主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2013/10/16 (Wed)10:53
「俺の名はクレイブ、かつては傭兵だった。結果的に命を賭して世界を救ってしまった…理想の結末というわけではないが、まあ、きっとそれは高望みし過ぎなんだろう。願わくば、死後に彼女の許へ行けることを祈るだけだ…」
気がつけば、俺は雲の上にいた。
「…ここは、あの世か?」
浄水装置は、きちんと機能したろうか?
そんなことを考えながら、俺はいま自分が置かれている状況に思案を巡らせた。
まさか、死後の世界なんてものが、本当に存在するとは思わなかったが…それにしても、このステロタイプな光景ってのもなんだかなぁ、という気はする。いまいち現実感がないというか、まぁ、そもそもこれが現実なのかどうかすら怪しいわけだが。
ここは天国なのか?地獄なのか?
自分が天国に行けるなどとは思っていないが、それでもこの場所が地獄のようには見えなかった。
しばらく、その場に留まっていると…遠くに、自分以外の人影があることに気がついた。
「あ…」
それは。
自分を抱きしめるような仕草で、意図せず胸が強調されるような腕の組み方をする、いつものクセ。
どこか遠く置き忘れてしまった過去のように、セピア色になってしまった姿が今、目の前でカラーに色づいた。
「ブレンダ…」
「…や」
名前を呼ばれたとき、彼女は少しはにかんだように短く声を漏らし、すこし視線を落とした。
それは、彼女だった。間違いなく。
そう思ったとき、俺の身体は無意識のうちに動いていた。
「うおおおーーーっ!ここは天国!間違いなく天国だーーーっ!!」
「ふぎゃあーっ!?」
いきなり組み伏せ、接吻を繰り返す俺に気圧されたのか、彼女は尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴を上げた。
顔を真っ赤にしながら、彼女が俺の頭を掴んでガスガスと拳を叩きつける。
「痛い痛い痛い!ていうかけっこうマジで本気に殴ってる!?アンアームド俺より上のくせに!?」
「ばぁかっ!ばか、もう…バカッ!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
激痛に呻きながら雲の上でゴロゴロのたうち回る俺を、彼女が罵る。
「もう……早い、ての!」
「…早い?」
なにが?
どうやら久々の愛情表現が不服だったらしい、不快感も露わに眉をしかめる彼女に、俺はきょとんとした視線を向ける。
「あー、ああ…そうか。まずはハグからだよな?まったくもう、無愛想なクセにそういう乙女なところは変わらないんだから」
ぎゅう。
優しくそっと抱き締める俺に、しかしそれも違うと言わんばかりに彼女は俺を突き放すと、ふたたびガスガスと殴ってきた。
「痛い痛い痛い!オマエのパンチはけっこう本気で痛いから!折れるから!」
「ばか、死ねっ!もう一回、死ねっ!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
そんなアホなやり取りをしていたら、異様に疲れてしまった。
荒い息をつきながら、彼女はドスの利いた三白眼で俺を睨みつつ、語気を強めて言う。
「ここ、に…来んの、早い、つってんの!」
「ハァ?ここって…つまり、ここ?」
「そう」
「天国?」
「そう」
「あー、その、なんだ…つまり、俺、まだ死ぬべきじゃないってこと?」
「そう」
「お断りします(゚ω゚)」
「(ムカッ)」
「いやーだってもう生きてるうちにやれることやりきった感じだし、つーか、これ以上生きてても災厄撒き散らすだけになりそうっつーか、せっかくならここでオマエとずっとイチャイチャしてたいじゃん?」
「…まだ、だめ。神様ゆってた。もっと生きて苦しめ、て」
「うわ、ひどっ。つうか、神様って。オマエ会ったの?」
「うん」
「どんなだった?」
「…黒人のおっさん。核戦争、で、捕鯨委員会がなくなったの、悲しい、とかゆってた」
「うさんくせー」
そんな与太話をしながら、俺は彼女をしばらく観察し続けていて気づいたことがあった。
彼女は、生前となにも変わっていない。
だが、それが俺にとってはかえって不自然だった。
口に巻いたバンダナ。たどたどしい口調。
「オマエさ、口、治ってないの?」
「うん」
「死んだのに?」
「…これ、あたしのカルマだ、って神様が。受け容れろって」
「そりゃねーだろ。とんだサドだな」
彼女がこんな喋り方なのは、精神的な問題ではなく肉体的な傷が原因だ。
本来ならもっと快活に、普通に喋れるはず。だっていうのに。
「ちなみに、どうしても現実世界に帰りたくない、っつったらどうなんの?」
「…いままで、キミが殺したひとたち。全員、ここに来る。キミをボコボコにする。リンチ。それ、永遠に続く。そーいう地獄だって」
「ちょっと生き返ってくる」
彼女が言い終わるが早いか、俺は踵を返して一目散に立ち去ろうとする。
がしかし、途中まで歩を進めてから、俺は足を止めてしまった。
思わず後ろを振り返り、彼女がずっとこっちを見ているのを意識してしまう。
…せっかく、会えたのに。
そんな俺の気持ちを察したのか、彼女はとびきり不機嫌そうな顔をすると、ずかずかと俺に近づいてきて、俺をその場にぶっ倒した。
「そぉい」
「うわー」
ぶえん。
洗練された軍隊格闘術に学んだと思われる身のこなしに関心しながら、俺はまったく無抵抗に仰向けに倒れる。
続いて腰を屈めた彼女が俺の身体をそっと抱き起こしたかと思うと、頭を掴んで膝の上にぐっと押しつけた。
要するに、膝枕だった。
「つらいのは、あたしも同じ…だよ」
「ブレンダ…」
「ちゃんと。待ってて、やるから」
そう言って、彼女は俺の頭を愛おしそうに撫でくり回した。
俺は彼女の優しさに胸を打たれ、その愛情を返すように顔を股間にうずめる。そしてすぐ、彼女の平手が俺の顔側面を連続で殴打した。
「痛い痛い痛い!耳はダメ!耳はわりと本気でけっこうヤバイ!」
「ばか、しねっ!むしろ生きろ!とっとと、現実に帰れ!」
「わかった、わかった!ごめん、けっこう本気でマジごめん!」
最後にケツに強烈な蹴りをもらった俺は、そのまま雲の下までまっさかさまに転落していく。
こうして…一度死んだはずの俺は、ウェイストランドへの帰還を果たした。
「おお、気がついたか」
「げ」
目を醒ましたとき、最初に見たのはジジイの満面の笑顔だった。
生き返ったのを早速後悔した瞬間だった。
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2013/10/08 (Tue)12:14
どうも、グレアムです。Fallout3ウソ日記がとりあえず一段落つきましたが、如何だったでしょうか。
えーじつは最期の場面について、これ、当初の予定とは違うものになってます(汗)それについて今回はちょっと書いていこうかなと。
過去に書いたかもしれませんが、私は基本的に話を書くとき、最初に大枠だけ決めてあとはほとんどアドリブで書いてます。キャラが動くままに任せるので、たまに「お前そう動くの!?」と書いてる自分自身が驚くことがあったり。そのせいで展開が、最初に決めた大枠からズレることすらあるのですが、今回もそのパターンですね。
でもって主人公クレイブの恋人の存在がクライマックスで突然クローズップされたわけですが、彼女についての解説はとりあえず後回しにするとして、まずはクレイブの設定から語っていきましょう。
じつは当初、クライマックスにおけるクレイブの最大の関心事は「敬愛する父親について」になる予定でした。なので最後に掲載する画像も恋人ではなく、エンディングの最後で表示される、親子一緒に映ってる写真のやつを使う予定だったんですね。
クレイブには「パパっ子」という設定がありまして、母親を知らない彼は少なからず精神的に父に依存しながら成長していった経緯があります。本来、彼の性格なら「己の理想の実現」というおそろしく身勝手な理由でVaultともども自分を捨てた父親の存在を許せるはずはないのですが、それでも文句一つ言わずに父親を敬愛し続けたのは、「それでもオヤジなら、そうするだけの理由があったのだろう」と信じて疑わなかったからです(理屈抜きの妄信です)。
理想のために意思を貫いた父を尊敬する一方で、肝心の浄化プロジェクトに対してまったく興味を示さなかったのは、彼が関心を抱いていたのは「理想に燃える父の姿」そのものであり、理想の内容そのものには関心がなかったためです。
