主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2012/07/11 (Wed)11:28
「なあ、俺の感性が間違ってるからかもしれないから、ハッキリとは言えないんだが…あの王冠って当時流行のデザインだったのかな?」
「見た目に関してとやかく言うのは今更過ぎるぜ、爬虫類の旦那」
「…だよなぁ……」
クロードに諭されたドレイクは、平時のユンバカノのソフトクリームみたいな髪型を思い浮かべながら、なんともいえない表情でため息をついた。
ネナラタ遺跡内部。
アイレイドの王冠をかぶったユンバカノを先頭に、クロードをはじめユンバカノの部下たちがぞろぞろと後をついていく。ドレイクも彼等と行動を共にしながら、緊張のみなぎる面持ちで周囲を警戒していた。
「あいつら、手を出してこないのか…?」
「当たり前だ。主の末裔が帰還したのだからな」
ドレイクが口にした疑問に、ユンバカノがさも当然であるかのように答えた。
いま、一行の周囲には武装したスケルトンの集団が待機していた。攻撃の意思を見せるでもなく、ただじっとこちらの様子を窺っている…いや、「見守っている」と言ったほうが正しいのかもしれない。
いずれにせよ、召喚呪文を介さず存在するアンデッド・モンスターには通常有り得ない挙動を見せるスケルトン軍団に、ドレイクは薄気味の悪さを感じずにはいられなかった。
「なんだか。ねぇ…たしかに敵意はないのかもしれないけど、落ち着かないよ、あたしゃ」
ユンバカノの私兵である女戦士ウモグも、炎のエンチャントが施されたショートソードを手にそわそわした様子を見せる。
一方クロードと、ウモグと同じくユンバカノ邸の警備担当だったウシージャは、平然と歩を進めている。もっとも、ユンバカノほど堂々とした態度で悠然と歩いていたわけではなかったが。
可哀相なのは執事のジョルリングで、恐らくはこういう場所に来たことがなかったのだろう、遺跡に入ってからは終始怯えっぱなしである。
やがて一行が行き止まりにさしかかったころ、ユンバカノが壁のくぼみに石板をはめこんだ。それこそが、以前ドレイクがマラーダ遺跡で見つけたアノ石板だったのである。
『アヴ・オーリエルィ・タムリエル、デレヴォーイ・アン・アーペン・アラン・ターナバイ…』
古代アイレイド語によるものと思われる呪文をユンバカノがつぶやくと、石壁が轟音を立てながらせり上がり、一行の目の前に王の間が姿を現した。
「ネナラタよ、アイレイドよ、タムリエルよ!わたしは帰ってきた、帰ってきたぞ!」
玉座を目の当たりにしたユンバカノは、歓喜の声を上げる。
まるで自分自身がアイレイドの王になったかのような態度を見せるユンバカノに、他のメンバーは互いの顔を見合わせた。
怪訝な表情で見守られながらも、なおユンバカノは尊大な態度を崩さない。
「我こそはアイレイド最後の王、ネナラタ王なるぞ!であるからして、王に対しては供物を用意するのが慣例であるのは、そなたらもよく知っておろうな?」
口調まで変化したユンバカノを、一行は「可哀相なものを見る目」で見つめる。それにしてもこの男、ノリノリである…てなもんである。
しかしユンバカノの精神が本当に異常をきたしていると知るまでに、そう時間はかからなかった。
なぜなら、次の瞬間にはユンバカノが執事のジョルリングの心臓を素手でぶち抜いていたからである。
『王に…供物を……』
「そんな、御主人様。これは、いったい…?」
ジョルリングがか細い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
そのときはじめて、ドレイクたちはユンバカノの態度が芝居や演技ではないと気がついたのだった。
『アヴ・スーナ・タムリエル、アークタヴォイ・アン・アーペン・アラン・マラブーロ…』
「ユンバカノてめぇ、いったいなにを…ッ!」
呪文を唱え始めるユンバカノを、わけがわからないながらも止めようとするクロード。
しかし突如、王の間の四方に配置されていた闇のウェルキンド石が発光をはじめ、玉座の前に立つユンバカノに向けて一斉にエネルギー波を放つ。そのときの衝撃で、クロードは部屋の端へと吹き飛ばされてしまった。
「うおっ、まぶしっ!」
「冗談言ってる場合か!…いや、たいして冗談でもないか。くそっ、いったいなにが起きてやがる!?」
まるで目の前で落雷が発生したかのような眩しさに、その場にいた全員が怯む。
ただ1人、ユンバカノを除いて。
『ついに…ついに!復活を遂げることができたぞッ!我こそはネナラタの王なり、愚民どもよ!アレッシアなぞを崇拝する無知蒙昧なる輩どもよ!いまこそ我らが無念、晴らすときなるぞ!』
<ユンバカノだったもの>…王冠に宿っていた怨念がユンバカノの肉体を乗っ取り、さらにユンバカノの記憶や知識までもを吸収して現世に復活した<ネナラタの王>が、ときの声を上げた。
『同胞たちよ、我が声に応えよ!いまこそ憎き仇敵の子孫どもに復讐するときだ!』
「「「キシィェェエエエエエエ!!」」」
ユンバカノの声に呼応するかのように、いままで沈黙していたスケルトンの軍団が一斉に襲いかかってくる。
「おいおいおいおい、穏やかじゃねえな!?」
まさかの事態に、クロードが取り乱しながらも剣を抜く。
ウシージャとウモグも応戦しはじめるが、なにせ敵の数が多い。それ以上に、1体1体がかなりの強さを秘めている。
『ンフゥハハハハ、この者らはかつて王家直属の近衛兵団だったのだ。貴様らチンピラ傭兵どもにかなうかッ?』
「畜生、好き放題言いやがって…!」
毒づきながらも1体、また1体とスケルトンの首を刎ね飛ばしていくドレイク。しかし、その表情に余裕はない。
「こいつら、マラーダにいた連中とは格が違う!」
「ぐあっ!?」
ドレイクが台詞を言い終わらないうちに、スケルトンに囲まれたウシージャが串刺しにされ絶命する。続いて、ウモグもスケルトンの凶刃に倒れた。
「ちっくしょう、長い警備員生活で腕が鈍った、かね…?」
「なんてこった、しっかりしろ、おい!」
殺された2人の亡骸を見て、ドレイクが叫ぶ。
あっさりやられはしたが…この2人は決して弱いわけではない。ただ、状況と相手が悪かっただけだ。
スケルトン・ガーディアン。通常のスケルトンよりも上位の存在であるこのクリーチャーは、汎百の兵士であるなら1対1(サシ)でようやく勝てるか、というところだ。それが集団で襲撃してきたのだから、よほどの手練でなければひとたまりもないだろう。
「ずっと仕えてきた部下への退職金にしちゃ、随分と悪趣味じゃあないか、えぇ!?」
ユンバカノに向かってそう言ったとき…いや、言おうとしたとき、ドレイクはユンバカノの姿がないことに気がついた。ついでに、クロードの姿も。
「チィッ!」
群れてくるスケルトン・ガーディアンどもを薙ぎ払いながら、ドレイクは玉座の先へと続く回廊を突っ切る。
アイレイドの遺跡には例外なく、王族が容易く脱出できるよう細工された抜け道が用意されている。おそらくユンバカノはそこに向かったものと思われた。
「逃げるんじゃねぇ、この野郎!」
『逃げてなどはおらぬ。誘い込んだだけのことよ、この一本道ではな。逃げられんのは貴様のほうだ』
「ぐおあっ!?」
ドレイクが追いついたのと、ユンバカノがクロードに衝撃波を浴びせかけたのはほぼ同時だった。
「…… …… ……!?」
外傷1つ負わないまま、一見なにも問題がなさそうに見えるにも関わらず、その場に立ち尽くすクロードの様子を訝しむドレイク。
しかし次の瞬間、クロードは「ゴポッ」と音を立てて鼻と口から大量の血を吹き出し、昏倒した。
「クッ!」
ドレイクは顔をしかめ、そのままユンバカノに向かって居合いを仕掛ける。しかしユンバカノはドレイクに指一本触れることなく、掌をかざしただけでドレイクの肉体を宙転させ、壁に叩きつけた。
ガランと音を立て、アカヴィリ刀が石床に転がる。
「グハッ」
『畜生にしては良い業を持っておるではないか。しかし、それも所詮児戯よ』
そう言い放つと、ユンバカノは壁にもたれかかって目を白黒させるドレイクの首を掴み、万力のように締め上げる。ユンバカノが腕を持ち上げると、間もなくドレイクの両足が地面から離れた。
「ぐあ、がっ、…グゥ……ッ!」
