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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)03:45
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2013/05/15 (Wed)04:01
 TES4SS用の画面写真を撮影中に発生したハプニングを収めた画像、及び未使用画像や合成の過程で使用された画像などを紹介していこうというこの。

  **  **  **

#1 ドレイク編8話より。



 セリドゥア邸にて、物凄い形相のまま固まってしまったセリドゥア。
 最初はドレイクと一緒に酒を飲んでいるショットを撮影したくて色々と試していたのだが、シロディールにワイングラスは死ぬほど似合わないことを確認。かといってジョッキやマグも貴族的なイメージには合わず、最終的に本を読んでいるという無難なポーズで落ち着くことに。
 杯でそれっぽいポーズがあれば良かったんだけどね…

  **  **  **

#2 リア編7話より。



 ギルバートとの出会い、リアとペアルックで。
 NPCを椅子に座らせるコマンドが存在しないため、プレイヤーがギルバート(と同じ顔のキャラ)を操作することで解決するという非常に荒っぽい方法を使ったのだが、Import Faceでギルバートの顔を複製してからデータをロードしたところ、当然ながら直前までリアだったプレイヤーはリアの服装をしているギルバートを操作することに。
 その後、本物のギルバートの不死属性を外して殺害、装備を剥ぎ取ってギルバートになりすますことで写真撮影を完遂した。ちなみにリアは事前に複製したプレイヤーのコピー。

  **  **  **

#3 リア編8話より。



 リア視点でオーガを見た画像の左上に表示されていたもの。
 最初はこれ単体で使用するつもりだったのだが、これだけだとさすがに何がなんだかわからないので、ああいう形に落ち着いた。これを作るだけで相当時間がかかったのだが…コンソールでワイヤーフレーム表示にした画像を加工したのだが、こういう風に作るのに物凄く手間がかかった。



 これが合成前の写真…と言いたいところだが、既に腹の傷を合成で加工してある。オリジナルはもう存在していないため、これが一番素に近い状態のものである。
 ちなみに劇中に登場したオーガは、SetScaleで大きさを2倍にしてある。オブリビオンに足りないのは巨大モンスター成分だと思うんだ…続編で解決されたみたいだけど。



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2013/05/13 (Mon)13:15
 この大陸にいると平和ボケしそうだな、とブラック17は幾度考えたか知れないことを繰り返し頭の中で反芻した。
 笑顔で道を行き交う人々、活気のある街。
 存在そのものを知らぬではないが、自分には決して縁のなかった世界。
 もしこのまま、光射す世界に飛び込んでいけたなら。人を殺さなくても、生きることが許される世界に留まることができたなら。
 もし自分がこの地で姿を消したら、<黒の里>は追跡してくるだろうか……
 そんなことをぼんやり考えていたとき、不意に何者かがブラック17の肩を叩いた。



「油断し過ぎよ、17。もしあたしが刺客だったら、死んでたかもしれないわよ?」
「殺気がなかった…っていうのは、あなた達相手には言い訳にならないわね」
 いたずらっぽく笑うアントワネッタ・マリーに、ブラック17は複雑な表情を浮かべながら答えた。
 アントワネッタは<ダーク・ブラザーフッド>の暗殺者で、ブラック17がシェイディンハルの聖域に来て最初に請け負った任務…帝都港湾地区に係留されていた海賊船<マリー・エレーナ号>の船長ガストン・タッソーの暗殺…に同行したこともある。
 明るく朗らかな態度から、彼女が暗殺者であるなどとはおよそ信じ難いのだが、アントワネッタは任務のときも平常時とまったく態度を変えず、笑いながら、楽しそうに人を殺すのだ。
 これはなにも、アントワネッタだけが特異なわけではない。
 シェイディンハルのダーク・ブラザーフットのメンバー全員がそんな感じなのだ。たんなる遊びの延長線上だとでも思っているのか、おかげで殺気を全く感じ取ることができない。
 ある種の異常人格者には違いないが、その異常な部分が暗殺者として活動するぶんには良いほうに作用しているので、その点に関してけちをつけるのは野暮というものだ。なによりも、そういった特性を活かせるのは、暗殺者としては称賛されて然るべきことだ。
 異常、か…殺人を楽しむことを異常と認識するのであれば、では自分はどうだというのだ?
 かつてはブラック17も殺傷行為に快感を見出していたのではなかったか。以前はそのことに疑問すら抱かなかったというのに…最近の自分は、どうかしている。
「どうかした?近くに敵でもいる?」
「…いえ。思い過ごしよ」
 そこは「なにか考えごとでもしているのか」と訊ねるところではないのか、などと思いながら、ブラック17は生返事をした。
 そんなブラック17の態度にアントワネッタは気分を害することもなく(たぶん、そのことについて彼女に問えば「17がああなのはいつもの通りだし、女性はミステリアスなほうが魅力的に写るものよ?」などという答えが返ってくるだろう)、事務的な口調で語りだした。
「あなたをここに呼び出したのは、ヴィセンテから伝言を頼まれたからよ。帝都に始末してもらいたい標的がいて、一番近くにいたのがわたしとあなただったってわけ」
「それじゃあ、今回のお目付け役はあなた?」
「いいえ。わたしは別件ですぐに移動しなきゃいけないから、今回は、目付け役はなし」
 そう言って、アントワネッタは微笑んだ。
 これは喜ぶべきか…ブラック17は思案した。黒の里にいた頃は単独作戦しかしてこなかったから、本領を発揮できるといえばそうだ。しかし未だシロディールの世情に聡くないこともあり(残念ながら聖域での生活は、シロディールでの見聞を広める役には立っていない)、そういう点では若干の不安もある。
「それで、標的は?」
「標的はファエリアンっていうアルトマー(ハイエルフ)の男よ。それと、目立たないよう事故に見せかけて殺して」
「ハァ。ここに来てから、こそこそした殺ししかしてない気がするわ」
「文句言わないの、これは本部からの勅命でもあるんだから。最近、帝都ではダーク・ブラザーフッドの正体を探ろうと躍起になってる勢力がいるらしくてね。規模はまだ小さいようだけど、侮れないわ」
「もしかして帝都の衛兵?彼ら、盗賊ギルドの検挙に人員の大多数を割いてるって聞いたけど。けっこう、どっちつかずなことをするのね」
「それはヒエロニムス・レックスのほうね、衛兵隊長の。ダーク・ブラザーフッドを追ってるのは、もっと上のほう…アダマス・フィリダの直属の部下達よ。最近、黒馬新聞が<ナイト・マザー>の儀式について取り上げたでしょう?あれがカンに触ったらしくてね」
 ナイト・マザー(夜母)とはダーク・ブラザーフッドが闇の神シシスに次いで崇拝する存在で、その正体について知る者は誰もいない。ナイト・マザーの儀式とは、誰かに恨みを持つ者がダーク・ブラザーフッドに任務を依頼したいときに行なうものだ。まあ、俗悪新聞の書いたものだから、信憑性はないと思っていいだろう。
 それにしても、ダーク・ブラザーフッドを追求する動きがある、というのは気にかかる。こちらは大衆メディアの書き連ねたエンターテイメントではなく、現実的な脅威だからだ。
「アダマス・フィリダって、帝都軍の総司令官じゃなかった?どうしてそんな暇なことをするのかしら」
「べつにほら、あれよ?『住民の安全を脅かす不埒者に正義の鉄槌を!』みたいな善意で動いてるわけじゃなさそうよ?最近、皇帝ユリエル・セプティムとその一族が暗殺されて、その嫌疑がわたし達にかけられてるっていうのもあるし。それとは別に、この不安定な情勢でテロが起きることを恐れてるみたい」
「テロねぇ…」
「おおかた、わたし達が他国からテロ行為を依頼される可能性がある…とでも考えてるんでしょうよ」
 そう言って、アントワネッタは鼻を鳴らした。
 もし実際にそういう依頼があった場合、ダーク・ブラザーフッドは動くのか…ブラック17は、あえてその質問はしなかった。おそらくアントワネッタはイエスともノーとも言わないだろう。
 ダーク・ブラザーフッドの行動の指針のすべては宗教的観念から定められている。もしテロ行為を示唆されたとして、それがシシスの意に沿うものであれば良し、依頼者の意図などは関係ない、そういう組織だ。
「それじゃあ…今回は標的に関する情報が少ないから、難儀すると思うけど、頑張ってね。それと」
「なにかしら?」
「あなた、そういう格好のほうが似合ってるわよ」
「馬鹿にしてるの?」
「まさか」



 アントワネッタはとびきり人懐こい笑みを浮かべて言った。
「本心からよ。それじゃあね、17」
 普段着ている暗殺装束とは違う、青いドレスの裾を翻して、アントワネッタはブラック17の前から立ち去った。
 その後ろ姿を見つめながら、ブラック17はつぶやく。
「…どうも苦手なのよねぇ、あの娘」

  **  **  **

 ブルーマからの帰り道、帝都に立ち寄ったところでアントワネッタに会ったのはほとんど偶然だった。いや、アントワネッタは「ヴィセンテから手配された」と言っていたので、実際は偶然ではないわけだが。
 往来で任務の伝達、などというのはできれば願い下げだったが、人通りの多さをカムフラージュとして利用するのは諜報の世界ではごく当たり前の行為だ。
 しかし自分は殺し屋であってスパイではない。それにつけ加えて、探偵の真似事まで……
「腹に据えかねるわ」
 そんなことを言いながら、もしブラック16が自分のこの現状を目にしたらなんとコメントするだろうか、などと考えた。
 ともあれ、任務を与えられた以上は、それに専念しなければなるまい。
「標的はアルトマーと言ったっけ」
 アントワネッタから聞いた情報を思い出しながら、ブラック17は帝都のエルフ・ガーデン地区へと向かった。

