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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)05:47
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2012/09/29 (Sat)12:53
 たいして脈絡もなくゾンビが1体出現した!!



「どえ~~~っ!?」
 あまりの突発的アクシデントに、思わず腰を抜かしそうになるミレニア。
 コロールから帝都へと向かう道すがら、どういうわけか場違いにもほどがあるモンスターと接触してしまったらしい。
 そして間の悪いことに、現在、ミレニアは武器の類を一切携帯していなかったのである。
『グアアアァァァァ……』
 いまにもミレニアに掴みかかろうとするゾンビ。
「な、なんとか武器になりそうなものを探さないと…っ!」
 慌てて周囲を見渡し、ミレニアが探し当てた<武器になりそうなモノ>。



「うぉおりゃああぁぁぁぁーーーっっっ!!」
『ブゲレエエェェェェエエ!!??』
 グゴシャアッ!
 ミレニアは、自分の背後に設置されていた<道路標識>を引っこ抜くと、ゾンビの頭部を両断せんばかりの勢いで殴りつけたのであった。ゾンビの身体が奇妙な角度に曲がっている。
 平賀=キートン・太一もびっくりの物品流用であった。



 そんなことをしながら…
 間もなく帝都に着こうかというところへ、1人の中年男性がミレニアに近づいてきた。
「あぁ~、どうしよう、どうしよう。このままではワシの老後が…一生が…」
 それはいつぞやリアに仕事を依頼したものの、あっさりと断られていたオッサンであった。
「どうしよう、どうしよう。あぁ~、困ったなぁ~。困った、困ったぁ」
 そんなことをぶつぶつと呟きながら、やたら意味ありげにミレニアの周囲をうろつき回っている。
「(…たぶん、話しかけてほしいんだろーなぁ…)」
 わかってはいるのだが、わざわざ意味ありげな態度でつきまとってくるオッサンに話しかけるのは、ちょっと勇気がいるなぁ…などと思うミレニア。というか、むしろ不審者なのでは?などと疑ってしまうのも、無理のない話である。
「困った~(チラッ)、困ったなぁ~(チラッ、チラッ)、どうしても誰かの助けがいるなぁ~(チラッ、チラッ、チラッ)」
「…あ、あの。どうかなさったんですか?」



 しまいには、一句毎にこちらを見つめてくるようになったオッサンの与えてくるプレッシャーに耐えかねて、ついにミレニアは口を開いてしまった。
 そもそもミレニアは、根がお人好しである。たとえばオッサンの相手がドレイクだったりしたら、ボコボコになるまでブン殴られていたかもしれないし、ましてブラック17だったらその場で斬り捨てられていただろう。
「そうですか!わたしの頼みを聞いてくださいますか!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「あ、はぁ…(まさかこの人、通行人全員にこんなことしてるんじゃないよね?)」
 すでに会話の順序も考えられなくなっているオッサンの必死すぎる態度に、ミレニアは呆れることしかできず……





「泳ぐぞーっっっ!!」
 場面はかわって、ここはルメア湖。帝都周囲を囲む巨大な湖である。
 オッサン、もといエルウィン・メロウォルド曰く…「この湖に生息する凶暴なスローター・フィッシュ、通称<殺人魚>のウロコを12匹分獲ってきてくれたら、すごいお宝をあげちゃうよ!」とのことである。
 半狂乱になったエルウィンの代わりに説明を補足すると、彼は引退した漁師で、永らくルメア湖での漁を生業としていた。
 そして引退前の最後の仕事として、エルウィンは錬金術師に依頼されたルメア湖の殺人魚のウロコを収集しようとしたところ…見事に負傷。それも足に、完治不能な大怪我を負ってしまったのである。
 このままでは漁師としてのプライドと、老後の生活が危うい。
 そこでエルウィンは、なんとかして殺人魚のウロコの採集を完遂できそうな腕利きの冒険者を探すべく奔走していたのである(主に、自宅の周辺を)。
『ワシはさっき、ゾンビを撃退するキミの姿を見ていた。キミほどの怪力、いやゴリウー、もとい頭の回転の早い冒険者であるならば、きっとルメア湖の殺人魚もまな板の上の鯉、スケベ椅子に腰かけた男も同然!さぁまな板娘よ、いざ大義のために行くのだぁっ!』
「…わたしは怪力でもゴリウーでも、まな板娘でもなぁいっ!」
 エルウィンの見送りの言葉を反芻したミレニアは、思わず叫んだ。
 しかし相手は狂人(どうやら冒険者を探しているうちに頭がおかしくなったらしい)、マトモに言い合っても仕方がない。そんなわけで、ミレニアはエルウィンに苦言を呈すことなくルメア湖まで来たのだが。
 やはり、悔しいものは悔しいのである。
「でも、あんな可哀想なひと(頭が)、放っとけないし。わたしがなんとかしなくっちゃ」
 そうつぶやくと、ミレニアはエルウィンから借りた棍棒を手に、湖へと飛び込んだ。





「あれが、殺人魚かな…?」
 しばらく湖を泳いでいると、ミレニアは奇怪なフォルムの魚に出くわした。
「漁師のオジサンの足を噛み千切ったって言ってたけど…どうせ、オジサンはコイやナマズみたいな戦闘力ゼロの魚しか獲ってこなかったんだろうし。それにオジサン、あれはあれで元気そうだったし、殺人魚なんて物騒な名前がついてても、どうせ大したことないんじゃあないかな」
 そんな悠長なことを考えながら、ミレニアは棍棒を構える。
「それにわたしだって、冒険者の端くれなんだし。魚くらい、倒せなくっちゃだよね」
 やがて、殺人魚が接近してくる。



「…… …… ……」
 ついに殺人魚と対面したミレニアは、相手のあまりの凶悪な外貌に絶句した。
 退化した目。鎧のように頑丈なウロコ。そして、大抵のものなら苦もなく噛み千切ってしまう、鋭利な牙の揃った歯列。



「こ、これ、無理~~~っ!!」
 殺人魚の牙を棍棒で防ぎながら、ミレニアは慌てて地上まで泳いで逃げようとした。
 もとよりミレニアは戦闘型の冒険者ではなく、まして水中での行動が得手ではない。水中戦に特化したモンスターに、勝てるはずがなかった。



「し、死ぬ、かとっ、思っ、た~~~……」
 どうにか怪我を負うことなく岸に上がり、ぜいぜいと荒い息をつくミレニア。
 敵を過小評価し、あまつさえロクな前情報もなしに危険地帯に飛び込むのがいかに愚かな行為か、身をもって知ったカタチである。
 しかし、ここでアッサリと諦めるようでは、冒険者の名折れである。
「これでもわたしは魔術大学随一の錬金術師。正攻法でダメなら、別の手段を使うまでっ!」



 ミレニアはバックパックから錬金道具と素材を取り出すと、さっそく作業に取りかかった。
「かつて、父さんが言っていた…魚を獲る、簡単な方法がある、と」
 目を閉じ、瞳の奥に過去の記憶を呼び醒まそうとするミレニア。
『いいかいミレニア、魚を獲るにはモリで刺したり、網を投げたりしなくてもいい、もっと簡単な方法があるんだ。でもジョジョには絶対に教えちゃだめだぞ?』
 …最後の一言の意味がどうもよくわからないが、それでもミレニアはいま、父の言葉を思い出しながら、ここシロディールではまったく目にすることのない特殊なポーションの作成にかかっていた。
「火薬、信管、水中呼吸のポーションに、ニルンルートの根を少々…」



 ポーションが完成するまでに、夕方までかかってしまった。
 それでも、ちゃんとした設備も道具もない吹きさらしの場所で作ったにしては、まぁまぁ上出来と言えなくもないのだが。
「よし、できた…父さん直伝、魚獲り用の爆薬!」
 ミレニアはポーションにセットされた信管を作動させると、湖のど真ん中に向かって勢いよく放り投げた。



「爆薬を、湖の、ど真ん中に、シュゥゥゥーッ!!」
 ボチャン。
 水音を立ててポーションの瓶が沈んでから間もなく、地響きを伴う大爆発が起きた。



 ドッガアアァァァァアアアンッッッ!!!!
「超!エキサイティン!!」
 ミレニアが、謎のワードを口にする。
 なんでも父に、『爆弾を投げたら、必ずこう言わなきゃ駄目だゾ?』と言われたらしい。
 そして……



 死~~~ん。
 爆発の威力…というか、水中を伝播した衝撃波によって殺人魚は軒並み気絶し、プカプカと水面を漂っていた。こうなれば、あとは殺人魚が目を醒まさないうちに生け捕りにして、捌くだけである。
 こうしてミレニアは、やや反則的な手段でもって殺人魚のウロコを手に入れたのであった。