『首の骨を折られたいか、それともこのまま窒息死がいいかな?それくらいは選ばせてやろう。選ぶ余裕があればな…ムッ!?』
余裕満面の笑みを浮かべていたユンバカノの表情に、緊張が走る。
ドレイクの視線が一瞬だけ、ユンバカノの背後に向けられたのだ。いまユンバカノの背後には、衝撃波を喰らって昏倒しているクロードがいる…はずだった。
たしかにクロードは倒れていた。わずかながらも意識を回復し、見慣れない刃物を手にしている状態ではあったが。ユンバカノは咄嗟にドレイクの首から手を離し、身構える。
『貴様ッ、しぶといやつめ』
「しぶといのが身上でな。こいつはテメーラみたいな半死人に効果てきめんの武器だ、ありがたく頂戴して地獄に落ちやがれ!」
半ばやけくそ気味にそう吐き捨てると、クロードは手にした武器を渾身の力でユンバカノに投げつける。だがユンバカノはそれを容易く避けた。
『つまらん。口上を述べる前に投げるべきだったな』
「ああ。アンタに当てる目的で投げるんだったらな」
『なんだと!』
クロードの意図に気づき、ユンバカノは狼狽する。
「シィアアッッッ!」
凄まじい勢いで投げつけられた白刃の剣を宙で掴み取ったドレイクは、間髪入れずにそれをユンバカノの心臓に突き立てた。
『き、貴ッ様あぁぁぁああああああ!!!』
「時代は変わったんだ。老害は大人しく寝てろ」
『貴様のような奴隷民族如きにィィィィッ…!!我が夢も、ここで潰えるというのか…っ!』
次第にユンバカノの身体から放たれる禍々しいオーラが消えていき、その瞳から狂気が失せると、ユンバカノは弱々しくその場に伏した。
『こんな…こん、な…これは、悪い、夢、なのか……?』
「そうとも。あの世で先祖に会ったら伝えておいてくれ、今度は良い夢を見ながら眠れ、とな。精神衛生上悪いことばっかり考えてると、今回みたいな碌でもないことが起きる」
『愚物が…』
最後の最後でネナラタ王としての顔を取り戻したユンバカノは、それだけ言うと、絶命した。
「壮大なタダ働きだったよなぁ、爬虫類の旦那よ」
「まったくだ。いつからアイレイドの亡霊に魅せられてたかは知らんが、こちらとしては大迷惑にもほどがある」
ユンバカノの死後、王族専用の逃亡路を使ってネナラタ遺跡から脱出したドレイクとクロードは、川を挟んだ向かい側にあるキャドリュー礼拝堂近くの岩陰で休んでいた。
結局、ユンバカノの呪文を喰らって死にかけていたクロードは応急処置を受けて一命を取り留め、ドレイクは改めて彼のゴキブリ並のしぶとさを認識させられることになったのである。常人なら死んでいてもおかしくないダメージのはずだったのだが、クロードはすでに歩き回れるほど回復していた。
「なんとも後味の悪い決着だったが、ようやく俺はユンバカノから解放されたわけだ…クロードよ、お前はこれからどうするんだ?」
「ん、まぁそうだな。ひとまず傭兵業はお休みにして、アンヴィルあたりに羽を伸ばしに行くとするかな」
「遠いな。そんな金がよくあるな、貯金か?」
「それもある。が、俺様はまだユンバカノから退職金を頂いてないからな」
「?」
ユンバカノはもう死んだだろう、そう言いかけるドレイクを制し、クロードはまさしくイタズラ坊主そのものといった「わるだくみの笑顔」を見せた。
「なぁ爬虫類の旦那よ。ユンバカノは死に、屋敷の警護も、執事さえいなくなったんだ。そして俺様はユンバカノの屋敷の鍵を持っている」
「うん?…あっ、お前まさか」
「とりあえず俺様は、『ユンバカノの命令で財産の一部を移送する』ことになるだろう。公にはな」
「まったく、なあ…悪いやつだよ、お前」
金目の物にあまり興味がないドレイクはそれほど熱心にユンバカノの邸宅内を観察していたわけではないが、それでも財産の一部を持ち出しただけで結構な額面になると想像することはできた。
ドレイクが内心で皮算用をする一方、クロードは背筋を伸ばすと、大きくため息をついた。
「ともあれ、先のことは先のことさ。いまはとりあえず休息を取りたい、あんたも異論はないよな?爬虫類の旦那」
「まったくだ。すっかり陽も傾いたし、今日のところはこの礼拝堂に泊めてもらうか。人を殺した手前、坊さんの世話になるのは気が引けるがな」
すっくと立ち上がり、足早に礼拝堂に向かうドレイク。取っ手に手をかけ、両開きの大扉を開けると…
礼拝堂の中から、凄まじい腐臭が溢れ出してきた。
あちこちに死体が散らばり、なにやら儀式めいた魔方陣やら紋様やらが所狭しと血で書き殴られている。そして2人の前で慌しく動き回る、髑髏のマークが刷られた漆黒のローブを身に纏う男女たち。
絶句するドレイクとクロードを見た彼等(あるいは、彼女等)は、しばらく硬直したのち、顔色を変えて武器を取り出しはじめた。
彼等はシロディールでもとりわけ悪質な犯罪者集団…死霊術師<ネクロマンサー>どもだった。彼等は魔術師協会や九大神を奉る教会勢力と敵対している。そのことを証明するかのように、目の前の死体はみな法衣を身につけている。
『クルエンツ、マラックス=マラナ!プラヤナヴィータ!(我々は血に飢えている、異教者を殺せ!皆殺しだ!』
ネクロマンサー達はカルト間でのみ通じる言葉を口々に叫びながら、2人に襲いかかってきた。
慌てて臨戦態勢に入るクロードとともに剣を抜きながら、ドレイクは一言、叫んだ。
「結局コレだよ!」
[ to be continued... ]
「見た目に関してとやかく言うのは今更過ぎるぜ、爬虫類の旦那」
「…だよなぁ……」
クロードに諭されたドレイクは、平時のユンバカノのソフトクリームみたいな髪型を思い浮かべながら、なんともいえない表情でため息をついた。
ネナラタ遺跡内部。
アイレイドの王冠をかぶったユンバカノを先頭に、クロードをはじめユンバカノの部下たちがぞろぞろと後をついていく。ドレイクも彼等と行動を共にしながら、緊張のみなぎる面持ちで周囲を警戒していた。
「あいつら、手を出してこないのか…?」
「当たり前だ。主の末裔が帰還したのだからな」
ドレイクが口にした疑問に、ユンバカノがさも当然であるかのように答えた。
いま、一行の周囲には武装したスケルトンの集団が待機していた。攻撃の意思を見せるでもなく、ただじっとこちらの様子を窺っている…いや、「見守っている」と言ったほうが正しいのかもしれない。
いずれにせよ、召喚呪文を介さず存在するアンデッド・モンスターには通常有り得ない挙動を見せるスケルトン軍団に、ドレイクは薄気味の悪さを感じずにはいられなかった。
「なんだか。ねぇ…たしかに敵意はないのかもしれないけど、落ち着かないよ、あたしゃ」
ユンバカノの私兵である女戦士ウモグも、炎のエンチャントが施されたショートソードを手にそわそわした様子を見せる。
一方クロードと、ウモグと同じくユンバカノ邸の警備担当だったウシージャは、平然と歩を進めている。もっとも、ユンバカノほど堂々とした態度で悠然と歩いていたわけではなかったが。
可哀相なのは執事のジョルリングで、恐らくはこういう場所に来たことがなかったのだろう、遺跡に入ってからは終始怯えっぱなしである。
やがて一行が行き止まりにさしかかったころ、ユンバカノが壁のくぼみに石板をはめこんだ。それこそが、以前ドレイクがマラーダ遺跡で見つけたアノ石板だったのである。
『アヴ・オーリエルィ・タムリエル、デレヴォーイ・アン・アーペン・アラン・ターナバイ…』
古代アイレイド語によるものと思われる呪文をユンバカノがつぶやくと、石壁が轟音を立てながらせり上がり、一行の目の前に王の間が姿を現した。
「ネナラタよ、アイレイドよ、タムリエルよ!わたしは帰ってきた、帰ってきたぞ!」
玉座を目の当たりにしたユンバカノは、歓喜の声を上げる。
まるで自分自身がアイレイドの王になったかのような態度を見せるユンバカノに、他のメンバーは互いの顔を見合わせた。
怪訝な表情で見守られながらも、なおユンバカノは尊大な態度を崩さない。
「我こそはアイレイド最後の王、ネナラタ王なるぞ!であるからして、王に対しては供物を用意するのが慣例であるのは、そなたらもよく知っておろうな?」
口調まで変化したユンバカノを、一行は「可哀相なものを見る目」で見つめる。それにしてもこの男、ノリノリである…てなもんである。
しかしユンバカノの精神が本当に異常をきたしていると知るまでに、そう時間はかからなかった。
