主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
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2011/12/16 (Fri)15:28
「フンッ!」
ゴシャアッ!
「初手はこんなもんですか」
白昼にも関わらず無意味に焚かれている火の傍らに突っ伏した弓兵を見下ろしながら、ちびのノルドは「フゥッ」と息をついた。
今回ちびのノルドが受けた依頼は帝国直々のもので、帝国刑務所下水口から川を挟んで向かいにある古代アイレイドの遺跡を拠点にしている野盗集団の壊滅だった。
本来なら、そこまで情報が得られているならば傭兵に依頼せずとも帝都兵を動員して壊滅を図るところなのだろうが、帝都兵は現在盗賊ギルドの一斉検挙に全力を傾けており、他の任務に人員を割ける状況ではないらしい。
帝都の外には辛うじてパトロール隊を少数派遣する程度が限界らしく、それもあまり練度の高い連中ではないという。
「治安維持のための犯罪者掃討、こういう仕事ってわかりやすくていいですよね」
シロディールに数多く存在しているアイレイド遺跡の一つヴィルバーリンに足を踏み入れながら、ちびのノルドはそんな一言を漏らした。
傭兵となれば戦争絡みの仕事も少なくはない。そして戦場では人間的な善悪など意味を成さず、そこには「殺すか、殺されるか」の二択しかない。兵士の素性や信条や目的など、なにも関係ないのだ。
高台から、野盗の集会所を見下ろす。
自前で用意したのか、元から遺跡にあったのかはわからないが、雑多な調度品を寄せ集めて作られたスペースはさながら簡易食堂といったところか。
それぞれ武器を磨いたり、食事をしていたりする野盗たちはリラックスしきっており、そこに警戒の二文字はない。
「ふんッ!」
ちびのノルドは足元を通りかかった弓兵の頭上に飛び込み、後頭部に肘を叩き込む。
頭蓋骨がひしゃげる音を聞きながら、ちびのノルドは周囲を見回した。どうやら誰にも気づかれていないようだ。
弓兵の担いでいた矢筒から数本の矢を抜き、テーブルについて食事をしている男に近づく。ちびのノルドは男の頭を掴んでテーブルに叩きつけると、手にした矢をまとめて耳に突き立てた。
けたたましい悲鳴とともに、それまで無警戒だった野盗たちが一斉に振り向く。
いまでこそ敵の正体が認識できずに狼狽しているが、やがて体制を持ち直すはず…それまでが勝負だった。そして、ちびのノルドにとってはその一瞬の時間さえあれば充分だった。
5、6人いた野盗たちは、わずか20秒と経たずに全滅していた。
「さて…」
容赦なく振るったせいか若干痺れのきた拳を揉みほぐしながら、ちびのノルドは周囲を見回した。
野盗の頭領らしき男の死体も確認し、帝都からの依頼は完遂した。これからはボーナスタイムだ。適当に野盗の財産を物色しながら、ちびのノルドは一通の手記に目を留めた。
どうやら手記は野盗の頭領が書いたものらしく、それによると野盗集団がこの場所を拠点として使いはじめた頃から、構成員の数名が行方不明になっているとのことだった。
手記は「この稼業に嫌気が差して抜け出したのだろう」と断じている一方、「ときどき妙な呻き声が聞こえる」「アイレイドの亡霊を見た者がいる」といったオカルト話も併記されており、また、この遺跡にまつわる怪談はちびのノルドも帝都で幾度か耳にしている。
「どうも気になりますね…」
あの遺跡には妙な噂もある、気をつけろよ…任務受領時にそんな声をかけられたことを思い出しながら、ちびのノルドは一考した。
「うまくこの一件を解明できれば、ボーナスが出るかもしれないですね。個人的な興味もありますし」
野盗の財産漁りを中断すると、ちびのノルドは遺跡の構造を調べはじめた。
やがて発見した、奇妙な紋様。
「これ、扉…でしょうか?」
現在のどの文明でも見られない様式の扉を前に、ちびのノルドは驚きを隠せない。
「とりあえず、この奥に何らかの手がかりがある可能性はありますね」
そう言って、ちびのノルドは扉の向こう側へと足を踏み入れた。
ゴシャアッ!
「初手はこんなもんですか」
白昼にも関わらず無意味に焚かれている火の傍らに突っ伏した弓兵を見下ろしながら、ちびのノルドは「フゥッ」と息をついた。
今回ちびのノルドが受けた依頼は帝国直々のもので、帝国刑務所下水口から川を挟んで向かいにある古代アイレイドの遺跡を拠点にしている野盗集団の壊滅だった。
本来なら、そこまで情報が得られているならば傭兵に依頼せずとも帝都兵を動員して壊滅を図るところなのだろうが、帝都兵は現在盗賊ギルドの一斉検挙に全力を傾けており、他の任務に人員を割ける状況ではないらしい。
帝都の外には辛うじてパトロール隊を少数派遣する程度が限界らしく、それもあまり練度の高い連中ではないという。
「治安維持のための犯罪者掃討、こういう仕事ってわかりやすくていいですよね」
シロディールに数多く存在しているアイレイド遺跡の一つヴィルバーリンに足を踏み入れながら、ちびのノルドはそんな一言を漏らした。
傭兵となれば戦争絡みの仕事も少なくはない。そして戦場では人間的な善悪など意味を成さず、そこには「殺すか、殺されるか」の二択しかない。兵士の素性や信条や目的など、なにも関係ないのだ。
高台から、野盗の集会所を見下ろす。
自前で用意したのか、元から遺跡にあったのかはわからないが、雑多な調度品を寄せ集めて作られたスペースはさながら簡易食堂といったところか。
それぞれ武器を磨いたり、食事をしていたりする野盗たちはリラックスしきっており、そこに警戒の二文字はない。
「ふんッ!」
ちびのノルドは足元を通りかかった弓兵の頭上に飛び込み、後頭部に肘を叩き込む。
頭蓋骨がひしゃげる音を聞きながら、ちびのノルドは周囲を見回した。どうやら誰にも気づかれていないようだ。
弓兵の担いでいた矢筒から数本の矢を抜き、テーブルについて食事をしている男に近づく。ちびのノルドは男の頭を掴んでテーブルに叩きつけると、手にした矢をまとめて耳に突き立てた。
けたたましい悲鳴とともに、それまで無警戒だった野盗たちが一斉に振り向く。
いまでこそ敵の正体が認識できずに狼狽しているが、やがて体制を持ち直すはず…それまでが勝負だった。そして、ちびのノルドにとってはその一瞬の時間さえあれば充分だった。
5、6人いた野盗たちは、わずか20秒と経たずに全滅していた。
「さて…」
容赦なく振るったせいか若干痺れのきた拳を揉みほぐしながら、ちびのノルドは周囲を見回した。
野盗の頭領らしき男の死体も確認し、帝都からの依頼は完遂した。これからはボーナスタイムだ。適当に野盗の財産を物色しながら、ちびのノルドは一通の手記に目を留めた。
どうやら手記は野盗の頭領が書いたものらしく、それによると野盗集団がこの場所を拠点として使いはじめた頃から、構成員の数名が行方不明になっているとのことだった。
手記は「この稼業に嫌気が差して抜け出したのだろう」と断じている一方、「ときどき妙な呻き声が聞こえる」「アイレイドの亡霊を見た者がいる」といったオカルト話も併記されており、また、この遺跡にまつわる怪談はちびのノルドも帝都で幾度か耳にしている。
「どうも気になりますね…」
あの遺跡には妙な噂もある、気をつけろよ…任務受領時にそんな声をかけられたことを思い出しながら、ちびのノルドは一考した。
「うまくこの一件を解明できれば、ボーナスが出るかもしれないですね。個人的な興味もありますし」
野盗の財産漁りを中断すると、ちびのノルドは遺跡の構造を調べはじめた。
やがて発見した、奇妙な紋様。
「これ、扉…でしょうか?」
現在のどの文明でも見られない様式の扉を前に、ちびのノルドは驚きを隠せない。
「とりあえず、この奥に何らかの手がかりがある可能性はありますね」
そう言って、ちびのノルドは扉の向こう側へと足を踏み入れた。
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2011/11/28 (Mon)07:57
「こちらブラック17。16、聞こえてる?