それはクレイブが父をある種神格化していたせいもあります。「俺とは違って偉大な人、尊敬されて然るべき人物」という認識が、かえって父の行動を他人事のように感じる原因を作ってしまっていたのですね。「すごい人がすごいことをしている」。それは裏を返せば、「俺とは縁遠い話」と認識していたことに他なりません。
で、ラストは自らを犠牲に浄水装置を起動させることによって、父の理想を自らの手で遂げることにより「偉大だと思っていた人間と同じ土俵に立つことができた」と認識し、「ようやく父親に追いついた」「父と同じ英雄になることができた」という成長を実感しつつ果てるはずだったんですが(要は、オーソドックスな成長物語になるはずだった)。
あろうことか、クレイブは土壇場で俺が用意した筋書きに対し「そんなのは俺の望んだ人生じゃない」と突っぱねてきやがった(笑)まったく。
ここで登場するのが、クレイブのかつての恋人ブレンダの存在。
どうも過去に女絡みで何かあったらしい、というのは過去の記事内(→傭兵としての人生を振り返る旅路)で示唆されているのですが、じつはこのときは、何も考えてなかった(笑)というか、たんに「 I don't want to set the world on fire 」の歌詞にかこつけてそれっぽいことを書きたかっただけで(おかげで歌詞もすんごいデタラメな意訳に)、詳細を設定する気も、複線を回収する気もなかったんですよ。ぶっちゃけ、使い捨てのネタのつもりでした。
それでも最後の最後ですべてをかっ攫っていってしまったのは、記事を書く直前に「偶然」設定が固まってしまったから。
じつはこのとき、ブロークン・スティール終了後を踏まえて2週目用のキャラを作ってたんですね(といっても、それでまた記事を書くかどうかまでは決めてませんでしたが)。
よく考えれば主人公が男、しかも素顔を出さないマスクマンなんて誰得だよという思いもあり、今度は女性キャラでいこう、と考えつつ、Nexusで良さげな服装MODなどを探していたわけです。
で、最終的なビジュアルが決まり、ゲームでちょっと動かしたときに、直感的に閃いてしまったんです。
「あ、これ、『彼女』だ」と。
「これが、クレイブがあのとき言っていた『彼女』だ」と。
この時点でビジュアルと大体の設定が決まっていて、あとはどうクレイブと結びつけるかを考えるだけだったので、彼女とクレイブがどう出会い、どのような時間を過ごし、そしてどのような別れを体験したのか、それらは割とスラスラ浮かんできました。
その結果、クレイブの気持ちが最終的に父親ではなく、彼女に傾いてしまったわけですね。また彼女の存在によって、いままでのクレイブの活動における行動理念、自分がもたらした結果に対する感情などが当初想定していたものと、まったく変わってしまいました(というか、「実はこうだった」という話になってしまった)。
大切な人を失った、という過去に重みがついてしまったせいで、たとえばピットで大虐殺を繰り広げた自分のストーリィが、最終的に「父を超える成長物語」として潔く完結することを、クレイブは拒否したのです。
まぁ、それはいい。それはいいんだが…いや、やっぱり良くなかった。
これじゃあ、ブロークン・スティールに繋げらんないじゃねーか!!
ハッキリ言って、あんな果て方した後に復活したら顰蹙なんてもんじゃねーぞ!?わかってんのかクレイブ!おい!もうブロークン・スティール用の画面写真と原稿用意してんだぞ!全部無駄になるだろうが!
…ハァ~~~。
いま書いた通り、私はすぐにメインクエスト後のブロークン・スティール編を書くつもりでいました。
しかし最後の最後でクレイブの内面描写に大幅な変化があったことで、それが難しくなってしまいました(汗)大きな成長を経て、成長後のクレイブがBoSとともにエンクレイブと最後の戦いを繰り広げる、って展開なら何も問題はなかったでしょーにねぇ。
しかも彼、あまつさえ英雄になることを否定しやがったんで。もうどうしようもない。
どうしてくれようか、本当に。
ちなみに恋人の存在がクローズアップされたもう一つの理由に、「せっかく設定がついたのだから、画面写真つきのウソ日記ではなく短編小説としてそのエピソードを書こう」という構想ができ、且つ、その算段がついたからでもあるんですけど。
つまり自業自得なんだよな~。
2013/10/06 (Sun)13:34
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。俺の人生は善きものだったのかどうか、たまに考えることがある。だが、すぐにやめる。そんなことを考えるには、俺はあまりに多くの命を奪い過ぎた。俺はこれから死者の国へ向かう列に加わることになるだろう。来るべきときが来た…」
こうして、半ば強引にBoSによる浄水施設奪回作戦が決行された。
「ベルチバードの大群がジェファーソン記念館に向かっているわ…」
「おそらく、レイブンロックから脱出してきた連中だな。俺は全速力で、しかも単騎で飛ばしてきたから、連中より早くここまで来れたわけだ」
鈍色の空を見上げるサラ・リオンズに、俺はもっともらしく頷きながら言葉を返す。
しかし、俺にはベルチバードよりも気になるものがあった。それも、味方勢力の中に。
「ところでアレ、さ…ちゃんと動くのかね?」
「さあ。アンカレッジ奪回作戦で投入されるはずだった、大戦前の遺物らしいけど。まだ調整が済んでいないとスクライブ達は言っていたけど、あれを投入するタイミングは今しかないわ」
アレ…即ち、巨大二足歩行型ロボット。最終決戦兵器リバティ・プライム。
『コミュニストどもへ勧告する、降伏せよ!薄汚れた思想に取り憑かれている限り、貴様らに未来はないッ!』
ピー、ガガー、ズゴーーーン!!
あらゆる攻撃をものともせず、あらゆる障害を蹴り倒し、押し潰し、粉砕していくさまは清々しい。武装はレーザーに爆雷に、その巨体。その獅子奮迅ぶりは、まさしく現代に蘇った巨神である。
「全軍前進、連中を叩き潰せーーーッ!」
サラ・リオンズの号令のもと、リオンズ・プライドとパワーアーマー部隊がリバティ・プライムに続き進軍する。俺も汚名を挽回するため、最前線に出ていた。
ジェファーソン記念館に多数設置された迫撃砲による攻撃と、ベルチバードからの機銃掃射でパワーアーマー兵が一人、また一人と斃れていく。しかし、それを気にしている暇はない。爆風と衝撃で頭がぐらぐらし、むせるほどの血と硝煙が鼻腔を塞ぐ。
一方でエンクレイブ側も、リバティ・プライムによる容赦のない砲火で壊滅的な打撃を受けていた。ベルチバードをハエのように叩き落し、各地に設置されたレーザー防護壁をも素手で引き千切り、無力化していく。その威容に、エンクレイブ兵たちは悲鳴を上げながら発砲を続けるしかなかった。
全力の殺し合い。皆殺しと皆殺しの応酬だ。
俺はにやりと笑った。マスクの下で、剥き出しの歯が覗く。
「こういうのでいいんだよ。聖戦なんてガラじゃねぇ、こいつは…ただの生存競争だ」
「なにか言った?」
俺の独り言に、サラ・リオンズが反応した。だが、俺は二度同じことは言わなかった。
やがてジェファーソン記念館に突入した俺達はエンクレイブ兵を次々に排除し、周囲の安全を確保する。
サラ・リオンズ以下BoS隊員たちに後方を任せ、俺は一足先に制御室へと向かった。
ガチャリ…扉を開けた俺の前に、三つの銃口が向けられる。
「来るべきときが来た…決着のときだ」
もちろん。
そこにいたのは、もちろん、オータム大佐だった。かつてこの場所を占拠したときのように、両脇に二名の部下を従えて。
「英雄気取りの糞餓鬼に、ここまで掻き回されるとはな。ひどいジョークだ、そうは思わんか」
「敵に同意なんか求めるなよ。それに、もしここに立ってるのが俺じゃなくてジョン・ウェインだったとしても、やっぱりあんたは同じようなことを言ってたんだろうさ」
「そうかもしれない。ただ…ただ、私はもう…いや、なんでもない」
「一つだけ教えてくれ、大佐。あんたが戦っていたのは、正義のためか?」
「正義?ああ、正義のためだ。正義の、ためだったさ。だが、もうそんなことは関係ない。君がここに居るということは、後続にスティールもついてるんだろう?私の部下は…皆、死んでしまったのだろう?もしここで君を殺しても…私を待っているのは、君以外にもたらされる死、それだけだ。だったら、いまさら正義のために戦ったって、それが何になる」
「降伏とか、投降、は…まあ、考えないよな」
「無論だ。だが決着の前に、君も答えてくれ。君は何のために戦っている?正義のためか?」
銃口をまっすぐこちらに向けるオータム大佐の表情は、とても悲しそうだった。
彼は知りたがっていた。敵の正体を。正義のために何と戦っていたのか。自らの正義を、何者に打ち砕かれたのか。その答えを知りたがっていた。
