主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2014/10/13 (Mon)22:04
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
** ** ** **
荒涼とした街路地に、累々と死体が横たわっている。
ペンシルバニア通り、ホワイトハウス前。
バリケードが張り巡らされ、かつて国政の中枢だった爆心地への侵入を防がんと積み上げられた土嚢の影にはスティール隊員の亡骸が残っている。その目前、旧時代の戦争で大穴が穿たれた道路には巨像の如き強靭な肌を持つスーパーミュータントの死体が散乱していた。
「ひどいざまだな、兄弟」
先刻まで激しい戦闘が繰り広げられていたらしい、硝煙の残り香を放つ薬莢を蹴飛ばしながら、俺は金属製のボックスに所在無く腰掛けるスティール隊員に話しかけた。
疲れきった様子の隊員はしばらく俺を見つめてから、まるで期待していないような素振りで口を開く。
「あんた…援軍かい?」
「残念だが違う、上からの勅命でね。新設されたエンクレイブの基地に潜入するため、大統領専用の…古い政府のな…メトロを使いたい。場所はわかるか?」
「ああ、あんたがトリスタンから連絡のあった傭兵か。そこのマンホールからホワイトハウスの地下トンネルへ入れる、大統領専用メトロに繋がっているはずだ。幸運を祈るよ…他に頼れるものなんか、ないだろうからな」
「…ここの状況は酷いみたいだな?」
「俺以外の隊員は全滅した。指揮官も、仲間も。だのに物資の補給も、補充兵が来る様子もない。忘れられちまったんだろう、いまはエンクレイブ狩りがトレンドだからな。スーパーミュータントの脅威なんか過去の話ってわけだ、まだそこいら中にいるってのに」
なにもかも諦めきった口調で話す隊員に気の利いた台詞の一つでも言いたかったが、今の俺にできることはなにもなかった。
スティールは明らかに手を広げすぎている。拡大する戦線に人員も物資も追いついていないのだ、だがそれを改める気はないらしい。大義はときに目を曇らせる、だから俺は政治信条など信用しない。
孤独なソルジャーに背を向け、俺はマンホールの蓋を開けると、薄暗い閉鎖空間へと身を落とした。
** ** ** **
ガガガガガガッ、ガシャン!
『俺の亡骸は故郷の土に埋めてくれ…』
「まだセキュリティが生きていたとはな。厄介なことになりそうだ」
Mr.ガニーことMr.ガッツィーに中国製の弾丸を浴びせた俺は、ガチャリと弾帯を揺らしながら周囲の様子を窺う。
旧世紀のセキュリティ・ロボットに守られた地下施設の中で、俺は未だに色褪せぬメッキの光を放つトマス・ジェファーソンの銅像を見つめながら、複雑なため息をついた。
テスラコイル回収後、俺がスティールのパラディン・トリスタンから新たに命ぜられたのは、エンクレイブの第二の拠点アダムス空軍基地への潜入。
アンカレッジ記念館前の下水溝からジョージ・タウンを経由し、ホワイトハウスの地下くんだりまでやって来たのは、他に安全なルートがなかったからである。単独でのステルス・ミッションゆえ、エンクレイブから接収したベルチバートを使うこともできなかった。
「部隊の大部分を陽動作戦に導入するとか言ってたが、大丈夫なんだろうな…?」
エンクレイブの拠点の位置割り出しと潜入ルートの特定は、以前ロックランドの通信施設から得た情報によるものである。テスラコイルをスティールの要塞の届けたとき、暗号解析が終了し潜入作戦の算段が整ったことを聞かされた俺は、そのまま休む間もなくこんな場所まで向かわされたわけだ。
「愚痴はほどほどにして、ゆっくり休むのは全てが終わってからにするか」
前向きに考えよう。
あまり役に立たない自己暗示をかけながら、俺は旧世紀の死体が散乱する通路を通り抜けた。
幾つかのフロアを経由し辿りついたのは、M.A.R.Go.T.(マーゴット)と呼ばれる、人工知能を搭載したセキュリティの中枢端末だった。
『ただいま当施設は厳戒体制下にあります。端末の利用に際してはセネター・クラスのIDの提示を願います』
「IDね…こいつでどうかな?」
俺は道中で見つけた上院議員のものと思われる死体から取ったIDカードをM.A.R.Go.T.の視覚センサーに提示してみせる。
「個人的には、対話形式よりもコンソールを使うほうが好みなんだけどな。現在のメトロの利用状況を教えてくれ」
『貴君のIDを承認しました。現在メトロ構内に多数の不審人物が侵入しており、セキュリティ・ユニットが対処に当たっています。すべての路線はステータス・グリーン確認後に再開される予定です』
「路線は再開予定…ってことは、いまは閉鎖されてるってことか。アダムス空軍基地に繋がる路線だけ、管理者権限を使って特例で稼働させることはできないかな?」
『不可能です。現在、アダムス空軍基地行きの路線は電源ボックスの不備により再開することができません。ステータス・グリーン確認後にセンチネル・ユニットが修理予定です』
「参ったな。てことは、例の不審者を排除しない限り電車を走らせることはできないわけだ。で、その不審者の特徴は?」
『各種センサーによる情報を統合したところ、対象はいずれも人型でありながら体温では検知できず、さらに致死量の放射線を帯びていると予測されます』
「…体温を検知できない、だって?」
てっきりメトロ構内を徘徊する不審者はエンクレイブ・ソルジャーだとばかり思っていた俺は、M.A.R.Go.T.の意外な返答に困惑してしまった。
ひょっとして、エンクレイブ製のパワーアーマーが体温の放射を遮っているのか?
そう思った俺はしかし、それでは「致死量の放射線を帯びている」という点に説明がつかないことに気づき、ようやく不審者の正体を察することができた。
「まさか…フェラル・グールか!」
『そのような単語は私のメモリ・バンク内には存在しません』
M.A.R.Go.T.は戦前に作られたAIで、まして閉鎖的な環境で稼働し続けていたため、フェラル・グールの存在を知らなくても無理はない。
「なるほど、あいつら地下鉄大好きだもんなぁ。わかった、連中を掃除すればいいんだな?おっと、セキュリティ・システムの攻撃対象から俺を外しておいてくれよ」
『了解、貴君の外観的特長を全セキュリティ・ユニットに送信しました。よい一日を』
** ** ** **
「しかし、あいつ…どことなく、エデン大統領とおなじZAXシステムに似てる気がするんだよなぁ」
M.A.R.Go.T.から離れた俺は、どうやら相打ちとなったらしいセキュリトロンのスクラップとフェラル・グールの死骸を見つめながら、そんなことをつぶやいた。
メトロ構内のグール狩りはそれほど難しいものではなかった。
セキュリティ・ロボットたちが手こずっていたのは小回りがきかないからだが、ひとたび銃声が聞こえれば機敏に対処することができるため、俺は機械が見つけにくい場所に隠れているやつを探し出せば、あとは血の気の多いMr.ガッツィーが過剰な武装で処理してくれるといった按配だ。
やがて何十年かぶりに構内の安全を確認したセキュリティ・システムの命令によりセンチネル・ユニットが破損した電源ユニットを修理し、地下鉄にふたたび命が吹き込まれた。
「どうやら電源ユニットの破損は経年劣化や流れ弾とかじゃあなく、人為的な工作跡があったな。グールの爪跡なんかじゃあない、あれに限ってはエンクレイブの仕業…だろうな」
地下鉄に乗車し、走行中に他の路線から流れてきたらしいフェラル・グールの大群とセキュリティ・ロボットたちの交戦を眺めながら、俺はそんなことをつぶやいた。
拠点とD.C.を繋ぐ交通網だ、まさかエンクレイブがこの施設の存在を把握していないはずがない。
エンクレイブの主要な移動手段はベルチバードだ、地上の交通ルートを潰しても問題はない、という思惑だろう。もっとも暗号化された情報が奪われ解析される可能性はほとんどないと考えていたのか、スティールが侵入に使うという懸念については大した対策はされていないようだ。
「それで、万一のことを考えての監視には最低限の人員しか配置されてないわけだ」
たいして警戒している素振りも見せないエンクレイブ・ソルジャーを壁越しに発見した俺は、コンバット・ショットガンの銃口を持ち上げ発砲のタイミングを計る。
こんな場所に人数を割くわけにいかないのはわかるが、俺だったら天井を爆破なりして侵入路を完全に塞いじまうけどな…などと考えてみるものの、万一のことを考えて施設を稼動状態のまま保っておきたかったのかもしれない。
「判断ミスとまでは言わないが、俺が相手では不幸だったな」
