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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/05/03 (Fri)00:03
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2014/06/29 (Sun)04:03

 なんの変哲もない、いつもの、いつも通りの食事風景。
 彼らと寝食を共にするようになってから、いったいどれだけの時間が経っただろう。
 年月だけを見れば、おそらくは浅い付き合い。でも、私にとってそれは、いままでに経験したことのない…かけがえのない時間。
 人を殺すためだけに生かされてきた私が、はじめて覚えた温もり。
 だけど、それは私には必要のないものだった。
 だから今から私はそれを…一時でも、少しでも大切な存在だと思ってしまった余計な一切合財を、切り捨てる。本来の、あるべき姿に戻るために。
 ブラックナンバーとしての誇りを取り戻すために。

  **  **  **  **



「ブラックハンドから直接指令を受けたんだって?出世したもんだなぁ」
 鋼の鎧を身に纏った大柄のオーク…ゴグロンは、ブラック17に向かって笑いかけた。
 ブラック17も、それに控え目な笑みで答える。
 一方、聖域に来たばかりの頃のブラック17の愛想の無さを知っているオチーヴァは戒めるように口を尖らせた。
「出世という言い方は正しくありませんよ、ゴグロン。彼女はもともとブラザーフッドの人間ではないのですから。それに、私たちの仲間のように言われるのは、彼女も迷惑でしょう」
「あーいや、スマン。このところ、他の家族と同じように接してたもんだからな」
「気にしてないわよ。べつに迷惑なんかじゃないわ」
 申し訳無さそうに頭を掻くゴグロン、そんな彼をブラック17は優しくフォローする。
 オチーヴァが目を丸くして驚く傍らで、ム=ラージ=ダーがあまり嫌味ではない口調で呟いた。
「ともかく、有能な人間はどこへ行っても需要があるってわけだな。うらやましいね、あやかりたいよ」
「それにしても彼女、このところ特に愛想が良くなったと思わない?」
「恥ずかしいこと言わないでよ。でも…ありがとう、アントワネッタ」
 皆が和気藹々と談笑する様子を眺めながら、吸血鬼のヴィセンテは目を細める。
「たとえブラザーフッドの一員でなくとも、かけがえのない仲間には違いない。いつまでここに滞在するのかは私にはわからないが、ここにいる間は自分の家のようにくつろいで欲しい」
「…そうね」
 そう言葉を返したときの、慈しみに溢れたブラック17の瞳の奥底に一瞬だけ冷たいものが走ったのを見た者はいなかった。
 聖域のメンバーがぼちぼち食事を終え、食後酒を嗜んでいたところへ、ブラック17が出し抜けに質問を投げかける。
「ところで、浄化の儀式…って、知ってる?」
「なんだ、そりゃ」
「知りません。教会にそのような風習もなかったと思いますが」
 彼女の口から飛び出した耳馴染みのない言葉に、誰もが首を傾げる。
 しかしヴィセンテだけは例外で、彼はしばらく考え込むような仕草をしたあと、ブラック17に言った。
「風の噂で聞いただけだが…ダーク・ブラザーフッドの言い伝えで、裏切り行為を働いた聖域のメンバーを粛清する血の掟というのが存在するらしい。たしか、それが浄化の儀式と呼ばれていたはずだ。もっとも、信憑性は薄いのだがね」
 裏切り者、という単語を耳にして、その場にいたメンバーの表情に緊張が走る。
 ティナーヴァの死は言うに及ばず、ティリンドリルが帝国軍に情報を横流しし、ブラック17に教会の尖塔から投げ込まれ処刑されてからまだ日が浅い。
 誰もが話題に出さないようにしていたが、メンバーの中から死者が出たこと、のみならず裏切り者まで潜んでいたことに対するショックは未だに癒えていない。
 普段ならメンバーの心象を慮ってとぼけていただろうヴィセンテがあえて口に出した理由が、他のメンバーにはわからなかった。ただ一人、ブラック17を除いて。
 彼女の顔色を窺いながら、ヴィセンテが慎重に訊ねる。
「それで…なぜ、今その話を?」
「もし、私がルシエンに依頼されたのが、その浄化の儀式…だったら、どうする?」
 ブラック17の一言で、場が静まり返った。
 しばらくして、ム=ラージ=ダーが口を開く。
「どういう意味だそりゃあ、浄化の儀式って…聖域のメンバー全員を処刑するだって?で、お前がルシエンから依頼されたってことは…粛清を受ける聖域ってのは、まさか…」
「おいおいビビるなよカジート、ふつう、ブラックハンドからの勅命ってのは他人に知らせないものさ、たとえ家族が相手でもな。つまり、お嬢ちゃんは冗談を言ったのさ」
 大きな音を立てて息を呑むム=ラージ=ダーを冷やかすように、ゴグロンが言った。
 そうだよな?同意を求めて笑いかけるゴグロンに、ブラック17は微笑みを返しながら話を進める。
「残念だけど、冗談じゃないわ。これから、私があなた達を全員殺すの。これはもう決定事項よ」
 はじめは、その場にいた誰もが彼女の言葉を理解できなかった。
 ぽかんと口を開け、やがて言葉の内容を把握したところで、やはりこれはそういうジョークなのではないかという風にしか考えることができなかった。
 いったいどこの世界に、「これからあなたを殺します」と標的に宣言する殺し屋がいるだろうか?それも非武装の一般人や戦いの素人相手ではなく、練達の暗殺者集団に向かって?
 これはブラック17にとって、予想された範囲の反応だった。
 フゥ、彼女はため息をつくと、ふたたび口を開く。
「信じられないようね。それじゃあ、すこしやる気を出させてあげるわ」
 そう言って…



 ザシュッ!
「ゲボッ、ぐ、グゴボッ、ガ、ガハァッ……!?」
 ブラック17はム=ラージ=ダーを背後から取り押さえると、首筋に短刀を突き刺した。
「馬鹿な!」
 その光景を目にしたあとの、他の聖域のメンバーの反応は早かった。
 素早く席を立ち武器を抜いたが、すぐにブラック17に襲いかからず、その場から姿を消したのだ。



「…ふん、魔法でまとめて殺られるのを恐れたか。暗闇に身を潜めて待ち伏せする気か…」
 ドチャッ、ブラック17の拘束から解放されたム=ラージ=ダーが重力に従って仰向けに倒れ、カーペットにどす黒い血の染みができる。
 さて、他の連中はどこに隠れた?それとも逃げたか。
 数において圧倒的に有利なのは聖域の連中だが、追う者、追われる者でカテゴライズするなら、こちらが追う側なのだ。
 短刀にこびりついた血を指先で拭うと、ブラック17は微笑を浮かべながら謳うように呟いた。
「手を鳴らしなさい、鬼を誘うようにね…はやく逃げないと、捕まるだけじゃ済まないわよ」
 居住フロアを抜けて、ブラック17はホールへ向かおうとする。
 すると…



「…そこ!」
 ギィンッ!
 天井から矢のように飛び出してきた「それ」を、ブラック17は短刀の一撃でいなす。
 飛びかかってきたのは、銀製のダガーを握り不敵な笑みを浮かべるアントワネッタだった。
「一度あなたと本気でやりあってみたかったわ」
「あら、そう」
「それに、そろそろ裏切りに怯えて生活するのもうんざりしていたところなの。あなたの首とブラザーフッドの情報を手土産に別の組織へ移るのも手だと思わない?」
「悪くないわね。あなたに、その実力があるなら」
 互いに言葉を交わしながら、ブラック17の視覚を撹乱するように縦横無尽に跳ね回っていたアントワネッタが徐々に間合いを詰めていく。
 そして彼女は、ブラック17が見せた僅かな隙を見逃さなかった!



 ズバシャアッ!
 閃光のような早さで飛びかかるアントワネッタを、ブラック17が一刀のもとに斬り伏せる!
 切断された首が宙を舞い、おびただしい量の血を噴きながら床に転がり落ちた。
「残念だけど…あなたの攻撃よりも、それを見てから私が剣を振るう速度のほうが早いのよ」
 信じられない、という表情のまま絶命するアントワネッタの首を一瞥し、ブラック17はふたたび通路を進みはじめた。
 居住フロアの扉を開けてホールに出たが、人の気配はなかった。気配を消すのが上手いのか、あるいは本当に聖域から飛び出したのかもしれない。
 オチーヴァの執務室の前を通ったとき、ブラック17は扉が開いているのに気がついた。あのアルゴニアンの女性は几帳面な性格だから、扉を開け放ったまま部屋の外を動き回るようなことは決してしないはず。
 部屋の中を覗き込もうとしたところで、鋭い殺気を察知したブラック17は咄嗟に身を引いた。
 スパッ。
 白刃のきらめきとともに暗殺装束が切り裂かれ、ブラック17は僅かに出血する。しかし、襲撃者の姿はどこにも見られない。
「…オチーヴァね?」



 擬態能力を持つ暗殺者…かつて彼女自身が目の前で行使するのを目撃した…その存在に気づいたブラック17は、右目の義眼<シルヴィアの魔眼>と右腕のキャスト・デバイスユニットを直結させ、空間操作を行なおうとする。
 しかし、ザシュッ!ブラック17が技を使うよりも早く、オチーヴァの容赦のない斬撃が繰り返しブラック17の身体を捉える!
「くっ…、小細工をする余裕はない、か」
 ブラック17はオチーヴァの執務室へと入り、壁を背に正面を見据える。



 グジュッ、ズグ!
 いままさに刃を振り下ろさんとしていたオチーヴァの胴を、ブラック17の短刀が貫いた!
「な!ど、どう…して」
「閉鎖空間では攻撃のパターンが限られる。それと、たまにはカーペットを洗濯したほうがいいわよ。姿を消していても、床を踏んだときに塵が舞っては台無しだから」
 ズスッ、ドチャッ。
 ブラック17が短刀を引き抜くと同時に、オチーヴァが半ば透明の姿のまま倒れる。
「残っているのは、ヴィセンテ…と、ゴグロンか」
 あと探していないのは、訓練室か。
 オチーヴァの執務室の向かいにある訓練所の扉を開け、ブラック17は周囲を見回す。
 どこにいる…警戒するブラック17の背後で巨大な扉がバタンと音を立てて閉じた瞬間、強烈な一撃とともにブラック17の身体が宙に投げ出された!