『ああ。良好とはいかないがね…この大陸は雑音が多いな』
帝国の地下牢へと続く、下水道の入り口。
長い銀髪を後ろで束ねた全身黒装束の女が、手にした小型水晶を通して何者かと話していた。
『それで、任務は無事達成したのかね?』
聞くまでもないが…そういわんばかりの態度で、通信先の男…ブラック16は尋ねた。その返答は予想もしないものだったが。
「失敗したわ」
『なるほど、それで…ちょっと待て。いま、失敗したと言ったか?』
「確認を取るくらいなら医者に行きなさい。同じ言葉が聞きたいならオウムでも飼うことね」
『随分と高圧的じゃないか。いったい、なにがあった?今回の任務では、君にとって障害足り得るものは存在していないと思っていたが』
「私も苛ついてるのよ、皮肉はやめて頂戴。先手を取られたわ」
『先手、とは?』
「私が標的に近づいたときには、既に標的は殺されていた」
ブラック17…暗殺者集団「黒の里」において、精鋭のみで構成された部隊「ブラック・ナンバー」の17番目の殺し屋。
彼女の標的は、皇帝ユリエル・セプティム。
最強の名を欲しいままにするブラック・ナンバーにおいて、特に戦闘技能の高いブラック17にとって皇帝の暗殺など赤子の手を捻るよりも造作のない任務だと思われていた。
しかし、現実は違った。
「見たことのない連中だったわ。魔鎧師…と言ったかしら?異界の武具を召喚装着する術師のこと」
『珍しいタイプの殺し屋だな。しかし、これは面倒なことになったぞ』
ブラック・ナンバーにとって、「失敗」の2文字は存在しないも同義語だ。
結果は問題ではない。任務をブラック・ナンバーが遂行すること、それこそがもっとも重要なのだ。
『いいか、シューティングスター。これは我々に対する挑戦だ…ならばやるべきことは一つ。我々をコケにした連中を殺せ。仲間がいるなら、それも皆殺しだ。関係者は親族から知人に至るまですべてだ、いいな』
「御意。わかってるわよ、タワー」
『二度の失敗は許されんぞ』
「必要なら大陸ごと殲滅するまでよ。それはそうと、他にも妙なものを見かけたわ」
『妙なもの?』
「緑髪の少女。見た目は12、3てとこかしら。皇帝と行動をともにしていたようね、素性はわからないけど、皇帝を襲撃した魔鎧師を簡単に蹴散らしてたわ。あれ、たぶん人形ね。ひょっとしたら、この世界のテクノロジィじゃないかも」
『自動人形か。そいつも気になるな』
ブラック16は鼻を鳴らすと、ブラック17に向かって言った。
『追って指示を出す。それまで適当に身を隠していろ』
「わかった」
ブラック17の声が途切れるとともに、手の内の小型水晶が音を立てて四散する。
「通信石はあと4つ、か…」
面白くない。まったく面白くない。
最悪のタイミングで横槍を入れられたものだ…ブラック17は嘆息した。相手がこちらを認識しているか、いないかなど、関係ない。黒の里は任務を完遂できず、依頼主からの信頼は失墜した。
金さえ払えば、相手が天使だろうが悪魔だろうが…文字通りの意味だ…取引をする、それが黒の里の流儀だ。時に人外を相手に取引をする異能集団に、失敗など許されるはずもない。
「ところでいま、誰と会話をしていたのだ?」
突如背後から、何者かの声が聞こえてくる。深遠の暁の暗殺者だ。
「レディに声をかけるなら、それなりの礼儀ってものがあると思うのだけれど?」
「生意気な口をきくやつだ。貴様、皇帝暗殺の場にいたな?気づかれていないとでも思ったか」
「見かけよりは優秀なのね。気配を消してたつもりだったんだけど」
「残念だが、目撃者を野放しにしておくわけにはいかん」
「あら奇遇。私も同じこと考えてたのよ」
「なんだと……?」
魔界仕込みの装甲に、易々と刃を突き立てるブラック17。顔面に刃物を刺し込まれた暗殺者は、ゆっくりと地面に倒れた。
「いい憂さ晴らしになったわ。ありがと」
カチリ、短刀を鞘に納めながら、ブラック17は顔面から血を流す暗殺者の死体を一瞥し、その場を立ち去った。
『ああ。良好とはいかないがね…この大陸は雑音が多いな』
帝国の地下牢へと続く、下水道の入り口。
長い銀髪を後ろで束ねた全身黒装束の女が、手にした小型水晶を通して何者かと話していた。
『それで、任務は無事達成したのかね?』
聞くまでもないが…そういわんばかりの態度で、通信先の男…ブラック16は尋ねた。その返答は予想もしないものだったが。
「失敗したわ」
『なるほど、それで…ちょっと待て。いま、失敗したと言ったか?』
「確認を取るくらいなら医者に行きなさい。同じ言葉が聞きたいならオウムでも飼うことね」
『随分と高圧的じゃないか。いったい、なにがあった?今回の任務では、君にとって障害足り得るものは存在していないと思っていたが』
「私も苛ついてるのよ、皮肉はやめて頂戴。先手を取られたわ」
『先手、とは?』
「私が標的に近づいたときには、既に標的は殺されていた」
ブラック17…暗殺者集団「黒の里」において、精鋭のみで構成された部隊「ブラック・ナンバー」の17番目の殺し屋。
彼女の標的は、皇帝ユリエル・セプティム。
最強の名を欲しいままにするブラック・ナンバーにおいて、特に戦闘技能の高いブラック17にとって皇帝の暗殺など赤子の手を捻るよりも造作のない任務だと思われていた。
しかし、現実は違った。
「見たことのない連中だったわ。魔鎧師…と言ったかしら?異界の武具を召喚装着する術師のこと」
『珍しいタイプの殺し屋だな。しかし、これは面倒なことになったぞ』
ブラック・ナンバーにとって、「失敗」の2文字は存在しないも同義語だ。
結果は問題ではない。任務をブラック・ナンバーが遂行すること、それこそがもっとも重要なのだ。
『いいか、シューティングスター。これは我々に対する挑戦だ…ならばやるべきことは一つ。我々をコケにした連中を殺せ。仲間がいるなら、それも皆殺しだ。関係者は親族から知人に至るまですべてだ、いいな』
「御意。わかってるわよ、タワー」
『二度の失敗は許されんぞ』
「必要なら大陸ごと殲滅するまでよ。それはそうと、他にも妙なものを見かけたわ」
『妙なもの?』