V.A.T.S.起動、リフレクス・エンハンサーとグリムリーパー・スプリント・プログラムの出力を最大設定。
壁から飛び出した俺は、まず一人目の股関節…パワーアーマーが保護しきれない部位にスラッグ弾を叩き込む。内股の動脈が破裂し、おびただしい出血とともに相手はもんどりうって倒れる。続けて、慌てて銃を構えた兵士の指を弾き飛ばし、宙空に舞う大口径拳銃を視界の隅に捉えながら首を狙い撃った。
ゆっくり流れていた時間がふたたび元の速度を取り戻し、首が吹き飛ばされた死体と、脚の付け根から大量の血を流し床をのたうち回りながら悲鳴を上げる兵士を眼下に捉える。
急所っていうのはなにも、即死部位だけを指すものじゃない。動脈を破壊すれば、たいていの人間は助からないものだ。首だろうが、脇だろうが、内腿だろうが、それは変わらない。
いますぐ適切な治療をすれば助かるだろう。だが、そんな手段はこの荒廃世界にはもう残されていない。
「No, no, no... Sorry, sorry... 」
こういうときに苦痛から解放してやるのは、傭兵にとっての義務のようなものであり、また、兵士への敬意を示すものでもある。
俺はかぶりを振り、12ゲージの巨大な銃口をエンクレイブ・ソルジャーのこめかみに突きつけると、引き金をひいた。
** ** ** **
地下施設から這い出たとき、最初に聞こえてきたのはベルチバートの飛行音だった。
「元気だねぇー…まだあんな余力が残ってたのかい」
アダムス空軍基地には多数のベルチバードが駐留し、施設全体にやけくそのような数の無人タレットが配置されている。
「まずはあれを潰すか」
俺は狙撃用ライフルを取り出すと、一つ、また一つと高火力無人タレットを潰していく。
おそらく施設を探して回れば制御用のコンソールが見つかるはずだが、どこにあるか検討もつかない代物をアテにする気はない。それに、呑気に探し物ができるほどエンクレイブ製タレットのセンサーは鈍臭くはない。
そして俺が狙撃をはじめたのとほぼ同時に、どこからか飛来したベルチバードが施設の攻撃をはじめた。
あれはスティールが鹵獲したもので、はじめはエンクレイブの連中も戸惑っていたが、すぐに攻撃の正体を察知すると、反撃をはじめた。
先の攻撃は、俺がアダムス空軍基地に到着してすぐに作動させたビーコンを合図に行なわれたものだ。もちろん、ビーコンが発した信号を傍受され侵入が察知される可能性もある。それをスティールの陽動攻撃が覆い隠してくれるといいのだが。
無人タレットを始末し、居住区域への侵入は不可能だと判断した俺は倉庫のような場所へ入る。
「…!?お、おまえは!?」
そのとき、俺の姿を見て狼狽した何者か…おそらくエンクレイブ所属の研究者だろう…白の防護スーツに身を包んだ男が慌てて警報装置を鳴らそうとする。
しかし…ビシュッ!
「う、うわあああああ!」
サプレッサーを装着したサブマシンガンの掃射で腕を切断され、エンクレイブの研究員が悲鳴を上げる。
「あまり騒ぐな、俺は無用な殺しをしたいわけじゃない」
「くっ、畜生!」
俺の警告を無視するかのように、男は左手で自衛用のイオン・ピストルを抜こうとする。
パキャッ!
その手がピストルのグリップに触れる間もなく、俺の手のなかでサブマシンガンが震えた。
頭部を砕かれた男の死体を跨ぎ、俺は階段を上がって倉庫内の様子を一望する。
「これは…デスクローの飼育施設か」
バケツに雑多に押し込められた餌用の生肉…何の肉かは考えないでおこう…の放つ異臭に顔をしかめながら、俺は電磁シールドで覆われた檻を見下ろす。
試作型のスクランブラーはまだ手元にある、が先例にある通りこいつらを放したとして物の役に立つとは思えない。なによりスクランブラーは俺の身の安全を保障するものではないのだ。
ひとまずデスクローは無視するとして、俺は先を急ぐことにした。
やがて日が落ち、俺は未だに続くスティールとエンクレイブの攻防を遠目に歩を進める。
「あれか…」
巨大な電磁シールド越しに見つけた、最終的な潜入目標。
ベルチバードによる攻撃にもビクともせず、その威容を見せつける巨大施設。
エンクレイブ最後の砦、移動要塞クローラー。
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2014/10/11 (Sat)04:02
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
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「やぁー、しばらくぶり」
「おや傭兵さんじゃないか。あのときは世話になったね」
キャピタル・ウェイストランド全域を放浪するキャラバンが集う街、カンタベリー・コモンズ。
スティールから引き受けた任務へ向かう道すがら、俺はかつてちょっとしたトラブルを解決したことのあるこの場所へとやって来ていた。長旅での中継地というわけだ。
「しかし、そのロボット…あのとき俺が壊さなかったっけ?」
「修理したんだよ。神経回路がすこし破損しただけらしくてね、ウルフギャングにパーツを都合してもらったのさ。いまではこの界隈を護衛してくれる優れたガーディアンだよ」
ここから目的地はそれほど離れていないが、どうやらエンクレイブの連中はまだこの場所を発見していないか、あるいは不干渉でいるのか…友達付き合いをしている、という可能性もなくはないが、あの連中が監視装置一つつけずに地元民を野放しにしておくとも思えない。
以前ロックランドの通信施設からエンクレイブの機密情報を持ち出した俺は、そのデータの暗号解析が終わるまでに別の任務を当たるようエルダー・リオンズに言い渡された。
どうやらスティールには破壊されたリバティ・プライムに代わる隠し玉があるらしく、そいつの完成に必要な部品…戦前に製造されたらしい、テスラ・コイルといったか…それを回収するのが今回の任務だ。
テスラ・コイルが存在する場所、それはオルニー発電施設。
オールド・オルニーといえば、デスクローの棲息地域として恐れられている、キャピタルでも随一の危険スポットだ。そこの地下水道から発電施設に入れるらしいが、詳しい場所についてはスティールも把握していないらしい。
さらに最近、オールド・オルニー付近でデスクローの研究のためにエンクレイブがキャンプを設営したという。
どうやらデスクローに洗脳装置を取りつけ兵器として転用するのが目的らしく、その技術はすでに実用段階にまで達しているらしい。
「おっかない話だねぇ。まあ、こっちにも対抗策はあるけどさ」
そうつぶやき、俺はスティールの技術官スクライブ・ヴァリンコート女史から受け取った携帯端末を取り出した。
これはデスクローの洗脳装置から発せられる制御信号に干渉し、周波数を書き換える装置だ。まあ、一種のジャマーのようなものだ。これをデスクローの近くで作動させれば、暴走状態となったデスクローが飼い主を襲うようになる…その前に俺を齧ろうとさえしなければ…という代物だ。
こいつはまだ試作品だが、今後エンクレイブが洗脳済のデスクロー部隊を差し向けてきた場合に備えて実地テストのデータが欲しいらしく、つまりこいつが役に立つかどうかの確認も任務に含まれるというわけである。
単独で挑む潜入工作、この無茶振りはスティールの人材不足も勿論あるが、それ以上に俺への信頼を証明していると…まあ、そう思いたい。
「やっぱり、この服のほうがしっくりくるな」
** ** ** **
翌朝、カンタベリー・コモンズを出てオールド・オルニー近くのエンクレイブ・キャンプへ向かう途中、銃火器を装備した三人の男たちを目にした。
「レギュレイター、あの連中、まだ俺のことをつけ回してたのか。さて…窪地で待ち伏せするバカどもを返り討ちにするなら、崖上から攻撃するのがベストでーす。そのとき核地雷を投げ込むのはいけないことでしょうかー?」
ニヤリ、俺は悪魔的な笑みを浮かべると、かつてエンクレイブの拠点からガメてきた核爆風地雷(ニュークリア・ブラスト・マイン)の安全装置を外しレギュレイターの連中に向かって投げつけた。威力は推して知るべし。
** ** ** **
エンクレイブ・キャンプへ到着した頃には、すでに夕方になっていた。
「意外と時間がかかったな…ま、ここはただの通過点ですし?試作品のテストをサクッと終わらせちゃいましょうか」
漆黒のパワーアーマーに身を包んだエンクレイブ・ソルジャーに見つからないよう、連中が捕らえたらしいデスクローの檻へ近づく。頭部に洗脳装置が装着されていることを確認し、スティール謹製の試作装置を起動させる。
すると、さっきまで大人しかったデスクローが檻を破壊せんばかりの勢いで暴れ出した!
