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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
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2012/05/15 (Tue)12:41
 時期尚早かもしれないけど、びみゅうに使い勝手が悪いというか微妙に見難いninja toolsにかわってオブリSSのまとめページをHPのほうに作ってみました。

http://reverend.sessya.net/tes4top.html

 構造的にはたんにブログの記事へのリンクが貼ってあるだけなんですが、他にも画像とか補足記事とかいろいろ追加していけたらなあとか考えてます。まだ登場してないキャラのページとかフライングしてますけど、なるべく早く通常運行できるようがんばって記事を書きたい。なあ。
 つい先日あたり、ようやく全体の構成(の草案)をまとめたところなんですが、ほとんどのクエストを網羅する予定なのでものすごく長くなるかもだ…本当に全部書ききれるのか?俺?飽きっぽいのに?

 あとはアレです、最後までコンパニオンMODは入れずに書ききれそうです。コンソールコマンドの「createfullactorcopy」とwrye bashのface inportをフルに活かします。活かしたのがまとめページのタイトル画像。
 コンパニオンMOD使ったほうがフツーにラクじゃねぇのかという意見もありましょうが、やっぱり予期せぬ不具合が怖いのとNPCのデータ作るのがめんどくさいのと、あとNPCが一部装備を装着しない仕様のためにやむなく、という。ちゃんと理由はあるんです。
 MODの装備なんかでよく見かけるTail属性の装備をどうやらNPCは装備しない、最初はしていてもMAPロードを挟むと外してしまう(重量があろうが防御力が高かろうが関係なし)という仕様が。まぁもともと装備として着脱するという想定をしていない(だろうと思う)部位なので、仕方ないんですが。

 そんなワケで、Tail属性のアクセ装備がチャームポイントなキャラ複数体を1画面内におさめて撮影する場合は、MAPロードを挟まないようあらかじめ全員分の装備を所持したうえでコンソールの「createfullactorcopy」で自キャラを複製、その場でセーブしたあとwrye bashのface importですぐさま他キャラにカメンライド。ロード後に装備を変更してまた複製、以後繰り返し…という超絶荒業で対処しています。

 そんなんこんなんで、全エピソード完成まで長くダラダラとやめることなく続けていけたらなぁと思います。こりゃあ当分、次回作のスカイリムはおあずけだな。ていうかTES4が終わったら今度はFO3(あるいはNV。MODはどっちが充実してるのかちら)でも好き勝手放題やりたいし、悩ましい。じつに悩ましい!1日100時間欲しいくらいに悩ましい!
 そもいきなり複数主人公って形式を取ったのがマチガイだったような…というのは気のせいに違いない!

 いまのところ説明不足な部分が多過ぎる感はありますが、最終的にはほとんどの部分をきちんと投げっぱなしにせず作中で表現できればいいなァと思っておりますです。



 あと、最後に。まとめページのタイトル画像の没バージョンをここに公開しておく。
 じつは2時間くらいかけて数十種類くらい作ったのはナイショだ。gimpとsaiとjtrimをいったりきたり。イラレ?フォトショ?なにそれ。
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2012/05/12 (Sat)13:56
「もし、そこな道行く羊さんよ。うぇいのん修道院というのはここで合ってるかの?」
「メ゛エ゛エェェェェェ…」



 オディール一家と別れ、コロールの宿で一晩過ごした翌日。
 コロールの衛兵から「ウェイノン修道院ならここを出てすぐだ」と教えてもらい、道を辿っている途中のことであった。
「…う~む、こういうふぁんたしぃな世界なら、羊が喋っても可笑しくないと思ったのだがのう」
「メ゛エ゛エェェェェェ…」
「えーと、お嬢ちゃん?こんなところで何をしているんだい?」
「んむ?」
 リアが糞真面目な顔で雌羊と対面していると、黒い肌をした男が声をかけてきた。
 エレノアを名乗るダークエルフ(または、ダンマー)は、ここウェイノン修道院で農夫として働いているらしい。
「ジョフリという人物に所用があるのだがな?」
「ああ、お遣いか何かかい?ジョフリ様なら、一日のほとんどを修道院で過ごしてるよ。寝てるか食事中でもなければ、本棚を引っかき回してるんじゃないかな」
「棚を回す?」
「…本を読んでるんじゃないかってことさ」
 自身の言葉に真顔で突っ込みを入れられたエレノアは、やや残念そうな顔でそう言った。
 心があるとはいえ、戦闘用アンドロイドとして造られたリアには比喩表現が通じにくい。もっともエレノアはたんに、リアが見た目通りに愚直なのだ(つまり、人生経験が極めて浅い子供である)と判断したのだろうが。
 まったく子供ってやつは、という侮蔑の念を隠そうともしないエレノアの視線を背に、リアは修道院の戸を叩いた。それほど間をおかずに、僧衣に身を包んだ青年が顔を覗かせる。
「おや、これは可愛らしいお嬢さんだ。このウェイノン修道院になにか御用かな?」
「ジョフリという男に用があっての。届け物じゃ…バウルスという男に頼まれたのだが」
「…バウルスから!?ち、ちょっと待っててください」
 リアがバウルスの名を口にした途端、若い修道士の表情が一変した。慌しく修道院の中に身を引き返し、何者かと言葉を交わすのが聞こえる。
 しばらくして若い修道士はふたたび姿を現すと、リアを建物の中へ案内した。