 でかい図体をどこに隠していたのか、どでかい斧を携えたゴグロンがブラック17の目の前に姿を現す。
 ガッ、ドスン、扉に叩きつけられ床に手をつくブラック17に、ゴグロンが言った。
「残念だぜ、お嬢ちゃんとは上手くやっていけると思ってたのにな」
「怨むなとは言わないわ」
「だが、まあ、仕事なんだからしゃあねぇやな。もっとも、せこい手を使わずに正面から挑んできたことには敬意を表するぜ!」
 グオン、言葉を終えると同時に繰り出された斧の一撃を、ブラック17は今度はかわす。
 しかし次の一撃を短刀で受け止めようとしたとき、ブラック17は短刀もろとも吹っ飛ばされてしまった。バキンッ、音を立てて短刀が真っ二つに折れる。
「くがっ、くぅ…」
「おいおい、まさか俺様に力勝負でかなうと思ってるのか?」
 血を吐きながら立ち上がるブラック17に、ゴグロンが僅かに隙を見せる。
 だが、それが命取りになった…あっという間に間合いを詰めたブラック17はゴグロンの頭を掴むと、その巨体を片手で持ち上げ、握りつぶさんばかりの握力で締め上げた。
「ぐぬおおおおっ、ば、馬鹿なっ、こんな…!」
 細腕からは想像もつかない怪力に、ゴグロンが驚きの声を上げる。
 あらん限りの力を振り絞って巨体を揺らし、振りほどこうとするが、ブラック17の腕はびくともしない。
 しかも、彼女の攻撃はそれで終わりではなかった。
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト、レディ。フリーズ(氷結)…ストーム(暴嵐)…複合構術開始。クリスタル・アイス(輝晶風華)、ラン(起動)』
「ぬおおっ、まさか…魔法か!?」
 ブラック17の右腕に内蔵された人工魔法詠唱具キャスト・デバイスが起動し、右腕の展開とともに核となる魔導球が露出する。
 いよいよ全力で抵抗をはじめたゴグロンだったが、すでに身体から切り離された右手が彼の頭部を掴む力を緩めることはない!



 ガシャン。
 周囲に冷気が満ち溢れ、ゴグロンはその肉体を氷の彫像へと変化させる。
 クリスタル・アイス…肉体の組成変化。
 ゴグロンの肉体が凍ったのではなく、肉体そのものが水の固体へと変化してしまったのだ。
 ブラック17が手を離すと同時に、床に落下したゴグロン「だったもの」は音を立ててバラバラに崩れ去る。
 残るは…ヴィセンテただ一人。
 しかし彼はいったいどこへ向かったというのか。まさか、本当に逃げ出してしまったのか?
 これまでの戦闘でぼろぼろになり、血まみれになりながらも聖域の出口へと赴くブラック17。その背を、刀の一振りが襲った。



 ビシュッ!
 銃弾のように鋭い剣先の一撃をかわし、ブラック17は低い姿勢のまま振り返る。
 体勢を整え、ふたたび刀を構えたヴィセンテが口を開いた。
「まさか残ったのが私だけとは…さすがは最強の異名を持つだけのことはある」
「組織への忠誠を誓うなら、上層部の決定には素直に従うべきだと思うけど…みんなそれなりに抵抗したわね」
「死ねと命令されて、はいそうですかと言えるほど人格者ではないのでね。私自身にしても、何百年生きようと、それは変わらない…組織の命令は真実なのか?それとも、君が単に指令と偽り裏切りを働いているのか?私には判断できないが、いずれにせよ、黙って見過ごすわけにはいかない」
「死にたくないなら、私を殺すことね」
「そうさせてもらおう」
 ヴィセンテの言葉が終わるとともに、ブラック17は次の一撃を警戒する。しかし彼の行動は、ブラック17の予想を上回るものだった。
 彼は、手にした刀をブラック17に向けて投げたのだ!
 それを受け取るような真似はせず、ブラック17は刀を腕で弾き飛ばすことで隙を最小限に留める。それでも、ヴィセンテの接近を許す程度の僅かな隙が生まれてしまった!
 ブラック17に組みついたヴィセンテは、その鋭い牙を彼女の首筋に突き立てようとする!
「人間の血を直に摂取するのは何十年ぶりか…本来あまりこういう手段は好まないが、君には私の下僕になってもらおう!」
 ガッ!
 ブラック17の首筋に噛みつくヴィセンテ、しかし、なにかがおかしい!
「ぐ…が、ば、馬鹿な…!?」
「どう?私の血の味は…私を下僕にするんじゃないの?」
「馬鹿な…おかしいと思っていた。それだけ出血していて、なぜ平然と動き続けることができるのか。それは血ではない、見せかけの液体!そして君のその白い肌、それも肌ではない!」
 擬装用の人工皮膚に、人工血液。いや、血液ですらない、たんなる赤い液体。
 普通の人間を装うため、赤い液体が流れる白い皮を纏った殺し屋。その下にあったのは…
「それは…鱗か?それも、人工的に移植された皮膚装甲。それは…それは、竜鱗か!」
「あなた、生きたまま皮を剥がれた経験はある?生きたまま…身体を『造り変えられた』経験は?脳を生かされたまま骨を抜き取られ、金属の骨格に肉片をべとべと貼られて…身体全体に『悪魔の血』を流され、痛みだけで死ねるような状態のまま、大量の薬物で寝かしつけられたことは?」
 あまりに乱暴な手術、まさしく悪魔のような所業。
 かつて不老不死を夢見た者たちが編み出した外法、それが<プロジェクト・ブラック>。
「なんということだ、彼女には…彼女には、『私の攻撃が通らない!』」
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト、レディ。フレイム(火焔)…単体術式始動』



「グゥオオオァァアアアアア!!」
 ボン!
 身体の内部から爆発的な発火が起き、ヴィセンテは地獄の亡者のような悲鳴を上げる。
 やがて燃え尽きた彼の肉体は灰と化し、扉の隙間から吹く風によって一面に散っていった。
「…これでいい」
 ブラック17はそう呟くと、扉を開け、聖域の出入り口を偽装するための廃屋の中へと足を踏み入れた。
 やるべきことをやった。
 あの程度の連中を正面から叩き潰せないようでは、ブラックナンバー失格だ。まして、<彼女>を殺すことなど夢また夢。そう思ったからこそ、ブラック17は真っ向から宣戦布告し、聖域のメンバーに戦いを挑んだのだ。
 そして、くだらない感傷や良心と決別すべく、彼らの目を見ながら、彼らの断末魔を聞きながら、彼らの命を奪った。自分が大切だと思ったものを、自らの手でぶち壊すことで、もう後戻りができないように。冷酷非情なかつての自分を取り戻し、心を故郷に帰すために。
 だが…



「はぁっ…はぁっ……!」
 荒い息をつきながら、ブラック17はその場にへたれこむ。
 全身にこびりついた血、自分の、他人の、かつて大切な仲間だと一瞬でも感じた者たちの血を拭うこともせず、ブラック17は呻き声を上げた。
「…うっ…ううっ…く、はぁ…あ、あは…あはは…」
 やがて、苦しそうな呻き声は笑い声へと変わった。
「あは…あはは…あっは、あははは…あはははは」
 彼女は、しばらく笑った。笑い続けた。狂ったように。
 動揺している…なぜ?私は正しいことをしたはず、理屈ではわかっているし、感情の面でも折り合いがついたはず。
 それなのに、なぜ…感情が制御できない?
「あはははは!あっはははははは、はははははははは!」
 笑いたくない、笑いたくなんかないのに!
「うふふふ、うふ、あは、うふはははははは」
 辛いのに、苦しいのに。悲しいのに。
 …なぜ?
 気がつくと、ブラック17は涙を流していた。
 これは、違う。
 そうじゃない。
「ああ…そっか」
 わかってしまった。
 彼らを殺したせいじゃない。それを後悔しているわけじゃない。悲しんでいるのでもない。
「同じだ」
 同じなんだ。
「これって…」
 この感情。
 かつて一度だけ、同じ気持ちになったことがある。それを、ずっと忘れていた。
「思い出した」
 大切なものを、自分の手でぶち壊してしまった感覚。
 これは、そうだ。
「あのときと同じだ」
 あのとき。
 あのときも、私は自分の手で大切な人を殺してしまった。
 大切だった。ずっと愛していた。尊敬していた。
 だから、殺した。殺さざるを得なかった。殺さなければならなかった!

