主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2016/04/16 (Sat)03:32
北部へと通じる洞窟の中、俺たちは出発を待つ間、談笑に興じていた。
「それじゃあ、君ははるばる東海岸からやってきたのか?」
「そうとも!途中まではバイクだったんだけどね、生憎と故障して砂漠のド真ん中を立ち往生よ。いや、大変だったね」
俺の名はクレイブ、傭兵だ。
ワシントンでブラザーフッド・オブ・スティールと協力してエンクレイブの残存勢力を潰してからこっち、俺はひたすら西を目指して旅を続けていた。
目的はもちろん、ウェイストランド・サバイバルガイドの布教だ。俺の血と汗と涙の結晶であるこの著書を大陸全土に広めるべく、俺は歩く広告塔となってあちこちに売り込みに回っていたのである。
もちろん傭兵としての仕事も続けており、今回のキャラバン護衛任務はその一環だった。
ザイオンを経由してニュー・カナーンに到着するまでの安全を確保し、最終的にはソルトレイクへと続くルートを確立するのが目標だ。道中はかなりの危険が予想されており、それなりの武装をした護衛が俺の他にも数人雇われている。
重武装ではなく、大人数でもないのはザイオンへと続く道のりが非常に険しいからである。重い装備を抱えて足場の悪い山道を歩き通すのは自殺行為以外の何物でもなく、そうした環境で多人数を統率するのは至難である。まあ、単純に予算不足だから、というのもあるのだが。
俺の目的は日当25capのほかにも、ニュー・カナーンへのサバイバルガイドの布教も含まれていた。
「ちょっと前まではザ・ディバイドって場所にいたんだけどねー」
「ディバイド?たしかNCRの補給路の一つだったな。原因不明の爆発で壊滅したと聞いていたが…」
「…らしいね」
このハッピートレイル・キャラバンに加わるまで、俺はNCRに雇われてザ・ディバイドの安全確保を担当していた。
敵対勢力であるリージョンの襲撃を退け、NCRの部隊やキャラバンの通行が円滑に行われるよう監督する。やがてザ・ディバイドはそれそのものが単一のコミュニティとして機能しはじめ、ネバダとカリフォルニアを経由する中継地として栄えていった。
しかしそれも長くは続かなかった。原因を端的に言い表すなら、「俺の疫病神気質ここに極まる」…といったところだろうか。
まあ、過ぎたことを考えてもしょうがない。それよりも目の前の仕事に集中すべきだ。
「お嬢さんがた、パジャマパーティの時間は終わりだ!出発するぞ」
キャラバンを率いるジェド・マスターソンの号令一下、俺たちは銃を手に暗い洞窟の中を歩きはじめた。
このときは知る由もない、とんでもない災厄に巻き込まれたことなど…
「ん、むむ…グッ、がほっ、ゲホッ…!」
先刻まで気を失っていた俺は、気づかぬ間にたっぷり飲み込んでいた水を大量に吐き出しながら身体を起こした。
「いったい、なにが起こった…」
直前の記憶が飛んでいた俺は頭をガンガンと叩きながら、近くに落ちていた銃を拾い上げ、周囲を見回す。キャラバンの一員や、俺たちが率いていた荷物運搬用のバラモンが物言わぬ死体となって転がっている。
たしか…そうだ。
モハビを出て数日後、峡谷を抜けてザイオンに到着した俺たちはホワイトレッグスという部族の襲撃を受け、壊滅状態に陥ったのだ。
高所からのグレネードガンを用いた容赦のない爆撃、キャラバン隊は護衛ともどもバラバラに吹っ飛び、俺も爆発の衝撃で崖から放り出され、バージン川へ真っ逆さまに転落したのだった。
どうやら敵はキャラバン隊は全滅したと思い込んだらしい、周囲にホワイトレッグスの残党がいないことを確認した俺は、マスクを外して煙草に火をつけると、なんとも言い難い気分で崖を見上げた。
「キャラバンは壊滅、報酬はなし。帰る道は落石で塞がれ、イカレた殺人部族のテリトリーのド真ん中に独り取り残された…と。厄(ヤク)いねェ…」
やるせない気持ちで紫煙を吐き出すと、俺は小銃の銃把を握りなおし、これといった目算もないまま歩きはじめた。
しばらく周辺を探索していると、ホワイトレッグスとは別の部族の人間と接触した。
男の名はフォローズ・チョーク、デッドホースと呼ばれる部族の一員だ。彼が言うには外の人間がここまで辿り着くのは珍しいことらしく(特にホワイトレッグスの襲撃を受けて生き延びるなどとは)、一族を率いる長に是非とも会ってほしい、と催促されてしまった。
…どうでもいいが、フォローズ・チョークにとって外界の人間は珍しいのか、やたらとあれこれ話しかけてきて鬱陶しい。ぶっちゃけ、すげーうざい。だってこいつの態度、都会人に故郷の自慢話を延々と語る田舎者そのものなんですもの。
可愛い女の子ならまだしも、刺青だらけの半裸のガキにつき纏われて楽しいはずがあるか!