「フラストレーションはあの黒い連中相手に晴らしておくれよな。それっ」
俺は慣れた手つきで檻の鍵を爆破し、デスクローをキャンプのど真ん中へと放逐する!
が、しかし…
ズパパパパパパパパンッ!
エンクレイブ・ソルジャーが手にした銃火器による一斉掃射で、デスクローはあっという間に蜂の巣にされてしまった!
「おいおいおいおい、瞬殺されてんじゃねーか!あーあ、アーマーに埃一つついてやしねー。レイダー以下じゃねえか…」
俺は道中で始末したレギュレイターの一人が持っていたベネリM4ショットガンを構え、装甲貫徹用のスラッグ弾を装填する。エンクレイブ製のパワーアーマーといえど、こいつを喰らって平気なやつはいない。
「結局俺がやるしかないのかい」
まだこちらの正体が割れていないことを確認しながら、俺は物陰から物陰へ移動し、リフレクス・エンハンサーとグリムリーパー・スプリント・プログラムの出力を最大にセットすると、勢いよく飛び出した。
ズドドッ、ズドッ、ズドッ、ズドン!
相手がこちらに銃口を向ける隙を与えず、俺はスローモーの世界で12ゲージのダブルタップを決める。
三人のエンクレイブ・ソルジャーを瞬時に始末し、V.A.T.S.停止後の反動にふらつきながら、連中が使用していたらしいコンソールを発見した俺はそいつに手をつける。幸いにもプロテクトは甘く、手早くクラッキングを済ませ内部に保存されていたデータを片っ端から体内に分散格納されているピップボーイの内蔵メモリにコピーしていった。
「こんなもんか…さすがに通信用のソフトウェアは使い物にならないな。連中は純粋にデスクローの研究目的でこんな場所まで出張ってきてたのか、少なくとも発電施設に関する情報は皆無だな」
ざっとコピーしたデータに目を通したところ、現状で役立ちそうな情報はない。
「それじゃあ、オールド・オルニーへ向かうとしますか」
** ** ** **
目的地に近づいたあたりで、激しい銃撃音が耳に届く。
「なんだ?」
レイダーや地元住民の諍いではない、それにしては銃音が「ハイテク」すぎる。
目を凝らしてみると、どうやら周辺をパトロール中だったらしいアウトキャストがデスクローと遭遇してしまったようだった。すでに何人かやられてしまっており、一人残った隊員が果敢に応戦している。
距離はだいたい80m…ショットガンで狙える距離じゃない、が。
「スラッグ弾てのは、もともとショットガンで遠くを狙うためのものなんだぜ」
誰ともなく俺はそう言うと、赤い光を放つ蓄光サイトの上にデスクローの姿を捉え、引き金をひいた!
バゴンッ!
破壊的な炸裂音とともに銃口が跳ね上がり、アウトキャスト隊員と相対していたデスクローの顎が吹き飛ぶ!
「正直、当てられる自信はなかったけどな…モダンな照準器に感謝、だな」
カチンッ、チューブマガジンに一発弾を補充し、俺は周辺を警戒しながらアウトキャスト隊員に近づく。
「大丈夫か?このへんは危ないんだ…ピクニックには向かないぜ」
「ケッ、どうせ俺たちはボーイスカウトだよ。だがまぁ、助かった。その点については礼を言うぜ、たしかあんたは…ヴォールト出身の傭兵だったな?」
「驚いた。素顔は見えなくても顔は売れるものなんだな」
「キャスディンから話は聞いてる、あんたは信頼できるってな。こんなこと頼める義理はないが、あのクソどもの掃除に手を貸してもらえないか?」
「デスクロー退治か。ちょうど、俺もあのへんに用事があったんだよ。途中までなら付き合うぜ」
「感謝する」
アウトキャスト隊員とともにオールド・オルニー地区へと突入し、この界隈を徘徊していたデスクローどもを排除していく。
何匹目かのデスクローを始末したあと、弾倉を交換しながらアウトキャスト隊員が訊ねてきた。
「ところで、あんたはなぜこんな場所に?スティールのために働いてるってのは本当なのか」
「まぁね。リオンズの得にならないと言えば嘘になる」
アウトキャストはBoSの分派で、その仲は殺しあうほどに悪い。ライバルなんてものじゃない、仇敵のようなものだ。
そんなわけだから、俺がスティールのために働いていると聞いた彼が当然顔色を良くするはずもない。それをわかっていて口を滑らせたのはたしかに軽率だし、いちおうフォローはしておくが。
「たんなる仕事さ。いまスティールはエンクレイブとの戦争に夢中で、死に体のアウトキャストなんぞに構う暇はないとよ」
「舐められたものだ。だが、まぁ、状況を考えれば否定はできん。我々もエンクレイブの連中は好かんし、勝手に潰しあってくれるならそれに越したことはない」
「もっとも、決着がつけばスティールはさらなる勢力拡大を画策するだろうが…ね」
「だろうな。あんたの目には、俺たちがさぞかし惨めに映るだろうな。この落ちぶれよう…たまに、スティールに残ったままのほうが良かったんじゃないか、そう思うこともある。あんたはどう思う?俺たちを笑うか?」
「もしそうなら」
別れ際、オールド・オルニーに張り巡らされた地下水道への入り口を下りていくとき、俺は僅かな間ともに戦ったアウトキャストの隊員に向かって言った。
「もし俺がスティールの大義とやらを信じてたなら、いまごろは傭兵としてじゃなく、スティールの一員としてあんたの前に現れてたさ」
この一言が、彼にとって僅かでも慰めになればいいのだが。
** ** ** **
地下水道もデスクローだらけだった。
ズドンッ、足を撃ち抜かれ、もんどりうって倒れたデスクローの背に連続して00バック散弾を叩き込む。
「しっかしこいつら、どこからこんなに沸いてきやがるんだ?やっぱり繁殖してるのか…卵生らしいが、こんだけぶっ殺しても気づいたらそこいら中にいるとか、勘弁してほしいぜまったく」
デスクローの戦闘力は、あらゆる装甲を紙切れのように引き裂く鋭利な爪もさることながら、その俊敏な機動力に頼るところが大きい。それを見越して脚部、できれば膝の関節を破壊して飛び跳ねたりできないようにすれば、格段に始末しやすくなる。
「さて、発電施設へと出る通用口はどこかな?」
地下施設の詳細な構造が記された見取り図でもあれば簡単に見つかるのだろうが、残念ながらそういった魔法のアイテムはいま手持ちにない。
ただ幸いにも方角とだいたいの位置は把握しているので、あとは勘を頼りに進んでいくだけだ。といっても、俺の土地勘はあまり信用できないのだが。
やがて…
「おいあんた、どうやってここに来たんだ!?」
「…グール?」
途中で見つけた梯子を上った先にいたのは、作業着に身を包んだ二人のグールだった。
「あんたたちこそ、なんでこんな危険な場所にいるんだ」
「べつに好きでこんな場所にいるわけじゃない。無理矢理トンネルなんか掘らされて、このザマさ。でもまあ、銃声がしたってことはあんた、デスクローを殺しながらここに来たってわけだろ?つまり血の跡を辿れば安全に地上に出れるってことだ…ハハッ、そうとわかれば、こんな糞垂れた場所とはおさらばだ!」
「お、おい…ちょっと待てよ!」
こっちはまだ聞きたいことが色々とあったのだが、グール連中は勝手に自己完結すると、さっさと出口へ向かって行ってしまった。もっとも、あの様子ではまともな情報交換ができたかどうかは怪しいが。
しかしあの口吻だと、どうやら連中は自分の意思でここに来たわけではないらしい。来た、というか、居た、というべきか。
「とりあえず、一休みするか…しかし、ここはいったい何なんだ?」
どうやらグールの居住区だったらしいスペースで、俺は火を囲んで一息つくことにした。
さすがにデスクロー相手の連戦は疲れる。僅かな油断が命取りになるからだ。これだけの荒行は、それこそ浄水施設の奪還作戦以来だ。
なに、エンクレイブの連中がテスラ・コイルに興味を抱いてないとすれば、急ぐ必要はない。休息も仕事のうちだ。休めるうちに休む、いざってときに身体が動かなければ何の意味もない。俺は別に修行僧を目指しているわけじゃない。
「さて…」
オールド・オルニー地下からSウィルソンビルを経由し、途中でエンクレイブの襲撃を受けつつどうにか発電施設に到着。未だに稼動していた古いセキュリティ・システムに手こずらされながらも、俺はテスラ・コイルの入手に成功した。
「こいつがねぇ…いったいなんの役に立つんだか。門外漢の俺にはガラクタにしか見えないが」
いやに仰々しいプロテクトで固められていたが、こいつが苦労に見合う代物であることを祈る。
** ** ** **
『キシェエエェェェェェッ!』
「おいちょっと待てよ!」
オルニー発電施設の緊急脱出用梯子からオールド・オルニー地上へと出た俺を、デスクローの爪が襲う。
「不意討ち闇討ちは汚い人間の特権じゃあねーのかよ、たまんねーな」