「緑髪の少女。見た目は12、3てとこかしら。皇帝と行動をともにしていたようね、素性はわからないけど、皇帝を襲撃した魔鎧師を簡単に蹴散らしてたわ。あれ、たぶん人形ね。ひょっとしたら、この世界のテクノロジィじゃないかも」
『自動人形か。そいつも気になるな』
ブラック16は鼻を鳴らすと、ブラック17に向かって言った。
『追って指示を出す。それまで適当に身を隠していろ』
「わかった」
ブラック17の声が途切れるとともに、手の内の小型水晶が音を立てて四散する。
「通信石はあと4つ、か…」
面白くない。まったく面白くない。
最悪のタイミングで横槍を入れられたものだ…ブラック17は嘆息した。相手がこちらを認識しているか、いないかなど、関係ない。黒の里は任務を完遂できず、依頼主からの信頼は失墜した。
金さえ払えば、相手が天使だろうが悪魔だろうが…文字通りの意味だ…取引をする、それが黒の里の流儀だ。時に人外を相手に取引をする異能集団に、失敗など許されるはずもない。
「ところでいま、誰と会話をしていたのだ?」
突如背後から、何者かの声が聞こえてくる。深遠の暁の暗殺者だ。
「レディに声をかけるなら、それなりの礼儀ってものがあると思うのだけれど?」
「生意気な口をきくやつだ。貴様、皇帝暗殺の場にいたな?気づかれていないとでも思ったか」
「見かけよりは優秀なのね。気配を消してたつもりだったんだけど」
「残念だが、目撃者を野放しにしておくわけにはいかん」
「あら奇遇。私も同じこと考えてたのよ」
「なんだと……?」
魔界仕込みの装甲に、易々と刃を突き立てるブラック17。顔面に刃物を刺し込まれた暗殺者は、ゆっくりと地面に倒れた。
「いい憂さ晴らしになったわ。ありがと」
カチリ、短刀を鞘に納めながら、ブラック17は顔面から血を流す暗殺者の死体を一瞥し、その場を立ち去った。
2011/10/17 (Mon)15:59
『アクティブ・シーカー・サイト起動、生命反応補足。追跡中…』
リアは義眼に仕込まれたビジョン・エンハンサーを起動すると、巨大な扉の向こう側にいる「何者か」を透視した。
「フゥム、人間ではないな。ゴブリン、だったか。地下牢から脱出するときに数匹見かけたのう」
対物ライフルがあれば扉越しに「抜ける」のだが、などと考えはしたものの、ないものねだりをしても仕様がない。いまリアが持ち合わせている武器は、ディバイン・エレガンスで適当に見繕って貰った隠匿性のカタール2挺のみだった。
それに、人外だからといって、敵だという確証もない。まだリアはこの世界に来て日が浅いのだ。
アッシュ砦と名づけられた廃墟に入ってはみたものの、どうやらここは自分以外が既に寝床としている模様。どうしたものか…と考えあぐねているのが今の状況だった。
無益な殺生を(一応)好まないリアは、扉を開けると、正々堂々とゴブリンの戦士の前に姿を見せた。
「もし、そこな御仁。不都合がなければ、一晩寝床を貸してほしいのじゃが…」
「ギョエェェェェエエエエッッッ!!」
リアが台詞を言い終わらないうちに、ゴブリンの戦士は敵意を剥き出しにした咆哮を上げる。
ARのエモーション・センサーが真っ赤に染まったのを見て、これは説得以前の問題だとリアは思った。知能は低くないものの、このゴブリンという種はかなり好戦的らしい。
「やはり話が通じんか。ま、仕方がないの」
そう言うが早いか、リアは袖に忍ばせていたカタールの刃を手の平の上に滑らせる。
ヒュン、となにかが風を切る音を聞きつけ、上体を傾ける。そのコンマ1秒以下の高速で耳もとを矢が通過していった。
「小口径高速弾をかわせるワシに、原始的な弓矢を当てられると思うか。笑止」
まぁさっきは当たったがの、反応速度というより状況判断能力の処理の遅延が原因で、と小さく呟いてから、リアは左手の袖口からも刃物を見せた。
ザシュウッ!!
肉が引き裂かれる音とともに、鮮血が飛び散る。
目にも留まらぬ速さで振り下ろされたカタールの一撃は、ゴブリンに成す術も与えなかった。
「必殺技の名前でも叫べば、もうちょっとは様になるかのう。もっとも、ワシの元いた世界ではそういった風習はなかったのじゃがの」
シロディールでも同じです。
しばらく進むと、進路上の橋の上に3匹のゴブリンが待ち構えていた。
「狭い通路上での、多対一の面制圧か。蛮族にしては考えるではないか、じゃが…」
「ワシに小手先の小細工は無意味と知れ!」
一気に距離を詰めると、リアはゴブリン達の輪の中心に斬り込み白刃を一閃させた。飛びかかった勢いに任せて階下に着地したリアの上空に、すでに事切れたゴブリン達の亡骸が投げ出される。
「いやはや肩慣らしにもならんな。雑魚とまでは言わぬが、もちぃと歯ごたえがほしいの」
ゴブリンとて、百汎の冒険者にとって脅威であることに変わりはない。そういった点を考慮しての評価だった。
砦の最深部には、巨大な檻が構築されていた。リアの嗅覚センサーに、常人ならば耐え切れぬであろう凄まじい異臭が検知される。
「ほぅ、これは…ゴブリンどもが作った養殖場か」
階上からリアが見下ろす先にあったのは、巨大ネズミの飼育場だった。衛生に気が遣われているはずもなく、ネズミ達は一様に悪臭を放っている。
異臭の原因はネズミだけではない、付近にはネズミの餌であろうと推測される、人間の腐った死体がバラバラのパーツになって転がっていた。どうやらゴブリンにとって人間より巨大ネズミのほうが口に合うらしい。
「おぉ、おぞましい。臭いが服に移らなければ良いが」
どうやらゴブリン達が使っていたらしい寝床に近づくと、リアは装備を外して布団の上に横になった。
「アンドロイドといえど、固い地面の上に直に寝るのは良くないからの」
しかしこんな場所で寝るはめになるとは、野宿のほうがマシだったか、などと愚痴をこぼす。
「うぇいのん修道院までの道程はあと半分、といったところか」
リアは天井を見つめ、ため息を一つつくと、そのまま眠りに落ちた。
『自閉症モードに移行、静電気によるバッテリーチャージを開始。環境探査フィールドをレベル3で展開。起床タイマーを5時間後にセットします。おやすみなさい、良い夢を。ゼロシー』
この声は…誰?
