主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2016/03/27 (Sun)03:27
俺の名はアーケイド、アルゴニアンの商人だ。
殺された前ギルドマスターのガルスと縁のある魔術師エンシルを探してウィンターホールドまで来た俺は、ちょっとしたきっかけがもとで、相棒の戦士ボルガクに自分の過去を語って聞かせていた。
不遇な幼少期を経て、ギルドに属さない一匹狼の盗賊になった俺が、ある男と出会ったところから話は続く…
ギャンブルには自信があり、しかもその日の夜はツイてたこともあって、俺は誰にも負ける気はしなかった。事実、その男に会うまで俺は誰にも負けてなかったんだ。
だが…俺は負けた。コテンパンにやられた。もちろん手は抜かなかった、金のかかった賭け事で舐めプをするやつなんかいない。しまいにはイカサマにまで手を出したが、バレるどころか、イカサマは完璧に成功したのに勝てなかった。これほどの屈辱はない。
「ちくしょう、たいした豪運の持ち主だぜ…俺もちったぁ腕に覚えがあったんだがね」
「兄(にぃ)さんネ、博打にクセなんかつけちゃダメだよ?隠しちゃいるけど、(選択肢が)五分のときに手クセが出るのは良くないね。ま、サマの仕込みはなかなか上手かったけどさ」
「…ッ!!おまえっ、気づいてたのか!?なんであの場でバラそうとしなかった」
「んー、いや…勝てると思ったからね。あのままでも」
「この野郎~…」
「せっかく知り合ったんだし、一緒に酒でも飲みましょうよ」
「おめーに毟られて金なんか残ってねぇよ」
「あっはっはっ、空の財布に穴空けさすような真似させませんって!奢りますから、ネ?」
男の名はエイド・スターム。ブラックマーシュ北部一帯の建設業を仕切る貴族の三男として生まれたが、生来の遊び癖ゆえ父親に勘当され、いまではギデオンを根城に日々賭博に興じる放蕩者だった。
最初その話を聞いたとき、俺は「虫の好かんヤツだ」と思った。金持ちの家に生まれ、毎日遊んで暮らしているお坊ちゃんを、裏路地でドブネズミのように生きてきた俺がどうして好きになれようか。
ただ俺のそんな思いとは裏腹に、どういうわけかエイドは最初に会った日から間もなく俺につきまとうようになっていた。
「なんで俺についてくるんだよ…」
「兄さん、ギャンブラーじゃないでしょ?器用なところや手遣いはよく似てるけど、でも、違う。金持ちじゃないのに日中働いてるようにも見えないし、でもあの日はたいした額を持ち歩いてたね」
「何が言いたい」
「あんまり、まっとうな商売(シノギ)じゃないんじゃないの?あーいや、通報する気なんかないよ。ただ、僕も手伝えないかなー、なんて思ってさ。兄さんと一緒に仕事がしたいんだ」
「バカ言うなよ。それにおめーはギャンブルで食っていけるじゃねーか」
「それなんだけどさ、僕、あんまり生活のために打ちたくはないんだよね。あくまでもギャンブルは趣味さ。金が欲しいわけじゃない、ただ賭けが好きなんだ。それに、金のために打つようになると勘が鈍るし」
「贅沢なこと言ってんじゃねーよこのドラ息子めがー!」
そんなやり取りが何度続いただろうか。
どうやら俺に懐いちまったらしいエイド(後で知ったが俺より二つ年下だった)はたびたび熱心に俺を口説き、酒を奢った。
厄介なのに目をつけられたな、と思った俺はすぐ別の街へ移ろうかと思ったが、何度かエイドと話をするうち、俺もヤツのことが気に入ってしまった。
まずエイドが勘当されたってのはかなり真面目な話で、ヤツは無一文で家から放り出され、以後は一切の援助を受けないまま賭博の腕だけで生活してきたという。エイドはそのことをまったく気にしていなかった。
「好き勝手に生きたい、と言ったら追い出されたんだよ。だからいま、好き勝手に生きてる。まあ、そのことで誰も損はしてないから、いいんじゃないかな?」と、そう言った。
