も、戦後も変わらない。ギャンブル、財宝、テクノロジー、あらゆるものが人々の心を魅了しては、残酷な末路へと導いていった。
 やり直す…何を?何から?
 何をしたって、過去は消えないというのにか?たとえ、忘れた「ふり」ができたとしても。
「それじゃあ…行くぜ」
 クリスティーンと、彼女と同じ声の女性のポスターに目配せをして、俺はエレベータに乗り込んだ。







「これが…シンクレアの用意したシェルターか」






 カジノ上階に設置されていたものよりも優秀で、遮蔽物がないためやり過ごすのが困難なホログラム・セキュリティをどうにか突破した俺は、伝説を…シエラ・マドレの地下金庫を目の当たりにして息を呑んだ。
 ターミナルを操作し、金庫室の扉を開く。






「ほおお…こいつはエリヤでなくとも心が動くね」
 金庫室に侵入し、戦前の貨幣や金塊が山のように積まれた光景を前に、俺は思わず口元をほころばせた。いや、もともとお金は好きだしね?
 金のインゴットを掴み、重さを確認しながら、俺は昔を懐かしむ。
「ザ・ピットじゃあ鉄のインゴットを収集させられたっけなぁ。これが金ならどんだけいいかって思ってたんだが、実際に手にすると、こう…妙な感慨があるね」
 まあ、金塊に足が生えて逃げるんでもなければ、黄金を眺めてニヤニヤするのは後回しでもいい。
 核シェルターとしての運用を想定していただけあって、医療品や食料品の備蓄も相当にあるようだ(ビッグ・エンプティ製のベンダーマシンまである)。
 あとはシンクレアがこの金庫室にまで罠を仕掛けていないかどうか調べる必要があるが…






 執務テーブル上のターミナルの電源を入れ、俺はシステムファイル上に、シンクレアがヴェラに宛てた個人メッセージが格納されているのを発見した。

『ヴェラへ…こんな形でしか気持ちを伝えられないことを残念に思う。私は君に謝らなければならない。ディーンの計画については、君に知らされるよりも先に気がついていた。君の口から聞いたところで気休めにはならなかったが、君の決断と、その勇気は尊重したい』
「…… …… ……!!」
 それはカジノの創設者、傲岸不遜で知られる資産家シンクレアの告解の文章だった。
 しかしこれは…シンクレアはディーンの企みに気づいていた?それに、ヴェラが強奪計画の存在をシンクレアに知らせていた、だって?
 ディーンはそんな素振りはまったく見せなかった。シエラ・マドレのことは知り尽くしていると言い、二百年ものあいだ復讐の計画を練り続けていた男が知らない真実がそこにあった。
『世界が戦争へと邁進するなか、私は君の身を守れるものが必要だと思った。このカジノの名を借りた要塞、金庫に見せかけたシェルターは、もともと君のために作ったものだった。だがディーンの計画に気づいたとき、君とディーンの裏切りを知った私はそれらを罠へと変えた。強奪を企む侵入者を抹殺する報復装置に作り変えてしまったのだ』
『だが君からすべてを聞いたいまとなっては、それは早計な行動だったと…思っている。もし君がここに辿り着くことがあれば、中のものは好きに使っていい。君を蝕んでいる深刻な中毒症状のことは知っている。君が不自由しないだけの医薬品は揃えてある。私の個人アカウントにアクセスすれば金庫の扉は固く閉ざされ、あらゆる外部からの脅威も届かなくなるだろう』
『シェルターの閉鎖と同時に緊急救難信号が発せられる仕組みになっている。戦争が終わればいずれ救助隊がやって来るはずだ。ロックされた扉は外のターミナルを使って解放できるようになっている。中から開けることができないのは、内部から外の安全を確認する方法がないからだ』
『君がこのメッセージを読んでくれていることを願う。私は…君のことを、心から愛していた。君が本当は私のことを愛していないとわかっていても。また、君が悪意から私を騙していたのではないことはわかっている。私のことは、気に病まなくていい』
『敬具。フレデリック・シンクレア』

 文章を最後まで読んだ俺は、しばらくその場から動くことができなかった。
 ふと顔を上げ、シエラ・マドレのマークをかたどった黄金のレリーフを目にする。BEGIN_AGAIN。ここにもだ。
 シンクレアはディーンとヴェラに欺かれていたと知り、一時は復讐に身をやつしながらも、最終的にはヴェラのためにすべてを遺すことを決意した。だが、ヴェラがそれを受け取ることはなかった。単純に金庫への侵入に失敗したのか、それとも罪悪感からか。
 もしディーンの目的がシンクレアへの復讐なら、高みからすべてを見下ろす傲慢な男を地に這い蹲らせてやることがディーンの目的だったのなら、それはとっくに達せられていたのだ。裏切りを知られた時点で。シンクレアが復讐に我を忘れ、どのみち取り返しがつかないと悟った瞬間に。
 そして裏切りを知り、報復を決意したシンクレアの目的もまた達せられていたのだった。ヴェラの密告も、シンクレアの真意も何も知らなかったディーンはまだ自分が状況をコントロールしていると錯覚し、その結果、二百年を無駄に過ごした。それこそがシンクレアの仕掛けた罠であり、強欲者への罰であったと言えるのではないだろうか。
 Begin Again(やり直せる)。シエラ・マドレを象徴する言葉だ。
 だが創設者でさえ、あるいはシエラ・マドレを奉げられた女神でさえ、そして裏で何もかも画策していた男でさえ、その願いは叶わなかったのだ。やり直せやしなかった。誰一人。
 それじゃあ、エリヤは?
 それを確かめるため、俺は体内に格納されたピップボーイの機能を使い、ターミナルをハッキングしてシステムの一部を書き替えた。

Connected To Sierra Madre Control Network -Server 9-
sys/00abe1/>rm 01389c.ter





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money六回目です。
 今回はクリスティーン編というよりもシエラ・マドレの背景解説編といったほうが正しいですね。彼女とは今後書く予定のOld World Bluesでの絡みもあるので、今回はわざと、かなりぼかして書いてます。そう、Honest Hearts編のエピローグでチラッと姿が写っていたのは彼女です。
 シンクレアのヴェラ宛のメッセージはけっこう重要な部分が改変されています。初見プレイ時にこういう内容だと勘違いしてたっていうのと、二次創作ならいっそ変えちゃったほうがいいのかなと思って。
 次回でエリヤとの決着と、クレイブの行動の目的が明かされます。まあ、わりとバレバレな気もするんですけどね。












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2016/05/18 (Wed)08:34





 ニューベガス・ストリップ地区を支配する三大カジノの一つ、ザ・トップスが誇る一大エンターテイメント「ザ・エース・シアター」では、プロデューサーのトミー・トリーニの名調子からなる司会が今日も冴え渡っていた。
「今宵、あなたは伝説を目撃することになるでしょう。あなたはスターに会ったことがありますか?本物のスターとはどんな人物を指すと思いますか?今日は紛れもなく、誰が見ても疑う余地のない本物のスターをご紹介いたします!」
 壇上にスポットライトが当てられ、スタンドマイクの前に姿を現したのはグールの男だった。
 その正体を疑う観客たちのざわめきを予測済みだったのか、トミー・トリーニは笑顔を崩すことなく、大きく息を吸い込んでから、ひときわ大きな声で男を紹介した。
「彼の名は…ディーン・ドミノ!驚くがいい、あの戦前の伝説的シンガー、キング・オブ・スウィングと呼ばれたあの男が、なんと二百年の時を経て帰ってきたッ!シエラ・マドレからグールとなって生還した粋な伊達男の復活ライヴ、心ゆくまでお楽しみください!!」






 前代未聞のサプライズに沸き立つ聴衆を前にして、ディーンは久々の舞台に少し緊張しながらマイクに向かう。
「ありがとう、トミー。ザ・トップス…懐かしいな。ここには昔来たことがあるんだ、アメリカにでかい爆弾が落ちる前の話さ。聞いての通り、俺はグールになって声がしゃがれちまった。もう昔のような声は出せないが、それでも良ければ付き合ってくれ。じゃあ、いってみよう…Saw Her Yesterday」







