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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/23 (Sat)23:03
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2016/11/20 (Sun)03:03








『ガイデン・シンジの名に賭けて、たったいまブルーチームに新たなるチャンピオンが誕生しました!皆様、惜しみない拍手をお願いします!』
 帝都闘技場、円形のコロシアムの中心で、闘士専用の軽装鎧を身に着けたちびのノルドが血にまみれた拳を高々と天に捧げる。彼女の周囲には、闘技場のなかでも最高ランクの闘士たち三人が血の海に沈んでいた。

 レーヤウィンを発ったちびのノルドは帝都へ戻ったあと、興味本位から闘技場の闘士に参加し、瞬く間に上位ランカーへと登りつめていた。
 そして、今回の試合…対抗馬であるイエロー・チームに参加していたのは現チャンピオン、そして彼と互角の力量を持つ戦士二人。剣士、射手、魔術師という隙のない三人組を相手にちびのノルドはたった一人、それも徒手空拳で挑み、これを打ち破ったのだった。

「素晴らしい!素晴らしい試合だったぞチャンピオン!最初に見かけたときは、どんな無謀な役立たずかと思っていたが…いやはや、人間っていうのは見かけによらんな!」
 試合を終え、闘士の控え室である流血路へ向かったちびのノルドは、闘士たちを束ねる剣豪オーウィンの激励に迎えられた。
 いまでこそ多少は愛想が良いものの、ちびのノルドが無名の闘士だった頃は、それこそ罵詈雑言の嵐を浴びせかけてくる恐ろしいオヤジだった。とはいえ、そうした扱いは戦士ギルドで慣れていたので、ちびのノルドにとっては「脳筋はみんな思考が変わらねーな」という感想しか出なかったのだが。
 なによりちびのノルドにとって、難しいことを考えずにただ研鑽を積み、正々堂々と全力で対戦相手とぶつかり合える闘技場の闘士という仕事はかなり性に合っていた。
 賞金の500Gを受け取ったちびのノルドに、オーウィンが立て続けに言葉を捲くしたてる。
「この次はグランド・チャンピオン、あのグレイ・プリンスとの対決だぞ!試合の準備には一週間か、十日ほどかかる…なんといっても、ヤツへの挑戦者が現れるのはほぼ十年ぶりのことだからな!記念に残るイベントになるだろうよ」
「あのー、それはいいんですけど…この鎧じゃ動きにくいんで、自分の装備を使いたいんですけど、駄目ですか?」
「まだそんなことを言ってるのか?いいか、その鎧はアリーナの闘士のためにデザインされた、ガイデン・シンジがこの闘技場を創設したときから存在する伝統的な装束なんだぞ?それを、おまえのためにルールを曲げるわけにはいかんのだ。…と、言いたいところだがな」
「?」
「じつはグランド・チャンピオン戦には特別ルールが適用される。参加者の装備に関しては、いかなる私物をも持ち込みが可能になるんだ。というのもな…グランド・チャンピオンの鎧には特別なエンチャントが施されているんだ。そういうルールにでもしないと、釣り合いが取れないんだよ」
「えぇー…いや、あの、まあ、なんにせよ、全力で戦えるってわけですよね、お互いに」
 若干顔を引きつらせながらも、ちびのノルドはどうにか前向きに考えようと努力した。
 自分の身体にフィットする、使い慣れた装備を着用できるのは朗報だが、彼女の装備にはエンチャントといった類の強化は何一つ施されていない。まったく、ただの革と鋼の耐久力しかない代物である。
 それで、自分があのグレイ・プリンスに勝てるのか…






「まさかお嬢さんがチャンピオンになるとは!」
「アハハ、じつはまだ手が痺れてるんですよ」
 オークには珍しい青白い肌を鎧の隙間から覗かせ、修練に励んでいたグランド・チャンピオンのアグロナック・グロ=マログ、通称グレイ・プリンスがちびのノルドに笑顔を向ける。
「一週間後にはどちらがが強いか決着がつくわけですね!互いに闘士として、名誉ある死を臨みましょう!」
「どっちが死んでも恨みっこなしですよ?」
 彼は我が強く攻撃的な者が多い闘士のなかにあって、圧倒的な力を持ちつつも穏やかな人柄であることから、周囲の敬意を一身に集めていた。そんなグレイ・プリンスには、人見知りの激しいちびのノルドもすぐに打ち解けることができたのだ。
 戦士同士の戦いは命を継ぐ/繋ぐ行為であり、忌避すべきものでも、また罪の意識を感じるべきものでもない。
 相手が親友だろうと、いや、親しい仲だからこそ、相手を打ち破り命を奪うことはお互いにとって最大級の栄誉なのだ。
「しかし、あと一週間でどちらかがこの世から姿を消すことになるとは…」
 物憂い表情でそうつぶやくグレイ・プリンスに、ちびのノルドが問いかける。
「なにか心残りでもあるんですか?」
「ええ。以前から言っているように、私はさる高貴なる血族の生まれです。しかし、それを信じていない者が多いのも知っています。いまの私には、自らの出生を証明するものがありませんから」
「たしか、ずっと帝都で暮らしてたんですよね?」
「そう、母とともにね。しかし、出生は別の場所です…私の母はかつて、クロウヘイヴン砦に住む貴族ロヴィディカス卿に雇われていた使用人だったのです。そして貴族と使用人という、禁断の恋に落ち…誕生したのが私というわけです。ロマンティックな話ではありますが、現実はそう甘くはありません。事実の露見を恐れた母は私を連れて砦から逃げ出し、帝都に落ち着いたのです」
「つまり、追い出されたってことですか?」
「わかりません。母は詳しい話をしたがらなかった…世間体を恐れたロヴィディカス卿が母を捨てたのか、それともロヴィディカス夫人や他の使用人が事実を嗅ぎつけて母を外界へ追いやったのか、それとも母が自発的に出奔したのか…その母は他界する直前に、クロウヘイヴン砦へ向かうための地図と、一つの鍵を私に託しました。もし真実を知りたいなら、それが必要になると…」
 グレイ・プリンスは自身の私物棚から地図と鍵を取り出すと、それをちびのノルドに見せた。
「生憎と、帝都闘技場のグランド・チャンピオンという立場にいる私はそこまで遠出ができません。クロウヘイヴン砦はシロディール西部、黄金海岸沿いにあるのです。もし可能であるなら、あなたにそこへ行っていただき、私が本当に貴族の血を引いていたという何かしらの証拠を持ち帰ってほしいのです」
「急に言われても…一週間後には試合が控えているんですよ?それに、そういう事情があるならもっと早く言ってくれても良かったじゃないですか、なにもこんなタイミングで…」
「あなたが信頼に足る人物か、相応の力を持つ者がどうかを見極めるには、このタイミングまで待つしかありませんでした。もし試合で死ぬのが私なら、その前に真実を知りたい。もし試合で死ぬのがあなたなら、もう、私にはこのような重大事を頼める知人はいないのです。今しかないのです」
 そこまで言うと、グレイ・プリンスは地図と鍵をちびのノルドに託し、さらに金貨が詰まった皮袋を押しつける。皮袋はずっしり重かった。
「旅費と、報酬を先に支払っておきます。2000枚あります。あなたなら、大金を渡されても持ち逃げはしますまい」
「こ、こんなに…!?」
「グランド・チャンピオンなぞになってしまうと、どれだけ稼いでも使う暇がありません。遠慮せず受け取ってください」
 断ることもできたはずだが、ちびのノルドはグレイ・プリンスの頼みを承知してしまった。
 あまりに断りづらい雰囲気だったのもあるし、金貨2000枚の重さに大変な説得力があったのもあるが、なにより、彼女にはグレイ・プリンスのために何かをしてやりたいという気持ちが強かった。
 名誉を賭けて戦う相手に、心残りがあるまま死んでほしくなかったのである。