ズルッ、俺は慌てて攻撃を避けた勢いでマンホールの中にずり落ちてしまう。
しかしそれが幸いしたのか、俺の姿を見失ったデスクローが前後不覚に陥った。この巨体でマンホールの中にいる俺を追撃するのは難しかろうし、暗闇の中を見分ける能力には長けていないはずだ。
さらに俺からは、街灯に照らされたデスクローの姿がクッキリ浮かんで見えていた。
「仲間が向こうで待ってるぜ。ま、そのうち俺も追いつくさ」
そう言って、俺は引き金をひいた。
2014/08/08 (Fri)08:54
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
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ウェイストランドの荒野を彷徨う一人の老人の姿があった。
彼の名はオーウィン・リオンズ、またの名をエルダー・リオンズ。東海岸におけるBoSの最高権力者である。彼が目指す先にあるのは、すでに崩れ落ちて久しい教会。
「如何なされました…ご老人が、それもお一人で」
「とぼけるでない、傭兵。それにしても、似合わん格好じゃのう」
エルダー・リオンズが訪ねたのは、レリックを首から下げ漆黒のカソックに身を包んだ若者だった。一見聖職者のように思える青年の風貌はしかし、咥え煙草にサングラスという出で立ちから、たんなるやくざ者のようにも見える。
先刻まで穏やかな態度を取っていた若者は、エルダー・リオンズの口から「傭兵」という単語を耳にすると、眉をぴくりと吊り上げた。
「…できれば放っておいてほしかったんだけどな」
「お主の力が必要になったのだ。しかし、なぜ神父なぞになろうと考えたのだ?」
「俺がどれだけ戦っても、争いはなくならない。親父は浄化装置の起動にさえ成功できればウェイストランドを救うことができると思っていた、だが現実はどうだ?何も変わりゃしない…いい加減、虚しくなってさ」
「だから世捨て人同然の生活を選んだというわけか。しかし、腕に衰えはないようだの」
そう言って、エルダー・リオンズは教会の入り口に転がっているレイダーの死体を顎で指した。爆殺されたのか、焼け焦げ四散した肉塊が散らばる地面を見つめ、青年…クレイブは肩を竦める。
「最低限の自衛権行使ってやつさ。非戦主義にも限度ってもんがある…それにしたって、組織の最高権力者ともあろう者がこんな僻地にまで一人で来るのは関心しないな。危険すぎるぜ」
「まだまだ若い者には負けんわい。それにお主、どうせ手下を寄越したところでロクな返事はすまい?」
「だから護衛もなしに来たって?いったい、なにがあったんだ」
** ** ** **
「まさか、こんな僻地にまで来る破目になるとはね…」
キャピタル・ウェイストランド南西部、ロックランド車道トンネル。
瓦礫を踏みつけながら、BoSマーク入りの資材が積み重なった敷地内を歩いていると、やがて一人のBoS隊員が俺に話しかけてきた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。それとも、従軍牧師か何かかい?」
「どっちでもないよ。リオンズのジーサマから話はいってるだろ?」
「すると…アンタが例の英雄かい?ユニークな人物とは聞いてたが、神の信徒だったとはな」
「信心に目覚めたのは最近だ。状況はどうなってる?」
「最悪よりはマシって程度だな。歩きながら話すとしようか」
どうやらエンクレイブが使用していたものをオーバーホールして再利用しているらしい、タレットや機材の数々を俺が眺める横で、今回の作戦の指揮官らしいパラディン・トリスタンが話をはじめた。
「既にエルダーから聞いてると思うが、俺たちはリバティ・プライムを使ってエンクレイブの残党処理をしていた。ベルチバードやタレットなんかの兵器の処理はロボットに任せて、ちょこまかと動き回る歩兵を俺たちが処理するってわけだ、実際上手い連携だったよ」
「そもそも、なんでエンクレイブと全面戦争になってるんだ?連中、浄水装置の確保に失敗して散り散りになったと思ってたけど」
「知らないのか?あいつら戦力を立て直して浄水装置への襲撃作戦を敢行したのさ、それまではリオンズも交戦をためらってたんだけどな。もう互いに引ける状況じゃなくなっちまってな、で、俺たちは早期決着を目標に連中を徹底的に叩くことにした。といっても、こっちには無敵のリパティ・プライムがいるから、楽勝ムードだったんだけどな」
しかし、問題が発生した。それも、大問題が。
教会でエルダー・リオンズから「リバティ・プライムが破壊された」と聞いたとき、俺は思わず「ウソだろ?」と訊ね返してしまった。それだけ、あの無敵の超巨大兵器がやられる姿なんか想像できなかったからだが、しかしそれが事実だとするなら、組織の長が身体を張って俺を迎えに来るのも頷けるというものだ。
「そのときは俺もあの場にいたんだが、ミサイル兵器か何かのようだったな…いや、実際はどうなのか検討もつかないんだが。とにかく、巨大な爆発が起きたあと、煙が晴れるころにはリバティ・プライムの残骸が散らばってたってわけだ。爆発に巻き込まれて死んだ仲間も大勢いた、過去最大の損耗だったよ」
『我々はコミュニストの侵略には決して屈しない!』
「…筋金入りの愛国精神だな、こりゃ」
ロックランド東部、衛生中継ステーション入り口。
地面に穿たれた幾つもの巨大なクレーターの上に、かつてジェファーソン記念館奪回作戦のときに見た雄姿の残骸があった。分断された東部はしかし、未だに闘志を失ってはいないらしい。
「我々の当初の目的は、連中の通信設備の確保と衛星通信の解析による敵本部の位置の特定だった。だが、リバティ・プライムが破壊されたことで、こいつは初動の段階で躓いた形になるな…」
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「現状で通信施設への侵入路はリバティ・プライムが最後にビーム砲撃で空けた穴だけだが、そこは敵の防御が集中してて手出しができん。君には別の場所から少数の突入チームを率いて施設に潜入し、手掛かりとなるデータを入手してほしい」
「なるほど。で、肝心の突入手段は?」
「リバティ・プライムの兵装から取り出した指向性爆薬がある、そいつを壁に設置して爆破だ…パラディン・エドワーズ!」
パラディン・トリスタンが声を張り上げると、通信施設の近くで待機していたBoS隊員の一人がこちらへ向かってくる。
ベレー帽をかぶった女性隊員は敬礼すると、俺を見て一言呟いた。
「彼は?」
「リオンズが派遣した傭兵だ。例の英雄さ、ジェームズの息子だ」
「ただの傭兵だよ。よろしく、美人サン?」
「口が達者なのは英雄のたしなみなのかしら?よろしく、傭兵さん…それとも、神父さん?」
俺とパラディン・エドワーズが握手を交わしたのを確認してから、パラディン・トリスタンがふたたび口を開く。
「突入の直前に、我々残留部隊はリバティ・プライムが開いた突破口に向けて制圧射撃を開始する。敵の大部分を釘付けにすることができるはずだ、その間に施設内の捜索と敵の掃討を…無理のない程度に…頼むぞ」
「了解した、パラディン」
「了解はいいんだけど」
フランクな敬礼を返す俺に向かって、パラディン・エドワーズが疑問を呈する。
「あなた、丸腰じゃないの?銃は?」
「俺にはこいつがある」
そう言って、俺はカソックの下から銃剣を取り出した。標準的な米軍仕様のM9、それを目にしたパラディン・エドワーズは眉間の皺をいっそう深くするばかりである。
「…冗談よね?」
「こいつが銃より役に立たない、なんて思わないでくれよ?英雄の戦いぶりってやつを見せてやる」
その言葉を聞いたパラディン・エドワーズはしかし、一層不信を高めただけのようだ。パラディン・トリスタンに説得を促すが、彼女の上司は肩をすくめただけだった。
** ** ** **
やがてパラディン・エドワーズと数人のBoSソルジャーを率いた俺は、渓谷を迂回し通信施設の外壁に指向性爆薬を仕掛ける。
起爆装置に手をかけたところで、随伴の通信士に合図を送った。
「こちらセプテンバー、準備完了。繰り返す、準備完了」
『こちらビッグヘッド、了解。攻撃を開始する』
通信士が無線による交信を終了すると同時に、遠方から多数の銃声が響き渡る。味方の陽動がはじまったのだ。
「さて、じゃあ…こっちもはじめるとしますかね。カウント・スリーでブリーチ、オーケイ?」
「カウント・スリーでブリーチ、了解」
パラディン・エドワーズ以下数名の隊員の姿を見回し、俺は起爆装置の安全ピンを外した。
「ワン、ツー…スリー!ブリーチング!」
カチ、カチ、カチッ!