  **  **  **



「ファエリアンって名前の男、知らないかしら?友達なんだけど、住居のある場所を忘れちゃって」
「さぁて、知らないなぁ。お嬢さん、余所から来たのかい?コロールあたりかな?」
「いえ、シェイディンハルよ」
「オークやダンマー(ダークエルフ)が多いのを除けば良い街だと聞くね。道中に危険はなかったかい?お疲れではないかな?」
「悪いけど、もう宿は別の場所で予約を取ってあるの」
「そいつは残念だ。もし今後帝都に来ることがあったら、そのときは頼むよ」
 率直に言って、エルフ・ガーデン地区での聞き込みは失敗に終わった。
 エルフならエルフ・ガーデン地区、という思い込みがそもそも短絡的だったのかもしれないが、いずれにせよ、調査は空振り。
 エルフ・ガーデン地区のホテル<キング&クイーン>にて、店主と雑談ついでにそれとなく聞いてみたものの芳しい成果は得られなかった。
 苦々しい思いをしつつ、ブラック17は紅茶に口をつける。

  **  **  **

 キング&クイーンで「宿の予約は取ってある」と言ったのは、半分はウソで、半分は本当だ。
 帝都神殿地区に向かいながら、ブラック17はルシエン・ラチャンスと接触したときのことを思い出す。あのときはまさか、自分がこれほど長くダーク・ブラザーフッドと関わることになるとは思っていなかったが。
 そういえば、ブラック16は何を手間取っているのだろう?皇帝一派を襲った謎の暗殺集団に関する調査はまだ終わらないのか?
 かすかに苛立ちを覚えながら、ブラック17は以前宿泊したことがある<タイバー・セプティム・ホテル>の扉を開いた。宿泊料金は高いが、設備が整っていて、なにより清潔だ。ブラック17は、この場所が気に入っていた。
「いらっしゃい…あら、またお会いしましたね。今日もまたお忍びで?」
「まあ、そんなところかしらね」
 無難な返事をしながら、自分の顔を憶えられていたことに多少の不満を感じたが、まあ、それは仕方がない。
 金貨を支払い、鍵を受け取りながら、ブラック17は駄目もとでオーナーのオーガスタに訊ねてみた。
「ところで、ファエリアンという名前をご存じないかしら?知り合いなのだけれど」
「ファエリアン…アルトマーのファエリアン?」
「ええ。たぶん、そのファエリアン」
 ファエリアン、と名前を聞いた瞬間、それまで穏やかだったオーガスタの眉間に皺が寄る。
 あなた、あんなヤツの知り合いなの?今にもそう言い出しかねない表情だ。
 どうやら偶然アタリを引いたらしい、そう思いながらも、あまり好ましからざる雰囲気を察すると、ブラック17は慎重に言葉を選んで質問した。
「いえ、幼少の頃にちょっと関わりがあって。帝都に住んでいると聞いたので、一応挨拶だけでも、と」
「幼少?そういえば、あなたは貴族でしたね。ファエリアンも元は裕福な貴族の生まれだと聞いています、もしかしたらその関係で?」
「ええ。親同士の付き合いだったので、わたし達自身は別にどうということもなかったのだけれど」
 どうやら以前ついた嘘を未だに信じているらしい、オーガスタの見当外れな解釈にブラック17は便乗することにした。
「何かあったの?」
「あまり聞かないほうが良いと思いますわ。なんというか、その」
「構いませんわ、どんな事情があろうと。どのみち手ぶらでは帰れませんし、事情を知っている方がいるなら、前もって彼の現状を聞いておきたいですし」
「そうですか」
 ブラック17の言葉に、オーガスタは折れたようだった。
 しかし、元貴族…に、悪い噂がついているとなれば、犯罪組織と関わりでも持ったか?世間知らずのお坊ちゃんにはありがちな末路だが……



「あの男は、麻薬に溺れてしまったんです。スクゥーマに。カジートどもが持ち込んだ、あの忌々しいクスリ、あれはファエリアンの人格を破壊してしまいました。いまではスクゥーマのことしか感心になく、日中は夢遊病者のように帝都をふらついています」
「麻薬、ね。それで、寝ても醒めても外をふらついてるわけではないのでしょう?普段はどこで寝泊りをしているか、ご存知ないかしら?」
「普段はこのホテルの2階に住んでいます。愛人のアトレーナとともに…アトレーナ、可哀相な娘。ファエリアンのために、宿泊費も、食事代も、なにもかもあの娘が用意しているのですわ。かつての凛々しい恋人の姿を見たいがために、ファエリアンがいつか更生してくれることを望んで」
「…ありがとう」
 それだけ言うと、ブラック17は自分が借りた部屋(奇しくもファエリアンの恋人アトレーナが借りている部屋の隣)に向かった。
 自分がなんとかする、だから心配はいらない。
 そう言いかけたのを、寸でのところで飲み込んだ。
 これからファエリアンを殺そうというのに、余計なことを言って怪しまれたくはなかった。

  **  **  **

 その日の夜。
『ああ、ファエリアン、ファエリアン。あなたは、どうしてもわたくしの言うことを聞いてはくれないのですか?』
『うるっせえな、いつもいつも小言ばかり。それより、金はどうしたんだよ……』
『そのお金を、いったい何に使うおつもりなのです?』
『金がいるんだよ……』



「およそ会話になってないわね」
 壁越しに恋人たちの会話を盗聴しながら、ブラック17は嘲笑した。
 今回の任務は、事故に見せかける必要がある。つまり、ダーク・ブラザーフッドの関与を匂わせるような痕跡は残してはならないということ。
「思うにあの恋人たち、いつ関係が破綻してもおかしくはないわね」
 そう言って、ブラック17は立ち上がった。
 ファエリアンが部屋の扉を開けた音を聞くと同時に眼帯を外し、赤黒く光る義眼を露出させる。
 <シルヴィアの魔眼>…これは、そう呼ばれていた。
 かつてマリーエン・インダストリーが捕獲したが、護衛していたスペツナズともども護送中のキャラバンごと壊滅させて逃亡した女シルヴィア・シルクスターの右目を機械的に模したものだ。
 モノ自体はオリジナルの劣化コピーでしかないが、それでも強力なパーツであることに変わりはない。



 ブラック17は意識を集中させ、義眼と右腕のキャスト・デバイス・ユニットをシンクロさせる。
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト・レディ。オプティカル・ユニット認識、エネルギー・リソースと回路を直結します』
「空間制御。ドミネーター・ホール展開」
『ラン』
 キャスト・デバイス・ユニットの駆動音とともに、周囲の空間が歪み、蝋燭のゆらめきが止まる。
 これこそが、シルヴィアの魔眼の真価。それはAR表示でも暗視能力でもない、限定された空間内の時間の流れを遅くする能力。
 ブラック17は素早く部屋から飛び出し、アトレーナの部屋から出ようとするファエリアンを素早く取り押さえる。スローモーションで瞬きするファエリアンの首を掴んだまま、ブラック17は彼をベッドで泣き伏せるアトレーナに向けて放り出した。
 おそらくその様子を、魔眼の影響範囲外から観察していれば、ブラック17が人間離れしたスピードで2人を襲っているように見えたかもしれない。しかしこの限定的な閉鎖空間で、彼女の所業を目にするような第三者は存在していなかった。
 驚く間もなく、悲鳴を上げる余裕もないまま硬直する2人の腰に下がっていたショートソードを抜き、ブラック17は凶器を振り上げる。ファエリアンの首を切り裂き、アトレーナの心臓にショートソードの刃を突き立てた。



 ブラック17はアトレーナの部屋の扉を閉め、自室に戻る。
 これが、ほんの2~3秒の間に起きた出来事だった。
『ドミネーター・ホール収縮、空間制御解除。クール・ダウン開始、オプティカル・ユニットとの接続を解除します。通常待機モードに移行、リターン・ゼロ』
「…… ……ッ!」
 突然の激痛にブラック17は顔をしかめ、魔眼を手で覆う。目元から、大量の血の涙が溢れていた。
「…こんな短い時間しか使ってないのに、もうバックファイアが起きるなんてね」
 これだから模造品は、とため息をつく。
 オリジナルはもっと広い範囲を、もっと長い時間、もっと時の流れを遅くすることができると聞く。実際に対峙したことはないが、重武装したマリーエン・インダストリーの精鋭を魔法も使わず瞬時に叩き潰したというのだから、恐らくは本当なのだろう。
「まあ、いいわ」
 血を拭いながら、ブラック17はさっきの殺しについて考えてみた。
 このホテルのオーナーのオーガスタか、あるいは衛兵が現場を見れば状況はすぐに認識できるだろう。
 わけありの恋人たちが、互いの武器で互いを殺傷。
 心中…無理心中か、あるいは意見の対立がもとで殺し合いにまで発展したか。愛憎の果てに悲しい結末を迎えた悲劇の恋人たち、おそらくはそんなふうに考えるはずだ。
 ともかく、殺し屋が2人の死を偽装したとは考えまい。それこそ回りくどい思考というものであり、ブラック17は証拠を何一つ残していない以上、真相に近い答えを見出したとしても、それはたんなるパラノイアだ。
 あとは自分が一般人らしく適当に振舞えばいい。
 そう思いながらも、ブラック17はどこか釈然としないわだかまりを抱いたまま、ベッドに倒れこんだ。

  **  **  **

 帝都での任務を終えたブラック17は、そのままシェイディンハルには戻らずインペリアル・ブリッジの傍らに佇んでいた。暗闇に染まった川の流れを眺めながら、エルフの恋人たちを殺したことについて考える。