「…いかん、眠っちまってたか」
 目を醒ましたディーンは、自分が椅子に座ったままうたた寝していたことに気がついた。
 ヴィラでゴースト・ピープルの集団と派手な銃撃戦を展開し、シエラ・マドレに侵入してからも休むことなく施設の調査とセキュリティ・システムの設定に奔走していたのだ。疲れが出たのだろう。
 それにしても、なんて夢だ…と、ディーンは顎を撫でる。
 いまさら浮世に未練が?二百年前、核戦争ですべてが変わる以前から、自分は復讐のためだけに生きてきたというのに。
 それとも復讐なんか諦めて、シエラ・マドレを捨て、いまもどこかに残る文明世界を探していれば…また、エンターティナーとして復活していた未来もあったというのか?
「…夢の見すぎ、だよな……」
 いまさらそんなことを考えても仕方ない、それに…






「死神の足音が…すぐそこまで迫ってきてるもんな……」
 傭兵が近くまで来ていることを察知し、ディーンは銃を手に立ち上がる。
 なに、ショーはこれからだ。二百年間練り上げてきた自分の、自分だけのショー。ディーン・ドミノの晴れ舞台はこれからだ。










 俺がタンピコシアターの舞台に近づくと、金めっきが施されたマグナム拳銃を手に、背後にはホログラム・セキュリティを従えたディーンが姿を現した。
「ジョーイ・バクスター、ハリー・ウィルフレッド、ヴェラ…ヴェラ・キーズ。本来この舞台に立つはずだった連中の名前だ、こんな無粋なホログラムなんかじゃなく。そろそろ来る頃合だと思ってたぜ、相棒」
「エリヤがな…カジノのセキュリティ・システムが意図的に改竄されている、と言ってたぜ。先回りされてるとな。周到に…まるで最初から何もかも把握していたみたいに。あんたの仕業なのか?」
「意外かね?驚いたかい?なんで俺にそんな芸当ができるのか不思議でならないって感じだな。俺はシエラ・マドレのことなら何でも知っているぜ?間取りも、設備も、どこに誰の控え室があって、そこに何が置いてあるのかも知っている。なぜだと思うね?」
「超能力かな」
「ハッハッハッ、そいつがあれば、もっとラクに事が進んだろうな。そんなもの必要ないのさ、なぜなら…俺は、もともとここにいたんだからな」
 戦前のスター、ディーン・ドミノ。
 エンターティナーとしてシエラ・マドレに招待され、オーケストラを背負ってタンピコシアターの舞台に立つはずだった男。
 気づくべきだった…俺は銃を握る手に力を込める。
 こいつはエリヤがシエラ・マドレの存在に気づく前から、冒険者たちがシエラ・マドレの財宝を狙ってハイエナのようにたかるようになる前から、それどころか核戦争以前、シエラ・マドレがまだ建設中だった頃から、カジノの強奪計画を企てていた可能性があることに。
 そのことを確認するのに、いちいちディーンの目的や、生い立ちや、家族関係や、隠された出自や恥ずかしい趣味などを問いただす必要はなかった。たった一言で充分だった。
「気長な計画だったな?」
「そうさな、俺は二百年間ずっとカジノに侵入する算段を立ててたんだ。一度入ってしまえばもうこっちのもんだからな。賭けのテーブルについて辛抱強く勝負を続けていたのに、いきなり新参の客がデカい顔で割り込んできやがる。傲慢なジジイと兵隊気取りのガキがな」
「俺とエリヤが組んでると言いたいのか?」
「さて、どうかな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どっちでもいいさ、どのみち…これからやることに変わりはないんだからな」
「それで、その金ピカの銃で俺を撃とうってのか?」
「まさか!こいつは…ただのポーズさ。考えてもみろ、

黙ってたってシエラ・マドレが始末してくれるのに、

なんでわざわざ自分で手を下す必要がある?」

 そう言ってディーンが踵を返すのと同時に、セキュリティ・ホログラムたちがいっせいに光線を発射してきた。






 ドン、ドン、ドンッ!
 横転して光線を避けざまにディーンに向けて発砲するが、こういうトリック・ショットはそうそう成功するもんじゃない。
 緞帳を裂き、ネオン・サインを砕くことはできても、ディーンの肌に傷一つつけることができなかったことを確認しながら、俺はホログラムの追撃を避けるために通路を駆けはじめた。
 おそらくディーンは舞台の楽屋裏に引っ込んだはずだ。ホログラムが鉄壁の防御を固めていることを把握したうえで。まずはこいつをなんとかしなきゃいけない。
 幾つかは中継器の回路を切断すれば無効化できたが、それでもディーンに近づくには不充分だ。幾つかの端末からセキュリティ・システムをオーバーライドする方法を検索し、俺はディーンの代表曲「Saw Her Yesterday」が収録されたホロテープを使ってホログラムの性質を書き換えることに成功した。






『君への想いを抑えきれない、昔から抱いてた執念の心が燃えるよう♪「ノー」なんて言わないでおくれ、僕だけを見つめておくれよ♪君のキスは誰のためのものなんだい?』
 さっきまで異常なまでに殺気立っていたホログラムが舞台の聴衆へ変化し、そのうちの一体がシンガーとしてマイクスタンドの前に立つ。
 あれは…ディーンを模したホログラムか?
 生前、いや、グールになる前の瑞々しいディーンの声でSaw Her Yesterdayを歌い上げるホログラムはまるで亡霊のようだ。
 ともあれ、ここでボーッと曲を聴いていたいのは山々だが、俺にはまだやることがある。
 ディーンは逃げたか、それとも…俺を待ち伏せしているか。
 関係者用の通路を駆け抜け、階段を上がって舞台裏へと出た俺は、手摺越しにステージを見下ろすディーンと鉢合わせした。






「ディーン・ドミノ!!」
 俺が銃を構えるのと、ディーンが振り向きざまに発砲したのはほぼ同時だった。














 先に放たれたディーンの弾丸は俺のこめかみを掠め、ゴーグルのバンドを断ち切って壁に穴を穿つ。俺の放った弾丸は…ディーンの肺を捉えていた。
 サングラスが吹き飛び、マグナム拳銃が踊り場の上を転がる。
 手摺にもたれかかるように倒れたディーンは、そのまま力なく崩れ落ちた。






 ヒュー、ヒューと音を立てながら苦しそうに呼吸し、ディーンは銃口を下げる俺を見つめながら呟く。
「賭けは…おまえの勝ちだ。チップを受け取れ、それがギャンブルってもんだろう……殺れよ」
 俺はすぐには答えなかった。
 膝をつき、ポーチを探ってから、俺はディーンに銃口を突きつけるかわりに、開封済のシガレット・パックを差し出した。
「煙草、いるか?」
「……なに?」
「いらないのか?」
 なにか、とんでもなく頭が悪くて愚かな生き物を見るような目で見つめてくるディーンに、俺は煙草を一本取り出し、口もとまで持っていってやった。






 ディーンが煙草を吸い、俺がその様子を見守り、しばらく静かな時間が続いた。
 さっきまで俺を本気で殺そうとしていたヤツに煙草を奢ってやろうなんて考えるのは酔狂かもしれないが、ディーンが咄嗟に俺を道連れにしようなどと考えているのでなければ、弾丸があと1インチずれていれば先に俺が死んでいた可能性があったことは忘れようと思った。
 こめかみからじんわりと血が滲むのを感じながら、俺は考える。
 ディーンをカジノ強盗に駆り立てたものはなんだったのだろう?二百年もの歳月を準備に費やすというのは、たとえ寿命が無限にあったとしても容易なことではない。
 半ばまで短くなった煙草を見つめながら、やがてディーンが口を開いた。
「ヴェラ・キーズ」
「なに?」
「地下金庫に通じるエレベータは…音声認証式のセキュリティが組み込まれてる。ヴェラの声で開く」
「なぜ、それを俺に」
「あのジジイの総取りじゃあ、面白くないからな。新しい賭けに…オッズを張りたくなったのさ」
 そう言って、ディーンは乾いた笑い声を上げた。
 すでに意識を失いかけているディーンに、俺はどうしても言いたくなった。
「もっと早く俺にチップを賭けてれば、命までは失わずに済んだんじゃないのか」
「二百年だ」
「…… …… ……」
「二百年間、ずっとおなじ手札を握り続けてきた。ありったけのチップを賭けて、新しいチップが手に入るたびにレイズを繰り返して。さっさとフォールして別のテーブルに移ってりゃ良かったのかもしれん、でもな…」
 すでにディーンの目は俺を見ていなかった。
 彼は別のものを見ていた。俺ではない誰かを。ここではないどこかを。それが何なのかは俺にはわからなかったし、知りようもなかった。
「失うとわかってて、テーブルの上のチップを手放すことなんてできなかった」
 ディーンの指先から煙草がこぼれ落ち、彼の瞳から涙が溢れる。

