主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2016/01/17 (Sun)06:44
「こんなところにタロスの祠が…忌々しいな。ぶっ壊してやろうか」
ギャロウズ・ロック砦南西。
山賊退治を兼ねたパトロールの最中にトレーズが見つけたのは、人里離れた閑静な地でひっそりと供物が奉げられたタロスの神像だった。
もとよりスカイリムでのタロス信仰を完全に排除するためアルドメリ軍より派遣されたトレーズとしては、こんなものを黙って放置しておくわけにはいかなかったが、しばらく考えたのち、この場所には手をつけず放っておくことに決めた。
トレーズより先にスカイリムへ入り込んでいるサルモールの実行部隊が、タロス像の位置を把握していないとは考え難い。おそらくは、タロス信者を待ち伏せて狩るためにあえて残してあるのだ。
短時間であるとはいえ入隊初期に諜報部に所属していたトレーズは直感的にそう考え至り、タロス像に背を向けた。
「でもまあ、万が一ということもある…このことは覚えておいて、あとで大使館にでも行ったときに報告しておこう」
現在のトレーズは、ホワイトランを拠点に活動している。
ときおり山賊退治の際に得た戦利品を換金するため、商店に立ち寄ることもあるのだが…
「なんでも売るぞ友よ!なんでもだ!あいにく身内は全員売っちまったあとだけどな!」
「…なんで、こんなやつがこの時代まで残ってるんだろう」
トレーズが苦言を呈したのは、なにも雑貨店の主人ベレソアの下品な態度に対してではない。
ベレソアはブレトンだ。魔法にその才能を強く発揮するハイロック出身の人間族だが、トレーズはブレトンがアイレイドとネディック人の交配種であることについて、どうしても納得がいかなかった。
いわば支配種と奴隷の間に授かった子の末裔であり、トレーズの美的感覚から言えば、主人と奴隷の交わりなど獣姦も同然のおぞましい行為だ。
いっときの過ちであるというのなら、まだ理解できる。
しかしこのブレトンという種はハイロック地方一帯を支配する一大勢力を持つまでになり、その数は決して少なくない。
なぜそこまで繁栄できたのか?どうやってそこまで数を増やしたのか?その繁殖の実態は?こいつらはネズミか何かか?アイレイドも、ネディック人も、なぜこんな異様な混血種を絶やさず生かしておいたのか?
まさか主人と奴隷の愛などというものがあったとは思えないが…亡き先祖の成果を目前に、トレーズは思わずこめかみを揉んだ。
このブレトンという種の動向については、不透明な部分が多い。すくなくともアイレイド滅亡に先駆けてアレッシアやネディック人に加担した記録はないし、ある意味では遠縁と言って差し支えないので、トレーズが剣の切っ先を向ける相手でないことは確かだ。
「しかし…」
ベレソアの野卑な笑みを見つめ、この男にも自分と同じアイレイドーン(アイレイド人)の血が流れていることを考え、トレーズは大きなため息をついた。
「…らぁッ!!」
ドシュッ!
断崖の上に橋渡しされた巨木の上で、弓を射かける山賊の懐へ飛び込み首を斬り落とす。
足場から転がり落ちた山賊の死体はかなり長い間自由落下したのち、急流に呑まれていった。
「フーッ…」
戦利品はフイになったが、こんな場所では身の安全を最優先すべきなのは言うまでもない。
幼少より狩人として躾けられたトレーズにとって、悪路での活動はそれほど難しいものではない。娘を厳しく教育しながらも、しかし自身に流れる祖先の血については執着がなかった両親のことを考え、トレーズは束の間ノスタルジアに浸った。
天候が不安定で変わりやすいスカイリムの地。
雪が吹きすさぶなか、山の中でキャンプを張ったトレーズは、サラーシュ(ヴァレンウッドに逃げ延びたアイレイドゥーン)の末裔たる両親について考えた。
祖先のために何かをすることこそなかったが、それでも、両親はアイレイドの血が流れていることをまったく意識していなかったわけではない、というのをトレーズは知っている。
かつて偉大な文明を築きあげたリンダイの王家を護る騎士の家系にあることを、両親はたしかに誇りに思っていたはずだ。それはヴァレンウッドにおいて、弓ではなく剣を使って狩りをしていたことからもわかる。
祖先の代より伝わる、リンダイ騎士流剣術。