 本来アトレーナは殺す必要のない人間だが、暗殺を偽装するうえで利用できる格好の存在であったことは確かだ。
 だが、殺す直前…刃を突き立てる直前、彼女の瞳を真っ向から捉え、ブラック17の決意は揺らいだ。
 それでも殺す手を止めなかったのは、長年の訓練と経験が本能として染みついていたからに他ならない。一度殺すと決めた相手は殺す、これは当たり前のことだ。
 だが今となっては、ファエリアンを殺すためにアトレーナまで巻き添えにする必要があったのかどうか、他に手はなかったのか、ブラック17にはわからなくなっていた。
 この男はもう救えない、待っていたって時間が無駄に過ぎるだけ、なにも解決しない。もうこんな奴のことは忘れて、新しい人生を…彼女を殺す直前に、そんな台詞が、喉から出かかった。実際は口よりも手のほうが早かったわけだが。
 こんな感情を抱くのははじめてだった。
 彼女が殺す必要のない一般人だったから?それとも、彼女の境遇に同情の念を抱いてしまったから?
「くだらない」
 思わず、口に出してそう呟く。
 良くない感傷に取り憑かれている、それは自分でもわかっている。
 たぶん、今の環境のせいだ…シロディール、平和な世界。しかし、本当にそうだろうか?
 もしシロディールが本当に自分が考えているような平和な世界なら、なぜ自分はここにいて、相変わらず人を殺しているのだ?罪もない家族を利己的な理由で犠牲にした男がのうのうと生きれる世界が本当に平和なのか?
 そもそも、もし自分が2人を殺していなかったら、あるいは自分がこの大陸に来てすらいなかったら、誰も死なずに済んだのか?否、他の誰かが自分の代わりに暗殺を遂行していた…それだけのことに過ぎないのだ。
 おそらくは、いままで自分が見ようともしていなかった、光射す世界の姿を目の当たりにしたから気が動転しているだけなのだろう…そう、ブラック17は考えた。
 いままで自分が身を置いていた環境が異常だっただけで、自分が元いた世界も、実際はシロディールに比べて格別に凄惨で残酷な場所だったわけではないのだろう。
 だが、自分がいままで見ようともしなかったものでさえ、一度目にしてしまうと、忘れるのは難しい。
 光射す普通の世界。誰かを殺さなくても生きていける世界。
 そのとき、ブラック17は本能的な恐怖を感じた。
 もし、自分が殺人をためらうようになったら。人を殺すとき、快楽ではなく恐怖を感じるようになったら。そう、今日のように。人を殺すという行為そのものに疑問を抱いた、今日という日のように。
 そのとき、自分はいまの境遇にどう向き合っていけばいいのだろう……




2013/05/09 (Thu)05:14
「先日はお見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」
「まったくじゃ。ワシはかれこれ3000年近く生きておるが、男性器なぞ見たのはほんの数回じゃぞ」



 グレイ・メア亭での全裸騒ぎから数日後、ジェメイン兄弟宅にて。
 リアの計らいでどうにか監獄行きを免れたレイナルドとギルバートに呼ばれ、リアはコロールのレイナルドの家に立ち寄っていた。あちこちにアルコールの空瓶が散乱し、お世辞にも整頓されているとは言い難い部屋を眺め回し、リアが口を開く。
「で、わしに頼みとはなんじゃ?」
「じつは、僕達兄弟の生家…ウェザーレアという場所なのですが、近々そこに住居を移したいと考えているんですよ」
 話すのはもっぱら弟のギルバートの役割だ。
 兄のレイナルドはというと、先日あんな事件を起こしたばかりだというのに、相変わらず飲んでばかりいる。ダメ人間ぶりではオディール家の家長に引けを取らないのではないだろうか。
「あれー?さっき、ここに飲みかけのビールを置いといたはず…」
「さっき飲んで捨てたろうが。ともかく、なんじゃ。頼み、ちうのは引っ越しの手伝いか?」
「いえ、そうではなく」
 そう言って、ギルバートは手を振る。
 なにやら特殊な事情がありそうだが、しばらくギルバートは黙ったままだった。やがて意を決したように顔を上げると、ギルバートは自分達兄弟の過去についてリアに打ち明けた。
「じつはウェザーレアは、オーガの襲撃を受けて壊滅しているんです。そのときに母はレイナルドを、父は僕を連れて逃げました。その後僕は父に、母と弟は死んだと聞かされ…実際は違ったわけですが…現在に至るわけです」
「おれも昔のこたぁサッパリ憶えてねンだよなぁ…気がついたら修道院に引き取られててさ。いままで家族がいたなんて考えたこともなかったよ」
「貴様、修道院育ちでその酒癖の悪さか。コロールの修道院、ちうとウェイノン修道院か?」
「そう、そのウェノイン修道院」
「間違えとる間違えとる。ジョフリがいるところではないか、あの年寄りはいったいどんな教育をしておるんだ」
「まあまあ」
 若干話が脱線しかけたところで、ギルバートが軌道修正する。
「ともかく、そのウェザーレアは今もオーガの棲家になっている可能性があるんだ。だから、凄腕の戦士たる君に様子を見に行ってもらいたいんだけど」
「凄腕の戦士…そこでそんな評判を聞いた?」
「オディールさんから。ゴブリンの集団を殲滅したって」
「あのジジイ…まあ、いいわい。若者の頼みは断れんからのー」
 そう言って、よいしょ、リアは腰を上げた。
 出て行こうとするリアに、ギルバートが後ろから声を上げる。
「様子を見に行くだけでいいからね。別に倒す必要はないから、危ないからさ」

  **  **  **

「ありゃあ、まだわしのことを信用しておらんな」
『そりゃあ実際に戦っている現場でも見なければ、あなたの容姿で戦士と言われても信用しないでしょう』
「なら、こんないたいけな少女を危険な場所に向かわせようとも考えんのではないかなー、普通は」
『そのあたりは、なんとも。シロディールの人間は、我々とは価値観が異なるみたいですし』
 コロールを出立したリアは、思考支援AI<TES-4>…通称フォースを相手に小言を漏らしていた。
 ギルバートに渡された地図を眺め、視覚情報を画像データとして保存する。こうすれば、いつでも実際に地図を取り出すことなく内容を確認することができるだろう。
 とはいえ地図はギルバートが幼少の記憶を頼りに書いたものなので、いささか正確性には欠けていたが。
「さて、もたもたしていても仕方がないの。ここはいっちょ、バイクに変身してバァーッと移動するかのー」
『服、脱ぐの忘れないでくださいね』
「お、おう」



 2輪駆動形態に変形すべく、リアはドレスをトランクにしまいこむ。
「しかしこれ、毎回やらねばならんのか?」
『仕方ないでしょう、予備の着替えを持っていないのですから』
「うーむ…」
 不服そうな声を上げてはみるものの、具体的な代案が浮かばない以上、しばらくはこうする他にないだろう。
「そのうち、ちゃんと考えんとのー。それじゃ、頼むぞ」
『了解しました。変形プロセス起動、現在コマンダーの承認待ちです。…レディ?』
「レディ」
 ガッシイイィィィィィンン……!
 リアは2輪駆動形態に変形すると、一路ウェザーレアへと向かった。

  **  **  **

 しばらく走行したのち、リアは視覚センサーに複数の巨大な生命反応を関知してタイヤの動きを止めた。



「あれか?」
『おそらくは。あの廃屋は、過去にジェメイン一家が住んでいたものではないでしょうか』
「随分と荒れとるのー」
『火などを使った形跡はありませんね。単純に、物理的な攻撃による破壊工作が行なわれたようです。破損した壁材の断面を見たところ、攻撃を受けてから20年以上経っているようですね』
「やはり、間違いないようじゃの」
 そう言って、リアはふたたび変形プロセスを起動し2足歩行形態へとシフトした。
 いそいそとトランクからドレスを取り出しながら、フォースに向かって言語シグナルを発信する。
「そういえば、そもそも『オーガとはなんなのか』ちう質問をするのを忘れておったが…どうも、廃屋を取り巻いている連中がそれのようじゃな」
『かなり大きいですね。表皮の硬度、脂肪の厚さからいって、退治するには骨が折れそうです。ギルバート・ジェメインは、退治の必要はないと発言していましたが』
「なにを言うか。あの兄弟を危険に晒すことのほうが心苦しいわい…どれくらいいる?」
『少々お待ちを…環境探査フィールド展開、四方1200m以内のクラスC生命体反応3。いずれも同一種族だと思われます。警戒レベルをイエロー4にセットします』
「3体か。どれ、チィとお仕置きしてやるとするかな」
 着替えを終えたリアは両手にカタールを握り締めると、荒廃したウェザーレアに向かって駆け出した。



「ギィ?」
 巨躯を揺らしながら廃屋の周辺を闊歩するオーガ達が、リアの存在に気付く。
 筋肉の動き、表情の変化から、オーガ達が自分を「敵」と認識したことをリアは理解した。彼らが廃屋を叩き潰すのに使った豪腕を、この小さな身体に向けて振るうことに躊躇はしないだろう、ということも。
「ならば先手を打つまでよ、フンッ!」
 地面を蹴り上げ、およそ人間離れした跳躍力でリアはオーガの懐に飛び込む。
 標的が視界から消えたせいでうろたえているオーガの脇腹に、リアはカタールの刃を深々と突き刺した。思い切り振り抜き、内臓に多大なダメージを与える。
 普通の動物なら苦痛でまともに動けなくなるほどの傷だったが、オーガはリアをジロリと睨みつけると、たいした反応も見せないまま右腕を振るい、リアを薙ぎ払った。
「…!?ぬ、おわっ!」
 巨大な拳の一撃をまともに喰らったリアはそのまま吹っ飛ばされ、木の柵に激突する。そのまま柵は倒壊し、リアはもともと畑だったらしい柔らかな土の上に投げ出された。
「なんじゃ、アイツは…」
 予想外の反撃に驚きながらも、リアはオーガにつけた傷がみるみるうちに塞がっていくのを確認し、驚きに目を見開く。



