主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
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2012/11/30 (Fri)07:28
パチ、パチンッ。
火のはぜる音にぼんやりと耳を傾けながら、3人組の兵士…戦士ギルドの闘士たちはうろんな時間を過ごしていた。
表情は疲れきり、鎧は傷だらけで酸化し、腰に下がっているはずの武器はない。
戦士の1人であるオークのブラグ・グロ=バルグは、憔悴しきった表情でつぶやいた。
「まさか、こんなことになるとは…」
その声につられて、他の2人がいっせいにため息をついた、そのとき。
ガラガラガラガラガラ。
洞窟の中にあって、車輪が回転するやかましい音が反響した。あまりの異音にコウモリが騒ぎ、ネズミたちが右往左往している。
やがて音が止まると、3人組の戦士たちの目の前に、積荷を満載した荷車を引いてやって来たちびのノルドが、肩を上下させながら登場した。
「…っ、ぜぇ、はぁっ、はぁっ、はぁあーーー……」
小柄な女性が、ゆうに3桁キロはあろうかという巨大な荷物を引いてきたというあまりに異様な光景に、3人組の戦士たちは思わず立ち上がり、呆気に取られた表情で彼女を見つめる。
「ど、どうも…シェイディンハルから来ました、アリシアです。皆さんに、その、救援物資を届けるよう任務を仰せつかりまして。けほっ、えー、その…間に合った感じですか?」
「驚いたね…」
息を切らせながらも、必死に状況を説明するちびのノルドを見つめながら、ブラグは感嘆の声を上げた。
ゴブリン戦争。
シロディールのゴブリンには無数の部族が存在しており、それぞれがシャーマンのミイラ化した頭部を加工して作った儀礼杖<ゴブリン・トーテム>を崇拝している。
ゴブリン・トーテムは権威の象徴であり、他の部族のトーテムを手に入れることは、すなわち相手のすべてを手に入れることに他ならない。多少の知性がありながらも原始的な欲求から行動するゴブリンたちは、つねに、敵対部族のトーテムを奪い取ろうと諍いを続けているのだ。
この、トーテムの奪い合いを俗に<ゴブリン戦争>と呼ぶ。
そしてゴブリン戦争は人間たちから非常に恐れられ、忌避されている。
たいていの場合、ゴブリンの部族同士の縄張りは一定の距離を保ちながら存続していることが多い。
しかし、ひとたび戦争が起きれば、部族の縄張りと縄張りを結ぶ直線上の土地はすべて灰燼に帰し、ゴブリンは目についたものすべてを破壊しながら目標まで直進していく。そして、その進行ルート上に人間の生活圏があることもまた、珍しいことではないのだ。
哀れゴブリン戦争に巻き込まれた人間はただ破壊と殺戮の饗宴を見守るしかなく、住処を破壊され、あらゆるものを奪われ、そして殺される。
殺されることなく逃げ出せたら僥倖だ。もっとも以後は、難民としてキャンプでの不自由な生活を強いられることになるだろうが。
「そんなわけで、ゴブリン戦争を集結させる方法は2つ。1つはトーテムを奪い去り、そもそもの争いの原因を取り除いてやること。そしてもう1つは…」
「すべてのゴブリンを根絶やしにすること。単純明快だけど、口で言うほど単純じゃないわよねぇ」
ちびのノルドから補給品を受け取り、新品の鎧と武器を手にした戦士たちは、口々に話し合った。
最初に口を開いたのが、ボズマー(ウッドエルフ)の剣士エリドア。そして2つ目の物騒な解決法を口にしたのが、レッドガードの弓使いリェンナ。
巨躯を活かしたハンマー使いのブラグは、補給品の一部である肉料理を一気にたいらげると、満面の笑みを浮かべた。
「ただまあ、ウチのボスはやる気みたいだがな。なんせギルド会員を総動員でゴブリンの巣窟を一層しようってんだ、よっぽどゴブリンどもの暴走が腹に据えかねたらしいな」
もともと、ゴブリン狩りは「戦士ギルドの稼業の一つ」と言ってしまえるくらい、活動内容としてはメジャーだ。ただし、これほどの大規模な総力戦となると、そうそうあることではない。