なぜなら、次の瞬間にはユンバカノが執事のジョルリングの心臓を素手でぶち抜いていたからである。
『王に…供物を……』
「そんな、御主人様。これは、いったい…?」
ジョルリングがか細い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
そのときはじめて、ドレイクたちはユンバカノの態度が芝居や演技ではないと気がついたのだった。
『アヴ・スーナ・タムリエル、アークタヴォイ・アン・アーペン・アラン・マラブーロ…』
「ユンバカノてめぇ、いったいなにを…ッ!」
呪文を唱え始めるユンバカノを、わけがわからないながらも止めようとするクロード。
しかし突如、王の間の四方に配置されていた闇のウェルキンド石が発光をはじめ、玉座の前に立つユンバカノに向けて一斉にエネルギー波を放つ。そのときの衝撃で、クロードは部屋の端へと吹き飛ばされてしまった。
「うおっ、まぶしっ!」
「冗談言ってる場合か!…いや、たいして冗談でもないか。くそっ、いったいなにが起きてやがる!?」
まるで目の前で落雷が発生したかのような眩しさに、その場にいた全員が怯む。
ただ1人、ユンバカノを除いて。
『ついに…ついに!復活を遂げることができたぞッ!我こそはネナラタの王なり、愚民どもよ!アレッシアなぞを崇拝する無知蒙昧なる輩どもよ!いまこそ我らが無念、晴らすときなるぞ!』
<ユンバカノだったもの>…王冠に宿っていた怨念がユンバカノの肉体を乗っ取り、さらにユンバカノの記憶や知識までもを吸収して現世に復活した<ネナラタの王>が、ときの声を上げた。
『同胞たちよ、我が声に応えよ!いまこそ憎き仇敵の子孫どもに復讐するときだ!』
「「「キシィェェエエエエエエ!!」」」
ユンバカノの声に呼応するかのように、いままで沈黙していたスケルトンの軍団が一斉に襲いかかってくる。
「おいおいおいおい、穏やかじゃねえな!?」
まさかの事態に、クロードが取り乱しながらも剣を抜く。
ウシージャとウモグも応戦しはじめるが、なにせ敵の数が多い。それ以上に、1体1体がかなりの強さを秘めている。
『ンフゥハハハハ、この者らはかつて王家直属の近衛兵団だったのだ。貴様らチンピラ傭兵どもにかなうかッ?』
「畜生、好き放題言いやがって…!」
毒づきながらも1体、また1体とスケルトンの首を刎ね飛ばしていくドレイク。しかし、その表情に余裕はない。
「こいつら、マラーダにいた連中とは格が違う!」
「ぐあっ!?」
ドレイクが台詞を言い終わらないうちに、スケルトンに囲まれたウシージャが串刺しにされ絶命する。続いて、ウモグもスケルトンの凶刃に倒れた。
「ちっくしょう、長い警備員生活で腕が鈍った、かね…?」
「なんてこった、しっかりしろ、おい!」
殺された2人の亡骸を見て、ドレイクが叫ぶ。
あっさりやられはしたが…この2人は決して弱いわけではない。ただ、状況と相手が悪かっただけだ。
スケルトン・ガーディアン。通常のスケルトンよりも上位の存在であるこのクリーチャーは、汎百の兵士であるなら1対1(サシ)でようやく勝てるか、というところだ。それが集団で襲撃してきたのだから、よほどの手練でなければひとたまりもないだろう。
「ずっと仕えてきた部下への退職金にしちゃ、随分と悪趣味じゃあないか、えぇ!?」
ユンバカノに向かってそう言ったとき…いや、言おうとしたとき、ドレイクはユンバカノの姿がないことに気がついた。ついでに、クロードの姿も。
「チィッ!」
群れてくるスケルトン・ガーディアンどもを薙ぎ払いながら、ドレイクは玉座の先へと続く回廊を突っ切る。
アイレイドの遺跡には例外なく、王族が容易く脱出できるよう細工された抜け道が用意されている。おそらくユンバカノはそこに向かったものと思われた。
「逃げるんじゃねぇ、この野郎!」
『逃げてなどはおらぬ。誘い込んだだけのことよ、この一本道ではな。逃げられんのは貴様のほうだ』
「ぐおあっ!?」
ドレイクが追いついたのと、ユンバカノがクロードに衝撃波を浴びせかけたのはほぼ同時だった。
「…… …… ……!?」
外傷1つ負わないまま、一見なにも問題がなさそうに見えるにも関わらず、その場に立ち尽くすクロードの様子を訝しむドレイク。
しかし次の瞬間、クロードは「ゴポッ」と音を立てて鼻と口から大量の血を吹き出し、昏倒した。
「クッ!」
ドレイクは顔をしかめ、そのままユンバカノに向かって居合いを仕掛ける。しかしユンバカノはドレイクに指一本触れることなく、掌をかざしただけでドレイクの肉体を宙転させ、壁に叩きつけた。
ガランと音を立て、アカヴィリ刀が石床に転がる。
「グハッ」
『畜生にしては良い業を持っておるではないか。しかし、それも所詮児戯よ』
そう言い放つと、ユンバカノは壁にもたれかかって目を白黒させるドレイクの首を掴み、万力のように締め上げる。ユンバカノが腕を持ち上げると、間もなくドレイクの両足が地面から離れた。
「ぐあ、がっ、…グゥ……ッ!」
『首の骨を折られたいか、それともこのまま窒息死がいいかな?それくらいは選ばせてやろう。選ぶ余裕があればな…ムッ!?』
余裕満面の笑みを浮かべていたユンバカノの表情に、緊張が走る。
ドレイクの視線が一瞬だけ、ユンバカノの背後に向けられたのだ。いまユンバカノの背後には、衝撃波を喰らって昏倒しているクロードがいる…はずだった。
たしかにクロードは倒れていた。わずかながらも意識を回復し、見慣れない刃物を手にしている状態ではあったが。ユンバカノは咄嗟にドレイクの首から手を離し、身構える。
『貴様ッ、しぶといやつめ』
「しぶといのが身上でな。こいつはテメーラみたいな半死人に効果てきめんの武器だ、ありがたく頂戴して地獄に落ちやがれ!」
半ばやけくそ気味にそう吐き捨てると、クロードは手にした武器を渾身の力でユンバカノに投げつける。だがユンバカノはそれを容易く避けた。
『つまらん。口上を述べる前に投げるべきだったな』
「ああ。アンタに当てる目的で投げるんだったらな」
『なんだと!』
クロードの意図に気づき、ユンバカノは狼狽する。
「シィアアッッッ!」
凄まじい勢いで投げつけられた白刃の剣を宙で掴み取ったドレイクは、間髪入れずにそれをユンバカノの心臓に突き立てた。
『き、貴ッ様あぁぁぁああああああ!!!』
「時代は変わったんだ。老害は大人しく寝てろ」
『貴様のような奴隷民族如きにィィィィッ…!!我が夢も、ここで潰えるというのか…っ!』
次第にユンバカノの身体から放たれる禍々しいオーラが消えていき、その瞳から狂気が失せると、ユンバカノは弱々しくその場に伏した。
『こんな…こん、な…これは、悪い、夢、なのか……?』
「そうとも。あの世で先祖に会ったら伝えておいてくれ、今度は良い夢を見ながら眠れ、とな。精神衛生上悪いことばっかり考えてると、今回みたいな碌でもないことが起きる」
『愚物が…』
最後の最後でネナラタ王としての顔を取り戻したユンバカノは、それだけ言うと、絶命した。
「壮大なタダ働きだったよなぁ、爬虫類の旦那よ」
「まったくだ。いつからアイレイドの亡霊に魅せられてたかは知らんが、こちらとしては大迷惑にもほどがある」
ユンバカノの死後、王族専用の逃亡路を使ってネナラタ遺跡から脱出したドレイクとクロードは、川を挟んだ向かい側にあるキャドリュー礼拝堂近くの岩陰で休んでいた。
結局、ユンバカノの呪文を喰らって死にかけていたクロードは応急処置を受けて一命を取り留め、ドレイクは改めて彼のゴキブリ並のしぶとさを認識させられることになったのである。常人なら死んでいてもおかしくないダメージのはずだったのだが、クロードはすでに歩き回れるほど回復していた。
「なんとも後味の悪い決着だったが、ようやく俺はユンバカノから解放されたわけだ…クロードよ、お前はこれからどうするんだ?」
「ん、まぁそうだな。ひとまず傭兵業はお休みにして、アンヴィルあたりに羽を伸ばしに行くとするかな」
「遠いな。そんな金がよくあるな、貯金か?」
「それもある。が、俺様はまだユンバカノから退職金を頂いてないからな」
「?」
ユンバカノはもう死んだだろう、そう言いかけるドレイクを制し、クロードはまさしくイタズラ坊主そのものといった「わるだくみの笑顔」を見せた。