たんに祖先へ尽くす機会がなかっただけなのだろう、とトレーズは思う。ある意味では、自分は運が良かったのかもしれない、とも。
アリノールによるヴァレンウッド侵攻、ドミニオン(アルドメリ同盟)の復活と、帝国の弱体化。
アルトマーによるタムリエル再支配がにわかに真実味を帯びた矢先に、かつての祖先の装備を身につけアルドメリ軍の徴兵施設へ向かうトレーズを、両親は何も言わず、黙って見送った。
そのときの両親の表情を、トレーズはどうしても思い出すことができない。
スカイリムでの活動中に出くわす難敵は、山賊だけではない。
「厄介な敵だな…ウィスプマザー!」
マシンガンのように発射される氷柱の連弾を剣で叩き落とし、トレーズは目前に迫る異形の物体を睨みつけた。
布を纏った女性のような外観であるウィスプマザーは、その正体が謎に包まれている。
ウィスプを伴って行動することから、ウィスプの親玉的存在と一般的には認知されているが、そもそもウィスプと種族的な繋がりはあるのか、たまたま一緒にいるところを目撃されているに過ぎないのかは誰にも証明できなかった。
よく見ると、非常に人間的なフォルムをしているのだが…
「バケモノの正体なぞどうでもいいが、えらく不機嫌そうなキレ顔だな!」
えらく不機嫌そうなキレ顔
その後、苦労しながらもトレーズはウィスプマザーを撃破。
「寒冷地にのみ出没すると思っていたが、こんな日照時の山の中で出てくるとはな…幽霊の類ではないのか?」
もっともタムリエルの霊体は夜にのみ出没するとは限らない。
その後、日没間際に立ち寄ったイヴァルステッドの村にて一夜を凌ぐ。
「アルトワインをお願い。ハチミツ酒なんて下品なもの飲ませないでよね」
鎧を脱ぐとただの小娘と変わらない容姿となるトレーズの不遜な注文に、宿の主人ウィルヘルムは当然良い顔をしなかった。
しかし部屋を貸す契約を交わし、次に部屋を出てくるまでの鎧姿を見ており、且つノルドに敵対的なアルトマーという点からトレーズをサルモールの一員だと判断した彼は、文句を飲みこみ黙ってアルトワインの瓶を差し出した。
サルモールを恐れるわけではないが、ここで無用のトラブルを起こす必要はない。
一方のトレーズはといえば、下品と言いながらハチミツ酒そのものを嫌っているわけではなかった。
ただハチミツ酒というのは、一般的に「ノルドの飲み物」という印象が非常に強い。
その一点が、トレーズにとっては許し難いものであり、味が嫌いなわけではない(むしろ好みに近い)にも関わらず、「口にすることすら憚られるもの」として認識されていた。
翌日…
「貴様、自らがドラゴンボーンだと吹聴して回っているらしいな」
ヴァイルマイヤーの宿を出たトレーズの前に、奇妙な服装の二人組が立ちはだかった。
自分が認識している事実といささか異なることを口走る男たちに、トレーズは若干呆れながら言った。
「衛兵の口伝でも真に受けたか?西の監視塔での話だな…たしかにドラゴンを倒したのは私だが、ドラゴンボーンなぞという得体の知れんものではない。不愉快だぞ貴様ら」
まったく、すこしでも目立ったことをすると、こういう面倒な輩が群がってくる。
付き合ってられん、と手を振って立ち去ろうとするトレーズを、男たちは逃がそうとしなかった。
「貴様がドラゴンボーンを騙り庶民を煽動していることはわかっている!この詐欺師め、真のドラゴンボーン復活を前にその心臓をえぐり出してくれる!」
そう叫ぶと、男たちは魔法のシールドを張り、デイドラを従えたうえで、短剣を抜いて襲いかかってきた。
その行動はトレーズをキレさせるには充分だった。
「ぶち殺されたいか貴様ら!!」
朝っぱらから妙な言いがかりつけられて襲われたら誰だってキレる。
繰り出される魔法をものともせず男たちを両断したトレーズは、死体から奇妙なマスクを外し、その正体を誰何した。
「ダンマーとノルドのコンビか。種族的な因縁ではなさそうだな…」
死体を探り、手紙を探りあてたトレーズは、彼らがミラークなる者の手によってソルスセイムから派遣された刺客であることを知る。標的たるトレーズを名指しで指定した手紙を握り潰し、トレーズは不愉快そうにつぶやいた。
「闇の一党といい、ミラークといい、余計な連中ばかり絡んでくるな。ソルスセイム島…レッドマウンテンの噴火で流出した難民の収容所だな。鉱山資源が枯渇して価値を失ったと思っていたが、こんな妙な連中がはびこっていたとは…もっとも、いまはそんな僻地に様子を見に行く暇なぞないが」