「君が、バウルスの遣いかね…?」
 ジョフリは老齢のわりに背筋がピシッと伸びており、その物腰や無駄のない所作からただの教会関係者ではないことを窺わせる。
 この動きは元軍人か何かかな、などとリアは思いながら、手にしていたトランクをデスクの上に載せて数枚の書類を取り出した。
「いかにも、これがバウルスから預かった書状じゃ。機密性が高いというのでな、安心せい、ワシは中身を見ておらん」
「それより、バウルスとはどうやって知り合ったのだ?彼は無事なのか?」
 やたらと心配そうな顔で話しかけてくるジョフリの態度が気になり、リアはふと机の上に置かれた新聞の文面に目を通した。皇帝暗殺と、それにまつわる各種論考が載せられている。
「じつは、ワシには記憶がなくての。気がついたら牢獄にいて、脱出しようとしたところ、怪しい集団に襲われていたバウルスに出っくわしたというところじゃ。そのへんの事情は文面に書かれておるはずじゃ、バウルス自身の言葉でな。ワシの言葉よりも信用できるじゃろ」
 あからさまに胡散臭そうな視線を向けてくるジョフリに、リアは特に気分を害するでもなくそう言った。
 書状を受け取ったジョフリは無言のまま、素早く書面に視線を走らせる。険しい表情のまま深くため息をつくと、顔を上げ、改めてリアに向き直った。
「この書状に書かれていることは、曰く信じ難い。しかしバウルスを信用する身としては、一言一句違わず信じるしかないのであろうな…」
 バウルスの用意した書状には、皇帝暗殺にまつわる一連の出来事、今後取るべき対応、そしてリアの素性に関する一部始終が書かれているはずだった。暗殺者を前に発揮した、リアの驚くべき戦闘能力に関しても。
「ワシ自身はここいらの世俗に関する知識がまったくあらなんだから、自分がどれほどの大事に関わっているのかいまいち把握ができん。できれば事情を説明してほしいのだが?」
「…君にすべてを話したいのは山々だが、それは君を危険に巻き込むことを意味する。いまさらと思うかもしれないが、わかってくれ。そうそう、今後行く宛てがないなら、ここを自由に使ってくれて構わないからね」
 あくまでも余所余所しい態度を崩さないジョフリに、リアは苦笑する。
「仕方がないのう。まあ、部外者にあれこれ大事を口にするわけにはいかんのじゃろ?それも、こんな子供に?ワシも身の程はわきまえてるゆえ、無用は詮索はせん。安心せい」
「すまないね。しかし君も、不思議な娘だな…」

「あっ」
 リアがジョフリの部屋から出ると、見覚えのある若い修道士とばったり出くわした。どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「盗み聞きは関心せんぞ、小童」
「いやあ、はは。ジョフリ様は普段、僕らにあまり大事な話をしてくれないものですから」
「ワシにも大事な話はせんかったがな」
「そのようですね。僕は修道士パイネルといいます、よかったら少し外に出ませんか?話をしましょう」
 断る理由はないな、とリアは言葉を返し、パイネルとともに修道院の外へ出る。
 夕刻にさしかかり、空はすっかり赤みがかっていた。
「ジョフリ様は、本当に、貴女には何も話さなかったようですね。僕でよければ、知っている範囲で良ければ話をしますが」
「口の軽さと好奇心の強さは身を滅ぼすぞ。それに、ワシは別段気にしておらん」
「心外だなあ…好奇心が強いのは生まれつきだとしても、話をすべきだと思ったのは、バウルスを窮地から救った恩人に最低限報いるべきだと思ったからです」
 すこし語調を強め、パイネルはそう言った。
 まだ未熟っぽさの残る青年を、リアはチラリと見つめた…嘘はついていない。根っからの熱血漢といったところか、世の中に本当に“正義”なんてものがあると思い込んでいる種類の人間か。ちょっとだけバウルスと似ているな、などと思う。
「気遣いには感謝しよう。まあ、情報はあって損するものではなし、おぬしの気概に免じて、聞いてやらんでもないぞ?」
「すごい高飛車な態度だなあ」
 そう言ったあと、パイネルは笑った。つられて、リアも。
「ところで、あれはなんじゃ?」
「ああ、厩舎ですか。ここでは馬を何頭か飼っています、宜しければ乗ってみますか?」
「おお。何千年と生きてきたが、実のところ、馬に乗るのははじめてじゃ」
 厩舎まで来たリアは目を輝かせ、パイネルの手を借りながら鹿毛の馬の背に乗る。しかしリアが跨った途端に、それまで大人しかった馬が急に暴れはじめた。
 振り落とされまいと手綱を必死に掴むリアを見て、パイネルは顔を青くした。
「まさか、こんなはずは…普段は従順で大人しい馬のはずなのに!」
 しかしパイネルの言葉に反するかのように鹿毛馬は暴れ、足踏みし、身をよじった。まるでリアを背に乗せるのが苦痛であるかのように。
 そしてリアは、まぜ鹿毛馬がここまで自分のことを嫌うのか、その理由に気づいた。
 ひょっとして…「アンドロイドはとても重い」。



「うひょーーーーーっっっ」
 次の瞬間、鹿毛馬に吹っ飛ばされたリアは宙を飛んでいた。やがて木に激突し、決して細くない木の幹がメキメキと音を立てて折れ曲がり、倒れる。
 そのスペクタクルな光景を目にしたパイネルは絶句し、さらには特に怪我を負った様子もないリアを見て、思わずその場でアカトシュに祈りを捧げるのであった。