起爆装置のスイッチを三回押した直後、KABOOM!外壁が吹き飛び、巨大な横穴が空いた!
「ゴー、ゴー、ゴー!ムーブ・イット、ムーブ・イット!」
掛け声とともに、大口径拳銃を手にしたパラディン・エドワーズが先頭に立つ。
どうやら虚を突かれたらしい、施設内部には泡を喰って慌てふためいているエンクレイブ・ソルジャーが数人いた。
BRATATATATATA、銃撃を開始するBoSソルジャーの傍らで俺は銃剣のグリップの底面に装着されていたリング状のピンを抜き、ちょうど他の隊員からは死角になっている位置から銃を構えているエンクレイブ・ソルジャーのアーマーに向けて銃剣を投げつける!
KABOOM!
アーマーに刺さった直後、銃剣内部に仕込まれていた焼夷榴弾が炸裂しエンクレイブ・ソルジャーを粉砕した!
「どうだい、強化外骨格ってのは抗弾性能に特化してるからな。下手な銃弾よりも、こいつのほうがよっぽど通用するんだぜ」
「あ、あっ、あッ、危ないじゃあないのよ!?こんな至近距離で爆発兵器なんか使わないわよ普通!?」
「エー…ちょっとは感心してくれても良さそうなもんだけどなぁ」
「冗談じゃないわよ!」
KABOOM!
KABOOM!
KABOOM!
爆殺ナイフでエンクレイブ・ソルジャーを仕留め続ける俺に対し、しかしBoSメンバーが敬意を抱くことはないようである。
「仕方ない…それじゃあ、レディのリクエストに応えるとしましょうか」
「よっ…と」
ガッシャン。
俺はエンクレイブ・ソルジャーが使っていた個人携行用のミニガンを持ち上げ、装弾やバッテリーの状態を確認する。
さすがにパワーアーマー等のアシストを使わずにこいつを振り回すのは骨が折れるが(俺はあまりマッチョマン・タイプではないし)、閉鎖空間で弾をばら撒くだけなら暫くは大丈夫だろう。と思う。
VOOOOOM!
工事現場のドリルのような独特の銃撃音を鳴らし、多量の銃弾をあっという間に吐き出すミニガン。これだけの弾雨に晒されたとあっては、さすがのエンクレイブ製パワーアーマーも保たないようだ。
しかし…
「ノー!苦しい!」
忘れていた…こいつを閉鎖空間で使用すると、あっという間に酸素がなくなるということに!
酸欠に陥りながらも、どうにかしてターミナルを探り当てた俺は、ミニガンをその場に立て掛けるとコンソールの操作をはじめた。
「遠隔測定データ…暗号化されてるな、手持ちのソフトウェアじゃ解読できないねェ。いちおうダウンロードだけしておくか、あとはブランク・データがほとんどだな」
「なにか見つかった?」
「役に立ちそうなデータが一件、といっても要塞に戻って解析してもらう必要があるけどね」
「それじゃあ、そろそろ撤退しましょう。あまり長居すると敵の大部隊と鉢合わせになるわ」
俺と同じく酸欠に苦しめられていたパラディン・エドワーズに促され(ちなみにパワーアーマーには酸素タンクが内蔵されており、マスクを装着していればそいつを利用することができる)、その場を離れる。
ミニガンを放置し、そのへんに転がっていたアサルトライフルを手にした俺は、しばらく進んだ先に外界へと通じる扉を発見する。しかし。
「おや?これって…ロックランドじゃあなくて、キャピタル・ウェイストランドに続いてるぞ?」
どうやら、この通信施設はキャピタル・ウェイストランドとロックランドの中継地でもあったらしい。
「だったら、あなたは直接要塞に戻ってデータを届けて。パラディン・トリスタンには私から報告しておくわ」
「悪いね、それじゃあ…元気でな」
俺はパラディン・エドワーズ以下BoSソルジャーたちとその場で別れ、一路BoSの要塞へと向かった。
** ** ** **
「ま、そんなわけで…いま、データはスクライブ・ロスチャイルドが解析中だ」
「それはいいが、お主まだそんな格好しとったのか」
旧国防総省ビルとして知られるBoSの拠点にて、俺はロックランドの通信施設で得た成果についてエルダー・リオンズに報告した。
もちろんこれで俺の仕事が終わったわけじゃない、まだ手始めに過ぎないのだ。
BoSとエンクレイブの雌雄を決する戦いに巻き込まれ、俺自身もすでに手を引けるような段階ではなくなったことに遅まきながら気づいたが、まぁ…そんなこともあるだろう。
ひょっとして、わざわざ神が俺を天国からクソッたれの現世へ叩き落としたのはこのためか?
そして、死者の世界で再会した女の面影を思い出しながら…俺は含み笑いを漏らした。
あそこへは、ちょっとした手土産話を作ってから帰るとしよう。
2014/06/09 (Mon)05:20
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
** ** ** **
「あんたがオフィサー・ラペラティアを殺したのか?たしかにむかつく女だったとは思うよ、だからこそ雑用を押しつけて嫌がらせのし甲斐があるやつだったのに…」
「あんたも別方面で性格悪いなー」
「放っておいてくれ」
給水キャラバン絡みの事業を統括しているBoSのスクライブ・ビグスリーは、真っ白な顔面を晒しながら力なく呟いた。
タダ働きさせられたと思い込んでうっかりオフィサー・ラペラティアをぶっ殺してしまった俺は、その場でBoSに取り押さえられたが、いちおう救世主だからということで、エルダー・リオンズのジーサマから長時間に渡る説教を受けただけで解放を許されたのであった。
「そんなにドンパチがやりたいなら、あんただったらエンクレイブの残党討伐に加わったほうがいいんじゃないのか?」
「いやだよめんどくさそうだもん。それにあいつらのアーマー抜く武器と弾薬用意するのも手間だしなぁ」
「まあ、いい。それじゃあ罪滅ぼしとは言わんが、メガトンの件で調査を依頼してもいいか?リオンズのじいさまが五月蝿くてな…」
どうやら、メガトンに確実に配達したはずの水が行方不明になっているらしい。住民曰く、「水なんか届いていない」とのことらしいが。
現在、給水キャラバン事業は大幅な予算と人員の不足に悩まされていた。そもそもBoSが統括する事業で、なぜBoSが護衛につかないのか俺はずっと疑問に思っていたのだが、なんのことはない、リオンズのジーサマが人員も予算もすべてエンクレイブの残党狩りに総動員しちまっているからなんだと。
そして僅かな予算で給水キャラバン事業を押しつけられたビグスリーは、不眠不休の労働を強いられているということらしかった。
「安心しろ、あんたへの報酬は約束する。BoSは気前がいいんだぜ」
「期待しておくよ。それと、あんたさ…ちょっとは寝たほうがいいんじゃないのか?」
「…俺の目が黒いうちに優秀な部下が配属されればな」
「なんつうか、その、いろいろ大変だな、あんたも」
「いや、優秀じゃなくてもいい!無能でさえなければ!三日も寝てない俺より判断能力が鈍くないやつがいてくれれば!これは贅沢な望みか、えぇ!?」
しまいには悲鳴に近くなったスクライブ・ビグスリーの嘆願に苦笑しながら、俺はジェファーソン記念館を後にした。
ちなみに、横にいたブッチの機嫌がずっと悪かったのは言うまでもない。面倒に巻き込まれたのだから無理もないが。
出口の扉を開けた瞬間、ビグスリーの最後の叫びが施設内にこだました。
『いいかおい、俺が「勝手な自己判断をするな」と言ったのはな…ええ、おい、「報告・連絡・相談」という、社会人としての一般常識を守れと言ったわけであってな…えッ、「なにも考えなくていい」と言ったわけじゃあないんだッ!何度言ったらわかるんだ、このウスラトンカチどもがァーッ!!』
** ** ** **
「中間管理職ってのも大変だにゃあー」
「まったくだ」
そんなことを呟きながら俺とブッチが向かったのは、アンダーワールド。グールの街だ。
メガトンに至るまでの道中で、せっかくだから馴染みのある場所へ寄って行こうと考えたのだが…
「奇跡の水、アクア・キューラはいかがですかぁーっ!?」
「イカガデスカー!」
アンダーワールドへと続く歴史博物館のホールにて。
カツラを被ったグールとスーパー・ミュータントがセールス・トークを繰り広げているという、あまりにあんまりな光景を前にした俺は、思わず頭を抱えてしまった。
しかも、どちらか片方に見覚えがあるとなれば尚更だ。
「…おまえ、なにしとんねん」