現在シェイディンハル周辺では4つのゴブリン部族が抗争を繰り広げており、それに伴う人間の生活圏への被害も尋常ではない。トーテムさえ奪えば戦争は終結するが、ゴブリン関係のトラブルの解決役を請け負う戦士ギルドに、トーテムだけ持ち去るなどという賢しい真似ができるはずもない。そういうのは盗賊ギルドの仕事だが、盗賊ギルドは端からゴブリンに関わることを拒否していた。
となれば、あとはもう、全面戦争しかない。
「さーてまあ、装備も新調した。久方ぶりの温かい食事も腹にたっぷり詰め込んだ。となりゃあ、あとは食後の運動ってのがセオリーだな?」
「ええ、そうね。いい加減に、この馬鹿騒ぎも終わらせなきゃ」
ギルドの戦士たちが、さっきまでとは比べ物にならないほど活き活きした表情で立ち上がる。
もとより彼らが困窮していたのは、戦闘が予想外に長引き(当初予想されていたよりも遥かに多くのゴブリンが潜伏していた)、物資が底をついたためである。酷使された武器は破損し、食料はなくなり、どうしようもなくなっていたところへちびのノルドが登場したわけだ。
「さてと、わたしも一暴れしたい気分です。行きましょうか」
3人の兵士が完全武装できるだけの装備と大量の雑貨を運んできたちびのノルドも、どこにそんな元気が隠れていたのか、ピンピンした様子でストレッチをはじめた。
「…ところで、アンタの分の武器は?まともな鎧も装備してないみたいだけど」
「あ、わたしには必要ないんです。ご心配なく」
「そ、そう?」
丸腰のまま戦場に向かおうとするちびのノルドにリェンナは遠慮がちに声をかけるが、当のちびのノルドはまったく意に介さない。
まるで自殺行為としか言いようがない脆弱な装備を見て、リェンナとエリドアは互いに顔を見合わせた。
「…アイツ、大丈夫なのかねぇ?」
「僕に聞かないでくれよ」
そこから先の展開は、まさに乱戦だった。
ゴブリン戦争に巻き込まれ、犠牲になった作業員の遺体が放置されたまま破棄された鉱山で、剣が、鎚が、矢が、そして拳が飛び交う!
「ヤァーーーッ!!」
叫び声とともに繰り出された拳が、ゴブリンの肉体を、骨格ごと破壊する。
ゴブリンとて雑魚ではない。常に争いを求める彼らの獰猛さ、闘争本能は恐るべきもので、連達を剣士でさえ油断をすれば命を危険に晒すこともある。
そういう相手の大群に身一つで立ち向かうちびのノルドの姿を見て、ギルドの戦士たちは言葉を失った。
彼女の一撃は剣のように鋭く、戦鎚のようにすべてを叩き潰し、矢のように装甲を貫く。
その技を繰り出す肉体はまさに全身凶器と呼ぶに相応しく、有象無象をちぎっては投げる無双ぶりは戦神タロスもかくやといった有り様である。
「クソッ、このままじゃ埒が明かんな!」
いくら倒しても沸くように出てくるゴブリンの軍団に辟易しながら、ハンマーの一薙ぎで周囲を一掃すると、ブラグはちびのノルドに向かって叫んだ。
「ここは俺たちが喰い止める、おまえは先に進んでトーテムを奪うんだ!」
「わ、わかりました!」
いきなり重要な仕事を任されたちびのノルドは多少狼狽しながらも、襲いかかってきたゴブリンの戦士の両腕を付け根から破壊し、鉱山の最奥へと続く道を急いだ。
『ムェーイ、グルルルルル…』
ようやく奥地まで辿り着くかと思われた矢先、意味不明な奇声とともに、装飾が施された司祭服に身を包んだゴブリンがちびのノルドの目前に立ち塞がった。
「ご、ゴブリン・シャーマン!?」
『ウルルルゥゥゥゥァァァアアア…!』
ドワーフ製の高級斧(いったいどこから略奪してきたのやら)を天に掲げたゴブリン・シャーマンの傍らに、首のない腐敗死体が出現する。もちろんただの死体ではない、強力な魔力によって支配された生きる屍、ゾンビだ。
恐れも、容赦も知らぬ地獄の尖兵がちびのノルドに襲いかかる!
見た目よりも遥かに力強く、素早く振るわれる爪はたいていのものを切り裂き、その爪によって傷をつけられた者に猛毒を感染させる。
しかし、そのことを知っていてもなおちびのノルドは冷静さを失わず、相手の動きを見極めようとする。
やがて大振りの一撃をすかして無防備になったゾンビの両膝を素早く踵で踏み抜き、ちびのノルドは相手の脚を破壊する!