2011/10/15 (Sat)14:54
「まったくどいつもこいつも、どうしてワシに『めいど服』を着せたがるのじゃ…?」
下水道を通って牢獄から脱出したリアは、バウルスの指示に従い、帝都商業地区に居を構える高級洋服店ディバイン・エレガンスへと足を運んでいた。
「あーらまぁ、可愛らしい!やっぱりこの服が似合うと思ってたのよ~、それも黒じゃなくて赤がね!」
「…見た目より動きやすいデザインなのは関心するがの」
「それはそうよ、だってその服は戦闘用にデザインしたバトルスーツだもの!機能性は保障済、ちょっとした攻撃から身を守れる程度の防御性能だってあるわ」
「貴族向けの洋服店でこんな代物を扱ってる理由が気になるのだがな?」
「あたしとバウルス…もといブレイドは懇意なのよ。ブレイドが機密性の高い任務に赴く場合、いつでも鎧兜を装着できるわけじゃないわ。だから、時にはこういう平服に偽装した戦闘スーツが必要になるわけ」
「この国の連中が崇拝する騎士道精神からはちとかけ離れた戦法に思えるがのう」
「もとよりブレイドは正規兵と異なる戦術を用いるの、任務達成を第一に考えた結果ね。その戦術は古代アカヴィリに通じるものがあるわ。いま貴女が着ているメイド服はもともと、敵の城にメイドとして潜入するときに使うものなの。こういった潜入暗殺術は、古代アカヴィリに存在したと言われている最強のユニット・ゲイシャが用いたものらしいわ」
…うさんくさすぎる。
ハイエルフ(やはりリアが元いた世界に存在したメトセラ種とはまったく別物らしい)の女店主パロニーリャの解説はどうにもウソくさかった(正確に言えば、情報に誤りがある)が、ブレイドの活動方針についてはよく理解できた。
「ところでのう、女主人よ。ときに、うぇいのん修道院というのがどこにあるか、教えてもらえんかの?」
「ウェイノン修道院?ああ、ジョフリ様の御隠居先ね?それならコロールの街のすぐ近くにあるわ。そうね…ここからだと、帝都を出て街道沿いをずっと西に進むの。道に迷うことはないと思うけど、ここからだとちょっと遠いわね。山賊野盗のたぐいも出没するらしいし」
「なにか便利な移動手段とかないものかのう。車とか、へりこぷたーとか?」
「それが何かは知らないけど、チェスナット・ハンディー厩舎に行けば馬を扱ってると思うわ。協力はしてくれないと思うけど…そのことについては、残念だけどあたしも力になれないわ」
「やれやれじゃ」
案の定馬の貸し出しを拒否されたリアは、徒歩でウェイノン修道院までにまで向かうことになった。帝都にかかる巨大な石橋を渡りながら、服とセットでついてきたトランクを片手にぶちぶちと文句をこぼす。
「まったく…いくらワシが疲れ知らずのアンドロイドとはいえ、不整地を延々と歩き通したらすぐに靴が駄目になってしまうわ。せっかくの新しいおべべじゃというのに」
どうやら、バウルスの一筆書きも万能ではないらしい。そもそもブレイドは隠密部隊だ、知名度からして高くはない。そんな得体の知れない連中が書いた書状など、うさんくさい目で見られても仕方のないことではあった。
「う、ぐぐ…やっぱり痛い……」
「うむ?」
橋の終わりに差しかかったとき、全身をいかつい鎧で覆った戦士が地面にうずくまっている姿が見えた。どうも地下牢で皇帝を襲撃した連中と姿がそっくりだが、なぜこんなところで股間をおさえてぶっ倒れているのかはわからなかった。
「そ、そこな道行くお嬢さん、どうか助けて…」
「お大事にのー」
助けを求める声を華麗にスルーし、リアは歩を進める。
ひょっとしたら、助けようとしたところを襲う新手の痴漢かもしれないし、リスクは負わないに越したことはない。見知らぬ人間を助ける義務はないし、どうもあの手合いは関わらないほうが良い気がするのだ。
橋を渡りきってすぐの場所にある民家の前を通りかかったとき、猟師らしき男がリアに近寄ってきた。
「そこの旅のお方、どうかこの哀れな男を助けてはもらえないだろうか」
「話だけなら聞いてやろう。手短にな」
「実は私、とある錬金術師の依頼で、この近辺の湖に生息する殺人魚の鱗を集めているのです。ところがもう少しで規定の枚数を集め終わろうというとき、殺人魚に脚を喰いちぎられて漁が不可能になってしまったのです。謝礼は払います、どうか依頼を完遂するために殺人魚の鱗を集めてはもらえないでしょうか」
「…おぬしにはワシが何に見えるのだ?」
「やっぱり必死すぎますか」
RPGにおいて、まったく変哲のない類のクエストであることに変わりはないのだが、中年のオッサンが女中の恰好をした幼女に頼むような仕事ではないのもまた、事実だった。
「それにの、ワシは水場が苦手なのじゃ。着水したが最後、底の底まで沈んで二度と浮かび上がっては来んぞ。えーい、やめじゃ、やめ。聞くだけ無駄じゃったわ」
あいにくと水に浮かぶ軽量型の身体に転生できなかったリアは、オッサンの頼みを無碍に断ると、旅を急ぐことにした。
もう間もなく夕方になろうかというとき、リアは馬に乗って街道を巡回する帝都兵と出会った。
「お嬢さん、この道は子供の一人歩きができるほど安全ではない。なにか私にできることはあるかな?」
「おお、助かったぞ。実は小用でうぇいのん修道院まで行かねばならぬのじゃが、そこまで乗せていってはもらえんかの?」
「ウェイノン修道院…コロール方面か。残念だが私の順回路とは逆だ、力にはなれそうにない」
「おおう、なんという薄情な」
さらば、と告げるが早いか、衛兵はさっさと帝都方面へ向けて馬を走らせていった。
「なーんじゃ、あれは。あれでも騎士道精神がどうとか抜かせるんか。まーったく国家権力が腐っておるのはどの世界も同じじゃの」
リアはため息をつくと、その場に腰かけて空を見上げた。早くも月(のように見えるが、実際はまったく別の星だろう)が出ており、おぼろげながらも無数の星々が輝きを放ちはじめている。
「GPSも通信ネットワークもまったく音沙汰なしとはの。この星の上空には通信衛星が存在しないと見えるな」
考えられる可能性は二つ。自分が通信衛星が存在しないほど遠い過去(あるいは未来)に飛ばされたか、あるいは地球以外のまったく違う惑星に飛ばされたか、だ。いずれにせよ誘拐という線はなくなり、マシニマのテクノロジー被害がもたらした時空の歪みに巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。
「まったく因果なものじゃて。せっかく機械のワシが、気の置ける仲間に出会えたというのに」
感傷に浸りつつ空をぼーっと見つめていると、何者かが近づいてきた。
「あーら可愛らしいお嬢さん、随分と重そうな荷物を抱えているわね。わたしが代わりに持ってあげてもいいのよ?」
皮鎧に鉄製のバトルハンマー、どう見ても親切な旅人という風情ではない。女の背後には弓兵が控えており、すでに弦を引いていつでも発射できる態勢を整えている。
どう見ても野盗です本当にありがとうございました。
「まったく前途多難にもほどがあるわい。この荷物が欲しいのか?断ったらどうするつもりじゃ、まさかこのいたいけな幼女に乱暴を振るうとでも…」
ビュンッ!