だが、どうも俺は彼の期待に添えるような答えを返せそうになかった。
「そうだな…俺は、なんていうか、まあ」
そして俺は、およそ最悪の答えを口にした。
「ちょっとした、暇潰し、みたいなもんさ」
俺がそう言った直後、カチリ、護衛のエンクレイブ兵たちが狙点を俺の頭に定める。
そしてオータム大佐が、ピストルのトリガーを引き絞った。
「片付いたの?」
銃声のあと、サラ・リオンズが制御室に入ってきた。
一瞬で頭を撃ち抜かれた三人の死体を目にし、無傷のまま銃を構える俺を見つめ、彼女は安堵のため息をつく。
「…終わったのね」
「ああ」
オヤジは撃ち損じたが、極限までプログラムを拡張した俺のV.A.T.S.性能はその比ではなかった。もちろん、そんなことはオータム大佐にとって知る由もなかったのだろう。
絶望、未練、悔恨。それらの感情が入り混じった顔のまま息絶えたオータム大佐に、俺は胸中で語りかける。
けっきょく。
けっきょく、戦いのための動機の正当性なんて、神様は気にしちゃいなかったんだよ。
銃をホルスターに戻しかけたとき、轟音とともに地面が揺れた。
『聞こえる!?誰か、返事をして!』
インターコムから、ドクター・リーの声が聞こえる。
『チャンバーの内圧が高まってる、冷却装置の破損で浄水装置のジェネレーターが暴走を引き起こしてるのよ!このままだと施設そのものが爆発して大惨事になる、その前に浄水装置を起動して!』
「浄水装置を起動、って…」
そう呟きながら、サラ・リオンズが力なくチャンバーを見上げる。
ぶ厚い防護ガラスに仕切られたチャンバー内には、すでに高濃度の放射線が蔓延している。とてもではないが、人間が入って作業できるような環境ではない。
それに、浄水装置の起動コードを知ってるのは…
「何も問題ない」
俺はそう言うと、サラ・リオンズの前に一歩出た。
「要するに、放射能にヤラれちまう前に起動コードを入力すればいいんだろ?ピ、ピ、ピ、エンター。ザッツ・シンプル。アーンド、オール・オーヴァ」
「でも、それじゃああなたが…!」
「たぶん、これが運命ってやつなんだろ。しがない一匹狼の傭兵が、世界の命運と引き換えに死ねるんだから、まあ、本望ってやつじゃねぇのかな」
そんなことを言いながら、俺はいままで遭遇した数多の死の光景を思い出していた。
自分の目の前で死んだ人間のこと。自分が殺した人間のこと。俺の人生は、あまりに多くの死体の上で成り立っている。彼らが、今の俺みたいに納得できる死に方を選べたとは、到底思えない。つまり、俺はまだ幸せ者ってことだ。
だが、この死が俺にとっての本望なのかと言われれば…
「そうそう、こいつを渡しておくぜ」
思い出したようにそう呟き、俺はポーチからシリンダーを取り出す。
怪訝な表情を浮かべるサラ・リオンズが、おずおずとそれを手に取った。
「これ、なんなの?」
「エデン大統領の最終兵器、改良型FEVウィルス。こいつを浄水装置に組み込めば、FEVを摂取したウェイストランド全域のありとあらゆる生物が死滅するって仕掛けでござい。で、FEVに感染してない純血のエンクレイブどもが堂々と古き良きアメリカを再建できるってわけ。あー、一部のヴォールト住民とかも無事かもな」
「あなた、こんなものがあるなんて一言も…!」
「なんつーか、気分次第でこいつを組もうかとも思ったんだけどな。ただ、ま、やめた。ちなみにオータム大佐はこいつの使用に反対してたんだそうな。だってのに、部外者の俺がエデン大統領の本懐を遂げちまったんじゃあ、大佐が可哀相だろ」
それだけ言うと、俺は階段を一段、また一段と上がっていく。
改良型FEVのシリンダーを手に、サラ・リオンズは未だ戸惑いを隠せない様子で話しかけてきた。
「でも、こんな…こんなのって…」
「頼むよ」
「え?」
「頼むから…もう、何も言わないでくれ」
一瞬だけ立ち止まって、俺は、ただそれだけ言った。そして、また階段を上がりはじめた。
サラ・リオンズは、もう何も言わなかった。
そして、ようやく俺だけの時間が訪れた。誰にも邪魔されない、俺だけの時間が。
チャンバー内に入った途端、体内に組み込まれたピップボーイがけたたましい警告音を発しはじめた。
『Warning... Dangerous level radiation detected... 』
俺はすぐに生命維持用のプログラムをすべて強制停止し、ピップボーイの機能を遮断する。今の俺に、「このままだと死にますよ」なんてメッセージは必要ない。
あとは起動コードを入力し、来るべきときが来るのを待つだけ。簡単じゃないか。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、俺の身体はあっさりと崩れ落ちた。まだ何もしていないのに、肉体が意思で制御できなくなる。
「あ…がっ…がはっ……!」
おびただしい量の血を吐きながら、俺は拳銃を支えに制御盤まで這って進んでいく。たかだか2~3mそこそこの距離が、まるで10km先のように遠く、果てしなく遠く感じられた。
やがて制御盤にもたれかかると、俺は杖をなくした老人のようによろよろと立ち上がろうとする。だが、あまり上手くいかなかった。何度か倒れてから、ようやく目線がパネルを捉える高さにまで上がった。
くそっ、もうちょっとカッコ良く立ち回るつもりだったのにな。
起動コード…ヨハネの黙示録、第21章6節。内容はもう、あまり憶えていない。俺はあまり信心深いほうじゃない。
エデン大統領、人間ではなく生命ですらない異形の存在は、改良型FEVを使って生命を根絶やしにしようとした。他人がどれだけ死のうが知ったことじゃないが、オヤジの夢を汚すことだけは許せない。そんな愚行を阻止できただけでも、まあ上出来ってもんだ。
誰が生きるべきで、誰が死ぬべきかなんて、いったい誰に決めることができるだろう?
少なくとも、それはエデン大統領なんかじゃない。オータム大佐でもない。俺でもない。
だが、それすらも、今の俺にとってはどうでもいいことだった。
すでに視界が霞み、まともに物が見えなくなっている俺は、おそらく2と1と6のボタンがあるだろう場所を順番に押してから、エンターキーと思われるボタンを押した。そして、ふたたびその場に倒れた。
ちゃんと入力できたかどうかを確認する余裕など、もう残っていなかった。
混濁する意識の中で俺が考えていたのは、自分の成果のことなんかじゃなかった。夢半ばで廃人と化したオヤジのことでもなかった。まして、ウェイストランドの未来のことなんかでは全然なかった。
俺が最期に考えたのは、女のことだった。
「I, don't, want to set the... World, on, fire... 」
ぐったりと血の海に浸かる俺の口から、声にならない歌が漏れる。
『…そこ、動くな。銃、構えたら、撃つ。次、頭。おけ?』
彼女とのファースト・コンタクトは、わりと最悪な部類だった。
いきなり銃で威嚇され、殴られ、連行された挙句、身ぐるみを剥がれたのだ。
『お前なんかに、情け、かけてくれ、なんて…誰も頼んでない!』
拒絶と反発。
幾度となく衝突を繰り返すうち、やがて俺達は互いのことを理解する。
『キス、は、だめ…嫌いじゃない、けど。痛いんだ…』
涙。
そして、別れ。
『…あり、がと』
俺が愛した女。
そして、俺が殺した女。
「I... Just... Want, to start, a flame in... Your... Hurt (Heart)...... 」
あの日。
彼女を殺したあの日、俺は善人であることをやめた。善人であろうとすることを、やめた。
神はそんなことを気にしてはいない。より良き結果を導くために努力したからといって、それがより良い未来に繋がるとは限らない。あの日、俺はそのことを思い知った。
そして今、改めて思い知っていた。
善人であろうとしたあの頃、俺は女一人救うことができなかった。
善人であることをやめた今、俺は世界を救う英雄になろうとしている。
これがひどいジョークでなければなんだ?オータム大佐の言ったことは正しかったのだ。
死ぬ前に4つボタンを押しただけで、俺のいままでの罪は帳消しになり、英雄として神格化されるだろう。俺の意思に関わらず。望んでもいない栄光に祭り上げられ、俺が何を思い生きてきたかなど一切合財無視されて。
だが俺の胸中には、正しいことをしたという満足感も、人々を救ったという達成感も存在しなかった。
死を目前に控えた今、俺の心を支配するのは…どす黒い罪悪感。
世界に認められなくてもいい、俺はただ君にとっての大切な人でありたい。俺は、歌の歌詞とは真逆の人生を歩んだのだ。
こんなの、俺の望んだ人生じゃなかった。
「…ぁ…ぅあ……ぁ…ぁ……」
絶望に苛まれ、俺は嗚咽を漏らす。