「できなかったんだよ…」







 ディーンが息を引き取ったのを確認してから、俺はスロープを下り、ホログラムの亡霊の間を通り抜けてタンピコシアターを後にした。
 彼のもとを去る直前、俺はもうディーンが声を聞くことはないとわかっていながらも、最後に一言だけ口にした。俺の本心を。どうしても伝えなければならなかった。
「俺はあんたとなら、上手くやっていけると思ってたんだ。本当だぜ…相棒」





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money五回目です。
 ディーンはお気に入りのキャラなので一話丸ごと使いました。個人的に彼は目的に対してかなりドライな男だと思っているので、そのへんの考察は今度纏めておきたいなあとは考えているんですが。
 もともと主人公のクレイブ自身がわりとクズい人間だっていうのと、挫折からダメ人間街道まっしぐらに直行するキャラが大好きなので(そうそう簡単に救われれば苦労はねー、という点も含めて)、共感度マシマシでお送りしております。








2016/05/16 (Mon)09:24





「…まだ、早いよ」
 女の声が聞こえた。
 白熱した視界のなかで、俺は鉛のように重い四肢をだらしなくぶら下げながら、どうにか状況を把握しようと試みた。
「来ちゃ、だめ…だって」
 また、声が聞こえた。
 ひどく耳馴染みのある声。心地の良い声。そして、もう聞くことのない声。そのはずだった。
 俺はいままで、死んだ女に会うには天国に行くしか方法がないと思っていた。実際は違ったのだ。俺が立っていたのは天国なんかではなく、雲のかわりに電子機器が、天使のかわりにくそったれな人工知能が俺を囲んでる。
 そして女は…立っていた。漂っていた、というほうが正確かもしれない。
 シリンダーの中で開いたブルーの瞳を見つめたとき、絶望だとか人生最低の瞬間なんてものが存在するなら、これこそまさにそれだと俺は思った。







「ああ…ちくしょう」






 しばらく気を失っていたらしい。
 目を醒ました俺は、手の中の拳銃の安全装置がかかっていないことに気がついた。あぶねぇ。
 床には空薬莢が散らばり、扉の近くで息絶えているゴースト・ピープルの亡骸にハエがたかっている。俺の身体がどこも齧られてたり、刺されてたり、ちぎれてたりしていないところを見ると、もうしばらくこの場所は安全らしいと考えて良さそうだ。
 ヴィラでゴースト・ピープルの集団に襲われた俺たちは、それらを撃退しながらどうにかシエラ・マドレ・カジノへの侵入を果たした。だが…その後のことをよく覚えていない。
 いままで持っていたはずの短機関銃はなくなっていた。たぶん、どこかで落としたのだろう。弾切れを起こしたかなにかして…逼迫した戦闘状況だったから空の弾倉はその場で捨てていたし、弾倉のない銃など役に立たない。
 それにしても他の連中はどこ行った?
 仲間の姿を捜し求めて首を廻らせたとき、ポーチの中の無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。
『…き…えるか。…聞こえるか、傭兵?』
「エリヤ。ああ、聞こえるよ。すこし眠っちまったみたいだ」
『どうやらカジノのセキュリティ・システムにやられたらしいな。他の連中もそれぞれ別の場所に移動させられたようだ…まずいことになった』
「まずいこと?」
『おそらくカジノのメイン・システムが発する電磁波が干渉しているせいだと思うが、四人が装着している首輪爆弾の受信機がすべてオフラインになった。盗聴装置は辛うじて生きているが、ノイズがひどく、あまり役に立たない』
「つまり首輪が爆発するっていう脅し文句はもう使えないってことだな。ま、そのことを連中に知らせてやる必要はないか」
『強引に外そうとすれば信管が作動して爆発するはずだが、こちらから無線で起爆させることはできなくなった』
「ふむ…ちょっとした重いアクセサリーってところだな」
『盗聴装置から発せられる微弱な信号から、他の二人のおおよその位置は割り出せる。ドッグはひどく混乱しているようで、危険な状態だ。ディーン・ドミノ…あの旧世紀のミュータントは何か企んでいるようだな、ドッグとは別の意味で危険だ。もう一人の女だが、こいつだけは盗聴装置を含むすべての信号が途絶えて安否が確認できん。ひょっとしたら、何かの拍子に首輪爆弾が作動したのかもしれんな』
「それで、どうする大将?また最初みたいに連中を探して駆けずり回るか、それともさっさとお宝を探しに行くかい?」
『現在カジノは予備電力で動いている。地下の金庫室まで辿り着くには、まず配電盤を操作して機能をすべて復旧させねばならん。それと…人数が必要なのはカジノに侵入するまでの話だ。他の三人はもう用済みだ、始末してくれ』
「了解した」
『…あっさり納得したな?ヴィラではそれなりに良い関係を築いていたようだったが』
「仕事を円滑に進めるためさね。連中に分け前をくれてやるんでもなければ、まあ始末するしかないわな。俺は傭兵だぜ?人を殺すための職業だ。なんであの三人だけ例外でいられる?」
『優れた傭兵は決して依頼主を裏切らない、とも聞くな。宝を前にして裏切りを考えることのないよう願うぞ』
「信用商売だからな。退職金を欲しがるにはまだ早いよ、俺はさ」
 やれやれ、あのジジイの口から信頼関係を確認する言葉が聞けるとはな。
 よっこらせ、と声を出して俺は起き上がり…固い床の上で寝ていたせいで身体が痛い。ちくしょう、日曜朝の駅で潰れてるサラリーマンじゃねぇんだぞ…寝たきりから回復したばかりの老人みたいな動きで二、三歩よろめいてから、カジノの扉を開いた。






 不死身なうえ殺人光線を放つ悪趣味な人型ホログラムのセキュリティをどうにか掻い潜り、ダウンしていたブレーカーのレバーを押し上げたとき、それまで死んでいた照明が煌々と明かりを放ち、カジノの受付やらルーレット・テーブルやらに新たなホログラムが出現した。
 はじめはセキュリティが増えたのかと思ってゾッとしたが、すぐに、それらは無害なカジノ用の従業員システムであることに気づき、俺は胸を撫で下ろした。
 さて、問題はここからだ…
 あの三人を始末しなければならない。エリヤにはああ言ったが、実際のところ、俺はそこまで簡潔に割り切れているわけじゃなかった。
 なにしろ俺にとっては、あの三人は必ずしも死ぬ必要はないからだ。
 エリヤにとっても三人の死は計画の本筋に組み込まれているわけではなく、あくまで予備案に過ぎないはずだ。とはいえ…理由もなく生かしておいては、エリヤも快くは思わないだろう。それでなくとも確実に任務遂行の障害にはなる。
 当の三人にしたって、俺に生かされたがっているかどうかもわからないのだ。
「出たとこ勝負、か」
 気に喰わない。気に喰わないが、それはいつものことだった。







 カンティナ・マドリッドのキッチンでドッグ/ゴッドを発見した俺は、エリヤの「ひどく混乱している」という言葉が嘘ではないことを知った。
 キッチンはガスが充満しており、わずかな火の気でも大爆発を起こすだろう。地下金庫にダメージはないはずだが、周囲一帯が吹っ飛び酷い被害が出るに違いない。
 原因はゴッドが力任せにガス管を破壊して回ったせいらしい。おかげでセキュリティの自動システムが作動し、俺がキッチンに入った瞬間に外部へ通じるすべての扉がロックされてしまった。






「ドッグ…ドッグ、止まれ!落ち着け、落ち着いて檻に戻れ…少しの間でいい、俺に制御を…」
「FREEEEZE!!」
 うわごとのように何事かをつぶやくドッグ…いや、ゴッドか?目前のスーパーミュータントに、俺は銃口を向けた。
 どうやら俺の存在に気づいたらしい彼は、口泡を飛ばしながら荒い息遣いで叫ぶ。
「ドッグ…どっぐ、もうやだ…つらい…くるしい。声、聞こえる。いやな声が聞こえる。俺なのに俺じゃない。もういやだ。死にたい…グッ、くく…聞こえるか…聞こえるか、傭兵!?」
「ゴッド!?」
「こいつを…こいつを止めてくれ!こいつは死のうと…うるさい、うるさい!いやだ、いやだ、いやだ!しぬ…やめろ、俺はまだ…こんなところで!!」
 なんてことだ…俺は苦しそうに呻き、両腕を振り回す彼を見て言葉を失った。
 二つの人格が反発し合い、心が…壊れかけている!気が狂いかけている!
「だっ…た……助けて…くれ……!!」
 でも、だが、しかし、だからって。
 俺にどうしろっていうんだ!?
 なにができる?俺になにができる?何をしてやれる?どうすればいい!?
 やがて、衝突した二つの心は…完全に、砕け散った。