「同じなんだ。父さんを殺したときと」

 すべて、思い出した。

 自分の過去を。

 なぜ、自分がブラックナンバーになったのか。

 なぜ、暗殺者になったのか。

 すべてを思い出した。





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2014/06/27 (Fri)12:37

 どうも、グレアムです。最近「ペヤングだばぁ」「スマホを便器にシュート」「洗顔料で歯磨き」という負の三連コンボをかまして深刻な老化が心配されます。
 いままではそんなこと一度もやらかさなかったというか、そんなことやるのは不注意なマヌケくらいだろうとタカを括っていたのですが。いや、その自説を覆す気はないですけどね。上記の悲劇をやらかしたときの俺は、どう考えても「不注意なマヌケ」だったので。




 まぁ、そんなのはどうだっていいんだ。
 今回はOblivion用のMOD「MechaFox」のテクスチャを改造したのでその紹介を。元は白基調(発光ユニットは青)だったのを黒(発光ユニットは赤)に塗り替えるという、以前GhostArmorでやったようなのと同じ感じで。どうしてオタクは(ry
 色にメリハリがなくて見難いのは使用です。…嘘ですスイマセン。
 本当はもっとテクスチャの時点でハイライト乗せるのが基本中の基本というか、でもそこまで労力かける気がなかったので非常に雑な工作となっております。スマヌ、スマヌ…




 魅惑的ハイキック。これは前の部分が塞がっているバージョンですね(というか、こっちがデフォルト)。
 前が開いているバージョンはちょっと見えちゃいけない部分まで見えているので、ninjatoolsでは自粛せざるを得ないィッ!
 そんな仕様から予測されるように、このMODはHGEC用なのであります。胸揺れギミックもついているのでBBB(胸揺れ用のボーン)も必須なのでありますな。ないと胸が凄い伸びる。壊滅的なまでに。
 俺はこのMODのためにBBB(の一部)を入れました。もともと胸揺れにはさほど思い入れがないので、必須MODを動くようにするにはファイルを一つ入れるだけで良かったりする。これがあらゆるモーションで胸揺れ対応とかやろうとするとどえらく面倒らしいのですが。




 月(のようななにか)を背景に夜の街を見下ろす。
 ちなみにデフォルト設定だと鉤爪は戦闘モーション中に出現するようになってますが、オプション(だったかなぁ…)で常時表示することもできます。俺はそうしてます。たしかれどめにやり方が書いてあったはず。




 教会にて。ちなみに、中の人はちびのノルドです。
 じつは当初、この装備をちびのノルドのアナザーコスとして使おうか悩んでましたが、装備そのものの個性が強過ぎるので没に。個人的に使って楽しむだけになってしまった。






2014/06/25 (Wed)09:31



「私は、いったい何を…」
 レーヤウィンからシェイディンハルへと戻る道中。
 小高い丘の上で、日が落ちるのを眺めながら、ブラック17は自らの精神の動揺をどうにかして抑えようとしていた。
 …ここに来てからの私は、どうもおかしい。
 いままでは一時の気の迷いと思い込むことで無視してきたが、ここに至ってはもうそれでは済まされなかった。
「なんてこと…私は…私は…!」
 私は、聖域の連中に親愛の情を感じている。
 ティリンドリルの裏切りを知ったとき、ブラック17はたしかに深い悲しみと、憤りを感じたのだ。そう、裏切り…裏切りと感じたのだ。それは単に組織を裏切ったとかいう話ではなく、ブラック17は自身の心が裏切られたと、あのとき確かに認識したのだ。
 それは、他の聖域のメンバーと同様、彼女に対しても気を許していたからに他ならない。彼女と行動を共にしていたとき、確かに心に安らぎを感じていたからに他ならない。
「私は…あの連中を、まるで本物の家族のように」
 仲間でも気を許すな、それがたとえ同郷の士であっても。
 黒の里の教えをいままで忠実に守り、そしてそれが正しいことだと信じて疑わなかったブラック17は、ただ混乱していた。
 里の教えを守らぬこと、それは里の掟に反すること、それ即ち裏切りと同義である。
 深い絶望の念に捉われていたとき、ブラック17は腰のベルトに下がっていたポーチの中で水晶が輝き出したことに気がついた。
 それは、外界…異世界と交信するための希少な魔道具。
 ブラック17はその通信水晶を手に取ると、右目の義眼とリンクさせて水晶越しに転送されてくる映像を視野に映しだした。



『やぁ、連絡が遅れて済まなかった。そちらは万事滞りなく進んでいるかね?』
「16…随分遅かったじゃない!どれだけ待たせるつもりだったのよ」
『…どうした?』
 いつになく声を荒げるブラック17に、彼女の相棒であるブラック16は眉をひそめる。
 自分が「らしくない」態度を取っていることに気づいたブラック17は、慌てて咳払いをし、気を取り直して話を進めた。
「…ハァ。ところで、調査の方は終わったの?」
『本当に大丈夫かね?』
「うるさいわよ」
『…まぁ、君の心象はさて置くとしようか。我々がこの世界に干渉した、そもそもの目的…皇帝暗殺を邪魔し、標的を横取りした連中の正体が判明した』
 そうブラック16が言った直後、ブラック17の視界に一枚の映像が転送されてくる。



『連中の名は<深遠の暁>、メエルーンズ・デイゴンという邪神を崇拝するカルト集団らしい。奴らの目的はまさに信仰対象である邪神の復活、それもかなり計画が進んでいるようだな』
「邪神、ね…」
 正確に言えば、メエルーンズ・デイゴンは邪神とはすこしカテゴリが異なる。
 この世界における別次元<オブリビオン界>において、<デイドラ>と呼ばれる者たちが存在する。彼らには生死の概念がないため、通常、それらを「生命」と呼ぶことはない。
 その中でも特に強力な力を持つ者は<デイドラ・ロード>と呼ばれ、彼(あるいは、彼女)らは多数の配下を従え自らが支配する領域に君臨している。
 そして十六体存在すると言われているデイドラ・ロードの中でも死と破壊といった災厄を象徴するのがメエルーンズ・デイゴンだ。簡潔に定義するならば、異界に住む異質な知性体の王位階級的存在といったところだろう。
 その性格からブラック16はデイゴンを「邪神」と呼んだが、たしかにそのように認識しているシロディールの人間も多いものの、デイゴン(そして度々人間に不幸をもたらす他のデイドラ・ロード)自身は自らを邪悪な存在だとは認識していない。そもそも、価値観が人間とは根本から異なるためだ。
『これまでの歴史の中でも、デイゴンは度々人間が住む領域<ニルン>に、タムリエル大陸に侵攻したことがあるらしい。もっとも、そのたびに退けられオブリビオン界の自らの領域<デッドランド>に押し込められてきたらしいがね』
「それで…連中が邪神復活を画策しているとして、私はどうすればいいのかしら?」
 いかなる目的を持つどんな存在であろうと、黒の里の任務を阻害した者は許さない。
 当初より「暗殺の標的を横取りするような命知らずは徹底殲滅すべし」と教えられてきたブラック17は、てっきり自分が深遠の暁を壊滅させるよう命じられるものだとばかり考えてきた。
 しかしブラック16の口から出てきた言葉は、その真逆のものであった。
『いいか17、連中に手を貸してやれとは言わん。だが、手を出すな』
「…なんですって?」
『連中の好きにさせてやれ、と言ったのだ。邪神なぞ幾ら呼び出してもらっても構わん、そもそも異界に住まう我々には縁のない話だし、むしろ好都合だ』
「要点が見えないわ」
『邪神復活を利用して、我々は当初の目的を果たすことに決めた。君には話していなかったが、今回の任務は、皇帝の死そのものが目的ではない。為政者の死によって人間界に混乱をもたらし、<ある存在>を呼び出すことが目的だったのだ』
「いい加減に遠回しな言い方はやめてほしいものね」
『わかった、簡潔に言おう。我々は邪神を餌に、そちらの世界に<彼女>を呼び込むつもりだ』
「彼女?いったい誰なの?」
『彼女、さ』
「だから、それはいったい…」
 そこまで言って、ブラック17は「ハッ」となった。



「まさか…<彼女(The She)>?」
『そうだ。彼女は人間世界の危機、人類存亡の事態に必ず訪れる。たとえ、それが異世界であろうと…彼女は、人間を見境なく救う。そして、我々は彼女の死を願っている。次元跳躍、邪神との戦い…それにより消耗した彼女にとどめを刺すため、君がその世界にいるのだ』
「無謀すぎるわ」
 ブラック17は、<彼女>を実際にその目で見たことはない。
 かつて…ブラック17が住んでいた世界は、死にかけていた。世界、惑星が。それはすべて、傍若無人に振る舞う人間の身勝手さが原因だった。やがて世界を司る神、世界そのものといっていい存在が現れ、人類を根絶やしにしようとした。
 そこに、<彼女>が現れた。<彼女>は人間を救うために神を殺し、神の力を取り込むことでより強大な存在となった。より多くの人間の命を外敵から守るために。しかし彼女に惑星の環境を変える力はなく、また彼女は人間が住む環境そのものには関心がなかった。
 そしていま…ブラック17が元いた世界は、堕落した人間の増殖によって滅びかけている。
 かつて、神が死ぬ前の世界において「世界のバランスの調停」を担ってきた暗殺者集団である<黒の里>は、現在その活動方針を変え、「<彼女>という存在そのものの抹消」を目的に動いている。
 しかし…数多の神を殺し、人でありながら人の限界を超越した存在に、自分が太刀打ちできるだろうか?
 そんな疑問を抱いたブラック17に、ブラック16が語りかけた。
『その点はもちろん考えてある。というよりむしろ、こちらの調査のほうに時間を取られてしまったのが実情だ。当初の予定より大幅に連絡が遅れたのはそのためだ』
「何の調査をしていたの?」
『どうやら、シロディールには十六のデイドラ・ロードが造りし遺物…アーティファクトと呼ばれる魔道具が存在するらしい。君にはそれを収集してもらう』
「異界の神が造り出した道具の力を借りて、<彼女>を殺せ…と?」
『そういうことだ。ああ、それから』
 最後に、「忘れていたが」というふうに、ブラック16が言葉を付け足した。
『情報収集が完了したことで、ダーク・ブラザーフッドは利用価値を失った。もう連中に従う必要はないぞ…煮るなり焼くなり、好きなようにするがいい』
 そう言って、ブラック16は一方的に交信を打ち切った。
 ブラック17が握っていた通信水晶がパキリと音を立てて割れ、義眼越しの視界にノイズが走る。
 もともとブラック17がダーク・ブラザーフッドのために働いていたのは、この世界における情報収集を委託した際の交換条件だった。
 こちらの目的さえ達成されれば、こんな連中皆殺しにしてやる…ブラック17も、最初はそのように考えていた。それを理解していたからこそ、ブラック16もあのような物言いをしたのだろうが、しかし、今となっては自分がどうしたいのか、ブラック17にはわからなくなっていた。
「…とりあえず聖域に戻って、連中の出方を待つとしましょうか」
 そう言って立ち上がると、ブラック17はふたたびシェイディンハルに向かって駆け出した。