「つ、疲れた…」
 鋼鉄の肉体にあるまじき疲労を感じながら、リアはその日の晩をウェイノン修道院で過ごすことにした。
 ここで暮らしても構わない、というジョフリの提言は嬉しくもあったが、かといっていつまでも目的のないまま無為に時を過ごすわけにもいかない。
「そういえばオディールの親父が飲んだくれていた宿で、自分の偽者に迷惑している男がいたな。そいつの悩みを聞いてやるのも悪くないかもしれん」

 翌日コロールのグレイ・メア亭に向かったリアの目の前に、件の青年ではなく、見覚えのないハイエルフの女性が姿を見せた。
 若干当惑しながらも、リアは女性に声をかける。
「もし、いつもここでクダを巻いているレオナルド・ジェメーンという男を捜しているのだが。ご存知ないか?」
「彼ならいまここにはいないわ。それよりも貴女、帝都からはるばるお遣いに来たんですってね?実は貴女に、ちょっとした頼みがあるのだけど」
 そう言って、ハイエルフの女は不適な笑みを浮かべた。


2012/05/09 (Wed)12:37
 帝都の北東、監獄へと続く下水道入り口からほど近い位置にある脇穴洞窟に身を隠してから、もう3日も経つだろうか。
 冷たい石床に横たわるオーガ亜種の亡骸から短刀を抜くと、ブラック17はその場に腰を落ち着けた。



『元気そうだな。暗いところは落ち着くか?』
「日なたに身を晒せる身分でもないでしょうに。随分と遅かったわね」
 ブラック17が通信支援用の水晶を取り出すと、視界の右上にブラック16の姿がノイズ交じりに表示された。サングラスの奥の冷たい瞳と、口元に浮かべた微笑のアンバランス加減が絶妙な胡散臭さを演出している。
『ようやく活動方針が決まったのでね。そちらは大事ないかね?』
「低脳なバケモノどもを幾ら殺しても感慨が沸かないわ。はやく任務に就きたいのだけれど」
 そう言って、ブラック17はオーガ亜種の亡骸を一瞥した。
 次の指令が来るまでに身を隠すための場所として選んだこの洞窟はモンスターの住処となっており、最初は身の安全の確保のために排除していたが、1日、2日と経つにつれ、ブラック17は憂さ晴らしを兼ねて必要以上にモンスターを殺しはじめていた。
 それは本来まったく必要性のない、たんなる「余興」以上のなにものでもない行為だった。
 もっとも、指令が来たとなれば…いつまでも、こんな場所にいる理由はない。ブラック17は洞窟から出ると、ひさしぶりの外の風景を前に目を細めた。義眼の光量自動調節機能が作動するとともに、各種ステータスウィンドウが展開する。



『さて…先の皇帝暗殺失敗と、こちらの任務に干渉してきた謎の組織への対処を協議した結果、君にはひとまず現地の暗殺ギルドに協力してもらうことになった』
「へぇ。共同任務?」
『いや、違う。我々と彼等の活動内容は、基本的には無関係だ。我々の活動は秘匿性が極めて高いため、他の組織と任務上関わることはまずない。しかし我々の組織の<この世界>に関する知識は発展途上で、おまけに現地工作要員も不足しているというのが現状なのだ』
「つまり例の、謎の組織の情報を得るために彼等に協力しろってこと?」
『身も蓋もなく言えばそうなる。彼等ダーク・ブラザーフッドはこの世界の情報に通じている、表にも…裏にも、な。これは単純なギヴ&テイクだ』
「…わたしの活動方針は?黒の里はなんと」
『基本的には彼等に従え、だ。無理難題を押し付けられるかもしれないが、ブラザーフッドも黒の里の実力は認識しているだろう。待遇そのものは悪くないはずだ…仔細は自己判断で対処してくれ』
「了解。それで、彼等とはどう接触すればいいのかしら?」
『君は帝都に向かってくれ。じきにブラザーフッドのエージェントが接触に来るはずだ』
「帝都、ね。賑やかな場所に行くのは久しぶりだわ」
『その通りだな。だから任務用の黒装束ではなく、ちゃんと身なりを整えて行くことだ。くれぐれもな』
「了解」
 ブラック17が気のない返事をすると同時に、手の内の通信水晶がパキンと音を立てて砕けた。
 身なりを整えて…とはいうものの、ブラック17は代わりの着替えも、ましてこの国の通貨も何一つ所持していない。
 さて、どうしたものか…思案に暮れるブラック17がふと街道沿いに目をやると、そこには丁度商隊キャラバンが通りがかったところだった。

「部屋をお借りしたいのだけれど、宜しいかしら?」



 夕刻過ぎ。
 帝都タロス広場地区の高級宿タイバー・セプティム・ホテルにて、義眼をアイパッチで隠した瀟洒な身なりのブラック17が受付に立っていた。オーナーのアウグスタ・カリディアが笑顔で迎える。
「あらまあ、旅のお方ですか?冒険者には見えないし、付き人の姿も見えないけれど」
「じつはお忍び旅行中なのよ。ここはシロディールでもっとも評判の良いホテルだと聞いたけど」
「貴族のご令嬢かしら?いやぁね、私ったら。詮索は良くないわね?この宿を選んでくださったことには感謝していますわ。あまり他所様の悪口を言うつもりはありませんけど、その、なんというか、衛生にあまり気を使っていないところも多いですから」
 部屋は2階ホール西端です、と言ったアウグスタから鍵を受け取り、「どうぞごゆっくり」という声を背にブラック17は階段を上がっていく。こういう文化的な場所で時間を過ごすのはひさしぶりだ、と思いながら。