「おお、ヒューマン!久しいな!」
ボロボロのVaultジャンプスーツをワイルドに着こなしたスーパー・ミュータント、何を隠そう以前俺が命を助けてもらったフォークスそのひとである。
「もう一度訊くぞ。おまえ、なにやっとんねん」
「アルバイトだ!」
「…そうか」
アルバイトするスーパー・ミュータントという字面にくらっとしながら(本人に断言されちゃあ仕方がない)、俺は義理も兼ねて彼らが販売するアクア・キューラなるものを数本購入し、アンダーワールドに入る。
飲む前にブッチのピップボーイを使って水質を検査してみたが…
「これ、浄水装置が作動する前の河の水そのものだぜ」
「マジか」
どうやら、多量の放射性物質を含んだ汚染水のようで。
といってもグールにほとんど害はないらしいのだが、なんでこんなものを「奇跡の水」などと称して売っているのか…
そのあたりをこっそりチューリップ姐さんに打ち明けたところ、意外な答えが返ってきた。
「あたしも、あの男はどうも怪しいと思ってたんだけどねぇ。しかもあの水、どうもジェファーソン記念館にいるBoSから直接仕入れてるらしいんだよ。取り引き現場を見た仲間もいるし、それがどうして汚染された水になって販売されてるのかはわからないけど」
害がないとはいえ、ああも平然と街の入り口で詐欺行為をやられたんじゃ風紀に関わるから実態を調査してくれないか、と依頼される。とりあえずメガトンの件は後回しだ。
しかし格安の依頼料だったにも関わらず文句一つ言わず引き受けた俺に、ブッチが疑問の声を上げた。
「金にがめついお前さんにしちゃ珍しいじゃねーか。あの女になんか弱みでも握られてんのか?」
「弱みというか、ハート…かなぁ」
「ゲ!おい相棒、まさかグールの女とデキてんのか!?」
「うるさいなぁ…」
うっかり口を滑らせたことを後悔しつつ、俺はアクア・キューラの調査を開始した。
** ** ** **
詐欺野郎、もとい謎の販売員の名前はグリフォン。
浄水装置の作動、そして清浄な水の供給と時期を同じくしてアンダーワールドに現れたセールスマンらしい。
BoSはアンダーワールドへは給水キャラバンを派遣しなかった(グールは汚染された水でも問題なく活動できるからだ)が、あるときグリフォンがBoSから有償で水を買い取り、グールへ供給する取り引きを纏めたらしい。
しかし、実際にグール達に売られているのはただの汚染水。
その実態を探るため、グリフォンのアジトを突き止めた俺とブッチは内部に突入した。
「ほぉー、こいつは」
「中身をそこいらの汚染水と詰め替えていたのか。これで証拠は確保したが、しかし動機がまだわからんな」
グリフォンは清浄な水を大量に備蓄していた。
アンダーワールドへと戻った俺達は、グリフォンを人気のない場所へ呼び出し事の次第を詰問する。
「チッ、スムーズスキンの旦那…余計なことをしてくれたな」
「とりあえず事情を話してもらおうか」
「いいかい旦那、ウェイストランドにはBoSから水の供給を受けれない連中だっているんだぜ?」
「…あんたの顧客はアウトキャストか?」
「そうとも。ゆくゆくはレイダーや、エンクレイブの連中にも販売するつもりさ、そのために今から在庫を用意してあるんだ」
「残念だが、そいつぁあんまし良い案とは思えんなぁ」
そこで俺は、ウェイストランドのレイダーや、ましてエンクレイブがまともに商売できる相手ではないことをグリフォンに説明した。
いちおう納得したらしいグリフォンは、渋面を見せる。
「くそっ、いままでの努力は無駄になってしまったか」
「しかしまあ、なんだってグールに汚染水を売ってたんだ?普通にアウトキャスト向けに横流しするだけじゃなくて?」
「こいつはいわゆる副産物ってやつでさ。アウトキャストの連中は水の容れ物には関心がない、だからこの、BoSの正規のパッケージを利用してグールを相手に一儲けしようと思ったわけさ」
で、私をどうするつもりだ?グリフォンが僅かに怯えを見せながら訊ねる。
本来、BoSは金銭での水の取り引きを禁止している。これは総帥であるエルダー・リオンズ自らが取り決めた方針であり、グリフォンに水を売ったのはあのビグスリーの独断らしい。しかし慢性的な資金不足に喘いでいる給水キャラバン事業にとってグリフォンから支払われる現金は活動になくてはならないものであり、一概に彼のビジネスを害悪と切って捨てるわけにもいかなかった。
そこで、俺はある提案をした。
「いままでの大量の在庫は不要になったんだろ?だったら、今度からグールにも本物の水を売ってやれないか?」
「正気か?グールに綺麗な水を売ったって何の意味もないぞ」
「そりゃあ、意味はないかもしれないがさ。贅沢ってそういうもんだろ?グールにだって贅沢をする権利はある、違うかい」
それに、もし本当のことをバラしたらグリフォンがアンダーワールドの連中に殺されかねないしな…と、これは独り言。
けっきょく、グリフォンはいままで汚染水を売っていたことは黙秘したまま、今後は清浄な水を販売することに同意した。
もっとも…
「皆さん、今度登場しましたのはアクア・キューラのさらに上を行くアクア・キューラ・エクストラ!見てください、もう水の色からして違うでしょう?」
「やれやれ、商魂逞しいヤツだ…」
俺はこの事実をチューリップ姐さんだけに話し、彼女も口を閉ざすことを約束してくれた。「馬鹿なやつが何に金を使おうと勝手だしねえ」ということらしい。
それにBoSは決してグールに無償で水を配給したりはしないだろうし、有料であれ綺麗な水が手に入るというのは悪くない。ジェファーソン記念館から歴史博物館まで水を運ぶのもそれはそれで大変な仕事には違いないし。
その日の夜、俺はブッチを上階にある酒場ナインス・サークルに追いやると、チューリップ姐さんと二人きりの時間を過ごした。
** ** ** **
「驚いた。まさかマジだったとは」
「うるさいよ」
翌日、そのことについてブッチに冷やかされながらメガトンへと向かう。
てっきりまた不機嫌になっていると思いきや、思いの外ブッチが上機嫌で今度は俺が驚く。
「良い酒でも見つけたのかい?」
「いやなに相棒、ちょいと東洋系のカワイコちゃんと意気投合してな。シドニーっていう、武器商をやってるらしいんだけどな、ありゃあ絶対俺に気があるぜ」
シドニー…リトル・ムーンビームか。そういえばそんな本名だったか。
そんなことを考えながら、俺はメガトンより先にスプリングベールにある旧自宅へと立ち寄った。
「親父、覚えてるか?ブッチだよ、あの悪ガキの」
「悪ガキ…いや、まあ、いいけどさ。オヤジさん元気かい?」
「 」
「…なあ相棒、オヤジさん、元気なのか?」
「聞くな」
馴染みの顔でも見せれば記憶が戻るかとも思ったが、相変わらず何の反応もない。
死んでないってことは、これでちゃんと食事は摂っているらしいが…
家を出た後で、ブッチが当然の質問をした。
「なあ。オヤジさん、どうしちまったんだ?」
「…色々あったんだ。色々とな」
エンクレイブとの戦いで受けた傷と被爆によってああなってしまったのだと、俺はブッチに手短に伝える。
まあ、辛気臭い話をしにわざわざ帰宅したわけじゃない。俺は気分を入れ替えると、メガトンが抱えるトラブルを解決すべく活動を再開した。
** ** ** **
メガトンへの水の供給を担当するキャラバン曰く、「聖なる光修道院という組織がメガトンへの水の分配を担当していると聞いたから、そいつらに渡している」ということだったが。
最近メガトンとはあまり縁がない俺だったが、そんな組織の名前は聞いたことがない。アトム教会の親戚か何かだろうか?
メガトンで聞き込みをしてもあまり芳しい反応が得られなかったが、あるときスプリングベール付近を徘徊していると、謎の男に出会った。
「あんたもマザー・キュリー三世に会いに来たのかい?」
「マザー…なんだって?」
「知らないのかい?我が聖なる光修道院で配っている聖水が欲しいんじゃないのか?」
「聖水?」
俺は目前の怪しい男から「聖水」なるものを受け取る。ブッチのピップボーイを使って水質検査してみたところ、かなり高い濃度の放射性物質を検知した。
もし、こいつが例の「聖なる光修道院」の関係者だというのなら…この水はどこで入手した代物なんだ?