ヤツは貴族の生まれだったが、貴族らしいところは微塵もなかった。傲慢だったり潔癖なところはなく、誰に対しても愛想良く話しかけ、風呂になんか入ったこともない連中がたむろする汚い賭場にも平気で出入りし、そしてケチなところがなく、金遣いが豪快だった。
エイドはギャンブルで負けたことがなかった。いつも大勝ちし、他の面子から大金を巻き上げていた。それでもヤツを嫌う人間がいなかったのは、エイドは賭けで勝った金をその場で全部使っちまうからなんだ。店の客全員に酒を奢り、従業員にチップをはずみ、みんなが楽しく夜を過ごせることを何より嬉しく思う、そんな粋な大バカ野郎だった。
エイドのギャンブルの腕は本物だった。豪運の持ち主というだけじゃなく、ゲームのルールやセオリーをすべて熟知し、巧緻に長け、カンが冴えていた。イカサマだけは絶対にやらなかったが、イカサマを使ってもあいつに勝てるやつなんていなかった。それは俺が一番良く知ってる。
ヤツの奇特なところは、宵越しの金は持ちたがらない点だ。それがエイドの信条で、それこそが勝ち続ける秘訣だとヤツは本気で信じてたよ。
「派手に金を使って、次の日に目を醒まして、後悔するんだ。あの金があれば、まともに投資すれば一生遊んで暮らせたのにってね。毎回全部使わず、ちょっとでも貯金を続ければ相当な額が残るはずなのにってね。そうやって後悔しながら安くてまずい朝食を食べるのが好きなんだよ。ああ、ちょっとでも勝った金を残しておけば、もっと良い物が食べれたのにってね。そうやって後悔するまでが僕にとってのギャンブルなんだ。それが好きなんだよ。もちろん、本気で後悔したことなんてないね」こんなこと、マトモな人間に言える台詞じゃないだろ?
一つだけ確かなのは、エイドには邪念ってヤツが一切ないってことだ。他人を傷つけたり、騙したり、利用するなんてことは考えようともしないのさ。そういうところを、俺はかなり気に入っちまった。
わかった、じゃあなんか二人でやれる仕事を探そう、俺はそう言ったよ。
エイドを盗賊稼業の相棒にする気はなかった。いままで一人でやってきたことを二人でやったところで、面倒しか増えないからな。だから二人でやるのに最適な仕事を俺は探すことにしたんだ。
それにはまずエイドが得意なことを見つける必要があった、もちろんギャンブル以外でだ。あれこれ試しにやらせたところ、元から手先が器用だったからか、鍵開けに天才的な腕前を発揮した。盗賊の俺より早く正確だったほどだ。
それでエイドとツルむようになって一年くらい過ぎたころ、俺は「倉庫破り」なら二人でできるんじゃないか、と提案した。エイドもそれに賛成したよ。もっとも、よっぽど無茶なことを言わない限りエイドは俺の言うことを聞いてくれたんだが。
倉庫破りの手順はこうだ。もちろん実行は深夜、人通りの少ない時間を狙って行う。
まず倉庫を見張ってる夜警の目を盗む必要がある。俺たちは実行前の二、三日ほどを見張りに徹し、休憩や交替の時間を割り出してから、その隙を突いて素早く行動した。これが、たとえば盗賊ギルドの連中なら夜警を買収するし、荒っぽいやつなら手っ取り早く始末しちまう。ただ、それらは俺たちの流儀には合わなかった。
夜警が目を離してるうちにエイドが鍵を開け、倉庫内に侵入。素早く品定めをし、狙った商品を盗んで脱出。あらかじめ用意しておいた荷車に乗せたら、あとは誰にも見られないことを祈りながら逃げる。
倉庫破りにはバランス感覚が求められる。なんてったって、倉庫には俺たちに盗んでほしがってる商品が山と積まれてるのに、たった二人で運べる量なんてたかが知れてるからな。
もちろん人数を増やせば一回の仕事で得られる利益も増えるが、それだけトラブルが起きる可能性も高くなる。
「なあ、もう一箱くらいいいだろ?」誰かがそう言い出したら、そのチームの終わりは近いと見て間違いない。たった一人が欲をかいたせいでヘマをやらかすチームの多さときたらないぜ?
