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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/05/03 (Fri)01:23
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2014/09/03 (Wed)08:31

「そろそろ本当にシェイディンハルに戻らないと…」
 ビエナ・アメリオンの一件を無事に処理し、戦士ギルド・レーヤウィン支部長のブロドラスから報酬を受け取ったちびのノルドは、いままさにレーヤウィンを発とうとしているところだった。
 馬車の手配や移動にかかる時間、必要になる携帯食料の用意といった算段を頭の中で組み立てていたとき、不意に彼女を呼び止める声が飛び込んでくる。



「そ、そこの君っ!」
「…は、はい、わたしですか?」
 雨の中を猛然と走ってくるローブ姿のカジート、魔術師ギルドの者だろうか?
 ちびのノルドに追いつき、膝に手を置き肩で息をしながら、カジート…魔術師ギルドの一員サ=ドラッサが話をはじめた。
「君、戦士ギルドの人だよね?ちょっと前に、あちこちで仕事の斡旋先を探して回っていた」
「そうですけど…」
「じつは、君に頼みたい仕事があるんだ」
 その言葉を聞いたとき、ちびのノルドは「なんだか嫌な予感がする」と直感する。サ=ドラッサの必死な様子は、あからさまに面倒事の臭いがするのだ。
「あの、わたし、そろそろ所属の支部に戻らなければならないので…仕事の依頼であれば、この街のギルドの人に頼んでください、申し訳ないですけど」
「いや、君じゃなきゃ駄目なんだ。この街の戦士ギルドにノルドはいないし、それに、仕事に関しては君が特に優秀だと聞いた。是非君に頼みたい…相応の報酬は支払う」
 ノルド?
 戦士として優秀かどうかはさておき、ちびのノルドはカジートの口から自らの種族の名を聞いたとき、マスクの下で眉をひそめた。
 種族的には異端な体躯、そして同族から虐げられてきた経験から、ちびのノルドは自分がノルドであることを誇りに思ったことなどなかった。だからこそ、仕事の要件に「ノルドであること」が含まれているらしいことにいささか複雑な感情を抱いてしまう。
 そんなちびのノルドの心情など気づくはずもなく、サ=ドラッサは話を進める。



「じつは先日、アルゴニアンの戦士にとある仕事を依頼したのだが…あるものを渡し忘れてしまったんだ。彼が赴いたのは特殊な寒冷地で、おそらく耐寒用の装備がないと長くは保たないだろう」
「寒冷地…ああ、ノルドが必要っていうのは、そういう理由ですか?寒さに強いからっていう」
「その通り、このポーション…僕が自作した、フロストウォードの媚薬という代物だが…これは寒冷地において肉体のコンディションを優れたコンディションのまま保ってくれるものだが、生憎、一人用しか用意していない。つまり、これを配達する人員はポーションに頼らなくても、できるだけ長期間寒冷地で行動できる者でなければならないんだ」
「その、アルゴニアンの戦士さんが向かった場所って…危険なところなんですか?」
「ああ危険だ、かつて幾人もの冒険者たちが挑んでは帰ってこなかった魔窟…だからこそ、優秀な戦士でなければ、このポーションの配達を任せることができないんだ」
 ほら、やっぱり面倒な依頼だ…そう思いながらも、一方でちびのノルドはこの仕事がかなり魅力的なものであるようにも感じていた。
 たんに金銭的な話だけではない。
 もとよりレーヤウィンはブラックウッド商会が幅をきかせ、戦士ギルドにはほとんど仕事がない状況だった。そこでこの困難な任務をやり遂げ、魔術師ギルドとコネを作っておけば、その功績はかなり評価されるに違いない。
 所謂大きなビジネル・チャンス、さんざん帰郷が長引いたことを勘定に入れても、バーズ・グロ=カシュだって文句を言ったりはしないはずだ。
「わかりました。その仕事、この戦士ギルド会員であるアリシア・ストーンウェルが責任をもって引き受けます」
「ありがたい!事態は急を要する、いますぐにでも現地へ向かってほしい」
 足代を含む報酬の半額を前払いで受け取ったちびのノルドは、本来シェイディンハルへ向かうために手配していた馬車に飛び乗ると、行き先の変更と追加料金の支払いを御者に告げ、レーヤウィンを発った。

  **  **  **  **



 馬車を走らせ向かった先は、ハートランド北部。ジェラル山地に近い「炎凍の洞窟」と呼ばれる場所だった。
「間に合うといいんですが…」
 アルゴニアンの戦士との出立時期の誤差は一日、そのことを知っていたちびのノルドはかなり予定を切り詰めて最速でこの場所まで移動してきたのだ。
 なるべく、アルゴニアンの戦士がゆっくりこの場所まで移動してくれたなら良いのだが。
 たとえ急いでこの場所に来ていたとしても、ほとんど強行軍のような形でやって来たちびのノルドよりは確実にペースは遅かったはずだが、それで一日という時間差が埋まったかどうかは判断が難しいところだ。



「これは…」
 洞窟の中に入ると、そこには絶命した野生動物の死体がそこかしこに転がっていた。
 傷口を見るに、動物たちはどれも鋭利な刃物による一撃で屠られている。いずれも見事な手際だ。
「まだ死体が温かい…血も固まってない…これ、ついさっきなんだ」
 間違いない、自分が探しているアルゴニアンの戦士はさっきここを通ったばかりだ!
 そう確信したちびのノルドは、松明を手に洞窟を奥へ、奥へと進んでいく。
 アルゴニアンの戦士がサ=ドラッサに依頼されたのは、かつてジェラル地方にある一領地を治めていた騎士ガリダンの遺したアーティファクトの回収。
 干ばつに見舞われた領地を救うため、無限に水を生成し続ける水差しを求めてこの地にやって来たガリダンの伝説は戦士にとって有名な逸話だ(ギルドと縁のない戦士でもたいていは知っている)。
 水差しを守護する魔神との一騎打ちに敗れ、死の直前にガリダンの流した涙が女神マーラの祝福を受け、強大な魔力を秘めたアーティファクトとしてかの地に遺されているという。サ=ドラッサはその、ガリダンの涙と呼ばれるアーティファクトの回収を流浪のアルゴニアンの戦士に依頼したというのだ。
「まさか、こんな形で自分があの伝説に関わることになるなんて…」
 やがて白銀の扉の前に到着したちびのノルドは、かつて魔術結界によって守られていた扉にそっと手を触れる。
『扉の結界を解くアイテムは彼に渡してあるから、もし彼が先行しているなら、君もそのまま侵入できるはずだ』
 サ=ドラッサの言葉を思い出し、ちびのノルドは扉を開け放つ。
 扉の先に広がっていたのは、一面雪に覆われた幻想的な光景だった。
 話に聞いていたように相当な寒さだったが、かつてスカイリムで活動していたちびのノルドにとってはさほど苦になるものではなかった。とはいえこの地の寒さはスカイリムのものともまた違う、どこか異質なものではあったが。
「さて、アルゴニアンの戦士さんを探さないと」
 わずかな異変も見逃さないよう感覚を研ぎ澄まし、しばらく周囲を捜索するちびのノルド。



「ぐ、ほっ…」
『他愛もない、劣等種め。握り潰してくれよう』
 やがて、ちびのノルドはこの地に君臨する魔神…炎凍のアトロナック、グレイド・ウォーデンの手によって捕らえられたアルゴニアンの戦士の姿を目撃した。
 どうやら間に合ったようだが、このままでは危険だった。
 いますぐに行動を起こさなければ!
 そう直感したちびのノルドは、いまにもアルゴニアンの戦士を握り潰そうとするグレイド・ウォーデンに向かって全力でダッシュすると、地面を蹴り、天高く飛び上がった!



「イヤァーーーッッッ!」
 グガギンッ!
 アルゴニアンの戦士を拘束していた巨大な拳に向かって、ちびのノルドは強烈な蹴りを浴びせる!
 鋼鉄をも砕く一撃に耐え切れず、グレイド・ウォーデンはアルゴニアンの戦士…ドレイクを掴む手を放す。
 宙空に放り出され、地面に叩きつけられたドレイクは荒い息をつきながら、いま起きたことを正確に把握しようとしていた。
「い、一体…」
「間に合ってよかった」
 地面に着地すると同時にグレイド・ウォーデンから距離を取りつつ、ちびのノルドはドレイクの無事を確認し安堵のため息をつく。
「…!?おまえは」
 一方で、ちびのノルドの姿を見たドレイクは驚いたような表情を見せた。
 あれ、顔見知りだったっけ?
 アルゴニアンに知人はいないので、それらしいのがいればすぐに思い出せるはずだが…そんなことを考えながら、ちびのノルドはサ=ドラッサの依頼を思い出し、ポーションをドレイクに投げ渡した。
「戦士さん、これを!」
「これは?」
「寒さに効くポーションだそうです。わたし、レーヤウィンで魔術師のカジートさんに頼まれたんですよ、これをあなたに届けるために」
「カジート…サ=ドラッサか!」
 表情を明るくするドレイク、なるほど依頼対象に間違いなさそうだ…ふつう、アルゴニアンとカジートは仲が悪い。というか、カジートを好く者など滅多にいないのだが。
 そんなことを考えながら、ちびのノルドはまず第一目標を達成したことを確信した。
 残る問題はガリダンの涙の回収と、目前の魔神への対処だ。
 自分の受けた仕事はポーションの配達だけなので、魔神やガリダンの涙は放っておいてもいいのだが、おそらくドレイクがガリダンの涙を持ち帰れなければ依頼主の心象は最悪なものになるだろう。後金を貰えなくなる可能性もある。
 いちおう戦士ギルドの信頼にも関わるし、ここはドレイクと共闘して目前の脅威を排除し、一緒に依頼主のもとへ帰るのが最善だろう…そう判断すると、ちびのノルドはふたたび拳を握り固めた。
『おのれ小癪な、小娘!』
「シロディールではどうか知らないですけど、本場ノルドの寒さへの耐性を甘く見ないほうがいいですよ」
 ビュン、巨大な拳を振り回すグレイド・ウォーデンに、軽い身のこなしを披露し翻弄するちびのノルド。
 なるほどたしかに、この冷気はシロディールの人間には辛いものだろう。しかし、一年を通して雪に閉ざされた大地で生きてきたちびのノルドにとっては、この程度ではさほどの障害足り得なかった。
『抜かすか、ワシに向かって…このこわっぱが!』
 猛り狂うグレイド・ウォーデンの拳をかわし、ちびのノルドは鋼鉄をも砕く一撃を繰り出す。
 ガシ、ガギ、ガキンッ!
 派手な破砕音を響かせ、グレイド・ウォーデンのボディが氷の粒子を散らせながら擦り減っていく。
 …このまま、いける!
 そう確信したちびのノルドはしかし、その油断が命取りになったことを数瞬後に思い知らされた。



 ドガッ!
「うわっ!?」
『小娘、ここまでだ!』
 あと一撃、もう一撃…そう考えながら拳の乱打を浴びせていたちびのノルドは、咄嗟に放たれた素早いパンチを避けきれず、直撃を受け吹っ飛ばされてしまう。
『いまとどめを刺してやる!』
 ドサッ、雪の上に倒れたちびのノルドを覆うようにグレイド・ウォーデンが両掌をかざし、ちいさなボディを叩き潰さんとオーバーアクションで振りかぶる。
 避けなきゃ…そう思いながらちびのノルドが、ふと視線をグレイド・ウォーデンの背後に向けたとき。
 どうやらちびのノルドから渡されたポーションを飲み干したらしいドレイクが、いままさにカタナを抜き放とうとしていた。