身体を支えられなくなり、膝をついたゾンビの背後に素早く回ると、ちびのノルドは続けざまに強烈な肘を叩き込んだ!あえなくゾンビの背骨は砕かれ、腐った内臓が肋骨とともに胸の、腹の皮膚をつきやぶって飛び出し、地面に撒き散らかされる!
いかにゾンビといえど、ここまで酷く損壊してはもう戦うことはできない。
『グググ……ッ!』
悔しさと怒りで斧を握る手に白い筋を浮き立たせながら、ゴブリン・シャーマンは間髪いれずにちびのノルドに襲いかかる。
ゾンビを倒した直後、寸分の猶予も許さぬまさに直後ならば、斧の一撃で首を叩き切ることもできるはず。息を整える暇も、ターゲットを切り替える余裕も与えずに殺せる、そのゴブリン・シャーマンの思惑は、残念ながら外れた。
ビシュンッ!
弾丸が空気を切り裂いたような擦過音とともに強烈なハイキックが繰り出され、ゴブリン・シャーマンの握っていた斧がはじき飛ばされる!
『ビエッ!?』
予想外の一撃に狼狽するゴブリン・シャーマンの心臓目がけて、ちびのノルドはすかさず拳を突き出した!
フィニッシュ・ヒム!
心臓を完全破壊し、ゴブリン・シャーマンの息の根を完全に止めるちびのノルド。
しばらく痙攣したのちにゆっくりと倒れたゴブリン・シャーマンを一瞥し、ちびのノルドはふたたび先を急ぐことにした。
祭壇へと辿り着いたちびのノルドは、地面に突き立てられた趣味の悪い杖を手に取る。過去に命を落としたシャーマンの頭部を加工して造られた、多大な魔力を秘めた杖<ゴブリン・トーテム>。
「こんなものがあるから、争いがなくならないんだ…!」
ちびのノルドは嫌悪の感情を隠そうともせずにつぶやくと、杖の両端を握り、力を込めた。
バラバラに砕けるゴブリン・トーテムを見つめながら、ちびのノルドは「これでいいんだ」と思い……
「なにぃ、ぶっ壊しただと!?このバカッタレが!」
ズゴンッ!!
「~~~っぁ~~~~~…!」
すべてが終わり、シェイディンハルの戦士ギルドへと引き返したちびのノルドを待っていたのは、シェイディンハル支部長バーズ・グロ=カシュの罵声と、容赦のない拳骨だった。
「あれは魔術師ギルドが、喉から手が出るほど欲しがる貴重なマジック・アイテムなんだぞ、この馬鹿が!そもそも『奪うだけでいい』とブリーフィングで言った意味を少しでも考えなかったのか、テメェはよ!?」
「…ぅ、ぁう…ごめんなさぃ……」
どうやら、良かれと思ってやったことが裏目に出たようで、叱責を受けるちびのノルドは泣きながら謝るばかりである。
しかしバーズ・グロ=カシュの怒りは収まらないようで、なおも罵声を上げ続ける。
「まったく、元傭兵だからっつって雇ってみれば、とんだ役立たずだ!ノルドってのはみんな、お前みたいな筋肉だけが取り得の脳足りんなのか?それとも身体の小さいお前だけが特別に脳の容量が少ないのか?今回だけは特別に許してやるが、次に同じような間違いを仕出かしやがったら、木人に縛りつけて剣術の稽古台にしてやるからな、この短小め!」
そこまで一気にまくし立てると、バーズはぷいと背を向けてしまった。
しかしちびのノルドはどうしていいかわからず、しばらく床にぺたんと座ったままおろおろしていると、すぐに振り返ったバーズがちびのノルドを蹴り飛ばして事務所から叩き出してしまった。
「まだいたのか、このゴキブリ野郎!さっさと出て行け!」
廊下に突っ伏すちびのノルドを見下ろしながら、近くにいた戦士ギルドの兵士は「やれやれ」と肩をすくめた。
「アレも、けっこう気難しい性格だからなあ。ま、ご愁傷様」
誰も手を貸してくれないので、仕方なく自力で立ち上がったちびのノルドは、故郷スカイリムでの傭兵生活を思い出していた。そこでもちびのノルドは厄介者扱いされ、どれだけ戦果を上げても褒められず、些細なミス一つで激しく罵声を浴びせられたものだ。
元傭兵なら戦士ギルドが適職だ、というアドバイスを受け、はるばるシェイディンハル支部まで足を運んだちびのノルドだったが、いまではそのことを後悔しはじめていた。