その点で言えば、俺とエイドの関係は極めて良好だった。二人とも金に無心してたわけじゃないからな。犯罪者に金銭トラブルはつきものだが、俺たちはそういうのとは無縁だった。
また俺たちは盗んだ商品を保管するための倉庫と、事務所も設立した。「アーク・ビル&エイド・スターム商会」は表向きは潰れた商店の倉庫から流れたデッドストック品を扱うアウトレット業者で、怪しまれないよう実際にそういう仕事をしたこともあるが、ほとんどは倉庫破りで盗んだものを訳あり商品と称して売り捌いていた。
もとがタダで手に入れたようなものだから、格安で売っても利益は出るんだが、何も考えずに右から左へ流すだけじゃあ脳がないし、下手に安売りして怪しまれたら元も子もない。
だから俺はまず扱う商品の相場や販路を調べ、時期や場所による売れ筋の変化を調べて値段をつけるようにした。また取引先との関係を大事にし、怪しい故売品業者ではなく、まっとうなビジネスパートナーとして認めてもらえるように努力した。毎日が勉強だったよ。
アーク・ビル&エイド・スターム商会という名前は長いってんで、大抵の顧客はアーク&エイド( Ark & Ade )商会、もっと酷くなるとアーケイド商会なんて呼ぶようになってたな。ま、そういうことだ。
また本来、倉庫破りは盗賊ギルドの領分だから、今回ばかりは盗賊ギルドの許可を得ないわけにはいかなかった。さすがに一人でコソコソ他人の家から宝石一つ二つ持ち出すのとはワケが違うからな。連中は物乞いを情報屋として利用し、俺もガキの頃に使いっ走りをやったことが何度かあったから、連絡の取り方は心得てた。
けっきょく許可を得るのに売り上げの七割を上納金として払う破目になったが、それでも上納金の値上げと接待は無しって条件だけは飲ませたから、まあそう悪いもんでもない。なにより衛兵に嗅ぎつけられるだけでも厄介なのに、盗賊ギルドに狙われる心配までしたくなかったよ。上納金さえ払えば、逆にギルドからは保護されるわけだからな。
しばらく商売を続けて軌道に乗ったあたりで、俺たちがいつも利用する飯屋に盗賊ギルドの監視が混じってることに気づいた。俺たちが上納金を誤魔化そうとしてないかどうか見張ってたんだな。俺にとってはチャンスだった。
俺はそいつを引き込み、月に金貨50枚払うから、ギルドへは本来の売り上げの五割の額を報告しろ、と提案した。そいつは新入りのギルド員で、組織の忠誠心が厚いというより嘘がばれたときの処分が怖いっていう有様だったから、俺はちょっとしたレクチュアをしてやらなけりゃならなかった。
「一つ確認しておきたいが、お前以外のメンバーが似たような手口で金を受け取ってないと思うか?なんでギルドが保護下の商店に法外な上納金を吹っかけると思う?それは金額が誤魔化されることを最初から計算に入れてるからさ。そうすれば相場通りの金額に加えて部下が小遣い銭を稼げるって寸法さ。もちろん、ギルドにとって一番好ましい商売相手は上納金を満額払うマヌケ野郎だが」そう言ったら簡単に落ちたよ。
そういう、ちょっとしたヤンチャ以外じゃあ極めて慎重に仕事を続けてたんだが、裏の仕事ってのはなかなか長続きしないもんでね。
四年後、俺とエイドは仕事中に待ち伏せを受けた。