「いや~、ありがとう、ありがとう。感謝の気持ちで一杯だよ。これ、お礼ね」
 すっかり夜も更けた頃、ミレニアはエルウィンの好意で夕食をご馳走になっていた。とはいえ庶民的な家での庶民的な食事なので、珍しい食材や目を見張るような料理などは何一つないのだが。
「…これは、なんですか?」
 チーズを頬張りながら、ミレニアはエルウィンに手渡された指輪を眺めて言った。
 エルウィンが答える。
「それは、<ルメア湖の宝石>と呼ばれるマジック・アイテムだ。それを指にはめると、水中で呼吸できるようになる。ワシのようなしがないオッサンが定年まで漁師をやっていけたのも、ひとえにその指輪のおかげと言っていい」
「本当にいいんですか?こんな高価そうなものを貰っちゃっても」
「いいんだ、もう隠居生活に入るワシには必要のないものだしな。それにお嬢ちゃんは、ワシに親切にしてくれた唯一の冒険者であるし。是非、今後の冒険に役立ててくれい」
「わかりました。喜んで、使わせてもらいますよー」
 そんな感じで、夜も更けて。
 今回のクエストは、最終的にはちょっとイイハナシな感じで、終わりを迎えるのであった。



 最後に、思い出したようにエルウィンが「そういえば」と口を開く。
「お嬢ちゃんが帰ってくる前に、湖のほうからトリトンのオープニングみたいな大爆発があったんだが。あれはいったい、なんだったんだい?」
「すーいーへーいーせーんのおわりにはっ、あああー…トシがばれますよ、オジサン」



[ to be continued... ]


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2012/08/05 (Sun)07:50
 わたしの母は、わたしが生まれたときから両腕がなかった。



 故郷は、わたしにとってあまり住みやすい環境ではなかった。質素な田舎町で、町中の誰も彼もが家族のような付き合いをしている土地柄にあって、他所からの移住者である両親はそれだけで浮いた存在だった。
 かつて<聖騎士><救国の英雄>と呼ばれた父が、なぜあんな何もない土地に住みたがったのか、わたしにはわからない。別の仕事を見つけるでもなく、畑を耕すでもなく、軍から支給される退役恩給だけで細々とした生活を送る日々。
 そしてなぜ母の両腕がないのか、わたしは1度もちゃんと説明を受けたことがなかった。父は「重い病気のせいで切り落とさざるを得なかった」と言うが、それが嘘だというのは、父と母の態度を見れば明らかだった。
 わからないことが多すぎた。なぜ。
 なぜ、あんなにも優しかった両親から、わたしみたいなのが生まれてしまったのだろう。



「ようこそ、聖域へ。たとえ信徒でなくとも、ナイト・マザーはきっと貴女にも祝福を与えてくださるはずだわ」
 帝都の西部に位置する都市、シェイディンハル。
 ルシエンに促されやって来たダーク・ブラザーフッドの<聖域>、それは廃屋の地下に隠され、合言葉を知らなければ侵入すら適わない秘密の拠点だった。



 蝋燭の明かりに照らされた薄暗い地下施設の中、ブラック17は聖域の統括者オチーヴァと対面していた。
「ルシエンが、他でもないここシェイディンハルの聖域に貴女を導いたのは大変に興味深いことね。貴女の実力と前歴を鑑みれば、その…失礼と取られなければ良いのだけれど…もっと冷酷で、徹底した実力主義が支配する聖域へ案内されて然るべきだと思っていたものだから」
 アルゴニアンの女の顔に、微妙な感情の機微が浮かんだ。この種族が人間にもわかる範囲で表情を変えるのは珍しい。たぶん彼女は感性が豊かなのだろう、とブラック17は漠然と考えた。
「今後の予定はともかく、しばらくはここが貴女の活動拠点になると思うわ。それと到着して早々申し訳ないのだけれど、早速貴女にやってもらいたい仕事が1件入ってます。ヴィセンテから詳細を尋ねてください」



 ヴィセンテ・ヴェスティエリは頬のこけた物静かな男だった。中年にも老人にも見える外観から、実年齢を測るのは難しい。
「ほう、君が例の…御噂はかねがね。わたしはこの聖域に依頼された仕事の管理を担当している、お見知りおきを」
「挨拶はそこそこに。気遣いは無用よ、要件を話して」
「レディである以前に暗殺者であれ、という主義かね?関心するよ、もっともわたし個人としては、もう少しおおらかなほうが好みに合うのだがね。まあいいだろう、今回は帝都の港湾地区に飛んでもらうことになる」
「すこし距離があるわね」
 ヴィセンテの余計な一言は聞き流すとして、ブラック17は帝都からここまでの道のりを思い返して言った。
 おそらく依頼に関する情報が詰まっているのであろう、ヴィセンテは分厚いノートのページを繰りながら、心配ないというふうに付け加える。
「帝都までは馬車で向かってもらうことになる。そうだな、翌朝に出立すれば2日後の夜には着くだろう。帝都までの道のりでは普通の旅行者を装ってもらうことになる」
「けっこう。装備は?」
「人員とは別ルートで手配する予定だ」
「…仕事の内容は?」
「現在、帝都港湾地区に停泊しているマリー・エレーナ号という船の船長の暗殺だ。マリー・エレーナ号は表向きは商船だが、実際は海賊船だ。帝国軍はその正体を掴んでいるものの、多額の賄賂を受け取っているため実質黙認状態にある」
「汚職ね。どこの世界でもある話だわ」
「まして帝国はいま皇帝暗殺の件でゴタゴタしているしな。諸外国の侵略を防ぐために国境の警備を強化したという噂も聞く。それには多額の資金が必要だ…そういうスケールでの危機回避を念頭に置けば、海賊を見逃すくらいはリスクでもなんでもないのだろう」
「だけど、海賊が大手を振って活動するのを是としない人間がいるってことよね、ここに依頼が来たということは。まあ、依頼主がどんな大義名分のもとで殺人を正当化しようとしているかなんて、興味ないけれど」
「まったくその通りだな」
 ブラック17の言葉に、ヴィセンテはもっともらしく頷いた。





 帝都港湾地区。中央にそびえる塔の天辺から、出港を目前に控えるマリー・エレーナ号を見下ろす3つの影があった。
「あれがマリー・エレーナ号かい。いい船じゃねぇか」
「あたしはあまり好きになれないけどね。囚人移送船を思い出すわ」
 ブラック17の傍らで、重装備なオークの男と、ダーク・ブラザーフッドの意匠が入った黒装束に身を包んだ女が口々に会話を交わす。
『今回の仕事にはサポートを2人つける。これには君の仕事ぶりを評価するための意味合いも含まれるため、必ず3人で仕事に当たってもらいたい。悪しからず』
 聖域を出る直前に言われた、ヴィセンテの台詞が脳内で反芻される。
 要するに監視つきということだ、人員が不足していると言っていたわりにはヒマなことをする…と、ブラック17は内心で毒づく。しかもこのサポートというのが妙に馴れ馴れしく、あくまでビジネス上でのドライな付き合いしか望まないブラック17にとってはいささか手に余る人材だった。



「船は今夜出港するそうだ。帝国軍にいる協力者が、衛兵の巡回に30分だけ穴を空けてくれるってよ…海賊が我が物顔で街を歩くのを気に入らん衛兵が多いのは確かだが、それでも殺人行為を目の前にして黙認するわけにもいかんらしい」
 オークの戦士ゴグロンは、フンと鼻を鳴らした。
「30分以内にカタをつけられなきゃ、騒ぎを聞きつけた衛兵と一戦交えることになる。オレとしちゃあ、天下の帝国軍とやり合うのも悪くないとは思うが、組織の評判に関わるからな」
「円滑に進められれば、死んだ海賊たちは『仲間割れを起こして同士討ちした』っていうカバーストーリーによって葬られるわけだけど、派手にやり過ぎるのはご法度。だから、今回は爆破はナシよ?17」
 暗殺者の装束に身を包んだアントワネッタ・マリーが、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
 わかっている、とブラック17は頷きながら、まったく緊張も警戒もしていない2人の様子にいささか驚いていた。これから人を殺すというのに、まるで遊びに興じるかのような気軽さで臨んでいる。
 まあ、わたしが他人のことをどうこう言えた義理じゃないが…ブラック17はそんなことを思いながら、しかしこの2人、余所の組織のエージェントにやたらフレンドリー(親友感覚)な接し方をしてくるのは何とかならないものか、などと考えてしまう。
 いや、余計なことを考えるのはこの辺にしておこう…ブラック17は静かに口を開いた。
「行きましょうか」



「あたしは積荷にまぎれて潜入するわ。これがいちばん安全で確実なのよね」
 そう言うと、アントワネッタはこれから船積みされる予定の木箱の中に身を隠した。
 しばらくしてアントワネッタが隠れている木箱が船倉に搬入されるのを見届けたあと、ゴグロンがエンチャントつきの戦斧を抜き、堂々と船に近づいていく。
「それじゃあ、オレは正面から乗り込むとするかな。なぁに、たんなる陽動だから、騒ぎが大きくなり過ぎないよう努力はするさ」
「わたしはバルコニーから直接船長室に潜入する。中で会いましょう」
「おう」
 ゴグロンと分かれてから、甲板上でちょっとした騒ぎが起きる様子を見届け、ブラック17は誰にも見つからないよう素早く船に乗り込んだ。バルコニーにすべりこむ。
 しかし、船長室の扉はかなり厳重に施錠されており、手持ちの道具では開けられそうにない。
 一瞬焦ったが、ブラック17は落ち着きを取り戻すと、冷静に窓を観察した。案の定、扉のすぐ横に配置されている窓の施錠はそれほど難度が高い代物ではなかった。
 慎重に窓を明け、船長室に忍び込む。潜入したブラック17の目の前に、船長のガストン・タッソーがちょうど背を向ける形で椅子に腰掛けている。どうやら食事中のようだ。



