主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2011/12/18 (Sun)12:09
「これが行方不明者の末路、ですか」
古代アイレイドの遺跡の一つヴィルバーリンの奥地へと足を踏み入れたちびのノルド。彼女が目にしたのは、祭壇の上で命を絶たれた野盗構成員の姿だった。
頭領の手記に「逃げ出した」と断じられた構成員に間違いはないだろう。
これが霊的な力によって成されたものなのか、それとも人為的な所業なのか?現時点ではあまりに判断材料に乏しい。
カキッ。
「…… …… ……?」
そのとき、ちびのノルドの耳に乾いた音が飛び込んできた。振り向くと、そこにはぼろぼろに擦り切れた盾とひび割れた斧で武装した骸骨の姿があった。
それを目にしたときのちびのノルドの反応は、恐怖ではなく安堵だった。
「ああ、貴方で良かったです。わたし、ユーレイは苦手なので」
遺跡にアンデッド・モンスターが徘徊している、という話は小耳に挟んだことがある。その中でも魔術的な力を行使し、物理攻撃では一切の手傷を負わせることができないゴーストは冒険者にとって脅威の存在だ。
一方スケルトンは恐怖も動揺もせず無感情に襲い掛かってくるという点では恐怖の対象だが、その攻撃はあくまで物質的なものだ。そしてスケルトンは、物質的な攻撃での破壊が可能である。
「シャアアアァァァァァッ!」
声帯もなしにどうやって発声しているのかわからない、奇妙な声を立てながら斧を振りかぶるスケルトン。その動きに合わせるように、ちびのノルドは飛び蹴りを叩き込んだ。
スケルトンの身体が四散し、ボールのように吹っ飛んだ頭蓋骨が壁に激突して砕ける。
「…ん。あまり上位のガイコツさんじゃありませんね。ちょっと拍子抜けです」
着地と同時に、余裕の態度を見せるちびのノルド。
しかし落下した斧が立てた「ガラン」という甲高い音に呼応するかのように、周囲から続々と新手のスケルトンが集結しつつあった。
「犯罪者よりも後腐れのない相手に手加減なんかしませんよ?」
ちびのノルドは屈んだ姿勢から、素早い跳躍と同時にスケルトンの軍団を蹂躙していく。
集団相手の組み手に慣れたちびのノルドにとって、単調な攻撃しか仕掛けてこないスケルトンなど何体いようが同じことだった。まして閉鎖空間での戦闘となれば、ちびのノルドの独壇場である。
鍵のかかった扉の錠前を破壊し、前進する。
壁に奇妙な裂け目のできた通路を抜けると、そこには奇妙な彫像を祀っている祭壇があった。
「…なんでしょうか?これ……」
ちびのノルドが彫像に手を伸ばした、そのとき。
キイィッン!
身を引くつい一瞬前までちびのノルドの腕があった空間を、白刃が斬り裂く。
「!?なっ…?」
「その彫像は、お前さんには価値のない代物だ。大人しく渡してもらおうか」
いままで一体どこにいたのか、欠片も相手の気配が読めなかったことにちびのノルドは焦りを感じる。爬虫類の冷たい瞳が、ちびのノルドを見据えた…アルゴニアン、シロディールの南方ブラックマーシュを故郷とする蜥蜴人間だ。
「いきなり斬りかかることはないじゃないですか」
「性分ってやつだ。生殺与奪に逡巡はしない主義でね」
「じゃあ、わたしが貴方を殺しても文句はない…ですよね?」
仮面の奥のちびのノルドの瞳が、きゅっときつく絞られる。
いきなり剣を振るわれ、あまつさえ殺す気だったことを平然と告白されて気分を害さないほどちびのノルドはお人好しではない。
「ふんっ!」
「シャッ!」
互いの拳と剣が交錯し、火花を散らす。
おまけに祭壇に続く通路にはアイレイドの仕掛け罠が作動しており、裂け目のように走った壁面の隙間から巨大な刃物が振り子のように揺れていた。迂闊に逃げようものなら、刃物に真っ二つにされかねない。
ちびのノルドが相手にしているアルゴニアンは明らかに手練だった。
この狭い空間で、刀身の長い刃物を平然と振り回している。まるで壁がないかのように、その動きが鈍ることはない。もちろん、剣を壁にぶつけるといったミスは犯さない。
おまけにこの剣、古代アカヴィリで用いられていた「カタナ」なる代物は、恐ろしく切れ味が鋭かった。斬撃を受け流していたガントレットの装飾部分が、飴細工のように削り取られていく。