「とっ、遠い~!」
 シロディール西部、クヴァッチ領内。
 すっかり日が傾きかけたころ、ちびのノルドは丘の上で膝に手をつき、荒い呼吸を必死に沈めようとしていた。
 帝都闘技場を出発したちびのノルドはクロウヘイヴン砦へ向かうため、帝都からプリナ・クロスまでは馬車で移動したのだが、そこからは歩くしかなかった。おまけに、ずっと荷台で揺られていたせいで若干気分が悪く、山岳部の移動が想像以上にこたえている。
 なんといっても、今回の依頼には厳格な時間制限がある。
 一週間後までに帝都闘技場へ戻れなければ、ちびのノルドはグランド・チャンピオンへの挑戦権を破棄したと見做され、その不名誉な行為によって二度とアリーナへ出場することができなくなるだろう。
 なんで、こんな面倒な頼みを聞いてしまったのだか…
 ちびのノルドは自分自身の軽率さを罵りながら、砦の周辺をうろついていたスケルトン・アンデッドともを蹴散らし、クロウヘイヴン内部へ侵入した。






「だいぶん、荒れてますね…」
 砦内部に巣食っていた巨大ネズミや狼をしばき倒し、ちびのノルドは松明に明かりを灯す。
 グレイ・プリンスの母は最近まで生きていた…ということは、父のロヴィディカス卿も同様に存命だったはずだが、この砦の荒れようは一朝一夕のものではない。まるで何十年も手入れがされていないようで、まったくの廃墟と化していた。
 いったい、グレイ・プリンスとその母が砦を出てから、何があったのか…

 砦の探索を続け、ロヴィディカス卿の私室へ続くものと思しき扉を発見したちびのノルドは、厳重にかけられていた施錠にグレイ・プリンスから受け取った鍵を使う。
 音を立てないよう、ゆっくりと扉を開き、ちびのノルドはあたりを見回した。
 部屋の中には本棚や机などの家具が配置してあり、おそらくはロヴィディカス卿の書斎だったのだろうと予測できる。机の上に日記を発見したちびのノルドは、無意識的に手を伸ばし、ページをめくっていた。

 その内容は驚くべきものだった。
 ロヴィディカス卿はグレイ・プリンスの母グロ=マログとの禁断の恋を自覚していたが、なんと彼は吸血鬼であり、自身の正体を打ち明けるべきかどうか思い悩んでいた。
 グロ=マログが妊娠したのを期にロヴィディカス卿は真実を伝えるが、グロ=マログはショックのあまり塞ぎこんでしまい、そしてグレイ・プリンスが産まれた直後、グロ=マログはロヴィディカス卿をこの部屋に閉じ込めて鍵をかけ、砦から脱出した…

 日記には使用人への慕情、純粋な愛情の表現、そして愛する者に裏切られた怨嗟の言葉が書き連ねられていた。
 身分違いの恋は許せても、乙女グロ=マログは吸血鬼との恋は許せなかったらしい。
 そこまで考え、ちびのノルドはあることに気がつく。
 …吸血鬼?この部屋に閉じ込めた?






「これって…」
 そのとき、ちびのノルドは「施錠された部屋」という本の内容を思い出していた。吸血鬼の眠る部屋に閉じ込められる際の描写が際立っていて、思わず背筋が凍りつく物語だった。
 物語に登場したのは数ヶ月もの間ずっと閉じ込められていた老人の吸血鬼で、日暮れとともに目覚め、錠前師をその牙にかけたのだった。
『皮だけになるまで血を吸われるぞ…』
 グロ=マログがこの砦を出てから何年経つ?何十年?もしそれほどの間、一滴も血を吸っていない吸血鬼が生きていたとすれば、新鮮な獲物を前に、どれだけ凶暴になるというのか?
 もし、生きていたのなら。

『グアガアアァァアアアアアアッッ!!』
「痛っ!?」
 ちびのノルドの肩に鋭い痛みが走り、彼女の背に吸血鬼…ロヴィディカス卿が覆いかぶさるようにして牙を突き立てていた。






「くぉのおおぉぉぉぉっ!!」
 ドガッ!!
 ちびのノルドは渾身の裏拳でロヴィディカス卿を殴り飛ばし、壁に激突した彼の顎を両手で掴むと、首を捻りきった。首が180度回転したロヴィディカス卿は絶命し、ぐったりと横たわる。
 荒い息を吐きながら、ちびのノルドは肩に刺さったまま折れていた吸血鬼の牙を抜き、震える手でそれを目の前まで持ち上げる。
 …噛まれた!?
 いったい、それが何を意味するのか。自分も吸血鬼になってしまうのか!?
 シロディールにおける吸血鬼伝説は情報が錯綜しており、その正確な像を掴んでいる者はそう多くない。そしてただの戦士であるちびのノルドに、シロディールの吸血鬼の正しい情報など知り得るはずもなかった。
 とりあえず、脱出しなくては…
 ロヴィディカス卿の日記を掴み、ちびのノルドは震える足を意思の力で無理矢理に動かし、どうにか外へ脱出した。すでに空は闇に染まっており、木々が星明りで照らされていた。
 その日は満月だった。







 ショック症状が収まらず、ちびのノルドは混乱したまま足を動かす。すでに自分が正しい方向へ進んでいるのかすらわからなくなっていた。
 人目を避けて山中を歩き続けるうちに一日、二日と経ったが、動揺は続いており、徐々に体調を崩しはじめていた。やがて湖畔へ辿りついたちびのノルドは水を飲むために水面に口をつけ、そして水面に写った自分の姿を見て愕然とする。






「そんな…これが、わたし……?」
 痩せこけた頬、黒ずみはじめた肌。落ち窪んだ眼窩には、明らかに人のものではないとわかる瞳が光を放ち、ぎょろついている。
 怯え、疲れきった吸血鬼が、水面から自分を見返していた。
 ちびのノルドは半狂乱になって叫びかけたが、叫べなかった。こんな姿を他人に見られるわけにはいかなかった。そう思って自分を制御するだけの精神力があったことに、ちびのノルドは自分自身で驚いていた。
 まだ肉体の変化はそれほど劇的なものではなく、おそらく顔さえ隠していれば正体を勘づかれる恐れはないだろう。
 だが太陽光が肌を焼き、日中はまともに身動きが取れなくなるであろうことを予測したちびのノルドは勇気を振り絞って立ち上がり、涙を拭って歩きはじめた。
 こんなとき、親の胸を借りて泣けたらどんなに良いものかと思う。だが、それは不可能だ。両親はここにはいないし、自分はもう大人だし、子供だったとしても、両親は自分がそんな真似をすることを許さなかっただろう。
 ちびのノルドには兄弟がいた。両親が兄弟以外に、ことに自分に、優しい表情を向けたり、甘い言葉を囁いてくれた記憶を思い出すことができない。
 当たり前だ。そんな瞬間はなかったのだから。ただの一度も。







 どうにかスキングラードへ到着したときには、ちびのノルドはかなり衰弱していた。数日間ほとんど食べ物を口にせず、口にしても飲み込めずに吐き出してしまい、また、このところずっと悪夢に悩まされていた。
 そんな酷い有様だったので、ウェストウィルドの宿へ立ち寄ったとき、客のボズマーがこちらを見てあからさまに警戒しだしたときも、すぐにそれと気づくことができなかった。
「チッ、さすがに戦士ギルドに嗅ぎつけられたか…」
 鉄の鎧装備に身を包んだボズマーの戦士の台詞が自分に向けられたものだとは知らず、ちびのノルドは蜂蜜酒の注がれたマグを手にしたまま、がっくりうなだれる。
 自分と同じくらいの背丈の男に肩を揺すられたとき、ようやくちびのノルドは彼が自分に話しかけているのだと気がついた。