  **  **  **  **



「随分とまた…面倒なところに呼び出されたものね」
 シェイディンハルの聖域へと帰還したブラック17は、オチーヴァから一通の指令書を手渡された。
 それは、ルシエン・ラチャンス…はじめてブラック17がシロディールを訪れたときに彼女をシェイディンハルの聖域へと導いた男であり、ダーク・ブラザーフッドの幹部ブラックハンドの一人…彼の直筆によるものだった。
『あらかじめ注意しておく…この手紙の内容は君以外の者に知られてはならない!昨今の聖域内での裏切り行為と、それに伴う人員の損耗については既知のことと思う。そのことについて、特に部外者である君に相談したいことがある。ついては、シェイディンハル北東部のファラガット砦内部にある私の隠れ家に立ち寄ってほしい』
 本来なら、もう関わらなくても良いはずのもの。
 しかしブラック17には未だに迷いがあった。なによりブラック16は「もう連中に関わらなくてもいい」とは言ったが、「連中に関わるな」とは言わなかった。
 せめて、事の顛末を見届けるまで…あの聖域に安息が訪れるまでは、自分にできることであれば、力になりたい。
 そう思い、彼女はいまファラガット砦の入り口に立っていた。
『追伸…砦の内部には、かつてダーク・ブラザーフッドの一員としてシシスに仕えた同胞の亡骸を護衛代わりに徘徊させている。避けてくれればそれに越したことはないが、もし接近遭遇してしまった場合、躊躇なく破壊してもらって構わない』
「まったく…面倒よね」
 手紙の文面から視線を上げ、漆黒の鎧を身に纏ったスケルトンが周囲を巡回している姿を見たブラック17はため息をつく。
 できれば避けてほしい、だと?
 ブラック17は短刀を抜くと、近くにいたスケルトンに向かって真正面から立ち向かっていった。
「血が出ないのは不満だけど…気晴らしの相手になってもらうわよ」

  **  **  **  **

「彼女は無事到達できるだろうか…」
 一方、砦の最深部にて待ち構える男…ルシエン・ラチャンスは、ブラック17の身を案じていた。
 立て続けのトラブルで情緒不安定になりつつある、という報告は、オチーヴァから受けていた。ブラック17の実力を疑うわけではないが、人間というのは、僅かな隙が命取りになる。
 それに、黒の里との間で情報交換が済んだ以上、そもそもここへはやって来ないのでは…
 そう思っていた矢先、亡者の巣窟と居住スペースを隔てる鉄格子に髑髏の頭部が投げ込まれた。カシャン、乾いた音を立てて砕け散る頭骨を視界に捉え、その先にマントを羽織ったブラック17の姿があった。



「あなた、いつもこんな湿っぽい場所にいるの?」
「影に敬意を払うのだ、さすれば…案外と居心地が良いものだよ、こんな場所でも。意外と元気そうでなによりだ」
「…誰かから余計なことを聞いた?」
「いや、失礼。忘れてくれ」
 傍らに設置されているレバーを使って鉄格子を跳ね上げ、ルシエンはブラック17を招き入れる。
 マントを折り畳みながら、ブラック17は単刀直入にルシエンに尋ねた。
「それで、何の用?」
「じつは折り入って君に頼みたいことがある。これは、本来部外者である君にしか相談できないことだ…ところで、シロディールの住み心地はどうかね?」
「どういう意味?」
 核心を避け、世間話の水を向けるルシエンにブラック17は眉をしかめる。
 手紙の文面はいかにも事態が逼迫している様子を表していたが、それだというのに、ここに来てむざむざ時間の浪費をするとは、どういうわけだ?
 この質問には、なにか裏がある…そう直感したブラック17は、慎重に口を開いた。
「まあ、悪くはないわね」
「そうか、それは良かった。いや、遠まわしな質問はやめて正直に話そう…我々ダーク・ブラザーフッドと君たち黒の里の間にはもはや契約関係はない、それはわかっているね?」
「ええ。先日私の相棒から、もうあなたたちとは関わらなくていい…と言われたわ」
「そうか。まあ、そうだろうな。だが、我々は…できるなら、君を我が組織に迎え入れたい。もちろん、それなりの待遇は約束する。それに、もし君の故郷から追求があるようなら、それを退ける用意も」
「できると思うの?」
「我々も君の組織を観察していたのだ…君たちはまだ、この世界に積極的に干渉することはできない。違うかね?君がいまこの場に立っていること…立てていることも、相当に無理な術式の行使があってこそのはず」
「否定はしないけれどね…でも、あなた、本気で言ってるの?」
「ああ」
 短く返答するルシエンの表情は真面目そのものだった。
 おそらく、黒の里に戻れば…戻れれば、の話だが…また、殺すためだけに生かされる日々を送ることになるだろう。生きる喜びのないまま、言われるがままに他者の生命を奪い続けるだけの日々に戻るのだ。
 だが、シロディールにいれば…暗殺稼業を続けることに変わりはないにしろ、私生活はもっと潤ったものになるに違いない。
 ブラック17はしばらく押し黙り、この懸案事項について考え続けた。
 駄目だ、黒の里は裏切れない…それにルシエンが、たとえばティリンドリルのように自分を嵌めようとしていないとも限らないのだ。
 けっきょく、ブラック17の答えはひどく煮え切らないものになった。
「…今は結論を出せないわ」
「そうか。まあ、君たちにも本来の目的があるだろうしな。それ自体は我々とは関わりのないものだし、すべてを片づけてから改めて考えてくれても構わない」
 ルシエンの反応はさっぱりしたものだったが、その表情を見る限り、明らかに落胆していた。
 こいつは本当に私を「あて」にしているのだろうか?ブラック17は訝った。
 しかし、今はそんなことはどうでもいい。本来、これは本題のついで…オプションにあたる項目だ。
「それで、何のために私を呼んだの?まさか今のが話の核心ではないでしょう」
「ああ、そうだな。話を戻そう…レーヤウィンでの件は聞いたよ。標的の暗殺には失敗したが、君は裏切り者の抹殺に成功し、そして見事にあの場から逃げ延びた。これは賞賛されて然るべきことだ」
「光栄だわ」
「だが残念なことに、裏切り者はティリンドリルだけではなかった。組織内での裏切り行為はなおも続いており、未だに犠牲者が増え続けている」
「難儀な話ね。それで、その裏切りの端緒は?まさかシェイディンハルの聖域ではないでしょう?」
 まさか、この期に及んでまだあの場に裏切り者が潜んでいるはずがない。
 それは半ばブラック17の願望のようなものだったが、しかし、ルシエンの言葉はその期待を裏切るものだった。
「残念ながら…裏切りはシェイディンハルからはじまっている。巧妙に隠されてはいるが、我々の目は誤魔化されない」
「じゃあ、私に頼みたいことっていうのは…裏切り者狩り?」
「ある意味ではそうだ」
 ルシエンがなにやら含みのある言い方をした。嫌な予感がする。
「もはや、シェイディンハルの聖域は機能していない…と言わざるを得ない。裏切りの横行と、裏切りに向けられる猜疑心。裏切り者は、そうでない者にも毒のように悪影響を伝播させてしまった」
「何が言いたいの」
「君に依頼したいのは、<浄化の儀式>…聖域のメンバー全員の抹殺だ」