[ to be continued... ]
火のはぜる音にぼんやりと耳を傾けながら、3人組の兵士…戦士ギルドの闘士たちはうろんな時間を過ごしていた。
表情は疲れきり、鎧は傷だらけで酸化し、腰に下がっているはずの武器はない。
戦士の1人であるオークのブラグ・グロ=バルグは、憔悴しきった表情でつぶやいた。
「まさか、こんなことになるとは…」
その声につられて、他の2人がいっせいにため息をついた、そのとき。
ガラガラガラガラガラ。
洞窟の中にあって、車輪が回転するやかましい音が反響した。あまりの異音にコウモリが騒ぎ、ネズミたちが右往左往している。
やがて音が止まると、3人組の戦士たちの目の前に、積荷を満載した荷車を引いてやって来たちびのノルドが、肩を上下させながら登場した。
「…っ、ぜぇ、はぁっ、はぁっ、はぁあーーー……」
小柄な女性が、ゆうに3桁キロはあろうかという巨大な荷物を引いてきたというあまりに異様な光景に、3人組の戦士たちは思わず立ち上がり、呆気に取られた表情で彼女を見つめる。
「ど、どうも…シェイディンハルから来ました、アリシアです。皆さんに、その、救援物資を届けるよう任務を仰せつかりまして。けほっ、えー、その…間に合った感じですか?」
「驚いたね…」
息を切らせながらも、必死に状況を説明するちびのノルドを見つめながら、ブラグは感嘆の声を上げた。
ゴブリン戦争。
シロディールのゴブリンには無数の部族が存在しており、それぞれがシャーマンのミイラ化した頭部を加工して作った儀礼杖<ゴブリン・トーテム>を崇拝している。
ゴブリン・トーテムは権威の象徴であり、他の部族のトーテムを手に入れることは、すなわち相手のすべてを手に入れることに他ならない。多少の知性がありながらも原始的な欲求から行動するゴブリンたちは、つねに、敵対部族のトーテムを奪い取ろうと諍いを続けているのだ。
この、トーテムの奪い合いを俗に<ゴブリン戦争>と呼ぶ。
そしてゴブリン戦争は人間たちから非常に恐れられ、忌避されている。
たいていの場合、ゴブリンの部族同士の縄張りは一定の距離を保ちながら存続していることが多い。
しかし、ひとたび戦争が起きれば、部族の縄張りと縄張りを結ぶ直線上の土地はすべて灰燼に帰し、ゴブリンは目についたものすべてを破壊しながら目標まで直進していく。そして、その進行ルート上に人間の生活圏があることもまた、珍しいことではないのだ。
哀れゴブリン戦争に巻き込まれた人間はただ破壊と殺戮の饗宴を見守るしかなく、住処を破壊され、あらゆるものを奪われ、そして殺される。
殺されることなく逃げ出せたら僥倖だ。もっとも以後は、難民としてキャンプでの不自由な生活を強いられることになるだろうが。
「そんなわけで、ゴブリン戦争を集結させる方法は2つ。1つはトーテムを奪い去り、そもそもの争いの原因を取り除いてやること。そしてもう1つは…」
「すべてのゴブリンを根絶やしにすること。単純明快だけど、口で言うほど単純じゃないわよねぇ」
ちびのノルドから補給品を受け取り、新品の鎧と武器を手にした戦士たちは、口々に話し合った。
最初に口を開いたのが、ボズマー(ウッドエルフ)の剣士エリドア。そして2つ目の物騒な解決法を口にしたのが、レッドガードの弓使いリェンナ。
巨躯を活かしたハンマー使いのブラグは、補給品の一部である肉料理を一気にたいらげると、満面の笑みを浮かべた。
「ただまあ、ウチのボスはやる気みたいだがな。なんせギルド会員を総動員でゴブリンの巣窟を一層しようってんだ、よっぽどゴブリンどもの暴走が腹に据えかねたらしいな」
もともと、ゴブリン狩りは「戦士ギルドの稼業の一つ」と言ってしまえるくらい、活動内容としてはメジャーだ。ただし、これほどの大規模な総力戦となると、そうそうあることではない。