 ズドシャアァァアアアアッッッ!!
「……え…?」
 ちびのノルドが全力で殴ってさえ表面を削ることしかできなかったグレイド・ウォーデンのボディを、たったのカタナの一振りで粉砕するドレイク。
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、砕牙・弐式」
 なにやらつぶやきながらカタナを鞘に戻すドレイク、その技を目の当たりにしたちびのノルドはただ呆気に取られるしかなかった。
 あれは…カタナを振る瞬間、筋肉を痙攣させ刀身を微細振動することによって共鳴作用でグレイド・ウォーデンの鋼鉄よりなお固い氷の身体を破壊したのだ。
 ただの力ではない、カタナの切れ味によるものでもない。武器に頼っているわけではない、腕力だけに頼っているのでもない。
 あれはどういう剣技だろう…シロディールではおよそお目にかかれない、いやスカイリムでもついぞ目にしたことのなかった異端の剣技に興味を惹かれながら、未だ粉砕されたグレイド・ウォーデンの細氷舞うなかでちびのノルドは口を開いた。
「いやー、すごいですね…いまの技」
「お嬢ちゃん、怪我は平気なのか?」
「ええ、幸いヤバイところにはもらわなかったので」
「それは良かっ…!?」
 安堵の息をつきかけたところで、ドレイクが急に視線を逸らす。
 なんだろう、なにか変わったところがあるだろうか?
 そんなことを思いながらドレイクを観察するうち、ちびのノルドは彼と以前会ったことがあることを思い出した。そうだ、たしか帝国軍からの依頼でアイレイド遺跡…ヴィルバーリンといったか…そこを根城にしている盗賊団の壊滅に向かったとき、なんの因果かちょっとした争いに発展したのだった。
「いったいどうし…あ、あなた!いつか古代遺跡で会った剣士のひと!?」
 先刻からのドレイクのいささか不審な挙動にようやく納得がいったちびのノルドだったが、それでもドレイクは一向にこちらを振り向こうとしない。
 まさか、あのときのことを後悔しているわけでもないだろうが、いったい何事だというのだろうか。



「どうしたんですか?」
 その場から立ち上がり、身体に纏わりついた雪をぽんぽんと払ってからドレイクに近づくちびのノルド。
「なに、ぼーっとしてるんです?ひょっとして具合でも悪いんですか?怪我をしたとか…」
 もしや、自分が到着する前に追った傷でもあるのか?あるいはポーションの効き目が切れたとか。
 どうも調子が良くなさそうに見えるドレイクを観察しようと、ちびのノルドは身体を密着させる。これでもずっと傭兵稼業で食ってきたのだ、応急処置などはお手の物である。
 しかし、ポン、ドレイクはちびのノルドの肩に手を置くと、努めて平静を装うふうに声を低く落としながら、搾り出すように言った。
「いいか、ちょっと聞いてくれ」
「なんです?」
「いまから俺がなにを言おうと、決して動揺するな。いいな?」
「動揺なんかしませんよ、いったいどうしたっていうんです?」
「おまえ、ケツ丸出しだぞ」
「…… …… …… ……」
 ドレイクの一言で、ちびのノルドはピタリと動きを止める。
 …そういえばさっきから、やけに下半身がスースーするような気がしていたが。
 ひょっとしてグレイド・ウォーデンから受けた攻撃による衝撃で、下半身のプロテクターが破壊されたのか?そして、ドレイクはさっきからずっとそれに気がついていた?
 視線を下に向けたちびのノルドは、やがて女の子が出してはいけない叫び声を上げ、顔を真っ赤にして暴れた。
「あ、ゎ…ゎぁあぎゃぎゃぎぐがぎゃぐゃげぎゃぎゃぎゃ!!!!」
「うわっ!?おい暴れるなこの筋肉娘!」
「見たんですね?見たんですね!?」
「見てない見てない見てない!見てねェよ!」
 ちびのノルドが平静を取り戻すのには、多少の時間を要した。

  **  **  **  **



「無事に帰ってきてくれて何よりだ、しかし…君たちにそういう倒錯した性癖があるとは知らなかったよ」
「うるせぇシバくぞこの野郎」
 魔術師ギルド・レーヤウィン支部、サ=ドラッサのオフィスにて。
 ドレイクのズボンを履いたちびのノルドと、哀しい目つきでブリーフ姿を晒しているドレイクを前に、サ=ドラッサは驚きの声を上げていた。
「ガリダンの涙を持って来てくれたのは嬉しいけど、そんな姿を見たら君のご両親も涙を流してしまうよ」
「息子のために流した涙にマーラ様がくそったれの加護を授けてくれりゃあいいよな、畜生め。おっと失礼、不信心な発言だった。でもな、この格好でハートランドからレーヤウィンまで移動するのは大層な拷問だったぞ」
「女の子を下半身丸出しのまま連れ歩くよりましだと思いません?」
「…テメェのつるつるの股なんか見たって、誰も欲情しねえよ」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!見たんじゃないですか!見でだんじゃないでずがっっっ!」
 ドレイクの失言を耳にしたちびのノルドが、ドレイクの膝をガシガシと殴り続ける。
「痛ぇ痛え痛ぇ痛ぇ!」
「剃ってるだけですから!剃ってるだけですから!」
「あの…ここ、いちおう公共施設だから、あまり騒がないでほしいんだけど…」
 狭い空間のなかで暴れる二人に向かって、サ=ドラッサがばつが悪そうにつぶやく。
 周囲のギルド会員たちの視線に気がつくと、ちびのノルドとドレイクは誤魔化すように咳払いをした。
「と、ともかくっ!これからもどうか、戦士ギルドを贔屓にしてくださいねってことで!」
 ピッ、人差し指を突きつけながら、ちびのノルドがセールストークをぶちまける。といっても今回の依頼は魔術師ギルドとは無関係な個人の依頼だったのだが、ちびのノルドは知る由もなく。
 そんなことを思ってか、サ=ドラッサは苦笑しながら返答した。
「商魂たくましいね、しかし君のおかげで助かったのも事実だ」
「わざわざ戦士を雇って魔道具を届けてくれるとはな。あのポーションは効いたぜ、口にした途端、全身に力が漲ってきたからな」
 素早い対応でピンチを救ってくれたサ=ドラッサに、ドレイクが感心したようにつぶやく。
 しかし、それに対する反応は驚愕だった。
「…飲んだのかい?」
「え?」
「あれ、塗布用の薬剤なんだけど…少なくとも、ヒューマンが飲んだら身体に負荷がかかりすぎて、最悪死ぬ危険もある薬だよ?」
「おいおいおいおい!」
「でもまあ後を引くような代物じゃないし、ここまで無事なら悪影響も残っていないだろう。サンプルとしては特殊すぎて参考にならないけど…アルゴニアンの特性か…それとも特異体質?まあ、早めに尿を排出しておいたほうがいいと忠告しておくよ。まだならね」
「ハートランドからここまで小便せずに移動したら膀胱が保たねぇよ」
「そりゃそうだ」
 そこまで言ったとき…ズドン!
 遠くから爆発音が響き、地鳴りとともに建物全体が揺れた。
 いったい何が起きたのかと訝る三人の耳に、建物の外で叫ぶ声が聞こえる。
『爆発だ!元帝国軍総司令官のアダムス・フィリダが襲撃された!』
「なんだ?」
「そういえば、帝都のお偉いさん…もう引退したらしいけど…この街にある別荘で隠居生活送ってるって聞いたな。いつも護衛を引き連れてて目立つし、新聞にも書いてあったから有名だったけど」
「へー」
 おそらくは深刻な事態が発生したのだろうが、蚊帳の外にいる三人はどこか他人事のように言葉を交わす。
 その後一人の暗殺者が教会の尖塔から身を投げ込まれることになるが、ちびのノルドがそのことを知る機会はなかった。






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2014/09/01 (Mon)06:04

 あのとき…彼女は俺に助けを求めた。だが、俺には何もできなかった。
 あのときは。
 だが、今は?
 今なら、いや、今だからこそできることがある。だから俺は、ここに来たんだ。
 そろそろ、ふたたび現実と向き合うときだ。

  **  **  **  **



「おまえか、カイリウスを殺った傭兵ってのは」
 レーヤウィンを出て行こうとしたドレイクを呼び止めたのは、二人組の衛兵だった。
 豪雨のなかに身を晒した状態で剣を抜く衛兵たちに、ドレイクはただならぬ雰囲気を察知する。これは犯罪容疑者への対応ではない、殺気を隠そうともしない若き衛兵たちの態度は、端っから「生死問わず(Dead or Alive)」の凶悪犯に立ち向かうような…あるいは、自分たちにとって都合の悪い者を始末するときのような、それだ。
「官憲の恨みを買うような真似はしてないつもりだが。剣を向けるなら、その前に容疑の読み上げくらいしてくれてもいいんじゃないのか…たとえ、ここの女主人が亜人種を嫌ってたとしてもだ」
「口が立つな、傭兵。だが、言っておくが、法律に違反していなくても、俺たちが手を下さなきゃいけない案件はゴマンとあるんだぜ」
 居丈高な態度を崩さない衛兵の口ぶりに、しかしドレイクは奇妙な違和感を覚える。
 傭兵?俺たち?
 俺を傭兵と断定するような材料をこいつらが持っているのか、そしてこいつらは衛兵や城の名のもとに動いているのか、さもなくば独断で…仲間内だけで、所謂「俺たち」のために動いているのか?
 はじめに口に出した名、「カイリウス」というのは誰だ?
 ドレイクが推察を重ねる間もなく、衛兵の口から真実が語られる。
「いいかおのぼりさん、お前やリレクスのような正義漢気取りが好き勝手やってくれたおかげで、俺たちはものすげー迷惑してんだよ。いままでは、ただ口を閉じてるだけで大金が懐に入ってきたってのに、今じゃあ酒代にも困る有り様だ。お前がこっちの立場なら、我慢できねーだろうが、エェッ!?」
 カイリウス、リレクス、金。
 ああそうか、ドレイクはひとりごちた。
 これは、グレイランド…カイリウスとかいうドラッグ・ディーラーを始末するため、リレクスという名の衛兵隊長に雇われて汚れ仕事を引き受けた、あの案件だ。
 そういえばカイリウスは金で衛兵を買収していたと聞いた。なるほど、汚い金で私服を肥やしていたクズ野郎どもが逆恨みしてきても不思議はないということか。
 不穏なのは、奴らが他でもなくドレイクの元へ来た、そのタイミングだ。
 カチリ、カタナの鍔を指で鳴らしながら…ドレイクは、口を開いた。
「…リレクスはどうした」
「いまごろはトパル湾の底で寝ぼけてるぜ。お前もすぐに後を追わせてやるよ!」
「野郎…ッ!」
 こいつら、私怨で上司を殺しやがったのか!
 ドレイクはスッと腰を屈めると…目前の男たちを一閃で屠るべく精神を集中させた。
 …官憲に手をかけるようなリスクは、避けたかったが!
 衛兵たちが足を踏み出し、ドレイクがカタナを抜きかけた、その刹那!