互いに譲ることなく続いていた戦闘を中断させたのは、以外にもアルゴニアンの剣士からの一言だった。
「オーケイ、お前さんの実力はよくわかった。これ以上はどう転んでも殺し合いにしかならなそうだな、それは俺にとっても面白くねぇ。適当なところで手打ちにしないか?」
「いまさらな提案ですね」
「いまだからこそ、さ。俺にとっちゃ、この仕事はたんなる小遣い稼ぎだ。もちろん義理立てもあるが、命を賭けるほどじゃねえ。お前さんはどうだい?」
「…まぁ、死んでまでやるようなことじゃないですね」
「だろ?だったら馬鹿げてる、こんな死合いはな」
アルゴニアンの剣士はカタナを納めると、いつの間にか手にしていた彫像を見せて言った。
「俺はとある学者先生に頼まれてこいつを探してる、なんでも価値のある古代アイレイドの遺物だそうだ。で、お前さんは?なんでこんなところにいる?」
「…この遺跡を根城にしている野盗集団を殲滅しに。ついでに、この遺跡にまつわる怪談話の解明を」
「そんな理由でこんな奥地まで来たのか?ただまあ、あんたの目的についちゃあ俺が協力できそうだな」
「と、言いますと」
「わかると思うが、俺はお前さんとは別のルートからここまで来た。野盗連中と揉め事を起こす気はなかったんでね…俺が来た道を辿るといい。途中に昔からこの遺跡に居ついてたらしい大馬鹿野郎の死体がある、そいつを調べるといいだろう。きっと、お前さんの探してた答えが見つかるはずだ」
そこまで言うと、アルゴニアンの剣士は踵を返した。
「これでイーブン、てことにしないか?それが懸命な判断ってやつだぜ」
「どうでもいいですけど、ここまで来て別行動を取ることもないんじゃないですか」
「馬鹿言え、仮にも一度剣を交えた身だぞ。そうそうすぐに仲良く帰るまでが遠足、てぇワケにはいかんだろ。お前さんは俺の来た道を、俺はお前さんの来た道を辿る、そうすりゃ別々にこの遺跡から出られる、後腐れなく。まぁ名前くらいは聞いてやらんでもないが」
「…アリシアです。アリシア・ストーンウェル」
ちびの、と言いかけ、ここで不名誉な渾名を教えることもないだろうとちびのノルドは本名を名乗る。傭兵であるからにはそれはそれでまずかったが、こと名前に関連する事項となるとちびのノルドは途端に頭が回らなくなるのだった。
そんなちびのノルドの葛藤など知るはずもないアルゴニアンの剣士は、彼女の名乗りをごく素直に受け取ると、自らも名を明かした。
「俺はドレイクだ。縁がありゃあまた会えるだろ、もちろん敵同士でないことを望みたいもんだが」
「同感です」
まったく感慨を見せずアイレイドの仕掛け罠を避けていくドレイクの背中を見送ってから、ちびのノルドも先へ進むことにした。
ドレイクが来た道を辿ると、そこには漆黒のローブを着た男の死体があった。祭壇の上で、両断された肉体が照明に晒されている。
まだ肉体が温かいところを見ると、この死体はドレイクがこさえたものに間違いなさそうだった。どういった経緯で交戦に至ったのかは定かではないが…それにしても鮮やかな手並みだ。杖を抜く間もなく両断されている。傷の入り具合からいって、不意打ちをかけたわけでもなさそうである。
男のローブに刺繍された骸骨の紋様は、着用者が死霊術師であることを意味するものだ。
現在タムリエルにおいて死霊術は外法として扱われ、死霊術師は魔術師ギルドから追放処分を受けている。もちろんギルド以外のあらゆる組織からも追求を受けており、その信奉者や研究は地下に潜っているというのが内情だった。
どうやらこの男、ジャルバートというらしい、名前などどうでもいいが…彼はレッドガードの故郷であるハンマーフェルから死霊術師という生業ゆえの訴追を免れるためこの地まで逃亡してきたらしい。
ジャルバートの手記には、故郷の友人に向けたらしいメッセージが読み取れる。
「…死人の自分語りなど、見たくもない」
ちびのノルドは嫌悪感を顕わにしながらも、ジャルバートの手記を手にする。これがあれば遺跡のオカルト騒ぎの原因が何か、野盗を生け贄にスケルトンを使役していたのが誰かが白日のもとに晒されるはずだ。
遠来の旅人の亡骸を一瞥すると、ちびのノルドは出口に向かって歩きはじめた。
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