 浄化の儀式。
 ルシエンの言葉を聞いたとき、ブラック17は頭の中が真っ白になった。
 彼らを…聖域の皆を、殺す?
「…冗談よね?」
「疑う気持ちはわかる。我々も、有能な暗殺者たちをみすみす死なせることに抵抗がないわけではないのだ。長いダーク・ブラザーフッドの歴史の中でも、この浄化の儀式は過去に二回しか行使されたことがない。だが、もう裏切り者を探し出し、そいつだけを殺せば済む問題ではなくなっているのだ」
「もし、断ったら?」
「別の者が儀式を代行する、それだけだ。君を追及するつもりはないし、君は…あの聖域に、彼らに愛着を持っているようだ。だからこそ君自身の手で、と思ったのだが、目を背けたいならば…無理は言うまい」
 そう言って、ルシエンは口をつぐんだ。考える時間を与えよう、というわけだ。
 イエスだろうと、ノーだろうと、ルシエンが欲しがっていたのは明確な返事だった。これはさっきのようにはいかないだろう。急すぎるとか、そもそも任務の正当性に疑いがあるとか、また日を改めてとか、そういうくだらない戯言は通用しないはずだ。
 聖域のメンバーを死なせない方法はないか…ブラック17はその可能性について模索してみたが、少し考えただけで無駄なことだと悟った。
 これがルシエンの独断専行でなければ、組織はシェイディンハルの聖域の壊滅を確認するまで追求の手を緩めることはないだろう。戦争になる。聖域の皆を守るために、ダーク・ブラザーフッド全体を敵に回す…荒唐無稽な話だ。できる、できないの話ではない。わずかな命を救うために、より多くの命を奪えるか。これはそういう決断だ。あまりにも馬鹿げていた。
 なにより、聖域のメンバーがダーク・ブラザーフッドの手を離れて活動できるとは思わなかった。あれはあれで、頭から足先まで組織の流儀にどっぷりと浸かっている。暗殺者として有能であることに変わりはないだろうが、所詮は狂人の集まりだ。
 そういうわけで…ブラック17はまだ口には出さなかったが、返事はすでに決めていた。
 理屈は片付いた。問題は感情面での折り合いだ。ブラック17には未だ、自分が彼らを…オチーヴァ、ヴィセンテ、ゴグロン、アントワネッタ、ム=ラージ=ダーを殺すビジョンを思い描くことができないでいた。
 逡巡する彼女を後押しするかのように、ルシエンが言葉を付け加える。
「もし、依頼を受けてもらえるなら…アドバイスがある。彼らも練達の暗殺者だ、まともにやりあえば無事では済むまい。私なら、毒殺を図る。彼らは任務の外、プライベートでは気を緩める傾向がある。それに毒ならば、余計な苦しみを与えることなく彼らの魂をシシスの許へ送ることができるだろう」
 それは、おそらく親切からであったのだろう。それと、プロとしての助言。
 しかしその一言が、ブラック17の癇に障った。
 いままでずっと黙っていたブラック17が、突然、笑い声を上げる。
「…ふっ、ふふふ…あはっ、あはは」
「どうしたのだね?」
「あは、あはは。ふふっ、うふふ、あははははは」
 最初は押し殺した笑いだったのが、だんだん声が大きくなり、しまいには甲高い笑い声になる。
 狂ったように笑い続けながら、ブラック17は言った。
「いいわ、やるわよ。連中を全員殺せばいいんでしょう?」
「…大丈夫かね?」
「大丈夫か、ですって?私を愚弄する気?私を誰だと思ってるの…毒殺?笑わせないで」



 ブラック17は手に抱えていたマントをふたたび羽織ると、ルシエンに背を向けた。
 彼女が踵を返す直前、その瞳を覗いたルシエンは、思わず頬を引きつらせた。その目に、たしかな狂気が宿っていることを認識して。
 さっきまでの動揺や逡巡がまるで嘘のように、ブラック17は気狂いじみた壮絶な笑みを浮かべると、ルシエンの一言がきっかけで心の迷いに決着をつけられたことを心の中で彼に感謝した。
 …いままで、なにを下らないことに頭を悩ませていたのだろう?
 毒殺、余計な苦しみを与えず…そう聞いたとき、一瞬、それもいいかもしれない、と思ったのだ。だがそう思った瞬間、ブラック17の心の奥底に眠っていたプライドが怒りの炎を吹き出し、彼女の脳を焼き尽くした。
 こそこそと毒を盛る?標的を気遣う?冗談じゃない!
 私はブラックナンバー、黒の里最強の殺し屋なのだ。いかなる障害をも力で捻じ伏せ、叩き潰す。人間など、生命など、ゴミクズ以下の価値しかない。何も迷う必要などない。
 聖域の連中を皆殺しにしてやる、下らない感傷ごと!すべてを消し去ってやる!
「見せてあげるわ…黒の里のやりかたを。私たちの流儀を」
 そう言って姿を消すブラック17の背中を見守りながら…ルシエンは、彼女に浄化の儀式を任せたことを後悔しはじめていた。
 なにか、とんでもないことが起こりそうな予感がする…





2014/06/17 (Tue)18:28



 ティナーヴァの訃報はシェイディンハルの聖域に衝撃を与えた。
 またサッチ砦でブラック17とティナーヴァを待ち伏せしていたのが帝国軍の兵士だったこと、そして暗殺者の死を帝国軍の手柄として黒馬新聞が一面の記事に載せたことも、事態の深刻化に拍車をかけた。
 あまりに早い情報の伝播は帝国軍が意図的に新聞社へ情報をリークしたからだと予測され、それはつまり、情報を流す用意があったこと、今回の襲撃計画があらかじめ周到に計画されたものであることの証明でもあった。
『ついに伝説の暗殺教団の手掛かりを掴んだ!?多大な犠牲を払いながらも暗殺者のうちの一人の討伐に成功した帝国軍、もう一人の暗殺者を寸でのところで逃したものの、その追及を緩める気配は一向になく、捕らえるのも時間の問題と思われる…』
 そう書かれた黒馬新聞の一面記事を見つめ、ブラック17はため息をつく。
 今回の作戦を指揮したのは、以前よりダーク・ブラザーフッド壊滅に心血を注いできた帝国軍総司令官アダムス・フィリダ。
 どうやら彼は年齢を理由に引退を間近に控えていたらしく、以降は後任のジョバンニ・チベッロに作戦の指揮を任せレーヤウィンの別邸で隠居生活を送る予定だ…と、記事の末尾に付記されていた。



 そこでダーク・ブラザーフッドの幹部連<ブラックハンド>より、シェイディンハル支部に「アダムス・フィリダ暗殺」の勅命が下った。
「おそらく、隠居先を新聞記事に載せたのは我々を誘い出すためでしょう。大勢の護衛を従え、手ぐすね引いて待ち構えているはず…しかし、ここで引き下がるわけにはいきません」
 長年連れ添った兄を失った悲しみと怒りに燃えながらも、自ら動くことを許されていないオチーヴァは今回の任務をブラック17とティリンドリル…弓の名手として知られるウッドエルフ…の二人に一任することを決めた。
 そして任務に赴く二人の前に差し出された、一本の矢。
「これは、シシスの黒薔薇と呼ばれる伝説のマジックアイテムです。この矢を受けた人間の全身に猛毒を伝播させ、一瞬のうちに死に至らしめるもの。アダムス・フィリダを絶命させるのは、この矢の一撃でなければなりません!それは我々を敵に回した帝国軍へのメッセージとなり、恐怖の象徴として伝わるものとなるのですから」
「私は弓は使わないから…このとっておきの一撃はあなたのものになるわね。今回はあなたが主役よ、ティリンドリル」
 そう言って、ブラック17はシシスの黒薔薇をティリンドリルに手渡した。
「まさか、この伝説の矢を私が扱うことになるなんて…まさに名誉だわ。暗殺者としての誉れよ」
「感動するのは任務を実行してからよ。土壇場で外されたんじゃあ、私の立場がないわ」
 組織に伝わる希少なマジックアイテムを手に目を輝かせるティリンドリルを、ブラック17は幾分冷めた態度で諌める。
 かくして、二人の暗殺者はレーヤウィンへと向かった。史上もっとも困難と思われる任務を遂行するために…

  **  **  **  **



「ねぇ、ティリンドリル」
「なにかしら?」
 道中立ち寄った、ボーダーウォッチという名の村にあった宿。
 互いに私服姿で夕餉を嗜んでいたとき、不意に、ブラック17はティリンドリルに尋ねた。
「あなたにとって、聖域って…なに?」
「なによ、いきなり。どうしたの?らしくないわよ、ノワール・ディセット」
 沈痛な面持ちのまま質問するブラック17に、ティリンドリルが戸惑いがちな笑みを浮かべる。ちなみに、ノワール・ディセットとはブラック17が外界で活動するときに使っている偽名だ。
 この村の特産であるチーズをつまにみタミカ・ワインを口の中で転がしながら、ティリンドリルが言う。
「あなた、ティナーヴァが死んでから随分と気を落ち込ませているわね。あなたの責任ではないのに」
「私は、そんなつもりじゃあ…」
「責任感に苦しんでいるのでなければ、情が移ったのかしら?」
「…かも、しれない。違うかもしれない。わからないのよ、それが」
「まさか冷酷非道な殺人機械だったあなたが、この短期間でこうも変わるとはね。でも、まあ、悪いことではないと思うわ。人間らしい心を持つというのは」
「そうかしら?」
「そうよ。私も、ときおり故郷のヴァレンウッドが恋しくなるけど…それでも、私にとって家族とは、真に家族と呼べる存在は、聖域の皆だけ。大切なものがあるからこそ、それを守るために冷酷にもなれるのよ。ただの人形に大義は務まらないわ」
「ただの人形、か…」
 そうだったのかもしれない。
 いままでの自分は、意思も感情も持たないただの奴隷人形に過ぎなかったのかもしれない。こうして人間らしい心を自覚しはじめたのは、良い兆候なのでは?
 だが、結論を出すには早すぎる…とりあえずは、目の前の任務に集中しなくては。
 この困難な任務を終えたとき、そのあとで考えよう。
 そう思い、ブラック17はビールをぐっと呷った。