 夜も更けた頃、全身を漆黒のローブで包んだ男がブラック17の滞在する部屋の扉の前に立っていた。複雑な構造の鍵を魔法で難なく開けてから、静かに戸を開ける。
「レディの部屋に入るときは、ノックくらいして欲しいものね」
「これは失礼を。随分と夜遅くまで起きているのですな?」
 男の前に、ベッドに腰かけ物思いに耽っていた様子のブラック17の姿があった。口ほどには不意の侵入を気にかけていないようで、たいして興味もなさそうな眼差しで男を一瞥する。



「ほとんど睡眠を必要としないよう訓練されているから。貴方が例のエージェント?」
「申し遅れました。私の名はルシエン・ラチャンス、ダーク・ブラザーフッドの<伝えし者>です」
「伝えし者?」
「我々ダークブラザーフッドは夜母ナイト・マザーを筆頭に、ブラックハンドと呼ばれる6人の幹部と下級構成員から成り立っています。そして伝えし者は6人いるブラックハンドの内の5人を指し、私はその中の1人ということです」
「なるほど、上級構成員というわけね。まあ、わたしは貴方の組織と深く関わるつもりはないから、これ以上の詮索は控えるけど。わたしのことはどこまでご存知?」
「我々とは異なる大陸で活動する伝説的な暗殺者集団である黒の里の殺し屋、その中でも1人で小国の軍隊に匹敵する戦力を有するブラック・ナンバーの17番目。そのように窺っておりますが」
「グッド。これでお互いに最低限の認識はできたわけね」
「あくまでビジネスの上での関係、というわけですな。宜しい、ここで両者の立場を明確にしておきましょう。貴女方は皇帝を暗殺した謎の組織の情報を求めており、こちらはそれに関して調査を進める用意がある。言うまでもなく皇帝を暗殺したのは我々ではありません、そのような説を唱える者も巷にはいるようですがね」
「もしそうなら、手間が省けるのだけれどね」
「…ご冗談を」
 ちょっとした呟きのあと、ブラック17から一瞬だけ発せられた凄まじいまでの殺気を察知し、ルシエンは本能的に緊張し、身を固くする。
「ついては、謎の組織の調査にこちらの人員が割かれることにより、本来の業務に滞りが生じます。その穴を貴女に埋めていただきます、これは公正な取り引きと判断して宜しいでしょうね?」
「結構よ」

 宵闇に紛れ、闇が疾駆する。
 戦闘装束に着替えたブラック17は、帝都とブラヴィルを繋ぐグリーン・ロードの中間点に位置する旅の宿イル・オーメンの地下室に侵入していた。
 施錠された扉を開け、ベッドの上で眠る老人へと近づく。



 この老人の名はルフィオ、今回の任務の標的…暗殺対象だ。
 この男が死ぬことにどんな謂れがあるのか、この男はいかなる罪を犯したのか、依頼人の心情は…そんなことは、ブラック17にとってなんの関係もないことだった。ただ殺すこと、それが彼女の成すべきことであり、そしてそれが彼女にとって至上の喜びでもあった。
「さようなら、ルフィオ」
 ブラック17は微笑を浮かべると、銀光を放つ小太刀の刃先をルフィオの首筋に走らせた。

「いま、なにか物音がしたような…」
 イル・オーメンの主人マンハイム・モールハンドは、地下の私室へと続く戸を見つめながら、訝しげに呟いた。
「気のせいか?」
 そう言って踵を返したその背後に、ブラック17の姿があった。



 素早い動作でマンハイムの口元をおさえ、心臓に刃を突き立てる。声にならない悲鳴を上げ、マンハイムはその場に倒れた。
「いったい、なんの騒ぎ…お、おい、なんだ貴様は!?」
 それまでワインで満たされたタンカードを片手に客人と談笑していた男が、鋭い語調で怒鳴った。ブラック17の姿を認めると同時に、傍らに立て掛けてあった弓に手を伸ばす。
 私服姿なので気がつかなかったが、この男はどうやらただの一般客ではないらしい。帝国軍所属の森林警備員だ…通常、いかなる犯罪組織の構成員も帝国軍所属の兵士には手を出さない。それだけで立場が危うくなるからだ。
 しかしブラック17はマンハイムから手を離すと同時にその場から飛び退き、小太刀を森林警備員の心臓目掛けて投げつけた。



「ぐおっ…!?」
 そのままブラック17は歩を進め、苦悶の呻き声を上げる森林警備員の胸に刺さった小太刀を抜くと、逆手に持ちかえて森林警備員の首を掻き切った。とどめの一撃だ。
「きゃーーーっ、きゃーーーっ、きゃーーーっ!!」
 一連の様子を目撃し、パニックのあまり悲鳴を上げる女性客を、ブラック17は容赦なく斬り捨てた。
 すでに生きている者が存在しなくなったイル・オーメン亭をあとに、ブラック17が歓喜のため息を漏らす。
「デモンストレーションには丁度良いかもしれないわね」
 そう呟くブラック17の全身を漆黒のオーラが覆うと同時に、大気が悲鳴を上げはじめる。空が紅く染まり、戦槌を叩きつけたような轟音が続けざまに鳴り響く。