「なんと、凄まじいスピードで傷が治癒していくぞ!?」
『どうやら彼らは再生能力が異常に発達しているようですね。おそらく、同種の中でも特異な進化を遂げた個体だと思われます。警戒レベルをイエロー4からレッド1に引き上げます』
「チィィィ、厄介な!あの兄弟を連れて来んで正解だったわい、こりゃあ並の人間の手に負えるような相手ではないぞ…魔法でも使えれば別かもしれんが、あの兄弟にそういう力があるようには見えんかったしな」
『おまけに痛覚がかなり鈍いので、身体機能に深刻な障害を与えるレベルのダメージを与えなければ、動きを鈍らせることすらできないでしょうね』
「せめて対物ライフルでもあればのう、簡単にカタがつくのじゃが。この世界はハードウェアが貧弱すぎるわい、なにか良い方法はないのか?」
『そうですね…』
 フォースは一瞬だけ思考に時間を費やしてから、リアの思考プールに情報を流した。
『彼らの身体構造は人間のものと酷似しています。どれだけ治癒速度が早くとも、急所を的確に攻撃すれば殺すことは可能のはず』
「クリティカルな部位を狙えということか、よし!」
 リアは身体中に付着した土くれを払うと、ふたたびオーガに向かって飛び出していった。
 グォオン、力任せに振るわれたオーガの巨大な腕を回避し、リアは自分の倍以上はある化け物に最接近する。
「目に見えるほど治癒速度が早いならば、失血による心停止は期待できんな…ならば!」
「グッ!?」
 リアの素早い動きにオーガが狼狽する。一方で、リアはリアルタイムでオーガの生物的特徴をスキャンし続けていた。
「おそらく、わしが手にしているこのちゃちな刃物では、この生物の骨に傷をつけられまい。無茶をすれば武器のほうが壊れちまうじゃろう、頭部を狙うにしても頭蓋骨は避けねばだめだ。そして脳…脳はクリティカルな部位じゃ、しかし脳ならどこに当てても良いというもんではない、脳の急所ちうモノも存在するのだ。つ・ま・り・はッ!」
 グザッ!!
 トン、トンとオーガの腕を駆け上がったリアは、カタールの刃をオーガの口内に刺し込んだ!
「つまりは頭蓋骨の干渉を受けない口内から、脳幹を刺し貫く!どれだけ痛覚が鈍かろうと、どれだけ優れた再生能力を持っていようと、中枢神経システムが停止すれば生命活動の維持は不可能じゃ!」
 リアがカタールの刃を引き抜くと同時に、RAS(細網活性システム)の許容範囲を超えるダメージを負ったオーガが木偶人形のようにバタンと音を立てて倒れる。すぐに脳の活動も停止し、物言わぬ骸へと成り果てるはずだ。
「「ギオオオォォォォォォッッッ!!」」
 仲間が殺されたことへの怒りか、あるいは人ならざる動きで仲間を葬ったリアへの本能的な恐怖からか、残る2体のオーガが咆哮を上げた!
 地面に沈むオーガの傍らに舞い降りたリアは両手のカタールの刃をかき鳴らし、目前に迫る敵を挑発する。
「どうした、焦る必要はないぞ?どのみち、皆…向かう先は同じじゃ!」
「オォァアアアアアアーーーッ!」
 プレッシャーに耐えかねて突進してきたオーガの首に足をかけ、リアはそいつの両目にカタールの刃を突き刺す。上方向からナナメに、アングル・コンタクト。脳を掻き回してぐしゃぐしゃに引き裂くと、オーガはぴんと爪先を立てたままの姿勢で前のめりに倒れた。
 オーガが倒れる前にひらりと飛び降りたリアは、カタールの刃にこびりついた脳の欠片を振るい落とし、残る1体に向けて邪悪な笑みを浮かべる。
「最後」
『ターゲットに設定したクラスC生命体のうち2体の生命反応消失を確認。警戒レベルをレッド1からイエロー3に引き下げます、続けて標的の抹殺を実行してください』
「オオオォォォォォッ!」
 最後のオーガがリアに掴みかかる!がしかし、リアはそれをひらりと避けると、オーガの背に乗り首と頭の付け根を刺し貫いた!



 脊髄を絶ち切られたオーガが悶絶する!
「アガアァァァァァッ!」
「ええい、暴れるでない!さっさとおっ死ね!」
 リアはカタールの刃を引き抜くと、今度は同じ部位に両手の刃を交差させた!
「アガ……」
 やがてオーガは抵抗しなくなり、ガクリと膝をつくと、そのまま地面に倒れた。
 無事に着地し一息つくリアに、フォースが事務的に状況を報告する。
『ターゲットの殲滅を確認、警戒レベルをイエロー3からグリーン2にシフトします。お疲れ様でした、ゼロシー』

  **  **  **

 レザーウェアの安全を確認した、というリアの報を受けたジェメイン兄弟が現地に到着したとき、目の前のあまりに異様な光景に言葉を失った。
「な、まさか…このオーガ達を、本当に君がやったのか?」
「そこそこ骨の折れる仕事じゃったがの。ま、こんなもんは児戯じゃ、児戯」
『苦戦してたくせに』



 フォースの言葉を無視し、リアは余裕たっぷりの態度でギルバートに向かい合う。
 一方で未だわずかに体温の残っているオーガの死体を検分していたギルバートは、リアに向かって言った。
「本当にやれるとは思わなかった。オディールさんの言葉も、どうせ酔っ払いの言うことだと思ってたのに」
「おぬし、ちぃとはわしを信用せんかい。わしを何だと思っておる」
「厨二病の女の子」
「…せめて、実力に見合った妄想の持ち主という認識で頼みたいのー」
「すげー、これすげー。なあギルバート、これどうすんの?」
 相変わらず酔っているレイナルドが、おもむろに訊ねる。
 ジェメイン兄弟はこの廃屋を改装するつもりであり、そのためにはオーガの巨大な死体は邪魔になる。いずれ自然に還るにしろ、その間に腐敗だのといった有り難くないプロセスを経るため、できるなら何らかの方法で処分したいのだろう。
 しばらく頭を悩ませてから、ギルバートが言った。
「うーん、そうだね…魔術大学に引き取ってもらうのはどうだろう」
「魔術大学?」
「なんでも、錬金術の材料にオーガの身体が使えるらしいよ。皮膚とか、肉とか、脂肪とか、牙とか…お姐さん、なんとかならないかな」
「誰が姐さんじゃい。そうじゃな、魔術大学はともかく魔術師ギルドのほうなら渡りがつけられるかもしれん。そっちのツテでなんとかしてみるとするかの」
「それは有り難い!」
 ぼろい家だけど良かったら、という言葉に誘われ、リアはジェメイン兄弟とともに廃屋へと足を踏み入れた。

  **  **  **



「わーい、超すげー。超ぼろーい。俺の家よりひでー」
 そんなことを言いながら、さっそく酒を飲み始めるレイナルド。
 ギルバートは兄の飲酒癖に関してどうこうするつもりはないらしく、生温かい目で見つめつつ、リアに向かって口を開いた。
「それにしても、なんてお礼をしたら良いやら」
「礼なぞよい、誰も金目当てでやったわけではないからの。それと、オーガの死体の処分はこっちに任せい」
「重ね重ね、なんとお礼を言ったらいいのか。お姐さんに足を向けて眠れないな、今後は」
「無駄な気遣いなぞせんでもよい。それより、これからが大変じゃぞ?家の再建というのはな…わしはの、おぬしらが元気で長生きできれば、それで満足じゃ」
 ではの、と言い残してリアは退出する。
 オーガ達の死体を前にして、フォースが呟いた。
『ところでこれ、どうやって運ぶつもりです?』
「むー。2輪駆動形態で縄つけて引きずるとか」
『それめっちゃ怪しいです。発見者から通報されますよ』
「他に良い手もあるまい」
『うーん…』
 けっきょくリアはオーガの死体を2輪駆動形態でコロールまで運んだあと、魔術師ギルドと交渉して荷馬車で魔術大学まで移送したのだった。




2013/05/05 (Sun)04:33


「体毛染色機能?」
『ええ。正確に言えば染色ではなく、根元にある発光体の色を変えるだけなのですが。あなたの髪はガラス繊維製で、素材そのものは無色透明なんですよ』
 雲天の頂から帰還したリアは、コロールの街を歩きながら、自らの脳内に埋め込まれた思考支援チップ<TES-4>…通称フォースと会話していた。
 会話と言っても直接言葉を口に出すわけではなく、リアの思考プールと支援チップの間で電気信号のやり取りをするだけなので、会話に費やされる実時間はほぼ一瞬だ。
 いままで次空転移した際の後遺症でほとんどの機能に障害が残っていたリアは、自らの機体(ボディ)にこのような機能が付与されていたことに驚きながらも、早速その機能を試しているのであった。
 青くなびく髪を揺らしながら、リアはふたたびフォースに信号を送る。
「ところで、なにゆえにこのような機能が?ファッションか?」
『擬装用…とも思えませんね。おおかた開発部の思いつきでしょう、デモンストレーションのつもりだったんじゃないですか』
「対外向けのPRか。ますますこの機体を製造したのが誰なのか気になるな、おぬしは知らんのか」
『禁則コードに抵触します』
「フン」
 なにかっていうとすぐこれだ、フォースはリア以上にリアのことを知っているが、そのことについて質問すると『現在進行中の任務に支障が出る可能性があるため答えられない』と言うのだ。
 だいたい、その『任務』そのものに関する説明すら拒否するのだ、いったいどうしろというのか。
「まあ、よいわ。とりあえず、グレイ・メア亭にでも向かうかのー。あの酔っ払いの若造でもからかって遊んでやるとするか」
『あの。ところで、あなたを危険に晒した魔術師の処遇についてはどうなさるおつもりで?』
「ああ、そのことか。それなら前もって手は打ってある。抜かりはないぞい」
『はぁ…』
 いたずらっぽく笑みを浮かべるリアに、フォースはため息に似た声を上げる。