「!?」
 ブラック17はガストンが腰にぶら下げていた長身のカトラスを抜くと、おもむろに椅子の背もたれごと心臓を貫く。
「自分の得物で殺される気分はどう?船長さん」
「あ、が…がっ……!!」
 苦しみのあまり、ガストンはブラック17の問いかけに答えることなく血のあぶくを吐き出し、前のめりに倒れる。テーブルに突っ伏したガストンの腕が、卓上に並べられていたディナーをはねのけて床にぶちまけた。
 目標の暗殺に成功したと思ったのも束の間、バルコニーとは反対側の扉がガンガンと叩かれる。
『せ、船長、船長!何者かが侵入してきました、仲間が次々と殺されてます!指示を、しっ、指示……!』
 どうやらガストンの手下の海賊のものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
 ブラック17が身構えるのとほぼ同時に扉が開き、アルゴニアンの海賊が吹っ飛んできた。



「雑魚め、逃げるんじゃねぇっ!」
「ひ、ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!??」
 すっかり恐慌をきたし、顔が恐怖に歪んだ海賊に続いて、まったく無傷のゴグロンが血塗れた斧を片手に大股で近づいてくる。
「た、助けてくれ!金ならやる、なんなら積荷から好きなもんをなんでも持ってい…ぐえ」
 命乞いをする海賊の頭を、ゴグロンは斧の柄で容赦なくかち割る。
 糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる海賊の死体を無感動に見つめながら、ブラック17は口を開いた。
「雑魚はそれで全部?」
「甲板にいた連中はな。しかし、背中から心臓を一突きとはな。なかなかやるじゃねぇか」
 ゴグロンは串刺しにされたガストンの死体を一瞥し、ブラック17に控え目な賛辞を送る。
 そのとき船室に続く落とし戸が開き、先に潜入していたアントワネッタが船長室に上がってきた。
「船倉にいた連中はみんな片付けたわよ、17…あら、ゴグロンもいたの?相変わらず仕事が早いわね」



「標的は消したし、目撃者になりそうな連中もみんな始末した。問題はないよな?」
 互いの無事を確認し、ゴグロンは船長室のベッドに腰かけるブラック17に向かって言った。
「しかしまあ、なんだ。前の仕事で建物ごとふっ飛ばしたっていうからどうなるかと思ってたが、静かに動くこともできるんじゃねえか。感心したぜ」
「あたしにとってはゴグロン、あなたが騒ぎを大きくせずに行動できたことのほうが驚きだけどね」
「やっぱりそうか?」
 アントワネッタからの突っ込みを受け、ゴグロンはガハハと笑い声を上げる。
 これだ、とブラック17は思った。この仲の良い友達、あるいは家族のような雰囲気の接し方がどうにも苦手なのだ。すくなくとも、自分がいた組織でこのようなやり取りを交わした覚えはない。
 気に入らないな…笑顔で談笑するゴグロンとアントワネッタを見つめながら、ブラック17はふと、そんなことを考えた。



「脱出しましょう」
 不満を口に出すかわりに、ブラック17は簡潔な言葉を口にする。
 帝国軍の衛兵がふたたび港湾地区のパトロールに戻る頃、マリー・エレーナ号に残されているのは多数の海賊たちの死体だけだった。



[ to be continued... ]


2012/07/30 (Mon)06:58


「ふぃー、なかなかの壮観じゃのう。山歩きに難儀した甲斐はあったわい」
 コロール北部、雲天の頂。
 グレイ・メア亭でアル中のレオナルド・ジェメーンを探していたリアを呼び止めたのは、アルトマー(ハイエルフ)の魔術師イラーナだった。
 もともと魔術師ギルドの一員だったイラーナは、自らが所属していたコロール支部の局長ティーキーウスと主義が合わず反発し、問題を起こした挙句にギルドを追放された過去の持ち主だった。
 イラーナがリアに依頼したのは、雲天の頂にあるという伝説の魔導書<霊峰の指>。
「私は過去のことでギルドから目をつけられているし、万一にでも私が貴重な魔導書を手にしていると知ったら、ティーキーウスはどんな手を使ってでも奪い取ろうとしてくるでしょう。だからあなたに、内密に頼みたいのよ」
 それは、オディール農園でのゴブリン退治劇を評価しての依頼だった。
 特に断る理由もないので、リアは引き受けたのだが…イラーナ曰く、魔術師ギルドのコロール支部局長ティーキーウスは利己的で支配欲の強い危険な人物、らしい。ギルドの許可なく魔法遺物を持ち出そうとしていることが知れたら命の危険があるからくれぐれも内密に、とのことだった。
 もっともイラーナの言うように、ティーキーウスが凶悪な人物であるかどうかに関しては、リアは懐疑的だったが。というのも、リアの視覚ユニットに内蔵されているフェイシャル(表情)センサーが、イラーナの顔つきから若干の虚偽応答パターンを検出したからだ。
 そのため万一の事態に備えてリアは保険を用意したのだが、いまリアが気にしているのは、それとはまったく関係のない事項だった。
「しっかし、のう…」
 リアは、ウェイノン修道院でのパイネルとの会話を反芻し、ため息をついた。



 若き修道士パイネルから聞いた、いまこの国が抱えている問題。
「貴女がジョフリ様に届けたアミュレットは、代々王家に伝わるものです。それもただ権力者の象徴(シンボル)というわけではなく、異界からの侵略を防ぐために必要な、神より賜った宝具なのです」
 タムリエルを異界オブリビオンの魔手から守るための宝具<王家のアミュレット>。その由来は聖アレッシアのアイレイド討伐にまでさかのぼる。
 強大な魔力で世界を支配していたアイレイドたちは、異界オブリビオンより数多の魔物を召喚し、ときに無為な虐殺を続けていた。この惨劇を見かねた、のちのシロディール初代皇帝であるアレッシアは九大神に祈りを捧げ、時の竜神アカトシュの加護を得る。
 神界エセリウスより降臨したアカトシュは、人界ニルンと異界オブリビオンの間に結界<竜の火>を設け、さらに自らの心臓の一部から造り出したアミュレットをアレッシアに託した。
「アミュレットがアレッシアの血筋に受け継がれていく限り、竜の火は存在し続ける。アカトシュは、そう仰られたそうです。しかし…」
 しかしいま、アレッシアの血を継ぎしセプティム王家は滅亡の危機に瀕している。
 謎の暗殺集団によって皇帝ユリエル・セプティム7世は葬られ、さらに後継者も次々と暗殺されたという。王家のアミュレットを継ぐ者なきいま、竜の火は消え、いつオブリビオンからの侵略がはじまるかわからない状況である。
「ただボーラスの書状によれば、皇帝の隠し子が西のクヴァッチにて生き延びているそうです。現在、皇帝直属の特務部隊ブレイドが総力を挙げて捜索に当たっています」
 そう言うパイネルの表情は、「なにも心配することはない」と暗に語ってはいたが…

「わりと大ピンチではないかっ!」
 誰ともなく、リアは山岳の麓で叫んだ。
「だいいち、国家どころか世界滅亡の危機にあるなら、各国に援助を要請すればいいではないかっ!それを体面を気にし内情を探られたくないばかりに、たかだか一特務機関に事態を丸投げとはっ!情けないにもほどがあるっ!とは、いうものの、のう…」
 ちなみに、この件に関しては他言無用という厳重な忠告を受けている。
「現状、ワシになにができるとゆーもんでもないか。歯痒いが、致し方あるまいのう」
 無論、クヴァッチに赴き皇帝の隠し子を探す手伝いくらいはできるだろう。が、ブレイドとて無能ではない。リアがクヴァッチに駆けつける頃には、とっくに目的を果たしているに違いないのだ。
 ひとまずリアにとって重要なのは、自分の身に起きたことを把握することだ。
 しかし情報収集の目途が立たないのは事実であり(もっと文明が発達している世界ならばよかったのだが)、ならばこの世界のことを調べる傍ら、他人の厄介ごとに首でも突っ込んでヒマを潰すか…というのが、当面の活動方針だった。