「なぁ爬虫類の旦那よ。ユンバカノは死に、屋敷の警護も、執事さえいなくなったんだ。そして俺様はユンバカノの屋敷の鍵を持っている」
「うん?…あっ、お前まさか」
「とりあえず俺様は、『ユンバカノの命令で財産の一部を移送する』ことになるだろう。公にはな」
「まったく、なあ…悪いやつだよ、お前」
金目の物にあまり興味がないドレイクはそれほど熱心にユンバカノの邸宅内を観察していたわけではないが、それでも財産の一部を持ち出しただけで結構な額面になると想像することはできた。
ドレイクが内心で皮算用をする一方、クロードは背筋を伸ばすと、大きくため息をついた。
「ともあれ、先のことは先のことさ。いまはとりあえず休息を取りたい、あんたも異論はないよな?爬虫類の旦那」
「まったくだ。すっかり陽も傾いたし、今日のところはこの礼拝堂に泊めてもらうか。人を殺した手前、坊さんの世話になるのは気が引けるがな」
すっくと立ち上がり、足早に礼拝堂に向かうドレイク。取っ手に手をかけ、両開きの大扉を開けると…
礼拝堂の中から、凄まじい腐臭が溢れ出してきた。
あちこちに死体が散らばり、なにやら儀式めいた魔方陣やら紋様やらが所狭しと血で書き殴られている。そして2人の前で慌しく動き回る、髑髏のマークが刷られた漆黒のローブを身に纏う男女たち。
絶句するドレイクとクロードを見た彼等(あるいは、彼女等)は、しばらく硬直したのち、顔色を変えて武器を取り出しはじめた。
彼等はシロディールでもとりわけ悪質な犯罪者集団…死霊術師<ネクロマンサー>どもだった。彼等は魔術師協会や九大神を奉る教会勢力と敵対している。そのことを証明するかのように、目の前の死体はみな法衣を身につけている。
『クルエンツ、マラックス=マラナ!プラヤナヴィータ!(我々は血に飢えている、異教者を殺せ!皆殺しだ!』
ネクロマンサー達はカルト間でのみ通じる言葉を口々に叫びながら、2人に襲いかかってきた。
慌てて臨戦態勢に入るクロードとともに剣を抜きながら、ドレイクは一言、叫んだ。
「結局コレだよ!」
[ to be continued... ]
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2012/07/09 (Mon)10:47
「よくやってくれた。それこそが最後のアイレイドの彫像だ」
ユンバカノは極めて控え目な、それでいて強い達成感を窺わせる表情でそう言った。
前回のマラーダ…通称<高地神殿>での1件のあとも、ドレイクはこれまで通りにユンバカノの捜し求めるアイレイドの彫像の探索をつづけていた。
特定のモノを探すにはシロディールはあまりにも広く、そして大陸各地に存在しているアイレイドの遺跡すべてに目当ての彫像があるわけではない。空振りと徒労が続くなか、ドレイクは自身が見つけた3個目の彫像をユンバカノの元へ届けに来たとき、上の台詞を聞いたのだった。
「見たまえ、わたしが職人に依頼して作らせた特注のケースだ。そしていま、ここにあるべきものがすべて揃った。素晴らしい、壮観だと思わないかね、ドレイク君?」
「まったくです」
ドレイクは生返事をしながら、ケースに10個並ぶアイレイドの彫像を眺め、内心でため息をついた。
なるほど、どうやら他の7個は別のトレジャーハンターが見つけてきた物のようだ。自分だけが任された仕事ではなかったのだな…と内心で苦々しく思いながらも、これでようやくユンバカノから開放されるのだという安堵も同時に感じていた。
わざわざドレイクがブラックマーシュからシロディールくんだりまでやって来たのは、学者の使いっ走りになるためではない。ドレイクにはドレイクの目的があるのだ。もっとも今回は止むに止まれぬ事情でユンバカノに協力しているのだが。
「彫像がすべて揃ったということは、俺はもうお役御免ですかな?」
「とんでもない。君にはまだやってもらいたい仕事がある、それも最後の総決算だ」
「…なんですと?」
てっきり「その通りだ、名残惜しいがもう君は用済みだから、ここから消えたまえ」などと言われるのだろうなと考えていたドレイクは、ユンバカノの口から飛び出した言葉に衝撃を受けた。
「最後の総決算、と言いましたね」
「その通り、すべては今日この日のために準備してきたようなものだ。君さえ良ければ仕事を任せたいのだが、話を聞けばもう後戻りはできなくなる。どうするね?」
「如何する、と?俺に選択肢があると考えたことはありませんでしたが」
「あまり乗り気ではないようだね」
そう言って、ユンバカノが苦笑を漏らす。しかし気分を害した様子はまったく見られず、むしろ愛想は普段以上に良い。
不気味だな…とドレイクが内心で警戒する傍ら、ユンバカノは話を続ける。
「しかしわたしのこれまでの行動は、すべて1つの目的のために行なわれてきたものだ。きっと君なら理解してくれると思っている」
「あまり、遠まわしな言い分は得意ではないが」
「まあ、そう急くこともないだろう。宜しい、それでは簡潔に述べるとしよう…わたしの目的とは、そう、言うなればルーツの探求だ」
「…ほう?」
ルーツの探求。
その言葉を聞いたドレイクの視線が鋭くなる。
「自身の故郷、自身の祖先、自身の血族。それらを知ることは非常に意義のあることだ。まして、偉大な祖先に瑣末な形ではあるとはいえ、恩返しができるのならば、尚更…ね」
「なるほど。詳しく話を聞きましょう」
いままでの出鱈目な態度がまるで嘘のように、ドレイクは真剣な眼差しでユンバカノの話に耳を傾けはじめた。
じつのところ、ドレイク自身も「ルーツの探求」というものに対しては一家言ある男なのだ。本来の目的ではないとはいえ、シロディールに来た目的の1つは自身のルーツへの知識を深めることなのだから。
どうやら理解者を得ることに成功したようだと確信したユンバカノはニンマリと笑みを浮かべると、話を続けた。
「一般的にアイレイドとは1つの巨大な文明だと誤認されているが、実際は多数の小国が集合したものだった。そして小国同士の争いは絶えず、そこを利用されてアレッシアに滅ぼされてしまったのだよ」
「以前、クロードから借りた資料…<神殿の浄化>、でしたか。あれにも当時の記録が残されていましたね」
それにしても、とドレイクは思う。
内紛を利用してアイレイドを滅ぼしたアレッシアを、まるで卑劣な悪者であるかのように語るユンバカノの態度はいささか気になるものだ。
なぜならアレッシアのアイレイド討伐劇は、一般的には「奴隷制を強行し非道な魔術を使う悪しきアイレイドを、正義の使者アレッシアが退治した」というイメージで語られるため、特にここシロディールではアレッシアの行為の正否を問うだけで異端者扱いされかねない。ましてアレッシアを悪者のように扱うなど気狂い沙汰である。
「しかしアレッシアも、自身の勢力だけでアイレイドすべてを滅ぼしたわけではない。じつは、アレッシア派に手を貸していたアイレイドの勢力があったのだ…彼らは戦火ののちにアレッシア派と友好関係を結び、報奨として滅亡したアイレイドの領地の一部を獲得した。しかしアイレイド文明に批判的なアレッシア派の過激な勢力が彼らを襲撃し、討ち滅ぼした。これは、れっきとした裏切り行為だ」
「たしかに」
「しかし彼らは滅びる最後の一歩手前まで激しい抵抗を続け、自らの一族の名誉を守ろうとした。その尊い姿に、極少数存在していたアイレイド支持派は感銘を受け、彼らを<最後のアイレイドの一族>として内々に語り継いできた」
そこまで一気にまくし立てたあと、ユンバカノは一旦言葉を切って深く息を吸い込んだ。
天井を見つめながら、ユンバカノはぽつりと、しかしはっきり聞こえる声で、こう言った。
「最後のアイレイドの一族を率いし、最後のアイレイドの王。その名はネナラタ。わたしには、その血が流れている」
「そうだったのか…」
なるほどアレッシアに恨みにも似た感情を持つのも無理からぬことだと、ドレイクは思った。
アレッシアのために正義の戦いに手を貸したにも関わらず、戦争が終わると用済みとばかりに消された祖先の無念。もちろんネナラタ王がたんなる正義感や義憤でアレッシアに手を貸したとは思わないが(敵対勢力を効率よく潰す、というのが最大の目的だったのだろう)、だからといって友好勢力(だったはずのもの)に一方的に滅ぼされていい道理はない。