 バシュウゥゥゥゥゥウウウッッッ!!
 青白い閃光とともに衛兵たちの足元が氷塊に覆われ、急激に冷却された空気中の水分が凝固。あられと化した雨粒が衛兵の顔面を叩く。
「ぐあッ、な、なんだ…魔法か!?」
「そこまでだ、ゴロツキども…この男に手を出したら、僕がタダじゃあおかない」
 足を取られ身動きが取れない衛兵たち、一方で魔法を繰り出した男…魔術師風のローブを羽織ったカジートの男は、あきらかにドレイクを庇う目的でいまの一撃を放った。しかしドレイクはこの男に見覚えは…少なくとも、命を助けられるような縁を持った覚えはない。
 こいつは、誰だ?
「貴様、魔術師ギルドのカジート!我々に手出しをしたらどうなるか、わかっているのか!?」
「お前たちこそ、いままでの悪事の証拠をアレッシア・カロに突き出されたら首くらいでは済まないぞ。こっちは証拠を握っているんだ…リレクスを『ただ殺した』のはまずかったな!」
「くそ、畜生この、クソッ、クソ猫め!」
「なんとでも言うがいい、金のために同族を裏切る畜生に何を言われようと心など痛むものか」
 やがて魔法の効果が切れ、身体が自由に動くようになった衛兵たちは一目散に退散しはじめる。
 それを見てふたたびカタナを抜こうとしたドレイクを、カジート…サ=ドラッサが止めた。
「あんな連中のために、君が手を汚す必要はない」
「まさか俺に殺させないために、わざとあのタイミングで魔法を使ったのか?お前、何者だ」
「紹介が遅れてすまない。僕はサ=ドラッサ…魔術師ギルドの一員だ。じつは君に、頼みたいことがある。一度ギルドまで来てくれないか」
「それは、いいが…これは魔術師ギルドが絡む仕事の話か?」
「いや、僕自身の個人的な依頼だ」

  **  **  **  **



「リレクスと僕は、ともにスクゥーマ撲滅を誓い合った同志だった」
 魔術師ギルド、レーヤウィン支部の一室。
 サ=ドラッサのオフィスにて、ドレイクは彼の話に耳を傾ける。
「そもそもスクゥーマはカジートがシロディールに持ち込んだ薬と聞いていたがな」
「その通りだよ。あれはカジートにとって『お菓子』みたいなものなのさ。もっとも、多くの人間にとっては極めて常習性の強い劇薬と成り得るが…信じ難いことに、そのことを知ってもなお、それについて深刻に考える仲間はいなかった。社会基盤そのものを破壊しかねない麻薬を、はじめは身内同士でやり取りしていた。原料のムーンシュガーを持ち込み、栽培し…しかし、『人間相手に商売すれば高く売れる』ということがわかってから、同志たちはこぞってスクゥーマ・ビジネスに手をだすようになった。やがて仲間だけではなく、ヒューマンやエルフまでもがシェアを奪い合い…最悪の結果だ」
「子供の教育によくないのは確かだな」
「まったくね。僕は仲間が招いたこの結果に責任を感じている、だからいままでの魔術師生命を賭してスクゥーマ中毒を治療できる薬の開発に心血を注いできた」
 そう言うサ=ドラッサのオフィスの本棚には、古今あらゆる種類の錬金術に関する本が並んでいた。中にはデイドラ言語で書かれたものと思しき書物、とうの昔に絶版となりプレミア価値のついた古書なども混じっている。
「そんなとき…僕は、リレクスと出会った。不正を許さず、スクゥーマ撲滅に尽力する彼とはすぐに意気投合したよ。だから、グレイランドでの一件も聞いている。その結果彼が不幸に遭ったのは…無念というほかない」
『私はね、正義があると信じたいんだよ。こんな世の中でも、善良な人間が幸せに暮らせる世界をね…罪人は、たとえどんな地位や権力や、あるいは金を持っていても、犯した罪を償わなければならない世界を信じたいんだ』
 サ=ドラッサの言葉を聞き、ドレイクはかつてリレクスが語った言葉を脳裏で反芻させる。
 あいつめ…だから、そんな台詞は死亡フラグだと言ったんだ。
「それで、俺に頼みっていうのはなんだ?リレクスから俺のことをどういうふうに聞いているかは知らんが、俺はあまり誠実なほうじゃないぜ」
「僕が君にこの仕事を依頼するのは、君が誠実だからじゃない。君が、腕の立つ戦士だからだ。君に依頼したいのは…さるアーティファクトの回収だ」
 そう言うと、サ=ドラッサは一冊の大判書籍をテーブルの上に広げた。タイトルは、「騎士の黄昏」。
「昔、あるところにガリダン・スタルラスという名の騎士がいた。ファーマントル・グレンズという地を治める領主だったガリダンは、大干ばつに見舞われた領民を救うために私財を投げ打って彼らのために尽くした。しかし状況が改善されないまま収穫の時期を迎え、このままでは…」
「ちょっと待ってくれ。この講釈はいつまで続くんだ?」
「…すまない、要点だけ話そう。あるとき彼のもとに一人の賢者が現れ、『永遠に水が溢れ出す水差し』と呼ばれる魔道具の存在を示唆した。ブルーマ地方の山中にある洞窟を越えてそれを見つけたガリダンは、領民を救うためそれを持ち帰ろうとした」
「だんだん話が読めてきたな。依頼っていうのはその、水差しの回収か?」
「いや、違う。水差しはもう、この世には残っていない…話を続けよう。ガリダンが水差しに手を触れたとき、氷の魔神…水差しを守護するガーディアンが目を醒ました。死闘の末ガリダンは魔神の一撃を水差しで庇い、破壊された水差しから溢れる大量の水でガリダンと魔神はもろとも凍りつき、戦いは決着した。いまでもその場所には、氷の中に閉じ込められたガリダンと魔神の姿が残っているそうだ」
「……それで?」
「凍りつく直前、ガリダンは自分の冒険が失敗し、領民を救うことが不可能になったと悟ったときに、幾許かの涙を流したそうだ。あくまで自分の命ではなく領民のために涙を流したガリダンを憐れんだ女神マーラの手によって、その涙は魔力を吹きこまれ結晶化した…それが、『ガリダンの涙』と呼ばれるアーティファクトにまつわる逸話のすべてだ」
「なるほどな。それで、依頼っていうのはその、ガリダンの涙っていうアーティファクトの回収ってわけか。しかし、逸話と言ったな?まさか本当は存在しないとかいうオチじゃないだろうな」
「いままで」
 話を続けながら、サ=ドラッサが小さな皮袋に手をかけた。口紐を緩め、中から小さな結晶のかけらを取り出す。
「幾人もの冒険者がこの伝説に挑み、そして帰ってこなかった。だが一人だけ、わずかなかけらのみを手にして帰ってきた者がいた…僕はそれを高額で買い取り、その構造、成分を分析した。その結果、このアーティファクトがスクゥーマ中毒に対し極めて効果的な中和作用があることを突き止めたんだ」
「なるほど。それが本当に涙からできてるかどうかはともかく、それらしいものは実存するってわけだ」
「僕はこれを複製したい。これと同じものを作りたいんだ、しかしこのかけらだけでは、ちょっとした実験に使うだけで無くなってしまう。そしてシロディール全域に中和薬を普及させるためには、おそらく現存するガリダンの涙だけでは数が圧倒的に足りないだろう」
「だから、研究のためにより多くのガリダンの涙が必要ってわけだ…その、ちっぽけなかけらだけじゃあなく」
「その通り」
 そこまで言って、サ=ドラッサは一枚の地図と、氷に似た粒…レンズのようなものをテーブルに乗せた。
「これがガリダンの元へ通じる洞窟の位置を記した地図と、魔法による結界に守られた扉を開くための精製されたフロストソルトだ。帝都の魔術大学から取り寄せた一級品さ」
「用意がいいんだな」
「ずっと準備はできていた。しかし、この仕事を任せられるだけの人材がいなかった…もっと君に早く会えていたらと思うよ」
「…ここまで話を進めておいて野暮だが、俺に得はあるのか、この話は?」
「ハハッ、さすが傭兵、しっかりしてるね。もちろん報酬は約束する、生きて帰ってきたときに後悔させないだけの額は用意できるつもりだ」
「縁起でもないこと言うな。それじゃあ…ボーナスを期待しても?」
「金かい?」
「情報だ。お前が魔術師ギルドの一員だってところを見込んで、ある情報を知りたい。特に錬金術師なら、その方法を知っているはずだ」
「僕にできることなら、何でもしてあげたいけど…」
 勿体つけて話すドレイクに、サ=ドラッサが困惑を隠せない表情で応える。
 しかしドレイクにとってもこれは、リスクを伴う提案だった。狂人と思われるかもしれない…しかし、いまさら後には引けなかった。少なくとも、目前のカジートは自分を信用してくれている。
「俺が知りたいのは…オブリビオンの領域に侵入する方法だ」
「!!」
 ドレイクの言葉に、サ=ドラッサが絶句する。
 しばし逡巡したのち、しかしサ=ドラッサは意を決したように顔を上げると、口を開いた。
「…わかった。それは魔術師ギルド、いや魔術大学が扱う部外秘の情報だから、本当はいけないことなんだけど…いいだろう、もしガリダンの涙を持ち帰ってくれたら、その方法を教えるよ」
「交渉成立だ」
 そう言って、ドレイクはテーブルの上にあった地図と精製済フロストソルトを掴む。
 部屋を出る直前、ドレイクはふと思い出したように立ち止まると、サ=ドラッサに問いかけた。
「…ところで。ガリダンの領地にいた人間はどうなった?」
「ガリダンの死と時を同じくして、大量の雨によってもたらされた豊作によって飢饉を乗り越えたそうだ。これをガリダンの徒労に対する皮肉と取るか、ガリダンのもたらした奇跡と取るかは人次第だけどね」
「ありきたりなハッピーエンドだ」
 面白くなさそうな口調でつぶやいたが、しかしドレイクの口許は、こころなしか微笑んでいた。

  **  **  **  **



 途中までの移動を馬車で済ませ(足代はサ=ドラッサが前払いで出してくれた。気前のいいやつだ)、ドレイクは地図で示された場所…「炎凍の洞窟」と呼ばれる場所までやって来た。
「どれ、幾多の冒険者が帰らぬ者となった魔窟…腕を試させてもらうか」
 すらりとカタナを抜き放ち、ドレイクは洞窟の入り口へと手をかける。
 ギィィィ…いまにも腐り落ちそうな木製の扉が軋みながら開いた、そのとき。
『キュイィィィィッ!』
「ムンッ!」
 ザシュッ!
 おもむろに顔面目掛けて飛び込んできた巨大なドブネズミを、ドレイクはカタナの一振りで両断する。
 洞窟の中でドレイクを出迎えたのは、ドブネズミの群れに野生の狼といった動物たち。こんな場所ではエサの確保もままならないのか、皆死に物狂いでドレイクに襲いかかってくる。
「とはいえ…難攻不落のダンジョンと言うには役不足だな。冒険者の死体も見当たらないし、これはただの前座か」
 やがてドレイクは、古びた洞窟の中にあって似つかわしくない白銀の扉を発見する。
 鍵らしきものはどこにも見当たらない、しかしハンドルを引いても扉はピクリとも動かず、まるでフェイクのように開く気配がなかった。
「なるほど、これが盗賊除けの魔術結界か」
 ドレイクは慌てることなく、腰のベルトに身につけていた革のポーチから精製済フロストソルトを取り出し、扉にピタリと当てる。
 すると…



「うおっ!?」
 精製済フロストソルトの特性に呼応した結界が閃光を放ち、ドレイクの目を眩ませる。
 しばらくしてその現象は収まり、やがて扉は何事もなかったかのように元の状態に戻る。しかし、先刻まで感じられた結界の気配は失せていた。
 ドレイクは幾度か瞬きしたのち、ドアのハンドルに手をかける。さっきまでは良家の子女の貞節のように固かった扉はすんなりと開き、目の前に雪が吹きすさぶ幻想的な光景が広がる。



「これがガリダンの領域…炎凍の大地、か」
 そうつぶやきながらも、ドレイクはこの場所のあまりの寒さに身を縮こまらせた。
「うぅ、くそ…俺は寒いのは苦手なんだぜ」
 身体が焼けつくほどの痛みを感じる凍土、すなわち炎凍…と呼ばれるだけのことはあるな。
 そんなことを考えながら、ドレイクは英雄ガリダンの亡骸と、彼が流したとされる涙の結晶を探すために周囲の散策をはじめた。