トレーズはヴァレンウッドとの繋がりが薄く、ソルスセイムにまつわる事情をほとんど知らない。
その知識の多くは本で得た内容のうろ覚えか、大戦中に同僚の伝聞で知ったものばかりで、いずれも信憑性は薄かった。
「火の粉は払う、が、いまはそれ以上に手の打ちようがないな」
もし刺客たちが本当にソルスセイムからやって来たのであれば、情報が伝わるのが早すぎるし、なにより、トレーズをドラゴンボーンと断定して襲撃を仕掛けてきたことも気にかかる。
ひょっとしたらストームクロークの姦計か、などと考えながら、トレーズは死体の始末を衛兵に頼み、イヴァルステッドを発った。
その日の夜、護衛を引き連れ街道を行くサルモールの審問官を発見したトレーズは接触を図る。
「公務の邪魔だ、とっとと失せろ!」
近づいた瞬間に護衛に追い払われかけ、トレーズは兜を脱いで顔を見せた。
「同胞にはもうすこし愛想を良くしてもバチは当たらんと思うぞ」
「何者だ?貴様…」
「トレーズ・ミドウィッチ、センチュリオンだ。帝国軍を支援しストームクロークを排除するための特使として派遣された」
「貴様のことは大使館から聞いていないぞ」
「挨拶が遅れたものでな」
「まあいい、貴様が何者であろうと…センチュリオンだと?戦場(いくさば)でどれだけ軍功を挙げたか知らんが、スカイリムでの活動は我々諜報部の領分だ。軍属が余計な口出しをするな」
「互いに協力し合えると思ったんだが?」
「無用。よく考えることだな、貴様の行動は我々の作戦に悪影響を与えるぞ。帝国に協力だと?なんの冗談だ、それは…そうか、ドラゴンを倒したアルトマーの騎士とは貴様のことか?いったい、なんのつもりだ」
「仮にストームクロークが帝国軍を排除しスカイリムが独立したとして、我々がふたたび帝国と剣を交えたとき、ノルドの連中が不介入を貫くなど有り得ない…次は自分の番とわかっているからな。むしろ帝国の兵を北方に分散させ、兵力を集中させないほうが今後は有利になる。それに現状では帝国傘下のほうがおまえたちも活動しやすいのではないか?いまのうちに工作網を展開し、スカイリムが独立できぬまま政情不安を抱えた状態で戦争に持ち込めれば、補給線の襲撃や諜報活動も容易いのではないかね。万が一にでもストームクロークによるスカイリム独立を許せば、連中は草の根分けても我々を狩り出しにかかるぞ」
「だからといって内戦の早期終結を望む言い訳にはならん。貴様らはタロス信仰が気に喰わぬだけであろうが…!それに、誰も貴様の政治的意見など聞いてはおらん」
「しかしだな…」
「話はもう終わった」
それだけ言うと、審問官はトレーズが最初からそこにいなかったように振る舞い、彼女の存在を無視して立ち去ってしまった。
彼らの縄張りに勝手に入った手前、諸手で歓迎されることはないと思っていたトレーズだったが、ここまで敵意を剥き出しにされるとは思っていなかったので、すこし動揺していた。
アルドメリ軍へ入隊してから大戦が勃発するまでの僅かの間、トレーズは諜報部と協力して「ある特殊作戦」に参加していたことがある。しかし彼らとの関わりはそれっきりで、そもそも軍部とはあまり折り合いが良くなかったという話を聞いたことはあったが、いまそれを実感として理解したことになる。
「…まあ、いいか」
上官からは前もって、現地で活動する諜報部の存在を知らされてはいたが、彼らと連携しろとは言われていない。
あっちがああいう態度を取るなら、こっちも好きなようにやらせてもらうか。
そう考え、トレーズは審問官たちが行ったのとは別の道を歩きはじめた。
>>to be continued...
どうも、グレアムです。
日記と銘打ちながらもうほとんど創作ですよ。タイトル誤ったなこれ。最初はこういう予定ではなかったんですけどね…
あと最近、Steamで発売されたアーリーアクセス・タイトル「Slime Rancher」をはじめました。スライムかわいい。ちょおかわいい。めっちゃ癒される。もう血生臭い世界とオサラバしてずっとスライムと戯れていたいと思ったんですが、気づくとSkyrimを起動して山賊の首狩ってるんだよなあ。
これが別腹というヤツなんだろうか。
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