 ブラック17はイル・オーメン亭を一瞥すると、すっと腕を伸ばし、掌を建物に向かってかざした。そして、力を解放するキーコードを口にする。
「ヘルブレイズ・インフェルノ(覚醒せし煉獄の業火)」
 ブラック17の腕の中で一連の術式が作動し、閃光があたりを包んだ。

「これを、貴女がやったのかね?」
 翌朝。
 現場検証も兼ねたデブリーフィングのために、ブラック17はルシエンとともにふたたびイル・オーメン亭を訪れていた。跡地、とつけ加えたほうがいいかもしれない。建物は廃墟と化し、焼け焦げばらばらになった死骸が無残に散乱している。



「予想以上だよ。予想外、と言ったほうがいいかもしれない。あるいは、予想のナナメ上の結果だと」
「不服かしら?」
「控え目に言って、これはやり過ぎだ」
「ターゲットを確実に抹殺し、証拠も証人も残さない。なにが不満なの?」
「今回の依頼は、標的が死んだことが公に知られることが重要だったんだ。死体を目撃し、公的機関に知らせる者の存在がね。これでは誰が死んだのかすらわからないではないか」
「オプションつきなら最初から言って欲しいものだわ。徹底殲滅が黒の里の基本的方針だと知らなかったの?」
「…どうやら初動の段階で認識にズレがあったようだ。留意しよう」
 それだけ言うと、2人は今後の活動について話し合うためにその場を離れた。都市部から離れた場所とはいえ、そろそろ帝国軍の巡察警備がこのあたりを通りがかってもおかしくはない。
 それにしても。
 まるで悪びれた素振りを見せないブラック17の態度に、ルシエンはため息をついた。
2012/05/02 (Wed)06:53
「待てよ、おい…待てって!話を聞けよ!」
「ん、なんじゃ?」
 ゴブリンの巣窟と化していたアッシュ砦で一晩を過ごしたリアは、ウェイノン修道院へと向かう道中で言い争いをする2人の若者の姿を見つけた。



「五月蝿いぜ、兄貴!このまま、あのクソッタレどもの好き勝手にさせていいってのかよ!」
「いいか、これは家族の問題だ。親父の助力がなけりゃあ…」
「その親父はいま飲んだくれで役に立たないだろうがよ。家族の問題ってなら、あとはもう俺たち2人でどうにかするしかねぇだろうが!」
「これ、これ、これ。そこな童どもよ」
 議論が白熱し、いよいよ掴み合いの喧嘩になろうかというとき、リアは諍いを止めに入った。
 突如現れたゴスロリ服の幼女(しかもババア口調)に、2人の若者は驚きを隠せない。
「な、なんだコイツ」
「喧嘩はよさぬか。往来でみっともないとは思わんか、のう…ワシで良ければ、力になってやらんでもないがの?」
 慈母のような優しい眼差しで若者たちを諌めるリア。
 数千年という永い時間を、器を変えながら時代のうつろいを眺め続けてきたリアの、人間…特に若者に対する視線は温かい。
 人間がまだ「造られし奴隷」だった時代に生まれ、「ウォッチャー(観察者)」としての使命をまっとうするために永い時間を生き、最期にはかけがえのない「仲間」と「感情」を得た。
 リアは人間ではない。が、冷たい機械でもない。感情を持つ「生きた機械」、それがHEL-00…「リア」と呼ばれた生命体なのだ。



 だが、そんなことは知る由もない2人の若者(どうも兄弟らしい)にとって、リアはただ生意気な小娘にしか見えない。
「あのなお嬢ちゃん?俺たちはいま大事な話をしてるんだ、わかるか?子供の遊びに付き合ってるヒマはないんだ、わかったらママのところへ帰るんだ、いいな」
「ワシに両親などというものはおらぬし、こう見えてもお主らよりは長生きしておる。年の功というのは期待できるときにアテにするものじゃよ?」
 リアはまったく平静そのものといった表情でそう言う、が。
 若者の表情にはさらに深いシワが寄っただけ。あー、やっぱり「想像力豊かな子供(笑)」だと思われてる。典型的な厨二病患者だと思われてる。きっと成長したら当時の妄想は黒歴史になるとか思われてる。
 困った、という表情でリアは首筋を掻くと、ならばと言った。
「要は、ただの小娘ではないことを証明すれば良いのじゃな。どれ」
 リアは懐から古びた鉄製のダガーを取り出した。アッシュ砦でゴブリンが持っていたものを拝借したのだ。そいつを素手でぐにゃりと曲げ、兄弟の前に放り出す。
「おいおい、こんなオモチャで何を…おぉ!?」
 苦笑しながら曲がったダガーを拾った兄の方(おそらく子供用の玩具かなにかとタカを括っていたのだろう)は、手の中に納まった刃物のずっしりとした重量感に驚きを隠せなかった。
「ほ、本物…なのか?」
「ケッ、阿呆らしい。なにか事前に細工してたんだろ?なら、コイツを」
 弟の方が、身につけていたロングソードをすらりと抜くと、リアに手渡した。
「こいつを曲げることができたら、協力を頼んでやってもいいぜ?」
「ふんぬ」
 弟の方が言葉を言い終えないうちに、リアは膝でロングソードを弓なりに曲げる。
「あーッ!!俺の大事な剣!?」
 まさか(というか当然というか)本当に曲げられるとは思っていなかった弟の方は、無残にも折り曲げられた剣を見て悲鳴を上げた。
「あー、あー、あー、あー」
「え、な、大事なものだったのか?ならばこう、こうで…」
 ぐにょ。
 リアはふたたび力をこめ、剣を元通りに曲げようとした。いちおう真っ直ぐにはなったのだが、それでもどこか曲がっているような、歪んでいるような。
「あー、あー、あー、あー」
「す、スマン…」
 やれと言われたことをやっただけなので、本来ならリアが謝罪するいわれはないのかもしれないが、それでもあからさまに落胆する弟の方を見て、リアは罪悪感に苛まされたのだった。