「「いやだあああああぁぁぁぁぁああっっっ!!」」




 そして、ドッグ…いや、ゴッド、それぞれそう名乗っていた「何者か」は、隠し持っていた手榴弾を放り投げた。






 爆発とともに室内に充満していたガスが一気に引火し、あらゆるものが吹き飛ぶ。
 しばらくして備えつけの消火システムが作動し、消し炭になった物体を鎮火していった。






「ぐはっ」
 ドカッという音を立てて扉が外れ、俺は咄嗟に隠れた冷蔵庫の中から無様に転がり落ちる。
 さすがは核爆発にも耐える(らしい)簡易シェルター、ガス爆発程度ではビクともしない。
 だが…
 まだ至るところで炎が龍の舌のようにチロチロとくすぶっており、俺は火に巻き込まれないよう、黒い煙を吸い込まないようにしながら、必死に「あるもの」を探した。
 それはすぐに見つかった。
 燃えて、焼け焦げ、ばらばらになり、ただの細切れの肉の塊になった、かつてゴッドと、あるいはドッグと名乗った存在の残骸。
「ちくしょう…」
 いままで大概ロクでもない生き方をしてきた俺だが、後悔でうなされる光景というのはいくつか存在する。きっとこれも、そのうちの一つになるだろう。
 かつて檻の中で、エリヤの言いなりになるくらいなら「死んだほうがマシだ」と言ったゴッド。その彼が、今際のきわに俺に助けを求めたのだ。死にたくない、と。まるで、俺ならなんとかできるみたいに。あのときの目を…俺は一生忘れられないに違いない。
「ドッグ…ゴッド。すまねぇ……!」
 人を平気で殺せるくせに、俺ってやつはいつでも他人の期待を裏切るんだ。
 やがて燃えていたものはすべて消火され、同時に扉が「ガチャリ」と音を立ててロックを解除した。
 俺は立ち上がり、無線機を取り出してスイッチを入れる。
『無事か傭兵!?物凄い爆発音がしたぞ!』
 慌てた様子で先に口を開くエリヤの声を聞き、俺は…
 自分でもぞっとするほど感情の欠けた、冷たい声で言った。
「ドッグを始末した。あと二人だ」





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money四回目です。
 まあシリアスですよ。このあたりは。茶化したくないので。最初からこういう展開にする予定でした。だからこそカジノに入る前は明るい雰囲気に徹しておこうというこの底意地の悪さがッ。
 本当はドッグ&ゴッドの内面的な心理描写にもっと尺を割きたかったんですが、本筋とは関係ないのと、鬱展開ブーストにしかならないので断念しました。
 首輪まわりのシステム、無線機、その他色々、原作から改変してる部分は多いです。こと二次創作においては忠実に再現しても面白くもなんともない要素がけっこうあるので、そのあたりはかなり割り切ってます。













2016/05/14 (Sat)02:40





 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 元モハビBoSエルダーの野心家エリヤに雇われ戦前の財宝が眠るカジノ「シエラ・マドレ」強奪計画に参加した俺は、観光街ヴィラにて三人の仲間を集め、カジノに侵入するための作戦を実行した。
 頑強なセキュリティ・システムによりロックされているシエラ・マドレのゲートを開くには、カジノのグランド・オープニングを飾るガラ・イベントを開催させる必要がある。創設者シンクレアが構想していたド派手なセレモニーは多量の電力を必要とし、実行している間は一時的にカジノのセキュリティ・システムが電力不足によりダウンする。
 イベントを起こすには適切な場所に適切な人員を配置し、ちゃんとした手順に添って行動を起こしてもらわなければならない。
 俺はまずゴッド/ドッグを連れ、サリダ・デル・ソルの変電所へと向かった…










 ドガッ!
 ゴッドの振るう電飾つきの看板がゴースト・ピープルの頭部を粉砕し、俺も大口径サブマシンガンの銃弾を次々と異形の存在に叩き込んでいく。
 ゴースト・ピープル…かつてシエラ・マドレ建設に携わった作業員の成れの果てと言われている。グレイト・ウォー(核戦争)の影響か、あるいは毒霧のせいか、それとも他の何かか…彼らがそのように「変貌」してしまった理由はわからない。
 わかっているのは、彼らに人間的な理性は存在せず、同胞以外の生物を尽く滅ぼすつもりでいるらしいこと、そして多少の怪我にはうろたえることすらせず、脳を完全に破壊しない限り生命活動が停止しないこと。
 まさしく死霊…ゾンビだ。死人は死人らしく動きがのろければ良いのだが、こいつらはとにかく機敏で、おまけに予測のつかない動きをする。
 投擲される槍を寸でのところで避けつつ、俺とゴッドは連中を牽制しながら移動をはじめた。
 いちいち糞真面目に相手していたら弾がいくらあっても足りなくなる。






 やがて変電所の裏手にある配電盤に到着した俺は、ゴッドに作戦の概要を説明した。
「俺がコントロール・パネルを操作して祝典が開始したら、タイミングよく送電システムの配線を切り替える必要がある。手順は壁の張り紙に書かれてるから、問題はないと思うが…」
「それよりも、セレモニーがはじまったらヴィラ中のゴースト・ピープルがここへ集まってくることになる。そこのやわなゲートでは長くは保たんだろう」
「…ドッグは、あんたより戦闘が得手だそうだ、が…」
 懸念を口にするゴッドに、俺は慎重に話を切り出した。
 ゴッドはもう一つの人格であるドッグを表に出したがらない。知能が低く、本能的な飢えと恐怖に忠実なドッグ。純粋であるがゆえに強く、そして一度感情が暴走すると、手がつけられなくなる。
 俺を睨みつけたまま、ゴッドは静かに口を開いた。
「もしゴースト・ピープルがここまで押し寄せてくるようなら、ドッグの力に頼らざるを得まい。不本意だが…しかし警察署の檻から出た時点で、もう決断は済ませている。今はあの老人の計画に乗ってやるとしよう。今だけはな」
「すまねぇ。携帯型のトランシーバーを何組か持ってるから、そのうちの一つを置いていくよ。そいつはエリヤと直接交信できるようになってる、ヤバそうになったら使ってくれ」
 そう言って俺は小型の無線機をゴッドに渡し、別の無線機を使ってエリヤに呼びかけた。
「ゴッドを配置につけた、もし彼から連絡があった場合はドッグに呼びかけてやってほしい。それとドッグ一人じゃ配電盤の操作が怪しい、これから手順を説明する。あんたが指示してやってほしい、ドッグはあんたの命令なら聞くんだろう?」
『なるほど。わかった』
 これはエリヤの計画だ。シエラ・マドレを手にするための。
 もし目的達成のために必要なら、彼も手間は惜しまないだろう。その点に関して、俺はエリヤの手を煩わせることに気を遣うつもりはなかった。
 俺が配電盤の操作手順を説明し終えたあと、エリヤが言った。
『よくやった。ドッグ、マスターの言葉が聞こえるか?』
「!?」
 俺は慌ててゴッドのほうを振り返る。
 いまの声は俺の無線機からじゃない…ゴッドに渡した無線機から聞こえたぞ!?
 事態を把握した瞬間、俺は総毛立った。あのジジイ、やりやがった!
「グウ…マスター…ますたー…聞こえる。ドッグ、聞こえる」
『よしよしドッグ、良い子だ。これから私の指示をよく聞いて、ちゃんと言う通りにするんだぞ?』
「わかった!ドッグ、よいこ!ますたーのいうこと、きく!」
 先ほどまでの理知的なゴッドの声とは対照的に、まるで幼児のような物言いをするドッグの姿に、俺は言いようのない不安と、そして罪悪感をおぼえた。
 ドッグの人格が表に出るトリガーは、エリヤの声だ。俺はあくまでゴッドが必要だと思ったときに、彼自身の判断でエリヤと交信してほしかった。それをエリヤは利用したのだ。
「ごはん!おなかすいた、ドッグ、おなかすいた!ごはんたべる!」
 そう言って、なんとドッグは周辺に散乱していたゴースト・ピープルの死骸をむさぼりはじめた。
「…… …… …ッ!!」
 異様な光景に俺はめまいを覚える。だが、俺にできることは何もない。
 もうここでの俺の仕事は終わった。ドッグは配置についた。俺には次の仕事がある。
 ここでエリヤを糾弾しても何にもならない。今のは俺のミスだ。いや、ミスですらない。たんに、俺の感情の問題でしかない。エリヤがこうすることは、ヤツがこういうことを平然とやる人間だということは、わかっていたはずなのだ。
 エリヤは計画が確実に遂行されるよう機転を利かせただけだ。ゴッドの心境はどうあれ。
 嬉々としてゴースト・ピープルを喰らうドッグをその場に残し、俺は変電所のゲートを閉じた。