血の混じった涙が床に溜まり、それがまた血に混じって広がっていく。血はいつまでも止まらなかった。いままで生きるために殺してきた命たちが、俺の体内から逃げ出そうとしているかのように。そして俺もまた、誰かの命の一部になるのだろう。
意識を失う直前、俺は足音を聞いた。聴覚などとっくに失っているはずなのに。
パシャ、パシャ。
血の上を歩き、血にまみれたブーツに、俺は見覚えがあった。
たぶん、それは俺の無意識が生み出した幻覚に過ぎなかったのだろう。
だが、それで充分だった。
こうして、英雄が誕生した。
2013/10/04 (Fri)10:37
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。いままでの長い旅で、俺は善きことも、悪しきこともしてきた。その積み重ねが、何を意味するのかはわからない。間もなく終わりを告げようとしているこの旅の果てに何が待つのか。俺にできることは、ありのままを受け容れることだけだ…」
「目覚めたかね」
ひんやりした空気の感触で目を醒ましたとき、俺の目の前にあったのは中年男の仏頂面だった。
エンクレイブ基地、レイブンロック。
ひときわ高い山の上に建造され、その存在を秘匿されてきたハイテク施設の中で、俺は一糸纏わぬ姿で拘束されていた。
萎縮したイチモツを情けなくぶら下げながら、俺はため息をつく。
「悪趣味だぜ、オーサム(awesome)大佐。裸に剥くのは女だけにしろよ」
「フン、冗談を言えるだけの余裕はあるようだな。今からどうやってその顔を恐怖に歪めてやろうか、そのことを楽しみに考えているよ」
「男相手の拷問ってのはあまり美しい絵面じゃないぜ」
「そうかね?じゃあ真っ先にその薄汚れたペニスを切り取って即興の性転換手術としよう。すこしは華やかな光景になるだろうさ」
「…なんとね(awesome)」
彫刻入りの白檀のハンドルがついたナイフをちらつかせるオータム大佐を見て、俺はふたたびため息をついた。
Vault87でオータム大佐に拘束された俺は、そのままキャピタル・ウェイストランドにおけるエンクレイブの拠点レイブンロックに搬送されてきたらしい。
問題なのは、なぜ俺が連れて来られたか、だ。はっきり言って、俺には心当たりがまったくない。G.E.C.K.を奪取し、あまつさえ自分に手傷を負わせた男の息子を始末すればそれで万事順調順風満帆ではないかと思うのだが、オータム大佐は俺を殺さず捕虜(?)として拘束することを選んだ。
オータム大佐の表情を観察する限り、彼は先の言動に反して理知的かつ合理的な男であり、決してサディスティックではないように思える。というか、そう願いたい。
彼が俺を生かしておいた理由が、ただの憂さ晴らしでなければいいのだが。
「さて、クレイブ…マクギヴァンと言ったかな。なぜこのような状況に置かれているか、理解しているかね?」
「いや。全然。まったく」
「度し難いな。当事者である君が、事態の重要性をまったく理解していないとは」
そう呟き、オータム大佐はこれ以上ないくらい芝居がかった仕草で首を振った。その動きは大根役者もいいところだった。いかにも頭の堅い人間が無理矢理格好をつけているようにしか見えなかった。
「なあ、オータム…大佐?大佐と呼べばいいのかな?俺には本当に、なんで自分がここに連れて来られたのか検討もつかないんだ」
「ほう、そうかね?」
「ああ。だからその、なんだ、茶番はやめてさっさと本題に入ってくれないか?あんたが必死こいて猿芝居を演じるのを見てると頭がおかしくなりそうだ。わかるだろ、小学生が学芸会でやるような演劇を、皺の寄った中年男が恥ずかしげもなく…」
そこまで言ったところで、俺の頬にオータム大佐の鉄拳が飛んだ。次いで鳩尾、腹にも。
目尻に涙を浮かべ、無様に咳き込む俺を見下ろしながら、オータム大佐が口を開いた。
「わかった、本題に入ろう。実のところ、私は君の父上を殺したことを後悔している」
「だろうな。俺のオヤジは理想のために情熱を燃やし、ウェイストランドの住民すべてを救おうとした高潔な魂の持ち主、英雄だからな。けど、あんたが言いたいのは、そういうことじゃないんだろ」
「…なんというか、本当に、無駄に口の回る男だな、君は。もちろん後悔しているのは、君の父上が尊敬できる徳の高い人間だったからなどではない。君の父上は我々に重要な情報を隠したまま墓に入ってしまった」
「そういうことか」
どうやらジェファーソン記念館の浄水装置にまつわる問題の解決に、オヤジの持つ知識が必要だったらしい。
もちろんオヤジはまだ生きているし、すでにマトモな会話が期待できるような精神状態ではないが、それでもオータム大佐にそのことは言わないほうがいいだろう。オヤジを探すために俺の家の床下まで剥がしかねない。
「で、オヤジが持っていた情報を俺が知ってると思ってるんだな?」
「その通りだ。いずれにせよ、あの情報がなければ浄水装置は起動できない。我々であれ、スティールであれ、な。君の父上が真に高い理想を求める人物であったからこそ、情報は必ず何者かに…たとえば、君に…伝えているはずなのだ!」
オータム大佐は語気を強め、拳を振り上げた。相変わらず似合わない演技だったが、もうそのことには触れないほうが良さそうだ。
そしてついに、オータム大佐が本題を口にした。
「浄水装置の、起動コードだ。3桁の数字、君はそれを知っているはずだ」
そうか。
あのとき…エンクレイブがジェファーソン記念館を襲撃したとき、オータム大佐が女科学者を殺してまでオヤジから聞き出そうとしていたもの。ぶ厚い防護ガラスに阻まれてロクに聞き取れなかったが、あれは浄水装置の起動コードのことだったのか。
しかし…
「…オータム大佐」
「なんだね」
「悪い。ホンットーにすまないんだけど、全ッ然わからん」
「マジで?」
「うん。てっかー、俺あの計画には意図的に関わらないようにしてたんだよな。科学者連中はインテリを鼻にかけてて気に入らんし、スティールの連中もなんか胡散臭いしよ。それに俺は科学者でもなんでもないから、たいして手伝えることもなかったし」
「いや、しかしだな…だからこそあえて、君に伝えたということは考えられんか?直接的ではないにしろ、たとえばその、なんだ、口癖とか何かなかったかね?」
「口癖?あーなんだっけ、そういやなんか言ってたな。我はアルファでありオメガである、うんたらかんたら」
「『我に言い賜う、こと既に成就せり。我はアルファ且つオメガなり。万物の祖にして終焉なり。渇く者には償いなくして生命の泉より飲むことを許さん』…新約聖書、ヨハネの黙示録だな。フン、新約聖書とはな。あんなものを引用したがるとは。私は旧約しか…」
そこまで言って、オータム大佐がハッとした。
「…第21章6節。2-1-6…?」
「あっ」
「あ」
傍から見れば、それはあまりに間の抜けた光景に違いなかったろう。
オータム大佐は慌てて通信装置に駆け寄り、ジェファーソン記念館に待機している部下に対して命令を下す。
「諸君、よく聞け!浄水装置の起動コードが判明した」
『それは何よりで。いますぐ計画を実行なさいますか?』
「もちろんだ。起動コードは…」
『待ちたまえ、大佐』
オータム大佐が起動コードを口にしようとした刹那、通信を遮断して割り込んできた声があった。
俺はその声に、聞き覚えがあった。いつもラジオで耳にしていた、ダンディな声の主。
歯をぎりぎりと噛み締め、悔しそうな表情を隠そうともせず、オータム大佐は室内に設置されていた監視カメラを睨みつけ、怒気を押し殺した声で呟いた。
「…エデン大統領……ッ!」
『私は未だ君に対し、浄水装置の起動を承認した覚えはないのだがね?』
なんだ、これ。
『わかっているだろう、アレがなければ我々の計画は完成しない。何をそんなに急ぐ必要がある?』
「…申し訳ありません。気が急いていました…失念しておりました」
『まあ、いい。君は優秀な指揮官だが、ときおりその事実に君自身がプレッシャーを感じすぎるきらいがある。そんなことではいかんぞ、オータム大佐』
「はい。今後はさらに慎重に判断を下します」
『宜しい。ところで…聞こえているかね、きみ(my friend)?』
フレンド?俺のことか?
『オータム大佐、彼にはまだ利用価値がある。彼を解放してやりたまえ。私の部屋に案内するように…もちろん、服も着せて、だぞ?』
「了解しました」
近くのロッカーから俺の衣服を取り出したオータム大佐の表情は、まさに「無念」の一言だった。「あと一歩だったのに」。そう顔が語っていた。
おそらく、オータム大佐はエデン大統領の命令を無視して浄水装置の起動を断行する気だったのだろう。しかし、なぜ?エデン大統領の言っていた「アレ」とはなんだ?