べつに油断したわけじゃない。仕事を甘く見てたわけでも、ヘマをしたわけでもない。ただ四年間仕事を続けてきて、俺たちの悪事を嗅ぎつけて罠に嵌めようとするやつがいるってことまでは考えなかった。
それにしたって、泥棒を罠に嵌めるならわざと警備を手薄にするとか、簡単な獲物、カモだと思わせて誘い込むのが常套手段ってもんだ。だから、そういう嵌め手は勘の良いヴェテランなら「クサい」と気づいて手を引くし、俺だって身の危険を感じて中止しただろう。
だがそのときは違った。警備なんか普段より厳重だったほどだ。エイドも普段より鍵開けに苦戦し、ようやく侵入して品定めをしているときに、待ち伏せしていた連中に襲いかかられたんだ。
それでも俺はなんとか逃げることができた。だが屋根から屋根へ飛び移る盗賊だった俺とは違い、鍵開けが得意なギャンブラーでしかないエイドが武装した私兵集団の手を逃れることは不可能だった。そして…連中の本命は俺じゃなくエイドだったんだ。
待ち伏せしていたのはスターム卿…エイドの親父さんと、彼が雇った傭兵だった。
息子を勘当してからも秘密裏にその動向を監視し続けていたスターム卿は、俺たちが新しく始めた商売についての調査を進めていた。盗賊ギルドともコネがあって、俺たちがギルドから特別な許可を得て商売をしていることを探り当てたんだ。倉庫破りの情報はギルドから漏れたんだよ。衛兵よりも手が早かったわけだ、まったく。
放蕩息子がただの遊び人ではなく犯罪者だと知ったスターム卿は身内の恥を処理するため、衛兵には手出しをさせず、盗賊ギルドも黙らせて俺たちを自分の手で捕まえようとした。
さて…スターム卿はエイドをどうしたと思う?
犯罪者として一族の名に泥を塗ったろくでなしを、さんざん怒鳴りつけて、大馬鹿者と罵り、それでも血の繋がった親子には変わりないから、最後には許してやったと、そう思うかい?
俺はそう思ったよ。そうであればいいと思ってたよ。所詮は金持ち貴族の余興、一族の人間をそうそう粗末に扱うはずがないと、そう思ってたよ。
沼地で裸のまま両手を後ろに縛られ、頭に黒い頭巾をかぶせられて首を吊られたエイドの死体を見るまではな。
エイドは処刑された。それも、残酷な方法で。
スターム卿はたとえ身内であっても、犯罪者には容赦しないと証明したんだ。そうやって一族の名誉を守ったんだ。
決して、楽しんで処刑したわけじゃない。喜んで厄介払いをしたわけじゃない。
スターム卿は自分でエイドの首に縄をかけ、吊るした。そして見せしめに死体を放置した。死体は鳥の餌になり、日に日に酷く損壊していった。それを見て、スターム卿は号泣したらしい。
俺にはどうすればいいかわからなかったよ。
ビル婆さんが殺されたときは判断が簡単だった。だが、これは…あの時とは違う。
たしかにエイドは俺にとって可愛い弟分だったが、それでも血の繋がってない赤の他人だ。これは、あくまでも家庭の…家族の問題なんだと、俺は思ったよ。俺が口出しできる問題じゃない、とね。
俺にはわからなかったよ。スターム卿は自分の手でけじめをつけたんだ、ということはわかったが、それでも自分の息子を殺す父親の心情なんて、俺には理解できなかった。そんな俺に、どうして彼の行いが過ちであると断定できる?