現在シェイディンハル周辺では4つのゴブリン部族が抗争を繰り広げており、それに伴う人間の生活圏への被害も尋常ではない。トーテムさえ奪えば戦争は終結するが、ゴブリン関係のトラブルの解決役を請け負う戦士ギルドに、トーテムだけ持ち去るなどという賢しい真似ができるはずもない。そういうのは盗賊ギルドの仕事だが、盗賊ギルドは端からゴブリンに関わることを拒否していた。
となれば、あとはもう、全面戦争しかない。
「さーてまあ、装備も新調した。久方ぶりの温かい食事も腹にたっぷり詰め込んだ。となりゃあ、あとは食後の運動ってのがセオリーだな?」
「ええ、そうね。いい加減に、この馬鹿騒ぎも終わらせなきゃ」
ギルドの戦士たちが、さっきまでとは比べ物にならないほど活き活きした表情で立ち上がる。
もとより彼らが困窮していたのは、戦闘が予想外に長引き(当初予想されていたよりも遥かに多くのゴブリンが潜伏していた)、物資が底をついたためである。酷使された武器は破損し、食料はなくなり、どうしようもなくなっていたところへちびのノルドが登場したわけだ。
「さてと、わたしも一暴れしたい気分です。行きましょうか」
3人の兵士が完全武装できるだけの装備と大量の雑貨を運んできたちびのノルドも、どこにそんな元気が隠れていたのか、ピンピンした様子でストレッチをはじめた。
「…ところで、アンタの分の武器は?まともな鎧も装備してないみたいだけど」
「あ、わたしには必要ないんです。ご心配なく」
「そ、そう?」
丸腰のまま戦場に向かおうとするちびのノルドにリェンナは遠慮がちに声をかけるが、当のちびのノルドはまったく意に介さない。
まるで自殺行為としか言いようがない脆弱な装備を見て、リェンナとエリドアは互いに顔を見合わせた。
「…アイツ、大丈夫なのかねぇ?」
「僕に聞かないでくれよ」
そこから先の展開は、まさに乱戦だった。
ゴブリン戦争に巻き込まれ、犠牲になった作業員の遺体が放置されたまま破棄された鉱山で、剣が、鎚が、矢が、そして拳が飛び交う!
「ヤァーーーッ!!」
叫び声とともに繰り出された拳が、ゴブリンの肉体を、骨格ごと破壊する。
ゴブリンとて雑魚ではない。常に争いを求める彼らの獰猛さ、闘争本能は恐るべきもので、連達を剣士でさえ油断をすれば命を危険に晒すこともある。
そういう相手の大群に身一つで立ち向かうちびのノルドの姿を見て、ギルドの戦士たちは言葉を失った。
彼女の一撃は剣のように鋭く、戦鎚のようにすべてを叩き潰し、矢のように装甲を貫く。
その技を繰り出す肉体はまさに全身凶器と呼ぶに相応しく、有象無象をちぎっては投げる無双ぶりは戦神タロスもかくやといった有り様である。
「クソッ、このままじゃ埒が明かんな!」
いくら倒しても沸くように出てくるゴブリンの軍団に辟易しながら、ハンマーの一薙ぎで周囲を一掃すると、ブラグはちびのノルドに向かって叫んだ。
「ここは俺たちが喰い止める、おまえは先に進んでトーテムを奪うんだ!」
「わ、わかりました!」
いきなり重要な仕事を任されたちびのノルドは多少狼狽しながらも、襲いかかってきたゴブリンの戦士の両腕を付け根から破壊し、鉱山の最奥へと続く道を急いだ。
『ムェーイ、グルルルルル…』
ようやく奥地まで辿り着くかと思われた矢先、意味不明な奇声とともに、装飾が施された司祭服に身を包んだゴブリンがちびのノルドの目前に立ち塞がった。
「ご、ゴブリン・シャーマン!?」
『ウルルルゥゥゥゥァァァアアア…!』
ドワーフ製の高級斧(いったいどこから略奪してきたのやら)を天に掲げたゴブリン・シャーマンの傍らに、首のない腐敗死体が出現する。もちろんただの死体ではない、強力な魔力によって支配された生きる屍、ゾンビだ。
恐れも、容赦も知らぬ地獄の尖兵がちびのノルドに襲いかかる!
見た目よりも遥かに力強く、素早く振るわれる爪はたいていのものを切り裂き、その爪によって傷をつけられた者に猛毒を感染させる。
しかし、そのことを知っていてもなおちびのノルドは冷静さを失わず、相手の動きを見極めようとする。
やがて大振りの一撃をすかして無防備になったゾンビの両膝を素早く踵で踏み抜き、ちびのノルドは相手の脚を破壊する!