「…な、え……?」
放たれた矢が、リアの心臓を貫く。
「生意気な口をきく御餓鬼様ね、こっちはガキの命なんか、なんとも思ってないわよ」
そう言いながら、野党の女がリアのトランクに手をかけた、そのとき。
「痛いではないか、この痴れ者が」
突如ドレスの袖口から飛び出した刃物に口を刺し貫かれた野党の女は、悲鳴を上げる間もなく絶命した。
心臓(というか、人間なら心臓がある位置)に矢を突き刺したまま、鬼のような形相で刃を振り抜くリアの姿を目にした弓兵は、あからさまに動揺していた。
「な、な、な、ばっ…バケモノ!?」
「これでも、ここしばらくコロシは控えてきたつもりじゃがな。抑え役がついてないときのワシは、ちょいとおっかないかもしれんぞ…?」
「ち、畜生!てめぇなんざ怖かねぇ!」
ゆっくり歩いているように見えて、その実あっという間に距離を詰めてきたリアを目の当たりにした弓兵は、弓を投げ捨てると腰のショートソードに手をかけた。
「残念。遅い」
ザシュッ……
胸を斬り裂かれ、弓兵は仰向けに引っくり返った。血のあぶくに溺れかけている弓兵に、リアが虫ケラを見るような眼差しを向ける。
「きっちり急所を狙ったからの、おぬしは間違いなく、確実に、死ぬ。せいぜい苦しまず、すぐに死ねることを祈るがよいわ」
リアは自身に刺さった矢を投げ捨てると、トランクを持ち上げてその場を後にした。
「なんという世界じゃここは、まったく。ぷんすか」
幼女が肩を怒らせながら歩くさまは、傍から見ればギャグにしか写らない。
「しろでぃーる、か……」
すっかり暗くなった空を仰ぎ見ながら、リアはため息をついた。
「今日はここで晩を過ごすかの」
日が落ちたにも関わらず宿がまったく見つからないため、リアは近くで見つけた城砦跡に足を踏み入れた。どう見てもダンジョンです本当にありがとうございました。
波乱含みのリアの旅はまだ始まったばかりである。
下水道を通って牢獄から脱出したリアは、バウルスの指示に従い、帝都商業地区に居を構える高級洋服店ディバイン・エレガンスへと足を運んでいた。
「あーらまぁ、可愛らしい!やっぱりこの服が似合うと思ってたのよ~、それも黒じゃなくて赤がね!」
「…見た目より動きやすいデザインなのは関心するがの」
「それはそうよ、だってその服は戦闘用にデザインしたバトルスーツだもの!機能性は保障済、ちょっとした攻撃から身を守れる程度の防御性能だってあるわ」
「貴族向けの洋服店でこんな代物を扱ってる理由が気になるのだがな?」
「あたしとバウルス…もといブレイドは懇意なのよ。ブレイドが機密性の高い任務に赴く場合、いつでも鎧兜を装着できるわけじゃないわ。だから、時にはこういう平服に偽装した戦闘スーツが必要になるわけ」
「この国の連中が崇拝する騎士道精神からはちとかけ離れた戦法に思えるがのう」
「もとよりブレイドは正規兵と異なる戦術を用いるの、任務達成を第一に考えた結果ね。その戦術は古代アカヴィリに通じるものがあるわ。いま貴女が着ているメイド服はもともと、敵の城にメイドとして潜入するときに使うものなの。こういった潜入暗殺術は、古代アカヴィリに存在したと言われている最強のユニット・ゲイシャが用いたものらしいわ」
…うさんくさすぎる。
ハイエルフ(やはりリアが元いた世界に存在したメトセラ種とはまったく別物らしい)の女店主パロニーリャの解説はどうにもウソくさかった(正確に言えば、情報に誤りがある)が、ブレイドの活動方針についてはよく理解できた。
「ところでのう、女主人よ。ときに、うぇいのん修道院というのがどこにあるか、教えてもらえんかの?」
「ウェイノン修道院?ああ、ジョフリ様の御隠居先ね?それならコロールの街のすぐ近くにあるわ。そうね…ここからだと、帝都を出て街道沿いをずっと西に進むの。道に迷うことはないと思うけど、ここからだとちょっと遠いわね。山賊野盗のたぐいも出没するらしいし」
「なにか便利な移動手段とかないものかのう。車とか、へりこぷたーとか?」
「それが何かは知らないけど、チェスナット・ハンディー厩舎に行けば馬を扱ってると思うわ。協力はしてくれないと思うけど…そのことについては、残念だけどあたしも力になれないわ」
「やれやれじゃ」
案の定馬の貸し出しを拒否されたリアは、徒歩でウェイノン修道院までにまで向かうことになった。帝都にかかる巨大な石橋を渡りながら、服とセットでついてきたトランクを片手にぶちぶちと文句をこぼす。
「まったく…いくらワシが疲れ知らずのアンドロイドとはいえ、不整地を延々と歩き通したらすぐに靴が駄目になってしまうわ。せっかくの新しいおべべじゃというのに」
どうやら、バウルスの一筆書きも万能ではないらしい。そもそもブレイドは隠密部隊だ、知名度からして高くはない。そんな得体の知れない連中が書いた書状など、うさんくさい目で見られても仕方のないことではあった。
「う、ぐぐ…やっぱり痛い……」
「うむ?」
橋の終わりに差しかかったとき、全身をいかつい鎧で覆った戦士が地面にうずくまっている姿が見えた。どうも地下牢で皇帝を襲撃した連中と姿がそっくりだが、なぜこんなところで股間をおさえてぶっ倒れているのかはわからなかった。
「そ、そこな道行くお嬢さん、どうか助けて…」
「お大事にのー」
助けを求める声を華麗にスルーし、リアは歩を進める。
ひょっとしたら、助けようとしたところを襲う新手の痴漢かもしれないし、リスクは負わないに越したことはない。見知らぬ人間を助ける義務はないし、どうもあの手合いは関わらないほうが良い気がするのだ。
橋を渡りきってすぐの場所にある民家の前を通りかかったとき、猟師らしき男がリアに近寄ってきた。
「そこの旅のお方、どうかこの哀れな男を助けてはもらえないだろうか」
「話だけなら聞いてやろう。手短にな」