 その後俺はディーンを連れてプエスタ・デル・ソル南へ向かった。
 途中でゴースト・ピープルの襲撃に遭い、近くの喫茶店へ逃げ込んだ俺たちは追撃してくる連中を出入り口でまとめて始末する。






 ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ!
 ディーンのマグナム拳銃が火を吹き、俺もホログラムの店員が鎮座するカウンターの影から銃を撃ちまくる。
「粉々に吹っ飛ばさなきゃ死なない連中を相手にするなら、粉々に吹っ飛ばせる武器を使えばいい。バケモノ相手は大口径銃に限る」
 そう言うディーンの銃の腕は確かで、極力面倒は避けて行動する普段の態度からは想像できないほどに的確にゴースト・ピープルたちを処理していく。
 一通り敵を倒し終えたところで、俺はなぜ歌手が銃やトラップの扱いに長けているのかと質問する。銃に予備弾倉を装填しながら、ディーンは不敵な笑みを浮かべて言った。
「映画だよ。映画で学んだんだ」
「エッ、映画?ひょっとして、あんたもアクション映画オタクなのかい?」
 かつてヴォールトを出た直後、俺は戦闘知識のほとんどを映画に頼っていた時期がある。
 そんな事情なんか知らないせいだろう、俺の言葉の意図がわからないディーンはしばらくきょとんとしていたが、やがて「映画からニワカ知識を仕入れたのか」という趣旨の発言であったことに気づくと、ディーンはその場で笑い転げた。
「アーッハッハッハッ、なに、俺が映画の猿真似をしてるって?ハハハ…いやいや、勿論違うさ!このディーン・ドミノはただの歌手じゃない、役者でもあったんだぜ?」
「役者?」
「映画俳優さ。以前…たったの二百年と足して十年ほど前かな、戦争映画に出演したとき、元特殊部隊員のインストラクターからみっちり銃と爆薬の扱いを教わったんだよ。元々従軍経験はあったから、基本的な戦闘技術は身につけていたがね。それが抜擢の理由でもあったんだが、まあ…輝かしい栄光の時代がいまでも自分の身を助けていると思うと、感慨深いものがあるな」
 そう言うと、ガシャリ、ディーンは後退した遊底を引いて次弾を薬室に装填した。
 なるほど、ちゃんとした筋から訓練を受けているわけか…と、俺は妙な感心を抱きながら、銃を持ち上げてカフェの二階へ続く階段を上りはじめた。






 やがてエリヤに指示された場所へ到着した俺たちは、周囲にゴースト・ピープルがいないことを確認してから一服つけた。
 俺から火をもらい、たっぷり紫煙を肺に送り込んでから、ディーンが途中で切れたケーブルを見つめて口を開く。
「なるほど、こいつはどうやらヴィラの音響システムに直結しているらしいな。つまり俺はシンバルを持った猿のオモチャみたいに、これを両手に持ってくっつけたり離したりすればいいってわけだ」
「プライドが傷つくようなら申し訳ないんだけど、こんな仕事でもやってもらわなきゃあ先へ進めないんだよね」
「まったく忌々しいジジイだぜ。プライド云々はともかく、現実的な問題として、俺がこいつを操作した途端に付近一帯のゴースト・ピープルが一斉に反応するはずだ。ダダをこねてると思われたくはないんだが、片道切符しかない肥溜まり行きの列車に乗りたくはないな」
「ウーン…周辺のゴースト・ピープルを片づけておこうか?」
「気遣ってくれてるのはわかるがね、相棒。いまヴィラをうろついてるのは氷山の一角にすぎない。一旦乱痴気騒ぎが始まったら、繁殖期のラッドローチよりも多くのゴースト・ピープルが寄って来るぞ。その前に数人、数十人殺したって気休めにしかならんよ」
「参ったね。殺す以外に足止めする手段てーと、ホログラムで気を引きつけておくくらいしかないが…そういえば、ヴィラにはまだ稼動してないホログラムが数基あったよな?たぶん送電システムに障害があるんだと思うけど、予備電源から起動できるはずだ」
「おおお、泣かせてくれるじゃないかね。俺のためにそこまでしてくれるのかい?それで完璧に安心できるってわけじゃないが、妥協点としてはまずまずだな。あとはセレモニーを開始次第、ちゃんと迎えに来てくれることを願うよ」
「心配しなさんな。相棒を見捨てたりなんかしないよ」
 若干不満そうにしながらも、状況に納得したらしいディーンをその場に残して、俺は移動をはじめた。







 相変わらず言葉も愛想もないクリスティーンを連れ出した俺はプエスタ・デル・ソルの変電所へと向かった。ゴッド…いや、ドッグは外の配電盤の操作だったが、彼女には変電所内部からシステムを操作してもらう必要がある。これはある程度の専門知識が必要になる。
 エリヤが言っていた「戦前の知識に精通している者」というのは彼女のことだろう。ある意味ではディーンも該当するのだが、エリヤの言う戦前の知識というのは、とりもなおさずBoSが興味を示す高度なロスト・テクノロジーを指す。
 もしエリヤがクリスティーンのことを事前に知らなければ、このような仕事を任せようと思うはずがない。
 ま、そんなことはどうでもいいけど。
 道中でまたしてもゴースト・ピープルに遭遇し、再三の戦闘に辟易しながらも俺は銃を構える。






 おなじく銃を構えるクリスティーン、しかし俺には懸念があった。
 彼女が扱う銃は特殊なものだが、それはあくまで形状のみの話だ。中身は9mmパラベラム弾を使用する標準的なマシンピストル、はっきり言ってゴースト・ピープル相手では火力不足だ。
 もっとも、そのことを伝えたところで、どうなるわけでもないが…
 しかしいざ射撃を開始すると、クリスティーンの放った弾丸は次々とゴースト・ピープルの肉体を破壊し、物言わぬ肉塊に変えていく。
「!?」
 着弾後、わずかなタイムラグの後に爆発する弾丸を見て俺は思わず目を疑った。なんだ、あの弾丸は?
 クリスティーン自身がよく訓練されており、照準線の短いサイトで素早くターゲッティングしていく動作はディーンにまったく劣っていないが、それにしても…
 通路上に立ち塞がっていた敵を排除したあと、俺は彼女に弾丸を見せてくれるよう頼んだ。
 しばらくためらってから、彼女は銃のボルトハンドルを引いて排莢口から薬莢を一発取り出し、俺に手渡す。
「これは…」
 見かけはいかにも普通の弾丸だった。仕掛けがあるとすれば被甲内部だが…
 そのとき、クリスティーンが素早く走り書きしたメモを見せてきた。こんなことに無駄な時間を割くことに否定的なのだろう、あまり良い顔はしていなかったが、そこには弾頭の内部構造が簡単に描かれていた。
 もっともそこに描かれていたことを理解するのには時間がかかったが…絵や字が下手だったからではない、その内容がにわかに信じ難かったからだ。
「…硬質の爆薬に、遅発信管?このサイズでか?」
 おそらく粘着榴弾と呼ばれる類だろうが、拳銃弾では滅多に見ない代物だ。高度な製造技術が必要でコストがかかるうえ、そもそも拳銃弾のサイズでは効果が乏しく実用性に欠けるためだ。
 爆薬か信管が特殊なのか?俺はクリスティーンのほうを見たが、どうやら彼女はこれ以上の説明をする気はないようだった。