「こいつか?」
 遠目からでもわかるほど、ひときわに輝く宝石のようなものを発見したドレイクは、足早に駆け寄ったあと、それを拾った。
「なるほど、一目でわかる魔力を秘めたアイテムだ。これがガリダンの涙…」
 腰を屈め、涙滴状に結晶化したクリスタルを拾い上げるドレイクの目前には、巨大な氷塊に閉じ込められた英雄ガリダンと、拳を振るい永遠に水が沸き続ける水差しを破壊した姿で固まった氷の魔神の姿があった。
「ずっとこの姿のままで残っているのか…」
 極低温では細菌が繁殖することはできない、だからこそ腐敗すらしていないのだろう。
 しばらくその光景に目を奪われながらも、ふと我に返ったドレイクはガリダンの涙を早々に皮のポーチに仕舞い、その場から立ち去ろうとする。
「ガリダン…結果的に、あんたは領民だけじゃない。シロディールで苦しむ多くの人間を救うかもしれないんだぜ。英雄冥利に尽きるってもんだろう、なあ?」
 そう言って踵を返した、そのとき。
『卑しい人間どもめ、まだ諦めがつかんと見える。我が領域より、物を持ち出すことなど不可能。我が領域に存在するものは、すべて我のもの。つまり貴様も、すでに我が物となったのだ』
「なんだと?」
 どこからともなく聞こえてくる声に、ドレイクはカタナを抜き放ち周囲を警戒する。
 やがて…



 ドシャアァァァァアアッッッ!!
 氷塊が吹き飛び、閉じ込められていたガリダンもろとも粉砕する。
 そこから現れたのは、ガリダンとの戦いで氷塊に封じ込められていたはずの氷の魔神…炎凍のアトロナック、グレイド・ウォーデン!
「おいおい、冗談だろ!?」
 自分の数倍はある身の丈の魔神の威容に圧倒され、ドレイクは絶句する。
『ムウゥゥゥンッ!』
 グレイド・ウォーデンの繰り出す巨大な拳を、ドレイクは咄嗟の動作でかわす。
 しかしここで、ドレイクは新たな脅威の存在に気がついた。
 …さっきよりも寒くなっている!?
 すでに視界は極端に狭まり、十メートル先の様子さえ窺うことができない。呼吸をするたびに鼻と口腔内が凍りつき、地面に接地する足がトラバサミの罠のように氷で絡め取られる。
 そしてそれは、ドレイクにとって最悪の環境…そのことを理解したとき、ドレイクは自分がここで死ぬかもしれないことを認識した。
「くっ!…か…風詠(かぜよみ)が…コントロールできない…!」
 風詠。
 それはドレイクが習得した醒走奇梓薙陀流に伝わる独自の呼吸法であり、肉体と精神をコントロールするための基礎的な技術である。基礎でありながら、その習得には最低でも十年はかかると言われ、また風詠を自在に操れる者は百年に一度の逸材と言われる。
 師範代クラスでも風詠を完璧にコントロールできる者は稀である。しかし、ドレイクは風詠をマスターしていた。それは、ドレイクがかつて故郷で尊敬されていた理由の一つでもあった。
 だが並の呼吸すら困難であるこの環境で、ドレイクは風詠のコントロールができなくなっていた。
 そして、足場。
 醒走奇梓薙陀流の奥義は、そのほとんどが一歩踏み込んでからの一撃。しかし足が凍り地面に貼りつく最悪の足場では、理想の一撃を叩き込むために必要とされる踏み込みを困難なものにしていた。
「シィッ!」
 ガキ、ガギィンッ!
 劣悪な環境のなか、ドレイクはどうにかしてグレイド・ウォーデンに一撃を与えようとする。しかしカタナの一振りはまるで鋼鉄の塊を叩いたかのように弾かれ、些細な傷しか与えることができない!
「(…醒走奇梓薙陀流の奥義には、踏み込みを必要としない形もある。しかし、この氷の魔神をぶっ壊すための一撃を放つには、やはり踏み込みが必要…!)」
 やがてドレイクの皮膚までもが凍りはじめ、筋肉は思うように動かなくなり、目の奥に鋭い痛みが走る。まさか、眼球の水分までもが凍りはじめている…!?ドレイクは慌てて瞬きをしたが、今度は目を開けることすら困難になってしまった。
 ほとんど身動きが取れなくなったドレイクを攻撃するのは、おそらく容易であったのだろう。



 ガキィッ!
「ぐ、ほっ…」
『他愛もない、劣等種め。握り潰してくれよう』
 グレイド・ウォーデンの拳に捕らえられ、ドレイクは苦悶の表情を浮かべる。
 勝機はなかった。
「つ、強すぎる…!」
 おそらくはこの気候、この環境を作り出しているのも目前の魔神なのだろう。
 あつらえた狩場に呑気にやってきた無力な獲物、それがいまのドレイクを形容するに相応しい言葉だ。
 やがてグレイド・ウォーデンの拳に力が込められ、ドレイクの肉体を圧迫していく。握り潰されるのは時間の問題だった。
 だが、そのとき!



「イヤァーーーッッッ!」
 グガギンッ!
 突如飛来した何者かが見舞った鋭い蹴りが、ドレイクを拘束していたグレイド・ウォーデンの拳を一撃!開かれた拳からこぼれ落ちたドレイクは地面を転がり、苦しそうな呻き声を上げる。
「い、一体…」
「間に合ってよかった」
「…!?おまえは」
 たったいま命を救ってくれた者の姿を見て、ドレイクは驚きの声を上げる。
 見覚えがあるぞ、この小娘…たしか以前、ユンバカノの依頼でアイレイドの彫像を探していたとき、帝都南部のヴィルバーリン遺跡で遭遇した記憶がある。
 あのときはちょっとした行き違いから戦闘に発見したが、けっきょく、適当な理由で手打ちにして別れたのだったか。
 といっても彼女のほうはドレイクの正体に気づいていないらしく、ドレイクがここにいることを知ったうえで追ってきたわけではないらしいのだが…
「戦士さん、これを!」
 加勢してきた徒手格闘のファイター…ちびのノルドが、瓶入りのポーションをドレイクに投げ渡す。
「これは?」
「寒さに効くポーションだそうです。わたし、レーヤウィンで魔術師のカジートさんに頼まれたんですよ、これをあなたに届けるために」
「カジート…サ=ドラッサか!」
 状況が状況だけに早口で言葉を交わす両者、しかしいつまでもお喋りを許すほどグレイド・ウォーデンも気が長いわけではなかった。
 グン、巨大な拳が振りかぶられ、ちびのノルドに強烈な一撃を叩き込もうとする。
 咄嗟の動きをそれを回避するちびのノルド。
『おのれ小癪な、小娘!』
「シロディールではどうか知らないですけど、本場ノルドの寒さへの耐性を甘く見ないほうがいいですよ」
『抜かすか、ワシに向かって…このこわっぱが!』
 猛り狂うグレイド・ウォーデンの拳をかわし、重い一撃を繰り出し続けるちびのノルド。
 あいつ、ノルドだったのか…ドレイクはぼんやりとそんなことを考え、この人死にが出かねない過酷な環境で軽快に動く少女の姿にいたく感心する。
 しかし傍観者を気取っている場合ではない。ドレイクはさきほどちびのノルドに渡されたポーション…フロストウォードの媚薬と呼ばれる秘薬の封を乱暴にちぎると、一息に飲み干した。
「こ、これは…!」
 灼熱の液体を喉奥まで一滴残らず流しこんだとき、ドレイクは自分がまったく寒さを感じていないことに気がついた。
 目ははっきりと開き、筋肉の硬直はなくなり、血流が全身に行き渡る。自らの身体から発散される体温か、あるいは秘薬の力によって張られた魔法の皮膜によってか、いままでドレイクに纏わりついて動きを止めていた氷があっという間に融解していく。
 全身が、熱い!



「うわっ!?」
 ドガッ!
『小娘、ここまでだ!』
 寒さに強いとはいえさすがに実力差があったのか、攻撃を避けきれなかったちびのノルドがグレイド・ウォーデンの一撃で吹っ飛ばされる。
 だが。
『いまとどめを刺してやる!』
 だが、グレイド・ウォーデンは知らない。
 ドレイクのコンディションが、いまだかつてないベストな状況であることに!
「…いけるッ!」
 風詠によって全身のエネルギーをカタナに集中させ、ドレイクが腕(かいな)の一振りを放つ!



 ズドシャアァァアアアアッッッ!!
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、砕牙・弐式」
 ドレイクの一撃を受けたグレイド・ウォーデンが、断末魔をあげる間もなく粉砕される!
 粉々になった魔神の微粒子が宙を舞い、まるでダイヤモンドダストのような輝きを見せる。それはひどく幻想的な光景であり、まるでガリダンの無念が晴らされたことを祝福するかのようにしばらくの間降り注ぎつづけた。
 カチリ、カタナを鞘に戻すドレイクに、どうやら無事だったらしいちびのノルドが声をかけてきた。
「いやー、すごいですね…いまの技」
「お嬢ちゃん、怪我は平気なのか?」
「ええ、幸いヤバイところにはもらわなかったので」
「それは良かっ…!?」
 おそらく自分の命を救ってくれたことになるのだろう少女の無事に安堵しかけたドレイクは、彼女の姿を見て絶句する。
「いったいどうし…あ、あなた!いつか古代遺跡で会った剣士のひと!?」
 どうやらちびのノルドはようやくドレイクと面識があったことを思い出したようだが、ドレイクが驚いているのはまた別の理由だった。
「(…お、俺は人間の女には興味はない!だから問題ない、なにも問題はない…はずだが…!)」
 そんなことをあれこれ考えながらも、思わず目を背け掌で顔を覆うドレイク。
 なぜかというと…



「どうしたんですか?」
 おそらく、さっきグレイド・ウォーデンの一撃を受けたときにプロテクターが破損したのだろう。
 たったいま、ちびのノルドはお尻が丸出しだった!
「(こいつ、自分で気がついていないのか!?雪に肌がついてるってのに…それとも、これもノルド特有の耐寒性ってやつなのか?)」
「なに、ぼーっとしてるんです?」
 やがてちびのノルドは立ち上がり、ぽんぽんと身体の雪を払うと、ドレイクに駆け寄ってきた。下が丸出しのままで。
「(こ、こいつ恐ろしいヤツっ!まだ気づいてないのか、それとも羞恥心ってやつが一切ないのか?いくら俺がアルゴニアンだからって、どう反応すりゃあいいんだ…ケツが丸出しだぞって言うのか?)」
「ひょっとして具合でも悪いんですか?怪我をしたとか…」
 ドレイクの葛藤など知る由もなく、ちびのノルドはドレイクに身体を密着させ、せわしなく視線をきょろきょろと動かす。
 やがて…ぽん、ドレイクはちびのノルドの肩に手を置くと、努めて平静を装って、言った。
「いいか、ちょっと聞いてくれ」
「なんです?」
「いまから俺がなにを言おうと、決して動揺するな。いいな?」
「動揺なんかしませんよ、いったいどうしたっていうんです?」
「おまえ、ケツ丸出しだぞ」
「…… …… …… ……」
 ドレイクの一言で、ちびのノルドがピタリと動きを止める。
 視線を下に向け、やがて。
「あ、ゎ…ゎぁあぎゃぎゃぎぐがぎゃぐゃげぎゃぎゃぎゃ!!!!」
 ちびのノルドは、およそ女の子が出してはいけない叫び声を上げ、顔を真っ赤にして暴れた。