「実は私、とある錬金術師の依頼で、この近辺の湖に生息する殺人魚の鱗を集めているのです。ところがもう少しで規定の枚数を集め終わろうというとき、殺人魚に脚を喰いちぎられて漁が不可能になってしまったのです。謝礼は払います、どうか依頼を完遂するために殺人魚の鱗を集めてはもらえないでしょうか」
「…おぬしにはワシが何に見えるのだ?」
「やっぱり必死すぎますか」
RPGにおいて、まったく変哲のない類のクエストであることに変わりはないのだが、中年のオッサンが女中の恰好をした幼女に頼むような仕事ではないのもまた、事実だった。
「それにの、ワシは水場が苦手なのじゃ。着水したが最後、底の底まで沈んで二度と浮かび上がっては来んぞ。えーい、やめじゃ、やめ。聞くだけ無駄じゃったわ」
あいにくと水に浮かぶ軽量型の身体に転生できなかったリアは、オッサンの頼みを無碍に断ると、旅を急ぐことにした。
もう間もなく夕方になろうかというとき、リアは馬に乗って街道を巡回する帝都兵と出会った。
「お嬢さん、この道は子供の一人歩きができるほど安全ではない。なにか私にできることはあるかな?」
「おお、助かったぞ。実は小用でうぇいのん修道院まで行かねばならぬのじゃが、そこまで乗せていってはもらえんかの?」
「ウェイノン修道院…コロール方面か。残念だが私の順回路とは逆だ、力にはなれそうにない」
「おおう、なんという薄情な」
さらば、と告げるが早いか、衛兵はさっさと帝都方面へ向けて馬を走らせていった。
「なーんじゃ、あれは。あれでも騎士道精神がどうとか抜かせるんか。まーったく国家権力が腐っておるのはどの世界も同じじゃの」
リアはため息をつくと、その場に腰かけて空を見上げた。早くも月(のように見えるが、実際はまったく別の星だろう)が出ており、おぼろげながらも無数の星々が輝きを放ちはじめている。
「GPSも通信ネットワークもまったく音沙汰なしとはの。この星の上空には通信衛星が存在しないと見えるな」
考えられる可能性は二つ。自分が通信衛星が存在しないほど遠い過去(あるいは未来)に飛ばされたか、あるいは地球以外のまったく違う惑星に飛ばされたか、だ。いずれにせよ誘拐という線はなくなり、マシニマのテクノロジー被害がもたらした時空の歪みに巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。
「まったく因果なものじゃて。せっかく機械のワシが、気の置ける仲間に出会えたというのに」
感傷に浸りつつ空をぼーっと見つめていると、何者かが近づいてきた。
「あーら可愛らしいお嬢さん、随分と重そうな荷物を抱えているわね。わたしが代わりに持ってあげてもいいのよ?」
皮鎧に鉄製のバトルハンマー、どう見ても親切な旅人という風情ではない。女の背後には弓兵が控えており、すでに弦を引いていつでも発射できる態勢を整えている。
どう見ても野盗です本当にありがとうございました。
「まったく前途多難にもほどがあるわい。この荷物が欲しいのか?断ったらどうするつもりじゃ、まさかこのいたいけな幼女に乱暴を振るうとでも…」
ビュンッ!
「…な、え……?」
放たれた矢が、リアの心臓を貫く。
「生意気な口をきく御餓鬼様ね、こっちはガキの命なんか、なんとも思ってないわよ」
そう言いながら、野党の女がリアのトランクに手をかけた、そのとき。
「痛いではないか、この痴れ者が」
突如ドレスの袖口から飛び出した刃物に口を刺し貫かれた野党の女は、悲鳴を上げる間もなく絶命した。
心臓(というか、人間なら心臓がある位置)に矢を突き刺したまま、鬼のような形相で刃を振り抜くリアの姿を目にした弓兵は、あからさまに動揺していた。
「な、な、な、ばっ…バケモノ!?」
「これでも、ここしばらくコロシは控えてきたつもりじゃがな。抑え役がついてないときのワシは、ちょいとおっかないかもしれんぞ…?」
「ち、畜生!てめぇなんざ怖かねぇ!」
ゆっくり歩いているように見えて、その実あっという間に距離を詰めてきたリアを目の当たりにした弓兵は、弓を投げ捨てると腰のショートソードに手をかけた。
「残念。遅い」
ザシュッ……
胸を斬り裂かれ、弓兵は仰向けに引っくり返った。血のあぶくに溺れかけている弓兵に、リアが虫ケラを見るような眼差しを向ける。
「きっちり急所を狙ったからの、おぬしは間違いなく、確実に、死ぬ。せいぜい苦しまず、すぐに死ねることを祈るがよいわ」
リアは自身に刺さった矢を投げ捨てると、トランクを持ち上げてその場を後にした。
「なんという世界じゃここは、まったく。ぷんすか」
幼女が肩を怒らせながら歩くさまは、傍から見ればギャグにしか写らない。
「しろでぃーる、か……」
すっかり暗くなった空を仰ぎ見ながら、リアはため息をついた。
「今日はここで晩を過ごすかの」
日が落ちたにも関わらず宿がまったく見つからないため、リアは近くで見つけた城砦跡に足を踏み入れた。どう見てもダンジョンです本当にありがとうございました。
波乱含みのリアの旅はまだ始まったばかりである。
2011/10/07 (Fri)12:35
『自動保護モード解除。機能の完全復帰までにかかる時間、約120秒…』
「う、ん……?」
ひんやりとした感触で目が覚める。
「はて、ここはどこじゃ?」
身体を起こそうとすると、ジャラリ、と鎖が金属音を立てた。
「枷…じゃと?」
自らの腕に嵌められた鉄製の枷を、いぶかしげな目つきで眺める。自分が一糸纏わぬ裸体をランプの明かりの下に晒していることに気がついたリアは、現状を充分に把握できないでいた。
『クロックモード…機能不全。破損したデータを初期化中、新しい情報を再取得します』
「ふん」
バキィ、と派手な音を立て、リアは手枷を破壊する。痛んだ手首をさすりながら、リアは周囲を見回した。
「ここは…独房か?どちらかと言うと、拷問部屋といった風情かの」
『情報の取得に成功。現在時刻、3E433年最後の種月27日…』
「なんじゃ、この年号は。西暦でも新暦でもないのか」
向かいの独房にいるメトセラ種(と思われる…外見は似ているが、肌の質感からするとまったくの別種のようだ)がなにやら五月蝿いが、あえて相手をする気にはなれなかった。