「成る程、農場をゴブリンにのう」
 けっきょく。
 オディール兄弟と名乗る若者たちに助力を乞われたリアは、道すがら事情を聞くことになったのだった。ちなみに弟のアントゥスは、歪んだ刀身がひっかかって鞘にうまく収まらないと愚痴をこぼしている。
 もっぱら状況説明は兄のラルスの役割だった。
「あの連中、作物を荒らしたり家畜を殺したり、まさに好き勝手放題さ。人間じゃないから抗議も通用しないしな。おまけに凶暴で、しかも武装してる。手がつけられない」
「さっき、父親の助力がどうとか言うておったが…?」
「…親父は、戦争の英雄だった。元軍人で、凄腕の剣士だったらしい。いまじゃ、しがない農場主だがね。大分前におふくろが死んで、それ以来は畑仕事もせずに一日中飲み屋で酒ばっか飲んでる有様さ…同情の余地もなくはないが、それも10年近く続けば愛想も尽かすさ」
 父親の話をするラルスの態度は愛憎入り混じっており、複雑な家庭事情を思わせた。このあたりは、いわゆる人間として生を受けたわけではないリアにとって理解し難い感情だ。
「親父が駄目人間になってからは、俺とアントゥスで農場を切り盛りしてきた。で、今回のゴブリン騒動さ」
「クソ親父はアテになんねーし、街の連中の誰一人として手を貸してくれるヤツぁーいねえ。こうなったら俺たち2人でゴブリンどもを退治してやろうぜって、そういう話をしてたワケよ」
 血気盛んにそう語るアントゥスを見て、リアはつくづく手を貸すことにして良かったと思わずにはいられなかった。
 物腰を見た限りオディール兄弟に兵役経験はなく、基礎体力はあるものの剣の扱いは素人同然だろう。ゴブリンがどれだけいるのかはわからないが、おそらく兄弟だけだと返り討ちに遭う可能性が高い。
 将来有望な若者を、農場の肥やしにするには忍びない。



「来たぞ…」
 3人がオディール農場に到着したのとほぼ同時に、周囲からゴブリンの群れが姿を現した。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…数はそれほど多くないが、油断は禁物じゃの」
 ゴブリンの群れを鋭い視線で見据えるリア。
「ギョエエェェェェエエエエッッッ!!」
 咆哮とともに襲い掛かってきたゴブリン目がけて、リアは牽制のつもりでトランクを振り回す。



 ゴガッ!
「ギヒィェェェエエエッッ!!??」
 トランクの角が見事にゴブリンの顎を捉え、口蓋を完全に破壊する。
 リアがそのままトランクを振り抜くと、ゴブリンは宙を一回転してぶっ倒れ、そのまま起き上がってこなかった。
「むむ、このトランク思っていたより相当に頑丈じゃのう。このまま武器として使えるに相違ない」



 すでに空は赤みがさしはじめ、戦闘もたけなわである。
 数が少ないと思っていたゴブリンだったが、実際には次から次へと援軍が押し寄せてきて収拾がつかない状態になっている。これまで意想外に善戦してきたオディール兄弟も、さすがに疲労が隠せない。
「チックショウ、まだ出てきやがんのかこいつら!?」
「童、そこを退いておれッ!」



 いままさにアントゥスの頭上に斧を振りかぶらんとしているゴブリンに、リアは突進する。
 周囲のゴブリンともども蹴散らし、リアは華麗に着地した。右手にカタール、左手にトランク。妙な2刀流の完成である。
「これで全部、か…?」
 息をせき切らしながら、ラルスが周辺を観察する。
 ゴブリンどものやかましい叫び声がなくなり、これまでの激戦が嘘のように静寂があたりを包みこむ。
『環境探査フィールド展開。オディール兄弟を除く四方100メートル以内のクラスD生命体反応、なし。警戒レベルをイエロー2からグリーン4に引きさげます。お疲れ様でした、ゼロシー』
 リアの脳内で、支援システムが状況を告げる。相変わらず、一部の言動に意味不明な箇所があるが…
「どうやら、もう安全のようじゃな。お主ら、よく頑張ったのう。2000年前なら惚れていたかもしれんな」
「…あんた、そんなんに長生きしてたのか?」
「冗談じゃ。これ、そんなにヒクでない」
 本当は冗談でもないのだが。
 どうやらオディール兄弟はリアのことを「魔女」かなにかだと思っているらしい、もちろんこの世界のフォーマット的には「戦闘用アンドロイド」よりも「魔女」のほうが、得体の知れない存在を受け入れるための理屈としては理に適っているのだろうから、あえてリアも訂正はしないのだが。