「どうだ、アトムの輝きに満ちているだろ?聖水によって、我々は死せる荒野から光溢れる希望の地へと導かれるってわけさ」
どうやらこいつらの教義はチャイルド・オブ・アトムに近いらしいが、性質はもっと悪かった。
穢れた人間の欲を捨て去り純粋な存在として昇華する…そのための手段とは、汚染水の過剰摂取によるフェラル・グール化!
フェラル・グールはその名こそグールと近しいが、グールとは違い知性がほとんど残っていない、まさしく人の形をした怪物に他ならない。
しかもこの教会の連中は、グリフォンとは違い清浄な水をわざわざ汚染して配っているらしい。
俺は鬼のような形相で男を睨みつけると、抜く手を見せぬ早さで銃口を突きつけた。
「…俺の親父の夢を汚したな…!!」
BLAM!
「おいおいおい!」
いきなり男を射殺した俺に、ブッチが驚きの声を上げる。
しかし頭に血がのぼっていた俺は、ブッチを制すると、聖なる光修道院の本部がある地下へと向かった。
「連中は俺が片づける。ブッチ、お前は…ついて来るな」
俺が地下室へ足を踏み入れた直後から、連続して銃声と悲鳴がブッチの耳に届く。
BRTTT!BRTTT!BRTTT!
そして…静寂が訪れた。
** ** ** **
「こいつで汚染水を作り出していたのか。ガイキチカルト集団め、よくやるよ」
「それより、なあ、相棒…クレイブよ。話がある」
「なんだ」
地下室から出てきた俺に、ブッチが出し抜けに話を切り出してきた。
「俺はもう、お前とはやっていけねぇ」
「どうした急に」
「いいかい相棒、お前、何度俺の前でいきなりドンパチおっぱじめたと思ってる?相手が気に入らなきゃ殺す、それじゃあレイダーとやってることが変わらないぜ。すっかりウェイストランドの流儀に染まっちまったな」
「ウェイストランドの流儀…その通りさ。なんたってここはウェイストランドそのものなんだからな」
そこまで言って、俺はブッチに向き直った。
いつになく真剣な眼差しで、俺はブッチに語りかける。
「いいか、よく聞けブッチ。正義感じゃ人は救えねぇし、理想じゃ人はついてこねぇ。人の上に立つんなら、このウェイストランドで組織のトップに立つなら、そのことは理解しておくんだな」
「おめえこそよく聞けクレイブ、俺はレイダーの集団を作るためにVaultを抜け出したわけじゃねぇ!それに、こんな腐れた世の中だからこそ正義を説くことに意味があるんじゃねーのかよ!?」
「わかってないな。無責任な正義感は他人を傷つけるだけだ、けっきょく、そんなのは誰のためにもならねぇ。俺はそれを経験してるんだ!経験者の言うことは…聞いておくもんだぜ」
「で、自分じゃなにも経験しないまま頭でっかちな理屈で結論を出すヘナチョコ野郎に誰がついてくるってんだ、ええ!」
「お前の勝手な正義感が犠牲者を出すのがイヤなんだよ俺は!いいかブッチ、現実を見ろ。利己的に生きるんだ、でなけりゃあウェイストランドじゃすぐに死ぬことになるぜ」
「お断りだ相棒、俺は自分の足で歩く!この先どんだけ後悔するようなことがあってもな、俺自身がどう生きるべきか、なんてのは、俺が決めることだ!それが、トンネル・スネークのボスとしての意地と、誇りだ」
「…頑固なやつめ…」
かつて…
奴隷商人に追われる奴隷たちに肩入れしたがばっかりに、俺は一人の女を失った。
正義感など何の役にも立たない。
世の中のためになると思って頑張ったところで、それが世の中のためになるなんてことは、ない。あのとき俺は、そのことを思い知った。だからこそ、いかなるときも情に流されず非情に徹することを選んだ。
いまのブッチは、かつての甘かった頃の俺を思い出させ、せめても俺と同じ苦しみを味わうことがないよう、説得したかったのだが…
「生きる道を違えた、ということだな」
「そうだ相棒、俺とお前は別々の道を歩むべきだ。だが忘れないでくれ、こんな話をしておいて勝手だと思うかもしれねぇが、道を違えたからといって、俺とお前の友情がなくなったわけじゃねぇ」
「…そうだなブッチ。俺は今でもお前の決断が間違いだと思ってるが、そう決断したこと、それ自体は尊重したい。元気でな」
「ああ。次に会ったときは、大勢の部下を連れてお前の度肝を抜いてやるぜ、相棒」
「楽しみにしてるよ」
そして…ブッチは俺に別れを告げた。
その背中に安全なシェルターで育ったお坊ちゃんの面影はなく、そこにはたしかに男の矜持があった。
これからブッチは自分自身の物語を創造していくことになるのだろう。そして、時にはその物語が俺の物語と交錯することもあるかもしれない。しかし、二つの物語は決して並んで進むことはないはずだ。
さらば友よ…俺は近くのカウンターに無造作に放り込まれていた未開封のウィスキーを手に取ると、ブッチの旅の無事を祈り、酒瓶を傾けた。
2014/06/05 (Thu)14:44
ここまでのFallout3!
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
世界を救った!死んだ!生き返った!第三部完!
** ** ** **
「なんだか大変なことに巻き込まれてたみたいだなぁ、相棒?」
「まったくだよ…あーおばty」
「お姉さんと呼びな!」
「…お姉さん、リスの串焼き追加でお願いします」
リベットシティ船底にある酒場、マディ・ラダーにて。
浄化プロジェクトの立役者に祭り上げられた俺は、BoSへの入隊を断り一介の傭兵としての活動に戻っていた。
そしてたまたまリベットシティへ立ち寄ったある日、そこで懐かしい顔を見つけることになる。ブッチ、通称Vault101のガキ大将。俺の働きかけによって解放されたVault101から飛び出し、新生トンネル・スネーク(ギャング団)結成のために活動していると風の噂で聞いたことはあったが。
正直、まだ生きているとは思わなかった。というより、Vault101の面々がここまで上手くやれるとは思っていなかったのだ、スージー・マックの例を出すに及ばず。まったくなんというか、人間っていうのは俺が思っていたより随分と強かな生き物であるらしい。
「しっかし、得物が飛び出しナイフって…よくそれで生きてここまで辿り着けたなぁ」
「このブッチ様をそこいらの根性なしと一緒にされちゃ困るんだぜ?」
「いやいや」
軽口を叩くブッチに、俺は友好の印にと一挺の拳銃を渡した。
金メッキが施されたM1911のカスタム品。黒曜のグリップに竜のエンブレムがあしらわれた高級品だ。以前メガトンの大変人モイラの依頼で地雷原の捜索に向かったとき、ギブソンという男の家にあった小屋の模型から発見したものである。
いかにもワルっぽい雰囲気全開なこの銃、ブッチなら似合うだろうと思って渡そうとしたが、彼はそれを拒否した。
「おいおいおい、こんな悪趣味なモンを俺が使うと思うのか?」
「悪趣味かなぁ。俺様ちゃんはけっこうカッコいいと思うんだけどねぇこれ」
「ナァナァナァ。いいかクレイブ、トンネル・スネークの標語は質実剛健だぜ?だってのに、頭(ヘッド)がこんなギンギラの銃なんか持ってたら示しがつかねーじゃねぇかYO」
「そりゃ、そうか」
意外に真面目な気性のブッチに、俺はまたしても驚かされる。
今から部下のことなんか考えてたんだなあ。めんどくさいやつだ。
そこで俺は黄金のM1911を懐に仕舞い、別の銃を取り出した。今度のやつは気に入るだろう。
「おっと、こいつはリボルバーか?」
「.44マグナムだぜ。スラブバレルにリブ・サイト、グリップはラバー製。まさに男の銃ってやつさ」
「いいねぇ、こいつは気に入った!ありがとうよ!」
サイトを覗いたり、シリンダーに弾を込めたり、ブッチは子供のように目を輝かせて銃をいじり回す。
しかし、このビジュアルは…
「…西部警察だなぁ…」
いつだったか、Vault101で観賞したレクリエーション用のフィルムを思い出しながら、俺はリスの串焼きを齧った。
** ** ** **
めんどくさそうだったので早々にBoSとは手を切った俺だが、完全に関係を解消したわけでもない。
「用がないならさっさと消えてよね。こっちは忙しいんだから」
「このアマ、ぶち殺してくれよーか…」
「おいよせって。大人気ないぜ相棒」
せっかくだからブッチを伴っての傭兵稼業、「トンネル・スネークのメンバーを探すついでにウェイストランド中を回るのも悪くない」ということで双方の利害が一致した形である。報酬は折半だ。
そもそも俺がリベットシティに立ち寄ったのは、なにも漫遊するためではない。BoSが浄水場を管理するようになってこっち、人々の救済を名目に組織された給水キャラバンがウェイストランド中に清浄な水を配給して回っているのだが、そこは生き馬の目を抜くキャピタル・ウェイストランド、当然平穏に事が進むはずがない。
給水キャラバンはジェファーソン記念館に近いリベットシティを拠点として出立する。しかしながら強盗集団によるキャラバン襲撃、そして配達を終えたはずの地区から「水が届いていない」と苦情が届くなど、数多のトラブルがBoSを悩ませていた。
そこでこの偉大なる傭兵サマの登場、てなわけなんであるが…
「それで、仕事をする気があるの?ないの?」
「やーりーまーすーよー!」
給水キャラバンを管理しているリベットシティ・セキュリティ所属のオフィサー・ラペラティアというこの女、どうもめっちゃくちゃ態度が悪い。日々の激務には頭が下がる思いだが、それにしたって、どうにかならないのか。
ひとまず北へ向かってすでに発ったというキャラバン隊の護衛のため、俺とブッチは急いでその跡を追うことにしたのだが…
** ** ** **
「こりゃあまた、随分とハードな展開だな相棒!」
「撃て撃て、撃ちまくれ!とにかく撃って皆殺しだ!」
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
いきなり銃撃戦が展開されたのは、ポトマック橋付近の廃墟である。
俺たちが追いついた頃には、既に給水キャラバンは壊滅していた。しかし物資を漁っていたのか、襲撃犯たちがまだ立ち去っていなかったため、すぐさま銃撃戦を仕掛けたという具合である。
PDOOMMM!!