『環境探査モード起動、スキャニング・プログラム実行中…赤外線視野展開、X-rayオプション実行』
「どうやら隠し通路があるようじゃな、面白い。ま、こういった施設にはつきものだからの。鉄格子を破壊して脱出してもいいんじゃが、まぁスマートなやり口ではないからのう」
それにしてもこの喋り方、どうにかならないのか。
「思考支援チップが変調をきたしておるのかもしれんな。義体のヴァージョンも違うようじゃし、まったくわけがわからんよ。顔の造詣も今一つじゃしの」
最後に省電力モードに移行してから現状に至るまでのデータがメモリバンクに一切存在しない。気がかりなのは肉体が新調されていることだ…ヴァージョン・モデルHEL-00c。
何者かの手によってここに運ばれたのか、あるいはリンケージ・エンジンコア破壊による影響で物質転送されたのか…後者であって欲しかった。前者であれば、事務所が襲撃されて勇者屋の面々が全滅した可能性が高い。
「ともあれ、まずはここから脱出するのが先決じゃな」
一方……
「くそっ、どこからこんなに沸いて来るんだ!?」
帝都の地下牢から続く遺跡の中では、激しい交戦が展開されていた。
立て続けに起きた皇族とその側近の暗殺劇。唯一逃げ延びた現皇帝にして皇族最後の生き残りであるユリエル・セプティムとその直属護衛部隊ブレイドは、暗殺者の襲撃をかわしながらの逃走劇を続けていた。
背中を刺すだけが取り柄の連中ならば、ブレイドが遅れを取ることなど有り得ない。
だが邪神メルエーン・デイゴンを崇拝する邪教集団・深遠の暁の殺し屋は、召喚術を応用した魔装戦士だった。魔界オブリビオンの武具を召喚し自身に装着する外法は強力だが、その対価は人間性の破壊だ。本来ならば人間が扱えるような代物ではない。
「駄目だバウルス、これ以上は…ぐあぁぁっ!」
「グレンロイ!?」
仲間が次々に殺されていく。
既に生き残りは皇帝ユリエル・セプティムとブレイドの隊員バウルスのみ。だというのに、敵は未だ有象無象に沸いてくる。
「これまでか…いや、まだだ。こうなったら、一人でも多く道連れにしてくれるッ!」
雄叫びをあげ、バウルスが殺し屋の集団に斬りかかろうとした、そのとき。
ガシャーーーンッッッ!
通風孔に嵌められていた格子が落下し、殺し屋数名を巻き込んで押し潰す。石床を破壊した格子の上には、幼体を惜しげもなく晒すリアの姿があった。
「なんじゃ、とんだ修羅場に飛び込んでしまったようじゃの。これは状況説明を求めることができるような雰囲気ではないな」
「な、な、な、な……!?」
突然の出来事に狼狽するバウルスを傍目に、リアは不適な笑みを浮かべた。
「とりあえず、善玉っぽいほうに加勢しておくかの」
「貴様、邪魔立てするか小娘ェッ!」
迫り来る殺し屋を前に、リアは周囲に散らばる亡骸が手にしていた剣を手に応戦する。
「小娘を前に躊躇なく剣を振るうとは、なかなかの外道じゃの。根っからの犯罪者タイプというやつじゃな…まあ、そういう連中のほうがこちらもやりやすいがの」
容赦なく攻撃を加えてくる殺し屋に、リアはアンドロイド特有の強力な腕力を剣に乗せて叩き込む。召喚装着されたデイドラの鎧を破壊して殺し屋の肉体に喰い込んだ鉄製の剣は、振り抜いた直後に粉々になった。
普通の人間なら反動で腕の骨が折れてもおかしくない一撃を加えた直後にあって、リアの細腕はまったく影響を受けた素振りも見せない。
「うむ。この肉体、気に入った」
幾人もの殺し屋を叩き伏せた末に、リーダーらしき男の姿が見える。その足元には、斬り捨てられた皇帝ユリエル・セプティムの亡骸が横たわる。
「う~む、間に合わんかったか。これも世の無常というやつかの」
「小娘、なぜ皇帝側に味方する?見たところ、皇帝に恩も義もないように見えるが」
「さてな、ツラを見て決めた。それだけじゃ」
「後悔することになるぞ」
「かもしれんが、それはおぬしにとっての慰めにはならんのではないかな」
リアと殺し屋のリーダーは互いに視線を交わす。時間が止まったように感じたその一瞬後に、二人は剣を交えた。
「ば、馬鹿な……っ!?」
「悪くない反応じゃった。まあ、人間にしてはな」
心臓を刺し貫かれ、あからさまに狼狽する殺し屋のリーダー。死の間際に召喚装甲が消失し、深遠の暁の信者の証である真紅のローブを纏った男の姿が現れる。その顔は、普通の人間そのものだった。
「ぜ、全員倒したのか…?」
納刀しながら近づいてくるバウルスに、リアが向き直る。
「残念だが貴公の主人の命は守れなかった。まあ、あまり気を落とさんことだ」
「なぜ、俺が気を落とすと?」
「主人のためなら平気で命を投げ出しそうなツラをしておる」
「そう、か……」
バウルスは皇帝の亡骸に近づくと、静かに黙祷を捧げた。
「ところで、助太刀を受けた手前言いにくいんだが…」
「わしが何者か、という質問には答えられんぞ。なにぶん記憶が飛んでおるもんでな、なぜここにいるのか、自分が何者なのか、自分でも皆目検討がつかんのじゃ」
「いや、それもそうだが。なぜ服を着ない?」
「気になるか?」
「ならんはずがあるか」
「う~む。人間的な羞恥というのは、どうも扱いにくい感情じゃのう」
「羞恥云々の問題じゃない。そんな恰好でうろついたら帝都兵に捕まるぞ」
「じゃあ何か着るものを貸してくれるか?」
「ブレイドの鎧は隊員以外に着せることは許されない。皇帝の衣装など以ての外だ。かといって、深遠の暁のローブを着ても裸同然の犯罪者扱いだろう」
「八方塞がりではないか。服を着ろと言ったのはおぬしであろう」
「仕方がない、俺が一筆書いてやる。それを持って帝都の商業地区に行くんだ、そこで装備を受け取るといい。それまでに布切れ一枚でいい、なんとかして調達しろ」
「まったく、勝手じゃのう…」
突如はじまったアンドロイドの少女リアの物語。様々な謎をはらみつつ、次回へ続く…?