「あんた、戦士ギルドのアリシアだろ。レーヤウィンではご活躍だったそうじゃないか」
「え?あのー…あなたは?戦士ギルドの人ですか?」
「マグリールだ。なんだ、てっきり俺が仕事を放置してるんで、ギルドがレーヤウィンの連中に対してやったみたいにあんたを送り込んできたんだと思ってたけどな」
「…わたしの同僚って、なんでこんな連中ばっかりなんだろう」
 悪びれもせず自身の不真面目さを表出させるマグリールに、ちびのノルドは思わず頭を抱えかける。
 がしかし、とちびのノルドは思いなおした。この状況は利用できるかもしれない。
「あの。仕事を放置してるって言いましたよね?」
「なんだよ、なんか文句あるのか?だいたいあんな、危険のわりに報酬に見合わない…」
「あたしが代わりにやってもいいですよ。いますぐは無理ですけど…手柄も、あなたのものにして結構です」
「なんだって?」
「そのかわり、人を紹介して欲しいんです。腕の良い治癒師か、錬金術師でもいいんですけど…」
 それは賭けだった。
 もし吸血鬼から人間に戻れるのなら、その方法を知っている者がいるとすれば、それは魔術師のほかにない。しかしちびのノルドの知人に吸血病を治せるような人間はいなかったし、見ず知らずの相手に自分の正体を明かして協力を迫るわけにもいかない。
 組織や知人の紹介を通せば、少なくとも門前払いを喰らうことはないだろう。そう思っての提案だった。
 マグリールは渋い表情を見せながらも、納得したように頷く。
「まあなんだ、あんたにも色々と事情はあるんだろうし、俺の仕事を代わりにこなしてくれるんなら、その程度のことはしてやってもいいか」
「本当ですか!?」
「この宿屋の地下にな、シンデリオンっていう錬金術師がいる。腕は良いが、なにせ変わり者でね。俺はヤツのために何度か錬金術の材料を調達してやったことがあるから、俺の名前を出せば多少の融通は利かせてくれるだろう」
「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
 ちびのノルドは感謝のあまり、額を床にこすりつけんばかりの勢いで頭を下げる。
 尋常ではない熱心な礼にマグリールは多少訝りながら、最後に一言つけ足した。
「ああそれと、シンデリオンの部屋に入るなら、すぐに扉を閉めろよ」
「?えーと、あ、はい」
 わけがわからず、ちびのノルドは扉の取っ手を掴み、部屋に入ると同時にすぐさま扉を閉める。

「くさっ!」
 室内は錬金術の実験で生じたと思われる奇妙な異臭で満たされていた。
 なるほど、このことか…
 まるでニルンルートを大量に煮詰めたような激臭に眉をしかめつつ、ちびのノルドは階段を下りていく。
 やがて長身のアルトマーの姿を見つけたちびのノルドは、丁寧な物腰で話しかけた。
「あの~…シンデリオンさんですか?」
「うん、なにかね?こんな場所に一見の客とは珍しい」
「あのっ、じつはわたし、マグリールさんの紹介で来たんですけど。腕の良い錬金術師だと聞いて」
「ほう、マグリール…ということはレディ、あなたは戦士ギルドのかたですか?」
「そうです。といっても、今日ここへ来たのはギルドとは関係がないんですが…じつはわたし、ちょっとした病気、に、かかってしまって…薬を作ってほしいんです」
「なるほど?」






「できるだけ、急がなきゃならなくて…でも、ひとに相談しにくいことで…っ!お願いします、お金なら幾らでも出します!もうあなたしか頼れる人が…お願いします……!!」
 そう言って、ドサッ、大量の金貨を惜しげもなくテーブルに広げるちびのノルドを見て、シンデリオンは仰天してしまった。
 まして目前の少女は肩を震わせ、泣き出している。
「あの、きみ、いいかね。落ち着きなさい、いきなりこんな…」
「も、もおっ、わたし、どうしたらいいか、こんな…っ!う、うう、うぁぁああああああっっっ!!」
「落ち着いて」
 ずっと抑えつけていた我慢が限界を超えたのだろう、頭を抱えて泣き叫びはじめたちびのノルドに、シンデリオンは掌をかざし青白い光を迸らせる。
 沈静の魔法だ。
「落ち着いて。ゆっくり…深呼吸だ。そうだ、なにも恐がることはない。わかるね?」
「うっ…ううっ、は、はい……」
「よし。それじゃあ、事情を説明してくれるね?」
 ちびのノルドは廃墟と化した砦で吸血鬼に襲われ、それ以後体調が激変したことを告白した。
 もっとも自分がアリーナの闘士であることや、グレイ・プリンスの依頼があったことは言わなかったが、それは秘密主義云々より、いまそれを話しても意味がないと判断したためである。
 やがてちびのノルドは兜を脱ぎ、変わり果てた素顔をシンデリオンの前に晒す。
 ロヴィディカス卿とグロ=マログ嬢の関係を思い出し、自分が吸血鬼だとわかったらシンデリオンは自分を部屋に閉じ込めて逃げるのではないかと思ったが、彼は幾らか驚いた表情を見せはしたものの、冷静に彼女の顔を観察し、症状を告げた。
「吸血鬼に襲われたと言ったね?フム…これはポルフィリン血友病の進行状態、吸血病の典型的な症状だね。可哀想に…ここまで酷く進んだということは、吸血病を患ってからも血を飲んでいないね?その精神力には敬服するよ」
「吸血病、ですか…?」
「シロディールの吸血鬼というのは、絵本や何かに出てくるような伝説のモンスターではない。言ってしまえば、たんなる病人だ。危険な病気ではあるが。しかも君の場合、強力な吸血鬼に襲われたせいか、あるいは病気と相性が良い体質なのかはわからないが、常人よりかなり進行が早い。これはぐずぐずしていられないな。おーい、ミレニア!」
 シンデリオンが名前を呼ぶと、部屋の片隅からエルフの少女が飛び出してきた。






 少女は片手に玉杓子を持ったまま、朗らかに声をあげる。
「なんですかシンデリオン先生、もうすぐ晩メシができるッスよ?」
「キミねぇ…さっきの様子を見てなにも思わなかったのかい?」
「先生のお客さんって、変わった人が多いですから」
 まるで場違いに見える明るい少女、シンデリオンを先生と呼んでいるあたり、師弟関係か何かだろうか?
「あのねえミレニアいいかい、この女性が吸血病に罹ってしまったので、すぐにでも治療薬を用意する必要がある。至急、手配を頼む」
「吸血病?そいつは大変だ!アイアイサー!」
 ミレニアと呼ばれた少女は玉杓子を放り出すと、そのまま部屋の外へ駆け出していった。
 さっき晩飯の用意ができると行っていたが、作りかけの料理はどうするつもりなのだろうか?
 呆然と部屋の扉のほうを見つめるちびのノルドに、シンデリオンがやれやれと首を振ってみせる。
「ミレニアは私の弟子だよ。そそっかしくて、やかましい、手のかかる弟子だが、錬金術の腕はそれほど悪くはない。さて、治療薬を作るにあたって、君にもやってもらいたいことがある」
「わたしにも?」
「本来なら安静にしていたほうがいいのだが、急を要するため、止む無くだ。さもないと手遅れになる…吸血病の治療薬にはニンニク、ベラドンナ、ブラッドグラス、そして空の極大魂石が必要になる。それらは私とミレニアが魔術師ギルドや錬金術店をあたって揃えておこう。だが、他に…強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血は、このあたりでは手に入らない。その二つは君自身の手で揃えてほしい」
「強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血…」
「できれば今晩のうちにだ。どんな手段を使うかは君次第だ、これは君の問題なのだからね。それに…吸血病を患っているのなら、夜の間はいままで以上に機敏に動けるはずだ、本来なら。そう認識できるのなら、可能なはずだ」
「…わかりました」
 ちびのノルドはゆっくりと兜をかぶり、おぼつかない足取りで部屋を出る。
 なんとしても薬の材料を入手し、人間に戻らなければ。戻りたい…!
 扉を開けっ放しにしたせいで部屋の悪臭が宿に漏れ、苦情を言われながらも、ちびのノルドはいまいちど気力を振り絞ってスキングラードを出た。

















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2016/11/18 (Fri)03:22





 帝都魔術大学の依頼でスキングラード領主ジェイナス・ハシルドア伯爵と接触したリアは、スキングラード城内で活動していた死霊術師たちを始末し、シロディール各地で死霊術師の活動が活発化していることを知らされる。