  **  **  **

「おーい、酔っ払い小坊主ー。元気しとるかー?」
「俺は酔ってなんかねぇよ。これが酔っ払いの顔に見えるってのか、えぇ~?」
「茹でダコみたいな赤ら顔で言われても説得力ないわい」



 酔っ払いの聖地として近隣住民から嫌われている安宿グレイ・メア亭にて。
 リアはこの店の常連である若者レイナルド・ジェメインに会いに来ていた。ちなみに、以前ゴブリンに農場を荒らされて困っているところを助けたオディール兄弟の父ヴァルスもいたが、そっちは無視。
「…髪が青く見える」
「酔ってるのか、酔ってないのかわからんやつよの」
 安物のビールで満たされたマグカップから顔を上げたレイナルドが、リアの髪を見て驚きの声を上げた。
 もとよりシロディールでは染髪という習慣がないのだろう、リアが元いた世界でも、ファッションで髪を染める文化が認知されるようになったのはごく最近のことだ。
「でーおぬし、なにか困り事があると言うておったろう?この大聖母の如き慈悲深さを持つワシがドバンと解決してやるから、なんでも言ってみんしゃいというのだ。ホレホレ」
「うわーやめろ頬を引っ張るなー。オバンに解決するとか言われてもうれしくねー」
「ドバンと解決だと言うのだ、この痴れモノがーッ!」
「うぎぎぎーっ!」
 思わずレイナルドの両頬をつねるリア。
 そのとき、リアの肩に何者かが手をかけた。店主のエムフリッドである。
「あのー」
「うん?」
「何も注文しないんだったら、他のお客様の迷惑になるから出て行ってほしいんだけど?」
 ニコリ。
 リアは彼女の営業スマイルの奥に、たしかな怒りが秘められていることをエモーション・センサー越しに知覚する。
 これ以上長居をすると、間違いなく出入り禁止にされそうな雰囲気だった。

  **  **  **

『結局あそこへは何をしに行ったんですか、あなたは』
「なに、ちぃとした暇潰しじゃ。本当は、あの小僧っ子を煩わせている問題がなんなのか、いま1度確認したかったんじゃがのー。でもまあ、だいたい憶えてはいるから、よしとするわい」
『はぁ…』
 なにも成果がないままコロールを出立したリアに、フォースはいささかの不安を覚える。
 もっとも、当のリアはフォースの懸念などお構いなしのようだ。
「あの小僧、レイナルド・ジェメインというたか。どうやらシェイディンハルに偽者…というか、よく似た人物がおるらしくての。道行く人すべてに『シェイディンハルで会った』と言われて参っておるそうだ」
『彼自身はシェイディンハルに行ったことは?』
「ない。らしい。ウソは言うておらんかった、自覚がないだけかもしれんが。とりあえずレイナルドの小僧は『偽者のフリをするのをやめさせてほしい』なんぞと言うておったが、そもそもその、そっくりさんがレイナルドを騙っている、ちう確証もないのじゃな、これ」
『シェイディンハルでレイナルドを見かけた、という人は、その良く似た男が自身をレイナルドと名乗ったと証言したのでは?』
「や、そういう話ではなかったの。皆が皆、たんに遠目で見ただけでレイナルドと判断して、声はかけなかった、そういう事情らしいのじゃな。だもんじゃから、ワシは偽者ではなく、よく似た人物、そっくりさんと言うておる」
『なんだか面倒な話ですね。なぜ、この案件を気にかけるのです?あなたに得はないでしょう?』
「なに、若者の面倒を見るのは年寄りの仕事じゃて。年金暮らしにあぐらをかいてパチンコ打つだけの余生というのもつまらんじゃろう」
『またわけのわからないことを…』
「それはともかく、ここからシェイディンハルまではちと遠いんじゃよな。ワシは機械じゃし疲れはせんが、時間がかかるのは如何ともし難いのー。おぬし、なんぞ妙案などはないか?車を呼び出すとか、航空支援を要請するとか」
『わたしをなんだと思ってるんですか。馬に乗れば良いのでは?』
「この重い機体だと、背に跨ったとたん馬が暴れだしてのー。まともに利用できん、そんなのはとっくに試したわい」
『そうですか…ああそうだ、そういえば』
「なんじゃ」
 出し抜けに提案が思い浮かんだような態度を取るフォースに、リアはいささかの不安を覚える。
 …なにか、ろくでもないアイデアではないだろうな。
 そんなリアの懸念を、フォースはまったく裏切らなかった。
『あなた、2輪車に変形できますよ』
「……は」
『あなたに内蔵されている強力な発電機構を利用してですね、2輪駆動体としての活動が可能になっています。そもそも設計段階からこうした運用を想定していて、2足歩行形態と2輪駆動形態とでパーツに無駄が出ないよう、極限まで互換性を持たせたデザインになっているんですよ。これは画期的な技術で…なぜ黙っているのです』
「バッカじゃなかろうか」
『は?』
「いや、なんでもない。…マジなのか…まぁ、いいわい。それじゃあ、早速その2輪駆動形態とやらにシフトしてみるかの」
『お待ちください。いまの状態のまま変形すると深刻な副作用が』
「深刻な副作用?」
『服が破れます』
「おおう」



 リア自身に羞恥の概念はないのだが、いざシェイディンハルに到着したときに全裸だと体裁が悪いし、予備のドレスも持っていなかったので、念のため人気のない岩陰で服を脱ぎ、トランクにしまいこむ。
 さて、とリアは姿勢を正し、変形プロセスを起動した。
『変形プロセス起動、現在コマンダーの承認待ちです。…レディ?』
「レディ」
 ガキン、リアの胴体が展開し、各部が次々と構造を変化させていく。



『変形プロセス完了、2輪駆動形態にシフトしました』
「なんじゃあこりゃああぁぁぁぁぁっっっ!!」
『如何なされました?』
「原型が残っておらんではないかぁぁぁっ!どれだけデタラメな技術じゃあぁぁぁっ!!」
『なにか不都合でも?』
「いや、そーいう問題ではなくてな?」
 バチバチ、と微量の電力を放出しながら、2輪駆動形態…早い話がバイクに変身したリアは、このあまりに理不尽な現象に頭を抱える。というか、抱える頭がどこにあるのかすら把握できない有り様だ。
 フォース曰く、髪の毛は配線に、眼球はセンサーに、頭蓋は発電機のタンクに…など、この形態において身体のパーツだったものはまったく違う用途に使われているらしく、『とても合理的な構造』であるらしい。
「…まあ、いいわい。あまり深く考えても仕方がないもの」
『そうですよ。便利に立ち回れるならそれでいいじゃないですか』
 いささか(というか、かなり)釈然としない部分が残るものの、リアは「これはこういうものだ」と割り切ると(自分の身体のことだというのに!)、一路シェイディンハルへと向かった。

  **  **  **



 ガゴンッ!
「プギィィィィッッッ、イイイギィィィイイイッッッ!!」
『リア、あの…リア、ちょっと!待ちなさいゼロシー!』
「ん、なんじゃ?」
『スピードを出し過ぎです!今なんか轢きましたよ!?』
「鹿か?」
『鹿じゃありません!北海道じゃあるまいし!』
「じゃあ、なんじゃ」
『猪です!』
「北海道か」
『違います!』 
 白煙を上げ、大気との摩擦で発生した電気の尾を引きながら爆走するリアを、フォースが必死に咎めたてる。
 ちなみに白煙といっても、これはあくまで走行の際の舞い上がったチリやホコリ、あるいは砂であって、排気ガスではない。そもそものエネルギー源が電気なので、環境に優しい造りではあるのだが。
『そもそも、こんなハイスピードで走って現地民に警戒されたらどうするんですか!』
「トロトロ走ってても同じことだと思うがのー」



「ほい到着っ!」
『ゼロシィィィィッッッ!!もうちょっと警戒してくださいーーーッ!!』
 かくしてシェイディンハルに到着したリアだった…が、2輪駆動形態のまま門までやって来たために、衛兵があからさまに警戒体勢を取っている。
「な、な、な、なんだコレはーッ、新種のデイドラかッ!?」
「おー、いかん」
 寸でのところで矢に射られそうになったリアは踵を返すと、そのまま木陰に向かって爆走した。
 その後、きちんと2足歩行形態に戻ってからシェイディンハルを訪れたのは言うまでもない。ただし今度は裸のまま入ろうとして、危うく全裸形態を衛兵に見つかりそうになったところでフォースに咎められたりはしたのだが。