もっとも他人事で済まされないのは、俺のことをスターム卿が息子を犯罪者の道に堕とした張本人だと思い込んでいたこと、俺たちの悪事をすべて衛兵側に漏らして俺の首に懸賞金を懸けさせたことだ。一夜にしてお尋ね者になった俺は事務所に金を取りに行くこともできず、盗賊ギルドに事態の動向を窺うことしかできなかった。
盗賊ギルドとしては、正規のギルド員ではない俺との関係を疑われるのは避けたいらしかった。衛兵は俺が盗賊ギルドと結託して商売していたと思い込んでいるし、今回の件をきっかけに盗賊ギルドを検挙する腹積もりだったから、俺が捕まったらどんな証言をさせられるかわかったもんじゃない。
そういうわけで、スターム卿には悪いが、ギルドとしては俺に無事逃げて欲しいっていう話だった。俺はギルドの手引きで港に停泊している奴隷の密輸船に下働きとして乗り込み、そのままシロディールへと向かった。
港湾地区一帯は完全に盗賊ギルドの支配下にあって、衛兵隊でも迂闊に捜査の手を伸ばすことができなかった。だから俺が無事に逃げられたんだ。もし陸路で国境を越えようとしたら、確実に捕まってただろう。
奴隷密輸船の環境は酷いもんで、俺は厨房で働きながら、虚ろな目で自分の人生を受け入れた、襤褸切れを纏った奴隷たちの姿を見ていた。子供も多かったよ。だが、彼らを可哀相だとは思わなかった。俺が思ったのは、俺がいままでの人生で一度でもヘマをやらかしていたら、俺も彼らの一員に混じってただろうってことだけだ。もしそうなっていたら、どんな気分で未来を憂いていたんだろう、とね。
密輸船はシロディールのアンヴィルに停泊し、俺は下船してからそのまま姿をくらました。
しばらくは元の盗賊稼業に戻ってたんだが、なんというか、俺は以前と違ってもう盗みにスリルも楽しみも感じなくなったことに気づいてね。それよりも事務所経営で顧客を相手に商売していたときのほうが楽しかったことに気づいて、これからは盗賊じゃなくて商人としてやっていこう、と思ったんだな。
倉庫破りをやっていたときに経営学について勉強し、仕事を通してノウハウを学んでいたから、自信はあったよ。それにもう、俺は犯罪に加担しなくてもやっていけるんだ、という自覚を持てたのが純粋に嬉しかった。
シロディールに着いてから俺は、ビル・アーケイドと名乗るようになっていた。アーク・ビルだったときもそうだが、もともと名前のない俺だったから、親しかった人間の名前を忘れないよう自分に重ねるのはなんというか、ロマンチックだと思ったんだよな。もちろん、これ以上長くしたいとは思わないけどね。
二年ほどシロディールを放浪して行商人として生活してたんだが、まあ、厳しいことも多かったね。なんたってアルゴニアンの商人だ、そんなやつを誰が信用する?カジート・キャラバンのほうがまだマシだ、それでも俺は地道に商売を続けて、顧客の信頼を得ていった。
やがてモロウィンド出身の錬金術師に会った俺は、ハンマーフェルの火山地帯で採れる硫黄の鉱石が欲しいという依頼を受けたんだ。かなりいい額の報酬を提示されてね。で、ハンマーフェルくんだりまで材料を集め、依頼主の待つモロウィンドまで向かってたんだが、スカイリムの国境沿いに移動してたのがマズかったんだな。
俺は国境付近でストームクロークと帝国軍が小競り合いしている場面に出くわしちまって、ストームクロークの協力者と間違われて連行され、荷物をすべて取り上げられたうえヘルゲンで処刑されかけた。そのとき、ドラゴンを見たんだな。
「ま、そっから先はボルガクさんも大体知ってる通りですよ」
「うむ…」
「雇い主が犯罪者だったと聞いて幻滅したかい?俺のことが嫌いになったなら素直にそう言ってくれ、その鎧を返せなんて言わないからさ」
「酔っているのか?私はお前を聖人君子だと思ってついてきたわけじゃないぞ」
「それもそっか」
さすがに長話が過ぎた、今日はもう寝よう、と言って借りた部屋へ向かおうとする俺の背中に、ボルガクが言葉を投げかけた。
「ところでその話、しょっちゅう誰にでも聞かせているのか?」
「まーさか、今日が初めてだよ。いままでこんな話をしたことも、したいと思ったこともないね」
「じゃあなんで私に話した」
「…なんでだろうね」
実際のところ、酔った勢いと言えばそれまでだが、それでも相手がボルガクでなければ話すことはなかっただろう。
その理由までは、俺自身にもよくわからなかったが。
【 →To Be Continue? 】
PR