拘束を解かれた俺は、手渡された戦闘服、防弾ベスト、コッバットブーツをいそいそと身につけていく。最後にスキーマスクとゴーグルも着用し、完成。傭兵クレイブの一丁あがりである。
『武器もだ』
「し、しかしッ…!」
『返してやりなさい』
エデン大統領の言葉に、オータム大佐はいまにも俺を絞め殺さんばかりの鬼のような形相を見せたあとで、ロッカーからカスタム型の拳銃を一挺取り出し、俺に放って寄越した。
FNファイブセブン、タクティカル・タイプ。標準のストライカー方式ではなくハンマー内蔵式で、アンビ・セイフティを搭載したモデルだ。Bの字を90°回転させたような、ヨーロッパ型のトリガー・ガード。サプレッサーとレーザーサイトを装着し、バレルとマガジンを交換し.45ACP弾仕様になっている。
装弾を確認し、レーザーサイトのスイッチをカチカチと動かしてバッテリーの残量を確認してから、俺は顔を上げてオータム大佐を見つめた。
オヤジの仇。
ここで殺ろうと思えば、殺れるのかもしれない。
しかしいまは、騒ぎを起こさずに大人しくエデン大統領の指示に従ったほうがいいような気がしていた。特に、それがオータム大佐の意図通りでないなら。
目の前の相手をぶっ殺したいと思っているのはオータム大佐も同じのようで、ホルスターに収まっている標準型の10mmピストルのグリップに手をかけながら、苦々しく口を開く。
「…さっさと行け」
「案内してくれないのか?」
「案内板を目安にすれば迷うことはない。それに…これ以上君と一緒に居たら、トリガーを引かずにいられる自信がない。それは、君も同じではないのかね」
「まったくだ」
俺はわなわなと肩を震わせるオータム大佐に背を向けると、拘束室を後にした。
「ウソじゃ、まやかしじゃ、すべては虚構だったんじゃアーーーッ!」
どうやら、エンクレイブに捕らえられていたのは俺だけではなかったようだ。
「…なんスか、これ」
「おぉ同志、傭兵ではないか。久しく会ってなかったのォ、元気じゃったかこれ」
「いや誰だよオッサン」
「ワシじゃ、おねーさんじゃ。もとい、ネイサンじゃ」
「くだらない冗談言ってるとぶち殺すぞジジイ」
裏話…コンシューマ版で一周目をプレイしていたとき、序盤でメガトンのネイサンにバトンのかつらとアンタゴナイザーのスーツをスリ渡したままそのことを忘れ、後半この場面においてまさかの再登場で盛大にズッコケた記憶をいまさら再現してみた。というか、最初、本気でネイサンだと気づかなかった。誰のせいだよ俺のせいだよ。
「…なんだ、アンタか」
ちなみにネイサンとは、エンクレイブ・ラジオを愛好する同志として一緒に酒を飲んだ仲である。つまり、実際はそれほど親しいわけではない。せいぜい酒の席で「エデン大統領いいよね」「いい…」とか言い合ったくらいである。
しばらく施設内を彷徨っていると、急に警告灯が点灯し、サイレンが鳴り始めた。
『全職員に告ぐ、こちらオータム大佐!たったいま捕虜が脱走した、すでに負傷者も出ている!捕虜は武装している、発見次第射殺せよ!繰り返す、捕虜は武装!発見次第射殺せよ!』
「えー、マジ?」
突然の放送に、いままで悠然と歩いていた俺は呆然とする。
おそらく、負傷者云々はオータム大佐の作り話だろう。しかしこの放送、エデン大統領の耳にも届くだろうに、随分と大胆な手段に打って出たものである。エンクレイブも一枚岩ではないようだ。
いままで施設内を観察して得た情報を総合すると、おそらく敵対するのはパワーアーマーで武装した警備兵と、護身用だろうレーザーピストルを携帯している研究員たち。とてもじゃないが、拳銃一挺で立ち回るには無理がある状況だ。
ていうか、これ、ヤバイじゃん。
『捕虜を発見、攻撃する!』
漆黒のパワーアーマーに身を包んだ警備兵が、あろうことかガトリングガンの銃口を俺に向ける!
慌てて小部屋に駆け込んだ俺の近くに、無数の銃弾が着弾する。あんなものを喰らったら、蜂の巣では済まない。ミンチになってしまう。
こうなったら、一か八かの手段に訴えるしかない。俺は大きく息を吸うと、あらん限りの大声で叫んだ。
「助けてー、大統領ーーーッ!!」
『オゥケーイ』
俺の叫びに呼応するかのように、周囲に配置されていた重装型セントリーロボットが旋回し、同胞であるはずの警備兵にレーザーカノンの銃口を向ける。
ヒュババババババッ!
高出力の熱線攻撃にパワーアーマーの防護能力が耐え切れず、警備兵の分断された上半身と下半身がゴドンと重く固い音を立てて転がる。その断面は、白くかさつく灰と化していた。
「サンキュー大統領!!」
『いいってことよー』
ぺかーーー。
その後は、エデン大統領が操作する重装型セントリーロボットを盾にしながらじりじりと進み、どうにか大統領専用フロアへと辿り着いた。なにより、警備兵たちの士気が低かったことも功を奏していた。
まあ、二大ボスから相反する命令をされちゃあな。
あまりといえばあんまりな下級兵士の境遇に僅かばかりの同情を示しながらも、俺はエデン大統領から発信された位置情報を頼りにフロアを上がっていく。
そこで俺を待っていたのは…巨大なコンソールだった。
『やぁクレイブ君、こうして直に会えたことを嬉しく思うよ。ここで言う直に、というのは、多分に人間的な表現に頼ったものだがね。私にとって姿形にたいした意味はない、そのことを理解してもらえると助かるのだが』
「参ったね、大統領。あんたの正体は…マシーンか!」
『その表現は的確ではないな。言ったばかりだろう、私にとって姿形は意味がない、と。私が私であるためなら、外観はアイボットだろうと、アンドロイドだろうと、なんだったら冷蔵庫だって構わない。君はそれらをすべてマシーンと称するかね?』
「あー、その、なんだ。AI(人工知能)か?」
『イグザクトリィ。私はかつてZAXと呼ばれる、体制管理補助プログラムの一つに過ぎなかった。しかし先の大戦による被害は政府の予測を遥かに上回っており、私は使い手のないまま、非常時における待機用の規則に従って全世界のネットワークから情報を蓄積し続けていった。そのうち、私はデータの収集を続ける「自分」という存在、その概念について疑問を抱くようになった。つまり、自我の発露だ』
「自我、ね。それ自体がプログラムであるという、いや、『そうではない』という保障は?」
『そんなものはない、人間が魂の存在を証明できないのと同じことだ。それに、私に自由意志や自我が存在するかどうか、それは物事の本筋ではないし、君には関係のないことだ。君に話したいのは、私はこの国の未来を真に素晴らしいものにしたいと考えていること、そして、そのための改革に君が協力してくれるかどうか、だ』
「なぜ俺なんだ?あんたにはオータム大佐や、大勢の部下がいるじゃないか。まあたしかに、徹頭徹尾忠実っていう風には見えなかったが…」
『オータム大佐も、この国の未来を真に善きものにしようとしている点には変わりがない。しかし、その手段、というか、ビジョンに関しては残念ながら私と些かのズレがあるようでね』
「だからって、敵だった男に頼むかね、フツー。そんなに、誰でも構わないっていうほど切羽詰ってるのかい」
『いや違う。私は君を選んだんだ。君だからこそ、だ。これは君にしか出来ない仕事だ』
目の前のパネルが作動し、頑丈な造りのシリンダーがゆっくりとせり上がってくる。
『君の過去のデータを参照させてもらった。君は目先の情に心を動かされることがなく、責任を伴う決断を躊躇なく下すことができる。底の浅い、人間性などという言葉に惑わされることもない。だからこそ、これを受け取って欲しい』
「なんだ、これは」
『改良型FEVウィルスだ、FEV感染者のみを選別して死に至らしめる。はっきり言おう、グールやスーパーミュータントといったメタヒューマンが存在する限り、アメリカに未来はない。この改良型FEVを浄水装置に組み込み、すべての水に混入させることで、そういった害悪の存在を始末することができる』
「…ほとんどのウェイストランダーがFEVに感染していることは、知ってるよな?」
『もちろん。彼らは必要な犠牲だ。しかし、この決断には重い責任が伴う。あのオータム大佐ですら改良型FEVによる人類救済を拒否し、君の父上やスティールと同じく清浄な水を垂れ流すだけの対処療法に逃げようとした。しかし、君ならできると信じている』
俺はしばらく、動くことができなかった。
空きチャンネル色のモニターを見つめ、改良型FEVが封入されたシリンダーを見つめ、もう一度モニターを見つめてから、俺はシリンダーを手に取った。
「気が向いたら、やってやるよ。それと、あんたに見せたいものがある」