ドレイクの祖先もタムリエルの民に友好的とは言い難い勢力だったため、ユンバカノの境遇に幾許かの理解を示していた。
しかしいまは、歴史の講義よりも気になることがある。
「それで、俺に頼みたい仕事っていうのは?」
「ネナラタの王が身につけていたもので、現存しているアーティファクトがある。王冠だ。それは王位の象徴であり、祖先の残した偉大なる遺産だ。わたしはそれが、博物館で衆人の慰み物にされたり、学者の棚の飾りとして扱われるのは不適当だと感じている」
「つまり王冠を手に入れて来いってことか?」
「そうではない」
単刀直入なドレイクの物言いに、ユンバカノはイタズラ坊主を諭す年長者のような笑みを浮かべた。
「王冠なら、すでに手配済みだ。まだ手元にはないが、すぐにわたしの元へ届く手筈になっている。王冠が手に入り次第、わたしの念願であり、悲願だった計画を実行することになる。君にはその協力者になってもらいたい」
「それで、王冠を手に入れてどうすると?」
「決まっているだろう」
ユンバカノは、断固とした口調で言い放った。
「一族のもとへ返す」
「よぉー、爬虫類の旦那」
3日後。
ネナラタの遺跡へとやって来たドレイクの目の前に、王冠を手にしたユンバカノと、前回とうってかわって軽装鎧に身を包んだクロードの姿があった。ドレイクが疑問を口にする。
「臆病なんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったかな。いやなに、そんときの気分てやつさ。気にしなさんな」
2人の背後に目をやると、そこにはユンバカノ邸に護衛として仕える兵士2人と、ユンバカノの執事の姿もあった。
「手下を全員連れてきたのか?」
「使い捨ての日雇い傭兵以外はね。これはわたしの人生のなかでも最大のイベントだ、当然彼らにも目にする資格と義務がある」
そのユンバカノの言葉に続いて、執事のジョルリング、ドレイクとおなじアルゴニアンの戦士ウシージャ、オークの女戦士ウモグ・グラ=マラッドがそれぞれ感想を漏らす。
「わたくし、これまでずっとご主人様に仕えてきた甲斐がありました。感激の極みです」
「雇い主の言に従う、俺にはそれだけが重要だ。そういうことだ」
「ずっと屋内の警備担当をしているよりかは面白そうじゃないかね?」
いずれもやる気があるのは確かなようで、ドレイクは思わず感嘆の声を漏らした。
「なんとまあ、麗しき主従関係だな。それよりクロード、聞きたいことがある」
「なんだい、スリーサイズは秘密だぜ」
「おまえアホだろ。そういうのじゃなくてなあ。ネナラタの王冠について聞きたいことがある」
「歴史の講義だったらあとでたっぷりしてやるよ」
「俺が気になるのは、だな。入手経路のほうだ」
「…ふん?そんなもの知ってどうする、余計なものを背負いこむとロクなことにならんぜ、爬虫類の旦那よ」
「警告のつもりか、それは。誤解されると困るから先に言っておくが、俺が知りたいのは完璧に興味本位からだ。どうやって手に入れたものだろうと、とやかく言うつもりはない」
そう淡々と答えるドレイクを見て、クロードは渋い顔をする。
しばらく悩んだ末に、ユンバカノがこちらを見ていないことを確認すると、クロードはドレイクを遺跡の影に連れ込んで言った。
「まあいい、どうせこれで最後なんだ。教えてやるとも…前払いの報酬代わりとでも思ってくれや。そうだな…まず、もともとネナラタ王の冠の所持者は、ヘルミニア・シンナっていう女学者だった。ユンバカノは彼女を邸宅に招待し、王冠を譲ってくれるよう説得した。失敗したがね」
その話を聞いたとき、そういえば、とドレイクは思い返した。アイレイドの彫像の最初の1個をユンバカノに届け、マラーダ遺跡の石板の入手を依頼されたとき、女性の客人がユンバカノ邸に来訪していたはずだ。
もしかしたら、あれがヘルミニア女史か。そう一人ごちるドレイクの傍らで、クロードが話を続ける。
「さらなる説得を試みるべく、俺様が彼女の家に出向くことになった。どんな手を使ってでも王冠を手に入れるつもりか、と、彼女はそう言ったよ。事実、ユンバカノは俺に『殺してでも奪い取って来い』と言っていたからな」
「で、殺したのか?」
「話はそう単純じゃない。さすがに殺されるのは御免被ると考えたのか、彼女のほうから俺様に取り引きを持ちかけてきた。曰く、『リンダイという遺跡にまだ発掘されていないアーティファクトがある。それもまた王冠で、外観はネナラタ王の冠とそっくりだ。リンダイ遺跡の王の間へと続く扉の鍵をやるから、リンダイの王冠を目当ての物と偽ってユンバカノに届ければいい。私でなければ、冠の見分けはつかない…なぜなら両方とも本物のアイレイド王の王冠には違いないから』とね」
「そういえば、アイレイドは巨大な1つの文明ではなく多数の小国が集まったもの、とユンバカノが言っていたな」
「その通り。そして皮肉にも、リンダイはネナラタと最後まで争いを続けた、いわば宿敵のようなものだった。ユンバカノと確執があったヘルミニアにしてみれば、意趣返しの意味合いもあったんだろう」
「で、王冠を取りに行ったのか?」
「行ったともさ。もっとも、一筋縄じゃいかなかったがね。さすがにアイレイドの遺跡、罠は潤沢に仕掛けられてるわ、死霊どもがわんさかいるわ、大変だったぜ」
「それじゃあ、いまユンバカノが手にしているのは…」
「ネナラタの王冠だ」
クロードが返答してから、しばらく間が空いた。やがてドレイクが口を開く。
「…ちょっと、何を言ってるのかわからないな」
「俺様がリンダイの王冠を手に入れた3日後にヘルミニアは殺された。押し込み強盗に遭ってな…帝都の衛兵が彼女の家に着いたときには、そりゃあもう酷い有り様だったそうだぜ。家の中はメチャクチャで、ヘルミニアは惨たらしく殺されていてな。ただ、彼女が保管していた<アイレイドの王冠>は無事だったらしいぜ。見つけやすい場所に置いてあったってのにな」
「おまえ、もしかして…」
「王冠が偽者ならユンバカノが真っ先に容疑者候補に挙がっていたろうが、生憎と王冠は本物だった。晴れてユンバカノは容疑から外れたわけだ。まあ、王冠の区別がつくのは自分だけ、と彼女自身も言っていたしな」
「そしてユンバカノは、先祖の仇敵の冠を寄越そうとした女を許しはおかなかったわけだ?」
「いや。俺様は完璧に仕事をこなしたってことさ」
[ to be continued... ]
ユンバカノは極めて控え目な、それでいて強い達成感を窺わせる表情でそう言った。
前回のマラーダ…通称<高地神殿>での1件のあとも、ドレイクはこれまで通りにユンバカノの捜し求めるアイレイドの彫像の探索をつづけていた。
特定のモノを探すにはシロディールはあまりにも広く、そして大陸各地に存在しているアイレイドの遺跡すべてに目当ての彫像があるわけではない。空振りと徒労が続くなか、ドレイクは自身が見つけた3個目の彫像をユンバカノの元へ届けに来たとき、上の台詞を聞いたのだった。
「見たまえ、わたしが職人に依頼して作らせた特注のケースだ。そしていま、ここにあるべきものがすべて揃った。素晴らしい、壮観だと思わないかね、ドレイク君?」
「まったくです」
ドレイクは生返事をしながら、ケースに10個並ぶアイレイドの彫像を眺め、内心でため息をついた。
なるほど、どうやら他の7個は別のトレジャーハンターが見つけてきた物のようだ。自分だけが任された仕事ではなかったのだな…と内心で苦々しく思いながらも、これでようやくユンバカノから開放されるのだという安堵も同時に感じていた。
わざわざドレイクがブラックマーシュからシロディールくんだりまでやって来たのは、学者の使いっ走りになるためではない。ドレイクにはドレイクの目的があるのだ。もっとも今回は止むに止まれぬ事情でユンバカノに協力しているのだが。
「彫像がすべて揃ったということは、俺はもうお役御免ですかな?」
「とんでもない。君にはまだやってもらいたい仕事がある、それも最後の総決算だ」
「…なんですと?」
てっきり「その通りだ、名残惜しいがもう君は用済みだから、ここから消えたまえ」などと言われるのだろうなと考えていたドレイクは、ユンバカノの口から飛び出した言葉に衝撃を受けた。
「最後の総決算、と言いましたね」