 帝都へ帰還する途中でコロールの街に立ち寄ったリアは、カジートの女将が経営するオーク・アンド・クロージャー亭で休憩を取ることにした。疲れを知らぬ鋼鉄の身体とはいえ、駆動機関に負担をかけ続けるのは良いことではない。金属も磨耗はする。
 料金の支払いを済ませ、女将のタラスマから鍵を受け取ったリアが二階の部屋へ向かおうとしたとき、奇妙な髪型の男が彼女へ話しかけてきた。






「そこの娘さん。じつは貴女に、折り入ってお話ししたいことがあるのですが、御手隙ですかな?」
「うむ?なんであるかな?」
 貴族らしい身なりの初老のダンマーは、シロメのタンカードに注がれたワインをちびちびと口つけつつ、興味深いといった様子でリアを見る。
 どうやらこの男は、こちらの素性を知ったうえで声をかけてきたらしい…とリアは察する。たんに、見知らぬ少女に適当に挨拶をしたわけではなく。
 とはいえ自分はこの世界であまり大したことはしておらず、特定の役職についているわけではない。過去に関わったいずれかの事件が人目を引いた可能性はあるが、それが何であるかは見当がつかなかった。
 とはいえ、その疑問はすぐに目の前の男…ファシス・ウレスが晴らしてくれたのだが。
「じつは貴女が最近関わった、ジェメイン家の一族について相談したいことがあるのですよ」
「ほう?」
 ジェメイン…レイナルドとギルバートの兄弟だ。最近、彼らの生家であるウェザーレアを荒らしていたオーガたちをリアが退治し、兄弟が故郷を取り戻すのを手伝ったのだった。
 ジェメイン兄弟はオーディル農園の親父に話を聞いてリアの実力を見込んだと言っていたが、もしウェザーレアでの一件が周知のことであるなら、このファシス・ウレスという男はリアに傭兵まがいの荒事を頼む気かもしれない。
 いや、待て、とリアは思った。さっきのファシス・ウレスの台詞をメモリ・バンクからリピート再生し、「ジェメイン家の一族について」という言葉を確認した。
「おぬし、あの兄弟に何ぞ用かの?」
「誤解のないよう最初に言っておきますが、私があの兄弟に対して直接何かをする、それを望んでいる、ということはありません。話したいのは、彼らの父親のことについてです」
「父親?ギルバートを連れてウェザーレアから逃げ延びたと聞いたな…すでに亡くなっているそうだが」
「ええ、それは『我々』も把握しています。重要なのは、生前の彼が何者だったか、なぜウェザーレアのような危険な土地に家を建てたのか、です」
 我々?
 その言葉にリアは内心で眉をしかめる。これは組織ぐるみの動きなのか?ということは、目の前にいる男はたんなる連絡員に過ぎないということか…
 なにより気になるのは、そういう動きができる組織が、いったいどういう理由であの無害な兄弟に関わろうとしているのか?という点だった。
 ファシス・ウレスが言葉を続ける。
「兄弟の父アルバート・ジェメインは、ある道のプロフェッショナルとして我々の組織に雇われていました。そして我々から依頼を受け、『ある場所』から『ある物』を盗んだのです。しかし彼は掟を破り、それを我々に渡すことなく、自分の物にしてしまった。ウェザーレアに住居を構えたのは、我々と、コロールの監視の目から逃れるためだった」
 そこまで言って、ファシス・ウレスは一度言葉を切り、リアを見つめた。
 リアもファシス・ウレスをじっと見つめていた。そこに感情はなかったが、右手はいつでも武器を抜けるようにしていた。
 荒廃したウェザーレア、離れ離れになった家族のことを思い、リアはぽつりとつぶやく。
「…主等か?」
「違いますとも。あれはレッドガード峡谷に住むオーガどもの仕業です。実際にウェザーレアが壊滅し、レイナルドと彼の母親がコロールに逃げ延びたのを確認するまで、我々は彼らがウェザーレアに居たことすら知らなかった。アルバートと彼の次男の消息が途絶え、彼らは助からなかったと判断したとき、我々はアルバートと、彼が盗んだものへの興味を失った…彼の死にしても、我々は決して喜んだりはしていない。たとえ、彼が我々を裏切ったとしてもね」
「ところが、死んだと思っていたギルバートが見つかったもので、また興味が沸いてきたというわけじゃな?」
「そうです。我々は一度、ウェザーレアを捜索していますが、アルバートが所持し保管していたであろう物品の数々については痕跡を掴めませんでした。おそらくはウェザーレアを襲ったオーガたちが自分たちの寝ぐらに持ち帰ったのでしょう。そこで貴女には是非とも、レッドガード峡谷へ向かい、アルバートが隠匿していたものを取り戻して欲しいのです」
「兄弟にはなにも知らせず、かえ。アルバートは…兄弟の親父殿は、盗賊だったのか?」
「そう考えていただいて結構です。おそらく兄弟はそのことを知らないでしょう、彼は自分の正体を隠すのが上手かった。自分の家族に対してもね」
 だから、余計なことは考えないほうがいい…ファシス・ウレスはそう締めくくった。
 なるほど、ジェメイン兄弟と関係があることには違いないが、直接の関わりはないわけだ、とリアはひとりごちた。おそらくは断ったところで、兄弟に被害が及ぶことはないだろう。彼らは何も知らないに違いないのだから。ファシス・ウレスも、組織の面子のために兄弟を痛めつけるような無益なことをやりそうには見えなかった。
 だがリアには断る理由もなかった。そもそも目的があってこの世界に来たわけではないのだし、こんな面白そうな事件に首を突っ込まない手はない。










 ウォン、ドガッッッ!!
『ゼロシーッ、またなにか轢きましたよ!?』
 リアの知覚領域内で、自律型思考支援システム「TES4」通称フォースが叫ぶ。
 コロール城壁沿いの人目がつかない場所で二輪駆動形態へ変身したリアは、一目散にレッドガード峡谷へと向かっていた。
 軽合金製の車体に突き飛ばされ、宙を舞うトロールを後部カメラで確認しながら、リアはファシス・ウレスとの会話内容を反芻する。
 そもそも彼と、彼が所属する組織がアルバートに盗ませたものは何か。
 その肝心な部分をファシス・ウレスは教えようとしなかった。彼曰く、「見ればわかる」らしいのだが…

 レッドガード峡谷の洞窟では、青白い肌をした巨体のオーガたちがひしめいていた。
 とはいうものの、ウェザーレアで見かけた連中ほど強い個体ではないらしい。リアは両手にカタールを閃かせ、不敵な笑みを浮かべて立ち向かう。
「ひとまず、あの小坊主らの恨みを晴らしてやるとしようかの!」






 リアが駆け出すと同時に、オーガたちが彼女の存在を認識し咆哮をあげる。
 根っからの好戦的な種族なのだろう、あるいは縄張りに勝手に入られたことを怒っているのかもしれないが、戦う以外の選択肢は頭にないらしい。もっとも、こちらが相手を殺しにかかっている以上、それで問題はないのだが。
 もとより平和的に宝だけ持ち出せると考えていたわけではない。
「フンッ!」
 油圧式の金属骨格から繰り出される豪腕の一振りで、分厚い脂肪に包まれたオーガの腹が容易く切り裂かれる。
 その後も次々とオーガが襲いかかってきたが、急所への精確にして強力無比な一撃はオーガたちを物言わぬ肉塊へと無慈悲に変えていく。






『グォォオオオォォォオオ!!』
「畜生めが、手間を、かけさすでない!」
 洞窟最深部にいた巨体のオーガを始末したとき、周辺に脅威となる生物が存在しなくなったことをフォースが告げた。
『警戒ステータス、オール・グリーン。お疲れ様でした、ゼロシー』
「うむ。どうやらこのいっちゃんデカブツが、連中の頭目だったようじゃの」
 頚椎に深々と突き刺した刃を引き抜き、リアはオーガの巨体から飛び降りる。
 オーガたちの寝床を探し回り、リアは細々とした宝石や、ちゃちな金属細工に混じって、一振りの剣を発見した。