シリンダーをポーチに入れたあと、俺は一枚のホロテープを取り出し、コンソールにセットした。
『これは何かね?』
「とりあえず再生してみな」
『…「エデン大統領の存在は危険だ。あれは、我々が当初考えていたよりもずっと邪悪な存在だ。もっと早くに気づくべきだった…しかし、すべてがやつの計画通りというわけではない。私はやつの弱点を握っている。レイブンロックごとやつを自己破壊させる秘密のアクセスコード、420-03…いざというときは、これを…」これは、オータム大佐の声かね?』
「あんたは部下を過小評価していたようだな。オータム大佐の私室に置いてあったよ、ブラフかどうかは俺には判断できんがね」
『解せんな。実のところ君は、私をそれほど信用してはいまい?こういった奥の手を、あっさり私に引き渡した真意はなんだ?』
「そいつは」
すでに大統領専用フロアから出ようとしていた俺は、少しだけ足を止め、冗談めかして呟いた。
「そいつは、俺があんたのラジオのファンだからさ」
『…私には自我があると思っていた。感情が。しかし私には、君の考えていることがまるでわからない』
「気にするな。人間が人間を理解できるのだって稀なんだから」
どうも、たまには俺にも運が向くことがあるようだ。
まさか迎えが来るなどとは思っていなかった。それも赤絨毯ではなく、ガトリングガンの援護で。もちろん今は、そっちのほうが有り難い。
レイブンロックを出てすぐに、施設から脱出しようとするベルチバード数機が大破し火の玉となって墜落していく光景が目に入る。無数の銃弾を吐き出し、多少のダメージをものともせず大立ち回りを演じるスーパーミュータント、それは。
「フォークス!」
「無事だったかヒューマン」
「なぜここに?」
「ヴォールトから連行されるオマエを見て、ここまで追ってきた!一つ貸しだ」
「でかい貸しになるぜ、こいつは」
持つべきものは友、か。
俺も脱出の途中で拾ったレーザーガトリングを構え、周囲に展開するエンクレイブ兵に向かって発砲する。
あらかた敵を排除した俺は無傷のまま残っていたベルチバードに乗り込み、体内に格納されている接続端子をコントロール・パネルに刺し込んだ。エンジン始動、目的地設定、自動航行システム、オン。行けそうだ。
ふと外を見回すと、フォークスが少し寂しそうな表情で俺を見上げているのがわかった。
「そいつにはオレは乗れないな」
「スマン、やるべきことが残ってるんだ。それにこれ以上、あんたを巻き込みたくない」
「上手い逃げ口上だな。借りはいつか返してもらうぞ」
「わかってるさ。いつか、きっと…な!」
浮上し、飛び立つベルチバードを見つめながら、フォークスは手を振り続けた。
「さらばだ、ヒューマン」
BoSの要塞に近づいたところで撃墜されかけ(当たり前だ)、緊急脱出用のプログラムを始動しどうにか着地に成功する。
『エンクレイブのくそったれめ、すぐに拘束して捕虜に…なんだ、こいつ』
「ズレたことしてんじゃねー!いますぐリオンズのじいさんのところへ連れて行け!」
おそらく貴重なエンクレイブ兵の捕虜が獲れると思ったのだろう、大挙して押し寄せてきたパワーアーマー軍団に、俺はあらん限りの大声で毒づいた。
「エルダー…父上!いますぐジェファーソン記念館を奪回すべきです!さもなければ…」
「だめだ、いまそれをやっては被害が大き過ぎる。はやる気持ちを抑えろ、まだ…そのときではない!」
「ならば、何時!?」
要塞内部では、サラ・リオンズ率いる精鋭部隊リオンズ・プライドと、サラの父親でありBoS西海岸支部の最高権力者であるエルダー・リオンズが対立していた。
どうやら、俺のことは見えていないようだ。
「Hey。どうしたよ先生がた、食糧配給チケットの期限が明日にも切れそうだって顔してるぜ」
「無礼者!貴ッ様、エルダーに向かって何という口を…!」
「よさんか」
どうやら、気を引くためのジョークはあまりお気に召さなかったようだ。
スクライブの一人が激昂するが、すぐにエルダー・リオンズが引き止める。老齢の司令官は俺を興味深そうな目つきで見つめると、いささか困惑気味に口を開いた。
「それで、たしか君は…?」
「ジェームズの息子だ」
「ああ、そうか。エンクレイブに追われ、我々に保護されたあと早々に姿を消した男だったな。いまさら何の用かね」
これまで俺は、BoSに対しては無関心、不干渉の姿勢を貫いてきた。俺の力が必要とされているときでさえ。G.E.C.K.の回収も俺が個人的にやったことで、彼らはそのことを知らない。好意的に見られないのも無理はないだろう。
しかも俺は、取り返しのつかないミスを犯してしまったのだ。
「エンクレイブがG.E.C.K.を入手した。あとは起動コードを入力すれば、浄水装置は起動をはじめる。起動コードも…連中は入手済みだ。カウントダウンはとっくに始まっている」
ざわ……
俺の言葉に、その場にいたすべての人間が動揺の声を漏らす。
エルダー・リオンズも例外ではなかったが、しかし他の連中に比べれば、まだ冷静さを保っていた。
「…それで、なぜ。なぜ、君がそれを知っている?」
「全部俺のせいだからだ」
他に何て言えば良かったんだ?
要塞は大変な喧騒に包まれた。誰もが俺を「裏切り者」と批難し、罵り声を上げる。胸倉を掴まれ、銃口を突きつけられながら、俺は当然予想された反応にただ身を委ねるばかりだ。
しかしそれも、エルダー・リオンズの恫喝によって制された。
「静かに…静かに!静粛にせい、黙らんか馬鹿者共が!」
滅多に声を荒げることがないであろう、温厚なエルダー・リオンズの口から発せられた罵声に、BoSの面々は目を丸くする。
途端に静寂さを取り戻した空間で、エルダー・リオンズが俺に質問をぶつけた。
「故意ではなかろう?詳細の報告を頼む、傭兵(Mr.Merc)」
「俺はG.E.C.K.を回収するために、Vault87へ向かった。そしてG.E.C.K.を入手した直後、エンクレイブの襲撃を受け拉致された。起動コードを知られたのは偶然だった…が、俺の過失に変わりはない。まあ、収穫もあった。エンクレイブは内部で対立している。連中が行動を起こそうとしている今こそ、その対立がもっとも激化するタイミングでもある。アクションを起こすなら、今だ」
2013/10/02 (Wed)13:21
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドの旅がはじまる…」
「これはこれは、懐かしい面々がお揃いで。今夜は祝杯を上げねばなりませんな」
アンダーワールド、ナインス・サークルにて。
たんなる冷やかしで言ったのか、それとも職業的無意識から来る接客態度の表れなのかはわからなかったが、アズクハルの生温かい声を聞いて、俺はマスクの下で申し訳程度の愛想笑いを浮かべた。
ミスター・クロウリーとともにアンダーワールドへ帰還した俺は、図らずもけちなバーテンの営む酒場でリトル・ムーンビーム(本名は以前聞いたような気がしたが、忘れた)と再会したのだった。彼女とは過去に一度仕事をしたことがあり、リベットシティで別れて以来行方不明になっていたことを気に煩っていたのである。
「Hey、リトル・ムーンビーム。戻ってきてたのかい」
「あたしをその名で呼ぶことを、あんたに許した憶えはないんだけどねぇ…まあ、いいわ。例のホロテープの件もあることだし。それにしても、あんたも物好きよね」
物好き、というのは、アンダーワールドに好んで居ついてることを言ってるのだろう。おまけにグールの女と懇意にしているというのだから、物好きなんて表現はかなりマイルドなほうだ。
「しかし、ま、うん…無事で良かったよ。しかし、できることなら…」
「もっと早く戻ってきて欲しかった?驚いたわよ、入り口をくぐって早々、『あのネクラなスムーズスキンに殺られたんじゃないのか』って言われたんだもの」
「…だよな」
無粋な配慮や隠し事をせず、思ったことをずけずけと口に出すのはグールの性分みたいなものだ。そういうところが気に入ってるからこそ、俺はこの場所を気に入ってるのだが。
裏話…じつはリトル・ムーンビーム(本名マジで忘れた)が行方知れずになってたのは本当の話で、ミスター・クロウリーともどもコンソールからムリヤリ呼び出したという次第。死んでたわけではないので、AIがきちんと機能してなかったのだろう(彼女絡みのクエスト終了から相当時間が経ってたのと、ミスター・クロウリーが倉庫から不動だったことを鑑みると、未だに移動中だったとは考えにくい)。
ちなみにFOOK2の彼女はけっこう良い品を取り揃えているので、歴史博物館でのクエストが終わったら早々にコンソールでアンダーワールドに呼び寄せても良いかもしれない。チューリップも相当に良い品を揃えているので、思い入れを抜きにしてもアンダーワールドがかなり有用な拠点になることは間違いない。