  **  **  **  **



「酷い天気ね」
 レーヤウィンは嵐のような大雨だった。もっとも、普段から任務(監視任務らしい、シロディールの外の勢力からの干渉を見張るためというが…)でレーヤウィンに足を運ぶ機会が多いティリンドリル曰く、「ここはいつもこんな天気」らしいのだが。
 目的地に到着した二人は、教会の尖塔から標的の居場所を監視していた。
 シシスの黒薔薇の持つ猛毒の威力は疑うべくもないが、しかし遠距離からの狙撃で確実に鎧の装甲を貫くのは難しい、というのはティリンドリルの意見だ。おまけに帝国軍の鎧は矢を弾きやすいよう曲線が多用されていることから、鎧を着用しているときに狙うのは困難だ…ということらしい。
 もちろん顔面を正確に射抜けば鎧の装甲云々は関係なくなるが、頭部というのは四肢の末端と同様、人間の身体のパーツの中でももっとも動きが激しい部分だ。
 狙撃というのは遠距離の的を正確に射抜く技術だけではなく、確実に標的を仕留める状況を作り出す能力も必要とされる。ブラック17にしても、不確定要素に任務の重要部分を委ねるような真似は避けたかった。
 ゆえに、標的であるアダムス・フィリダがその鎧を外しているときこそ好機…そう考え、二人はずっと監視を続けていたのである。



「ここから見えるだけでも護衛が六人はいるわね。たぶん、敷地の外側を巡回している連中を数に入れるともっといるはず」
 ブラック17は、自らの右目…<シルヴィアの魔眼>から得た視覚情報を頼りにそうティリンドリルに伝える。
 すでに二人はアダムス・フィリダの生活パターンをある程度把握しており、一日に一度決まった時間に水浴びすることを掴んでいた。
 どれだけ生命の危機に脅かされていようと、重装のまま水浴びをする人間はいない。
 だが水浴びしている最中のアダムスの動きは決してゆっくりとは言い難く、おまけに身体の大半が水に浸かっているため、事実上、狙えるのは頭部のみとなってしまう(矢を着水覚悟で胴を狙うことも可能だが、殺傷能力がなくなるわけではないとはいえ威力は大幅に削がれ、狙いも予想できない方向にずれるため、確実性は下がる)。
「念のために確認しておくけど、この位置から人を狙撃できるだけの腕はあるのよね?」
「もちろん、人間大の的に確実に当てれる自信はあるわ。ただ不確定要素が多い以上、過信は禁物だけど」
「狙撃手が正体を悟られず確実に逃走するには、ここが最至近距離なのよね。鎧を着用していないとはいえ、頭しか出ていないんじゃあアドバンテージがほとんどないのも問題だわ」
 任務の遂行をより確実なものにすべく、二人は綿密な打ち合わせを行なう。
 一番確実なのは水浴びを終えた直後、水から上がった瞬間に狙撃することだが、いつ上がるかの正確な時間がわからないうえ、タイミングを測りながら弓の弦を引き続ける必要がある。
 当然、アダムスは狙撃の可能性も考慮に入れている。いままで観察した中では、水から上がってから護衛に連れられてからのわずかな時間しか猶予がない…つまり、陸に上がってから弓を引いてからでは遅い。
 しかも弓の弦を引き続けるのは大変な力と労力を要する。集中力もだ。もし「その瞬間」がやってきたとき、集中力が途切れてしまっては何もかもが台無しになってしまう。
 狙撃の確実性を上げるためには、こちらが狙ったタイミングで水面から身体を晒させる必要がある。
「私が護衛の注意を惹きつける。すぐ近くで暗殺者が暴れたとなれば、奴はすぐに水から上がってその場から離れようとするはず」
「あなた一人であそこに行くの!?自殺行為よ」
「…それに、私がすべての注意を惹けば狙撃があってもすぐに狙撃者の場所の特定はできないはず。あなたも逃げやすくなる」
 ブラック17の提案に、ティリンドリルが目を丸くする。
 無茶を言っているのは自覚している、しかし…ブラック17は固い決意を胸に、口を開いた。
「もう私とともに任務を遂行した…仲間を…死なせない」
「仲間、ね。これは光栄と思っていいのかしら」
「派手にやるから、それを合図に弓を引いて。すぐに標的を水から引きずり出してみせる」
 そう言うと、ブラック17は尖塔から飛び降りた。

  **  **  **  **

「おい、ここは立ち入り禁止だ。なんだその格好、まるで殺し屋みたいな…」
「花売りにでも見える?」
「どっちかっていうと変わった街娼みたいだな」
 厳戒態勢の中の私有地に近づいたブラック17は、シェイディンハルから貸し出された護衛の一人に行動を見咎められていた。
 事前に暗殺者の襲撃があると知らされているからか、護衛の中に気の緩みを見せる者は一人もいない。
 かといって、まさかいかにも暗殺者然とした不審者がやって来るとは思わなかったのか、ブラック17の接近に対してそれほど強硬な態度に出てくることはなかった。
 池の中からこちらを覗いてくるアダムスの姿を見つめながら、ブラック17は「いますぐ奴に襲いかかったら殺せるだろうか」などと考えた。
 いや、とブラック17はかぶりを振る。
 殺せないことはないだろう。しかし暗殺はシシスの黒薔薇によって行なわれなければならない。たとえ自らの手を下せるチャンスがあったとしても、自重しなくては。
「もし私が、本物の暗殺者だ…と言ったら、どうする?」
「本物にしろ、そうでないにしろ、不審な者は捕らえても良いというお達しが出ている。これ以上ここに留まるつもりなら、本当に拘束するぞ?」
「あら、そう」



 やんわりと警告を受けたブラック17は、目前にいる護衛の首筋に短刀の刃を走らせた。
「やってご覧なさい。できるものならね」
 ざわっ…
 多量の血を噴きながら倒れる仲間の姿を見て、周辺を警戒していた護衛たちが一斉に動き出す。
 また、騒ぎを聞きつけて敷地の外からも続々と集まってくるシェイディンハルの兵士たちを見て、ブラック17は凄みのある笑みを浮かべた。
「まるでイナゴね。雑兵どもに私が止められるかしら」
 こうして…シェイディンハルの市民が悲鳴を上げながら逃げ惑うなか、ブラック17と兵士たちの戦いがはじまった。
 万一にでも狙撃手の視界を遮ることがないよう、ブラック17は魔法の使用を控え短刀のみで迫り来る護衛を捌いていく。
 やがて…
「ついに出おったか、暗殺者め!誰ぞ、ワシの鎧を持てい!」
 ザッバァーッ!
 派手な水音を立てて、老練のアダムス・フィリダが立ち上がる。全身を外気に晒し、まさしく射撃場の的のように佇む姿を見て、ブラック17は心の中で叫んだ!
「(…今よ、ティリンドリル!)」
 そして…ビシュッ!
 空気を切り裂く音とともに、シシスの黒薔薇が標的目がけて飛翔する!



「…え……?」
 ドスッ。
 鈍い音とともに、矢が胸を貫く。
 まさか…?
 ブラック17は、自分とはかなり離れた距離にいるアダムスが何処かへと姿を消すのを見つめ、悟った。
 的を外したとは考えられない。狙われたのは、私だ…
 ブラック17は自らの胸に突き立てられたシシスの黒薔薇を見つめ、倒れた。

  **  **  **  **

「馬鹿な小娘」
 教会の尖塔から一部始終を見ていたティリンドリルは、その一言をブラック17への手向けとした。
 まさか、組織からシシスの黒薔薇を授けられるとは思わなかったが…たしかに名誉なことではあったが、そういう希少な武具を裏切りに利用したというのも、それはそれで背徳的な喜びがあったことは確かだ。
 あとはアダムスが自分の死を偽装してくれる。それで仕舞いだ…もう、シェイディンハルの聖域と関わることもなくなる。自分の好きなように生きることができる、奴隷のように大陸のあちこちを走り回らされることもなく。
 さあ、あとはここから逃げるだけだ…そう考えたとき、眼下で巨大な爆発音が響いた。



 さっきまでブラック17を取り囲んでいたアダムスの護衛が、いっせいに吹っ飛ぶ。
「なに?なんだというの!?」
 まさか、自爆用のスクロールか?
 そう考えてすぐ、ティリンドリルはその推測が間違いであると思い直した。
 ブラック17はダーク・ブラザーフッドの一員ではない、ティナーヴァと同様のスクロールは持っていないはず。それにあの爆破魔法、もしあれが魔法だとすれば、だが…ブラック17が放った魔法だとすれば。
「まさか、まだ生きている!?」
 そう確信したティリンドリルはふたたび弓を構え、矢をつがえる。
 だが。



「まさか、あなたが裏切り者だったとはね」
「ど、どうして…」
「私に人間用の毒は効かない…立て!」
 果たしてブラック17は、ティリンドリルの背後に立っていた。血塗れの姿で。
 咄嗟に短剣を抜いて襲いかかろうとするティリンドリル、しかしブラック17は短剣を持つ手首ごとへし折ると、彼女の首筋を掴んで持ち上げた。
「ぐあっ…く、くぎぎ…っ!」
「貴様、いつから帝国軍に加担していた?なぜ裏切った?」
「…く、ほほっ…なんのこと、かしら?」
「とぼけるな!サッチ砦での作戦の情報を流したのも貴様だろう、吐け!」
「ふふ…た、たしかに、帝国軍に情報を流したのは私よ。でも、べつに帝国軍のためにやったわけじゃないわ。もちろん、帝国軍からも報酬は頂いたけどね」
「なんの話だ」
「いい、これはね…もっと個人的な復讐なのよ。といっても、私も詳しくは知らされていないけど」
 手首を折られ、首を絞められていてもなお、ティリンドリルは不適な笑みを崩さず話し続ける。
 その態度は、ブラック17にとってまったく気に入らないものだった。
「あの宿で…聖域の皆は家族だと言った、あれは嘘だったの…?」
「あなたも意外とネンネなのね。あんなもの、あなたを油断させるための嘘に決まっているでしょう?どうせ他の連中も、腹の中で考えていることはそう変わりはしないわよ」
「…そう……」
「それで、どうするの?私を殺す?いいわよ、できるものならね。でも、私を殺したって何も変わらないわよ。裏切りは止まらない、この大きな流れを止めることはすでに不可能なのよ」
「…たしかに、貴様を殺しても何も変わらないかもしれない。ただの下っ端の貴様を殺したところでな」
 そこまで言って、ブラック17も笑みを浮かべる。
 ティリンドリルの瞳を真っ直ぐに見つめ、その首を掴みながら尖塔の縁に立ち、そして言った。
「だったら、別に殺しても構わないわけよね?」
「……え?」
 そして。