  **  **  **

「シェイディンハルにとうちゃーく」
『……ハァ』
 朗らかな表情を見せるリアとは対照的に、フォースがやけに気疲れしたような声を上げる。
 ただのAIのくせに。
「さて、さっそく聞き込みをしても良いんじゃが…実際、あんまり急ぎ解決せねばならんような案件でもないしのー」
『なら徒歩で来ても良かったじゃないですか…』
「なんじゃ、妙に低いトーンで話しよってからに。それにバイクで移動できると言ったのはそっちであろう」
『もうちょっと慎重に行動すると思ってたんですよ、あなたはっ!』
「バカが見るー、ブタのケツー。モヒカンが見るー、国王号のケツー」
『突っ込みませんよ』
「ちぇー」
 冷たくあしらうフォースに、リアは不服そうに唇を尖らせる。
 とりあえず宿を予約し、しばらく観光したのちローランドのそっくりさんを探そう、という方針で活動することにしたリアは、さっそくシェイディンハルの街に入ってすぐの場所にあるニューランズ旅館に向かった。
 だが……

  **  **  **

「なんじゃ、すぐに見つかってしまったではないか」
『まったくですね』



「どうかしたかい、お嬢さん?」
 ニューランズ旅館の待合室にて、暖炉の前で軽食を取っていた男はまさしくレイナルド・ジェメインにそっくりだった。
「外見だけでなく服装のセンスまでクリソツとはのー。そりゃあ、本人と間違われもするわい」
「いったい、さっきから何の話をしているのかな?」
 リアの言葉に、レイナルドそっくりの男が首をかしげる。
 どうやら、彼自身はレイナルドを取り巻く諸問題を一切関知していないらしい。もし自分に瓜二つの容姿の人間がいるとわかっていれば、それらしい言葉を聞いただけで何らかの反応を示すはずだ。
 あるいは、何か企みがあって素知らぬフリをしているだけなのか。
「突然で悪いが、ノックしてもしもーし、おぬし名はなんと申す」
「それ自分がまず名乗るべき台詞じゃ…まあいいや、僕はギルバート。ギルバート・ジェメイン。君の名前は?」
「ワシはHEL-00c、皆からはリアと呼ばれておる」
「なにそれ、新手の厨二病?」
「やはりそーいう反応になるかのー」
 まるっきり真面目に取り合おうとしない男に対し、リアは苦笑いした。
 しかし、ギルバート・ジェメインだと?
 同姓とは、もしや親族かなにかか?だとしたら、むしろその可能性を示唆しなかったレイナルドのほうに落ち度があるように思えるのだが…しかしまあ、酔っ払いに何を期待しても無駄か。
「ところでおぬし、レイナルド・ジェメインという名に聞き覚えはあるかの?」
「レイナルド?……いや、知らないな」
 リアの質問に対し、ギルバートはたっぷり10秒ほど思案してから返答した。
 そのときの表情の変化を解析したフォースが、リアに耳打ちする。
『彼、ウソをついてますね』
「まぁ、予想された反応ではあるがの。致し方あるまい」
 それまで椅子にかけていたリアは立ち上がると、ドレスをぱたぱたとはたきながら、ギルバートに向かって言った。
「じつはコロールにレイナルド・ジェメインという、おぬしのそっくりさんがおってな。自分はシェイディンハルになど行ったことがないのに、人に会うたびシェイディンハルで見かけたと言われるのでほとほと困っている、なんとかしてくれ、と頼まれたのだが。おぬしが何も関知しておらん以上、ここに長居をする意味はないかの」
 そして、ギルバートに背を向ける。
「や、手間をかけさせてスマンかったな。邪魔したの」
「待ってくれ」
 踵を返して立ち去ろうとするリアを、ギルバートが呼び止めた。
「さっきは、その…ウソをついた。すまなかった、レイナルドは僕の…生き別れた兄の名前なんだ」
「ほう、生き別れの、とな。レイナルドはそのような話はしなかったがの」
「なにせ昔の話だから。できれば、僕を彼のところまで連れて行ってくれないか?」
「それはいいが」
 ニヤリ、リアは意地の悪い笑みを浮かべた。
「さっきはなぜウソをついた?」
「まさか、いまさらレイナルドの名前を聞くことがあるとは思ってなかった。新手の詐欺か何かかと思って、その…気が動転したんだ」
「これだから人間は面白い」
 この非合理な存在よ。
 そう言うと、リアは繰り返し笑った。もちろん、ギルバートには「こじらせた厨二病」としか思われなかったが。

  **  **  **

「できれば、急ぎたいんだが…馬車じゃ駄目なのかい?」
「イヤ、どうもわし馬と相性が悪いらしくての」
「馬が怖いとか」
「アホ抜かせ」
 つい最近、似たようなやり取りをしたような…
 そんなことを考えながら、リアは馬車を借りようとするギルバートをどうにかして思い留まらせようとしていた。
 もちろん、それにギルバートは反対してくるわけで。
「できるだけ急ぎたいのに、シェイディンハルからコロールまでわざわざ徒歩で移動するとかわけがわからないよ!」
「えぇい、ナマっちろい練り物みたいな台詞を抜かすな!きさま健康優良男児であろうが、健脚という言葉を知らんか!それに、急がずともレイナルドは逃げゃーせんわい!」
「非合理だ!」
「…しゃあーないのー」
 しばらく歩いたところでリアは立ち止まると、ギルバートに「ビシィ」と指を突きつけ、言った。
「わしがこれから乗り物を用意してやるから、ちぃと待っておれ。あと、わしが『良い』と言うまで絶対にこっちを見てはならんぞ」
「なに、小用?」
「ちがわいっ!とにかくこっちを見るなというのだ!」
「恩返しなら間に合ってるよ?」
「わしゃ鶴かっ!」
 ギルバートとノリツッコミを繰り返しながらも、リアはどうにかして岩陰に隠れる。
 間もなく、リアが隠れた岩陰から「ギャキィィィン!!」という轟音とともにスパークが発生し、近くで様子を窺っていた野生動物たちが一斉に逃げ出した。
「な、なんだ?」
 あまりの異容に気を取られ、リアの言いつけをやぶって様子を見に行こうとするギルバート。
 しかし一歩足を踏み出したところで、目の前に黒い金属のカタマリ…2輪駆動形態に変形したリアが出現し、あやうく腰を抜かしそうになった。



「待たせたっ!」
「…キミ、さっきの女の子?」
『ゼロシー!あなたはもっと警戒すべきですっ!!』
 機体のマイク部分から音声を発するリアに、フォースが思わず抗議の声を上げる。
 どうやら、あまりに動揺するとリアのことを「ゼロシー」と呼んでしまうらしい、これがなにを意味するのかはわからないが……
 一方で、一応バイクをリアだと認識できたらしいギルバートが顔をしかめたまま質問した。
「えーと…どういうこと?」
「魔法じゃ!魔法で変身したのじゃ!」
「マジ?」
 この世界ではとりあえず説明のつかないものを「魔法だ」と言っておけば納得してもらえるだろう、というリアの認識はいささか短絡的に過ぎたが、それでも有効的なのは間違いない。
 下手に隠そうとしたり、あるいは無理に正確な説明をしようとすれば、そのほうが面倒事のきっかけになりかねないだろう。
「さぁ、遠慮せんと早ぅわしの背に乗るのじゃ!」
「大丈夫なのかい?ていうか、なんか小さくない?」
「贅沢申すな!」
 こうして、リアとギルバートの「バイクで行くシロディールの旅~シェイディンハルからコロール編~」がはじまったのであった。



「もうちょっとスピード、スピード落としてぁぁああああああっっっ!」
「如何した小童、おい小童ーーーっ!?」
 最初はリアがスピードの加減をできなかったため、ギルバートが振り落とされて危うく死にそうになったり、またしてもコロールの城下町へと続く門の目の前で停止したため衛兵に攻撃されそうになったりなどアクシデントはあったが……

  **  **  **

 なにはともあれ無事にコロールに到着した2人は、さっそくレイナルドが待つグレイ・メア亭へと向かうのであった。
「レイナルドは元気かい?その、健康を害したりはしていないかな」
「その点では心配ない。多少、アル中の気はあるがの」
「え~…」
 そんな話をしながら、ギルバートが入り口のドアノブに手をかけようとしたとき。
『テメーいい加減にしろコンダラーッ!』
『うるせークソババアーッ!俺のマグナムを喰らいやがれーッ!!』
 ガシャーン。
 なにかが割れるような音とともに、凄まじい怒鳴り声が聞こえてくる。
「なんじゃ、いったい…」
「まさか、レイナルドの身に何かが!?レイナルドーッ!!」
 なにか悪い予感がしたのか、ギルバートが勢いよく扉を開け放ち、グレイ・メア亭に突入する!