 変電所に到着し、俺たちは各所に仕掛けられたトラップを解除しながらエレベータまで近づく。ここの罠はかつてシエラ・マドレ侵入を試みた冒険者たちがこしらえたものだろう、ディーンの仕事にしては稚拙すぎる。
「互いに利用し合い、自滅する…か。俺たちはその轍を踏まないようにしようね、クリスてぃーんぬ」
「…… …… ……」
「わかった、わかったからその顔で睨まないで。マジで」
 変な呼び方するんじゃねぇ、という顔で眉を吊り上げるクリスティーンをなだめながら、俺はエレベータが稼動状態にあることを確認した。
 彼女には地下のコントロール・ルームから送電システムを切り替えてもらう必要がある。
 ところがどうしたわけか、クリスティーンはエレベータに乗りたがらない。なにか懸念でもあるのか?理由を問いただすが、彼女はメモ用紙を手にしたまますっかり硬直してしまった。
 なにかを書こうとするが、そのたびに行き場を失った感情が皺となって眉間に浮かび、俺を批難するような目つきで睨みつけてから、ため息をつく。
 察しろっていうのか?俺はサイキック・フレンズ・ネットワークじゃないんだぞ。
 互いに苛々が募りはじめてきたとき、チン、という軽快な音とともにエレベータの扉が開き、箱型の閉鎖空間が展開した。
 ああ…俺は声もなく頷く。そうか。オートドクにそっくりなんだ、これは。
 ヤブ医療機械に顔面を切り刻まれたトラウマがぶり返すとでも言うのか?…どうも、そうらしかった。
 どうしようもないな…彼女にこのエレベータに乗ってもらわなくては、事態は進展しない。
「俺に一緒についてて欲しいのか?残念だけど俺は君のテディベアにはなれないんだ、他にやることがある。怖がるなよ…こいつにはドリルもメスもついてない。どうした、強い女の子だろ?」
 そう言って、俺は彼女を抱きしめてやろうとする。
 が、クリスティーンは慌てて俺を押しのけると、猛烈な不快を催したような形相で俺を睨みつけ、ぷいと顔を背けてから、エレベータに乗り込んだ。
「…世話が焼けるな」
 女ってのはこう、なんで面倒な生き物なのかな。
 思わぬところで手こずらされた俺は、やれやれとかぶりを振りつつ変電所を出た。







 さて、計画も大詰めだ。
 俺はプエルタ・デル・ソルに建つ鐘楼の最上階に立ち、コントロール・パネルを前にして呼吸を整えた。
 こいつを操作すれば、すべてがはじまる。
 送電を確認し、俺はレバーをガチャリと押し下げた。










「おお……!!」
 シエラ・マドレがライトアップされ、花火が何発も撃ち出される。ヴィラ中のスピーカからセレモニーのミュージックが流れ、祝典の開催を告げた。







 ドッグ/ゴッド、ディーン、クリスティーンと合流した俺は、シエラ・マドレの正面ゲートへと向かった。クリスティーンだけが猛烈に俺のことを睨んでいたが、気にしないことにする。
 これから俺たちはオープニング・イベントが終わるまでの間にシエラ・マドレへ侵入しなければならない。タイミングを逃せばセキュリティが復活し、ゲートはダニー・パーカーのケツ穴より固く閉じることになる。
 しかし他の連中がさんざん事前に警告してきたように、ヴィラには各所に潜伏していたゴースト・ピープルが続々と集まりつつあった。






「囲まれたか…!!」
 行く手を阻まれ逃げ道を塞がれた俺たちは内心の焦りを抑えつつ、円周防御を敷いてゴースト・ピープルを迎え撃つ。








< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money三回目です。
 なるべくライトに書こうとは思ってるんですが、元が殺伐とした話だからか、どうしてもシリアスに寄っちゃいますね…本当はゴースト・ピープルの集団を相手にミス・フォーチュン三人組を召喚して対応だ!みたいなどうしようもないネタも構想としてあったりはしたんですが。
 今回はアクションシーンの画像撮影をけっこう工夫してて、普通撮れないような画像が幾つかあります。わかるかな…ネタばらしはDead Money終了後に取っておきます。仕掛け自体はものすごく単純というか力技なんですが、そもそもこういうSSを撮る人ってそんなにいないので、Modもないし自家発電するかってことで色々データいじってましたですはい。
 ダニー・パーカーは本編ではディーンがチラッと言及するんですが、New Vegasに登場する架空のジャズ・シンガーです。ディーンと同じくモハビ各所にポスターが存在してる人です。英Fallout Wikiによると核戦争時に亡くなっているようですね。













2016/05/12 (Thu)18:15








「ウワ、引き篭もりのスーパーミュータントとか初めて見るわ。西部の神秘だなあ」

 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 ラジオ放送を介して戦前の巨大カジノ「シエラ・マドレ」の強奪計画に必要な人手を集めていた元BoSエルダー・エリヤと接触した俺は、彼に協力して毒霧と亡霊が漂う観光街ヴィラへと潜入した。
 目下の目的はエリヤがヴィラへ招いた(というか、誘拐した)協力者を集め、シエラ・マドレへ侵入するための手段を確保することだ。
 ひとまず俺は「ドッグ」という名の協力者を探すため、ヴィラ警察署へと向かったのだが…

 東部、というかワシントンにおいてスーパーミュータントは知能の低い殺戮マシンという認識しかなかったため(極々一部に例外はあったものの)、俺には未だに人間並みの知能と自我を持つスーパーミュータントの存在は慣れないのだが、こうまで人間臭いとジョークにすら思えてくる。ナイトキン?マスターズアーミー?なんですかそれ。
「あの~、もし…聞いておられるなら返事をですねェ、して頂きたいのですがァ」
「ドッグおなかすいた…ドッグここから出たい…出してマスター。ますたあぁぁぁぁ」
「聞けって」
 前言撤回、こいつ知能ねぇわ。
 ていうかなんで警察署の玄関のド真ん中に檻があるんだよ。見せしめか。見せしめなのか。これが戦前的パフォーマンス精神ってやつなのか。多分違うと思うけど。
「どうすんだよこれ…」
 エリヤのジジイはこいつを仲間に使えっていうのか?マジで?本気でか?
 鉄格子の前で俺が逡巡していると、ドッグの首輪の盗聴装置にチャンネルを合わせていたラジオから理性的な男の声が聞こえてきた。
『ドッグを檻から出したいか…それならば、警察署の地下に行け。ホロテープを見つけろ…それをドッグに聞こえるように再生するんだ。話をしてやろう』
 はじめはエリヤかとも思ったが、声のトーンの違いからすぐに別人だとわかった。
 しかし首輪に仕掛けられた盗聴装置は、声帯から音声を直接拾う仕組みになっていたはずだ。いったい誰が、どうやって干渉したのか…?
 もっとも腹ペコ青巨人が俺に注意を向けるのを待つよりはマシだろうと思い、俺は謎の声に従って地下へと向かった。
 ホロテープを回収しグラウンド・フロアへ戻った俺は、携帯用の再生装置を使ってホロテープの音声をドッグに聞かせる。ピップボーイを細分割化して体内に埋め込んだとき、ホロテープの再生デバイスは取り除いてしまったのだ。俺には家電製品のように人前でホロテープを体内にセットする趣味はない。なによりあれは、体内に埋め込むにはデカすぎる。まあ、ちょっとした代償の一つというわけだ。
『檻に戻れ、ドッグ』
 ホロテープ再生機のスピーカから例の理性的な男の声が聞こえ、膝を抱えてうずくまっていたドッグがゆっくりと立ち上がる。
 鉄格子の近くまで歩き、口を開いたドッグの声は…さっきの、理性的な男のものになっていた。