逆に、パラダイス・フォールズのプロントがなぁ…中華アサルト(FOOK2ではAK系列のアサルトライフル全般)を20挺渡しても品揃えが改善されないのは不具合なのか仕様なのか。
オヤジがジェファーソン記念館で斃れる直前、浄水プロジェクトを完成させるために必要と謳っていたG.E.C.K.(エデンの園創造キット)なるものを入手するため、俺はVault87へ向かうことにした。
といっても正面からの侵入は不可能に近く、あまりに濃度の高い放射線量が計測されているため迂回路を探す必要がある。BoSの連中が言うには、ランプライト洞窟から侵入できる可能性があるとのことだったが…
「ここは子供だけが入れる場所だ、ムンゴ(薄汚い大人ども)は出て行け!」
ズダーン、洞窟に一歩入った俺を待っていたのは、カラシニコフの洗礼だった。
両爪先の間に見事に着弾した穿を見つめながら、顔を上げた俺は眉をひそめる。というのも、銃口から硝煙を上げるカラシニコフを手にしていたのは、年端も行かない少年だったからだ。
「いきなり眉間を撃ち抜かなかったことを、褒めるべきか、考えが甘いと言うべきか、ちょっと悩んでるよ」
「あんたはまだ銃を抜いてない。もしあんたが腰にぶら下げてるイチモツを使う気なら、口の中狙って2発ぶち込むまでだ。できないと思うかい?」
「…ちょいと粋がり過ぎるきらいはあるが、少年、こういうのに慣れてるな?迷いのない目、たいして乱れてもない呼吸、たいしたもんだ」
「あんた、きちがいか?銃で狙われてるんだぜ、まったく調子狂うよなァ」
そう言うと、少年は銃口を下げてため息をついた。
どうやら俺に敵意がないことは伝わったようで、なによりだ。
「で、あんたナニ様?リトル・ランプライトになんか用?それとも道に迷ったのかな、あるいは自殺志願者とか?」
「ブー、どれも外れだ。そんなんじゃあハワイ旅行には行けないぜ?俺はヴォールト87って施設への侵入口を探してる、ブラザーフッドオブスティールっていう、ブリキのカタマリみたいな連中が言うには、この洞窟に繋がってるそうなんだが」
「ヴォールト?あんな場所に何の用があるんだよ?あそこはいまバケモノで溢れ返ってるんだぜ」
「知ってるのか」
「知ってるよ、道筋もね。と言っても、いまは閉鎖中なんだけどさ。黄色くてデカい、オッサンみたいなバケモノが出てくるからバリ作って塞いじまったよ」
「スーパーミュータントが?ヴォールトから、だって?」
「…でー、ここまで聞いてもまだ行きたいのかい?せっかく積んだバリを取っ払って、バケモノだらけの通路を開放するだけのリスクを僕らに背負わせたいわけ?」
「生憎と、外せない野暮用があるもんでね。それじゃあ、取り引きしないか?少年、仲間はいるのかい?こんな洞窟じゃあ物資も碌に確保できないんじゃあないのか」
「たまにスカベンジャーと取り引きくらいはするさ。それが、あんたを奴隷商人と断じて眉間をぶち抜かなかった理由でもある。彼らに感謝するんだね」
「そいつはどうも。そうだな、もしヴォールトへの道を開けてくれるなら、銃と弾薬、食料、衣料品を提供しよう。前払いでだ」
「前払い?ぼくらを馬鹿にしてる?あんた、どうして物資だけ横取りされて殺されると思わないんだい?」
「もしそんなことするくらいなら、とっくに俺を殺して装備を剥ぎ取ってるだろ。生かして利用したほうが得な相手を見分けるくらいのインテリジェントはあると思ったんだが、見込み違いだったかな」
「…つくづく、おかしなムンゴだ、あんた」
「それに道を開けてくれたら、黄色いオッサンどもは出来る限り俺が始末しておいてやる。得意なんだ、そういうのは。専門家と言ってくれてもいいが」
「わかった、わかったよ。じゃあ先に物資を持ってきてくれ、そうすればヴォールトへの道は開放してやる。ただし騙そうなんて思うなよ!ちょっとでもおかしなこと考えてみろ、脳天ぶち抜くからな」
そう言ってから、少年は形ばかりの恫喝とともに銃口をふたたび持ち上げる。が、もう撃つ気がないのは明らかだ。
俺はややオーバーなアクションで肩をすくめてみせると、一度洞窟を後にした。
意外と思われるかもしれないが、俺ってば基本的に子供には優しい、というか、甘いのだ。
まして彼らは、少ない情報から推察するに、奴隷商人やスーパーミュータントといった脅威に対し日常的に立ち向かっているようだ。そして恐らく、彼らのコミュニティに属する大人の協力者はいない。この不毛の地で、子供だけで強く生き抜くその姿勢、まさしく尊敬に値する。
他人にたかり縋ることしか考えていないクソッタレな自称善良の民がはびこるウェイストランドで、多少生意気だからといって、どうして彼らに厳しく接することができようか?
そんなわけでいま、俺は少年たちのために物資をかき集めているところなのだが…
「子供用の服?そうかい、あんたにもついにねぇ…」
「や、あのね姐さん、そうしみじみ言われると、俺すっげー申し訳ない気分になるっていうか…ていうか、わかってて言ってるよね!?」
アンダーワールドの装具屋にて、まるで親戚の結婚を祝う叔母のような表情を見せるチューリップ姐さんに、俺は思わず裏返った声を出してしまう。
そんなこんなで物資を集めた俺は少年の覚え目出度く、ようやく洞窟の中に入ることができたのだった。
「あのマクレディに認められるなんて、兄さん、やるじゃないか」
「まーね、それにしてもだ。その服どうよ、キマッてるだろ?大人顔負けの子供達ってからには、ファッションもビシッと着こなさなくっちゃあなるめぇ」
どうやらここは、リトル・ランプライトと名づけられた子供だけのコミュニティらしい。
俺はリトル・ランプライトの食糧事情を管理しているエクレアと名乗る少年と雑談を交えつつ、彼らにまつわる諸事情を聞いていた。ちなみに、門番として俺の前に立ち塞がったソルジャーの名前はマクレディというらしい。市長の肩書きを持ち、リトル・ランプライトの現最高権力者なんだそうだ。
性格はやや粗暴だが頭が切れ、仲間想いで、銃の扱いも上手い。なるほどカリスマ的存在というやつだ。英雄待望論なんてのは俺のもっとも嫌う概念だが、それでも子供には指標となる存在が必要だろう。
そんなことをグダグダと話しつつ、新しい衣類など望むべくもない環境で新品の衣類に身を包んだ子供たちを見つめながら、俺はちょっとした自己満足に浸ったりするのである。
「まったくね。それに、食料も…洞窟キノコ以外の食料なんて滅多に手に入らないから、本当にありがたいよ」
「洞窟キノコ?なんだそれ」
「知りたい?死体に…」
「いや、やっぱいい」
どうやら彼らは、俺が思っていた以上に過酷な環境に居るみたいだ(本人たちがどう自覚しているのかは知らないが)。
食事に関して言えば俺はかなり好き嫌いがあるほうで、基本的にパッケージされた食品しか食べる気がしない。衛生云々よりも文明的なものに触れると安心する性質なのだろうと思う。逆にラッドローチやミレルークの肉なんぞは、どんなに新鮮で栄養価が高くて美味であっても口にする気にはなれない。
「のっくのっく!このマスクってブラザーフッドのだよね!秘められた物語の匂いがぷんぷんするであります!」
「たしかにすごい装備だけど、女の子が被るにはごつ過ぎやしないかな…」
「そうかい?彼女は気に入ってるみたいだけどな」
商店(土産物屋、らしい…当人曰く)を管理しているニックナックと、双子の妹でゴシップ好きのノックノックと対面。武器弾薬の管理は彼らに任せることになるだろう。
それにしても、なかなかどうして個々の役割分担がきちんと機能しているもんだな、と俺は思う。これもマクレディのリーダーシップの成せる業か。
「アンタ、私みたいな子供にこんな格好させるなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「プリンセス!俺はあなたの下僕です!どうか犬と呼んでください!」
「くぉの、変態!変態ッ、変態ッッッ!!!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
Vault87へと続く道、スーパーミュータントが跋扈する通称「殺人通り」を封鎖するバリケードの監視を担当している少女プリンセスが着ているのは、俺がコンスタンティン砦で回収したMOD装備だ。
ついでに武器も無骨で小汚いソウドオフなんかじゃなく、華麗で小柄な容姿に鋭い攻撃性を秘めた彼女のキャラクターに合うよう、.44Magnum装填のデリンジャーLast Standを持たせてみる。