  **  **  **  **



「無事に帰ってきてくれて何よりだ、しかし…君たちにそういう倒錯した性癖があるとは知らなかったよ」
「うるせぇシバくぞこの野郎」
 魔術師ギルド・レーヤウィン支部、サ=ドラッサのオフィスにて。
 ドレイクのズボンを履いたちびのノルドと、哀しい目つきでブリーフ姿を晒しているドレイクを前に、サ=ドラッサは驚きの声を上げていた。
「ガリダンの涙を持って来てくれたのは嬉しいけど、そんな姿を見たら君のご両親も涙を流してしまうよ」
「息子のために流した涙にマーラ様がくそったれの加護を授けてくれりゃあいいよな、畜生め。おっと失礼、不信心な発言だった。でもな、この格好でハートランドからレーヤウィンまで移動するのは大層な拷問だったぞ」
「女の子を下半身丸出しのまま連れ歩くよりましだと思いません?」
「…テメェのつるつるの股なんか見たって、誰も欲情しねえよ」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!見たんじゃないですか!見でだんじゃないでずがっっっ!」
 ドレイクの失言を耳にしたちびのノルドが、ドレイクの膝をガシガシと殴り続ける。
「痛ぇ痛え痛ぇ痛ぇ!」
「剃ってるだけですから!剃ってるだけですから!」
「あの…ここ、いちおう公共施設だから、あまり騒がないでほしいんだけど…」
 狭い空間のなかで暴れる二人に向かって、サ=ドラッサがばつが悪そうにつぶやく。
 周囲のギルド会員たちの視線に気がつくと、ドレイクとちびのノルドは誤魔化すように咳払いをした。
「と、ともかくっ!これからもどうか、戦士ギルドを贔屓にしてくださいねってことで!」
 ピッ、人差し指を突きつけながら、ちびのノルドがセールストークをぶちまける。
 それに対し苦笑しながら、サ=ドラッサが返答した。
「商魂たくましいね、しかし君のおかげで助かったのも事実だ」
「わざわざ戦士を雇って魔道具を届けてくれるとはな。あのポーションは効いたぜ、口にした途端、全身に力が漲ってきたからな」
 おそらく正当な報酬を払ってちびのノルドを雇ったのだろうサ=ドラッサに対し、ドレイクは感心したようにつぶやく。
 しかし、それに対する反応は驚愕だった。
「…飲んだのかい?」
「え?」
「あれ、塗布用の薬剤なんだけど…少なくとも、ヒューマンが飲んだら身体に負荷がかかりすぎて、最悪死ぬ危険もある薬だよ?」
「おいおいおいおい!」
「でもまあ後を引くような代物じゃないし、ここまで無事なら悪影響も残っていないだろう。サンプルとしては特殊すぎて参考にならないけど…アルゴニアンの特性か…それとも特異体質?」
 極度の興奮作用を誘発するポーションの毒性は、じつは風詠によって身体に悪影響を及ぼす前に中和・分散されたのだが、そのことはサ=ドラッサには知る由もない。
「まあ、早めに尿を排出しておいたほうがいいと忠告しておくよ。まだならね」
「ハートランドからここまで小便せずに移動したら膀胱が保たねぇよ」
「そりゃそうだ」
 そこまで言ったとき…ズドン!
 遠くから爆発音が響き、地鳴りとともに建物全体が揺れた。
 いったい何が起きたのかと訝る三人の耳に、建物の外で叫ぶ声が聞こえる。
『爆発だ!元帝国軍総司令官のアダムス・フィリダが襲撃された!』
「なんだ?」
「そういえば、帝都のお偉いさん…もう引退したらしいけど…この街にある別荘で隠居生活送ってるって聞いたな。いつも護衛を引き連れてて目立つし、新聞にも書いてあったから有名だったけど」
「へー」
 おそらくは深刻な事態が発生したのだろうが、蚊帳の外にいる三人はどこか他人事のように言葉を交わす。
 その後一人の暗殺者が教会の尖塔から身を投げ込まれることになるが、ドレイクがそのことを知る機会はなかった。





2014/08/16 (Sat)10:13

 レーヤウィンの戦士ギルドが無事に仕事を獲得できたことで、役目を終えたちびのノルドはシェイディンハルへ戻ろうとしたのだが。
「じつは、その前にもう一つだけやってもらいたい仕事があるんだ」
 現地の戦士ギルドを統括するボズマー(ウッドエルフ)のブロドラスに引き止められ、もう少しだけ現地に留まることになってしまった。



「それにしても、僕より小さいノルドがいるなんて驚きだなあ」
「はうあっ!?」
 気にしていることを口に出され、うろたえるちびのノルド。
 ボズマーといえばチビ、ノルドといえばノッポ。これはタムリエルにおける普遍的な法則であり、店の売り物に勝手に触れたら衛兵に通報されるのと同じくらい確実なことである。
 さておき、普段なら反発しているところだが、立場の上下を棚上げするとしても、相手も普段は低身長をからかわれているのだろうし…とちびのノルドは考え、話を切り替えることにした。
「それで、仕事というのはなんでしょう?」
「レーヤウィンの川向こうに、ウォーターズ・エッジという小さな集落があるんだけどね。そこのビエナ・アメリオンという女性を助けてやってほしいんだ。なんでも、ご先祖様の遺品を霊廟から回収してほしいらしい」
「霊廟…ですか」
 ちびのノルドは、あまり気乗りしない様子でつぶやいた。
 なんだってこのところ、墓だの幽霊だのに縁があるんだろう?自分は幽霊が苦手なのに…
 とはいえ「オバケが怖いからできません」では戦士は務まらない。
「詳しい話は彼女から聞いてくれ。地図に印をつけておこう」
「あ、どうも」
 スカイリムから飛び出してきたときに持ってきたシロディールの地図にブロドラスがインクで丸印をつけるのを確認し、ちびのノルドは出発の準備を整えることにした。

  **  **  **  **

 ウォーターズ・エッジはレーヤウィンからそれほど遠くない位置にあった。
 近隣住民にアメリオン家の場所を尋ね、ちびのノルドは依頼人の住む家の扉を叩く。
「…誰?」
「あの、わたし、アリシア・ストーンウェルといいます。戦士ギルドから派遣されてきたんですけど」
「戦士ギルドの人?ああ、良かった…今開けますね」
 ギイィ…金具が軋む音を立てながら開いた扉の先には、なにやら警戒した様子のブレトンの女性が顔を覗かせていた。
「あら、どこにいるのかしら」
「下です、下」
「まぁ。小さい戦士様だこと」
 視界を正面に据えていたせいでちびのノルドが視界に入らなかったらしい女性、おそらく彼女が依頼人のビエナ・アメリオンだろう。
 またぞろ背の低さについて言及されたちびのノルドはがっくりと肩を落としながら、しかしいい加減に言われ慣れてきたというか、おそらくビエナに悪気はないのだろうと思い、彼女に促されるまま家の中へと上がった。



「ところで、さっきはいやに警戒してましたけど…」
「てっきり借金取りが来たのかと思って。それで、つい」
「借金?あなたが?」
「というより、父が。今回の依頼は、その父の借金に関係があるのです」
 どことなく気の強そうな顔つきをしたブレトンの女性が躊躇いがちに話をはじめる。
「あまり自慢できることではないので、微細に入った話はできませんが…父は借金をしていたのです。それも、膨大な…ギャンブルなどに手を出したばかりに」
「ぎ、ギャンブル!?」
「きっと軽蔑なさるんでしょうね?私にも、賭け事で身を滅ぼした男の血が流れているのですから」
「え、や、いやっ、そういうんじゃなくって、あーと…」
 驚きの声を上げるちびのノルドに、ビエナが肩をうつむかせる。
 しかしちびのノルドが動揺したのは、ビエナが考えているのとは少し違う理由からだった。
「あの、違うんです!ただ、そのぅ…つい最近、やっぱり借金で身を持ち崩した旦那さんの奥さんの依頼を受けたばっかりだったので。それもやっぱりギャンブルで、男の人ってどうしてこう、碌でもないんだろう、なんて」
「そうだったんですか?たしかに、父も碌でなしといえばそうなんですけど」
「すいません…」
「いいんです、気にしないで。父は碌でなしです、でも、それでも私には大切な肉親なんです。どうか助けて頂けませんか?」
 自嘲交じりの笑みを浮かべながら話すビエナに、やはり藪蛇だったと反省しきりのちびのノルド。
 それでもさっきよりビエナの表情は明るく、口下手で嘘をつくのが苦手なちびのノルドに対しては概ね好感を抱いたらしい。
 ただ、これ以上話がこじれる前に仕事の段取りを…と考えたちびのノルドは、先を急かした。
「ところで、仕事というのは?というより、あなたのお父様はいまどちらに?」
「父は…借金取りに連れていかれました。おそらく、借金のカタとして強制労働にでも就かされているのでしょう」
「ということは、今回の依頼はお父様の救出…?」
「いえ、違います。そもそも借金をしたのはこちらですし、それでは戦士ギルドに多大な迷惑がかかってしまいますわ。要するに、私が借金を返済して父を解放してもらえれば良いわけですから」
「何か宛てがあるんですか?」
 そういえば、戦士ギルドでブロドラスから聞いた話だと、ビエナの先祖が葬られている霊廟から遺品を回収する、ということだったか?
 そんなことを思い出し、もしや先祖の遺品を借金のカタに充てるのかとちびのノルドは訝った。
 よしんば遺品の回収に成功したとして、それがちゃんと現金化できればいいのだが。
 ビエナが話を続ける。
「かつて、祖母はレーヤウィンに仕える誇り高き騎士でした。彼女が身につけていた装備は黒檀の表面をミスリルでコーティングしたもので、さらに魔力が付与…エンチャントというのでしたっけ?そういった代物ですから、一式を揃えれば金貨千枚以上の値打ちはあるはずです。借金を返済し、戦士ギルドへ報酬を支払うに充分足る額ですわ」
 黒檀…エボニーはそれ自体が大変に珍しい材質で、家具などに用いられる木材の黒檀とは明確に区別される鉱物だ。火山の火口付近で生成されるため採取が難しく、また加工も難しいため大変に高価で、また精確に鍛えられた黒檀の武具は鉄や鋼など足元にも及ばない優れた力を発揮することから、黒檀の装備を身につけているというのは、それだけでステータスになるのだ。
 しかもビエナの祖母が身につけていた黒檀装備(一式揃っている!)は特殊な加工が施された物のようで、それがもし事実であるとすれば、彼女はかなり高位の騎士であったことが窺える。
 はっきり言って、借金のカタに売り払うにはあまりに勿体無い代物ではあるのだが…本来なら先祖の霊を敬うため丁重に奉るか、そうでなければ城に飾るべきものだ。
 とはいえちびのノルドは家庭の事情に口出しをする気はなかったので、その点についてはこれ以上考えないようにした。
「ところで、わざわざ戦士ギルドに依頼した理由は…?」
「なぜ自分で取りに行かないのか、と?最近、霊廟の近くでゾンビやスケルトンが出没するという噂があるのです。そのうえ、内部がどうなっているのかなど…残念ながら、私の腕ではそれらの怪物に歯が立ちません」
「わかりました。すいません、余計なことを聞いてしまって」
「構いません…あまり萎縮しないでちょうだいね?そうそう、霊廟の位置を地図に書き込んでおきます」
 おずおずと地図を差し出すちびのノルドに、ビエナが気さくに笑いかける。
 あまり喋りが得意でないなら、そろそろ口を閉じることを覚えるべきなんだろうな…そんなことを考えながら、ちびのノルドはアメリオン宅から辞去した。

  **  **  **  **



「暴れ馬だーっ!!」
『ブヒェヒヒーーーーンッ!!』
 川沿いを歩いていたちびのノルドの前に突如現れたのは、前後不覚に陥り突っ込んできた帝国軍馬だった!
 その背に本来あるべき帝国軍人の姿はなく、何者かに襲われたのか、馬も多少のダメージを負っていた。
 いまにも蹴りかかろうとしてくる帝国軍馬を、ちびのノルドはどうにかして諌めようとする。
「ちょ、おっ、落ち着いて!落ち着いてください!」



 しばらくすったもんだした末、ちびのノルドはどうにか帝国軍馬を抑えることに成功し、騎上でアメリオン家の霊廟へ向かうことになった。
「帝国軍馬に無許可で民間人が乗るのは基本的に違法ですけど…事情が事情ですし、大丈夫ですよね?」
『ブヒヒン』
 ブルルン。
 心配そうに話すちびのノルドに、帝国軍馬は鼻を鳴らして応える。