口を開けば御国自慢が飛び出すフォローズ・チョークに閉口しながらも、俺はホワイトレッグスとは違い分別があるらしい彼の部族と接触を図るべく北上を続ける。
地元の人間なら土地勘もあるはず、落石で塞がれたモハビへの道とは別のルートを知っている可能性もある。
だが、このときの俺は想像すらしていなかった。
これから俺が会いに行く男が、伝説の「アノ男」だった、などとは…
デッドホースの集落に到着した俺は、長が待つという洞窟へと入っていった。
てっきり牛の頭蓋骨をかぶった半裸のマッチョマンみたいなのが出てくるんじゃないかと想像していた俺を待ち構えていたのは、全身に包帯を巻き、現代的な戦闘服に身を包んだ瀟洒な男だった。
「ほう、こんな場所に来たがる酔狂者がそう何人もいたとはな。まあ、彼がそうであったなら、キャラバンの護衛などという手段は選ばんか」
「アテが外れた、って顔だな。知り合いでも遊びに来たのかと思ったのかい」
「共通点があったからな。ザ・ディバイドの運び屋、君の姿にも見覚えがある、クレイブ・マクギヴァン。私個人としては君の行いに意見するつもりはないが、彼はそうは思っていないらしいぞ」
「…ひょっとして、ユリシーズのことを言ってるのか、あんた。いったい何者だ」
「敬虔なる信徒にして、穢れた炎に身を焼かれた哀れな神の下僕。かつてはシーザーとともにリージョンを造り上げた、それももう過去の話。私の名はジョシュア・グラハム」
「ジョシュ……!!」
目前の男の正体を知り、俺は絶句する。手袋の内側で汗が噴き出し、自然と銃を握る手に力が入っていた。
そういえばフォローズ・チョークは一族の長を「グラハム」と呼んでいた、だからといって、まさかあの、ジョシュア・グラハム…伝説の「バーンドマン」だなどと、なんで予測できるっていうんだ!?
かの悪名高きシーザー・リージョンの前最高戦闘指揮官、冷酷無比にして残忍な殺戮機械。NCRから最重要暗殺目標とされながらも、精鋭からなる暗殺部隊の襲撃をすべて退けた比類なき武人。
だがフーバーダムでのNCRとの戦闘で大敗を喫したことが原因で、最高指導者であるシーザーの命令により燃えたままグランドキャニオンの崖から投棄されたと聞いていた。
リージョンの間では今でもグラハムは生きていると噂され、そのことを口に出しただけでシーザーに処刑されるという「バーンドマン(燃える男)」の伝説がまことしやかに囁かれるようになったのだ。
まさか、本当に生きていたとは…!
総毛立って警戒する俺に、グラハムは銃を整備する手つきをまったく緩めないまま、視線の一つも動かさずに言葉を続けた。
「私に向かって引き金をひこうとするのは君が初めてではない。そして、最後でもないだろう。心配する必要はない、君と敵対する気はない」
「…なぜ、俺を呼んだ」
「我々はモハビへ通じる抜け道を幾つか知っている。それを君に提供したい、そして見返りに協力を頼みたいのだ」
「選択の余地があるような言い方を」
「あるさ。我々と関わらず、君は自力で脱出の道を探してもいい。私は止めない。これは脅迫でも命令でもない、50/50(フィフティ・フィフティ)の公正な取り引きを望んでいる。選ぶのは君自身だ」
「得体の知れない頼みを断って、キチガイ殺人部族の跋扈する天然の要塞を宛てなく彷徨うのとどっちがスマートかって話だわな…ディールだ、まずはそっちがサイコロを振ってくれ」
現在ザイオンを取り巻いているのは深刻な部族闘争。
温和で争いを厭うデッドホース、ソローズに対するは、自分達以外の人間をすべて殺し滅ぼす残虐なホワイトレッグス。
ホワイトレッグスはリージョンと同化すべく、シーザーが草の根分けても始末したがっているグラハムの命を狙い、グラハムの庇護する…あるいは、グラハムを庇護する…どっちでもいいが…部族の壊滅に乗り出している。
すでにニュー・カナーンはホワイトレッグスの支配下にあり、以前に消息を絶ったハッピートレイル・キャラバンも彼らの手によって始末されたのだという。
俺に求められているのは、ホワイトレッグスと戦うための支援。
「まずはザイオン各地に残されている戦前の物資の回収を頼みたい。道々フォローズ・チョークが説明したと思うが、ザイオンの部族は戦前の建造物に精霊が取り憑いていると信じており、決して近づこうとしない」
「あれが同じアメリカ人の末裔とはね。そういえば、喋ってる言葉も英語じゃなかったな」
「核戦争から200年もの間に、文明や言語が独自の発展を遂げたのだ。誰もが旧世界のやり方に固執しているわけではない、特に、こういう場所では」
「オーケイ…協力しよう。ホワイトレッグスには、俺もアヤをつけられたばっかりだしな」
「素晴らしい。神の御加護とおなじくらい、よき隣人の存在もまた代え難いものだ」
「よせよ、俺は見返りを目当てにやるだけだ。よきサマリア人なんてガラじゃあない」