 是非お礼がしたい、というので、リアはオディール兄弟に連れられてコロールの街にある宿「グレイ・メア亭」へと足を運んだ。
「それにしてもこの親父様、まさか本当に朝から晩まで酒を飲んでいるとはの」



 ジョッキでビールを仰いでいる兄弟の父ヴァルス・オディールを睨みながら、リアは若干説教くさい口調で言った。
「息子が命をかけて土地を守っていたというのに、自分は酔っ払っていたとは良い御身分じゃのう?嫁に先立たれて傷心なのは理解できんでもないが、さらに2人の息子も失うところだったと考えることはできんかったのか?」
「もういいよ、姐さん」
 沈痛な面持ちでうな垂れるヴァルスを責めるリアを、ラルスが諌めた。さりげなく呼び方が変わっているが、あえてツッコミは入れないことにする。
「これ以上は家族の問題だ。心配してくれるのは有り難いけど、親父のことは俺に任せてくれ」
「う、うむ、お主がそう言うのならば、仕方がないのう。スマヌ、出過ぎた真似をしたようじゃ」
「いいんだ。たまにはガツンと言ってやらないとな、親父にも良い薬になっただろう」



 オディール一家と別れたリアは、今回の騒動の謝礼として受け取った剣を一瞥した。
 父親のヴァルスが現役時代に使っていた剣の一つ、魔法剣「チルレンド」。蒼白く発光する刀身を眺めながら、リアはぽつりと呟く。
「ううむ、これはまさしく名工が鍛えしワザモノに相違ない。見事なり…」
「ウィー。ヒック。だから俺ぁ、シェイディンハルなんかには行ったことないんだって」
 リアの傍らで、ひどく酔っ払った若者がうわごとをボソボソと呟きつづけていた。
2011/12/18 (Sun)12:09


「これが行方不明者の末路、ですか」
 古代アイレイドの遺跡の一つヴィルバーリンの奥地へと足を踏み入れたちびのノルド。彼女が目にしたのは、祭壇の上で命を絶たれた野盗構成員の姿だった。
 頭領の手記に「逃げ出した」と断じられた構成員に間違いはないだろう。
 これが霊的な力によって成されたものなのか、それとも人為的な所業なのか?現時点ではあまりに判断材料に乏しい。

 カキッ。
「…… …… ……?」
 そのとき、ちびのノルドの耳に乾いた音が飛び込んできた。振り向くと、そこにはぼろぼろに擦り切れた盾とひび割れた斧で武装した骸骨の姿があった。
 それを目にしたときのちびのノルドの反応は、恐怖ではなく安堵だった。
「ああ、貴方で良かったです。わたし、ユーレイは苦手なので」
 遺跡にアンデッド・モンスターが徘徊している、という話は小耳に挟んだことがある。その中でも魔術的な力を行使し、物理攻撃では一切の手傷を負わせることができないゴーストは冒険者にとって脅威の存在だ。
 一方スケルトンは恐怖も動揺もせず無感情に襲い掛かってくるという点では恐怖の対象だが、その攻撃はあくまで物質的なものだ。そしてスケルトンは、物質的な攻撃での破壊が可能である。



「シャアアアァァァァァッ!」
 声帯もなしにどうやって発声しているのかわからない、奇妙な声を立てながら斧を振りかぶるスケルトン。その動きに合わせるように、ちびのノルドは飛び蹴りを叩き込んだ。
 スケルトンの身体が四散し、ボールのように吹っ飛んだ頭蓋骨が壁に激突して砕ける。
「…ん。あまり上位のガイコツさんじゃありませんね。ちょっと拍子抜けです」
 着地と同時に、余裕の態度を見せるちびのノルド。
 しかし落下した斧が立てた「ガラン」という甲高い音に呼応するかのように、周囲から続々と新手のスケルトンが集結しつつあった。



「犯罪者よりも後腐れのない相手に手加減なんかしませんよ?」
 ちびのノルドは屈んだ姿勢から、素早い跳躍と同時にスケルトンの軍団を蹂躙していく。
 集団相手の組み手に慣れたちびのノルドにとって、単調な攻撃しか仕掛けてこないスケルトンなど何体いようが同じことだった。まして閉鎖空間での戦闘となれば、ちびのノルドの独壇場である。

 鍵のかかった扉の錠前を破壊し、前進する。



 壁に奇妙な裂け目のできた通路を抜けると、そこには奇妙な彫像を祀っている祭壇があった。
「…なんでしょうか?これ……」
 ちびのノルドが彫像に手を伸ばした、そのとき。



 キイィッン!
 身を引くつい一瞬前までちびのノルドの腕があった空間を、白刃が斬り裂く。
「!?なっ…?」
「その彫像は、お前さんには価値のない代物だ。大人しく渡してもらおうか」
 いままで一体どこにいたのか、欠片も相手の気配が読めなかったことにちびのノルドは焦りを感じる。爬虫類の冷たい瞳が、ちびのノルドを見据えた…アルゴニアン、シロディールの南方ブラックマーシュを故郷とする蜥蜴人間だ。
「いきなり斬りかかることはないじゃないですか」
「性分ってやつだ。生殺与奪に逡巡はしない主義でね」
「じゃあ、わたしが貴方を殺しても文句はない…ですよね?」
 仮面の奥のちびのノルドの瞳が、きゅっときつく絞られる。
 いきなり剣を振るわれ、あまつさえ殺す気だったことを平然と告白されて気分を害さないほどちびのノルドはお人好しではない。