「むぅ…」
 そして雲天の頂に到着したリアの目の前に、肉体が欠損したうえ丸焦げの状態で放置されている死体が転がってきた。
 リアはその場に屈むと、死体の肉の一部をつまみ取り、口の中に放り込む。口内の各種センサーが肉片をスキャンし、さまざまな情報をリアの脳内メモリに送信してきた。
「成人男性、年齢は20代後半。死亡推定時刻はおよそ2~3日前、死因は高圧電流によるショック死。身体が燃えたのは死んだあとか…連続して高圧電流が流れたせいで四肢が爆発・欠損したとみえる。熱の蓄積で発火するほどとは、余程の威力だったのだろうなぁ」
 そこまで言うと、リアは口内の肉片を「ぺっ」と吐き出した。
 もともと体内に半永久的な発電システムを内蔵しているリアは、食事を取る必要がない。まして根本的には生物ではなく機械であるリアにとって、衛生概念などというものは甚だ意味を成さないものだった。
 もちろん、他人にいまのような光景を見られたら、騒ぎになることは間違いないだろうが…
 とりあえず周囲を警戒するものの、高レベルで展開した環境探査フィールドに怪しいものは引っかからない。いまリアの周囲にいるものといえば、せいぜいが野生動物くらいのものだ。
「狼や熊はたしかに脅威ではあるが、斯様な面白可笑しい死体を造ることはできまい。なにか気になる…とはいえ判例がない以上、考えるだけ無駄かの」
 そう言うと、リアは雲天の頂にて放置されていた、崩れかけの遺跡の片隅から1冊の本を探し出した。本に刷られている文字はリアのデータバンクに存在しないものだったが、事前に依頼主のイラーナから得た情報から、本のタイトルだけはどうにか判読できた。
「…霊峰の指…これじゃな……」




「まさしく、これは私が探していた本だわ。ありがとう、あなたって小さいけど優秀なのね」
 コロールの小さなぼろ宿、グレイ・メア亭にて。
 霊峰の指を渡されたイラーナは、その場で素早くメモを取りながら、リアに向かって言った。
「最後にもう1つだけ頼まれてくれないかしら?といってもこれは、あなたに対する報酬代わりのようなものだけど…もう一度雲天の頂に行って、とある儀式を行なってほしいのよ。そのデータがあれば、私の研究はさらに飛躍を遂げることになるわ」
「儀式、のう」
 あまり気は進まんがのう…と、リアは内心で思った。機械だけに、魔法だとか魔力といったものには無縁だからだ。それに、この世界で「儀式」といえば、間違いなく魔術的なものであろうということは容易に想像ができた。
 ひとまずイラーナが書きつけたメモに目を通すリア。その内容は儀式の行程や、儀式のために必要なマジックアイテムに関する事項などが書かれている。
「なに、儀式にはウェルキンド石が必要…とな?はて、うぇるきんど石とはなんぞや?」
 イラーナ曰く、霊峰の指はアイレイド関連の魔導書らしいので、ウェルキンド石もアイレイド絡みのマジックアイテムと思われるのだが…
 悩むリアの背後で、なにやら騒がしい一団の声が聞こえてくる。アルゴニアンの男女に、アルトマー?と思われる小柄な少女の姿が見えた。
『美しいお嬢さん、一緒にエールでも?あと、よければ俺の槍を磨いてくれないか』
『え、えっ、ええっ!?』
『ちょっとー!なにヒトの友達を勝手にナンパして…ていうか下品なジョーク言うなーッ!』
「…うるせぇのう……」
 ヒト(機械だけど)が頭を捻っているときに、なにをグダグダと抜かしてやがるんじゃ…などと思いながら振り返ったリアは、3人の風体を見てちょっと考えを改めた。
 いかにも民間人らしい質素なドレス姿のアルゴニアンの女はともかく、他の2人…黒いコートにカタナをぶら下げたアルゴニアンの男と、迷彩柄のバックパックを背負ったエルフの少女は、冒険者かなにかに見える。



「ちょいと、そこな御仁らよ。うぇるきんど石というものをご存知ないかの?」
「うん?なんだいお嬢ちゃん、珍しいアクセサリーでも欲しいってか?」
 リアの問いかけに、アルゴニアンの男が反応した。懐から緑色に発光する石を取り出し、おもむろにテーブルの上に乗せる。輝石をまじまじと見つめながら、リアはほぼ無意識のうちにつぶやいていた。
「これが、うぇるきんど石?」
「なんだ、知らないで聞いてたのか?こいつはアイレイドの遺跡でよく見つかる代物で、高濃度のマジカを内包するマジックアイテムだ。古代アイレイドで作られていたんだが、いまじゃ製造法は失われちまったらしい。おかげで、そこそこ貴重な代物なんだそうだ」
「もしよければ、これを買い取りたいのじゃが」
「おいおい、随分とませた口をきくじゃないか。ま、金貨100枚出せるってなら、売ってやらんでもないがね」
「よかろう。買った」
「…なに?」
 即決即断を下したリアを、アルゴニアンの男は驚きの表情で見つめる。
 金貨100枚といえば相当な大金だ。家が超絶金持ちでもなければ、とてもじゃないが子供が小遣いで持てるような額ではない。
 それは返り討ちにした強盗の荷物を漁るなどして手に入れたものだったが、まだこの世界の貨幣価値というものを理解していないリアは、まるで子供が駄菓子を買うような感覚でポンと大金をテーブルの上に置いた。
 びっくりしながらも、気を取り直して金貨を手に取ろうとするアルゴニアンの男。
「あーそうか、うん、まあ俺も男だ。売ると言った以上は売ろうじゃないか。有り難く…」
「ちょっと待ちなさーいっ!」
 アルゴニアンの男が金貨の入った麻袋に手を出そうとしたとき、エルフの少女が横からタックルをかまして妨害した。
「わっ、な、なにをしやがる!?」
「子供相手になに大人気ないことしてんですかっ!?」
 そう言って、エルフの少女はアルゴニアンの男から引ったくった麻袋から25枚ほど金貨を抜き取ると、残りをリアに押しつけてきた。
「ウェルキンド石の通常販売レートは金貨50枚、でもわたしたちは商人じゃないし、あなたもまだ子供だし、ってわけで、ここは特別に金貨25枚で売ってあげるっ!」
「おお、ありがたや」
「おいおいおいおい、勝手に決めんな!」





「渡りに船とはこのことじゃな。さて、儀式の手順でも確認するかの…」
 結局、抗議するアルゴニアンの男を無視するような形で、ウェルキンド石を市価の半額で入手したリアは、ふたたびやって来た雲天の頂にて儀式を行なおうとしていた。
「祭壇にウェルキンド石を置き、石碑に電気を流す…じゃったか。ワシは魔術師ではないので、ここはちょいと手間じゃの」
 そう言いながら、リアは手首に繋いだ電極を石碑へと接続する。
「さて……」
 一時的に体内で過剰発電し、電極を通して石碑に流し込む。その直後、リアの視覚ユニットに内蔵されているセンサーモジュールが石碑から異常な数値を検出した。
 たったいま流し込んだ電気が、石碑の中で爆発的に増幅している。
「…これは、いったい……?」
 そのとき、リアは祭壇付近で見かけた黒焦げの死体のことを思い出した。
「まさか、これ…!やばいっ!」
 慌ててその場から離れようとしたとき、石碑から凄まじいまでの電流が放出され、リアを直撃した。



 リアの頭の中で警告音がけたたましく鳴り続けているが、意思に反してまったく身動きが取れない。声を出すことすらできなかった。
 いったい、なにが起きた?この石碑はなんだ?儀式に失敗したのか?それともイラーナに嵌められたのか?
 さまざまな思考が脳内で渦巻くが、判断材料がない以上、結論の出しようがない。
 倒れて意識を失う直前、リアは視界に表示された文字を見て絶望した。
[ ‐Fatal Damage‐ ]





『……て…さい…起き……このままでは……』
 いったい、機能停止してからどれほどの時間が経ったのだろう。
 自分の頭の中で、自分以外の声が聞こえてくる。まだあまり自由がきかない身体を無理矢理動かし、リアは目を開けた。ノイズだらけの視界に自分の手が映り、どうやら自分は倒れていたようだと自覚する。
『起きてください、ゼロシー』
「…なんじゃ、誰じゃ?この声は……」
『ああ、やっと意識を取り戻したんですね、ゼロシー。機能を復旧させても中々目を醒まさないものですから、心配しましたよ』
「む…」
 次第に視界が鮮明になり、やがて高圧電流を全身に浴びたのがウソのように、何事もなかったかのように身体が動きはじめる。
『それにしても、さっき高圧電流を受けたショックで私が機能復帰できたのは不幸中の幸いでした。この世界に来てからというもの、私がどれだけ呼びかけてもあなたは応じてくれませんでしたから』
「あー、うん、そのー、お主、何者じゃ?」
『おや、憶えておられませんか?どうやら記憶野に障害が残っているようですね、ゼロシー…私はあなたの脳内チップに搭載された独立思考型のAIです。総合支援システム・バージョン4、通称TES4。愛称は<フォース>です、思い出してくれましたか?』
「…いや。まったく覚えがない」
『困りましたね。この世界に来てからというもの、私は状況を改善すべくあなたの機能を最適化するよう努力してきたのですが、どういうわけか記憶野をはじめとする機能の幾つかにプロテクトがかかっていて、私ですらアクセスできないのですよ。ゼロシー、本当になにも覚えておられないのですか?』
「いや、まったく。というか、少し黙っててくれんか。なにやら混乱してきたわい」
 突然、頭の中から聞こえてきた声にリアは戸惑いを隠せない。
 そういえば、いままでも、省電力モードに移行する際などに何者かの声が聞こえてきたことがあったが、まさかその正体がこの、自分の脳内チップに内臓されていたAIによるものだったというのか?