「ほう…あの老人が来るものと思っていたがな。見知らぬ者よ、なぜここに来た」
「その老人の代理だよ。あんた、ドッグじゃないな?」
「我が名はゴッド、この肉体の理性を司る者だ。なるほど小賢しい真似をしてくれる…あの老人に伝えることだ、人に物を頼むときは自分で直接来い、とな」
「二重人格ってやつかい?悪いが、俺もここで引き下がるわけにはいかないんでね。さもないと首輪の爆弾が…おい、あんた首輪はどうした」
 命令に背くことを許さぬ爆殺首輪という必殺の殺し文句を出そうとしたとき、俺は目前のスーパーミュータントが身体のどこにも首輪を身につけていないことに気がついた。
 そういやあ盗聴装置から聞こえる音声も妙なノイズが乗っていたが、こいつは…
「首輪?フン、あのちっぽけな玩具か。飢えたドッグが飲み込んでしまったよ。あの老人は私よりもドッグを利用したがるようでな、おかげでそんなトラブルが起きる。ドッグの飢えは底なしで、満たされることはないのだ」
「喰ったぁ!?腹減ってるにしても、もうちょっと分別ってもんがあるだろうによぉ…いや、あんたに言ってもしょうがないのか、これは」
 どうやらドッグ/ゴッド、いや今はゴッド/ドッグと呼ぶべきか、こいつは以前から工作員としてエリヤに使役されていたらしく、エリヤが確保した「協力者」をこのヴィラまで連れてくるのも彼の役目らしい。
 ドッグはもう一つの人格としてのゴッドを認識しておらず、またゴッドはドッグの人格が表に出ているときの記憶がない。
「お前もあの老人の計略に嵌まったようだが…私にはお前を連れてきた記憶がないな。もしドッグに運ばせたというなら、お前が喰われなかったのが不思議でならない」
「運が良かったんだろう。あるいは俺が首輪よりマズそうに見えたのかもな」
 俺は平然とそう返したが、実際は俺は自分の足でここまで来たのだ。そう、俺は他の「協力者」たちとは違う…最初からエリヤに雇われているという点で。
 どうやらゴッドはエリヤの声を聞くことでドッグの人格に入れ替わり、ドッグはエリヤの指示ならなんでも聞くらしい。つまり俺がラジオからエリヤの声を再生すれば、ふたたびドッグの人格を呼び戻せるということであるが…
「あのジーサマに頼んで、ラジオからドッグへ命令させることもできるんだが…ドッグは檻から出たがってるようだしな」
「やめろ!この身体を見るがいい、胸に彫られた名前、全身に巻かれた鎖、傷跡…これはすべてドッグが自分でやったものだ。精神の不安定さゆえに…あの老人はドッグのそんな部分を利用しているのだ。私がこの檻に自ら望んで入ったのは自衛のためなのだよ。私はこれ以上あの老人を喜ばせるつもりはない。もし首輪が爆発して私のはらわたが撒き散らかされるというのなら…そうすればいい」
「死こそ救済、か?死ぬ覚悟があるなら、むしろ檻から出たらどうなんだ。ジーサマに復讐するにしろ、俺を叩き殺すにしろ、内なる相棒をどうにかするにしろ、そこにいたら何も変わらんぞ。それとも、

檻から出るのが怖いのか?」

 俺がそう言ったとき、ゴッドは心底驚いたような顔をし、いまにも俺をぶっ殺しかねない目つきで俺を睨みつける。
 だが、すぐに…ゴッドは天を仰ぎ、大声で笑いはじめた。
「アッハハハハハハハハハ!!破滅と隣り合わせの安全を

手放せ、

と言うのだな?フム、ほほう、小憎たらしい小癪なヒューマンめ!捻り殺してやろうか!ハハハ、なるほど…面白い!よかろう、檻から出てやる」
 挑発とも取れる俺の言葉を、どうやら彼はジョークと捉えたらしかった。
 ゴッドは鍵のかかった鉄格子を掴むと、それを飴細工か何かのように「メシャアッ」と音を立ててひん曲げ、力任せに扉を外して檻の隅に投げ捨てた。
「ああ~…いつでも出られたのね。鍵いらずで」
「当たり前だ。軟弱なヒューマンと一緒にしてもらっては困る」
「ですよねー」
 そんなわけで俺はゴッド/ドッグ…一人目の「協力者」を確保したのであった。







 傭兵の存在は、ヴィラの住宅地区に身を潜めていたディーン・ドミノにとって既に知るところになっていた。
 ミスター・エンターティナー…かつての銀幕のスターだったディーンは二百年もの間このヴィラに潜伏しており、彼もまた、エリヤと同じくシエラ・マドレの強奪計画を企てていた。目的は同じでも、その動機はまったく一致していなかったが。
 徐々に近づいてくる銃声と、つい最近我が身に嵌められたものらしい首輪の感触をなぞりながら、ディーンはとうとう計画を実行に移すときがきたのかと予言めいた確信を抱いた。
 これまでもシエラ・マドレに挑んだ冒険者は大勢いる。
 彼らはみな、シエラ・マドレの、あるいはヴィラの悪辣な罠にかかって死んだか、さもなくば自らの欲に首を絞められて自滅した。まだ、忌々しい自爆用の首輪など存在していなかった頃の話だ。
 どうやら今回裏で糸を引いている人物…エリヤなる老人は、過去の冒険者の失敗に学んだらしい。手駒をコントロールし、仲間割れで自滅しない方法を考えたというわけだ。
 まあいい、最後に笑うのは俺だ…ディーンが内心でほくそ笑んだとき、彼の目の前に傭兵が現れた。






「チェイサァーーーッ!!」
 ズダッ!!
 いきなり建物の屋根の上に飛び乗ってきたクレイブの姿を見たときには、さすがのディーンもビビッた。
「…随分と個性的な登場の仕方だな。てっきり階段から来るものだと思っていたが」
「どうせ罠が仕掛けてあるんでしょ」
「まぁ、な」
 ここヴィラ住宅街には、ディーンが身を守るために仕掛けたブービートラップの山が張り巡らされている。
 それらはゴースト・ピープルと呼ばれるヴィラの住民と、そして良からぬことを企む冒険者の侵入を防ぐために講じられた対策だ。結果としてクレイブの足止めをもすることになってしまったが、クレイブ自身はそのことをあまり気にしていないようだった。

 毒霧や、ゴースト・ピープルなるヴィラの亡霊もさることながら、目前にいるグールが仕掛けたらしいトラップの山にも随分と手こずらされたが、それでも周到な罠を用意できる相手が「協力者」だという事実そのものは歓迎すべきだろうと俺は思っていた。
 まして俺個人を狙ったものでなければ、これらはやって然るべき対策でもある。
「そっちこそ、えらく独創的なトラップの数々で出迎えてくれたじゃないか。いきなりその首輪が爆発しなくてよかったな、旦那」
「爆発?首輪が?」
「そいつは連動式になっているのさ。つまり、今回のカジノ強奪計画に関わる人間、あーっと、首謀者のジーサマは別だが、俺たちの首に引っかかってるこのファンシーアイテムはだな、一人が死ねば、残りの首輪も全部爆発する仕組みになっているのさ」
「脅しじゃあないよな?」
「ならいいがね。こいつは戦前の技術を改良した、見た目より大層なシロモノなのさ。ちょっと疲れたんで、座らせてもらうぜ」
 俺はそう言うと、ディーンの隣に用意されていた椅子に腰掛けた。






 俺が椅子に腰掛けた瞬間、グールがなにやらニヤニヤ笑いを浮かべて口を開く。
「一度座ったら、話が終わるまで立たないほうがいい。そいつには指向性爆薬が仕掛けてある、迂闊に腰を上げると月まで吹っ飛ぶぞ」
「あー、もう!用心深いこったな!?アンタ何者だい、キザなタキシードなんか着ちゃってさ。戦前はジェームズ・ボンドか何かだったんじゃないの?」
「スターだった、という意味でなら、似たようなものだな。俺はディーン・ドミノ、戦前じゃあちょいと名の知れたシンガーだったが、さすがに二百年も経った今じゃあ、誰も知りはしないだろう」
「エ…マジ?あんたディーン・ドミノ?あの大スターの?マジで!?」
「おや、知っているのかな?」
「知ってるもなにも!あんたのポスターは、モハビじゃいまだに人気があるんだぜ!あんたの代表曲、『Saw Her Yesterday』だって、ラジオじゃ定番なんだ!まさかグールになって、こんな場所で生き永らえてたなんて…感動だなあ!サインください!」
 ケツの爆薬の存在など頭から吹き飛び、子供のようにはしゃぐ俺の様子を見てグール…ディーン・ドミノはいささか複雑な表情を浮かべた。
 ディーンは核戦争から今日に至るまでずっとこのヴィラで過ごしていたらしく、外の世界…モハビの事情を知らない。まさか、自分の存在が未だに人気を保ち続けているなどとは考えたこともなかったのだろう。
 未練か…渋い表情を浮かべるディーンに、俺は話しかけた。
「ともかく、いま俺たちが置かれている状況はだいたい把握していると思う。俺たちを集めたジーサマは、俺たちを駒のように使ってシエラ・マドレの強奪計画を企んでる、俺たちは身の自由のために…癪ではあるが、ヤツの言うことを聞かなきゃならないってわけだ」
「それはわかったが…なぜ、君なんだ?」
「ン?」
「集められたのは全部で四人なんだろう?スカウト役はべつに他の人間でも、たとえば俺でも良かったわけだ。そうじゃないか?ところが俺には事前にオファーもなく、同じ立場であるはずの君が契約書類を持ってやって来たというわけか?これは筋が通らないだろう」
「…こういう状況で、首に輪っかを嵌めてるだけじゃ信用できないか?」
「かもしれん。たとえばその首輪は偽者で、君だけが安全圏にいるのではないとどうしてわかる?もっとも、実演してみせるわけにもいかないだろうが」
「できるなら俺だってケツで椅子を温めていたかったさ。このくそったれな街中を駆けずり回るんじゃなくてな。それじゃあ説明にならないか?イカレたジーサンの狙いなんか、どうしてわかるもんかね」
 どうやらディーンは俺の正体を正確に疑っているようだ。
 もっとも俺としては口を割るわけにはいかないし、このままダダをこねても首の輪っかが外れるわけじゃないとディーンが諦めるまで嘘をつき通して粘るしかない。
 そうした顛末を予測したのか、ディーンは不服そうにため息をつくと、口を開いた。
「仕方がない。協力しよう、だが…