「う、ん……?」
ひんやりとした感触で目が覚める。
「はて、ここはどこじゃ?」
身体を起こそうとすると、ジャラリ、と鎖が金属音を立てた。
「枷…じゃと?」
自らの腕に嵌められた鉄製の枷を、いぶかしげな目つきで眺める。自分が一糸纏わぬ裸体をランプの明かりの下に晒していることに気がついたリアは、現状を充分に把握できないでいた。
『クロックモード…機能不全。破損したデータを初期化中、新しい情報を再取得します』
「ふん」
バキィ、と派手な音を立て、リアは手枷を破壊する。痛んだ手首をさすりながら、リアは周囲を見回した。
「ここは…独房か?どちらかと言うと、拷問部屋といった風情かの」
『情報の取得に成功。現在時刻、3E433年最後の種月27日…』
「なんじゃ、この年号は。西暦でも新暦でもないのか」
向かいの独房にいるメトセラ種(と思われる…外見は似ているが、肌の質感からするとまったくの別種のようだ)がなにやら五月蝿いが、あえて相手をする気にはなれなかった。
『環境探査モード起動、スキャニング・プログラム実行中…赤外線視野展開、X-rayオプション実行』
「どうやら隠し通路があるようじゃな、面白い。ま、こういった施設にはつきものだからの。鉄格子を破壊して脱出してもいいんじゃが、まぁスマートなやり口ではないからのう」
それにしてもこの喋り方、どうにかならないのか。
「思考支援チップが変調をきたしておるのかもしれんな。義体のヴァージョンも違うようじゃし、まったくわけがわからんよ。顔の造詣も今一つじゃしの」
最後に省電力モードに移行してから現状に至るまでのデータがメモリバンクに一切存在しない。気がかりなのは肉体が新調されていることだ…ヴァージョン・モデルHEL-00c。
何者かの手によってここに運ばれたのか、あるいはリンケージ・エンジンコア破壊による影響で物質転送されたのか…後者であって欲しかった。前者であれば、事務所が襲撃されて勇者屋の面々が全滅した可能性が高い。
「ともあれ、まずはここから脱出するのが先決じゃな」
一方……
「くそっ、どこからこんなに沸いて来るんだ!?」
帝都の地下牢から続く遺跡の中では、激しい交戦が展開されていた。
立て続けに起きた皇族とその側近の暗殺劇。唯一逃げ延びた現皇帝にして皇族最後の生き残りであるユリエル・セプティムとその直属護衛部隊ブレイドは、暗殺者の襲撃をかわしながらの逃走劇を続けていた。
背中を刺すだけが取り柄の連中ならば、ブレイドが遅れを取ることなど有り得ない。
だが邪神メルエーン・デイゴンを崇拝する邪教集団・深遠の暁の殺し屋は、召喚術を応用した魔装戦士だった。魔界オブリビオンの武具を召喚し自身に装着する外法は強力だが、その対価は人間性の破壊だ。本来ならば人間が扱えるような代物ではない。
「駄目だバウルス、これ以上は…ぐあぁぁっ!」
「グレンロイ!?」
仲間が次々に殺されていく。
既に生き残りは皇帝ユリエル・セプティムとブレイドの隊員バウルスのみ。だというのに、敵は未だ有象無象に沸いてくる。
「これまでか…いや、まだだ。こうなったら、一人でも多く道連れにしてくれるッ!」
雄叫びをあげ、バウルスが殺し屋の集団に斬りかかろうとした、そのとき。
ガシャーーーンッッッ!
通風孔に嵌められていた格子が落下し、殺し屋数名を巻き込んで押し潰す。石床を破壊した格子の上には、幼体を惜しげもなく晒すリアの姿があった。
「なんじゃ、とんだ修羅場に飛び込んでしまったようじゃの。これは状況説明を求めることができるような雰囲気ではないな」
「な、な、な、な……!?」
突然の出来事に狼狽するバウルスを傍目に、リアは不適な笑みを浮かべた。
「とりあえず、善玉っぽいほうに加勢しておくかの」
「貴様、邪魔立てするか小娘ェッ!」
迫り来る殺し屋を前に、リアは周囲に散らばる亡骸が手にしていた剣を手に応戦する。
「小娘を前に躊躇なく剣を振るうとは、なかなかの外道じゃの。根っからの犯罪者タイプというやつじゃな…まあ、そういう連中のほうがこちらもやりやすいがの」
容赦なく攻撃を加えてくる殺し屋に、リアはアンドロイド特有の強力な腕力を剣に乗せて叩き込む。召喚装着されたデイドラの鎧を破壊して殺し屋の肉体に喰い込んだ鉄製の剣は、振り抜いた直後に粉々になった。
普通の人間なら反動で腕の骨が折れてもおかしくない一撃を加えた直後にあって、リアの細腕はまったく影響を受けた素振りも見せない。
「うむ。この肉体、気に入った」
幾人もの殺し屋を叩き伏せた末に、リーダーらしき男の姿が見える。その足元には、斬り捨てられた皇帝ユリエル・セプティムの亡骸が横たわる。
「う~む、間に合わんかったか。これも世の無常というやつかの」
「小娘、なぜ皇帝側に味方する?見たところ、皇帝に恩も義もないように見えるが」
「さてな、ツラを見て決めた。それだけじゃ」
「後悔することになるぞ」
「かもしれんが、それはおぬしにとっての慰めにはならんのではないかな」
リアと殺し屋のリーダーは互いに視線を交わす。時間が止まったように感じたその一瞬後に、二人は剣を交えた。
「ば、馬鹿な……っ!?」
「悪くない反応じゃった。まあ、人間にしてはな」
心臓を刺し貫かれ、あからさまに狼狽する殺し屋のリーダー。死の間際に召喚装甲が消失し、深遠の暁の信者の証である真紅のローブを纏った男の姿が現れる。その顔は、普通の人間そのものだった。
「ぜ、全員倒したのか…?」
納刀しながら近づいてくるバウルスに、リアが向き直る。
「残念だが貴公の主人の命は守れなかった。まあ、あまり気を落とさんことだ」
「なぜ、俺が気を落とすと?」
「主人のためなら平気で命を投げ出しそうなツラをしておる」
「そう、か……」
バウルスは皇帝の亡骸に近づくと、静かに黙祷を捧げた。
「ところで、助太刀を受けた手前言いにくいんだが…」
「わしが何者か、という質問には答えられんぞ。なにぶん記憶が飛んでおるもんでな、なぜここにいるのか、自分が何者なのか、自分でも皆目検討がつかんのじゃ」
「いや、それもそうだが。なぜ服を着ない?」
「気になるか?」
「ならんはずがあるか」
「う~む。人間的な羞恥というのは、どうも扱いにくい感情じゃのう」
「羞恥云々の問題じゃない。そんな恰好でうろついたら帝都兵に捕まるぞ」
「じゃあ何か着るものを貸してくれるか?」
「ブレイドの鎧は隊員以外に着せることは許されない。皇帝の衣装など以ての外だ。かといって、深遠の暁のローブを着ても裸同然の犯罪者扱いだろう」
「八方塞がりではないか。服を着ろと言ったのはおぬしであろう」
「仕方がない、俺が一筆書いてやる。それを持って帝都の商業地区に行くんだ、そこで装備を受け取るといい。それまでに布切れ一枚でいい、なんとかして調達しろ」
「まったく、勝手じゃのう…」
突如はじまったアンドロイドの少女リアの物語。様々な謎をはらみつつ、次回へ続く…?