「ところで、のう。お主、さっきからゼロシー、ゼロシーと言っておるが、そもそもその、ゼロシーとはなんじゃ?」
『…?何、ということはないでしょう。あなたの名前ですよ、開発コードSWM52R…まさか、そんなことも忘れてしまったわけではないでしょう?』
「待たんか。わしはリアじゃ、開発コードはHEL-00c」
『おかしなことを言いますね。ジョーク・プログラムが誤作動でも起こしているのですか?あなたはリアじゃありませんよ』
「…なんじゃと?」
 自分は、リアでは、ない?
 TES4…フォースから語られた言葉に、リアは動揺する。
「阿呆を抜かすな。まさかお主、ワシを別の誰かと誤認しておるのではないか?」
『まさか。そんなこと…いえ…ちょっと待ってください。考えられるとすれば…ふむ…ああ、なるほど。そういうことでしたか』
 急に独り言をはじめたかと思うと、次の瞬間、フォースは手の平を返したようにこう言った。
『すいませんでした。いまのあなたはリア、HEL-00cとして活動しているのでしたね。私としたことが、どうやら情報の更新が遅れていたようです。混乱させてしまい、申し訳ありませんでした』
「待たんか。どうにも引っかかる物言いをするヤツじゃの…なにがどうなっておるのか、きちんと説明せんか」
『残念ながら、私は設計者の意図に従って機能するようプログラムされています。それによると、現在あなたが正確な状況を把握すべきではないという結論が下されました』
「ふざけたことを申すな。あれだけ気になることを言っておきながら、いまさら何も言えんで通すつもりか」
『申し訳ありません。私自身にも機能に制限が設けられておりますので…いずれ、すべてを話すときが来るかもしれません。そのときまで、どうかあなたは今まで通りに行動なさってください』
「むう…」
 その説明はもちろん納得できるものではなかったが、かといってこれ以上フォースを問い詰めても、何らかの成果を得ることは難しいだろう。
「仕方がないのう。とりあえずは勘弁しておいてやるわい」
『ありがとうございます。私はこれから随時あなたをサポートいたしますので、どうぞ宜しくお願いいたします。リア』



[ to be continued... ]


2012/07/21 (Sat)20:23
「あーあ、先生に怒られちゃったなぁ…」



 スキングラードからコロールへと続く街道。
 魔術師ギルドの一員であり魔術大学の会員でもあるミレニアは、錬金術の師匠であるシンデリオンのもとへ手伝いに来たときに、たまたまシンデリオンと謎のアルゴニアンの剣士(=ドレイク)が内密の話をしているところに出くわしてしまい、研究室を追い出されてしまったのだ。
 傷心のまま町を出たところで、ミレニアは魔術大学の使者から「コロールの領主アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人へ手紙を渡す」という仕事を頼まれ、そしていま、パトロール中の帝都巡回兵に同伴してもらっているのである。
「たまたま行き先が同じで良かったよ。さもなければ断っていたところだからな」
「えー、まさかぁ。冗談でしょ?」
 馬の上で談笑する2人。しかしまさか、巡回兵が本当に「進行方向が逆」という理由で少女の護衛を断ったことがあるなどとは、ミレニアは露とも思っていない。





「わたしはミレニア・マクドゥーガル、魔術大学からの書簡を届けるため帝都より参りました。このたびの謁見、感謝しております」
「あらまぁ、可愛らしい魔法使いさんだこと。どうか顔を上げて、そんなに卑屈にならなくても結構よ」
「恐れ入ります…」
 コロール城に到着したミレニアは、さっそく伯爵夫人と面会していた。
 うやうやしく手渡された書簡にざっと目を通すと、ヴァルガ夫人は満足したように目を細め、口を開く。
「わかりました。この件については追ってこちらから連絡を差し上げましょう。長旅で疲れたでしょう?客人用の寝室が用意してあるはずですから、今日はそこでゆっくり休んで頂戴な」
「お気遣い、感謝いたします」
 温厚な表情を見せるヴァルガ夫人に、ミレニアは馬鹿に丁寧な態度で答える。
 うう、やっぱり偉い人って苦手だなぁ…妙にプレッシャーがかかるし…などと考えつつ、ミレニアがその場から辞退しようとしたとき、不意に彼女をヴァルガ夫人が呼び止めた。
「ときに貴女、ねえ、ちょっと時間は空いてるかしら?」
「え、あ、はい!?」
 予想していなかった言葉にミレニアは動揺し、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
 周囲にいた相談役や護衛の兵士があからさまにミレニアを睨みつけてきたが、当のヴァルガ夫人だけは何もなかったかのように話を続けた。
「じつは貴女に、折り入って頼みたいことがあるのだけれど。いえ、魔術大学の会員としてではなく一個人としてよ?勿論、身元が保障されているギルド会員だからという前提はあるのだけれど」
「はぁ…」
 ヴァルガ夫人がミレニアに依頼してきたのは、いまは亡き夫ヴァルガ伯爵が描かれた肖像画を盗んだ犯人の捜索だった。
 肖像画はヴァルガ夫人に寝室に飾ってあったもので、城の警備が厳重であったことから内部の人間によるものと断定。いまのところ容疑者は2人にまで絞り込むことができたが、城内の人間では友好感情や欲得、立場の相違による偏見などから冷静に判断できないとヴァルガ夫人は考え、今回は特別に外部の人間を雇って解決に当たらせるという。
「あの肖像画は、いまの私にとって亡き夫そのものなの。たんなる権力誇示のためのシンボルや、ただ金銭的価値のある美術品というだけのものではないわ。お願い、協力してくださらないかしら?」
 そう言うヴァルガ夫人の表情は、悲哀に満ちていて…とてもじゃないが、断れるような雰囲気ではない。というか断ったら十中八九、従者に斬り捨てられるだろう。
 だから護衛の人、そんなに怖い顔で睨まないでくださいってば。
「わかりました。わたしでよければ、伯爵夫人のために全力を尽くしますわ」
 こうべを垂れながら、ミレニアはどこか釈然としない気分のまま、そう口に出していた。





「おや、ずいぶんと可愛らしい探偵さんね。あなたが、伯爵夫人の雇った魔術大学のグリコ?」
「メイジ(Mage=魔術師)です。グリコでもモリナガでもヤクルトでもありません」
 承諾してしまった以上は、きちんと犯人探しをしなければならないだろう。
 ということでミレニアはいま、もっとも有力な容疑者候補の1人である宮廷魔術師のシャネルから事情聴取をしていた。肉体的に優れた種族であるレッドガードにしては珍しい職業だが。
「あの日はたしか…」
 シャネルはミレニアに、肖像画が盗まれた前後の行動をすらすらと口に出していく。アリバイが証明できるかどうかを別にすれば、特に怪しむべき箇所はない。
 別れ際、シャネルは子供の遣いを見守る近所のおばさんのような笑みを浮かべて言った。
「ガンバンナサイネー」





「なんだ、こんな脳味噌まで小さそうなガキを雇ったのか。伯爵夫人もとうとうボケがはじまったか、えぇ?」
「冤罪でもいいからアンタを突き出したくなったわ…」
 事件当日にアリバイが証明できなかった2人のうちの1人、運搬業者のオーグノルフ。昼間だというのにアルコール臭く、その態度は尊大にして傲慢だった。いかにもなオヤジである。
 額に血管を浮き立たせるミレニアを見下すように、オーグノルフは小馬鹿にした口調で罵倒してくる。
「いいぜ、証拠があるってんならいつでも俺を告発しろよ。無理だろうがね…俺は犯人じゃないからな。そして伯爵夫人は冤罪を絶対に許さないだろうよ。さぁ、俺につきまとうのが無駄だとわかったら、とっとと道を空けてくれないか。つまづいて転んじまうだろ」
「ぐぬぬ…!!」





 その後も、関係者から話を聞いていくミレニア。
 アリバイが曖昧で、証拠も見つからないのであれば、ひとまずは動機を調べるのが定石だ。
「オーグノルフはアル中で金遣いが荒く、最近特に金を無心するようになっている。一方、シャネルさんに動機らしいものはないものの、行動に不審な点があるとかないとか」
 顎に手を当てながら、調査に使ったメモを読み返していく。
「2人とも、夜中に城の西塔でコソコソと行動していることがあるんですよね。まず、そのへんから調べてみますか」





「これはオーグノルフが隠れて酒を飲んでたって証拠ですよね」
 ランタンで照らした先に、飲みかけのワインの瓶が置いてある。オークの従者オログ・グロ=ゴースの証言によると、夜中、西塔で隠れて酒を飲んでいたオーグノルフを何度か叱責したことがあったという。
 瓶の口に鼻先を近づけてみると、葡萄とアルコールに混じって、たしかにオーグノルフの口臭が嗅ぎ取れる。