「その通り、すべては今日この日のために準備してきたようなものだ。君さえ良ければ仕事を任せたいのだが、話を聞けばもう後戻りはできなくなる。どうするね?」
「如何する、と?俺に選択肢があると考えたことはありませんでしたが」
「あまり乗り気ではないようだね」
そう言って、ユンバカノが苦笑を漏らす。しかし気分を害した様子はまったく見られず、むしろ愛想は普段以上に良い。
不気味だな…とドレイクが内心で警戒する傍ら、ユンバカノは話を続ける。
「しかしわたしのこれまでの行動は、すべて1つの目的のために行なわれてきたものだ。きっと君なら理解してくれると思っている」
「あまり、遠まわしな言い分は得意ではないが」
「まあ、そう急くこともないだろう。宜しい、それでは簡潔に述べるとしよう…わたしの目的とは、そう、言うなればルーツの探求だ」
「…ほう?」
ルーツの探求。
その言葉を聞いたドレイクの視線が鋭くなる。
「自身の故郷、自身の祖先、自身の血族。それらを知ることは非常に意義のあることだ。まして、偉大な祖先に瑣末な形ではあるとはいえ、恩返しができるのならば、尚更…ね」
「なるほど。詳しく話を聞きましょう」
いままでの出鱈目な態度がまるで嘘のように、ドレイクは真剣な眼差しでユンバカノの話に耳を傾けはじめた。
じつのところ、ドレイク自身も「ルーツの探求」というものに対しては一家言ある男なのだ。本来の目的ではないとはいえ、シロディールに来た目的の1つは自身のルーツへの知識を深めることなのだから。
どうやら理解者を得ることに成功したようだと確信したユンバカノはニンマリと笑みを浮かべると、話を続けた。
「一般的にアイレイドとは1つの巨大な文明だと誤認されているが、実際は多数の小国が集合したものだった。そして小国同士の争いは絶えず、そこを利用されてアレッシアに滅ぼされてしまったのだよ」
「以前、クロードから借りた資料…<神殿の浄化>、でしたか。あれにも当時の記録が残されていましたね」
それにしても、とドレイクは思う。
内紛を利用してアイレイドを滅ぼしたアレッシアを、まるで卑劣な悪者であるかのように語るユンバカノの態度はいささか気になるものだ。
なぜならアレッシアのアイレイド討伐劇は、一般的には「奴隷制を強行し非道な魔術を使う悪しきアイレイドを、正義の使者アレッシアが退治した」というイメージで語られるため、特にここシロディールではアレッシアの行為の正否を問うだけで異端者扱いされかねない。ましてアレッシアを悪者のように扱うなど気狂い沙汰である。
「しかしアレッシアも、自身の勢力だけでアイレイドすべてを滅ぼしたわけではない。じつは、アレッシア派に手を貸していたアイレイドの勢力があったのだ…彼らは戦火ののちにアレッシア派と友好関係を結び、報奨として滅亡したアイレイドの領地の一部を獲得した。しかしアイレイド文明に批判的なアレッシア派の過激な勢力が彼らを襲撃し、討ち滅ぼした。これは、れっきとした裏切り行為だ」
「たしかに」
「しかし彼らは滅びる最後の一歩手前まで激しい抵抗を続け、自らの一族の名誉を守ろうとした。その尊い姿に、極少数存在していたアイレイド支持派は感銘を受け、彼らを<最後のアイレイドの一族>として内々に語り継いできた」
そこまで一気にまくし立てたあと、ユンバカノは一旦言葉を切って深く息を吸い込んだ。
天井を見つめながら、ユンバカノはぽつりと、しかしはっきり聞こえる声で、こう言った。
「最後のアイレイドの一族を率いし、最後のアイレイドの王。その名はネナラタ。わたしには、その血が流れている」
「そうだったのか…」
なるほどアレッシアに恨みにも似た感情を持つのも無理からぬことだと、ドレイクは思った。
アレッシアのために正義の戦いに手を貸したにも関わらず、戦争が終わると用済みとばかりに消された祖先の無念。もちろんネナラタ王がたんなる正義感や義憤でアレッシアに手を貸したとは思わないが(敵対勢力を効率よく潰す、というのが最大の目的だったのだろう)、だからといって友好勢力(だったはずのもの)に一方的に滅ぼされていい道理はない。
ドレイクの祖先もタムリエルの民に友好的とは言い難い勢力だったため、ユンバカノの境遇に幾許かの理解を示していた。
しかしいまは、歴史の講義よりも気になることがある。
「それで、俺に頼みたい仕事っていうのは?」
「ネナラタの王が身につけていたもので、現存しているアーティファクトがある。王冠だ。それは王位の象徴であり、祖先の残した偉大なる遺産だ。わたしはそれが、博物館で衆人の慰み物にされたり、学者の棚の飾りとして扱われるのは不適当だと感じている」
「つまり王冠を手に入れて来いってことか?」
「そうではない」
単刀直入なドレイクの物言いに、ユンバカノはイタズラ坊主を諭す年長者のような笑みを浮かべた。
「王冠なら、すでに手配済みだ。まだ手元にはないが、すぐにわたしの元へ届く手筈になっている。王冠が手に入り次第、わたしの念願であり、悲願だった計画を実行することになる。君にはその協力者になってもらいたい」
「それで、王冠を手に入れてどうすると?」
「決まっているだろう」
ユンバカノは、断固とした口調で言い放った。
「一族のもとへ返す」
「よぉー、爬虫類の旦那」
3日後。
ネナラタの遺跡へとやって来たドレイクの目の前に、王冠を手にしたユンバカノと、前回とうってかわって軽装鎧に身を包んだクロードの姿があった。ドレイクが疑問を口にする。
「臆病なんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったかな。いやなに、そんときの気分てやつさ。気にしなさんな」
2人の背後に目をやると、そこにはユンバカノ邸に護衛として仕える兵士2人と、ユンバカノの執事の姿もあった。
「手下を全員連れてきたのか?」
「使い捨ての日雇い傭兵以外はね。これはわたしの人生のなかでも最大のイベントだ、当然彼らにも目にする資格と義務がある」
そのユンバカノの言葉に続いて、執事のジョルリング、ドレイクとおなじアルゴニアンの戦士ウシージャ、オークの女戦士ウモグ・グラ=マラッドがそれぞれ感想を漏らす。
「わたくし、これまでずっとご主人様に仕えてきた甲斐がありました。感激の極みです」
「雇い主の言に従う、俺にはそれだけが重要だ。そういうことだ」
「ずっと屋内の警備担当をしているよりかは面白そうじゃないかね?」
いずれもやる気があるのは確かなようで、ドレイクは思わず感嘆の声を漏らした。
「なんとまあ、麗しき主従関係だな。それよりクロード、聞きたいことがある」
「なんだい、スリーサイズは秘密だぜ」
「おまえアホだろ。そういうのじゃなくてなあ。ネナラタの王冠について聞きたいことがある」
「歴史の講義だったらあとでたっぷりしてやるよ」
「俺が気になるのは、だな。入手経路のほうだ」
「…ふん?そんなもの知ってどうする、余計なものを背負いこむとロクなことにならんぜ、爬虫類の旦那よ」
「警告のつもりか、それは。誤解されると困るから先に言っておくが、俺が知りたいのは完璧に興味本位からだ。どうやって手に入れたものだろうと、とやかく言うつもりはない」
そう淡々と答えるドレイクを見て、クロードは渋い顔をする。
しばらく悩んだ末に、ユンバカノがこちらを見ていないことを確認すると、クロードはドレイクを遺跡の影に連れ込んで言った。
「まあいい、どうせこれで最後なんだ。教えてやるとも…前払いの報酬代わりとでも思ってくれや。そうだな…まず、もともとネナラタ王の冠の所持者は、ヘルミニア・シンナっていう女学者だった。ユンバカノは彼女を邸宅に招待し、王冠を譲ってくれるよう説得した。失敗したがね」
その話を聞いたとき、そういえば、とドレイクは思い返した。アイレイドの彫像の最初の1個をユンバカノに届け、マラーダ遺跡の石板の入手を依頼されたとき、女性の客人がユンバカノ邸に来訪していたはずだ。
もしかしたら、あれがヘルミニア女史か。そう一人ごちるドレイクの傍らで、クロードが話を続ける。
「さらなる説得を試みるべく、俺様が彼女の家に出向くことになった。どんな手を使ってでも王冠を手に入れるつもりか、と、彼女はそう言ったよ。事実、ユンバカノは俺に『殺してでも奪い取って来い』と言っていたからな」
「で、殺したのか?」