相棒、そう呼んでいいよな?

相棒が言ったように、あのジジイはイカレている。狂人の言いなりのままってのは幾らなんでもあんまりだ、そうじゃないか?ああいう手合いが、ちゃんと褒美の飴を投げてくれるかは疑わしい。違うかね?」
「それについちゃあ、異論の余地はないね」
「理解しているならいいのさ。それじゃあ、行こうか」
 どうもディーンは俺を懐柔したがっているらしい。もし俺がエリヤの「忠実な」手駒だったとしても、あの老人が裏切る可能性は考えておけと…もちろん、俺だってそんなことは織り込み済だ。
 もっともディーンは、俺たちの会話がエリヤに盗聴されていることまでは知らないだろうが。今の会話を聞いて、あくまで俺が説得のために納得したフリをしたのだと理解してくれればいいが…ヒステリーを起こした女学生のように爆弾の起爆スイッチを押す可能性もなくはない、ということに思い当たり、俺はわずかにゾッとする。
 立ち上がると、椅子から「ニ゛ャー」という奇妙な鳴き声がした。クッションを剥がし、中に戦前のティラノサウルスの玩具が入っていることを確認した俺は、たいして驚いた様子も見せずに言った。
「こんなこったろうと思ったよ」
「気を悪くするなよ、相棒。大人同士の話をするためのお作法ってやつだからな」
「ああ。あんたがこいつを縦に置かなかったことに感謝するよ、

相棒」

 こうして二人目の「協力者」も確保し、俺は最後のメンバーが待つ医療地区へと向かった。







 ヴィラ医療地区の診療所でオートドクターから発せられる異音を聞きつけた俺は、モニターが異常な数値を検出していることを確認すると、すぐさまプログラムをオーバーライドして動作を停止させた。
 そもそも三人目の「協力者」についてはおかしい部分が多かった。
 首輪の盗聴装置からはくぐもった苦悶の声や機械音しか聞こえず、その様子の異常さは首輪を飲み込んだドッグに引けを取らない。ていうか、まともなのディーンだけだったじゃねーか。
 ハァ…
 緊急停止したオートドクターの扉が開き、中から出てきたのは…






「ギャーッ般若!?」
 デデーン。
 肩を上下させ、物凄い剣幕で睨みつけてくるスキンヘッドの女性を目前に俺は思わず失禁しそうになった。だって、すげーおっかない顔してるんだもん!
 どうやら何者かがオートドクターの設定を故意に変更したらしい、痛々しい顔面の切開跡もさることながら、俺が到着するまで異常な施術による激痛に耐えてきた女性はいまにも倒れそうだったが、それでも意思の力でどうにか踏ん張っていた。
「あの…それ、俺がやったんじゃないからね?むしろ助けた人だからね?だから怖い顔すんのやめてくんないかなァ…」
 腰のあたりを手で探る女性…明らかに銃を抜くときの手つきだ…に、俺は弱々しく頼みこむ。
 やがて諦めたのか、女性は自分が置かれた状況を理解しようとし、武装解除されたこと、そして…声を出せないことに気がつくと、愕然とした表情を見せた。
 おそらくオートドクターによるヤブ手術の影響だろう。どうりで盗聴装置から人間の言葉が聞こえてこないはずだ…俺は胸ポケットからメモと鉛筆を差し出し、それを使うよう女性に言ってから(耳は聞こえるようだ)、質問をした。
「ところで、あなたの名前なんてーの?」
 この質問に女性はひどく驚いた様子を見せ、信じられない、という目つきで俺を見返す。
 俺はこめかみを掻いたあと、さっき渡したばかりのメモをひったくり、素早く文字を書き加えて彼女に返した。
『盗聴されてる』
 その短い文章を見たあと、ふたたび俺のほうを向いた女性に、俺は首輪をトン、トンと叩いてみせた。それから肩をすくめ、マスクの下で片眉を吊り上げる。
 女性はなんとも深い絶望のため息をついてから、力なくメモに名前を書いて寄越した。
『クリスティーン』
「なるほど、クリスティーンね。良い名前だ、惚れるぜ」
 軽口を叩く俺を、女性…クリスティーンはただ黙って睨みつけた。
 だからその顔で睨むの本当にやめてほしいんだけどね、マジで怖いから…
 ある意味で彼女が声を失ったのは都合が良いのかもしれない、などと罰当たりなことを考えながら、俺はなるべく彼女の顔を見ないようにして言った。
「俺たちはシエラ・マドレのカジノ強奪のために集められたんだ。ここに居るってことは、何も事情を知らないはずはないと思うが…ともかく、あんたには協力してもらわなくちゃならない。この首輪には爆薬が仕込まれてて、俺たちを嵌めた老人に逆らったり、あるいは誰か一人でも仲間が死ねば連鎖爆発を起こして全員死ぬ」
 唐突に告げられたこの衝撃的な事実を、しかしクリスティーンはすぐに呑みこんだようだ。
 いまの彼女には事態の進展よりも、むしろ目下の肉体的な疲労のほうがこたえているに違いない。
「少し休んだほうがいいんじゃないか?あのジーサマも、すぐに連れて来いとは言わなかったしな。三十分くらい、そこの寝台で横になりなよ。俺が見張ってるからさ」
 わりと真面目に気遣う俺を、しかしクリスティーンは

余計なお世話だ

と言わんばかりにはねのけ、俺の脇を通り過ぎた。

「…つれないねぇ」

 ところで武器は持っているのか、と尋ねようとしたとき、クリスティーンは寝台の上に乗っていた黒いプラスチック製のケースを取り出し、目の前に掲げる。
 中に小型の銃でも入っているのか…そう思った瞬間、彼女はケースの表面に出っ張っていたレバーを引き、瞬く間に箱型のケースをストックつきのマシンピストルへと変形させた。






 ガチャン!
「おおお…たいしたオモチャだねえ」
 原型はグロックかな?
 根っからのガンマニアゆえ、俺は彼女が扱う珍しい銃にしばし目を奪われたが、彼女の咎めるような目つきに気づき、そんな場合ではないことを悟る。
 先頭に立ちたがるクリスティーンを制しながら、俺はどうにかポイントマンの役を譲らぬよう彼女を背中で押しやり、クリスティーンの不服そうな表情を無視して歩きはじめた。







 エリヤのホログラムが配置された、ヴィラ中央の噴水の前に集結した俺たちは互いに面通しをしたあと、決意も新たに次なる指令を待ち受ける。
 それぞれの思惑を抱えながら…






「おめーら、いくぜあっ!」
『(…こいつらで大丈夫かなあ……)』
 一抹の不安を拭えないエリヤの心情など知る由もなく、俺たちはどっかの誰かに向けて意味もなくポーズをとった。





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money第二回です。キャラ紹介の回とあって画像の枚数に比べ文章量がやや多めになってしまいました。これでもかなり削ったんですが…こいつらけっこう初回のやり取りが長いので、そこを糞真面目にやってしまうと文字数ばかりやたら増えてしまうんですよね。
 他の方はどうしてるんだろうと思って参考までに色々な二次創作を見てみると、けっこうあっさり流してる場合が多い(笑)ここらへんはどこに比重を置くかによるんでしょうねー。









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