 教会の尖塔から投げ出されたティリンドリルは、街路地にはらわたをぶち撒けて、死んだ。
 ここに来る前、キャスト・デバイスを用いた術式を行使したとき、すでにアダムス・フィリダの姿はなかった。うまく爆発に巻き込めれば良かったのだが、おそらくは逃げられたのだろう。
 任務に失敗した。しかし、これはもともと遂行不可能な任務だったのだ。裏切り者に命運を託したとあっては。
 ブラック17は自らの胸に突き刺さったシシスの黒薔薇を引き抜き、片手でへし折って捨てる。
 そう、自分には人間用の毒は効かない。自分の体内に流れているのは人間の血ではないからだ。この肉体は、すでに人間とはかけ離れているからだ。
「…帰ろう」
 そうつぶやくと、ブラック17は尖塔から飛び降り、影のようにレーヤウィンから姿を消した。
 レーヤウィンに残されたのは理不尽な暴力が生み出した喧騒と、謎の暗殺者の死体に集う群集のざわめきだった。





2014/06/15 (Sun)15:59

「暗殺者に襲われた、ですって!?」
「ええ。といっても、どうもフリーランスのように見えたけれどね。まあ、命を狙われたことに違いはないけれど」



 シェイディンハルの廃屋地下、暗殺教団ダーク・ブラザーフッドの聖域。
 サミットミスト邸…スキングラッドの豪邸での仕事を終えたブラック17は、それが予定通りに行かなかったこと、ブラザーフッドのエージェントが殺されたこと、そして自身もまた命を狙われたことをティナーヴァに報告していた。
 その驚くべき内容にオチーヴァは動揺し、ぶつぶつと小声でつぶやき続ける。
「ありえないわ。ありえない…この聖域の情報管理は徹底しているはず。それに、万一裏切り者が…そんな、ファミリーに裏切り者がいるなんて…信じられないし、ありえない」
「もし私が嘘とついてるというのなら、まあ、疑ってくれても良いけれどね。どのみち私は部外者なんだし」
「いえ…いえ。貴女の報告を信じましょう。これは慎重に受け止めねばならない問題です、にわかに信じ難い話ではありますが、だからといって無視して良いものでも、また、無視すべきことでもありませんから」
 そこまで言うと、オチーヴァは一度席から立ち、棚から液体入りの瓶を取り出した。
 テーブルの上に置かれた薬瓶を見つめるブラック17に向かって、オチーヴァが言葉を続ける。
「任務のあとでお疲れだとは思うけど、じつはもう一つ、貴女にやってほしい仕事があるのよ」
「随分と急ぐのね」
「今回の標的は、あまり長い間一つ処に留まらないの。我々は彼の跡を追い続け、そしてようやく発見した…おそらく、チャンスは今回限り。この機会を逃せば、二度とその足取りを掴むことはできなくなるでしょうね」
「用心深い標的、というやつね。誰なの?」
「ロデリック将軍…元帝国軍将校よ。彼はいま病床に伏せっていて、護衛を伴い各地を転々としているの。抜け目なく、慎重な男。それはかつて帝国軍人だった頃、多く敵を作ったことで形作られた性格だわ」
「それで、奴は何処に?といってもこの組織のことだから、たんに居城に乗り込んで暴れて来いってことにはならないのだろうけど」
「よくわかっていますね」
 そこで、と言って、オチーヴァはテーブルの上の薬瓶をうやうやしく持ち上げた。
「ロデリック将軍は毎日、決まった時間に薬を摂取しているようです。そう、ちょうどこんな瓶に入ったものをね…そこで今回、貴女にはロデリック将軍が潜伏するサッチ砦に潜入してもらい、誰にも見つからず薬をこの毒薬とすり替えてきてほしいのです」
「回りくどいやり方ね。これはクライアントの意向?悪趣味だわ」
「質問は許しません…と言いたいところですが、少しだけ教えましょう。もちろん、たんなる趣向で特別な殺しを求める依頼者も少なくありません。がしかし、今回の件に限っては事故死を装ってもらわねばならない事情があるのです。将軍の生死の動向には、極めて微妙な政治的問題が絡むのですよ」
「なるほど、それ以上は聞かないでおくわ」
 お偉方の事情などどうでもいい、というふうにブラック17は手を振った。
 それにしても、本来の目的を果たすため…ちょっとした情報を得るためだけにどれだけ厄介ごとを押しつけられるのか…と、そこまで考えてブラック17は雑念を振り払った。
 当面の生活の面倒を見てもらっている、という点を抜きにしても、しばらくダークブラザーフッドに従うのは故郷である黒の里の意向でもあるし、本部からの連絡がない以上、ここで任務をまっとうする以外に道はない。
「それで、今回は目付けはいるのかしら?」
「貴女にはもう目付けは必要ありません。その能力と任務への忠誠は疑う余地がありませんし…とはいえ、今回は困難な任務になることが予測されます。そこで、彼を」
 オチーヴァが執務室の影を指すと、そこにさっきまで居なかったはずの男…オチーヴァと瓜二つのアルゴニアン、双子の兄ティナーヴァが佇んでいた。
「彼はこの聖域の中でも特に腕利きです。私と同様、隠密作戦を得意とするところは言うに及ばず」
「貴女に影の加護があらんことを( Shadow hide you )、レディ。いつも妹が世話になっているようで、どうかお手柔らかに頼みますよ」
「そんな、私が彼女をいじめてるみたいな言い方をするわけ?」
「ははっ、ご冗談を」
 そう言って、ティナーヴァは気さくな笑い声を上げた。無論、その爬虫類の瞳は欠片も笑っていなかったが。
 このアンバランスさはなんだろうな、とブラック17は考えた。種族的なものなのか、こいつ個人の個性なのか。いずれにせよ、蜥蜴と人間のハイブリッドという見慣れぬ存在には違いなく、未だに違和感なく接するのに苦労する。
 もっとも、それは彼・彼女らも理解しているらしく、その点について深い突っ込みをかけてくるようなことはしてこない。
「サッチ砦は大陸の西端、アンヴィルの北にあります。かなりの遠出となるでしょうから、早めに出発したほうがいいでしょう」
 オチーヴァに促され、ブラック17は荷造りをはじめる。といっても外界で怪しまれないための私服と最低限の食料だけなので、たいして時間はかからないのだが。

  **  **  **  **



「まだターゲットが移動していないといいけど」
 ブラック17とティーヴァの二人がサッチ砦に到着したのは、一週間後の夜だった。
 私服を近場の宿に置き、暗殺装束に着替えた二人は砦の全貌が見える位置まで移動する。
「ここが砦に続く隠し通路ね?」
「そうだ。かつての軍事拠点にはありがちな代物だが、いざというときに階級の高い者だけでも逃げ延びることができるよう、こういったものが用意されていたらしい」
 そう言って、ティナーヴァはサッチ砦へと続く隠し通路への戸を引き上げた。
 これはダーク・ブラザーフッドが行なっていた事前調査で判明したルートだ。標的がこの通路の存在を知っているかどうかまではわからなかったが、すくなくとも、正面から乗り込むよりはましなはずだ。
 ただ…戸が開いた途端に漂ってくる異臭に、ブラック17は思わず顔をしかめる。一方、ティナーヴァはといえば普段通りの平静さを保っていた。
「…ちょっと聞いていいかしら?」
「なにかな?」
「これ、専用の隠し通路だったの?というか、元は他の用途に作られたものを転用したのではなくて?」
「ああ、そうだな。たしか普段は用水路として運用されていたはずだ」
「用水路って…要するに下水よね、これ」
「そうだが?」
「そうだがって…」



 お世辞にも衛生的とは言えない廃墟の、さらに地下の下水ともなればそれはもう相当な匂いを発するのは火を見るより明らかなことだ。
 おまけに、先に進むにはどうも、天井までどっぷりと浸水した道を通らなければならないようだった。
「どうした?早くしてくれないか」
「…これ、潜るの…?」
「当たり前だろう」
 しかし、異臭や汚水をものともせず飛び込み、さっさと先に進もうとするティナーヴァにブラック17は重いため息をついた。
 そういえば以前、オチーヴァと一緒に仕事をしたときも、こんなシチュエーションがあったような気がしたのだが…
「私は機械…ただの機械…殺人機械…感情なんかないわ…感情なんて…」
 ぶつぶつぶつぶつ。
 平常心を保つため必死に自分に言い聞かせながら、ブラック17は汚水の中へ足を踏み入れた。