「ふんっ!」
「シャッ!」
 互いの拳と剣が交錯し、火花を散らす。
 おまけに祭壇に続く通路にはアイレイドの仕掛け罠が作動しており、裂け目のように走った壁面の隙間から巨大な刃物が振り子のように揺れていた。迂闊に逃げようものなら、刃物に真っ二つにされかねない。
 ちびのノルドが相手にしているアルゴニアンは明らかに手練だった。
 この狭い空間で、刀身の長い刃物を平然と振り回している。まるで壁がないかのように、その動きが鈍ることはない。もちろん、剣を壁にぶつけるといったミスは犯さない。
 おまけにこの剣、古代アカヴィリで用いられていた「カタナ」なる代物は、恐ろしく切れ味が鋭かった。斬撃を受け流していたガントレットの装飾部分が、飴細工のように削り取られていく。

 互いに譲ることなく続いていた戦闘を中断させたのは、以外にもアルゴニアンの剣士からの一言だった。
「オーケイ、お前さんの実力はよくわかった。これ以上はどう転んでも殺し合いにしかならなそうだな、それは俺にとっても面白くねぇ。適当なところで手打ちにしないか?」
「いまさらな提案ですね」
「いまだからこそ、さ。俺にとっちゃ、この仕事はたんなる小遣い稼ぎだ。もちろん義理立てもあるが、命を賭けるほどじゃねえ。お前さんはどうだい?」
「…まぁ、死んでまでやるようなことじゃないですね」
「だろ?だったら馬鹿げてる、こんな死合いはな」



 アルゴニアンの剣士はカタナを納めると、いつの間にか手にしていた彫像を見せて言った。
「俺はとある学者先生に頼まれてこいつを探してる、なんでも価値のある古代アイレイドの遺物だそうだ。で、お前さんは?なんでこんなところにいる?」
「…この遺跡を根城にしている野盗集団を殲滅しに。ついでに、この遺跡にまつわる怪談話の解明を」
「そんな理由でこんな奥地まで来たのか?ただまあ、あんたの目的についちゃあ俺が協力できそうだな」
「と、言いますと」
「わかると思うが、俺はお前さんとは別のルートからここまで来た。野盗連中と揉め事を起こす気はなかったんでね…俺が来た道を辿るといい。途中に昔からこの遺跡に居ついてたらしい大馬鹿野郎の死体がある、そいつを調べるといいだろう。きっと、お前さんの探してた答えが見つかるはずだ」

 そこまで言うと、アルゴニアンの剣士は踵を返した。
「これでイーブン、てことにしないか?それが懸命な判断ってやつだぜ」
「どうでもいいですけど、ここまで来て別行動を取ることもないんじゃないですか」
「馬鹿言え、仮にも一度剣を交えた身だぞ。そうそうすぐに仲良く帰るまでが遠足、てぇワケにはいかんだろ。お前さんは俺の来た道を、俺はお前さんの来た道を辿る、そうすりゃ別々にこの遺跡から出られる、後腐れなく。まぁ名前くらいは聞いてやらんでもないが」
「…アリシアです。アリシア・ストーンウェル」
 ちびの、と言いかけ、ここで不名誉な渾名を教えることもないだろうとちびのノルドは本名を名乗る。傭兵であるからにはそれはそれでまずかったが、こと名前に関連する事項となるとちびのノルドは途端に頭が回らなくなるのだった。
 そんなちびのノルドの葛藤など知るはずもないアルゴニアンの剣士は、彼女の名乗りをごく素直に受け取ると、自らも名を明かした。
「俺はドレイクだ。縁がありゃあまた会えるだろ、もちろん敵同士でないことを望みたいもんだが」
「同感です」

 まったく感慨を見せずアイレイドの仕掛け罠を避けていくドレイクの背中を見送ってから、ちびのノルドも先へ進むことにした。



 ドレイクが来た道を辿ると、そこには漆黒のローブを着た男の死体があった。祭壇の上で、両断された肉体が照明に晒されている。
 まだ肉体が温かいところを見ると、この死体はドレイクがこさえたものに間違いなさそうだった。どういった経緯で交戦に至ったのかは定かではないが…それにしても鮮やかな手並みだ。杖を抜く間もなく両断されている。傷の入り具合からいって、不意打ちをかけたわけでもなさそうである。
 男のローブに刺繍された骸骨の紋様は、着用者が死霊術師であることを意味するものだ。
 現在タムリエルにおいて死霊術は外法として扱われ、死霊術師は魔術師ギルドから追放処分を受けている。もちろんギルド以外のあらゆる組織からも追求を受けており、その信奉者や研究は地下に潜っているというのが内情だった。
 どうやらこの男、ジャルバートというらしい、名前などどうでもいいが…彼はレッドガードの故郷であるハンマーフェルから死霊術師という生業ゆえの訴追を免れるためこの地まで逃亡してきたらしい。
 ジャルバートの手記には、故郷の友人に向けたらしいメッセージが読み取れる。
「…死人の自分語りなど、見たくもない」
 ちびのノルドは嫌悪感を顕わにしながらも、ジャルバートの手記を手にする。これがあれば遺跡のオカルト騒ぎの原因が何か、野盗を生け贄にスケルトンを使役していたのが誰かが白日のもとに晒されるはずだ。
 遠来の旅人の亡骸を一瞥すると、ちびのノルドは出口に向かって歩きはじめた。
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