 やがてアメリオン家の霊廟に到着したちびのノルドは帝国軍馬の背から下りると、脇腹をぽんぽんと叩いて言った。
「ありがとうね、お馬さん。ここからなら、レーヤウィンが近いから安全に帰れるよ…でも、できればわたしが戻ってくるまで待っててほしいけど。そうすれば、一緒に帰れるし」
『ブルヒヒヒン』
 彼女の言葉を理解しているのかいないのか、帝国軍馬は低い嘶きの声を上げるだけだ。
「さて、と…」
 パキポキパキ、指の関節を鳴らしながら、ちびのノルドは霊廟の入り口に立つ。殺気や人の気配、生活臭は感じないが、それでも何か不穏なものをそれとなく察することができる。
 …あまり、面倒がないといいけど。
 ちびのノルドは大人しく様子を見守り続けている帝国軍馬のほうをちらりと一瞥し、そしてアメリオン家の霊廟へと足を踏み入れた。

  **  **  **  **

 しばらく歩くと、幾つかの死体が転がっているのが目についた。
「これは…元から埋葬されていた亡骸じゃないですね。けっこう真新しい」
 真新しい、といっても、数ヶ月か数年は経過している死骸だったが。
 雑多な装備、盗掘用の道具一式。どう見ても盗賊か墓荒らしの身なりだ、それが死んでいるということは、この霊廟には侵入者が死ぬだけの「何か」がある、ということだが。
「鎧に刺し傷があるところを見ると、出口がわからなくなって飢え死にした…ってことはないですよね。仲間割れ…でしょうか?」
 もし仲間割れで死者が出たとするなら、とちびのノルドは考えた。
 良い点は、アンデッドやトラップによる傷でないなら、霊廟の捜索そのものは難しくないだろう、ということ。悪い点は、もし仲間割れを起こし仲間を殺した張本人がすでに脱出しているなら、すでに値打ちのある遺品が持ち去られている可能性がある、ということ。その場合、ちびのノルドはまったくの無駄足になる。
「…すっごくイヤですけど、この場合、前者を望むしかないですよね」
 ちびのノルドがそうひとりごちた、そのとき。
『キシャァァァアアアアッ!』



「フンッ!」
 ゴシャアッ!
 乾いた奇声を耳にすると同時に、ちびのノルドが強烈な蹴りを見舞う!
 彼女の背後にいた襲撃者…スケルトンは派手に吹っ飛び、壁に激突して粉々になった。
「…ああ、よかった」
 まったく気乗りしない声音で呟き、ちびのノルドは先へ進む。



「クラシカルな仕掛けだなぁ、これ」
 ゴッ、ゴゴゴゴゴン。
 ときおり暗闇から飛びかかってくるスケルトンをいなしつつ、壁に囲まれた部屋へと到着したちびのノルド。
 すわ行き止まりか、と思われたが、冷静に周囲を観察したところ、ちびのノルドの目に飛び込んできたのは石の重りをぶら下げた縄細工。天井から吊り下げられたそれは、ダンジョンにおける古典的な仕掛けの作動装置だった。
 意を決してそれを引っ張ったところ(罠の作動装置である可能性もあったため、あまり褒められた行動ではない)、壁の一部が地中に埋没し、古い隠し通路が姿を見せる。
「ぅおう。毎回思うんですが、これどうやって作ってるんでしょう」
 アイレイドの遺跡なら、あの魔法仕掛けの得意なエルフどもの産物なら、素直に納得もできるのだが。
「でもまあ、こういうのに限って、実際に調べてみると案外単純な仕掛けだったりするのかもしれませんねぇ」
 そんなことを呟きながら、ちびのノルドは先を急いだ。

  **  **  **  **



「あれは…」
 アメリオン家の霊廟最深部、サルコファガスの間。
 おそらくビエナ・アメリオンの祖母が身につけていたであろう装備一式が奉られている棺の傍らに、黒衣を纏い宙を漂う影があった。
「あれは、レイス…!」
 以前、座礁した商船エマ・メイ号で出会った青年の亡霊の姿を思い出しながら、ちびのノルドがごくりと唾を飲む。
 率直に言って、ああいう手合いは今後二度と相手にしたくない類の敵だった。あのとき勝てたのだって、実力というよりはほぼ運によるもので、もし再度似たような状況に置かれたなら、きっと生きてはいられない…そういう自覚がちびのノルドにはあった。
 しかし仕事は仕事だし、逃げ帰るわけにはいかない。それに幸いというか、いま目の前にいる亡霊は以前出会ったものとは違い、それほど覇気、というか怨念が感じられない気がした。
「気乗りは…全然、まったくしないですけど」
 ジャキッ。
 前回の仕事でゴースト退治に使った対霊仕様のトンファーを抜き放ち、ちびのノルドは身を翻して亡霊へと立ち向かった。
『また墓荒らしか…下衆な輩め、いくら退けても諦めるということを知らんな…!』
 ちびのノルドの繰り出した一撃をかわし、亡霊は煌く大剣を振りかざす。
 墓荒らし…?
 亡霊の言動を訝しみ、ちびのノルドは距離を保ちながら亡霊の姿を観察した。
 あのときの、エマ・メイ号で出会った青年のような力は感じない。むしろ、どこか疲れているような…本当はもう眠りたいのに、義務感からこの場所を守り続けているような、そんな気配すら感じる。
 そのときちびのノルドは確信にも似た直感とともに、口を開いた。
「あの、失礼ですけど…もしかして、アメリオンさん…ですか?」
『卑賎の輩よ、貴様のような薄汚れた俗物に、我が誇りある姓を呼ばれるいわれはない』
 ビンゴ。
 おそらく、この亡霊…彼女は、ビエナが依頼してきた祖母の鎧の持ち主…祖母当人だろう。
 だとすれば、これだけ理性が残っているならば、勝算はある。
「あ、あのッ!わたし、ビエナさんに…あなたのお孫さんに頼まれて、ここに来たんです!あなたの装備が必要だからと、そのために」
『なに…我の子孫がこの装備を必要としている、だと?』
「ええ、そうです」
『ならば、なぜ我が子孫が直接来ない』
「うッ…その、えー…事情がありまして」
 まさか、息子の借金のために孫が奔走している、などと言えるはずがない。
 なるべく戦わずに済ませられるなら…とちびのノルドは考えていたが、どうにも旗色が悪いようだと判断し、ふたたび身構える。
 しかし次に亡霊の口から飛び出してきた一言は、ちびのノルドにとって予想外のものだった。
『よかろう』
「えっ?」
『若干胡散臭くはあるが、おそらく貴様は真実を口にしているのだろう』
「それじゃあ…」
『我が鎧を渡そう、ただし条件がある!我が誇りある鎧を手にする者には相応の資格がなければならない、即ち…貴様が、本来この鎧を受け取る資格を持つはずの孫に代わって、力でそれを証明してみせろ!』
「…結局それって、力づくで奪い取れってことですよね?」
『問答無用!』
「あぅう~…」
 言い回しこそ難しいというか堅苦しいが、実際は単純というか筋肉バカというか戦闘民族ばりの亡霊の言動に頭を痛めつつ、ちびのノルドは拳を固めた。
 勝機は、ある。
 亡霊の振るう剣を受け流し、牽制の一打を叩き込みながら、ちびのノルドはこの戦いの勝利を確信していた。
 彼女は、眠りたがっている。
 長く続いた使命を終えて、永遠の安息につくことを望んでいる。
「死を受け容れ、死を望むひとに負けるほど…わたしの腕は錆びついてません!」



「ハァァアアアーーーッ!」
 ズシャアッ!
 小柄な体躯というアドバンテージを覆す、飛び込んでからの強力な一撃。
『これでいい、これで…これで、我も安心して…この世から……』
「安らかに眠ってください。あなたの残した遺産は…あなたの子孫を救うでしょう」
 金銭的な意味でな。
 もちろん、そんなことを言えるはずはないが…朽ちていく亡霊の残滓を眺めながら、ちびのノルドはそんな不謹慎なことを考えつつ、いよいよアメリオンの騎士の装備と向かい合った。



「おお、ペガサス・ファンタジー…」
 いままで亡霊の手によって墓荒らしの手から守られてきたのだろう、一式が綺麗に並んだ装備を見つめながら、ちびのノルドは思わずそんなことを口にした。
 しかし、この段になって問題が発生した。
「…これ、どうやって持って帰ろう」
 いま目の前にある装備は、かなりの重量がある。かなりの嵩がある。とてもではないが、手で持って運ぶのは無理があった。

  **  **  **  **



「お、重いぃ~…!」
 ちびのノルドの選択、それは「着込んで帰る」!
 あからさまにサイズが合っていない、重量のある全身装備を身につけたちびのノルドは疲労の限界に達しつつあったが、それでもこれを無事ビエナの元へ届けるまでは、足を止めるわけにはいかない。
「ここから出れば、お馬さんが待ってるから…そこまで…」
 ちなみに、霊廟の表に待たせていたはずの帝国軍馬がどこともなく姿を消し(どうやら自力でレーヤウィンに帰ったらしい)、結局ビエナの家までこの状態のまま徒歩で帰ることになったのであった。






2014/07/07 (Mon)06:56

 ブルーマで思わぬ道草を食ってしまったが、ロッシェ夫妻からの依頼を終えたあと、ちびのノルドは当初の予定通りレーヤウィンへと向かっていた。
「ハァ…気が重いなぁ」
 スキングラッド支部長のバーズ・グロ=カシュによると、どうやらレーヤウィンの戦士ギルド会員が仕事をせず酒場で暴れているらしい。ちびのノルドに課せられたのはトラブルの回避と原因の究明ということだったが…
「やだなぁ、身内同士のいざこざに巻き込まれるなんて」
 ちびのノルドは、まるで気乗りしない様子でため息をついた。
 そもそも今回トラブルを起こした男たち…三人の戦士、インペリアルのヴァントゥス、レッドガードのレーリアン、オークのデュボクはちびのノルドよりも古参で、キャリアが上だ。
 それをわざわざ新人のちびのノルドに説得に向かわせたのは、このところ活躍の目覚しい新人に渇を入れさせることで、自分達がいかに恥ずべきことをしているかを自覚してもらい、今一度性根を真っ直ぐに伸ばしてもらおう、という魂胆らしいのだが。
「…マッチポンプにしかなりませんよね、どう考えても」
 もとより若干の対人恐怖症の気があるちびのノルドにとって、これ以上に気の進まない任務はなかった。