  **  **  **  **



 用水路を抜け地上階へと出た二人は、ロデリック将軍についている護衛の様子を影の中から観察した。
「どうやら傭兵を数人雇っているだけのようだな。もともと秘匿された場所だからか、士気もそれほど高くない」
「といっても、どうやら個人的な縁で雇った連中みたいね。最低限のプライドは持っているみたい」
 通常、こういう場所の護衛を任される人間は「そもそも居場所を知られていないはずなのに襲われるはずがない」だの、「時間の無駄だ、やってられねえ」だのといった愚痴をこぼすのが常だが、ここの傭兵たちはそうではなかった。
 将軍の容態は良くなるのか、このままでは自分たちは働き損になるのではないか…特に将軍の名を口に出すときには一際気を遣う様子が見られ、依頼主への経緯を態度で表しているのがよくわかる。
「まあ、装備はあまり高価なものを身につけていないし、注意が散漫になっているのも確かだから、連中を出し抜くのはそんなに難しくないでしょうね」
 そう言って、ブラック17は病床に伏せるロデリック将軍のもとへ向かった。



「しかし、よく寝ていること」
 苦悶の表情を浮かべ、全身から玉のような汗を噴き出しているロデリック将軍の傍らに立ち、ブラック17は短刀を構えた。
「このままだと楽に殺せそうよね」
「気持ちはわかるが、シスター(妹よ)、それはメニューにない」
「シスター?」
「おっと、すまない。貴女はブラザーフッドの一員ではないのだったな。つい、口癖でな」
 組織内の敬称で呼ばれたことに片眉を吊り上げたブラック17に対し、ティナーヴァは弁解がましくそう答えた(といっても、その態度はまったく悪びれていなかったが)。
 ダーク・ブラザーフッドの信徒、それがシェイディンハルの聖域内でのみ通用するローカルなルールなのか、それとも組織全体にそういった教義が浸透しているのかまではわからなかったが、ともかく、彼らは互いをファミリーと見なし、それぞれを兄弟、姉妹と呼び合っている。
 もっともティナーヴァとオチーヴァに至っては本物の兄妹のため、そのあたり実にややこしかったりはするのだが。
「わかってるわよ。今回の任務はあくまで事故死を偽装すること…そこに暗殺者の介在があったことを知られてはならない、でしょう?」
「その通り」
 もっともらしく頷いてみせるティナーヴァに、ブラック17は肩をすくめてみせる。
 さて、薬瓶の納まっている棚を探さなくては…
 音を立てないよう周囲を捜索し、数分後にブラック17は目的のものを発見した。
「あったわ。これを毒薬と交換すればいいのね」
 ラベルに薬効が書かれた(名のある錬金術師の手による薬らしい)瓶を取り出し、ブラック17は腰に巻いたベルトのポーチに入っている毒薬瓶とすり替える。
 そういえば手元に残ったほうの薬瓶をどうすべきかは聞いていなかった、これだけでも結構な値打ち物なのでは…そんなことを考えながら棚の戸を閉めようとしたとき、ブラック17は一枚の紙片が残されていることに気がついた。
「なにかしら、これ」



『残念でした、おまぬけさん!( Stupid Bitch!! )』
 ブラック17が取り上げた紙片には、そう、書かれていた。茶目っ気たっぷり、悪戯心に溢れる、悪意に満ちたメッセージ。
 まるで子供の落書きのようなそれを目にしたブラック17はしかし、本能的に自分たちがとてもまずい状況に置かれていることを察した。
「…嵌められた!」
「どうした、レディ?」
「ティナーヴァ、これは罠よ!」
「なんだって!?」
 ザンッ!



「ぐああっ!?」
 ブラック17が叫んだ直後、ティナーヴァに向けて鉄の剣が振るわれた!
「くそ、あっ、足が!足をやられた!」
「罠に引っかかってからそれと気づくようでは遅いな、あまりにも遅い!」
 ずっと息を潜めて隠れていたのだろう、二人を取り囲んだのは帝国軍の兵士たちだった!
「貴様らが例の、暗殺教団とやらの使者か」
「夜母とかいうイカレたバーサマを信仰しているキ印どもなんだってな?」
「ッ、貴様ら、我らがナイト・マザーを愚弄することは許さんぞ!」
「足から血を流しながら言っても説得力なんかないぜ、トカゲさんよ」
 やられた。完璧に嵌められた。
 そもそも、このシチュエーション自体がダーク・ブラザーフッドを罠にかけるためにセッティングされたものに違いないのだ…ブラック17はそう理解し、奥歯を噛み締める。
 おそらくベッドで横になっていた男も、標的であるロデリック将軍とやらではないのだろう。周辺を警護していた傭兵も、おそらくは油断を誘うための見せ餌。
 こうなればもう、任務どころではない。この場からの脱出を最優先させなければ。
「ティナーヴァ、逃げて。ここは私がなんとかする」
「し、しかし…」
「いいから行って!」
 今すぐ動かなかったら私が殺す。
 そんなブラック17の覇気に気圧されたのか、ティナーヴァは足を引きずりながらその場を慌てて離れた。
 もちろん、その動きを帝国兵が見逃すはずもなかったが。
「おい、トカゲのやつが逃げるぞ!」
「放っておけ。どうせあの怪我では遠くまでは行けん、後でゆっくり始末すればいい。まずはこの女からだ…いいか、生け捕ろうとか、お楽しみのことは考えるな。まずは殺せ」
 隊長格の男がそう言うや否や、四人の帝国兵がいっせいに襲いかかってきた。
 ガッ!
「ー…、くぅっ…!」
「なんだ、この女!?」
 不意を打たれたせいもあるだろうが、ブラック17は剣の一撃をまともに頭部に喰らってしまった。頭部からおびただしい量の血が吹き出る。
 しかしそれを見た帝国兵は、それが自らの所業であるにも関わらず驚きの声を上げていた。
 普通なら真っ二つに裂けるか、頭骨が砕けるかのどちらかのはずだ。軍用の鉄製の長剣の一撃を受けて、出血するだけとは、こいつはいったい…?
 その動揺を打ち消すかのように、隊長格の男が大声で叫んだ。
「躊躇うな、一撃で死なねば何度でも打ち下ろせば良い!とにかく、死ぬまで殺せ!」
 そして始まったのは、一方的なリンチ。
 幾度となく剣の一撃を受けるブラック17だったが、しかし、ただ黙ってやられているわけではなかった。
 右腕のキャストデバイス・ユニットが展開し、内部に格納されている魔導球が発光をはじめる。
『ストーム(暴嵐)…単体術式始動』
「いつまでも…調子に…乗ってるんじゃ…ないわよ…!!」



 ズボギャアッ!!
 周囲一帯に瞬間的な暴風が巻き起こり、その際に生じた衝撃波が帝国兵の身体を紙のように引きちぎる!
 ゴト、ゴン、ボドッ、ボトボトッ。
 暴風が過ぎ去ったあと、帝国兵、いや、帝国兵「だったもの」、その身体の部品が床に散乱する。
 自分と他人の血にまみれたブラック17は、血まみれのフロアから出ると、ティナーヴァの姿を求めて砦の中を彷徨いはじめた。

  **  **  **  **

 やがて…



「ティナーヴァ!あぁ、なんてこと…」
「グホッ、ガハ…まったく、なんという醜態だ」
 ブラック17は焚き火の近くでティナーヴァを発見した。重症を負い、口からおびただしい量の血を吐いている。
「傭兵にやられたよ。ああ、心配はいらない。傭兵どもは始末した…足さえ無事なら、こんなことには…」
「いいから黙って、喋らないで。いますぐ応急手当を」
「必要ない。わかるんだ、俺はもう長くない」
「だったら聖域まで運ぶから」
「駄目だ。我々ダーク・ブラザーフッドの信徒は死体を残すことを許されない」
 そう言って、ティナーヴァは懐から一枚のスクロールを取り出した。
「高威力の爆破呪文が書かれている。詠唱と同時に発動し、あまりに破壊力が高いため自殺くらいにしか用途がない。だが、まぁ…つまり、俺がこれを持っている理由は、わかったな?」
「自殺する気なの!?」
「これは陽動にもなる。おそらく、外にも帝国軍の兵士が待機しているはずだ。俺がこいつを、読むまで…少しでも、この砦から遠くへ」
 そこまで言って、ゴホッ、ティナーヴァはまた血を吐いた。
 止めたかった。ブラック17は、なんとしても彼の行いを止めたかった。だが、ティナーヴァ自身がそれを受け入れないだろうということはわかっていたし、そもそも止める意味がないこともまた、充分に理解していた。
 だが、せめてもの手向けに…ブラック17はティナーヴァの額に口づけすると、そのまま砦の出口へと向かった。

  **  **  **  **



 爆発音とともに、サッチ砦が崩落する。
「ティナーヴァ…」
 すでに帝国兵の目の届かない位置まで避難していたブラック17は、仲間の死に胸を痛めていた。
 …仲間、だって?
 無意識にそう考えていた自分の思考に、ブラック17は疑問を抱く。
 そもそも連中は仲間でもなんでもない。自分だって部外者で、ほんの、そう、ちょっとした利害の一致があったため、短い時間を共に過ごしただけ。
 …まるで、家族のように?
「わからない」
 なんでいまさら、自分がこんな感情を抱くのか。
 私はただ人を殺すためだけに生きてきた、生かされてきたのではないのか?そして、そういう生き方に納得していたのではないのか?
 それを、そんのすこしの家族ごっこで心が揺らぐなどと…家族ごっこ…家族…
 私の本当の家族は、どんなだっただろう?
 そこまで考えるに至って、ブラック17はあることに思い当たった。
 そういえば自分は、家族のことをほとんど憶えていない、ということに。
 過去が思い出せない。
 私はいったい誰?誰なの?誰「だった」の?





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