「…これは……?」
 風景画、だろうか?
 ほとんど物置として使われている西塔地下に、巨大な絵画が置かれていた。
「作業スペースが確保されている。この周囲だけ清掃されている…絵が埃をかぶらないように?顔料の発色具合からいって、描かれて間もないもの…?」
 城内に、絵画を隠れた趣味にしている者がいるのだろうか?この作業環境からいって、趣味を公にしているものとは考えにくい。しかし、こんな<なんてことのない絵>を描くのを秘密にしなければならない理由とはなんだろう。

「どれも決め手に欠けるなぁ…」
 ミレニアは悩んだ末、最後の手段に訴えることにした。すなわち、容疑者の部屋の捜索である。もちろん堂々とできるわけはないので、部屋の主がいない間にこっそりと行なうのである。はっきり言って、魔術師のやることではないが…





「うわー、こんなに沢山の酒を隠し持って…タミカの399年モノまである。勿体無いけど…いいや、洗剤混ぜとけ」
 まずはオーグノルフの部屋。
 衛生状態に無頓着な独身男の住まい独特の臭気を放つ部屋の片隅に置いてあるチェストの鍵を外し、オーグノルフのささやかなワイン・コレクションをぶち壊しにしようと企むミレニア。



「これは…絵描き道具、ですよね」
 続いてシャネルの部屋に潜入したミレニアは、書見台に隠すように収納されていた絵画道具一式を見て頭を捻る。



 真夜中。
 ミレニアは<犯人>の部屋にふたたび赴くと、今度は<犯人>としっかり顔を合わせ、そして話を切り出した。
「あなたですね?肖像画を盗んだのは」
「どうして…ばれちゃったのかしらね」
 レッドガードの宮廷魔術師、シャネル。
「オーグノルフに関する調査結果は、あくまで彼がアル中であることを証明するだけのものでしかありませんでした。個人的に残念な結果ですが、彼の不遜な態度については個人的に復讐しましたんで、まぁいいです」
「…?なんだか、よくわからないけど」
「こっちの話です。それにね、美術品の故売って、すごく難しいんですよ。今回のような特別なモノは特に。リスクを承知してまで買い取ろうとするコレクターは限られていますし、そっち方面にコネがあれば、そういう取り引きがあったかどうかはすぐにわかるんです。すくなくとも、チンピラが小遣い稼ぎで手を出せるような商売ではないんですよ。オーグノルフは言うに及ばず」
「そうかい。ふつう、オーグノルフが酒代を工面するために絵画を売り飛ばしたって筋書きで行動するもんだと思ってたからねえ」
「絵画のような一般的な趣味を隠すべきではありませんでしたね。それに、キャンバスに塗られて間もない顔料は独特の臭いがします。絵画とは縁のない環境にあるこの城の人たちは、それとは気づかなかったようですが…変わった香水だとでも思ったんでしょう、あなたからはいつも溶剤の匂いがします。伯爵の肖像画は、クローゼットの裏ですか?」
「正解だよ。鼻がいいんだね」
「それなりに。あともう1つ、オーグノルフよりはあなたのほうがカマかけには弱いと思ったんですよ」
「…なんですって?」
 ミレニアの何気ない一言で、シャネルの顔面が蒼白になる。
「あんた、わたしを騙して…!」
「全部ウソってわけじゃないですけど、じつはあなたが肖像画を盗んだっていう、決定的な証拠は見つからなかったんですよ。どうしますか、ここでわたしを口封じすればシラを切り通せるかもしれません」
「…やめておくわ。なんだかもう、疲れちゃったしね」
 そこまで言って、シャネルはがっくりとうなだれた。



 弱々しく震える肩に手をかけ、ミレニアはそっと尋ねた。
「理由を、聞いてはいけないですか?」
「…わたしは伯爵を心から敬愛していた。だから、あの誰が描いたかもわからない肖像画がずっと気に入らなかったの。伯爵の持つ高潔な魂をまるで表現できていない、上っ面だけを描いたおざなりな絵。だからわたしが手直しをしたかったけど、伯爵夫人は許可を下さらなかった。もう何年も前の話よ」
「あなたの言い分はわかります。でも、伯爵夫人はあの絵を不完全だ、などとは思っていなかったはずですよ。なぜなら伯爵夫人はあの絵を美術品として完成度が高いかどうかではなく、純粋に亡き夫の忘れ形見として大切にしてきたんですから。それはもちろん、たんに捉え方の違いでしかないですけど」
「そうね…きっとそうでしょうね」
「あの。自首、しませんか?」
「えっ?」
 予期せぬミレニアの言葉に、シャネルは思わず顔を上げる。
「個人的な都合とはいえ、あなたの場合は酌量の余地があります。なにより、わたしが告発するよりも罪は軽くしてもらえるでしょう。それに、伯爵夫人の心を傷つけたことに変わりはありませんし…金銭目当てだろうと、個人的な事情だろうと、その一点に関しては公平に裁かれるべきだと思います。理解してくれますか?」
 ミレニアの言葉、そして真っ直ぐに見つめ返してくる視線を受けて、シャネルはゆっくりと頷くと、感情の箍が外れたかのように、その場に伏して泣きはじめた。





「今朝、シャネルが自首してきたわ。貴女も、ご苦労様でした」
 翌日、謁見の間にて。
 若干寝不足気味のミレニアはヴァルガ夫人と対面して早々、その事実を聞かされたのだった。
「彼女に自首を勧めたのは貴女でしょう?たいして縁のない土地で、ここまで親身に考えてくださって、なんとお礼をしたらいいのか」
「そんな、お礼なんて。ところで彼女は…シャネルはどうなるんでしょう?」
「本来なら禁固刑に処するところですが、彼女の感情も理解できます。とはいえ犯罪は犯罪です、処罰せねば民衆に示しがつきません。したがって、シャネルはコロールから永久追放としました」
「そう、ですか…」
 罪状を考えれば、厳しくもなく、甘くもなく…といったところだろうか。
 長年仕えてきた城を追い出されたシャネルは、これからどうするのだろうか。またどこかの城に魔術師として仕えるのか、それとも静かな土地で絵でも描いて過ごすのだろうか。
「あ、そうそう。これ、お返しします」
 ミレニアは思い出したようにそう言うと、ポケットから城内のたいていの鍵を開けられるマスターキーをヴァルガ夫人に手渡した。今回の調査の間だけ、という条件で貸し出してもらったものである。



 報酬としてそれなりの量の金貨を提示したヴァルガ夫人の好意を丁重に断り、城下町に出たミレニアは、友人の母が経営している雑貨店<ノーザングッズ商店>へと顔を出した。



「やっほー、ダーちゃん。お酒飲みに行こうよ」
「あらミレニア、ひさしぶり。どうしたの、羽振りがいいじゃない」
「ちょっと臨時収入があってね」
 アルゴニアンのダー=マの腕を引きながら、ミレニアは金貨や宝石などが詰まったポケットをポンと叩く。鍵束には、コロール城のマスターキーの<複製品>がぶら下がっていた。
 先日、ミレニアがこっそり侵入したのは容疑者の部屋だけではなかった。調査の名目であらゆる場所を探索したとき、金目のものをそれとなく物色していたのだ。それも、すぐには気づかれない場所に置いてあるものばかり。
 思えば、ミレニアの行動や言動は、たんなる魔術師にしては奇妙な点が多く…
「…まさか、わたしが魔術師ギルドと盗賊ギルドの二足の草鞋だなんてこと、想像もしてなかったんだろーなあ」
「なにか言った?」
「ううん、なんにも?」



[ to be continued... ]


2012/07/17 (Tue)14:47


「アレッシア・オッタス曰く、スキングラードはワインとチーズの名産地らしい…と聞けば、それを嗜まずに過ごすわけにはいくまい」
 ユンバカノ絡みのゴタゴタのあと、クロードと別れたドレイクは帝都の西部に位置する都市スキングラードへと向かうことにした。
 ちなみにキャドリュー礼拝堂でネクロマンサーの集団に襲われたときは、クロードと協力してなんとか相手全員を血祭りに上げたのだった。正直、キチガイのあとにキチガイ集団を相手にするとかマジ勘弁してほしいんですけど。
「それにしても、なぁ…」
 ドレイクはタミカワインに舌鼓を打ちながらも、いささか抑揚に欠ける声音でつぶやいた。
「ふたなり姉妹の旅館と聞いて、なんて夢のある話だと思ったんだが…しかもオークじゃないか」
 いまドレイクが滞在しているのは、スキングラードに2箇所存在する宿のうちの1つ「ふたり姉妹の旅館」。断じて染色体XX型ベースに男性器を生やしたドリーム生物とは関係がない。しかもオークだし。