「話はそう単純じゃない。さすがに殺されるのは御免被ると考えたのか、彼女のほうから俺様に取り引きを持ちかけてきた。曰く、『リンダイという遺跡にまだ発掘されていないアーティファクトがある。それもまた王冠で、外観はネナラタ王の冠とそっくりだ。リンダイ遺跡の王の間へと続く扉の鍵をやるから、リンダイの王冠を目当ての物と偽ってユンバカノに届ければいい。私でなければ、冠の見分けはつかない…なぜなら両方とも本物のアイレイド王の王冠には違いないから』とね」
「そういえば、アイレイドは巨大な1つの文明ではなく多数の小国が集まったもの、とユンバカノが言っていたな」
「その通り。そして皮肉にも、リンダイはネナラタと最後まで争いを続けた、いわば宿敵のようなものだった。ユンバカノと確執があったヘルミニアにしてみれば、意趣返しの意味合いもあったんだろう」
「で、王冠を取りに行ったのか?」
「行ったともさ。もっとも、一筋縄じゃいかなかったがね。さすがにアイレイドの遺跡、罠は潤沢に仕掛けられてるわ、死霊どもがわんさかいるわ、大変だったぜ」
「それじゃあ、いまユンバカノが手にしているのは…」
「ネナラタの王冠だ」
クロードが返答してから、しばらく間が空いた。やがてドレイクが口を開く。
「…ちょっと、何を言ってるのかわからないな」
「俺様がリンダイの王冠を手に入れた3日後にヘルミニアは殺された。押し込み強盗に遭ってな…帝都の衛兵が彼女の家に着いたときには、そりゃあもう酷い有り様だったそうだぜ。家の中はメチャクチャで、ヘルミニアは惨たらしく殺されていてな。ただ、彼女が保管していた<アイレイドの王冠>は無事だったらしいぜ。見つけやすい場所に置いてあったってのにな」
「おまえ、もしかして…」
「王冠が偽者ならユンバカノが真っ先に容疑者候補に挙がっていたろうが、生憎と王冠は本物だった。晴れてユンバカノは容疑から外れたわけだ。まあ、王冠の区別がつくのは自分だけ、と彼女自身も言っていたしな」
「そしてユンバカノは、先祖の仇敵の冠を寄越そうとした女を許しはおかなかったわけだ?」
「いや。俺様は完璧に仕事をこなしたってことさ」
[ to be continued... ]
2012/06/30 (Sat)14:55
マラーダに到着したのは2日後の朝だった。陽光に目を細めながら、ドレイクが呟く。
「男と森の中で野宿とはな。泣けるぜ」
「人間の女は好みに合わんくせに、よく言うぜ、爬虫類の旦那。こっちだ」
ドレイクの軽口をさらりと受け流しながら、クロードが道を案内する。
視界が開けた先には果たして、特徴的なアイレイドの建造物が、然るべき時を経た姿で鎮座していた。永い間風雨に晒された遺跡は半壊し、そこにかつて栄華を極めた文明の面影は僅かしか見られない。
遺跡に近づこうとした2人の足元に、矢が突き刺さる。警戒するドレイクを制し、クロードが口を開いた。
「ス=ラジールか?」
ドレイクがクロードの視線を追うと、丘の上で弓を構えたカジートが見えた。最低限のカモフラージュしか施していないその姿は、事前にそうとわかっていれば発見は難しくないだろうが、無意識下でその存在に気づくことは難しいだろうと思われる。
「ス=ラジール、ずっと待っていた。無事でなによりだ、クロード」
そう言って、カジートの弓兵は笑みを浮かべる。
ほぼ同時に、いままでどこに隠れていたのか、数人の武装した兵士たちがやって来る。想定外の展開に、ドレイクは思わずクロードに耳打ちをした。
「こいつらもお前さんの仲間か?」
「ああ…といっても、こいつらは臨時雇いだけどな」
「用意のいいことだ。本当に」
ドレイクが腕組みをして佇む傍らで、クロードは傭兵たちと何らかの打ち合わせをはじめる。
しばらくしてクロードは戻ってくると、ドレイクに向かって言った。
「さあ、行くぞ。マラーダに宝探しの時間だ」
「あいつらも一緒か?」
「いや。あいつら腕は立つが、遺跡の探索に連れて行きたい連中じゃないな…バケモノの頭と一緒に大事な宝も叩き割って、しかもそのことに気がつかないような脳筋だ」
まあ、いまのはちょっと言い過ぎかもしれないが…クロードはそう付け足し、言葉を続ける。
「あいつらは周辺警戒だ。不慮の事故があっちゃあ困るからな…ユンバカノは、横槍を入れられて手柄を取られるのを何よりも嫌ってるんでな」
「帝国の調査団が来たら、山賊のフリでもして追い払うってか。なんとね」
「それに、遺跡の探索は大人数だと逆に身動きが取りにくくなる。人数ばかり揃えたはいいが、いざ遺跡に巣食うモンスターに襲われたとき、狭い通路で押すな、引くなとやっているうちに全滅する阿呆なパーティの話は後を絶たないんだよ。知ってたか?」
「俺にわかってるのは」
ドレイクは脇差しの位置を直すと、マラーダ遺跡の入り口を真っ直ぐに見据えて言った。
「無駄話は止して、早々(さっさ)と仕事を終わらせるべきだってことだ」
「まるで野生の王国だな。人の手が入っていなかったのは本当らしい、フゥンッ!」
ザンッ!
ドレイクは恐るべきスピードで飛び掛ってきたオオカミを斬り伏せると、クロードに視線を向けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるなら、大丈夫なんだろうよ!多分な!」
似つかわしくもない切羽詰った表情でクロードが答える。無理もない…いくら腕の立つ傭兵と言えども、「野生のクロクマ」を相手にそうそう苦戦せずにいられるものではない。というより、普通の戦士なら到底勝てるような相手ではない。
「こういうとき、バトルメイジが欲しいと思わねぇか?爬虫類の旦那!」
「この狭い部屋の中で火の魔法でも使わせる気か、俺は願い下げだね」
しかしまぁ、なんだかんだで駆け合いできる程度の余裕はあるわけだ…などと思いながら、ドレイクは何処からともなく襲いかかってきた巨大ネズミの首を寸断した。
マラーダ遺跡への侵入に成功した2人は、さっそく地元の野生動物を相手にする破目になっていた。
「ぬぅおあああああッッッ!!」
ときの声を上げながら渾身の力で盾をクロクマの鼻面に叩きつけたクロードは、そのまま見当を失っているクロクマの顎に剣を突き刺した。
ズシイィィィィンンン……
脳幹を田楽刺しにされたクロクマはその場にぶっ倒れ、やがて微動だにしなくなった。フゥ、とクロードはため息をつき、クロクマの顔面を踏みつけながら剣を引き抜く。
「なんだか俺様が一番の貧乏クジを引いたようだなァ、爬虫類の旦那よ?」
「他の雑魚は全部俺が処理したんだ、文句言うな」
ぼやくクロードに対し、ドレイクは周囲に散らばる有象無象の野生動物の屍を見せつける。
クロードはわざとらしい愛想笑いを浮かべると、剣を鞘に戻しながら言った。
「それじゃあ、まあ、いまのところスコアは同点ってことでいいよな?」
「輪投げじゃあるまいし。妙なこと言ってないで、さっさと先に進むぞ。こんなところでスコアを稼いだって、なんの足しにもなるまい?」
残念ながらこの2人に、生態系の保護だの動物愛護の精神だのといったものは期待できない。
「妙な扉だな。他のアイレイド遺跡では滅多に見ない形式だ」
「そういえば…ユンバカノからもらった資料に、これと同じ扉の解説スケッチがあったな」
征(い)く路(みち)に立ち塞がる野生動物の群れを容赦なく斬り捨て、到着した場所。
そこはマラーダ遺跡の中央広間であり、一切の望まれぬ侵入者を遮断すべく、特殊な鍵で固定された扉が2人の目前に鎮座していた。
「破壊する…には、すこし骨が折れそうだな」
「物騒なことを言いなさんな、爬虫類の旦那。ちゃんとユンバカノから、資料と一緒に鍵も貰ってる」
そう言って、クロードは奇妙な形状の鍵を取り出す。
「本当は、こいつだけでも随分と骨董品的価値があるらしいんだが、ユンバカノにとっては、この遺跡の奥地にあるモノを手に入れるほうがよっぽど重要らしい。普通の学者は、こういった代物を実際に使おうとはしないもんだ」
「それだけ研究熱心だってことか。熱意、というか、執心、執着?まあ、俺にはどうでもいいことだが」
「そいつは俺様も同感だな」
ドレイクの投げやりな言葉に相槌をうちながら、クロードは躊躇いもなく鍵を扉に差し込んだ。
複雑な行程を経て扉が開き、鍵は扉に刺さったまま手の届かぬ場所へと消えていく。
「良かったのか?骨董品的価値があるんだろう?」