  **  **  **  **



「おーい、もっと酒持って来い、酒ェ!」
「なにが戦士ギルドだアホらしい、やってらんねぇーぜ!」
「ヒャッハァー!」
 レーヤウィンの門を潜ってすぐの場所にある小さな宿<ファイブ・クロウ旅館>。
 扉を開けた途端に屈強な男たちのばかでかい歓声が聞こえたとき、ちびのノルドはここに来たことを光の速さで後悔した。
「…うぅわー」
「あんた、戦士ギルドの人間かい!?あいつらをなんとかしとくれよ!」
 背を向けて立ち去ろうとしたちびのノルドの肩を、旅館の女主人ウィッセイドゥトセイがガッシリと掴む。
「飲んで暴れて好き勝手し放題、客は寄りつかないし、あいつら金も払わない!どうしてくれるんだい、この惨状を!」
「ゴメンナサイすいません本当に申し訳ないです許してくださいどうかお願いします」
 激怒するウィッセイドゥトセイに、ちびのノルドは泣きながら平謝りをする。
 …自分は何もやってないのに、なんでこんなに必死こいて謝らなきゃならないんだー!?
 そんな疑問を抱きながらも、しかし社会でそんな理屈は通用しないことを身に沁みて理解しているちびのノルドはひたすら頭を下げ続けるばかりである。
 その最中にも、現地の戦士ギルド会員たちはやりたい放題である。
「酒が切れたぞー!女将ッ、早く代わりを持ってきやがれェーッ!」
「もうあんたらに飲ませる酒なんかないよ、この穀潰しども!」
 怒鳴り散らす戦士たちに、ウィッセイドゥトセイは気丈にも怒鳴り返す。
 一方、はじめは下手に出てなんとか穏便に事を収めようと考えていたちびのノルドの感情も爆発寸前になっていた。
 肩を怒らせながら大股で戦士たちに近づくと、ちびのノルドは岩のように固く握った拳を震わせながら叫んだ。
「なにやってんですか!なにやってんですか!いったい、なに、やってんですかぁーっ!」
「なんだぁこのチビは?おい女将、ここはいつから女衒をやるようになったんだァ?」
「ぜ、ぜげっ…!?」
「こんな下の毛も生えてないようなガキをあてがわれたって嬉しくもなんともねえぜ俺たちはよォーッ!」
「生ーえーてーまーすー!剃ってるだけですぅーっ!」
 レッドガードのレーリアンとオークのデュボクにからかわれ、ちびのノルドはマスクの下で顔を真っ赤にして叫ぶ。
 その直後、どうやら三人の中ではリーダー格らしいインペリアルのヴァントゥスが二人の仲間を制すると、一歩前に出てちびのノルドと向かい合った。
「あーわかったわかった。ところで実際問題、おまえ、何者なんだ?」
「…戦士ギルドのアリシアといいます。レーヤウィン支部が問題を起こしてるからって、わざわざシェイディンハルから飛んできたんですよ」
「ハッ、ご苦労なこったな。仕事しろってか?いいさ、やってやるさ、仕事があるならな」
「…はい?」
 素っ頓狂な声を上げるちびのノルドに、ヴァントゥスが肩をすくめてみせた。
「いいか、俺は『戦士ギルドに行けば食うには困らない』って聞いたから会員になったんだぜ?ところがどうだ、最近はブラックウッド商会に仕事を奪われっぱなし、俺達はお飯の食い上げだ。これが酒でも飲まずにいられるかってんだ」
「…はあ」
 ブラックウッド商会、最近よく聞く名前だ。
 新興の組織で、かつて帝国に雇われた傭兵を中心に活動しているらしい。格安の料金で仕事を請け負うことで戦士ギルドの顧客を奪っている、とブルーマ支部で話を聞いたことをちびのノルドは思い出した。
 …そうだ、そのブラックウッド団の本部が、たしかこのレーヤウィンにあったのではなかったか?
「もっとも、ちびちゃん、おまえさんが仕事を探してきてくれるってんなら話は別だがね」
「それくらい自分でやってくださいよ!」
 途中まで納得しかけたものの、ヴァントゥスの最後の言葉にちびのノルドは思わずキレかけた。
 けっきょくこいつら、暇にかこつけて体よくサボッてるだけか!
「とにかくっ、仕事があろうとなかろうと、もうこの店で騒ぐのはやめてください。さもないと、どうなっても知りませんよ?」
「おうおうおう、随分と偉そうなクチをきくじゃねぇか、チビスケよぉ。オレたちは当分ここを動く気はねえぜ?なんとかしたけりゃ、実力でどかしてみるんだな。ま、無理だろうがな」
 ちびのノルドを馬鹿にするように、デュボグが巨体を揺らしながらぎろりと睨みつけた。
「わかったら、大人しくシェイディンハルにでも帰るんだな。ホラどうした、『私の力じゃ、あの三人をどうにもできませんでしたー』って言って、泣いて帰れよ!このガキ!」
 そう言って、デュボグがワインの入ったシロメのマグカップをちびのノルドに投げつける。
 それはちびのノルドの頭に命中し、ガゴン、音を立てて床に転がり落ちた。
 頭からワインをおっかぶったちびのノルドはしばらく硬直し、なにが起きたのか把握できないまま立ち尽くす。
 …いま、わたし、なにをされたんだろう?
 マスクの内側にまで入ったワインが顎の先で滴り、全身に葡萄のベタついた感触がまとわりつく。
「ガーッハッハッハッ、見ろよ!あれで戦士のつもりかよ、まるで悪戯されたいじめられっこだな!」
 ちびのノルドを指さして馬鹿笑いを上げる三人の戦士たち、一方で女将のウィッセイドゥトセイも「これはだめだ」と額を手で覆う。
 ああ。
 ちびのノルドは妙に冷静な気持ちで自分自身を見つめながら、いまの状況を理解した。
 いま、わたし、この場にいる全員に見下されてるんだ。
 ちびのノルドはさっき自分に投げつけられたマグカップを拾い上げ、それをじっと見つめる。
 そして。
 グシャリッ!
「…な」
 三人の戦士たちは、目の前の小さな少女が合金製のマグカップを片手で握り潰したのを見て絶句する。
 ちびのノルドはいま、たしかに「ぶちギレて」いた。
「痛い目見なきゃわからないなら…相手になりますよ」
「おいおいマジになるなって、ちびすけちゃん。ほんの冗談じゃねーか」
「黙れよ。このクソカスども」
「あ、いまキレた。オレもキレた。こいつ、潰す」
 はじめは笑顔でとりなそうとしたが、ちびのノルドの挑発を受けて三人の戦士たちが拳をかまえる。

  **  **  **  **



「…ちょっとは反省しました?」
「くくぅー…ちくしょう、わかった。参った、降参だ」
 一対三の大立ち回りは、ちびのノルドの圧勝に終わった。
 途中から劣勢と見た戦士たちが武器を抜き、あわや喧嘩が殺し合いに発展かとも思われたが、ちびのノルドはかまわず三人をぶちのめしたのであった。
 いちおう騒ぎは収まったものの、店はちびのノルドが来る前よりも酷い状態になり、ウィッセイドゥトセイが白目を剥いて叫ぶ。
「あんたまで暴れてどーすんだいっ!」

  **  **  **  **



「うひゃーっ、雨だ雨!はやく屋根の下に入らないと」
 ファイブ・クロウ旅館を出たちびのノルドは、土砂降りの中に肌を晒されて思わず身を縮こめた。
 雨が多い気候とはいえレーヤウィンはどちらかというと熱帯に近いので気温自体はそれほど低いわけではなく、またスカイリム出身のちびのノルドは寒さには慣れていたが、それでも衣服が濡れるのはあまり喜ばしいことではない。濡れた衣服は体温を奪い、体力を下げるからだ。
 ファイブ・クロウ旅館でのいざこざに一応の決着をつけたあと、ちびのノルドは三人の戦士とともに顧客探しに奔走することになった。
 本来ならば仕事探しは三人に任せてシェイディンハルに帰っても良かったのだが、あの三人をそこまで信用できるかどうかは疑わしかったし、もし顧客を得られずまた問題を起こすようなことがあれば、ちびのノルドの信用を大きく下げることになる。
 そんなわけでいま、ちびのノルドは方々を尋ね回って戦士ギルドの力を必要としている人間を探していた。
 といっても三人の戦士が言った通り、レーヤウィンのシェアはブラックウッド商会の独占状態にある。それに宿で騒ぎを起こした手前、そんな連中に仕事なんか頼めるかと門前払いを喰らうことも多々。
 諦めてまた酒に逃避しようとする戦士たちを張り倒しつつ、ようやく彼女は<三姉妹の宿>で依頼人となりそうな人間とコンタクトを取ることに成功したのだった。



「ブラックウッドの連中は仕事が手荒いし、どうも胡散臭いから、あまり頼む気になれなかったのよねぇ。といっても、戦士ギルドの能力も疑わしいものだけど」
「あ、それ、わかります」
「なんですって?」
「ナンデモアリマセン」
「…本当に大丈夫なのかしら」
 三姉妹の宿、通称「レーヤウィンの高級なほう」にてちびのノルドが接触したのはマルガルテという、普段は商取引のコンサルタントとして活動している女性だった。
 金と密に関わる仕事だから逆恨みでもされたのか、護衛でも必要としているのか…と思いきや、さにあらず。彼女の依頼は本業とは関係のないものだった。
「じつは私、趣味で錬金術の研究をしているのよ。でも、このあたりの店ってどこも品揃えがあまり良くないのよねぇ。そこで、戦士ギルドに錬金術の材料の調達を頼みたいのだけど」
「ハァー、錬金材料ですか」
 優雅というか、金のかかる趣味だなぁ、などと思いながら、ちびのノルドは適当に相槌を打つ。
「それで、どんなものを?」
「オーガの牙、ミノタウロスの角、といったところかしらね。新鮮であればあるほどいいわ、お金の心配ならしないで。こんなの、ブラックウッドの連中に頼んだら、どんな怪しいモノを掴まされるかわかったもんじゃないからね。その点、戦士ギルドは仕事に関しては実直というか、馬鹿正直だと聞いているから、安心できるわ」
「あ、あはは…」
 戦士ギルドの連中にせこい詐術を使う脳味噌などないだろう、という、遠回しに「あいつらはバカだ」という言葉を聞いて、ちびのノルドは苦笑いする。
 もっとも、バカだからこそ信頼できる、というのだから、ある意味では名誉なことなのだが…
 しかし、オーガやミノタウロスからトロフィーをもぎ取るのはけっこうな重労働だ。あの三人に務まるだろうか?と、そこまで考えて、ちびのノルドはかぶりを振った。
 こういう仕事こそ、むしろ戦士ギルドの本分だ。余計な心配をする必要はないだろう。
「それじゃあ、契約の細かい部分を詰め…」
「待って、慌てないで。いきなり本契約は結べないわ、せっかちさんね。えーと、私はブラックウッドの連中をあまり気に入ってないけど、戦士ギルドに対する信用もそれほど持ち合わせていないわ。残念だけど…状況を考えて、身内贔屓を抜きにすれば、それは理解できるわね?」
「え、ええ…」
「だから、まあ、試験というわけじゃないけど、手始めにエクトプラズムを一ポンドほど持ってきてくれないかしら?」
「え、エクトプラズムですかぁ~?」
「たしか、すぐ近くのゼニタール大聖堂の地下墓所でゴーストが出没して神官たちが困っていると聞いたわ。そのゴーストを退治してエクトプラズムを入手すれば、教会からも報奨金が貰えて一石二鳥じゃない?」
「えー、まあ、そう、なんですけど…」
「なにか問題でもある?」
「…いえ、ないです」
 どうにか仮契約を取りつけ、ちびのノルドはその場から辞退する。
 せっかく仕事を手に入れたとはいえ、彼女の顔はじつに浮かなかった。
「…ゴーストかぁ…」

  **  **  **  **



「こんなのしかないですか?」
「こんなのとか言うな。だいたい、拳で霊体を殴ろうってやつが珍しいんだから」
「う~ん…あんまりしっくりこないなぁ」
 レーヤウィンに一軒のみ存在する鍛冶屋<ディヴァイディング・ライン>にて。
 ゴーストを相手にするため銀製、またはエンチャントが付与されたガントレットを探しに来たちびのノルドは、店主のトゥン=ジィーウスが用意したものを一通り試着したあと、不満げにため息をついた。
 ちびのノルドはゴーストが苦手だ。
 幽霊が怖いから、という感情的な理由はさておき、通常の武器や拳撃では傷一つつけられない、というのが一番の理由だった。世の中には拳でゴーストをしばき倒す達人も存在するらしいが、生憎ちびのノルドはその方法を知らない。
 そのため今回、教会地下のゴーストを退治するための武器を用意することになったのだが…
「銀製の剣や斧ならあるがなぁ。小手やなんかの、本来防具に使う代物ってなると、やはり難しいぞ」
「わたし、刃物は苦手なんですよねー」
「メイスはどうだ?」
「や、そういう問題では…」
 積極的にあれこれ薦めてくるトゥン=ジィーウスに、ちびのノルドは煮え切らない返事をするばかり。
 付き合いきれん…そう思い、立ち去ろうとしたトゥン=ジーウスがふと顔を上げた。
「そういえば、お前さんに合いそうな武器があったな」
「武器、ですか?」
「本当は客に預けられた代物で、修理を頼まれたんだったかな、ところが何年経っても引き取りに来やがらないから、いまは倉庫で埃を被ってるはずだ」
 なんだったら売ってやってもいい、見てみるか?
 そうトゥン=ジィーウスに促されるまま、ちびのノルドは店内にある倉庫へと足を踏み入れた。