身体を支えられなくなり、膝をついたゾンビの背後に素早く回ると、ちびのノルドは続けざまに強烈な肘を叩き込んだ!あえなくゾンビの背骨は砕かれ、腐った内臓が肋骨とともに胸の、腹の皮膚をつきやぶって飛び出し、地面に撒き散らかされる!
いかにゾンビといえど、ここまで酷く損壊してはもう戦うことはできない。
『グググ……ッ!』
悔しさと怒りで斧を握る手に白い筋を浮き立たせながら、ゴブリン・シャーマンは間髪いれずにちびのノルドに襲いかかる。
ゾンビを倒した直後、寸分の猶予も許さぬまさに直後ならば、斧の一撃で首を叩き切ることもできるはず。息を整える暇も、ターゲットを切り替える余裕も与えずに殺せる、そのゴブリン・シャーマンの思惑は、残念ながら外れた。
ビシュンッ!
弾丸が空気を切り裂いたような擦過音とともに強烈なハイキックが繰り出され、ゴブリン・シャーマンの握っていた斧がはじき飛ばされる!
『ビエッ!?』
予想外の一撃に狼狽するゴブリン・シャーマンの心臓目がけて、ちびのノルドはすかさず拳を突き出した!
フィニッシュ・ヒム!
心臓を完全破壊し、ゴブリン・シャーマンの息の根を完全に止めるちびのノルド。
しばらく痙攣したのちにゆっくりと倒れたゴブリン・シャーマンを一瞥し、ちびのノルドはふたたび先を急ぐことにした。
祭壇へと辿り着いたちびのノルドは、地面に突き立てられた趣味の悪い杖を手に取る。過去に命を落としたシャーマンの頭部を加工して造られた、多大な魔力を秘めた杖<ゴブリン・トーテム>。
「こんなものがあるから、争いがなくならないんだ…!」
ちびのノルドは嫌悪の感情を隠そうともせずにつぶやくと、杖の両端を握り、力を込めた。
バラバラに砕けるゴブリン・トーテムを見つめながら、ちびのノルドは「これでいいんだ」と思い……
「なにぃ、ぶっ壊しただと!?このバカッタレが!」
ズゴンッ!!
「~~~っぁ~~~~~…!」
すべてが終わり、シェイディンハルの戦士ギルドへと引き返したちびのノルドを待っていたのは、シェイディンハル支部長バーズ・グロ=カシュの罵声と、容赦のない拳骨だった。
「あれは魔術師ギルドが、喉から手が出るほど欲しがる貴重なマジック・アイテムなんだぞ、この馬鹿が!そもそも『奪うだけでいい』とブリーフィングで言った意味を少しでも考えなかったのか、テメェはよ!?」
「…ぅ、ぁう…ごめんなさぃ……」
どうやら、良かれと思ってやったことが裏目に出たようで、叱責を受けるちびのノルドは泣きながら謝るばかりである。
しかしバーズ・グロ=カシュの怒りは収まらないようで、なおも罵声を上げ続ける。
「まったく、元傭兵だからっつって雇ってみれば、とんだ役立たずだ!ノルドってのはみんな、お前みたいな筋肉だけが取り得の脳足りんなのか?それとも身体の小さいお前だけが特別に脳の容量が少ないのか?今回だけは特別に許してやるが、次に同じような間違いを仕出かしやがったら、木人に縛りつけて剣術の稽古台にしてやるからな、この短小め!」
そこまで一気にまくし立てると、バーズはぷいと背を向けてしまった。
しかしちびのノルドはどうしていいかわからず、しばらく床にぺたんと座ったままおろおろしていると、すぐに振り返ったバーズがちびのノルドを蹴り飛ばして事務所から叩き出してしまった。
「まだいたのか、このゴキブリ野郎!さっさと出て行け!」
廊下に突っ伏すちびのノルドを見下ろしながら、近くにいた戦士ギルドの兵士は「やれやれ」と肩をすくめた。
「アレも、けっこう気難しい性格だからなあ。ま、ご愁傷様」
誰も手を貸してくれないので、仕方なく自力で立ち上がったちびのノルドは、故郷スカイリムでの傭兵生活を思い出していた。そこでもちびのノルドは厄介者扱いされ、どれだけ戦果を上げても褒められず、些細なミス一つで激しく罵声を浴びせられたものだ。
元傭兵なら戦士ギルドが適職だ、というアドバイスを受け、はるばるシェイディンハル支部まで足を運んだちびのノルドだったが、いまではそのことを後悔しはじめていた。
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