「どうやら、これのようじゃの」
 それはコロール王家の紋章が刻まれた、エングレーヴ入りの黒檀剣。
 なるほど見事な業物だ、装飾が美しいだけではなく、単純に武器として優れている。名剣と呼んで良いだろう。
「しかし、王家の紋章とはな…王族に伝わるものか?」
 なるほど、たしかに、力のある組織が外部の人間を雇って盗ませるほどのものと考えれば納得はいく。それはアルバート・ジェメインが真に優れた腕を持つ盗賊だったことをも証明していた。
 これを、そのままあの胡散臭い男に渡してしまって良いものか?
 そうすれば、一応は丸く収まるのだろうが…







 レッドガード峡谷の洞窟を出たあと、リアが向かったのはファシス・ウレスが待つオーク・アンド・クロージャー亭ではなく、ジェメイン兄弟がいるウェザーレアだった。






「おや姐さん、わざわざ会いに来てくれたんですか?」
「だからその姐さんという呼びかたはやめんかね」
 愛想良く手を振って呼びかけるギルバートを咎めつつ、リアはウェザーレアの様子をぐるり見回して驚いた。
 このあたりに住みついていたオーガたちを退治してから、まださほど時間が経っていない。にも関わらず、見るも無残だった廃墟は見る影もなくなり、きちんと補修された家に、畑までがきちんと手入れをされていた。
「じつは、折り入って話があっての」
「なんです?」
「主等の…父親についてじゃ。せっかくだから、中に入らんか?」
 二人を促し、リアは兄弟が住む家へと入る。
 荒れ放題だった屋内もすっかり綺麗になっており、失敗した日曜大工のような有様から、どこに売り出しても恥ずかしくないようなものになっていた。床に転がっている酒の空瓶が多いことに目を瞑りさえすれば。
 この場所を取り戻してから、二人は血の滲むような努力をして土地を再建したに違いない。努力だけではなく、金もかかったはずだ。こうしてその価値があったと思わせる見た目になったのは、兄弟にとって何よりの慰めだっただろう。
 聞けば、ときおりコロールへ買い物に行く以外は自給自足でやっていけるという話だった。
 リアはすこしためらったあと、レッドガード峡谷の洞窟で発見した剣を二人に見せた。






「立派な剣だね、それをどこで手に入れたんだい?」
 おそらくは自分たちと関係がある品だとは思っていないのだろう、ギルバートはまるで他人事のような感想を漏らす。
 そんな彼に真実を口にするのは心苦しかったが、リアはギルバートの目をまっすぐ見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「これはな、おぬしの父親がコロール王家から盗み出したものだ」
「……えっ?」
 ギルバートの表情には笑みが張りついたままだった。リアの言葉があまりにも唐突で、突飛だったからだろう。冗談を言ったのか、自分が聞き違えたにちがいないという顔だった。
 家に入ってからさっそくワインに手を出したレイナルドの動きも止まっていた。
 やがてギルバートが、納得しかねるという顔で訊ねる。
「すまない、もう一度言ってくれないか。僕たちの父がなんだって…」
「主等の父は盗賊だった。ある組織に雇われて、この剣を盗みだしたのじゃ。ところがおぬしの父はそれを組織には渡さず、自分のものにした。ワシはの、それを取り戻すよう頼まれたのじゃ」
「待て、ちょっと…待ってくれ。なんだって?僕の父さんが盗賊?なにかの間違いでしょう?」
「いや」
「だって、そんな…僕たちの父は平凡な農夫で…」
「おぬしの父を雇っていた、ファシス・ウレンという男が詳しく話してくれた。おぬしの父は、正体を隠すのが上手かったと…ウェザーレアで起きたことも、ワシがおぬしらと関わったあとのことも、すべて知っておった。ヤツは嘘をついてはおらんかったよ」
 相手の表情や声から感情を読み取るエモーション・センサーがそれをはっきり証明していた、とまでは言わなかった。相手が理解できないことを口にしても意味がない。
 真実を知らされたギルバートは打ちのめされた様子でがっくりと肩を落とす。
「なんで…そんなことを僕に教えるんです」
「真実を知る必要があると思ったのじゃ。自分たちの父が何者であったのかを、知りたいと思って…」
「こんなことは望んでいなかった!僕は…僕の尊敬する父は、ただの平凡な農夫で、普通の人間だった!ずっとそう思っていたし、これからもそう思っていたかった、なのに!」
「す、すまぬ…」
 完全に平静さを失い、わめき散らすギルバートに、リアは頭を垂れる。
 そもそも二人に真実を伝えようとしたことに、深い考えはなかった。ただ、身内に関すること、その真実を知る権利があるだろうと、それだけのことである。
 機械であるリアに家族はなく、血の繋がりという概念を知らぬリアにとって、人間が家族に向ける感情など未知の領域だ。ギルバートがこれほどまでに取り乱すことを、彼女は予測していなかった。
 目に涙を浮かべ、なおもリアを責めようとするギルバートを止めたのは、兄のレイナルドだった。
「止めるんだ弟よ、姐さんだって辛いんだ。姐さんはいつだって俺たちのことを心配してくれていた…なのに、姐さんが嫌がらせでこんなことをするはずがないだろう?」
「…そうだ。その通りだ、兄さん。姐さんも、すまなかった」
 普段はどうしようもない酔っ払いの飲兵衛である兄の説得を受け、ギルバートは驚くほど素直に事実を受け入れる。
 しかしショックは癒えないようで、その場に座り込んでうなだれるギルバートのかわりに、レイナルドがリアに訊ねた。
「それで、姐さんはその剣をどうするつもりだい?」
「それはおぬしらが判断すべきことだと思う。そのためにワシはここへ来たのじゃ、この剣をおぬしらに託すためにな。この家に飾るもよし、あるいはファシス・ウレンという男のもとへ持っていけば、それなりの金を払ってくれるじゃろう。すくなくとも、おぬしらの父の責を負わせるような真似はせん、それはワシが保障する。また、本来の持ち主へ返すつもりであれば、ワシに言うといい」
「…すぐには決断できないよ。一晩だけ待ってくれないかな?」
「もちろんじゃ。いまさら急くこともあるまい」
 その日、リアはジェメイン兄弟とともにウェザーレアの家で一晩を過ごした。
 しかし彼女には、レイナルドがすでに決意を固めていたことなど知る由もなかった。また、その決断に重い責任が伴うということにも…







「大変だ姐さん、兄さんがいない!剣も!」
「なんじゃと!?」
 翌朝、リアが機能を復旧させたときにはすでにレイナルドの姿は消えていた。
 暖炉の上に、酔って震えた手で書いたであろう判読が困難な書き置きが残されている。
『剣をコロールに返してくる』
 簡潔な文章ではあったが…それが意味することに、リアは激昂する。
「あんの…バカモノがッ!!」






 おそらくレイナルドは父の罪を清算するため、一人でコロール城へ向かったに違いない。
 犯罪結社の一員たるファシス・ウレスは父の罪を息子たちに背を負わせる気はなかったろうが、コロール政府はそうは考えまい。
 城から、それも伯爵ゆかりの品を盗み出すことは重罪であり、二度とこのような事件が繰り返されないためにも、見せしめとして罪人の身内を処刑するというのはおおいに有り得ることだった。たとえ、レイナルド自身に非はないことをわかっていたとしても。
 そしてレイナルド自身も、そのことは理解しているはずだった。だからリアとギルバートには黙って、一人で剣を返しに行ったのだ。
「あの馬鹿者め、ワシはなにも、こんなことを望んだわけではないぞ…ッ!」
 もし兄弟が剣を持ち主に返すべきだと判断したのなら、そのときはリアが城へ剣を持っていくつもりだったのだ。もし盗品を返しにきたのがまったくの第三者であるなら、コロール政府としても無闇に誰かを罰するというような行動は取れない。
 それも、レイナルドはわかっていたに違いない。そして彼は、自らの命と引き換えに、父が犯した罪にけじめをつけようと考えたのだ。
 ぐずぐずしてはいられなかった。
 ギルバートが制止する間もなく、リアはすぐさまコロールに向かった。