「想定の範囲内ってヤツさ。もちろん、これで成果を出せなきゃユンバカノに殺されるけどな」
「ユンバカノの放った刺客に、だろ」
「そういうことだ」
なんて会話だ。
「さァて、マラーダのお宝とご対面だな」
封印された扉を抜け、アイレイドの崩壊以後おそらくは何者も寄せつけなかった最奥の間へと2人は歩を進める。
「こいつは…石板、か?」
「そうだ。それも王族間で用いられていた希少な代物だ、博物館でさえ滅多に見れんのだぜ、コレは」
壁にはめ込まれるような形で埋もれている「それ」。
黒曜石のように黒光りする石版の上に、おそらく古代語とおぼしき文字が、光を放ちながら線蟲のように蠢いている。一目見てはっきり、フェイクや偽造品ではない本物のアーティファクトであることがわかる。
「あんた、アイレイド文明には堪能だったよな。これを読めるか、クロード?」
「いや、無理だね。こいつはアイレイド言語の中でも、王族間でのみ用いられていた古代語で書かれてる。まだ誰も解明できてないはずだ…ユンバカノなら、あるいはどうか知らんがね」
そう言いながら、クロードが石板に手をかける。
その刹那、ドレイクに悪寒(母親じゃないほう)が走る。その石板に手を出してはいけない…そんな予感が脳裏に閃いたが、かといって石板を手に入れなければ仕事が終わらないので、結局、何も言わなかった。そのときは。
ガポッ……
経年劣化で脆くなっていることを恐れてか、クロードは慎重な手つきで石板を抜き出す。
石板がクロードの手に渡ったそのとき、微振動がドレイクの足を揺らした。
「…なんだ?」
疑念の声を上げるドレイクに、クロードが怪訝な表情を向ける。
「どうした、爬虫類の旦那?」
「いや、いま地面が揺れたような…うぉっ!?」
突然壁に亀裂が入り、天井が崩れ落ちてくる。
「ヤバイ、爬虫類の旦那!やっぱりお宝に罠ってのはツキモノだよな!?」
「無駄口はいいから回避行動に専念しろ、死ぬなよ!つうか、死んでもいいから石板だけは死守しろいいな…おい、なんだ、あれ」
落下してくるブロックの塊を避けながら、ドレイクは視界の端に引っかかったものを凝視する。
「おいおい、冗談だろ…?」
どうやらクロードも、ドレイクの見たものに気がついたらしい。いままでどこに隠れていたのか、2人の周囲に、スケルトンやレイスといった死霊どもが集まりはじめている。
「こいつは予想外にヤバイ事態だぜ、爬虫類の旦那。アンタ、ゴーストは相手にできるか?」
「無理だ。俺の武器はただの鉄製だからな…お前の武器はエンチャント付きだったな」
「遺跡に亡霊はツキモノだからなァ。やれやれ」
クロードは手にした石板をさっさと麻袋に入れて鎧の間に仕舞うと、スラリと剣を抜き放った。
ドレイクもカタナを抜き、重心を低く落として構えると、包囲網を狭める死霊どもに鋭く視線を這わせた。
物理的攻撃が通用するスケルトンとは違い、ゴーストやレイスなどの実体がないクリーチャーに普通の武器は掠りもしないはずだ。それこそ魔法か、魔法が付与されたエンチャント・ウェポン、あるいは銀製の武器でなければダメージを与えることはできない。
「シィィィッ!!」
得物を下手に構えながら猛突するドレイク。カタナの刃先が地面を擦り、火花を散らしながら弧を描く。やがて振り上げられた刀身がスケルトンの胴を捕らえ、古びたリン酸カルシウムで組成された身体を粉砕した。
返す刀でもう1体の首を飛ばし、さらに反動をつけた一撃でもう1体を両断する。
一方のクロードも、レイスの放つ冷撃呪文をエンチャントが付与された盾で防ぎながら瞬時に距離を詰め、白光する剣をレイスに突き立てた。剣を引き抜いたのち、素早い袈裟斬りを2、3回叩き込む。
緑色のガスのようなもの(プラズマ?)を吐き出しながら、レイスはずたぼろの黒いローブだけを残して姿を消した。クロードは勝ったのだ。
最後のスケルトンを斬り伏せたドレイクが、カタナを肩に担いだポーズで言った。
「なんだ、ピンチだとか言う割には圧勝じゃないか」
「ちょいとばかし本気を出したからな。同業者に手の内見せるのは、主義じゃないんだが」
「…本気で俺と殺し合うことがあると思ってるのか?」
「何が起きるかわからん世の中だ。生き残れるのは慎重なヤツだけだぜ、爬虫類の旦那」
クロードはそう言うと、出口へと向かって歩きはじめた。その横顔に、だらしない酔っ払いの雰囲気は微塵もない。
もっとも、クロードの慎重さが逆にトラブルを招くことがあると、2人はこの直後に知ることになるのだが。
「ご苦労だったなあ、クロードさん」
マラーダ遺跡を出た直後、いきなり抜き身の剣を持った2人組の傭兵に囲まれたドレイクは、思わず目を白黒させた。
「こいつら確か、お前が雇った連中じゃなかったか、クロード?」
「そうだったような、そうじゃなかったような…」
ぎこちない愛想笑いを浮かべるクロードに、傭兵たちは油断なく武器を構えたまま言う。
「迂闊な真似をするんじゃないぜ、遠くからはス=ラジールが弓で狙ってるからな」
「痛い目に遭いたくなけりゃあ、大人しくお宝をこっちに渡すんだね」
口々に脅し文句を並べる傭兵たちを前に、ドレイクは嘆息した。クロードに向かって言い放つ。
「あのさぁ…お前ねー。どうしてこんな連中雇ったんだよ…」
「いやぁーまあ、なんかの役に立つかと思ったんだがね。なんの役にも立たなかったねぇ」
「それどころか完璧に裏目に出てるじゃねーか!」
「無駄口はそこまでにしておけ。出すのか、出さないのか?」
やにわに口喧嘩をはじめようとしたドレイクを制すように、傭兵が口を挟む。
ドレイクは視界の端にス=ラジールの姿を捉えたまま、やれやれと肩をすくめ、口を開く。
「わかったよ。これが欲しいんだろう?」
ドレイクは自らのコートの内側に手を入れ…
「なっ!?」
「馬鹿な!」
突如として放たれた銀製のダガーが、陽光を反射してレーザービームのように輝きながらス=ラジールの心臓を捉える。致命傷を負ったス=ラジールが体勢を崩しながら放った矢は、傭兵の肩口に突き刺さった。
まさか攻撃してくるとは思わなかったのだろう、傭兵たちは想定外の事態に狼狽しながら、それでも素早く反撃しようと試みた。しかし、それでは「遅すぎた」。
2人の傭兵の間を縫うように飛び出したドレイクは、カタナを抜きざまに、振り向きもせず背後にいる傭兵の身体に刃を突き刺した。
もう1人の傭兵も、相棒の死に驚く間もなくクロードの一撃で両断されていた。
「まったく……」
「爬虫類の旦那よ。銀製の武器は持ってない、と言ったよな?」
「ふざけろ。ダガーでレイスを相手になんかできるか」
どしゃり、と音を立てて崩れ落ちる傭兵たちを尻目に、2人は先のマラーダ遺跡での戦いについて蒸し返す。
「しかしまあ、あとはユンバカノのところへ戻ればいいだけだからな。そうぼやくこともないか」
「不慮の事故はあったがな。今後一切、こんな不手際はナシにして欲しいもんだ、クロード」
「まぁ固いことばかり言いなさんな、爬虫類の旦那。帝都に戻ったら一杯奢るからよ」
「これだから酔っ払いってのは…」
けっきょく帝都に戻るまで、ドレイクは不機嫌な態度を崩すことはなかった。もっとも、クロードに酒をたかることは忘れなかったが。
2012/06/25 (Mon)08:14
「こいつで間違いありませんね?ミスター・ユンバカノ」
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
2012/06/07 (Thu)16:48
もはや本文は「以下略」でいいような気もしますが、まあタイトルの通りというか順番通りというか。
スイマセンちょっと寝不足気味なんでかなりテキトーに書いてます。
えーとHPのTES4コーナー、ブラック17のキャラクターページに画像を追加しましたです。
http://reverend.sessya.net/tes4_3.html
でもって、こいつにも没バージョンがあるんでここに公開。
本日は以上。
スイマセンちょっと寝不足気味なんでかなりテキトーに書いてます。
えーとHPのTES4コーナー、ブラック17のキャラクターページに画像を追加しましたです。
http://reverend.sessya.net/tes4_3.html
でもって、こいつにも没バージョンがあるんでここに公開。
本日は以上。