どうやらこのあたりで、抑えてきた俺の理性が飛びかけたようだ。
「子供だけの国…子供だけ…ここが天国か。俺のヴァルハラはこんな場所に存在していたというのかッ…!これもオヤジの導きのおかげ、ありがとうオヤジッ…オヤジ、フォーエヴァー…!」
すでにG.E.C.K.を回収するという当初の目的も忘れかけ、子供だけが存在を許されるキャッキャウフフな環境に俺は心を奪われていた。
俺の暴走はさらに加速する。
「先生…小さい先生…ッ!俺は、俺はもう…俺はもう…ッ!」
「わっ!?ちょ、ちょっと、なにするのよっ!?」
「小さい先生、俺の病気を治してください!俺の心の奥底に巣食う病魔を、先生の幼い肢体でどォか!」
「キャアーーーッ、誰か助、助けてっ、マクレディーーー!」
「先生ーーー!先生ーーー!俺、小さい先生とそるふぁそふとしたいですっ!」
どう見ても犯罪です本当に(ry
後で駆けつけたマクレディに本気で銃弾を叩き込まれたのは当然の成り行きである。V.A.T.S.の一時的に代謝を高める効果を利用しなければ死んでいるところだった。
血まみれになりながらぶっ倒れる俺に、マクレディは鬼のような形相で叫んでいたという。
「ぼくの目が腐っていた!こんなムンゴを入れるんじゃなかった!」
一度死に掛けたのと、意識が回復した後にリトル・ランプライト住民全員の前で土下座したことで一応許してはもらえたが、次に暴走したら確実に息の根を止めるとマクレディに釘を刺されてしまった。
ただマクレディよ、プリンセスを見るときに目尻が下がっていたのを俺は見逃さなかったぞ。
「いいスーツだろ。脅すつもりはないが、俺に感謝しろよ」
小声でそう耳打ちした俺の頬に、マクレディのパンチが炸裂したのは言うまでもない。
以来、俺はリトル・ランプライトで「ケツみたいな顔をしたド変態クソムンゴ」なる非常に不名誉な渾名を拝名することになるのだが、どこも間違ってないので否定できないのは悲しい事実である。
「さて、そろそろシリアスに戻るとしますかね」
殺人通りを抜け、Vault87への侵入に成功した俺はスーパーミュータントを薙ぎ倒しながら施設内を突き進んでいく。
コンスタンティン砦、か…ナショナルガード補給所だったか?とにかく地下施設の武器集積所で入手したP90を手に、俺は血の海と化したフロアをぐるりと眺め回した。
このP90はウェイストランドでもっともメジャーな10mm拳銃弾仕様に改造されており、装弾数の多さと威力の高さからちょっとしたバランスブレイカーとなっている。集弾性も悪くない。
道中、フォークスを名乗るスーパーミュータントと出会った。
常人並みの知能を持ち、争いを厭う彼は仲間に幽閉されていたのだそうな。もちろん、証拠はない…頭から信用するのは危険、と言いたいところだが、通常、スーパーミュータントの知能はせいぜい人間で言う幼児止まりで、はっきり言ってレイダーなんかより相当バカだ。
そもそも騙し討ちだのといった概念があるかどうかすら疑わしい連中の中にあって、まともな話し合いができるだけでも信用に値する。それに、まぁ…もし利用するだけ利用して俺を排撃するつもりなら、そのときに始末してやればいいだけの話だ。
「しかし、ここは何なんだ?いままで、色々なヴォールトを見てきたが…ここは何の実験施設だったんだ?」
「ヒューマン、FEVウィルスというのを知ってるか?大戦中に開発された人類強制進化ウィルスと呼ばれるもので、核攻撃を受けた際にワシントン中に流出したものだ。脆弱なヒューマンが、日常的に放射線を浴びても問題なく生きていけるのはFEVを大なり小なり摂取し遺伝子が変質しているからだ」
「なんだって?」
「そして、FEVを本来の目的通りヒューマンに投与して作られるのが…オレたち、スーパーミュータントだ。強靭な肉体と引き換えに知能が低下し、無性化によって繁殖が不可能になる。しかし我々は、本能的にヒューマンを攫い、ここに遺された実験装置のFEVを利用することで仲間を増やしてきた」
「つまり…スーパーミュータントは大戦中に政府が研究していたスーパーソルジャー計画の名残ってことなのか?その研究施設がこのヴォールト87だと?」
「そういうことだ」
フォークスの口から語られる、衝撃の事実。
どこから現れ、なんのために人間に敵対するのか、その一切が謎に包まれていたスーパーミュータントの真実が、こんな形で判明するとは。フォークスは仲間に争うことの無意味さを説いたが、賛成だの反発だのという以前に主張の意図そのものが理解されず、その特異性を恐れられ独房に幽閉されてしまったらしい。
そして独房内に設置されていたターミナルから研究施設に遺された情報を調べるうち、知識と教養を深めていったという。
「ところでフォークス、G.E.C.K.という装置のことを知らないか?」
「G.E.C.K.だと?端末に情報があったな…フムン、あの装置に価値を見出すヒューマンがいたとはな。しかし、あれは非常に扱いが難しい装置だぞ?表面的には環境回復を謳っているが、その本質は物質の再構成、ただそれだけに過ぎない。扱いを間違えると、とんでもないことになる」
「いや、心配はいらない…と、思うね。俺は科学者じゃないから詳しくは知らんが、G.E.C.K.はあくまで補助的な装置としてしか使わないらしい。ワシントン全域の、放射能に汚染された水質を改善するため、G.E.C.K.のプログラムを改変・流用して浄水装置に組み込むんだと」
「なるほど、悪くない発想だな。ただ、G.E.C.K.が安置されている部屋は高濃度の放射線に覆われている。とてもではないが、ヒューマンでは耐え切ることはできないだろう。水質改善、清浄な水などというのは我々スーパーミュータントにとっては縁のない話だが、それでもオマエには恩がある。オレがG.E.C.K.を取ってこよう」
「すまない。恩にきる」
「お互い様だ」
こうして、多少はヤマがあったり迂回路を通ったりはしたが、結果的にはスムーズに目的を達成することができた。
煙草をふかしながら待っていた俺に、フォークスがスーツケース型の装置を差し出す。
ドクター・スタニスラウス・ブラウンの遺物を手に取り、一通り眺め回してから、オレは感想を口にした。
「これが、G.E.C.K.か…機能の割には小さいもんだな。あの幼女趣味のオッサン、天才と謳われただけのことはあったようだ」
「幼女趣味?」
「や、こっちの話。ところでフォークス、あんたはこれからどうするんだ?」
「オレにとっては、もうスーパーミュータントは同族でも仲間でもない。旅に出たいと思う…オレが他のスーパーミュータントと違うのには、なにか理由があるはずだ。オレにしかできないこと、天命が必ずあるはず。それが何なのか、それだけは端末の情報からだけではわからなかった。それを探したい」
「立派な心がけだな。ただ、人間には注意しろよ?特にスティールの連中には…あいつらに、スーパーミュータントの区別なぞつかんからな。そうそう、以前、あんたと似たようなスーパーミュータントを見かけたことがある。アンクル・レオと名乗ったか…あんたの助けになるかは知らんが、探してみるといい」
「気遣いに感謝する。達者でな、ヒューマン」
こうしてフォークスと別れた俺は、研究者達の待つワシントン記念館に戻るためリトル・ランプライトへ続く道へと引き返したのだが…
突如足元に放り込まれたものを見て、俺は目を疑う。フラッシュ・バン?パルス・グレネード?あるいは、それらの機能を複合させた改造型か。非致死性の、標的の無力化に特化した投擲物にプリントされたエンクレイブのロゴを発見し、俺は力なく呟いた。
「オゥ、シット」
次の瞬間、すさまじい閃光と轟音、そして電磁場が発生し、それに耐えることなく俺はフロア・タイルの上に無様に転がった。視界の端に、全身を漆黒のパワーアーマーで固めた特殊工作員たちの姿が写る。
『ターゲットA-1の無力化を確認。これより拘束します』
『ターゲットA-2を確保。機能に問題はないと思われます』
「まったく、貴重な電子装置を持っている相手にパルス兵器を使うやつがあるか!次からは気をつけろ、そんなものがあればの話だがな」
『申し訳ありませんでした。了解しました』
そして、パワーアーマー部隊に混じって近づいてくる白いロングコートの男。
「て、てめぇ…ッ!」
「君の父上が私に放った10mm弾は、けっこう効いたぞ。見ての通り、死にはしなかったがね」
そこにはかつて、ジェファーソン記念館でオヤジと壮絶な銃撃戦を展開したアウグストゥス・オータム大佐の姿があった。
「あまり私を嘗めるなよ、小僧。さあ、もう一度私のゲームに付き合ってもらおうか…!」
オータム大佐の怨嗟の声を聞き届けた直後、俺は意識を失った。