 コロールへと到着したリアは城の外壁にセンサーを走らせ、牢獄の在り処を探り当てる。






「ここじゃな…」
 壁越しにレイナルドが捕えられた牢屋を透視したリアは拳を振り上げ、城壁を粉砕する!
 轟音とともに石造りの壁が倒壊し、城内がざわめきに包まれる。
「いったい何事だ!?」






 衛兵隊が騒ぎたてるなか、独房にレイナルドの姿を発見したリアは鉄格子を無理矢理こじ開けると、重く頑丈な鉄格子を蹴り飛ばして衛兵にぶつけ、ノックダウンさせる。
 当のレイナルドは普段通りのぼんやりした態度でリアに言った。
「あれぇ、姐さん。こんなところでどうしたの?」
「阿呆か貴様は!おぬしのせいで大変なことになったのだろうが、そら、逃げるぞい!」
「いいの~?」
「良いも悪いもない!ワシは、おぬしをむざむざ死なせるためにあんな話をしたのではないわっ!わかったら、しっかりついて来んかい!」






 二人はリアがぶち破った壁の大穴を抜け、一目散にコロールから脱出する。

 一方、宮殿内は大混乱に陥っていた。
 なにごとかと問い詰めるアリアナ・ヴァルガ伯爵夫人に、衛兵が報告する。
「例の囚人が脱獄しました!どうやら外部の協力者の手引きによるものと思われ、いかなる手段を使ってか外壁を破壊され、そこから侵入されました!」
 およそ信じ難いその報告に伯爵夫人が目を丸くする。
 彼女の傍らに控えていた執事のレイス・ウォヴリックが指示を仰いだ。
「これはコロールの信用を揺るがす大事件です。すぐに追跡隊を編成し、ヤツを追いましょう!」
「待ちなさい。待って…その必要はありません」
「なんですと!?」
「おそらく彼らはウェザーレアへ逃げるつもりでしょう。あそこはコロールの管轄外です、いまから追跡隊を組織しても間に合わないでしょう。かつて、この剣が盗まれたときと同じね…でもいま、剣は帰ってきたことだし、それに、あの若者は処刑されるのを承知で、勇気をもって出頭してくれました。そんな若者の命を奪うのは、本来なら誰にとっても本望ではないでしょう?」
「しかし…」
「コロールはジェメイン兄弟を永久追放とし、この件は終わったものと判断します」
 アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人は毅然とそう言い放ち、立ち上がると、犯人の追跡に向かった衛兵たちをすべて城へ呼び戻し、他の罪人の逃亡阻止と、城の破損部分の片づけをするよう衛兵隊長に命じる。
 不安そうな表情をするレイスに振り向くと、伯爵夫人は楚々とした笑みを浮かべた。
「城壁の修繕が終わるまでは、風通しが良くなりますね」







 その頃、リアとレイナルドの二人は。






「姐さん、まだ着かないの?」
『うっさいわ!なんもかもおぬしのせいじゃろうが、まったくもう』
 逆向きに座るレイナルドを乗せ、リアは一路ウェザーレアへと向かうのであった。

















2016/11/16 (Wed)00:34






正面からは普通の格好に見えても…




背後からだとキャップちんちん見えてるキャプー!



 どうも、グレアムです。なんとなくシロディールへの郷愁に駆られてOblivionの環境を再構築してしまいました。
 日本語化とENB導入まではスムーズに行ってたんですが、Fran v5や諸々の装備MODを入れたあたりでCTDの嵐。既存のセーブデータが読めない、街から外に出るとCTDするなどはまだしも、新規スタートしても地下水道から出た瞬間に確定CTDするので困ってしまった。
 MODリストをなんども見直し、適用順をあれこれ変更してみても問題は一向に解決されない。そもそもWrye Bashを使えば過去のセーブデータで適用したMODと適用順のリストが参照できるので、現環境との統合性を取るのは難しくないはずなのだが、一見問題がないはずの環境であるにも関わらず状況が一向に改善されない。
 TES4、Fallout3、New Vegas、TES5と触れ続けてきた過程で、一応は各種MODがどのような作用を及ぼすのか大体は理解できるようになっているつもりだったが、まるで原因がわからない。それとも俺は、詳しくなった「つもり」でいただけなのか?
 いまいちどFran v5の各種ファイルを一つづつチェックしていたとき、俺はあることに気がついた。
 …MeshやTexture等のリソースが入ったBSAファイルを丸ごと入れ忘れている!

 そりゃ強制停止するわ。

 原因不明の不具合というのは、たいていこの手のヒューマン・エラー、イージー・ミステイクであることがよくわかる出来事だった。半日ほどの時間を無駄な試行錯誤に費やしたことが、対価として妥当であるかどうかはわからないが。




牢獄脱出後、美しきシロディールの風景




赤い空が目にしみるクヴァッチ



 ちなみにENBプリセットはATEを使用しています。たしか以前はAeroを使っていたと思うんだけど、改めて比較したらAeroはAmbientOcclusionがおそろしく非実用的なレベルで汚すぎた(比較画像はない、いまさら試す気もない。申し訳ない)。それに比べるとATEのAmbientOcclusionはかなり綺麗で、一部オブジェクトが透過するという問題は残っているものの、それもAeroのものよりは大分マシになっている。
 またゲーム中にDepthOfFieldの設定を細かく調整できないか色々試してみたが、現状では打開策が思いつかない。Fallout3以降のようにenbeffectprepass.fxの設定をゲーム中に変更できればいいのだが。直接ファイルを書き替えるという手はあるものの、さすがにそれは面倒すぎる。
 TES4のENBは設定項目が少ないぶん、扱い易い。というか、Skyrimが煩雑すぎる。もっともコンソール・コマンドが貧弱なので、画面写真撮影はかなり苦労することになるが…

 せっかくなので、二次創作の主人公の面々を適当に撮影してみた。




傭兵ちびのノルドことアリシア




異界から召喚されたアンドロイドのリア




異界から召喚された暗殺者ブラック17




ブラックマーシュ出身の剣士ドレイク




異世界人を両親に持つ錬金術師、盗賊のミレニア
いまは亡き(笑)シンデリオンとともに



 そういえばシンデリオンって、Skyrimにおいて前作から続投している唯一のキャラですよね?見つかったときは死体になってますが…Oblivionにおいてはオカート議長やユリエル7世あたりも過去シリーズからの続投でしたが、作品を跨って登場する人物ってTESシリーズではそんなにいないので、そういった意味ではかなり優遇というか、レアなキャラではあります。死んでるけど。












2015/02/25 (Wed)22:01

 レーヤウィンで巻き込まれた騒動のあと、ブルーマからの召喚状を受け取ったドレイクは北方スカイリムとの国境沿いにある街へ向けて旅を続けていた。
「女王直々の呼び出しというがなぁ…俺は寒いのは苦手なんだが」
 あまり気乗りしない様子でそんなことをつぶやきつつ、やがて日の傾きを察したドレイクは周囲を見渡す。
「まいったな、このへんに宿はないのか?野宿はあまり気乗りがせんしなー、どこか適当に民家でも探して泊めてもらおうか」
 あたりを警戒しつつ、木々の稜線をじっと眺めていたドレイクはやがて煙突の煙らしきものを発見し、住人が悪党や山賊、あるいは化物でないことを祈って移動をはじめた。