「よっしゃ、クリティカル・ヒットだ!」
俺は襲撃犯のボスと思われる男の頭部を吹っ飛ばすと、ガッツポーズを取った。
いやしかし、俺は射撃にはそれなりに自信があったが、ブッチもなかなかどうして見事な腕前だ。どこで使い方を覚えたのか、VATSも上手に使いこなせている。
「ところで相棒、おまえピップボーイはどうした?」
「ああ、あれ。邪魔だったから分解して身体に埋め込んだ」
「えぇ~…」
さらりと言う俺に、ブッチが若干ヒキ気味につぶやく。
それは以前、所用でリベットシティを訪れていた連邦出身の技術者ドクター・ジマーに頼んでやってもらった施術だ。今の俺があるのも、そのときに受けた強化反射神経とVATSの連動、そして強化プログラムであるグリムリーパー・スプリントのアップデートによらばこそである。
「さて、こいつら何者だ?ただの辻強盗ならいいけど、もっと組織的な犯行だと厄介なことになるからねェ」
襲撃犯の死体からスカベンジしつつ、俺は有益な情報に成り得るものを探す。
そしてさっき脳天を散らしたボス格らしき男の服から、一枚のホロテープを抜き出した。生憎とピップボーイを体内に埋め込んだとき、モニターやホロテープ再生モジュールなどの嵩張る端末は外してしまったため、俺は専用の再生ツールをバックパックから取り出してホロテープをセットする。
『いいかお前ら、このテープは聞いたらすぐ破棄するんだ…くそ、なんだって俺が字も読めねぇ連中のためにこんな気遣いをしなけりゃならねぇ!?まあいい、集合場所を伝えるぞ。ウィルヘルム埠頭にある、ババアがやってた小さな店を覚えてるか?あそこだ、合言葉を忘れるなよ?ミレルーク・シチュー、いいか、ミレルーク・シチューだ。大事だから二回言ったぞ。忘れたら容赦なくぶっ殺す、覚えとけ』
テープはそこで途切れた。
「ウィルヘルム埠頭か。おい相棒、知ってるか?…おいどうした相棒?」
テープの内容を聞いた途端、ブルブルと震え出した俺にブッチが驚く。
だってそりゃあ、動揺するなっていうほうが無理だろう?なんたってウィルヘルム埠頭は、そう、テープの声が指していたであろう、かつてスパークルばあちゃんが滞在していた小屋は…
「 こ れ 、 俺 ン 家 じ ゃ ね ぇ ー か ァ ー ー ー ッ ! ! ! 」
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「どうだ相棒、見えたかい?」
「ああ~、うじゃうじゃいやがるぜ。まったくもう最低だよ」
対岸から狙撃ライフルのスコープ越しに自宅の周辺を見つめていた俺は、大きく嘆息した。サイレント・スコープ気分で偵察していたら妙なアイコン類が見えたような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
「ここから狙撃できなくもないけど、けっこう距離あるし、俺ん家に立て篭もられたらかな~り厄介なのよねー。あそこ武器弾薬が山のように保管されてるし」
「マジでか」
「マジマジ」
「じゃあどうするんだ?」
「とりあえず合言葉はわかってるし、仲間のフリして様子を窺うとしますか」
そう言って狙撃ライフルをダッフルバッグに仕舞うと、俺はひさしぶりに自宅へ戻るべく足を踏み出した。
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「合言葉は?」
「うんこ」
「よし殺す」
「ごめんなさいすいませんでしたミレルーク・シチュー」
「よし通れ」
俺の自宅の前、テーブルと椅子が並べられ、ちょっとしたカフェテリアの様相を呈している場所に、そいつらはいた。
スプリット・ジャックを名乗る組織のボスは、どうも単に強盗目的で給水キャラバンを襲撃していたわけではないらしい。自分たちを給水キャラバンの護衛として売り込むにあたって、危機感を煽り、報酬を吊り上げるための自作自演工作ということらしかった。
「まあ、よくある話だよな」
そう呟くブッチの傍らで、強盗連中を観察していた俺はあることに気がついた。
…こいつら、なんか見覚えのある銃を装備しているような?
「ところでいいかなボス、そのピッカピカのすんごい銃、どこで手に入れなすったんで?」
「ああこれか。スパークババアの家が改装されててな、超上モノの銃が大量に仕舞いこんであったんで、ちょいと拝借したのよ。肝心のババアがどこにもいねーんだけどな、どこ行っちまったんだかな」
スパークルばあちゃんの名前をダイナミックに間違えながら、スプリット・ジャックがそう答える。
しかしその言葉を聞いた瞬間、俺の中でなにかが「キレた」。大事ななにかが。
俺はブッチの脇腹を肘で小突き、他の連中に聞こえないよう小さな声で言った。
「おいブッチよ。VATSの用意はできてるか?」
「え?ああ、いつでも使えるけどよ…まさか今ここでやんのか?」
「やる」
そして、俺はだしぬけに銃を抜いた。
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「いいか、テメェらが拝借したその銃はな…全部オレのだーッ!」
戦闘は一瞬にして決着がついた。
すっかりリラックスしていた無頼どもに、俺とブッチのVATSダブルアタックが炸裂。俺の自宅の前に、グロテスクなオブジェが出来上がった。
「だーっ、たく、畜生!ヒトん家の前に腐れ酢の臭いつけやがって!」
「いや、YO、あのよ、相棒?いきなりだったからつい手を貸しちまったけどよ、ちょっとやり方がマズいんじゃねえの?これ」
いちおう加勢したものの、どうにも戸惑いを隠せないブッチ。
しかしひとまず依頼は完遂したわけだ。不穏な勢力を叩き潰し、証拠も手に入れ、万事滞りなく終了したわけである。
「ただまぁ…これは掃除しなきゃなぁ…」
自分がやってしまったことに対し、俺は力なくため息をつく。
また、掃除を手伝わされる破目になったブッチも、日暮れまで作業が終わらず大変な労働になったことを俺に愚痴り続けることになった。
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「仕事は終わったぜ。ほらわかったらさっさと金出せほりゃ」
「お金?ここにはないわよ」
「ハアァァァァァ!!??」
リベットシティに戻った俺を待っていたのは、「自身に支払い能力はない」というオフィサー・ラペラティアの信じ難い一言だった。
「ここここのクソアマ、言うに事欠いて金がねーだと…傭兵にタダ働きさせるたぁいいー度胸だぁーッ!」
「ガタガタ騒がないでよ、うるさい男ね。報酬の件なら、ジェファーソン記念館にいるBoSのスクライブ・ビグスリーに…」
しかし、頭に血がのぼっていた俺は、オフィサー・ラペラティアの言葉が耳に入らなかった。
俺に背を向ける彼女の後頭部に、すかさず銃口を向ける。
「おいよせって、相棒…相棒?」
そして俺を止めようとするブッチの言葉も耳に入らず…
BLAM!