「兄貴ィーーーーーーッ」
 レイナルドが叫び声を上げる、その先にはッ!
 酔っ払ったまま全裸で暴れまわるレイナルドと、ブチ切れた店主のエムフリッドの姿があった!!
 傍らの席では、完全に酔っているヴァルス・オディールが「いいぞもっとやれー!」と歓声を上げている。
「これ以上調子こいてっとマジでブチ殺すぞこんクソガキャアーッ!」
「やかましー!裸だったら何が悪いーっ!」
 なんというか、幼少期に生き別れた親族を紹介できるような雰囲気ではない。
 およそ考えうる最悪の状況に思考回路がエラーを起こしそうになりながらも、リアはギルバートの心情が気になり、チラリと傍らの賓客の姿を盗み見る。
「やっぱりあんちゃんだー!本当に本物のあんちゃんだー!」
 ギルバートは、兄との再会に素直に感動しているようだ。
 どうしようもなくカオスな状況を前に、リアとフォースは誤差0.007秒の間を置いてほぼ同時に発声した。
「なにこれ」
『なにこれ』




2013/04/29 (Mon)16:46
「ミスタ・ドレイク、帝都までの旅は快適でしたかな?」
「おかげさまでね」



 帝都神殿地区、セリドゥア邸地下。
 <高潔なる血の一団>という、ヴァンパイア・ハンターの組合から協力を要請されたドレイクは、コロールから帝都まで馬車に乗って移動してきたのだった。
 御者の言葉が、今でも耳にこびりついている。
『なんでも、戦士ギルドから大層な信頼を得ているとか。頼りにしていますよ』
「誰かが口を滑らせたな…」
 ドレイク自身は目立つような行動を控えているつもりだが、それでも数々の面倒事に首を突っ込んでいるうちに、それなりの評判が広まってしまったらしい。
 とはいえ、どうせ帝都には立ち寄るつもりだったし、この懐の重み…手付け金として受け取った金貨100枚…これは駄賃としては悪くない額だ。目的あっての旅とはいえ、旅費が尽きてしまえば身動きが取れなくなるのは確かなわけで。
 まあ、稼げるうちに稼いでおくか……
「つい最近、帝都に出没した吸血鬼の討伐を依頼したいのです。お恥ずかしながら、私が相対したときは不意を突かれましてね。それ以上に、奴は強い。そんじょそこいらの戦士では歯が立たぬのです」
「なるほど。帝都衛兵が総出で迎え撃っても捕縛できなかったと聞きますからな」
 ワインボトルに手を伸ばしながら、ドレイクは依頼人のセリドゥアの容姿をチラリと観察した。
 色素の薄い、黄色の肌。ソフトクリームみたいな髪。アルトマー(ハイエルフ)ってのはみんな、こんなナリなのか?貴族然とした態度も似たり寄ったりだしな。
 そういえば、ユンバカノもこんな感じだったな。そっくりだ。
 そんなことを思い…ぶるぶる、ドレイクは首を振った。
 …また裏のある仕事だ、なんてのは御免だ。
「如何されましたか?具合でも優れませんか」
「なんでもない。昼飯の食い合わせが悪くてね」
 セリドゥアの気遣いを、ドレイクは一笑に伏した。
「で、その吸血鬼…ローランド・ジェンセリックと言いましたか。行き先に心当たりなどは?」
「だいたいの見当はついています。あの男は、しばしば恋人…レルフィーナといいます。残念ながらあの男に惨殺されました。酷い話です…彼女とともに、帝都から少し離れた場所にある別荘に立ち寄っていました。おそらく、そこにいるものかと」
「…あなたがそれを知っている、ということにヤツが勘付いていると思いますか?」
「恐らくは」
「ならば、長居は無用ですな」
 そう言って、ドレイクは席を立った。



「気をつけたほうがいい。吸血鬼は強敵だ…過去に戦ったことは?」
「いや」
「連中に噛まれると、感染して自分も吸血鬼になってしまう。用心することだ」
 屋敷を出ようとしたところで、ドレイクは2人の男に呼び止められた。セリドゥアの部下らしい。
 アルゴニアンのグレイ=スロートと、ダンマー(ダークエルフ)のシルベン・ドロヴァスといったか。彼らも一団のメンバーらしい。おそらく過去に吸血鬼と対決したことがあるのだろう、先達の言うことは聞いておくものだ。
「吸血鬼には十字架とニンニクが効果的だと聞いたことがあるが、本当か?」
「迷信だね。十字架を前に恐れをなす吸血鬼など見たことがないし、ニンニクも…そうだな、中にはそういうのが苦手な個体もいるかもしれないが」
「銀製の武器でなければ効果がない、というのは?」
「いや。奴らは霊体ではないから、物理的な攻撃でも殺せる。といっても、自然治癒能力や反射神経が常人離れしているから、かなり骨の折れる仕事になるだろうね」
 フム、鉄の武器でも殺せるというのは朗報だな…その点でのみ、ドレイクは胸を撫で下ろした。弱点らしい弱点がないのは意外だったが、それは小細工をする必要がないことの裏返しでもあるわけで。
 シロディールでにおいてヴァンパイア・ハンターというのはそこそこメジャーな職業らしく、そういった稼業を生業にしている人間が、特に策を弄すことなく吸血鬼と対峙しているのであれば、自分にもやれるだろう。

  **  **  **

 日が暮れる前に山荘に着けたのは良い兆候だった。
 太陽光は吸血鬼にとって大敵だ。そのため昼間は寝て過ごし、夜になってから活動するパターンがほとんどだという。せっかくだから、寝ていてくれると手間が省けるのだが。
 ドガンッ!
 扉を蹴り開けると同時に、ドレイクはスラリと鞘からアカヴィリ刀を抜き放つ。
 目の前には、突然の闖入者の姿に驚きおののく男の姿があった。人相特徴は、セリドゥアの部下であるギレン・ノルヴァロから聞いたものと一致している。
「お前、ローランド・ジェンセリックか」
「な、なんだお前は!?」
 そんなことを聞いてどうする、といった態度でローランドが怒鳴り返してくる。
 否定しない。クロか。
 相手が抵抗する前にカタをつけるべく、ドレイクはアカヴィリ刀を一閃させる。ひとまず相手の能力を測るため、腰を入れずに放った一撃だったが…ローランドはその一太刀を一身に受けると、血を噴き出しながら倒れた。



「……!?」
 避けようともしなかった、だと?
 すでに事切れてるであろうローランドの身体を眺めながら、ドレイクは思わず拍子抜けする。
「シロディールの吸血鬼、どんなものかと思ったが…買いかぶりすぎたか」
 少しは骨のある相手と戦えるものだと思っていたが。
 しかしまあ、とりあえず任務は果たしたわけだ。あとはセリドゥアに報告して、せいぜい報奨金をむしり取ってやるかな…そう思い、この場から立ち去ろうとした、そのとき。
 ガチャリ。
 不意に扉が開く音が聞こえ、ドレイクは反射的に返す刀を突きつける。
「お前は…」
「なに、してんですか」
 少女の足元に転がる、食料品が入った袋。
 ドレイクの前に現れたのは、過去に何度か対面したことのある人物だった。
 ミレニア・マクドゥーガル…たしか、そんな名前だった。錬金術師シンデリオンの弟子で、コロールに住むアルゴニアンの娘ダー=マの親友。
 あまり深く付き合ったことはないが、それにしても、なんでこいつがここに?
「お前、危ないところだったぞ。こいつは吸血鬼だ…しかし、なんだってこんなのと関わってたんだ、いったい」
「…違います」
「なに?」
「バカ。バカ。バァーーーカッ!」
「あぁ!?」
 親切心から忠告したはずが、なぜか罵倒されたため、ドレイクはつい荒っぽい声を返してしまった。
 しかし、それよりも気になることがある。こいつ、ひょっとして俺よりも前にこの件に関わっていたんじゃないのか?床に転がる食料は、明らかにローランドのために用意されたものだ。
 もしローランドが、セリドゥア達の言ったように凶悪な吸血鬼であったなら…そもそも、こんな状況にはならないはず。
 嫌な予感がする……
 口を開きかけたドレイクより先に、ミレニアが強い口調で問いかけてくる。
「セリドゥアに頼まれたんでしょう」
 それは、質問ではなかった。確信だった。
「…なんで、お前がその名前を知ってる?」
 そのドレイクの言葉には答えず、ミレニアはローランドの亡骸に近づくと、そっとひざまずいた。



「ごめん、ごめんね?あたし、なんにもできなかったよ…」
 ローランドの亡骸に囁きかけながら、ミレニアは大粒の涙を流していた。
 ついさっき自分が手にかけたばかりの男に泣きすがる少女の後姿を見つめながら、ドレイクはどうしようもない悔恨の念が胸の中で膨れ上がっていくのを感じる。
 もう彼女に聞くまでもない、真相がどうであったかなど…しかし、それでもドレイクは訊ねずにはいられなかった。
「なあ、頼む。事情を説明してくれ。お前、何を知ってる…?」
 ドレイクの言葉に、最初ミレニアは反応しなかった。ドレイクがもう1度口を開きかけたそのとき、ミレニアは物憂げな顔を少しだけ上げると、ぽつり、ぽつりと真相を語りはじめた。

  **  **  **

 話は、ローランドとの偶然の出会いからはじまった。
 そして彼に、吸血鬼特有の身体的特徴が何もなかったこと。彼の口から、恋人を殺したのがセリドゥアで、自分は罪を被せられたまま命懸けで帝都から脱出したと聞かされたこと。彼は、そのまま逃亡せずセリドゥアと決着をつけるつもりでいたこと。
 最後に、ローランドの自室で見つけた、恋人からの手紙。
 すべてを聞いたドレイクは、山荘から出るとすぐミレニアに言った。
「俺がセリドゥアと決着をつける。お前はついて来るな」