  **  **  **  **



 民家…農場だろうか?
 極力物音を立てないように、しかし過度の警戒を抱かせないよう自然な物腰で建物に近づいたドレイクは、墓前で祈りを捧げる一人の男を見つけた。
 ブレトン、まだ三十代前後といったところだろうか。働き盛りにしては、身のこなしが妙に落ち着いている。というより、落ち込んでいるというべきか。まるで死の秒読みをはじめた老輩のような寂しさがその肩に重く乗っているように見えた。
「あー…失礼?」
 ドレイクが静かに声をかける、てっきり驚かれるかと思ったが、男はゆっくり立ち上がると、やや咎めるような口調で言った。
「死者の冥福を祈る邪魔をしないでください。いまとなっては、これが私の只一つの生き甲斐なのです」
「いや、すまなかった。そんなつもりはなかったんだ、ただ…」
「…旅のかた、ですか?」
「ああ。近くに宿が見当たらなかったものでね、よければ泊めてもらえないかと思ったんだが。もちろん、タダとは言わない」
 いままで望むと望まざるとに関わらず面倒ごとに巻き込まれてきたドレイクは、それなりの額の旅費を常に持ち歩いていた。
 それはもちろん、時として一市民に一晩軒下を貸す気にさせるためであり、実際にそれを実行に移すことは造作もなく、なんであれば嫌がる相手の口を閉じさせることだってできる程度の持ち合わせは充分にあった。
 もっとも無駄遣いを避けるべきであるのはドレイクとて変わらず、できるなら双方合意のうえで安くすませたい、というのが実情ではあったのだが。
 ブレトンの男…コリック・ノースワードと名乗った…彼はしばらくドレイクを値踏みするように観察してから、やがて口を開いた。
「戦士ですか?」
「なんというかな。戦士じゃあない、俺は戦士ギルドの人間じゃない。さらに言えば傭兵でも殺し屋でもない。ただの旅人さ」
「もし私の言う条件を受け容れてもらえるなら、一晩と言わず好きなときに家を使ってもらって構いません」
 そういう話をしたいんじゃあないんだが…
 どうにも面倒なコリックの態度を見て、ドレイクはこめかみを掻く。
 いまひとつ気乗りしないドレイクを余所に、コリックは勝手に説明をはじめた。
「一年前…私が帝都へ月に一度の買い出しへ向かったとき、ゴブリンの一団が家を襲いました。そこにはたった一人残された妻がいて、ゴブリンたちは妻を誘拐していったのです。連中が根城にしているのは、ここから南西へ向かった場所にある鉱山です」
「……それで?」
「事実を知った私はすぐに剣を手に鉱山へ向かいましたが、ゴブリンの数は予想外に多く、返り討ちに遭ってしまったのです」
「奥さんの無事は確認したのか?」
「できませんでした…しかし、ゴブリンに捕まった人間が生きていたという話を聞いたことがありません。もう死んだものと思い、あれから墓前で祈りを捧げ続けてきましたが、それでもやはり、事実が気になるのです」
 そう言うと、コリックはドレイクの手を掴み、懇願するように頭を下げた。
「どうか、妻の生死を確認しては頂けませんか?そして、できるなら妻が身につけていたものを、なんでもいいのです、遺品として持ち帰ってきてほしいのです」
「いきなりな提案だな。さっきも言ったが、俺は戦士じゃあない」
「ギルドの人間でなくとも構いません。あなたのその物腰、立ち居振る舞い、間違いなく手練の戦士とお見受けしました。お願いします、帝都の衛兵からは断られ、戦士ギルドも頼れぬ今のこの国の状況では、あなたのような人にしか頼めないのです!」
「…俺は面倒を引き受けに立ち寄ったんじゃあないんだがな。最初に言ったように、一晩泊めてほしいってだけなんだが。先を急ぐ旅の途中なんだ、金ならある。幾ら欲しい?」
「お金などいりません。どうか、私の頼みを…」
「他を当たれっていうなら、そうするさ」
 そう言うと、ドレイクはコリックの手を振り払い、農場に背を向けた。
 立ち去ろうとするドレイクの背に、コリックが大声で叫ぶ。
「あなたはきっと引き受けてくださる、あなたはそういうお方だ!私は信じていますよ!」

  **  **  **  **

「まったく、勝手なことを言いやがる」
 すっかり暗くなった森の中で、ドレイクはぶつくさと文句を言いながら歩き続けていた。
 俺がお人好しや善人に見えるっていうのか?
 とはいえ他に泊まれる宛てがない以上、コリックの頼みを聞き入れるのも選択肢の一つには入るのだが…
「ゴブリン退治なんぞ悠長にやってたら、それこそ夜が明けちまうぜ」
 そうなれば夜を凌ぐための宿探しの結果としては本末転倒だ。
 しかし…
「南西の鉱山、と言ったか」
 ゴブリンの溜まり場と化している鉱山、およその見当はつく。
 そしていま、まさに、ドレイクの足は無意識のうちにその鉱山へと向かっているのだった。
『あなたのような人にしか頼めないのです!』
 脳裏にコリックの必死の言葉がリフレインし、ドレイクは苦々しい笑みを浮かべた。
「ああ、畜生。俺ってやつはまったく…」

  **  **  **  **

 やがて鉱山のすぐ近くまでやってきたドレイクは、見張りだろうか、二人のゴブリンが周辺をうろついているのを目撃する。
「…他に人影はなし、残りは鉱山の中だな」
 そうつぶやくと、カチリ、ドレイクはアカヴィリ刀の鍔を親指で持ち上げ、背の高い草の間を滑るように駆け出した!



 そして、一閃!
「醒走奇梓薙陀一刀流奥義、飛蜥蜴(トビカゲ)!」
 ザンッ、一瞬の閃撃でゴブリンたちは悲鳴を上げる間もなく息絶え、手にしていたロングソードがドサッという音を立てて地面に転がる。
 抜刀、斬撃、そして納刀までを陶磁器のようになめらかなワンアクションで行なったドレイクは、無残に斃れたゴブリンたちの死骸に目をくれることもなく(彼にとって相対者の生死は太刀を浴びせた瞬間に判断できるため、わざわざ目視で確認する必要はない)、そのまま鉱山の内部へと足を踏み入れた。

  **  **  **  **

 ザンッ、ドッ、ドサッ、ザグッ!



 鉱山内部に巣食っていたゴブリンたちは、不意の闖入者…ドレイクの手によって、瞬く間に物言わぬ屍へと姿を変えていた。
「一般人や、まあ…並の戦士なら、確かに苦戦するだろうな」
 そのドレイクの言葉は、他者への蔑みから出たものではない。
 多くの人間にとってゴブリンという存在は強敵に変わりなく、彼らを相手に命を落とした戦士は数知れない。苦戦したからといって、それを笑うのは命知らずか生粋の殺し屋のどちらかだ。
 ドレイクはどちらでもなかった、少なくとも本人はそう思っていた。自分はただ剣に長けていたがゆえに悲運に巻き込まれただけなのだ、と。

 やがて鉱山(どうやら銀の産出地であるらしかった)を捜索していたドレイクは、あるものを発見する。



「惨いな、こいつは…」
 そこにあったのは、薪木のかわりに燃やされた家財道具。そして炭化している「人間だったもの」。
 ゴブリンが人間を誘拐する理由については、有力な説はこれといって存在していなかった。餌として食べることはなかったし、労働力として使役することも、他の何かに役立てることもない。もちろん仲間に迎え入れることもない。ただ巣穴へ連れ込み、殺し、放置するのだ。
 たんなる余興、気晴らし、ちょっとしたお楽しみのためであると多くの者には信じられているが、真実は誰にもわからない。
 あるいは人間が身につけている金品を狙ったものという説もあったが、そうであれば金品だけを奪ってその場で殺せばいい話であり、わざわざ誘拐する必要はない。もっとも、そう判断するだけの知能がないからこそ「とりあえず誘拐するのだ」と論ずる学者もいたが。
 とにかく…ゴブリンの目的はどうあれ、事実は一つだ。
 ドレイクの目前の死体は、女物のドレスを着ていた。おそらくは標準的なヒューマノイド、ブレトンかインペリアル…ノルドではないだろう、それほどの立端はない。
 思えばコリックの妻の特徴については何一つ話を聞いていなかったが、おそらくこの死体がそうであろうということはなんとなく直感で理解できた。
 そっと手を伸ばし、ドレイクは彼女の死体の首から下がっているペンダントを取り上げる。焼けて潰れた、翡翠の埋め込まれた銀のアミュレットだ。
 コリックの妻は家にいたときに襲われたと言っていた。もし普段からこれを身につけていたとするなら、この死体がコリックの妻であるならこのアミュレットを見せればそれとわかるはずだ。