  **  **  **  **



「うわ、いるなぁー…」
 レーヤウィンのシンボルとも言える、ゼニタール大聖堂の地下霊安室にて。
 あちこちを漂っている複数のゴーストの姿を目撃したちびのノルドは、若干腰が引けながらも一歩足を踏み出した。
「やだなぁ。怖いなぁ。幽霊嫌いなのに…」
 そういえば、最近も幽霊絡みの事件に巻き込まれたような?
 そんなことを考えつつ、いや、躊躇しても仕方がない、ちびのノルドは覚悟を決め、新調した「武器」を手に、ゴーストの集団の中心へと踊り出た。



『ショォォオアアアアァァァァ』
「ふんっ!」
 ゴーストに、ちびのノルドの一撃が炸裂する!
 その両の手に握られていたのは、トンファー…シロディールでは滅多に見られない、異国の打撃武器である。
 エンチャントこそされていないが、末端の留め具に銀を使っているから、その部分で殴ればゴーストにダメージを与えることができるはずだ…という、トゥン=ジィーウスの言葉通り、初撃をまともに受けたゴーストは身体が真っ二つに切り裂かれ、塵のように崩れ落ちた。
「怖くない、怖くない、怖くないっ!」
 決死の形相でぶつぶつ呟きながら、ちびのノルドは無我夢中でトンファーを振り回す。
「人間とおなじ、人間とおなじ、人間とおなじ!」
 トンファーを握ったのは初めてだが、格闘技とおなじく護身用の棒術などを学んだ経験のあるちびのノルドの動きは決して素人のそれではない。



「イヤァァァァァッッ!!」
『クガゲハァァァァ!』
 演舞の型のような動きに翻弄されるゴーストに、白銀の軌跡を描く一撃が叩き込まれる!
 一方、ゴーストの攻撃方法は対象を凍りつかせる冷撃魔法に限定される。しかしよく観察してみれば、その発動の前後の瞬間は隙だらけなのである!
 おそらく生前はたいして武道や魔術に精通していない一般人だったせいもあるのだろうが、怨念だけで強くなれるなら誰しも苦労はしないのである。



「フンッ」
 ボサ、ドサドサッ!
 やがて教会の安全を脅かしていたゴーストはふたたびその魂の行き場を現世に失い、霊的な物質をその場に残して消滅した。
 あとは、この場に残された奇妙なもの…エクトプラズム、錬金術の材料として重宝されているらしいが、いったい何に使うんだか…それを回収すればひとまず依頼は完遂できる。
 しかしちびのノルドの表情はどこか浮かないまま、自らの手に握るトンファーを見つめ呟いた。
「…これ、悪くないけど。やっぱり、あんまり慣れないなぁ」
 ちびのノルドは、この異国の武器をけなしているわけではない。
 ただ、どうせ扱うならちゃんと指導を受けたい、あるいは関連書籍だけでも目を通して最低限の所作を身につけたい、というのが本音だった。きちんと扱えたなら、きっと、もっと強くなれる。
 しかしシロディールにいる限り、その願いはどちらも叶うことはないだろう。
「まぁ、気長に考えますか」
 いま考えても仕方のない悩みは脇によけておくとして、ちびのノルドはあらかじめ用意していた麻の袋を取り出してエクトプラズムの回収をはじめた。

  **  **  **  **



「こんなもので如何でしょうか?」
「あら、まあ!仕事が速いわね、戦士ギルドもそう見捨てたものではないわねぇ」
 依頼人であるマルガルテ夫人の邸宅にて。
 ちびのノルドが回収したエクトプラズムは規定量を満たしていたようで、無事に本契約を結ぶことができた。
「それでは翌日以降、別の担当者が改めて伺いに参りますので」
「あら、あなたが材料を集めてくれるんじゃないの?」
「や、私、本当は別の支部に所属しているので。そろそろ戻らないと」
「ああそう、そういえばこのあたりで見ない顔だものね。ここのギルドが起こした不祥事の調査に来たのだったかしら?残念だけど、仕方がないわね」
「恐れ入ります」
 マルガルテに見送られながら、ちびのノルドはうやうやしく一礼すると、その場を辞退した。

  **  **  **  **

「仕事、見つけてきましたよ」
「おおそうか、有り難ぇ!こっちもなんとかモノになりそうな案件を幾つか見つけたところだ」
 ファイブ・クロウ旅館にて。
 レーヤウィン支部所属の戦士ギルド会員たちと合流したちびのノルドは、早速成果を報告した。
 彼らとは成り行きで殴り合いにまで発展してしまったが、いまではそのことを水に流し、戦士ギルドに所属する同志として接している。わだかまりが残っていないわけではないが、この際、気にしないほうが得策だろう。
「よかったねぇ。これであたしもようやくツケが払ってもらえそうだよ」
「済まなかったな、女将さん。もう迷惑はかけねぇよ」
 さんざん戦士たちの横暴に悩まされてきたウィッセイドゥトセイも、いまではそれほど怒っていない様子で話に加わる。
「ところで、あたしからも仕事の依頼をしたいんだけどねぇ」
「なんだい?なんでも言ってくれよ、力になるぜ女将さん」
「そうかい嬉しいねぇ。それじゃあ…」



「まずは店を掃除しな!」
 ちなみに、宿つきの酒場は昨日ちびのノルドが屈強な戦士たちを相手に大立ち回りを演じてから一切手がつけられていない。乱雑に散らかったままだった。
「こんなの戦士の仕事じゃねぇ…金は出るのかい?」
「バカ言うんじゃないよ!あんたたちが散らかしたんだから!」
「なんで私まで…」
「つべこべ言わずにほら、さっさと手を動かす!でないと衛兵に通報するからね!」
 もちろん原因は自分たちにあるのだが、なんとなく釈然としない様子で掃除をする三人の戦士とちびのノルドに、ウィッセイドゥトセイが激を飛ばした。





2014/07/01 (Tue)11:34

 かつて、マリスキア公国の存続を脅かす一人の男がいた。



 その名を、フォージ。彼は自らを「狂王」と名乗った。
 その素性を知る者はなく、高位の魔術師である彼は悪魔の軍勢を従え、強力な魔法を駆使しマリスキア公国の半分を我が領土とした。それだけに留まらず、彼はマリスキア公国の土地すべてを奪い、破壊し尽くそうとしたのである。
 彼の目的は富でも権力でもなく、徹底した破壊、それだけだった。
 何が彼をそこまで駆り立てたのかはわからない。ただ、彼は人間をひどく憎んでいるようだった。

 事態を重く見た、時の王ダクネイト一世はただちに軍を召集しフォージの軍勢に攻撃を仕掛けたが、結果は惨敗。最終的に、敵の大軍勢の目を掻い潜りフォージを直接暗殺するため少数の精鋭を派遣することになった。
 公国が恐れていたのはフォージが率いる悪魔達ではなく、フォージそのものだったからである。彼の魔法は山を軽々と消し飛ばし、平原を一瞬で焼き払う。かつて投入した軍隊が敗北したのも、その原因のほとんどがフォージの魔法攻撃によるものだった。
 そしてフォージ討伐のため最後に組織された部隊に、「彼ら」は存在した。



 のちにブラック17の両親となる男女、聖騎士レイル・セイバーと元死刑囚のセレナ・フォークロアである。



 多大な犠牲を払いながらも、敵の本拠地へと乗り込んだ二人はついにフォージを討ち倒す。
 生還したレイルとセレナの二人は英雄となり、やがて二人は歴史の表舞台から姿を消した。

  **  **  **  **

 フォージ討伐から半年後、レイルとセレナの二人は山奥の片田舎に新居を構えた。
 静かな暮らしを求めて、余計なものに関わりを持たぬよう…なぜ二人が世捨て人のような生き方を選んだのか、そのことを知る者はいない。ただ、フォージを討ったことに対してひどく罪の意識があったようだという証言が僅かながら残されている。
 やがて二人の間に一人娘ができたが、ささやかな幸福は長くは続かなかった。

 城を離れる直前、セレナは両腕を切り落としていた。
 それは彼女が力を手に入れるため両腕に悪魔を寄生させていたからであり、その悪影響をなくすため、フォージ討伐後に彼女は自ら進んで手術を受け入れたのだ。
 しかし、それだけでは済まなかった。
 すでにセレナの身体中を回っていた悪魔の血はたびたび彼女の精神を錯乱させ、娘が誕生してから六年後、突発的な凶行に及んだ末に命を落とした。



 セレナの死をきっかけに、穏やかで紳士的な好青年だったレイルの性格に変化が生じた。
 自宅から滅多に外に出ようとはせず、一日中うわごとを呟き、娘に暴力を振るうようになった。やがて暴行はエスカレートし、行為は性的な虐待にまで発展する。
「すまない。愛している」
 泣き叫び、許しを請いながら乱暴を働く父を、しかし娘は受け容れた。
「それで、父が幸せになれるのなら」
 しかしレイルの心神喪失と痴呆の度合いは日を追う毎に酷くなるばかりで、やがて粗相を繰り返し、まともに言葉も通じなくなると、娘はある決意をした。
「これ以上、父さんが苦しむ姿を見たくない」
 そして…



 娘は、父であるレイルを殺した。護身用の短剣で、百回以上突き刺したのだ。

 この事件が表沙汰になることはなかった。娘がレイルを惨殺した直後、何者かが娘を連れ去ったからである。

 レイルも、セレナも、そしてその一人娘も、自分たちがずっと何者かに監視されていることに気づいていなかった。しかし、「彼ら」はたしかに機会を窺い続けてきたのである。
 それが、暗殺者集団<黒の里>だった。

 当時、黒の里に所属していた<賢者たち>が研究していた<プロジェクト・ブラック>は成果に行き詰まりを見せていた。
 それは人間の肉体を極限まで強化するため、血液をすべて悪魔の血と入れ換え、金属骨格や竜鱗の皮膚装甲を移植するというものだったが、改善すべき技術的問題があまりに多く、多大な費用を投資して行なう手術も成功確率が極めて低かった。 
 一番の問題点は、闘争心を喚起し、身体機能を飛躍的に向上させ、そして人工魔法詠唱具<キャスト・デバイス>の起動に不可欠となる悪魔の血の存在だった。ほとんどの人間は移植と同時に拒否反応によって死亡し、手術が成功しても、しばしば躁鬱や錯乱といった精神不安を併発し、それが原因で死亡することも少なくなかったのである。
 そこで彼らが目をつけたのが、悪魔の血が流れる女性の胎内から産まれた、最初から悪魔の血と適合している存在…レイルとセレナの娘だった。



 娘を誘拐した賢者たちはすぐに手術を行なった。
 手術に伴う耐え難い激痛を多量の薬物投与によって無理矢理押さえ込まれ、その影響で娘は記憶を失い、精神を破壊された。
 そして手術後、黒の里への忠誠を刷り込まれ徹底した暗殺教育を受けた娘は、<コード1028>…のちの<ブラック17>として、「造り変えられた」。



 こうして、黒の里の暗殺者…プロジェクト・ブラックの被験者であり、精鋭部隊<ブラック・ナンバー>の十七番目としてのブラック17が誕生した。
 彼女はまだ知らない。自らに待ち受ける運命、そしてその結末を…






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