 もちろん、その台詞は手前勝手の最たるものだった。自ら手を汚しておいて、そのうえ殺した相手の仇を取るというのだから。
 当然、そんな台詞でミレニアを納得させることができるはずもない。
「イヤです。そもそもあたし、約束したんです。彼に協力して、レルフィーナさんの仇を取るって。だから、彼の仇を取るのも、あたしじゃなきゃダメなんです」
「危険すぎる。ヤツは公権力も味方につけてるんだぞ」
「公僕なんか怖くないよ」
「それじゃあ、言い替えよう」
 ドレイクは振り返り、いままでまともに見れなかったミレニアの顔を正面から見つめる。
「俺にやらせてくれ。もちろん、こんなことで罪滅ぼしができるなんて思っちゃいない。だが、俺は不器用な男でな…こんな形でしか、死者に報いてやれんのだ。頼む」
 そう言って、ドレイクはミレニアに背を向けた。
 ミレニアはついて来なかった。ついて来るかとも思ったが、そうはしなかった。
 それは、少なからずミレニアがドレイクの非道を許したことを意味していた。そのことに対しドレイクは感謝の意を述べたかったが、それはやらなかった。それは野暮というものだ。
 そんなことを考えていたドレイクの代わりに、ミレニアが口を開いた。
「わかった、あなたに全部任せる。絶対に仇を取ってね」
「応(おう)」
「必ず殺して。容赦なく」
 ミレニアの言葉に、ドレイクは目を丸くする。
 おいおい、女の子が口にしていい台詞じゃないぞ…しかしミレニアの瞳に宿る意思の光を見て、ドレイクは悟った。
 彼女は戯れや一時の感情の昂ぶりで、今の言葉を口にしたわけじゃない。固い意志を胸に、そうすることが本当に正しいと信じて、言ったのだ。
 ひょっとして、こいつも「ワケあり」なのか……?
 しかし、今はミレニアの素性を詮索するよりも先にやるべきことがある。
 ドレイクは足を踏み出すと、贖罪のための旅路を歩みはじめた。

  **  **  **

 セリドゥア邸には、誰もいなかった。
 予想できたことではあるが…手掛かりを探して回っていたドレイクは、地下室で1枚の手紙を発見した。



『ドレイク氏へ…我々高潔の血の一団は、現在<追悼の洞窟>と呼ばれる場所で集会を開いています。戦没者を祀るための、由緒正しき場所です。もしローランドの討伐に成功した暁には、貴方もこちらへおいでになってください。先祖の墓の前で、貴方の名誉を称えたいと思っています。セリドゥア』
「どういうつもりだ…?」
 てっきり真相を究明された場合に備えて行方をくらませたものだとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
 考えられるとすれば、罠か…ドレイクが真相を暴こうが暴くまいが、最初から始末するつもりでいたか。
「いいだろう。その挑戦に乗ってやる」
 もし相手が策を弄しているのであれば、こちらは正面から乗り込んで叩き潰すまでだ。

  **  **  **

『シイイィィィィィィィッッッ!!』
「やかましいぜ」



 ガキイィィィッ!
 追悼洞窟に足を踏み入れた途端、ドレイクはアンデッド・モンスターからの襲撃を受けた。
「なにが戦没者の追悼だ、バケモノで溢れ返ってるじゃねぇか…」
 そう言って、ドレイクはスケルトンの鎧に深々と突き刺したアカヴィリ刀を抜き、鞘に収める。
 どうやらこの洞窟は吸血鬼どもの隠れ家として利用されているらしい、あたりには吸血鬼やら、吸血鬼になりきれず腐り落ちた<生ける屍>が我が物顔で徘徊している。
 次々と襲いかかってくる化け物を一刀のもとに屠りながら、ドレイクは洞窟の最深部へと向かっていった。
「吸血鬼、さんざん脅しを受けたからどれほど驚異的な存在かと思ったが、たいしたことはねぇな」
「ほう、雑魚を倒しただけで玄人気取りかね?」
 やがてドレイクの目の前に、悪趣味な祭壇が姿を現した。
 朽ちた数々の棺桶、あちこちにぶら下げられた無数の死体。その前で、グロテスクなオブジェの主(あるじ)然と、セリドゥアが腕を組んで佇んでいた。彼の周囲には、屋敷にいた3人の部下の姿も見える。



「全員吸血鬼だったのか。ヴァンパイア・ハンターの組合が聞いて呆れるぜ」
「なに、木を隠すなら森の中…というわけですよ。それにしても、ここまで生きて辿り着くとは少々予想外でした。どうやら噂で聞いていたより腕が立つようですね」
「俺を殺したいなら軍隊でも連れてきな、カビくせぇキノコ野郎」
「その軽口がいつまでもつか、見ものですな」
「俺を嵌めたな。罪もない人間を殺させやがって」
「なに、貴方ローランドを殺したのですか?」
 そう言って、セリドゥアは哄笑を上げた。
「なんとまぁ!てっきり、ローランドに説得されて向かってきたものだとばかり思っていましたよ!あっはははは!馬鹿晒しに来たとはこのことだ」
「なぜレルフィーナを狙った」
「美しいものを手に入れたいと思うのは生物の本能でしょう?ローランドみたいな抜け作には勿体無かったですよ、彼女は。だからローランドが帝都を離れた隙にちょっとした催眠術で篭絡し、親交を深めたのです。なかなか楽しかったですよ?彼女の具合ときたら…あの世のローランドにも聞かせてやりたかったくらいだ、我々の過ごした淫蕩の日々をね!」
「そうかい」
「まあ、トカゲの貴方にこういった愛憎の話は無縁でしょう。そろそろこの馬鹿げた喜劇も終わりにしようじゃありませんか…ギレン、グレイ=トゥース、シルベン。狩りの時間です」
 セリドゥアの命令を受けて、3人の部下達が次々に剣を抜き放つ。
 その一方で、ドレイクはアカヴィリ刀の柄にすら手をかけていない状態で、セリドゥアに向かって言った。
「お前、俺の本気が見たいか」
「……は?」
「俺の本気が見たいか、と聞いたんだ」
「なにを言い出すかと思えば。えぇ、えぇ。是非とも見せて頂きたいですな、貴方の言う本気とやらを」
「そうかい」
 そう呟くと、ドレイクは笑みを浮かべた。牙を剥き出しにして見せる、獣のような笑みを。
「俺はいま、機嫌が悪い。人生で上から数えたほうが早いくらいにな。だから、手加減はできんぞ」
「機嫌が悪い?手加減?貴方という人は…いったい、どこまで大根役者なのだか。まあいいでしょう、喜劇の締めにはうってつけだ。せいぜい、格好をつけながら死ぬといい」
 そう言って、セリドゥアは腕を振り下ろす。その動きが合図となり、3人の部下達がいっせいに襲いかかってきた。
 ドレイクはアカヴィリ刀の柄に手をかけ、目を細める。



 バン!
 ドレイクが抜刀すると同時に凄まじい衝撃波が発生し、3人の部下達の上半身がいっせいに砕け散る。おびただしい量の鮮血が噴き出し、天井を紅く染め上げた。
 あまりに強い剣圧によって地面が抉られ、まるで突風に晒された砂漠にいるかの如く激しい砂嵐が巻き起こる。
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、砕牙・肆式(サイガ・シシキ)」
「な、な、な、なあぁぁぁぁ…!?」
 一瞬で部下が血煙と化した光景を目前に、セリドゥアが絶句する。
「ば、ばっ馬鹿な、たったの一撃で3人を……!!」
「…たったの一撃だと?」
 セリドゥアの言葉に、ドレイクが嘲笑を返す。
「お前、今の太刀筋が見えなかったのか?俺が、お前の可愛い部下を何度斬りつけたか…見えもしなかったってわけか」
「ほざくなッ!」
 蒼白な表情のまま、セリドゥアがドレイクに斬りかかる。
 しかしセリドゥアの両足が地面から離れた瞬間、ふたたびドレイクの手の中で白刃が一閃した。



「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、來閃・零式(ライセン・ゼロシキ)」
「こ、こっ…ぁぁぁ……」
 剣を振りかぶったままの姿勢で、セリドゥアが真っ二つに絶ち斬られる。
 ズシャリ、地面に転がるセリドゥアの無残な死体には目もくれず、ドレイクはアカヴィリ刀を鞘に収めると、いままでの覇気が急に失われていくのを感じた。
「…クソッ、全然気が晴れねェよ……!!」
 それどころか、怒りに任せて剣を振るった自分に対しての憤りまでこみ上げてくる。
 たしかに仇は討った。しかし、だからといって何が変わるわけでもない。ローランドを殺した罪は消えないし、結局、自分は死体を増やしただけなのだ。
 やるせない想いを抱えたまま、ドレイクは追悼洞窟を去った。

  **  **  **

 ガキッ、ガキッ、ガキッ。
「…… …… ……」
 シャベルを握る手が冷たく、かじかんでくる。
 ブラックマーシュでは雨など日常茶飯事だったが、これほどまでに沈鬱な気分になるものだと思ったことはなかった。まるで自分を責めるかのように水滴が容赦なく顔面を打擲し、雨脚は激しくなるばかりだ。
 ドレイクは土を埋める手を止めると、目の前に立つ墓石をじっと見つめた。



『ローランドとレルフィーナの魂に安らぎを。マーラの加護のもと、2度と分かたれることなきよう』
 ドレイクはいま、ローランドが隠れ家として利用していた山荘にいた。
 もう2度と利用されることがないであろう山荘の裏、花が咲く綺麗な場所に、ドレイクはローランドとレルフィーナの遺体を埋めたのだった。
 レルフィーナの遺体は帝都が預かっていたが、ドレイクはよくよく袖の下を払い、無理を言って彼女の遺体を引き取ったのである。もちろん、本当の理由など言えるはずもない。
 そしてドレイクは2人の遺体を同じ場所に埋め、自ら字を彫ったにわか造りの墓標を立てたのである。
「…ただの自己満足だよな、こんなの」
 ここまでやっても、ドレイクの心はまったく満たされなかった。それどころか、自らの愚かしさ、欺瞞ぶりに精神が苛まれるばかりだ。
 シャベルを地面に突き立て、ドレイクは嗚咽を漏らす。
「くそっ…シレーヌ…俺は…結局、間違った殺ししかできないのか……?」
 ドレイクは思い出していた。故郷での出来事を。弟のことを。恋人のことを。
 もうなにもかも無くしてしまった。否、まだ取り返すことができる、そう信じてシロディールまで来た。そのはずだった。
 それなのに……




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