 ふたなりはひとまず置いておくとして、ドレイクがスキングラードに来たのは観光が目的ではない。
 今回もドレイクの恩人であるセンセイから依頼された仕事の関係だ。ユンバカノのときと同様、「どうやら知己の友人が助けを必要としているらしい。できれば協力してやってくれないか」というセンセイたっての依頼なので、ドレイクとしては、断るわけにもいかず…
 とはいえ、ユンバカノに依頼されたアイレイドの彫像探索で予想以上に時間を取られたのは事実だ(しかも、結局はすべてムダになった)。一刻も早く「本来の目的」に取りかかりたいドレイクとしては、今度の仕事はさっさと片付けたい、というのが本心であり本音だった。もっとも、そんな態度を表に出すわけにはいかないが。





「いやーすまないね。遠来の客人があるとわかっていながら、家を掃除するヒマもなくてね」
「お構いなく。それより蔵書の一部を拝見したいのだが…」
 スキングラード南部の聖堂エリアにある、それなりに豪華な邸宅。
 ドレイクはそこの家主であり、センセイの古い友人でもある宗教学者のグラルシルと会っていた。低身長、そして若干の落ち着きのなさは典型的なボズマー(ウッドエルフ)であることを窺わせる。
「好きなものを持っていくといい。なにかジャンルの特定などは?わたしは自分が所持している本の内容はすべて憶えているから、関連資料をすぐにでも揃えられるが」
「オブリビオン…それと、デイドラ・プリンスを崇拝する勢力について」
「よかろう。しかしその、なんだ。アレかね、君もカルトに追われているクチかね?」
「追われている?いや、俺の場合は追っているというか…探し物の手がかりになるかもしれない、ただそれだけの話なんだが。カルト自体には興味はない」
「なるほど、込み入った事情がありそうだな」
「ところでいま、『君も』、『追われている』、そう仰いましたか?」
「ああ、そうだ、そう。そうだとも…じつは君に話したいことが、いや、君にしか話せないことがある」
 神経質そうにあたりを見回しながら(自宅だというのに)、グラルシルは勿体をつけた口調で話しはじめた。
「じつはわたしはいま、命を狙われているんだ」
「それはまた…相手に心当たりは?」
「ある。が、まだ決定的な証拠が掴めていない。なにせ宗教学者などをやっていると、自分でも自覚のないうちに、いろいろと痛い腹を探ってしまうこともあるものさ。難儀なものだな」
「衛兵に通報は?」
「してどうなる?連中の役立たなさは折り紙つきだよ、まったく!『決定的な証拠がないと動くことはできない』、そんなふうに言って、結局は死人が出てから事後処理するしか能がないのさ。それに今回の件は、衛兵の中にも敵のスパイ、ないし密告者、協力者がいるとわたしは睨んでいる」
「厄介な話ですな。それで、俺にできることは?」
「じつは、わたしの命を狙う不届きな輩の名前はもうリストアップしてある。彼、ないし彼女らはここスキングラードにそれなりの地位を持っていて、法的に訴えようとしても揉み消されるのが関の山だ。そして、連中のような大罪人がこれ以上野放しになっているのを黙って見過ごすわけにはいかない」
「つまり、始末しろ、と?」
 半ば冗談めいたドレイクの一言はしかし、グラアシアによってあっさりと肯定されてしまった。
「そうだ。君のような誠実な男にこんなことを頼むのは心苦しいが、わたしもただ蚊帳の外で殺人の代行を眺めるだけじゃない。なにより、わたしの手はもう汚れている…かつて容疑者の素行調査を流浪の冒険者に依頼したことがあったが、あろうことか、その冒険者も敵とグルだった。わたしは自身の命、そして正義を守るため、その冒険者を殺さなければならなかった。いまにして思えば運がよかった…その冒険者は、連中の勢力にあって末端もいいところだったのだからね。しかしこれから君に暗殺を依頼する対象は、間違いなく幹部クラスだ。わたしでは到底太刀打ちできそうにない」
「そこで俺の出番、というわけか。わかりました、引き受けましょう」
 ドレイクがそう言うと、これまでずっと暗かったグラルシルの表情がぱっと明るくなった。
「本当にやってくれるのかい!?これは頼もしい、まさに持つべきものは友、だな!センセイとその偉大な友人に感謝だ!」
 いまにも小躍りしそうな歓喜の表情を浮かべながら、グラルシルはドレイクに暗殺対象の名前が書かれたメモを渡してきた。
 メモを受け取ったドレイクはざっと名前のリストに目を通し…それはほとんど事務的な仕草で…それほど熱心に名前を注視しようとしたわけではなかった。故郷より遠く離れた土地のカルト信者の名前など、自分が知っているはずもないと思っていたからだ。
 しかしメモに書かれた、非常に馴染みのある幾つかの名前を見つけると、ドレイクは心なしか背筋が凍りついたような感覚に陥った。
「…こりゃあ、厄介な事件(ヤマ)になりそうだな」



「『ベルナドット・ペネレス』、シロディールでもっとも著名かつ高級なワイン<タミカ・ブランド>の従業員。『トーティウス・セクティウス』、スキングラードの領主ハシルドア伯爵の知己の友人。『ダヴィデ・スリリー』、タミカに次いでシロディールで有名な<スリリー・ブランド>のワイン製造を手がけるスリリー兄弟の1人。か…」



 グラルシルに渡された暗殺候補者リストを見つめながら、ドレイクは深くため息をついた。
 リストアップされた名前がそこいらのチンピラか、あるいは言い逃れのできない悪党であれば、ドレイクはすぐにでも手討ちにする予定だった。しかしリストに書かれていたのはいずれも町の名士か、そうでなくとも非常に親しまれている人物なのは間違いない。
 かといってグラルシルが嘘をついているとか、私欲でドレイクを利用しようとしているとも考え難かった。間近から観察した限り、あれは詐欺師の目ではない。確かに追い詰められた者のそれだった。
 そこでドレイクは、まず暗殺対象を観察するところからはじめたのだった。
 見知らぬ大陸で殺人を犯すリスクは計り知れず、穏便に済ませられるのならば、それに越したことはない。
「ベルナドットかい?いい娘だよ、よく働くし、気立てはいいしね。彼女がいなければ、ウチのワイン醸造ははかどらないだろうね」
 ひとまず自身の身分や目的をそれとなく隠しながら、ドレイクは暗殺対象の関係者と接触する。
 たったいまドレイクの質問に答えたのは、タミカのもとで働くシャメーラという名の農夫だった。ついでにトーティウス・セクティウスについても尋ねる。
「あの貴族様かい?日中は馬で散歩するのを日課にしているようだなあ。ちょっと身分の高さをハナにかけてて、そりゃあ気に入らないところもあるけど、でも悪人ではないよ」
「そうか…」
 ドレイクは、自分が壁にぶち当たったのを感じていた。
 ベルナドット、そしてスリリーに関しては怪しいところは何一つ見受けられず、人柄も評価されている。まして死なせてしまうと、シロディールのワイン産業に大きな打撃を与えることは間違いない。
 唯一怪しいのがセクティウスだが(貴族がじつはカルトの狂信者、なんていうのはよくある話だ)、いまのところ、それらしい情報はいっさい出てこない。
「参ったね、どうも…」
 そうつぶやき、ドレイクは後頭部を撫でる。
 そのとき、遠くから女傑タミカが猛スピードでドレイクに駆け寄り、対面一発、怒声を響かせた。
「アンタ、うちの羊になにやってんだい!」
「あー、いや、これは…」
 …そういえば、ただ立ちんぼで見張るのも疲れるので、ワイン畑をうろついていた羊に乗って遊んでいたのだった。怒られてもまったく仕方はなかった。

 調査に行き詰まりを感じたドレイクは、すこし視点を変えてみることにした。
 暗殺候補者ではなく、依頼者のグラルシルに関する情報を集めはじめたのである。すると…
「グラルシル?ああ、あの変人?また何かやったの?」
 出るわ。
「悪人じゃないと思うんだけどね。気難しいというか、なんというか…神経質っていうのかな?」
「一日中誰かの後をつけ回しちゃあ、わけのわからんことをブツブツつぶやいてる奴だろ?衛兵はなんだってあんな怪しいやつを放っておくんだ?」
「あんなキチガイ、スキングラードの恥だ!衛兵はとっととあのクソ野郎の首を引っ括っちまうべきだぜ!」
 出るわ、出るわ。
 ちょいとグラルシルの名前を出すと、町の誰もが表情を一変させ、彼に対する罵詈雑言を並べはじめる。これは尋常ではない。
 とはいえ、その評価は「変人だけど、実害はないから放っておこう」というものが大半だった。おそらく、グラルシルがすでに冒険者を1人始末したことなど知る由もないのだろう。
「センセイ…貴方は、なんで俺にこんな無茶振りばっかり押しつけやがるんですかい……?」
 どうやら最悪の事態になりつつあることを朧げながら理解しはじめたドレイクは、遥か遠くブラックマーシュの地にいる恩師の姿を思い浮かべ、泣きそうになるのをぐっと堪えた。