 さて、役目は終わった。
 ゴブリンもすべて片づけたところだし、農場へ戻るか…そうドレイクが思った矢先、すぐ近くで荒い吐息を立てる音が耳に飛び込んできた。



『ギェシシイイィィャャァァァァアアアアッッッ!!!』
「なにっ!?」
 ギイッッッィィィンン!
 突然の不意討ちに驚きながらも、ドレイクはその「一撃」をかわす。
 たったいま棍棒を振り下ろしたその動きは、明らかにいままで戦ったゴブリンと一線を画すもの。
「ほう…どうやら、おまえが親玉ってわけかい」
『クァッッッ、キシイイイィィィィ!』
 ドレイクと相対したゴブリンの親玉は鋭い牙を剥き出しにして威嚇し、ふたたびドレイクへ襲いかかる!
 一撃、二撃、三撃…
 相手の攻撃の一つ一つ、武器の振りのモーションを見極めながら、やがてドレイクのアカヴィリ刀が一閃する!





 ズジギャアッ!
『ア゛ア゛ッ…!?ガ、グガボガガアァ……』
 多彩な動きで撹乱し、いままさにドレイクを背後から叩きのめそうと飛びかかったゴブリンの親玉は、鼻上から顎下に向かって一直線に刺し貫かれていた。さらに、その鋭い切っ先は心の臓を捉えている。
 そのままドレイクはアカヴィリ刀を振り抜き、ザンッ、身体の上半分がべろりと裂かれたゴブリンの親玉の死体が無残に地面へ転がった。
「手向けだ。顔も名も知らん女のために…貴様は地獄へ落ちるがいい」
 そう言うと、ドレイクはゆっくりとアカヴィリ刀を鞘に戻し、鉱山を後にした。

  **  **  **  **



 外に出たときには既に日が昇りはじめており、あたり一帯は雪景色に変わっていた。
「おいおい、こんな場所に雪だと?ブルーマまではまだ距離があったと思うがな」
 焼け潰れた翡翠のアミュレットを手にぶら下げ、ドレイクは忌々しげにつぶやく。
「けっきょく夜が明けてるじゃねーか…このまま旅を続けたら身がもたんな。せめて昼過ぎまでベッドを貸してもらうか」
 ため息をつきながら、ドレイクはコリックが待つハルムズ・ファーリー農場へと向かった。

 農場へ戻ったとき、当然ながらコリックの姿は外にはなかった。
「早朝だし、雪だしな。中にいるか」
 そう言い、ドン、ドン、ドン、ドレイクはコリックが眠っている可能性を考え、やや強めに扉をノックする。しかし返事どころか、まるで反応がない。
 まさかここで待ちぼうけを喰らわせようってんじゃあないよな?
 うんざりしながらドレイクが扉の取っ手を掴んだとき、意外にも鍵はかかっていなかった。
 ギィ…



「コリック…」
 彼は眠っていた。
 胸の上下もなく。微動だにせず。ただ安らかな表情で。
 外傷はない、薬品を使ったのだろうか。ドレイクにわかっているのは、もう彼の目が醒めることはないだろうという、その確信だけだ。
 箪笥の上には金貨が詰まった袋と、そして一通の手紙が置かれていた。手紙は明らかに最近書かれたもの、おそらくは一日と経っていないだろうことがインクの乾き具合からわかる。
 ドレイクにはわかっていた。その手紙と、そして金貨の意味が。
 ドレイクは翡翠のアミュレットをコリックの胸の上に置き、手紙には手をつけず、金貨の詰まった袋を掴んだ。
 そして…



 ドレイクは右手で掴めるだけの金貨…戦士ギルドがゴブリン退治を請け負う標準的な報酬額…をポケットに入れると、残りを箪笥の上に残したまま、家の外へ出た。
 ブルーマへ向かう旅を続けるために。






2014/12/08 (Mon)16:48



 下調べ中になんとなく適当なポーズ取らせたら意外と絵になっていたので思わず写真撮影してしまった、そんなシェイディンハルの街中。おそらく本編では出番がないであろうMecha Foxさんとともに、後ろで見守っているのは改変形SSであるにも関わらず本編同様あえなく死を遂げたオルドス・オスランさん。



 どうも、グレアムです。ENB導入後の初エピソードであるミレニア10~11話、如何だったでしょうか。本当は一つに纏まってたんですが、投稿しようとしたら久しぶりにninjatoolsさんから「一記事あたりの文字数長すぎんよー」と言われたので分割しました。
 じつは地味にMOD環境も見直してます。これは以前、Franのバージョンアップしたときのついでなんですが、環境系のテクスチャをバニラに戻したり、あとHGECをOMOD化していた弊害(元からOMOD形態での配布だっけ?覚えてないや)で体型変えるたびにカジートのテクスチャバグ(というか体型に合ってないテクスチャがなぜか同梱されている)が再現されることに気づいてファイルをバラし、該当部分を削除したりだとか。
 でもってエフェクトマシマシのENB環境でも果敢に合成に挑戦してます。暗視装置のフィルタ、オルドスの首切断、麻痺薬の黄色い粉塵なんかですね。最初は難しいかとも思ったんですが、なんとかやれないこともないっぽいです。それとキャラやアイテムの位置をsetposで整えたりもしてるんで、それなりに手間かかってる感じで。

 ストーリー自体は、俺が復讐モノに思い入れがあるのもあって、いまさら手垢のつきまくった題材で正否がどうのと論じるのもアホくさいので、行動の正否の先にある人間性の追及みたいなのを目指してみました。
 要するに「納得はすべてに優先する」という話なんですが、正当性っていうのは容易に自己の行動に対する免罪符になってしまうのに対し、「自分の行いは間違っている」とわかりつつもそれを止められない、むしろ「間違っていても行動しなければ気が済まない」といった人間心理が存在することも確かなわけで。
 正論吐いたり過ちを否定するのは誰にでもできるんで、ちょっと違う角度で話を進めたいっていうのが、最近は常に自分の中にあります。たいてい、あまり上手く話に組み込めてないんですけど…そこは反省点です。





 で、えーまぁ、以前ニコニコに投稿した動画「【oblivion】シェイディンハルの衛兵がハゲの同僚に見つめられながらひたすら飯を食うだけの動画」における不具合吐いたのがこのときの画面写真撮影中だったわけです。
 以前の記事でも解説してますが、これはtaiでAIを停止させた状態でマップをリロードした際に起きた不具合です。再現性があるのかどうかはわかりませんが…こんなもん検証する気も起きないしなぁ。





 ゲームプレイ中、レヴァナの復讐を完遂させガルースから報酬を得るために時間を進めたところオーデンスの襲撃に遭った。そういえばなんだかんだ回避して殺してなかったなこのハゲ…
 でー何とはなしにpayfineを入力したらハゲが剣を下げた(敵対状態が解けた)罠。何度か試して、ステータス上は懸賞金がかかってなかったんですが、たぶんハゲが元衛兵だったことと関係してそのへんの処理がイベントで使われてるっぽい。なぜかプレイヤーが他の衛兵から敵対されることもあったり、このへんはバニラ準拠の挙動なのかMOD入れた弊害なのかはわかりませんけども。



 でーそのまま死体を残しておくと街の景観がかなりアレなことになるので、オーデンスのハゲ、汚職衛兵隊長オーリック、オルドス、そしてオルドスの家の前を見張っている衛兵(通常は不死属性ついてるのでコンソールからフラグ外してね)の死体を、いまは主人なきレヴァナ邸の中に放り込んでおいた。
 あとで必要になったらここから取り出せるって寸法よー。





 シェイディンハルの陽光がまぶしい…
 さて次は誰の話を書きましょうか。おそらく他の面子に比べて進行が遅れてるリアかミレニアになると思いますが。







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