「評価というのは常に後世、第三者によって成されるものだ。まあ、それはいい…フォローズ・チョークを連れて行け、彼は外の文明に強い関心を持っている。ゆえに旧世紀の遺物を前にしても物怖じすることはなかろう。案内役として適役だ」
「えー」
「イヤか」
「うん」
「彼はまだ若い、経験が足りないし少々落ち着きのないところもある。だが君の足を引っ張るようなことはしないはずだ、私が保証する」
「そこまで言われてはね…」
ぶっちゃけ俺はフォローズ・チョークが苦手だし、こういう仕事は単独でこなすのが信条だから、気の置けない人間を共に連れるなどというのは願い下げなのだが、グラハムにこうまで言われては断るわけにはいかなかった。
正直に言おう。俺はグラハムのことが怖かった。
たとえ物腰が柔らかろうと、誠意のある態度を取っていようと、相手はあのジョシュア・グラハムだ。俺はリージョンに所属していた頃の彼を知っているわけではないが、彼がこのザイオンで魂を洗い流して善人に変貌したなどとは思っていなかった。
本物の悪党というのは、無闇に相手を威嚇したり、力を誇示したりはしない。
仲良く肩を抱き合い、一緒に朝食を食べ、会計を済ませ、笑顔で手を振ってから相手の頭に銃弾を撃ち込む。本物の殺し屋とはそういうものだ。特別な感情など何もなく、それを日常の光景として生きることができるロクデナシの才能。
普通の人間がトーストを焼き、コーヒーを淹れ、新聞を読むのと同じ感覚で、敵の頭蓋をバットで叩き割ることができる人間。たとえそれが旧知の友人だろうと、恋人であろうと、必要があれば…おそらく、ジョシュア・グラハムはそういう人種だ。
それはまったく稀有な才能だ。自分にもできると考えるやつは大勢いる、いざとなったら自分もそういう非道を躊躇うことなどないと。まるで宝くじを買い続ければいつか当たるとでも言うかのように。だが実際にそういう人生を生きれる人間はそう多くない。
いまのところ、グラハムが俺に殺意を抱いているようには見えない。だが、それは彼が優しい人間だからなんかじゃない。俺が敵ではないから、ただそれだけのことだ。それも、今のところは…という但し書きをつけて。
フォローズ・チョークを連れて洞窟を出た俺は、人生経験が浅く外の世界に憧れを抱く若者を横目に口を開いた。
「それで、物資の捜索にあたってはアテがあるんだろうな?」
「もちろん。川沿いにあるフィッシング・ロッジと呼ばれる建物、北東の古いレンジャー・ステーション、その近くにあるゼネラル・ストアだ。タブーの印がついたそれらの場所は、デッドホースとソローズだけじゃなく、ホワイトレッグスもあまり近寄りたがらない」
「つまり手付かずのお宝があるってことか。有難い話だ」
戦前の遺物には、いつだって死の匂いがつき纏っている。
ウェイストランダーはそこに死体があろうと脇目も振らずゴミ漁りをするが、おそらくザイオンの部族は感受性が強いのだろう。怒れる幽霊がいまも彷徨っているという話に信憑性がないとは言い切れず、もし俺も子供の頃から言い聞かせられていたらビビッて近づけなかったに違いない。
言ってみれば、人の悪事は神様がすべて見ているから、悪人は死後に地獄へ堕とされる…などといった戯言とおなじ次元の話なのだ。信仰と道徳。真偽のほどは?目に見えないものを証明することはできない、俺はそれをデタラメや駄法螺だと笑う気にはなれない。
フォローズ・チョークが恐れを知らないのは勇気か、はたまた好奇心ゆえの無謀か?
「行こうか。グズグズしてたら、幽霊より先にホワイトレッグスに殺されちまう」
「アー、現実的な脅威というやつですね。文明人らしい」
彼のたどたどしい英語の発音に苦笑しながら、俺はデッドホース・ポイントへ向かうために歩んできた道を逆に辿りはじめた。
しかし、妙なことに巻き込まれたな…
< Wait For Next Deal... >
どうも、グレアムです。突発的にニューベガスのエセプレイ日記を再開してみました。
といっても今回は途中まで書いていたブレンダのストーリーではなく、その前日譚にあたる3のエセプレイ日記主人公クレイブの物語となります。
Broken Steel後にモハビへと渡ったクレイブはザ・ディバイドでの事件を経てザイオン、ビッグ・エンプティ、シエラ・マドレを旅し、最終的にニューベガスのストーリーへ帰結します。そこへブレンダがどう関わるか、が話の肝となるわけで。
ただまあ3から地続きの話にしてしまうと、時系列的に相当忙しいというか、かなり無茶な設定になってしまうのですが、そのへんは目をつぶってということで…そもそも時系列が曖昧な設定が多いですしねえ(ザ・ディバイドが運び屋のせいで滅亡したのはいつだよとか調べても正確な数字が出てこない事項が多々)。
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