 そういえば、この町にはもう1人センセイの知人がいたな、と思い出し、ドレイクはふたな…もといふたり姉妹の旅館と対になるもう1つの宿、西ウィールド亭へと足を運んだ。
「たしかあいつは、この宿の地下室に住まわせてもらってるはずだったな」
 宿の女将に断りをいれ、地下室へと続く扉を開ける。その瞬間、白煙とともになんともいえない異臭がドレイクの鼻を突いた。
「うわ、くっさ」
「誰かね?」
 地下室の奥から、男の明朗な声が聞こえてくる。まるで異臭なんてないかのように、だがドレイクの背後に控える宿の女将や客人たちは皆、例外なく嫌悪感丸出しの表情をドレイクに向けてくる。
 俺のせいじゃないのに…とひとりごちながら、ドレイクはさっさと扉を閉めて階段を下りていった。若干手狭な室内には魔術師が使うような実験器具が所狭しと並んでおり、あちこちに錬金術用の調合素材が積まれているなか、1人のアルトマー(ハイエルフ)がドレイクに笑顔を向けてきた。



「やあやあ、誰かと思えば珍しい客人じゃないか。いつシロディールに来たんだね?」
「つい最近な。それよりこの臭い、なんなんだ」
「じつは新しいポーションの製造に着手していてね。ニルン草という珍しい素材を使った、その名も<エリクサー>。滋養強壮はもちろん、あらゆる身体能力を向上させ冒険者の活動をサポートしてくれる。試作品があるけど、飲んでみるかい?」
「あー、こりゃどうも。ウッ」
 センセイの知人、錬金術師のシンデリオンに勧められ、ドレイクは小瓶に入った液体を飲み干す。えぐみ、苦味、甘味などがないまぜになって喉を刺激し、あまりのまずさにドレイクは思わず涙を流してしまった。
 客人の反応にたいして興味を示すふうでもなく、シンデリオンはポーション製造の片手間に感想を求めてくる。
「どうだね?身体中に力が漲ってくるようだろう?」
「…まず味をなんとかしたほうがいい。効能はそれからだ」
「そうかね。ジュース屋を開くわけではなし、味など二の次だと思っていたが、君は違う見識を持っているようだな」
「つまり、味を改善する気はないんだな?」
「そういうこと」
 クソ野郎め…という言葉を寸でのところで飲み込み、ドレイクは深呼吸をすると、努めて平静さを保つよう努力した。
 そんなドレイクの葛藤など知る由もなく、シンデリオンが質問してくる。
「ところで、わざわざ僕に会いに来た理由を話してくれるかな?ただ挨拶しに来たわけじゃないだろう、君のことだから」
「悪かったな…じつはセンセイに頼まれて、グラルシルの様子を見に来たんだ。あいつはいまカルトの狂信者に命を狙われてるらしいが、俺が調べたところ、どうにも話が噛み合わなくてな。なにか知ってたら話してほしいんだが」
「グラルシル、か…」
 その名前を聞いたとき、シンデリオンははじめて作業の手を止めた。
 浮世離れした研究オタク…というのが一般的なシンデリオンのイメージだったが、実際は宿に居候している立場を活かし、積極的にウワサ話を仕入れている情報通だった。
 そのことを見込んでドレイクは彼に会いに来たのだが、どうやら当たりだったようだ。
「なぁ、トカゲさん。あのチビには…グラルシルには関わらないほうがいい。神経質で変わり者なのは昔からだったが、最近は明らかに様子がおかしくなっている」
「ほう?」
「妄執…とでも言うのかな。最近のあいつは、町中の全員が自分の敵に見えるんだそうだ。自分以外の連中はみんなグルで、自分を陥れようとしている…そんな話を聞かされたことがある。第一に、キミは、グラルシルの命を狙ってるっていうカルトの具体的な情報を彼から聞いたかね?」
「いや…」
「そうだろうとも。彼の精神は疲弊しきっていて、もう何をやらかすかわからない状況だ。といっても実際に何かをやらかしたわけじゃないから、衛兵が動くことはできない。でも、何かあってからじゃ遅いんだ。ところでキミは、グラルシルから何を頼まれた?」
「その話についてなんだが」
 そう言って、懐にしまってあったグラルシルの暗殺候補者リストを取り出そうとしたとき。



「せんせー、この素材はどこに置けばいいんですかぁ?」
「あの、キミね…いま客人と話してるんだが」
 2人の前に、唐突にエルフの少女が姿を見せた。丸眼鏡をかけた小柄な少女は一瞬キョトンとすると、すぐにドレイクの姿を認め、慌てて態度を取り繕おうとした。
「あっ、えーと、あのー、シンデリオン先生のお知り合いですか?」
「キミね、おーい、ミレニア?とりあえず退席つまり退去あるいは出て行ってくれないかな?僕は彼と大事な話をしているんだ」
「スッ、すすすすすスイマセンッ!」
 少女は力いっぱい頭を下げると、慌てて出て行ってしまった。その直後、「ドカンッ」という強烈な殴打音が鳴り響く。たぶん、焦って走ってそのまま扉に頭をぶつけでもしたのだろう。
 風のようにやってきて嵐のように去っていった少女の立っていた場所を眺めながら、ドレイクがぽつりとつぶやく。
「追い返さなくてもよかったろうに」
「いや、微妙な話の最中だったからね」
「誰なんだ、あの娘。見たところアルトマーっぽいが、どうもシロディールのエルフっぽくないんだよな」
「ミレニア・マクドゥーガルという名だ。知り合った事情はちょいと複雑でね…彼女は魔術大学の会員で、たまに僕の手伝いに来るんだ。本人はアルトマーとインペリアルのハーフだと言っていたが、本当かどうかは知らない」
 そこまで言って、シンデリオンは「フン」と鼻を鳴らした。
「錬金術の腕は悪くないし、魔術の才能もそこそこあるんだが、なにせそそっかしくてね。なんというか、手のかかる小娘だよ…ところでさっき、僕に何か見せようとしていたようだが」
「いや、いいんだ」
 ドレイクはグラルシルの暗殺候補者リストをコートの内側に押し込み、シンデリオンへの返答を適当にはぐらかした。いまここでシンデリオンを危険に巻き込む意味はない、と思い直してのことだった。
 だが…とドレイクは思う。シンデリオンと会い、疑念が確信に変わる。
「やるべきことは、決まったな」
 ドレイクは誰ともなくそうつぶやくと、シンデリオンの地下研究室を後にした。



「それで、まだあの3人を殺していないわけを教えて欲しいんだが」
 グラルシル宅。
 どうやら今日1日のドレイクの行動をそれとなく監視していたらしいグラルシルは、苛立った口調でドレイクに問い詰めてきた。
 それに対し、ドレイクは努めて平静を保ちながらゆっくり言葉を揃えていく。
「1日かけて標的を観察してみたが、不審な素振りは見られなかったんで、暗殺は一旦保留にしておいてもらいたい。それと、アンタを狙う<組織>とやらについて、もうちょっと詳しく教えてほしいんだが」
「なんだって?…ふ、はは、ハハハッ!そういうことか!」
 ドレイクの言葉を聞いたグラルシルは一瞬呆気にとられたかと思うと、次の瞬間には笑い出し、そして叫び声を上げた。
「まさか君まで連中に籠絡されるとはね!いや、そもそも最初から連中の仲間だったのか?ついに本性を現しやがった…このクソッタレのトカゲ野郎め!いいさ、わたしだって自分の身くらいは守れるんだ!」



 そこまで言って、グラルシルはベンチの下から斧を取り出した。それを見たドレイクは驚愕する。
「ちょ、おま、なんだその斧の持ち方!」
「くおぉぉぉのおお、悪党めえぇぇぇぇッッッ!おまえなんぞに、殺されて、たまるかあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 口からあぶくを飛ばしながら、血走った目をくわっと見開き、グラルシルは襲いかかってきた。
「チィィッ!」
 ドレイクは咄嗟に身構えると、抜き討ちでグラルシルの持っていた斧を弾き飛ばした。



「ぐええぇぇぇっ!」
 左手をアカヴィリ刀の柄から離し、グラルシルの首筋に手刀を叩き込む。
 グラルシルは踏み潰されたウシガエルのような悲鳴を上げると、バターンと音を立ててその場に昏倒した。
「…ッ、フゥ…死なせちゃ、いねェか……」
 咄嗟の反応にしては悪くない、ドレイクはそうひとりごちると、その場に尻餅をついた。



「あれでも、俺にとっちゃあ恩師の友人で、宗教学の知識は相当なものだ。どういうキッカケでおかしくなっちまったのかはわからないが、そういう事情だから、あまり手荒に扱わないでくれよ」
 ドレイクの言葉を聞いた衛兵隊長は、静かに頷くと、囚人服に身を包んだグラルシルを引っ張っていった。
 けっきょくドレイクは気絶したグラルシルを、彼の犯罪を証左する数々のメモや日記帳と一緒に衛兵に引き渡したのだった。朝焼けとともに城の牢獄へと連れていかれるグラルシルの後ろ姿を見つめながら、ドレイクは重いため息をついた。
「これはセンセイに報告しづらいな。ユンバカノといい、グラルシルといい、どいつもこいつもどうしてこう、どこで道を誤っちまったのかねェ…」



「許さんぞ、あのトカゲ野郎。許さん、許さん、許さん……!!」



[ to be continued... ]

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